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読書感想文2012 part 5
「読書感想文2012」 part5は、9月〜10月の読書録です。
↓ Click NOVEL mark !
忍びの国 (和田 竜著、新潮文庫)
作品の紹介
1576年、織田信長の次男、信雄(のぶかつ)は、義理の父である伊勢の領主、北畠具教(とものり)を
暗殺し、伊勢を手中に収める。
二年後、信雄は隣国、伊賀を制圧すべく、陰謀をめぐらせる。 すなわち、伊賀の忍者たちを織田家で
召抱え、城を築いてやると持ちかける。 しかし、この城は、伊賀攻めのための城だった。
百地三太夫をはじめとする伊賀側は、信雄の意図を見抜いた上で、だまされたふりをして、城づくりに
協力する。 しかし、城が完成し、伊勢の兵が入ったとたん、城を焼く。
信雄は、伊賀に大軍を進める。 伊賀は、信雄とそりが合わない伊勢最強の武将、日置大善が伊賀攻め
に参戦しなければ勝てると高をくくっていたが、予想に反して、大善が参戦。 もともと金にならない戦を
しない伊賀の忍者たちは、戦を投げ出して逃げ出す。 しかし、伊賀最高の忍者、無門の策により、戦は
思わぬ展開を見せ始める、、、、、、。
ベストセラーとなった「のぼうの城」の著者の作品。 従来の歴史小説の主人公とは一線を画した飄々と
した伊賀忍者、無門の人物造形が魅力。 せりふが口語調で書かれていたり、忍者たちがストイックでは
なく、拝金主義だったり、歴史小説になじみがない人にもおススメ。 オススメ度:8
僕僕先生 (仁木 英之著、新潮文庫)
作品の紹介
唐の時代の中国のお話。 王弁は県の役人を引退した父と二人暮らし。 父がせっせと貯めた蓄えの額を
知り、22歳という歳ながら、勉強するのも働くこともばかばかしくなってしまった。 毎日、何をすることもなく
無為な日々を送っているように見えるが、彼にとっては心地よい毎日だった。
道教にのめりこみ、神仙に興味を持ち始めた父は、王弁に、仙人あての供物を託す。 ところが、王弁が
訪ねた山の庵にいたのは、十代半ばにしか見えない少女のような仙人、僕僕だった。
僕僕は、王弁のことが気に入る。 老仙人に姿を変えて、王弁の父に会ったり、近隣の人たちを治療する。
ところが、県の役人ににらまれ、僕僕は、王弁を連れて旅に出る。 それまで、外の世界を知らなかった
王弁には、唐の帝に会ったり、この世をつくった神に会ったり、天馬をもらったり、信じられない体験の連続。
そんな旅のなかで、王弁は、少しずつ成長し、僕僕への想いをつのらせるが、僕僕が仙界に戻ることに。
王弁は、僕僕から薬の調剤を学び、薬師(くすし)をしながら、僕僕の帰りを待ち続ける、、、、、、。
ベースはファンタジー小説だけど、時代小説、青春小説、そして、ラブコメの要素も盛り込んだ秀作。
癒されるし、心があたたかくなるし、勇気も湧いてくる作品。 シリーズ化にも大納得!
