|
HOME |
り ん |
かなう |
Mama |
T . T |
Family |
---|
読書感想文2012 part 6
「読書感想文2012」 part6は、11月〜12月の読書録です。
↓ Click NOVEL mark !
哄(わら)う合戦屋 (北沢 秋著、双葉文庫)
作品の紹介
1549年、中信濃の小領主、遠藤吉弘のもとに、天才軍師、石堂一徹が仕官する。
一徹は豊かな経験と持って生まれた戦略眼により、三千八百石だった遠藤家の領地を
わずかの間に二万四千石まで広げる。遠藤吉弘の娘、若菜は、一徹の最大の理解者と
して、彼を支え、恋心を抱く。しかし、家中には、昔ながらの武士の気風とは相容れない
一徹の考え、態度に反感を覚えるものも少なくなかった。やがて、主の遠藤吉弘までもが
領地は広がるものの、戦いに明け暮れる日々に倦み始める。
そんな時、甲斐の武田晴信が中信濃に侵攻するという情報が入る。一徹は、中信濃の雄、
小笠原長時を倒し、単独で武田軍に対すべしと主張するが、遠藤吉弘は、小笠原に合力し、
中信濃の武士たちと連合して武田と戦う道を選ぶ。武田軍対中信濃軍の戦いは、中信濃側が
優勢に立つが、予期せぬ事態が起こり、窮地に立たされる。一徹は自らが殿(しんがり)を
引き受け、吉弘を北信濃の村上義清のもとへ逃がす、、、、、、。
ベストセラー戦国小説「合戦屋シリーズ」の第一弾。主人公の一徹は戦の天才ではあるけれど、
人がついてこない。主の遠藤吉弘は、人望もあり、内政の手腕は一流だが、凡庸な戦ぶり。
一徹のおかげで連戦連勝が続き、一徹頼みだった吉弘がやがて一徹に背を向けるくだりは、
余人には理解されない天才、一徹の哀しさが強く伝わってきました。とはいえ、吉弘の娘、
若菜の存在が物語に大きな救いを与えていました。 オススメ度:8.2
奔(はし)る合戦屋(上) (北沢 秋著、双葉文庫)
作品の紹介
「合戦屋」シリーズの第二弾。しかし、時系列で言えば、第一弾「哄う合戦屋」の16年前のお話。
石堂家の次男、一徹は、十九歳ながら、信濃の豪将、村上義清のもとで、次々と武功をあげ、
めきめきと頭角をあらわしていた。一徹の才を認めた村上義清は、勘定奉行で一徹の父である
龍紀に、家督を長男の輝久ではなく、次男の一徹に継がせるように命じる。主君の命には逆らえず、
一徹は家督を継ぐことになるが、石堂家 千五百石のうち、五百石を兄に譲り、分家をおこさせる。
そして、朝日という妻を迎え、娘にも恵まれる。
第一作「哄う合戦屋」では、一徹は三十代半ばで、心を閉ざした孤高の天才として描かれていましたが、
二十代半ばまでを描いた本作では、部下に慕われ、子煩悩な、一徹の陽の部分が際立っています。
軍略の天才という部分は共通するものの、ほとんど別人のような印象を持ってしまいます。
オススメ度:8
奔(はし)る合戦屋(下) (北沢 秋著、双葉文庫)
作品の紹介
主にも評価され、家族や郎党にも恵まれ、一徹の幸せな日々は続くと思われた。
しかし、甲斐の武田信虎、晴信親子が次第に信濃に侵攻してくるようになり、戦いの日々が続く。
長期的かつ軍事以外の内政まで見据えた武田の戦略に対し、一徹の主、村上義清は、短期的かつ
軍事面のみしか見ようとしない男だった。次第に義清は、一徹のことを疎んじるようになる。
そんな折、病気の父を見舞うために実家を訪れていた一徹の妻、朝日と娘、青葉のもとに武田軍が
近づいていた、、、、、。
第一作でも、次第に主、遠藤吉弘に疎んじられるようになるわけですが、事情の違いこそあれ、
本作でも、主に理解されない、時代の一歩先をいく一徹の戦略眼。戦いに勝つ痛快さと天才の悲哀の
光と陰を秀逸に表現した佳作。 オススメ度:8.2
おまえさん(上) (宮部 みゆき著、講談社文庫)
作品の紹介
