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読書感想文2011 part 4
「読書感想文2011」 part4は、7月〜8月の読書録です。
↓ Click NOVEL mark !
ジュージュー (よしもと ばなな著、文藝春秋)
作品の紹介
美津子は、ステーキハウス「ジュージュー」のひとり娘。 母親は、6年前に若くして亡くなったが、今は、遠い親戚の進一が
コックとして父を支え、美津子が接客をしている。 進一は幼い頃、両親が離婚し、ずっと美津子の家で暮らしていた。
17歳のとき、美津子は彼の子どもを流産し、恋人としての二人の関係はこわれるが、今は家族として、お店のパートナーと
して、いい関係に戻っている。 進一は、はかなげな謎の美女、夕子さんと結婚し、幸せに暮らしているが、時々、別々に
店を訪れる両親とは、人生を共有できずにいた。
ある日、「ジュージュー」の近所で書店を営む宮坂夫妻の息子が店を訪れる。 母親を亡くしたばかりの彼は、初めて
訪れた店で、人目もはばからず、泣き始める。 毎週、この店で食事をするのを楽しみにしていた両親の代わりに、彼が
「ジュージュー」に来て、母親を思い出し、感極まったのだ。 彼は、40歳。 結婚して、長野にある妻の実家の写真館を
継いでいたが、本好きが災いして、離婚し、東京に戻ったばかりだという。 そんな男に、美津子は、ひと目惚れしてしまう。
美津子は、ゆっくりとゆっくりと宮坂との関係を育てていこうと考え、ことばは交わさなくても、宮坂もその思いに応える。
目に見える幸せではなく、人生という長いスパンの中に散りばめられた小さな幸せやまわりの人たちをたいせつにしながら
美津子は、身体が動かなくなる日まで「ジュージュー」に立ち続けようと心に決める、、、、、、。
心がほっこりとあたたかくなる作品です。 僕たちが日々の暮らしで忘れがちな思いを、著者がやさしく、わかりやすく言葉を
紡いでできあがった、とてもすてきなお話です。 「はっ」とさせられる表現に何度も出会いました。
楽しいことばかりではなく、つらいことや悲しいことも含めて人生だけど、自分をたいせつにして、身近な人への感謝や思い
やりを忘れなければ、それほど捨てたもんじゃないよ、と美津子がささやいてくれるような読後感。
人を信じたくなる、人を好きになる気持ちを思い出させてくれる、そして、心をほぐしてくれる傑作。
この作品は、著者が大好きな、朝倉世界一さんのマンガ「地獄のサラミちゃん」に触発されて書かれました。
タイトルの「ジュージュー」は、サラミちゃんがバイトをしているステーキハウスの名前。 作中でも、美津子の母親が「サラミ
ちゃん」をこよなく愛していたことから、店名を「ジュージュー」にしたというエピソードが出てきます。
男性の方にも、ぜひ、手にとってほしい一作。 僕のオススメ度:8.5
神様のカルテ (夏川 草介著、小学館文庫)
作品の紹介
信州 松本にある24時間365日対応の病院に勤務する栗原 一止(いちと)は、医学部を卒業して5年目の内科医。
夏目漱石をこよなく愛し、古風な話し方をする栗原は、周囲から変人扱いされている。
慢性化している医師不足の中、専門の内科だけではなく、夜は救急医として、あらゆる患者に応対する。
ほとんど寝る間もないくらい働きづめの栗原だが、大学での同期、砂山 次郎、主任看護師の東西 直美、内科の先輩医師、
看護師たちのサポートで、全力で医療にあたっている。
そして、結婚一年の山岳カメラマンの妻、榛名や古アパートの住人たちも、よき理解者として彼を支えてくれている。
そんな栗原のもとに、出身大学の医局から大学病院への転職の誘いがかかる。 大学病院の人間関係を避けたいがために
民間病院に就職し、なおかつ、今の職場にやりがいを感じている彼は大いに悩む。
しかし、ゆっくり悩む時間もないまま、目の前の患者たちの治療で時間が過ぎていく。 おりしも、安曇さんという72歳の末期
ガンの女性の最期のときが近づいていた。 安曇さんは、病気で苦しいはずなのに、栗原に出会えたことを感謝し、栗原を
気遣う。 安曇さんから多くのものを与えてもらった栗原は、大学病院に転職するか否かの結論を出す、、、、、、。
飾り気のない、とてもまっすぐな物語です。 まっすぐであるがゆえに、読者の心の奥深くまで届く強さを持っています。