個人的には、こういう作風の小説がかなり好きかも。
「日本ファンタジーノベル大賞」受賞。 シリーズ第一弾。 オススメ度:8.7
薄妃の恋 (仁木 英之著、新潮文庫)
作品の紹介
正式タイトルは「薄妃の恋 僕僕先生」。 「僕僕先生」シリーズの第二弾。
せつない別れから五年。 美少女仙人、僕僕が、ついに王弁のもとに帰ってきた。 積もる話をする間もなく、
僕僕は、再び王弁を旅に連れ出す。
雷の子どもに出会ったり、仙人の侍女を助けたり、今回の旅も、王弁にとってめくるめく冒険の連続。
皮だけの妖異の美女、薄妃(はくひ)が、人間の恋人の精を奪うのを知り、僕僕は、彼女を旅の一行に加え、
ふつうの人間のように生きていくための訓練を始める、、、。
僕僕の事件解決の策が、ますます冴えを見せる第二巻。 でも、五年たっても、あいかわらず、王弁の僕僕
への想いは今ひとつ報われない、、、。
一巻から一気読みで二巻に突入。 ほんとにナイスです、僕僕ワールド。 オススメ度:8.5
胡蝶の失くし物 (仁木 英之著、新潮文庫)
作品の紹介
正式タイトルは「胡蝶の失くし物 僕僕先生」。 「僕僕先生」シリーズの第三弾。
僕僕、王弁、薄妃の旅は、南に進路をとりつつも、あてもなく続いていた。
そんな僕僕のもとに、宮廷の暗殺者集団、胡蝶房から劉欣(りゅうきん)が現れ、僕僕の命を狙う。
しかし、僕僕は、劉欣の母親の命を助けたばかりか、彼を旅の一行に加える。
一方、ふつうの人間のように生きる訓練を終えた薄妃は、喜び勇んで、恋人のもとに向かうが、時すでに遅く、
薄妃のかつての恋人は、別の女性と結婚してしまう。 失意のうちに、薄妃は、僕僕のもとに戻る。
さらに、南の民、苗(ミャオ)族の神姫である蚕の姫も、僕僕たちと旅をすることになるが、胡蝶房の魔の手が
僕僕たちに迫る、、、、、。
三巻に入っても、パワーが落ちることなく、僕僕の不思議ワールド全開。
二巻では薄妃が、そして三巻では劉欣が、新メンバーとして旅に加わったわけですが、どちらも個性的で、
魅力的なキャラクター。 人物造形の妙に脱帽です。 オススメ度:8.5
アシンメトリー (飛鳥井 千砂著、角川文庫)
作品の紹介
朋美は、29歳でOL。結婚に強い憧れを抱いている。 紗雪は、30歳。インテリアと雑貨の店で働いている。
結婚に縛られたくないと思っていた。 しかし、紗雪は、朋美にとって唐突とも思えるタイミングで、中学の
先輩、治樹との結婚を決意する。 治樹は31歳で、カフェの雇われ店長。 朋美は、紗雪とともに治樹の
店を訪れてから、密かに治樹に憧れの気持ちを抱いていたが、「普通」を求める朋美は、治樹を結婚の対象
として考えていなかった。
紗雪と治樹の結婚パーティーで、朋美は、二人の後輩、貴人に出会う。 貴人は、29歳のサラリーマン。
おしゃれ系の紗雪と治樹の後輩でありながら、学生時代から陸上一筋の体育会系。 朋美の気持ちは一気に
貴人に傾き、ややなりゆき気味で付き合い始める。
紗雪と治樹、朋美と貴人。 二組の対称的的なカップルは、やがて、紗雪と治樹の結婚の秘密を巡り、気持ち
が揺れたり、自分を見つめ直していく、、、、、、。
タイトルの「アシンメトリー」とは、非対称という意味。 物語は、章ごとに、朋美、紗雪、治樹、貴人と、語り手を
かえて進んでいきます。 普通に生きたい朋美と貴人。 普通に生きていけない紗雪と治樹。 どちらが正しい
とか、どちらがいい、というのではなく、読み進めていくうちに読者もいっしょに「普通」の意味や価値を考えさせ
られてしまいます。
書評家の間で期待と評価が抜群に高い著者の出世作。
「本の雑誌」2011年度文庫「恋愛小説」部門:第2位。 オススメ度:8
