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読書感想文2012 part 1

「読書感想文2012」 part1は、1月〜2月の読書録です。

 ↓ Click NOVEL mark !
コメント  アカペラ (山本 文緒著、新潮文庫)   作品の紹介 

表題作「アカペラ」、「ソリチュード」、「ネロリ」の3編の中編を収録。
「アカペラ」の主人公は中学3年生のたまこ。 父は5年前から単身赴任中。 ここ3年は家に帰って
こない。 母も短期の家出を繰り返す、困った親。 しかし、今回の家出はいつもと違い、3か月
経っても戻ってこない。 とはいえ、たまこは、祖父、泰造となかよく暮らしている。
しかし、母親が家に戻り、泰造につらくあたり始め、祖父の様子がおかしくなる。 たまこは意を
決して、泰造と駆け落ちする、、、、、、。
「ソリチュード」は、高校卒業を前に衝動的に家出した男が20年ぶりに故郷に戻る話。
春一はバーの雇われマスター、38歳。 父が死んでも戻らなかった千葉の実家に、家出の時と同じく、
衝動的に舞い戻るが、母はなにごともなかったかのように春一を受け入れる。 かつては恋人だった
いとこの美緒は小学校6年生の一花(いっか)の母となっていたが、離婚していた。
春一はすぐにでも東京に戻る気でいたが、美緒が気になり、一花になつかれ、ずるずると父の四十九日
まで実家でぶらぶらしていた。 そこに、春一の同居人でバーの経営者、まり江と、春一に憧れる朱夏
が春一のもとを訪れる、、、、、、。
「ネロリ」は、中堅出版社に勤める49歳の志保子と39歳の弟、日出男の物語。
日出男が生まれてすぐに両親が離婚。 姉弟は母と暮らしていたが、母が癌になり、志保子が高校を
出てすぐ働くことになる。 日出男は生まれつき身体が弱かった。 高校を出て事務の仕事につくこと
になっていたが、母の癌が再発。 日出男は就職せずに母を看病する生活に入る。 日出男の看病の
かいあって、母は長生きすることができたが、日出男は体力を擦り減らしていった。
結局、日出男は39歳の今まで就職せず、たまの外出も病院の定期健診という生活を送っている。
そんな彼に、心温(ここあ)というガールフレンドができた。 ココアは19歳の専門学校の学生。
故郷の高校の先輩と同棲しているが、今では関係が冷え切っている。
志保子は、勤め先の会社の社長から早期退職を依頼される。 退職を数ヵ月後に控え、会社に出入りの
印刷会社の営業マン、須賀と交際を始める。 須賀は38歳と、志保子とひとまわりも歳が違っていたが、
志保子のことをたいせつにし、彼女にプロポーズする、、、、、、。
山本 文緒さんは、女性のファンが多いですが、お気に入りの作家のひとりです。この作品は派手さは
ないものの、改めて著者の底力を強く感じました。 どの作品も、質のいい映画やドラマになりそう。
それにしても久々の山本文緒作品でした。 山本さんは2001年に「プラナリア」で直木賞を受賞。
表題作の「アカペラ」を受賞第一作として書いた後、病気で6年間休業。 休養中、作家をやめる覚悟も
したそうです。 そして、「ソリチュード」が復帰第一作となりました。
「本の雑誌」2011年度 文庫 総合部門:第3位。 オススメ度:8.2