この物語を読んだ人は、皆、栗原と安曇さんの交流に涙し、この物語に出会えた幸運に感謝すると思います。
2011年8月映画化。 2010年「本屋大賞」第2位。 僕のオススメ度:9
「神様のカルテ」特設サイトはコチラ。
図書館戦争 (有村 浩著、角川文庫)
作品の紹介
大人気「図書館戦争」シリーズの第一弾。
公序良俗を乱し人権を侵害する表現を取り締まる法律「メディア良化法」が成立したことによって、国は本や音楽、映像に
対する検閲権を持つようになる。 これに対し、通称「図書館の自由法」が成立し、各地の図書館は、検閲を退けて、作品を
自由に収集し、国民に提供するようになった。 やがて、両法の中心であるメディア良化委員会、図書館は、武装を開始。
両陣営の抗争は、次第にエスカレートしていった。
「メディア良化法」成立から30年後、大学を卒業したばかりの笠原 郁は、武蔵野の関東図書基地で新隊員の訓練を受けて
いた。 寮で同室の柴崎 麻子たち女子が皆、志望する図書館員ではなく、笠原は、戦闘を請け負う防衛員を志望する。
笠原が防衛員を志したのは、高校生の頃、書店で買おうとした本をメディア良化委員会から押収されそうになったところを
図書隊員に助けられたからだった。 彼女は、名前も知らない、顔も覚えていない、その時の図書隊員に憧れていた。
鬼教官の堂上(どうじょう)、堂上と同期で温和な教官、小牧たちに鍛えられ、笠原は防衛員の中でも精鋭、エリートが揃う
図書特殊部隊に配属される。 実は、教官の堂上、小牧、そして、訓練責任者の玄田も特殊部隊の所属だった。
驚いたのも束の間、笠原を待ち受けていたのは、特殊部隊の厳しい訓練と、図書館での実務、戦闘だった。 厳しい中にも
やさしさが見える堂上、適切なアドバイスをくれる小牧と違って、同期で特殊部隊に配属されたエリートの手塚は何かにつけて
笠原を目の敵にする。 しかし、その手塚が突然、笠原に交際を申し込む、、、、、、。
設定がすばらしいのはもちろんのこと、人物造型がほんとに秀逸。 登場人物がみんな魅力的で、物語にぐいぐい引き込まれ
てしまいます。 特に、主人公 笠原 郁と上司である堂上との関係と言うか、掛け合いが最高。 本を愛するすべての人に読んで
欲しい第一級のエンターテインメント。
2007年「本屋大賞」第5位。 2006年上半期「本の雑誌」エンターテインメント部門:第1位。 僕のオススメ度:8.5
「図書館戦争シリーズ」特設サイトはコチラ。
図書館内乱 (有村 浩著、角川文庫)
作品の紹介
「図書館戦争」シリーズの第二弾。 上記の「図書館戦争」の続編。
メディア良化委員会による検閲に対抗するため、各地の図書館が防衛のための兵力を装備している時代。
高二の時に、書店での検閲で買いたい本を没収される寸前、図書隊員に助けてもらったことがきっかけで図書館勤務を志した
笠原 郁。 自らの希望が叶い、戦闘職種に配属されたものの、保守的な両親には、言い出せずにいた。
第一話。 笠原の両親が故郷から上京し、彼女の職場を訪れる。 笠原は、上官の堂上、小牧、同期の手塚、寮で同室の親友、
柴崎の協力を得て、司書のふりをするが、、、、、、。
第二話。 小牧が妹のように可愛がってきた実家の近所に住む中澤 鞠江。 中三のとき、難聴になるが、高三になった今も
小牧への恋心は変わらない。 小牧は、10歳下の鞠江を妹のように思っていたが、、、、、、。
第三話。 聡明で美人の柴崎が、エリート然とした青年、朝比奈に告白されるが、、、、、、。
第四話。 図書館協会の会長を父に持つ手塚には8歳上の兄がいる。 兄は、図書館の役割に関して、父や弟とは違う思想を
持ち、家を出ていた。 そんな兄が、久々に手塚のもとに現われ、、、、、、。
そして、最終話。 笠原が思わぬことから足元をすくわれ、ピンチに陥る。 そして、彼女を5年前に助けた図書隊員の正体が
ついに明らかになるが、、、、、、。
計5編の連作短編かなと思って読んでいたら、第五話で、話がつながって、ひとつの長編として成立する巧みな構成。
第一話はともかく、第二話から第四話は、笠原のまわりの人間を掘り下げた独立したお話だと思って読んでいただけに、最終話
での収束は、ほんとにお見事。 第二作まで読んだ人は、第三作まで読んじゃいますね、きっと。
「図書館戦争」は、シリーズとして、2008年「星雲賞」日本長編作品部門賞を受賞。 僕のオススメ度:8.2