瑠璃の雫 (伊岡 瞬著、角川文庫)
作品の紹介
杉原 美緒は、小学六年生。 母と三年生の弟、充と三人暮し。 三年前、充が生後十カ月の弟、穣を窒息死
させてから家族は壊れていった。 父は家族を捨てて家を出ていき、母は重度のアルコール依存症となる。
夏休みを前に、またしても母が入院し、美緒と充は、母のいとこ、吉岡 薫と暮らし始める。 33歳の薫は
昼は喫茶店、夜はスナックにかわる「ローズ」という小さな店をひとりでやっている。
やがて、「ローズ」の客で、元検事の永瀬 丈太郎との交流が始まる。 薫と美緒が丈太郎の家を掃除し、
丈太郎が充にペーパークラフトを教える。 丈太郎と付き合ううちに、かたくなだった美緒の心も徐々に
ほぐれていく。
丈太郎は、かつて松本で働いていたころ、娘の瑠璃が誘拐され、今も生死がわからない、と美緒は薫から
教えられる。 当時、幼稚園児だった瑠璃は、薫の友だちだった、、、、、、。
というのが第一部。 第二部で、30年近く前、丈太郎が松本で働いていたときに起きた娘の瑠璃の誘拐事件
を描いています。 そして、第三部では、誘拐事件の真相とともに、美緒が長年抱えていた大きな謎も明らか
になります。 抑えめの筆致で、じっくりと描き上げた骨太な作品。
「本の雑誌」2011年度文庫「国内ミステリー」部門:第6位。 オススメ度:8
探偵はバーにいる (東 直巳著、ハヤカワ文庫)
作品の紹介
主人公(「俺」)は、札幌ススキノの便利屋。 北海道大学中退の28歳。 探偵のまねごとみたいな仕事も
している。 そんな「俺」のもとに、北大の学生、原田から、同棲中の彼女、麗子がいなくなったので、探して
ほしいとの依頼が入る。 新聞記者の松尾、北大の大学院生の高田、居酒屋の主人の佐々木などの協力を
得ながら麗子の足取りを追っていくと、彼女がデートクラブで働いていたこと、殺人事件の現場にいたこと
などが明らかになっていく、、、。
さらに、殺人事件のカギを握るハルという男と接触し、さんざん危ない目に会うが、ハルの女で「俺」の知り合い
でもあるモンローも登場し、徐々に事件の核心に近づいていく、、、、、、。
人気の「ススキノ探偵」シリーズの第一作にして、著者のデビュー作。
頭はいいけど、酒が好きでグータラ。 そんな主人公の軽妙にして、少しハードボイルドな探偵ぶりが、この
作品の魅力。 個人的には、エンターテイメント・ミステリーと名付けたくなりました。
2011年9月に映画化(原作はススキノ探偵シリーズの別の作品「バーにかかってきた電話」)。 オススメ度:7.8
平台がおまちかね (大崎 梢著、創元推理文庫)
作品の紹介
出版社の新人営業マン、井辻 智紀を主人公にした、ミステリー短編集。
表題作(「平台がおまちかね」)を含む計5編を収録。
ミステリーと言っても、警察がからむような事件や犯罪が起こるわけではありません。
主人公の井辻が、なじみの書店員の元気のない原因を探ったり。 文学賞の授賞式に現れない新人作家を
探したり。 そんな本や書店、出版社にかかわる小さな謎や事件を、ライバル出版社の先輩営業マンたちと
協力して解決していくというお話。 出版社や書店の裏側もていねいに書かれており、本好きの人なら、こちら
のほうも興味をもって読み進められるはず。 ちなみに、著者の大崎さんは元書店員です。 オススメ度:7.8
桐島、部活やめるってよ (朝井 リョウ著、集英社文庫)
作品の紹介
地方の県立高校が舞台。 高校二年の五人のそれぞれの立場から学校生活を切り取った連作短編のような
体裁の作品。
バレー部のキャプテン、桐島が突然、部活をやめる。