コメント  八日目の蝉 (角田 光代著、中公文庫)   作品の紹介 

【1章】希和子は同じ会社の秋山と不倫の関係になる。 秋山は希和子に結婚をほのめかす。
希和子は妊娠するが、秋山から離婚の妨げになるからと言われ中絶する。 ところが、その直後、秋山の
妻が妊娠する。 秋山の妻は女の子を出産。 半年後、希和子は赤ん坊を誘拐し逃亡する。
誘拐した子どもを薫と名付け、東京から名古屋に逃げた希和子は、一人暮らしの老女の家に居候させて
もらうが、やがて「エンゼルホーム」という女性だけの施設に身を隠す。 エンゼルホームは宗教色こそ
薄かったが、新興宗教の施設のように外部との接触を絶っていた。 二年半後、希和子は施設を脱走し、
小豆島に向かう。 施設で親しくなった久美の母親の素麺屋で働き、穏やかな暮らしを手に入れるが、
一年後、偶然撮られた写真がきっかけで逮捕される。 薫は、このとき4歳になったばかりだった。
【2章】時は流れ、薫は、大学二年になっていた。 4歳からは秋山恵理菜として生きてきたが、好奇の目
にさらされたり、家族が事件の後遺症に苦しめられてきた。 大学に入って一人暮らしを始めるが、バイト
先の男性と不倫関係になり、希和子と自分が重なった。 やがて、恵理菜の前に安藤千草という女性が
現れる。 千草はエンゼルホームで恵理菜と同じ部屋で暮らした人物であり、やがて警察の介入で解散に
至ったエンゼルホームの事件を自費出版していた。 続いて大手出版社からルポを出すにあたり、恵理菜
の誘拐事件のことを取材すべく接近するが、二人は意気投合する。 やがて、恵理菜は不倫相手の子を
宿すが、一人で産む決意をする。 恵理菜と千草は、かつて二人が暮らしたエンゼルホームに向かう、、、。
さすがに話題には抗しきれず、古本ではありますが、この作品を手にとってしまいました。
今までの角田光代さんのイメージとは少し違い、むしろ宮部みゆきさんが描くような小説かなという印象を
持ちました。 佳作とは思うけど、はらはらした1章に比べて2章が少しこじんまりしていたかな。
第二回「中央公論文芸賞」受賞。 2010年ドラマ化。 2011年映画化。 オススメ度:7.8

コメント  神様からひと言 (荻原 浩著、光文社文庫)   作品の紹介 

佐倉 涼平、27歳。 上司との喧嘩が原因で大手広告代理店を退社。 同棲中の彼女も突然姿を消す。
運よく再就職できたのは「お客様の声は、神様のひと言」が社訓の旧体質の中堅食品メーカー。
最初の晴れ舞台となるはずの重要会議で、またもや上司と喧嘩。 その結果、涼平が異動になったのは
リストラ要員収容所と噂されるお客様相談室。 やる気のない室長、教育係はぐうたら社員の篠崎。
涼平の前途に早くも暗雲が立ち込める、、、。
しかし、競艇好きで離婚寸前の篠崎がクレーム処理に関しては一流の腕を持ち、涼平は徐々に仕事の
腕を上げていく。 御曹司の副社長に目をかけられ、リストラ要員から一転、新規プロジェクトの一員に
抜擢されるが、副社長には意外な秘密があった、、、、、、。
会社に見切りをつけ、一皮むけた涼平は、同棲していた彼女を探し始める、、、、、、。
コメディタッチな一面もありながら、サラリーマンの悲哀や葛藤をきちんと描いた佳作。 オススメ度:7.7

コメント  僕の中の壊れていない部分 (白石 一文著、光文社文庫)   作品の紹介 

松原 直人、29歳。 北九州で生まれ、家庭を顧みない母のもと、異父妹と肩を寄せ合って生きてきた。
東大に進学し、出版社に就職。 人間関係にも生にも醒めた目しか持てないでいる。
松原は三人の女性と同時進行で付き合っている。
ファッション雑誌のPRプランナーの枝里子、26歳。 才色兼備の彼女は松原に献身的に付き合う。
スナックのママの朋美、34歳。 売り出し中の俳優で韓国人の夫とはずっと別居状態。
そして、有閑マダムの大西夫人、31歳。 20歳年上の貿易商の夫は、不在がちで外に女がいる。
枝里子とは恋人のような関係であるが、根っこのところでわかりあえない不安を彼女に感じさせてしまう。
朋美も、松原が愛しているのは、自分なのか、息子の拓也なのか、はかりかねている。
大西夫人とは、末期癌の母の治療費を捻出するために付き合っている割り切った関係だと考えていたが、
彼女に松原の子どもを産んでもいいと言われて興ざめしてしまう。
松原は、その一方で、彼と同じく不器用にしか生きられない雷太とほのかという二人の若者を自由に自室に
出入りさせている。 二人とも人生に希望を持てずにいたが、枝里子の力によって少しずつ快方に向かい、
雷太とほのかは、やがて付き合うようになる。
母の死を境に、松原の周囲が少しずつ変わり始める。 母の治療費を出していてくれていた大西夫人と別れ、
朋美が夫と復縁することになった。 松原は、諏訪にある枝里子の実家にあいさつに行くが、枝里子の父に
理解されず、黙って東京に戻る。 さらに、雷太が事件を起こし、、、、、、。
著者の白石さんの書くのは「小説」ではなく「自説」だと言った人がいます。 確かに、彼の作品は登場人物を
通して、いくつもの考え、思想、ときには哲学的なことまで出てきます。 この物語は、著者の作品の中でも
こういった傾向が極めて強い作品です。 小説としては一級品だと思うけど、苦手な人もいるかも。
白石ファンにはおススメの一冊。 オススメ度:7.8