深川の同心、井筒平四郎を主人公にした、「ぼんくら」、「日暮らし」に続くシリーズ第三弾。
平四郎なじみのお徳がお菜(かず)屋を営む幸兵衛長屋の近くで惨殺死体が見つかる。
さらに、生薬屋「瓶屋」の主人、新兵衛も、同じような切り口で殺される。一見、つながりの
ない事件に見えたが、平四郎と若い同心、間島信之輔、岡っ引きの政五郎、そして、平四郎の甥、
弓之助、信之輔の大叔父、源右衛門らの調べで、接点が見つかる。
最初の犠牲者、久助と二番目の犠牲者、新兵衛は、二十年前、同じ生薬屋「大黒屋」で調剤の仕事を
していた。そして、今の大黒屋の主人、藤右衛門の告白により、藤右衛門、久助、新兵衛の三人で
新薬を開発した吉松という男を殺した過去が明らかになる。当時、吉松には、おせつという女がおり、
吉松の子を妊娠していた。おせつは、吉松の新薬のことを知っており、三人を疑うが、泣き寝入りする。
その後、おせつは男の子を生み、三人の前から姿を消した。
平四郎と信之輔は、おせつの息子を犯人と見定め、藤右衛門の身辺警護をしつつ、捜査を進めるが、
おせつの息子らしき人物は、藤右衛門の前に姿を現さなかった。
しばらくして、夜鷹のお継という女が斬り殺される。死体の切り口が前のふたつの事件と同様であること
から、平四郎は、同一犯の仕業と推測するが、前の二人の犠牲者との接点が見えてこなかった。
やがて、岡っ引きの政五郎が、おせつの息子が赤ん坊の頃に亡くなっていることを突き止める。
容疑者がすでに死亡していたと知り、事件の捜査は振り出しに戻るかに見えたが、平四郎の甥で知恵袋
弓之助は、ひとり事件の核心に近づいていた、、、。
読者の期待を裏切らない、大人気シリーズの面目躍如といったところでしょうか。今回も群を抜いた
リーダビリティーと構成、そして人物造型で、一気読み。上巻だけで600ページの大作ですが、あっと
言う間に読み終えてしまいました。
上巻は、いつもより頼もしく見える平四郎に対して、弓之助の活躍が抑え気味なのかなと思いましたが、
その分、下巻で活躍の予感がします。
それにつけても、宮部みゆきさんの文章、日本語は、ほんとうに美しい。無形文化財とか文化遺産の域
に達していると思います、個人的には。
「本の雑誌」2011年度文庫「時代小説」、「恋愛小説」部門:第1位。 オススメ度:8.5
おまえさん(下) (宮部 みゆき著、講談社文庫)
作品の紹介
弓之助の依頼で、事件の関係者が集められた。大黒屋の主、藤右衛門、瓶屋のおかみ、佐多枝、そして、
瓶屋の世話をやく女差配人のおとしの三人である。平四郎は、同心の信之輔、岡っ引きの政五郎と手下の
「おでこ」こと三太郎、そして、信之輔の大叔父、源右衛門とともに席に着くが、この場の主役は弓之助
であった。弓之助は、事件の謎解きを理路整然と進めていく。徐々に明らかになる真実に驚きを隠せない
出席者の面々。しかし、真相が明らかになるにつれ、信之輔の顔に影がさすのを平四郎は見逃さなかった。
と、ここまでが本編(「おまえさん」という長編)。で、このあとは、短編が四話続き、最後の短編で事件は
もの悲しい終焉を迎えます。
シリーズの前二作は、前半が短編、後半が長編の構成で、一見、無関係に見える短編が、後半の長編で
つながっていくというスタイルでした。これに対して、本作は、前半が800ページにも及ぶ長編、後半が
短編の構成をとっています。長編で事件の流れをていねいに描き、間にはさむ短編で事件に関わる人たち
の人間模様を描いています。本作の中核をなすのは、二十年前の新薬を発端にした連続殺人事件ですが、
事件とは直接関係のない人々、大きな事件の傍らで起こる小さな事件の関係者たちの描き方も秀逸。
さらに、本作で新たに登場した弓之助の兄、淳三郎が、とてもいい味を出していました。次作以降も登場を
願う読者が多いのでは?