バレー部で桐島の控えだった風助はやっと試合に出られると喜び、副キャプテンの孝介は無駄に張り切る。
でも、桐島がいないと、二人とも思うようなプレイができない。
ブラスバンド部の部長、亜矢は、コンクールを目前に控え、集中しなくてはいけないと頭ではわかっている
ものの、クラスメイトの竜汰への淡い恋心から、いまいちスイッチが入らない。
映画部の涼也は、自分がクラスの「その他大勢」に分類されていることを自覚している。 おしゃれな人気者
グループに気おくれを感じるものの、同じようになりたいとは思わない。 親友の武文と、大好きな映画のこと
を語り、撮りたいものをつくれれば、それでいいと思っている。
ソフトボール部の実果は、父が再婚し、継母の娘で二歳年上のカオリと平和に暮らしてきた。 しかし、交通
事故で、父とカオリを同時になくし、心が壊れた母は実果をカオリと呼ぶようになっていた。 人気者グループ
の孝介と付き合っているが、別れるかもと思っている。
宏樹は、野球部のユーレイ部員。 だけど、実力が群を抜いているので、キャプテンに試合だけでいいから
出てほしいと頼まれている。 自分がクラスの中心であることを自覚し、女子の中心グループのひとり、沙奈
が彼女であるが、表面的な愛情だと割り切っている。
高校生からも、そのリアルさを評価されている作品。 学校でのランク付けを気にして、多少無理してでも、
スタイリッシュに生きるのか。 人気者でなくてもいいので、好きなことに打ち込み、マイペースに生きるのか。
わかりやすくもあるけど、なんだかむなしい「ランク付け」の世界観が全編を覆っていました。
2009年「小説すばる」新人賞受賞作。 2012年 映画化。 オススメ度:7.8
月のうた (穂高 明著、ポプラ文庫)
作品の紹介
中学三年の民子は、小学四年生の時に母を亡くし、六年生の時に父が再婚する。
父の姉、日出子伯母さんは、父の再婚相手、宏子を下に見て、民子を養女にしようとしている。
民子は、県下でも有数の進学校に合格。 継母の宏子とも徐々にいい関係になっていく。
やがて、宏子が妊娠。 民子に弟ができ、時は流れ、東京の大学に進学する、、、。
ストーリーだけ書くと、上記のような感じなのですが、この小説は、ストーリーよりも、人が人を思うこころを
味わって読む作品です。 民子、宏子、民子の母の親友、民子の父の順で、語り手をかえて、物語は進んで
いきます。 どの章も、「月」が重要なモチーフになっていて、それがタイトルにつながっています。
大きな事件が起こるわけでもなく、大がかりなクライマックスがあるわけではありません。
でも、じーんときます。 泣けます。 読んだ後、こころがほっこりする佳作です。
「本の雑誌」2011年度文庫「エンターテインメント小説」部門:第2位。
第2回「ポプラ社小説大賞」優秀賞受賞作。 オススメ度:8
明日の話はしない (永嶋 恵美著、幻冬舎文庫)
作品の紹介
四章だてのお話。「明日の話はしない」というのが各話の登場人物の共通ルール。
第一話:難病で入院中の小学五年生の女の子、マミ。 同室の男子、ファドには、健康な双子の姉、
ミドがいるが、ふたりの関係は最悪。 やがて、副婦長の息子、ボーちゃんと仲よくなったマミと
ファドだったが、突然、ボーちゃんとの連絡がとだえる。 それをミドのせいだと思うふたり。
ほどなく、ミドはファドとの口げんかの最中、ファドの余命が少ないことを告げる。
マミはミドにいっしょに死んであげるともちかけ、自殺を図る、、、、、、。
第二話:河川敷のホームレスたちのもとに、中学生の男女が現れる。 男子は女子にホームレスとの
売春を強要する。 やがて、ボマーという少年がホームレスたちの住居に火炎瓶を投げ込む。