コメント  別冊 図書館戦争 T (有川 浩著、角川文庫)   作品の紹介 

大人気の「図書館戦争」シリーズ(全4巻)のスピンアウト作品。 別冊は2巻刊行されており、本編とは
趣きが違い、恋愛にフォーカスした短編集。 この別冊1巻は、5編の連作短編を収録。 主人公の笠原 郁
と晴れて恋人になった上官の堂上の物語。
恋人になったものの、不器用な二人の恋は、なかなか進展しない。 そんなもどかしいさまを、図書館で
起こる事件とからめながら描いています。
別冊は、本編の「図書館戦争」シリーズを読まないと、わからない、というかおもしろくないつくりです。
「図書館戦争」シリーズの読者層は若い人だと思うけど、本好きの人にはおススメです。 食わず嫌いせず、
大人も読んでほしい秀作です。
とは言え、、、別冊は、著者の有川さんが自ら「あとがき」で述べているように、恋愛系が苦手の人はやめて
おいた方がいいかもしれません(笑)。 別冊Tは、本編ラストの空白を補完する内容だったので、個人的
にはおもしろいと思いましたが、、、。 オススメ度:8
「図書館戦争シリーズ」本編のブックレビューはコチラ。  「図書館戦争シリーズ」特設サイトはコチラ。

コメント  テンペスト 1 春雷 (池上 永一著、角川文庫)   作品の紹介 

江戸時代末期の琉球。 没落士族、孫氏の家に生まれた真鶴は、女子というだけの理由で、父から存在を
無視されて育った。 しかし、養子の兄、嗣勇は、琉球の科挙、科試(こうし)をめざす気がなく失踪。
父に隠れて猛勉強をしてきた真鶴は、名を孫寧温と改め、男として生きるよう父に命じられる。
科試をめざすべく、入った破天塾は塾長の麻真譲こそ琉球王朝の官僚の頂点に登り詰めた人物だったが、
塾生は昼間から酒盛りをする劣等生ばかり。 しかし、麻真譲は学問より人間性重視の教育を続けていた。
三年後、孫寧温は13歳で科試に合格。 父は寧温をかばって獄死するが、兄、嗣勇と再会する。
寧温は、女であることを隠すため宦官として宮廷に仕える。 嗣勇は、女装の踊り子になっていた。
寧温は、国王から直々に財政改革を託されるが、役人、王妃、そして、王の姉で最高神職の聞得大君(きこえ
おおきみ)、王の側室など、宮廷のすべての勢力を敵にまわす。 そんな環境の中、寧温は、いっしょに科試に
合格した喜舎場朝薫(きしゃばちょうくん)のサポート、元破天塾の門番、多嘉良(たから)の励ましで次々と
難局を乗り越えていく。
女であることを捨てて生きていく決意をした寧温だったが、琉球駐在の薩摩藩士、浅倉雅博に恋心を抱く。
同時に、朝薫も寧温に恋した自分に気づく。
宮廷内では、王妃、聞得大君の勢力争いが激しさを増していた。 寧温が後宮の予算を大幅に減らす中、ひとり
聞得大君だけは豪商たちから借金をし、栄華を極めていた。 聞得大君は、さらに、寧温が女ではないかと疑い
始める、、、、、、。
「テンペスト」は全四巻。 2011年には仲間由紀恵さん主演でドラマ化、舞台化。 さらに2012年に映画化。
著者の池上永一さんは、沖縄を書かせたらこの人がいちばんと思っている作家です。 ユーモラスな作品や
SF的な作品も多いのですが、今回は骨太な大河小説の予感。 オススメ度:8.2