最後に、タイトルにもなっている「おまえさん」ということばは、物語の後半で何度か出てきます。
宮部みゆきさんの手にかかると、このことばが何とも言えない趣きを持つのだなあと感慨をおぼえました。
「本の雑誌」2011年度文庫「時代小説」、「恋愛小説」部門:第1位。 オススメ度:8.5
モノレールねこ (加納 朋子著、文春文庫)
作品の紹介
表題作(「モノレールねこ」)を含む計8編を収録した短編小説集。
夫婦、親子、同僚など、人と人との絆や思いをていねいに描いた良質の作品集。
こころあたたまる話、はげまされる話、ぼろぼろ泣けてしまう話など、なかみのぎゅっと
つまった短編を堪能してください。 表題作のほかに、書評家の吉田伸子さん絶賛の「バルタン
最期の日」、この話を読むだけでも本書を買うべきであると僕が思う「セイムタイム・ネクスト
イヤー」など佳作揃いです。 オススメ度:8.2
プラ・バロック (結城 充考著、光文社文庫)
作品の紹介
首都圏の県警本部、機動捜査隊の一員、クロハは、冷凍コンテナでの集団自殺という事件の担当になる。
ところが、事件は一件で終わらず、次々と同様の遺体が発見される。唯一の生き残りの女性にたどり着いた
のもつかの間、その女性は、クロハの目の前で車に飛び込み自殺する。
事件解決の手掛かりは途絶えたかに見えたが、事件を別の角度から追っている謎の男、タカハシにより
集団自殺の生き残りがもう一人いることをつかみ、接触を図る、、、、、、。
ここから事件は、現実の世界と、クロハを取り巻くネットの世界の人間関係が交錯し、多面的な展開を
見せます。さらに、集団自殺とは、一見無関係に見えていた連続殺人事件もつながり、クロハは事件の
核心に近づいていきます。
よく練られた緻密な構成で、完成度の高い作品。しかし、作品全体を覆う厭世的で無機質な世界観は
好みが分かれるかもしれません。
「本の雑誌」2011年度文庫「国内ミステリー」部門:第5位。「日本ミステリー文学大賞」新人賞受賞。
オススメ度:8
剣客商売 (池波 正太郎著、新潮文庫)
作品の紹介
徳川十代将軍、家治の時代(1770年代後半)のお話。 秋山小兵衛、60歳。 今は、隠遁生活を送る
悠悠自適の生活。 息子の大治郎は25歳。 小さな道場を構えてはいるが、門弟はいない。
小兵衛を慕う、老中、田沼意次の妾子、三冬(みふゆ)は20歳。 女性ながら剣の腕は一流。
小兵衛は、日頃は、昼行燈のようであるが、ひとたび、三冬から事件を持ち込まれると、明晰な頭脳と
抜群の剣の腕で颯爽と解決していく。 軽妙洒脱な父とは対照的に、息子の大治郎は、剣の道ひとすじの
熱血漢。 まだ世間ずれしていない。 そんな息子を気にかけていないと口にしながら、ほんとうは気に
なってしかたがない親馬鹿な父、小兵衛の姿が微笑ましい。
大人気シリーズの第一作。 全7編収録の連作短編集。 昭和の名作。
「吉川英治文学賞」受賞。 オススメ度:8.2
信長 あるいは戴冠せるアンドロギュヌス (宇月原 晴明著、新潮文庫)
作品の紹介
1930年、ベルリン滞在中のフランス人、アルトーのもとに、日本人の青年、総見寺 龍彦が訪れる。
アルトーは、売れない役者でありながら、古代太陽神と三世紀のローマ皇帝、ヘリオガバルスの
研究をしている。 ヘリオガバルスは、ローマ帝国に太陽神信仰を持ち込み、両性具有者(アンドロ
ギュヌス)であったと、アルトーは考えていた。
総見寺は、千年以上の時を経て、日本に太陽神信仰が伝えられ、織田 信長が太陽神を奉じていた
こと、信長も両性具有者だった説をアルトーにぶつける。 アルトーも、信長に興味を持ち、総見寺
の研究に協力することになる。
上記のようなオープニングの後、物語は、1930年のベルリンと16世紀の日本を行き来しながら進んで
いきます。
信長は、家督を継いだものの、領地の周りを強力な大名に囲まれ、家中も一枚岩ではなかった。
そんな信長の前に、堯照という僧侶が現れる。 堯照は、信長が両性具有者であることを見抜いた
ばかりでなく、信長に天下をとらせることを約束する、、、、、、。
物語は、信長が本能寺の変で明智光秀に討たれるまでを描いていますが、とにかく、これまでの信長
ものとは、全然ちがう話だとわかった上で読み始めないとたいへんかも。 アカデミックな空想に読者
が、どこまでついてこれるかを問うているような展開が待ち受けています。 作品の質は高いと思う
けど、万人向けの小説ではありません。 難解でもいいので、これまでになかったSF歴史小説を読み
たい、という人におすすめします。
第11回「日本ファンタジーノベル大賞」受賞作。 オススメ度:7.8
バーにかかってきた電話 (東 直巳著、ハヤカワ文庫)
作品の紹介
「探偵はバーにいる」に続くシリーズ第二作。
主人公(「俺」)は、探偵のまねごとみたいな仕事もこなす札幌ススキノの便利屋。
ある日、コンドウキョウコと名乗る女性から仕事の依頼の電話が入る。 一件目の依頼を終えたとたん、
続けて二件目の依頼の電話が入る。 しかし、コンドウキョウコは、すでに火事で亡くなっているという
新聞記事を見つける。 コンドウキョウコの実の父も、その後、殺害されていた。
さらに、コンドウキョウコの死の原因になった放火の容疑者まで謎の死を遂げ、「俺」は一連の事件から
手を引けなくなる。 その後も、コンドウキョウコを名乗る謎の女性からの依頼の電話は続く。
「俺」は、事件の黒幕に脅され、襲われながらも、ようやく核心に近づいていく、、、。
主人公の軽妙なキャラが、この作品の大きな魅力です。 でも、その割には、事件の背景とか人間関係が
少しややこしくて、このへんが、このシリーズにハマるか否かの分かれ目なんだろうな、と思います。
「ススキノ探偵シリーズ」の第二作。 2011年9月映画化。 オススメ度:7.8
読書感想文2012-(5)へ
T.Tのページへ
トップページへ