幸い大事には至らなかったが、さらなる惨劇がホームレスたちを襲う、、、、、、。
第三話:アイは26歳。 転職を繰り返し、今は、スーパーでレジ打ちをしている。 宅配便のドライバー、
ユウと同棲中だが、倦怠期を迎えていた。 そんなとき、ユウの友人でケイとエフが、二人のアパートに
転がり込み、男3人、女1人の共同生活が始まる。 やがて、ケイから強盗の話が持ちかけられ、4人は
近所の郵便局で犯行に及ぶが、、、、、、。
そして、第四話が郵便局強盗の犯人のひとりの供述。 この供述によって、第一話から第三話までが
つながっていきます。 第一話と第二話のつながりは、途中でも触れられていたけど、第二話と第三話、
第一話と第三話とのつながりは、この供述によって、はじめて明らかにされます。
ミステリーの要素も強いけど、むしろ、主人公たちの救いようのない心の裏側が印象的な作品でした。
「本の雑誌」2011年度文庫「エンターテインメント小説」部門:第4位。 オススメ度:7.8
ふたり道三(上) (宮本 昌孝著、徳間文庫)
作品の紹介
室町時代のお話。 かつて、隠岐に配流となった後鳥羽上皇にその腕を見込まれたひとりの刀鍛冶が、
名目だけとはいえ、隠岐充(おきのじょう)の官名と「櫂扇(かいおうぎ)」という派名を賜った。
その子孫たちも優れた刀鍛冶として血を繋いでいくが、備中の青江派から命を狙われ、日本中を転々
として、生きながらえていた。 しかし、隠岐充がつくる刀は、呪いがかけられたがごとく、歴史の局面で
重要人物の血を吸ってきた。
十代目隠岐充、おどろ丸は、父の死をきっかけに、刀をつくる側から使う側にまわろうと考えていた。
折りしも、京の赤松政則に招かれ、隠岐充最後の刀をうったおどろ丸は、足利九代将軍、義尚の次の
将軍に内定した義材(よしき)の暗殺計画に巻き込まれてしまう。
しかし、義材の父、義視(よしみ)を警護する女忍者「猫」と赤松家に間者として入り込んでいた庄五郎の
助けで美濃に逃れる。 おどろ丸は、庄五郎を軍師として、守護代、石丸丹波守利光に仕え、美濃の刀匠
の元締め、兼定の娘、錦弥(きんや)を妻とする。
六年後、石丸利光は、同じく美濃の守護代である斎藤妙純と戦端を開く。 おどろ丸は、庄五郎とともに
守護、土岐成頼(しげより)から末子、元頼を総大将として借り受け、戦いに挑む。 おどろ丸は、錦弥、
庄五郎とともに手柄をあげるが、石丸軍は、敗走し、南近江の六角高頼のもとに身を寄せる。 一年近い
雌伏の時を経て、石丸利光が斎藤妙純に軍を進めようとした矢先、ひとり息子の破天丸が備中、青江派の
工作部隊、裏青江衆に誘拐される。 裏青江衆は、元頼と破天丸との交換を求める。 庄五郎は、かつて
の主である「猫」こと小夜に破天丸救出の協力を依頼する。 小夜のもとには、かつて、赤松家でおどろ丸
と関係をもった当主、政則の娘、松姫が生んだ峰丸が暮らしていた。
破天丸は、小夜が率いる椿衆の働きで無事救出される。 石丸勢が不利とみた土岐成頼は、元頼を連れて
本陣を抜け出すが、その寸前、破天丸の機転で、元頼と破天丸が入れ替わっていた。
元頼は、守護代、斎藤妙純の監視下に置かれ、破天丸は、元頼と思われたまま、新しい守護、土岐政房の
もとへ送り届けられる途中、暗殺される。 斎藤妙純は、石丸勢を攻め、壊滅させ、元頼も自害する。
おどろ丸は、錦弥とともに、敵方に切り込むが、生け捕りにされる。 庄五郎が二人の救出に向かうが、
破天丸が殺されたのは庄五郎のせいだと錦弥に吹きこまれたおどろ丸は、逆に、庄五郎を殺そうとする。
ここに、苦楽を共にしてきたおどろ丸と庄五郎は、袂を分かつことになる。 さらに、妙純も、土民の蜂起で