コメント  テンペスト 2 夏雲 (池上 永一著、角川文庫)   作品の紹介 

兄、嗣勇が聞得大君に捕えられ、寧温は自分が女であることを明かしてしまう。 しかし、聞得大君は、それを
公にすることはせず、王妃追放の工作を寧温に命じる。 寧温は窮地に陥るが、策を講じ、聞得大君を宮廷から
追放する。
一方、国王は、阿片の琉球への流入経路と流出経路の捜査を寧温と朝薫に命じる。 この捜査は清と薩摩をも
巻きこんだ大がかりなものになる。 清からは、権謀術数にすぐれた宦官、徐丁垓(じょていがい)、薩摩からは
浅倉雅博が捜査に加わる。 捜査の結果、宮廷の重臣、王妃の女官長が事件に関わっていたことがわかり処分
される。
朝薫とともに、重臣に昇格したのもつかの間、今度は徐丁垓に正体を突き止められ、寧温は辞表を出して宮廷を
去る。 久々に真鶴の姿で街に潜伏していたところ、浅倉雅博と出会う。 雅博は、真鶴が寧温だとは気づかず、
薩摩の屋敷に招く。 雅博は、真鶴に求婚するが、国王が急死したことを知った真鶴は寧温として宮廷に復帰する。
宮廷では、わずか六歳の新王が即位。 しかも、徐丁垓が清の国相として宮廷内に入り込んでいた。
徐丁垓は清に有利な方向に琉球を操るために寧温を脅迫するが、寧温は屈しなかった。 寧温は徐丁垓と戦い、
徐丁垓を殺すが、その罪で八重山に流される、、、。
女であることを知られ、聞得大君、そして徐丁垓に脅迫される寧温と、雅博に求婚され女としてつかの間の喜びを
かみしめる真鶴の対比が浮き彫りになった第二巻でした。 さらに流刑に処せられて第三巻に続くとは、、、。
物語は折り返し地点で波乱万丈、風雲急を告げる展開です。 オススメ度:8.2

コメント  テンペスト 3 秋雨 (池上 永一著、角川文庫)   作品の紹介 

八重山での終身刑に処せられたはずの寧温だったが、朝薫の手配で囚人扱いは受けずにすむ。
しかし、米英とのトラブルを解決したことがきっかけで、特別待遇がばれてしまい牢舎に入れられる。
牢でマラリアにかかり、山奥に捨てられるが、八重山の最高神職、大阿母(ホールザー)に命を救われる。
女として生き始め、真鶴は平穏な日々を送っていたが、八重山に着任した役人に見初められ、新王の側室候補
として宮廷に送られる。 試験会場で意気投合した向氏の一族の娘、真美那とともに側室に選ばれる。
やがて、真美那は懐妊。 真鶴は、前の聞得大君に再会し、脅迫されるが、真美那と朝薫の機転で難を逃れる。
逮捕された前の聞得大君、真牛は、脱獄し、かつて懇意にしていた海運業者のもとを訪れるが、昔の借金のかた
に遊郭に売られる。 ジュリ(遊女)になっても、聞得大君に復帰する夢を捨てられない真牛の前に津波古(つはこ)
という男が現れる。 四十歳を過ぎて、図らずも初めて恋を知った聞得大君は、霊力を失う。
1853年、ペリー提督率いる米国海軍が琉球を訪れる。 朝薫が先頭に立ち交渉にあたるが、もはや限界とみた
国王は八重山に流刑となっている寧温に恩赦を与え、対ペリー交渉を一任する。
晴れて宮廷に戻れた寧温は、ペリーとの交渉をしのぎ切り、ペリーを日本に向かわせる。 しかし、寧温と真鶴
の二重生活は限界に近づきつつあった、、、。
著者独特のユーモアを交えながらも、大河小説の王道は外さずに物語はいよいよ最終巻へ。 オススメ度:8.2