命を失う。 宙に浮いたおどろ丸の身をもらい受けたのは、石丸家の仇敵、長井藤左衛門長弘だった。
長井家に仕えたおどろ丸は、西村勘九郎という名を賜り、錦弥は、関の方と称し、戦国乱世の時代でさらに
頭角をあらわしていく。
一方、小夜に育てられ、庄五郎に見守られたおどろ丸のもう一人の息子、峰丸は、法華宗の僧、法蓮房と
なっていた。法蓮房は、図らずも、将軍の跡目争いに巻き込まれるが、生みの母、松姫に助けられる。
法蓮房は、この後、還俗して、庄九郎と名乗り、京の油商、奈良屋で働き始める。
庄九郎は、奈良屋でめきめきと頭角を現し、夫の急死で出戻りとなった、主のひとり娘、摩須と結婚する。
骨太でありながら、エンターテイメント色にあふれた作品。 けれども、登場人物が多いうえに、応仁の乱後
というやや馴染みの薄い時代背景であることも手伝って、頭の中で人物相関図を描くのがたいへん。
おすすめの作品ではあるけれど、読むにはかなりの覚悟が必要かも。
「本の雑誌」2011年度文庫「時代小説」部門:第3位。 オススメ度:8.2
※版元が新潮社から徳間書店にかわりました。古本なら新潮社のものも手に入ります。
ふたり道三(中) (宮本 昌孝著、徳間文庫)
作品の紹介
庄九郎は、妻、摩須の幼馴染である阿耶の窮地を救うため、駿河の油商、山崎屋に向かう。
京で仲間になった源太之助に加え、道中、美濃斎藤家の一族、斎藤十郎も庄九郎に従う。
庄九郎は、後の北条早雲こと伊勢宗端(そうずい)とも知り合い、駿府でも頭角を現す。
駿府に来て二年後、庄九郎は、美濃に入る。 寺での修業時代に弟のように仲のよかった常在寺の住職
であり、守護代、斎藤彦四郎の弟、日運の協力を得て、美濃での足元を固める。
一方、守護代の跡目争いの戦いで功績のあったおどろ丸、西村勘九郎は、長井新左衛門尉(しんざえもん
のじょう)という名を賜り、守護土岐氏の直臣となる。
美濃斎藤家の長老、斎藤利隆は、かつての悪事が露見することを恐れ、新九郎の手下、斎藤十郎を殺害
しようとする。しかし、新左衛門尉の助太刀を得た庄九郎が、無事、十郎を奪還する。
その後、庄九郎は、武士となり、名を長井新九郎と改め、新左衛門尉の寄騎(よりき)となる。
新九郎の妻、摩須は京から美濃に向かうが、道中、裏青江衆の残党、無量斎の襲撃を受け、命を落とす。
放魚と名を変えた庄五郎は、新九郎を小夜に引き合わせ、新九郎の出生の秘密を明らかにする。
新九郎は、自分が新左衛門尉と松姫の子であることに衝撃を覚えるが、左衛門尉に話すことはなかった。
一方、関の方も、叔父であり、裏忍びの首領である弥勒に新九郎の出自を調べさせ、新九郎のもとに放魚と
名を変えた庄五郎がいることを知る。関の方は、新九郎の本心を疑うが、やがて、彼を新左衛門尉の出世に
必要不可欠な人物と考えを改め、警戒を解かないまでも、新九郎と手を結ぶ。
新九郎は、奈良屋、山崎屋の財力にものを言わせ、新左衛門尉を新しい守護の後見の地位に昇らせる。
斎藤利隆改め妙全と長井藤左衛門長弘は、新九郎の財力に恐れをなす。長井藤左衛門は、新九郎の財力の
源である奈良屋、山崎屋を無量斎に襲撃させ、焼き打ちする。奈良屋の舅は殺されたが、山崎屋の阿耶は襲撃
を逃れていた。 新九郎は、阿耶を美濃に迎え、妻とする。
一方、生みの母、松姫の身辺を守るべく、新たに配下に加えた御門重兵衛こと明智光隆を播磨に遣わす。
上巻が父、おどろ丸の章だとすれば、中巻は、息子、新九郎の章として書かれていました。
上巻に続き、一級品のできばえなのですが、やはり、登場人物の多さ、人物相関図の複雑さに手を焼きました。