コメント  テンペスト 4 冬虹 (池上 永一著、角川文庫)   作品の紹介 

真鶴の親友で側室の真美那が王女を出産する。
1854年、幕府と日米和親条約を結んだペリーは、再び琉球を訪れるが、またしても寧温にあしらわれる。
津波古は、真牛の借金を帳消しにするために遊郭に火をつけ斬首の刑となる。 真牛は魂を失い、茫然自失の
状態だったが、寧温の姿を見て、記憶を取り戻し、復讐を誓う。
清は、欧米列強の侵略に加え、内乱(太平天国の乱)も勃発し、ますます国としての体(てい)をなさなくなる。
一方、琉球に対する薩摩の圧力は強まり、朝薫をはじめ向氏一族は、政治の中枢から締め出される。 薩摩の
先頭に立つのは、浅倉雅博であり、寧温は、真鶴としても、心を痛める。
寧温は、真鶴との二重生活をぎりぎりの状態で続けていたが、ついに真美那に秘密がばれてしまう。 しかし、
真美那は、寧温への憧れ、真鶴への友情で、二人の味方になる。
そんな中、真鶴は妊娠する。 もはや二重生活に耐えられなくなった寧温は、真美那の勧めに従い、王宮を去る。
薩摩藩主、島津斉彬の急死により、王宮内の薩摩派は粛清され、朝薫たち向氏一族が復権する。 雅博も薩摩に
戻ることになるが、寧温は自らが真鶴であったことを雅博に明かす。 雅博は改めて真鶴に求婚するが、真鶴に
国王の子を宿していることを告げられ、失意のうちに琉球を去る。
出産に備える真鶴の前に、再び真牛の生き霊が現れるが、真美那の機転で難を逃れる。
真鶴は無事、王子を出産するが、祝いの席に兄、嗣勇が現れ、真鶴と寧温が同一人物であることを暴露してしまう。
真鶴は、久米島に流されることになるが、真美那が王子とともに向氏の菩提寺に逃がしてくれる。
真鶴の子は、明(めい)と名付けられ、聡明でありながら腕白な子として成長する。 ある日、明は、偶然、街で嗣勇
に会う。 明が真鶴の子であると直感した嗣勇は、真鶴のもとを訪れるが、嗣勇の後をつけた同僚の密告により、宮廷
の役人に包囲される。 嗣勇が役人たちに切りかかり、真鶴と明は逃げることができたが、嗣勇は斬首の刑になる。
その後も、真鶴と明は、人目を避けての生活を送っていたが、明が真和志塾の入塾試験に合格する。
明の知識欲、母に楽をさせるために科試(こうし)に合格したいという気持ちを、もはや抑えられないと悟った真鶴は
寧温となり息子のために破天塾を復活させる。
日本では大政奉還が行われ、明治5年、琉球は琉球藩として日本に組み入れられる。
明は、真牛から、自分が王子であること、寧温が真鶴であること、寧温と真鶴の過去を聞かされるが、気持ちが揺らぐ
ことはなかった。 明は、王子として王宮に戻ることよりも、科試に合格し、琉球のために生きる決意をする。
明治12年、日本の内務省の書記官とともに浅倉雅博が琉球を訪れる。 書記官は日本が琉球を併合することを告げる。
琉球王朝五百年の歴史に幕が降ろされ、国王は侯爵として東京に移住させられることになる。 真美那は国王とともに
東京に行くが、真鶴に琉球国王のシンボルである黄金の王印を託す。 真鶴は、最後の寧温の姿になり、王宮で明の
王位即位の儀式を行う。 そして、残りの人生を雅博と生きていくことを約束する。
もともと好きな著者の作品でしたが、この物語は、ほんとに読み応えがありました。 一気読み必至。 オススメ度:8.2

コメント  楊令伝 8 箭激の章  (北方 謙三著、集英社文庫)   作品の紹介 

北方「水滸伝」(全19巻)の続編。 「楊令伝」は全15巻。
宋禁軍の元帥、童貫は、梁山泊の本営近くに軍を進め、三方から包囲の陣を敷く。
戦死した呼延灼の息子、穆凌こと呼延凌は、父の軍を引き継ぎ、李英、鐘玄が上級将校として補佐についた。
花飛麟、扈三娘は、一万二千の軍で、禁軍の劉光世、張俊の軍、四万を迎え撃つ。方臘軍の生き残りの精鋭、三千五百
を率いた韓成、遊撃隊の史進も駆け付け、禁軍に二万近い犠牲をもたらした。
緒戦の勝利の後、花飛麟は、扈三娘と結ばれ、結婚の約束を交わす。 二度目の戦いでも花飛麟、扈三娘軍は勝利し、
宋軍を潰走させるが、扈三娘は単身、劉光世の首を狙い、命を落とす。
金では、燕雲十六州、宋に進攻することが決まり、完顔成を総帥として、唐昇、撻懶(だらん)、斡離不(おりぶ)ら十万の
軍が南下する。 燕雲十六州では、宋地方軍、十四万に勝利し、唐昇が守りを固める。 ところが、宋に進攻した完顔成、
撻懶、斡離不の軍は李明が率いる禁軍、五万に敗北し、退却を余儀なくされる。 唐昇の進言により、金で留守を守っていた
遼の元将軍、簫珪材(しょうけいざい)が三万の軍を率いて出陣した。
梁山泊では、童貫軍、十万との睨み合いが続いていた。 梁山泊は、本営を守る郭盛の一万五千の兵も野戦に投入し、いよ
いよ決戦の火ぶたが切られる。 両軍は激戦を繰り返し、禁軍の寇亮、衛政などの将軍を討ち取るが、梁山泊でも張清、馬麟
が戦死。 楊令は、童貫との決着が目前に迫っていることを感じる。
金軍は、簫珪材、唐昇が宋地方軍を突破し、李明率いる禁軍五万と交戦する。 李明を退却させた簫珪材は、完顔成、撻懶、
斡離不にあとを託し、燕京で待機すべく後方に下がる。
梁山泊対宋軍の戦いも激しさを増し、いよいよクライマックスに。 この巻でも「水滸伝」から活躍していた中心人物が何人か
戦死しました。 いつものことながら、武将たちの死は突然訪れ、はっとします。
「楊令伝」公式サイトはコチラ。  「水滸伝」1〜4 ブックレビューはコチラ。  「水滸伝」5〜19 ブックレビューはコチラ。
「楊令伝」1〜4のブックレビューはコチラ。  「楊令伝」5〜7のブックレビューはコチラ。  オススメ度:8.7

コメント  楊令伝 9 遥光の章  (北方 謙三著、集英社文庫)   作品の紹介 

北方「水滸伝」(全19巻)の続編。 「楊令伝」は全15巻。
梁山泊と宋禁軍は、正面からぶつかり合いお互い大きな犠牲を出す。 梁山泊は、禁軍の将軍、劉譲を討ち取るが、かく瑾が
童貫に討たれる。 楊令と史進が童貫に挑み、楊令がついに童貫を討ち取り、壮絶な戦いに終止符が打たれた。
一方、禁軍の将軍、李明は金の完顔成、撻懶、斡離不の軍を宋領内まで誘い込み、金の兵站線を切る。 金軍は窮地に陥るが
梁山泊水軍の隊長、狄成(てきせい)が単身、李明の首を獲る。 
宋禁軍は、岳飛が二万五千の兵を率いて太原府に、張俊が三万の兵で真定府に、そして、劉光世が五万の兵で開封府に拠った。
金軍は梁山泊から兵糧を提供され、開封府に迫る。 宋の先帝や廷臣たちは南に逃亡し、新帝は金と講和を結ぶ。
宋に勝利した梁山泊は国土を広げ、四百万の民を抱える国となる。 楊令と呉用、宣賛のもと、新しい国づくりが始まる。
南の洞宮山から顧大嫂、かく嬌が、杭州から孫二娘が梁山泊の本塞に入り、裁判や法の整備を進める。 張清の妻、瓊英は日本
との交易を強化。 楊令は、さらに西域や南方との交易を視野に入れ始める。 杜興は、楊令の意を受けて、簫珪材のもとに向かい、
耶律大石に向けて一筆書いてもらう。 簫珪材とともに燕国建国のために戦った耶律大石は、敗戦後、西夏のさらに西の地に根を
おろしていた。 楊令は梁山泊の西域との交易において、耶律大石に護衛を依頼する構想を持っていた。 杜興は耶律大石のもとに
向かう。
敗戦後、太原府に拠った岳飛の軍は、二万五千の兵のうち、二万五千が岳飛に従い、岳家軍となる。 拠点を開封府近くの隆徳府に
移し、晋州、威勝をおさえた。 張俊も、真定府から北京大名府に拠点を移す。
青蓮寺の李富は、かつて遼の燕京で私塾を開いていた劉彦宗(りゅうげんそう)を取り込み、宋が倒れた後の準備を進める。
金の完顔成、撻懶、斡離不の軍は再び南下し、開封府を取り囲む、、、、、、。
熾烈を極めた梁山泊と禁軍の戦いも、最後は意外とあっけなく決着がつきました。 そして、楊令の新しい国づくりが始まったわけ
ですが、まだ九巻。 あと六巻、どんな展開になるのやら、、、。
「楊令伝」公式サイトはコチラ。  「水滸伝」1〜4 ブックレビューはコチラ。  「水滸伝」5〜19 ブックレビューはコチラ。
「楊令伝」1〜4のブックレビューはコチラ。  「楊令伝」5〜7のブックレビューはコチラ。  オススメ度:8.2

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