「本の雑誌」2011年度文庫「時代小説」部門:第3位。 オススメ度:8.2
ふたり道三(下) (宮本 昌孝著、徳間文庫)
作品の紹介
新九郎は、斎藤家の重鎮であり、新左衛門尉の仇敵でもある妙全と長井藤左衛門を排除すべく、妙全の孫
又四郎に謀反を起こさせるようそそのかす。 はたして、又四郎は、新九郎の入れ知恵通り、近江の浅井亮政
に助力を頼む。 亮政に率いられた八千の兵が美濃に攻め入るが、新九郎の活躍で、これを退ける。
新左衛門尉の強さを思い知った浅井亮政は、逆に、斎藤又四郎に新左衛門尉暗殺をもちかける。
又四郎は、妙全の手下、迫田孫平次に新左衛門尉を襲わせるが、孫平次は新左衛門尉に討たれる。
新左衛門尉は、瀕死の重傷を負うが、尾張の織田信秀に助けられる。 しかし、信秀の父で当主の信定は、
新左衛門尉を土蔵に幽閉し、美濃攻略に利用しようとしていた。 やがて、放魚が新左衛門尉の所在を探り
あて、同じく新左衛門尉の所在を探りあて、暗殺を企てた無量斎を返り討ちにする。
斎藤又四郎は、再び、浅井亮政と呼応し、謀反を試みる。 しかし、浅井亮政は、越前の朝倉孝景と裏で手を
結び、美濃を奪おうと企んでいた。 ほどなく、浅井・朝倉連合軍と美濃勢の戦端が開かれる。
新九郎は、先手を打って、守護、頼武とその弟、頼芸を、新左衛門尉に匿い、謀反方の動きを封じる。
追い詰められた謀反方は、又四郎にかわって妙全を大将に据え、巻き返しに出るが、頼武に交渉に赴いた際に
関の方に討たれる。 さらに、尾張勢三千を率いた新左衛門尉が織田信秀とともに浅井勢を近江に押し返す。
謀反の首謀者、又四郎も、落ちのびる途中で、放魚に討たれる。
またしても、美濃の窮地を救った新左衛門尉の名声は不動のものとなり、長井藤左衛門改め長井越中守をも
しのぐものとなる。
さらに、新九郎が、妙全、又四郎亡き後の斎藤惣領家の跡継ぎとして、京から、関白、近衛稙家の庶子、多幸丸を
迎え、新左衛門尉と関の方を後見に据える。
新左衛門尉を美濃の覇者にする道が見え始めたかに見えたが、関の方が裏忍びの弥勒に長井越中守の息子、
景弘の暗殺を命じる。 新九郎は、放魚と、小夜の配下、椿衆に暗殺阻止を依頼するが、小夜が弥勒に誘拐され、
人質となってしまう。 弥勒は、椿衆に、小夜の身柄と交換に景弘の首を要求する。 椿衆の暗殺決行の混乱の中、
関の方が景弘を斬る。 新左衛門尉は、関の方に別れを告げる。 そして、景弘暗殺が椿衆によってなされたことを
理由に、新九郎も、新左衛門尉から別れを告げられる。 放魚と椿衆は、小夜の奪還に成功する。
関の方は、なおも、長井越中守をも攻めようとし、新左衛門尉と対決することになるが、放魚が間に割って入り、
命を落とす。 新九郎は再起を期して京に逃れるが、関の方は、小夜に討たれる。
戦いの後、新左衛門尉は、長井道三と名乗る。 しかし、美濃は長井越中守が実権を握る。
そして、二年後、新九郎は、満を持して美濃に向かう。 父と子の対決の時が近づいていた、、、、、、。
三巻、1500ページをこえる大作でした。 物語の終盤で、新九郎が父から道三の名を受け継ぎ、斎藤道三と名乗り
ます。 これをもって「ふたり道三」というタイトルになる、というわけです。
これまでの道三ものとは一味ちがった発想で書かれており、構成もしっかりしているので、すいすい読み進むことが
できました。 とは言え、もうちょっとシンプルなお話でもよかったかな、とも思います。 欲を言えば、ですけど。
「本の雑誌」2011年度文庫「時代小説」部門:第3位。 オススメ度:8.2
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