「図書館戦争シリーズ」特設サイトはコチラ。
図書館危機 (有村 浩著、角川文庫)
作品の紹介
「図書館戦争」シリーズの第三弾。 上記の「図書館内乱」の続編。
第一話。 小牧の彼女、鞠江が図書館で痴漢に襲われ、特殊部隊の面々が犯人逮捕のオペレーションを開始する。
第二話。 もうすぐ入隊二年。 笠原や柴崎、手塚にとって、初めての昇任試験の季節がやってくる。
筆記試験に大きな不安を抱える笠原を堂上がフォロー。 死角なしと思われていた手塚も、実技試験が苦手の子ども相手の
課題となり、柴崎にサポートを依頼する。
第三話。 特殊部隊の隊長、玄田の元恋人にして盟友の折口。 彼女の務める出版社で、有名俳優の増刊を出すことになり、
折口もインタビュアーの一人に選ばれる。 ところが、インタビューのキーワードが、メディア良化委員会の検閲指定ワードで
あることがわかる。 出版が暗礁に乗り上げる寸前、玄田は起死回生の策を折口にさずける。
第四話。 茨城県立図書館と近代美術館の共同イベントである芸術祭で、メディア良化委員会の逆鱗に触れる作品が最優秀
作品として展示されることになった。 茨城県の司令部からの要請を受け、特殊部隊が出動することになる。 茨城出身の笠原
は、両親に内緒で戦闘職に就いていることがバレないかと不安の色を隠せない。
特殊部隊は、現地に到着し、県庁出身の図書館長によって、茨城の防衛隊が館内で冷遇され、弱体化している事実を知る。
さっそく、防衛隊への訓練が開始されたのも束の間、笠原の母親が図書館を訪れ、娘を辞めさせると騒ぎ立てる、、、。
第五話。 芸術祭初日、イベント開始を前に、メディア良化委員会の総攻撃が開始される。 特殊部隊と現地の防衛部は、激戦
を制するが、戦闘後、特殊部隊の隊長、玄田が暴漢に撃たれ、東京でも、関東図書基地のトップである司令の稲嶺が重大な決意
をしていた、、、、、、。
三巻まで来ましたが、このシリーズは、まったくパワーが落ちません。 主題である特殊部隊 vs メディア良化委員会との戦いを
骨太に描きつつ、同時並行で、笠原と堂上、柴崎と手塚、小牧と鞠江、そして、玄田と折口のラブストーリーを紡いでいきます。
戦いも恋も、いよいよクライマックス。 完結編の四巻を読むしかないでしょ。 僕のオススメ度:8.2
「図書館戦争シリーズ」特設サイトはコチラ。
図書館革命 (有村 浩著、角川文庫)
作品の紹介
「図書館戦争」シリーズ第四弾にして完結編。 上記の「図書館危機」の続編。
福井県の敦賀原発でテロが発生。 テロの内容が著作に酷似していたため、人気作家、当麻 蔵人の身柄確保をもくろむメディア
良化委員会の手が迫る。 当麻は、間一髪で、折口によって特殊部隊の元へ送り届けられる。 当麻を変装させ、まずは寮に匿うが、
何者かに誘拐されそうになる。 当麻誘拐を仕掛けてきたのは、手塚の兄の主宰する「未来企画」に所属する図書館員だった。
手塚の兄が直接指示したわけではなかったが、手塚の腹心である図書館長、江東の仕業だった。 窮地に陥った手塚の兄に対し、
柴崎は、メディア良化委員会に対する共闘を持ちかけ、納得させる。 当麻の身柄は、稲嶺の自宅に移されるが、またもや図書館内
の内通者から情報が漏れ、メディア良化委員会の襲撃を受ける。 ギリギリのところで襲撃をかわし、再び関東図書基地に匿われる
ことになった当麻は、メディア良化委員会との訴訟を開始。 折口と手塚の兄の働きで、マスコミが足並みを揃えて、メディア良化法
批判を開始する。 これまで無関心派が多かった国民も、メディア良化法に反対しはじめ、事態は好転したかに見えたが、当麻がしか
けた訴訟は勝訴に至らなかった。 当麻は、笠原の発案で海外への亡命を決意し、彼を支持する国の大使館を目指すが、またしても、
図書館側の内通者により、情報がメディア良化委員会に漏れていた。 行く先々の大使館で、メデイア良化委員会の攻撃を受け、堂上
までもが重傷を負う。 笠原は、当麻を連れ、二人で逃亡を開始するが、、、、、、。
スピンアウト作品として「図書館戦争 別冊」が二冊出ているとはいえ、本編は、これにて完結。 いやぁ、おもしろかったです。
一巻から四巻まで、一気読みしちゃいました。 エンディングも(お約束かもしれないけど)読者が納得いくものになってたし。
一見、学生、若者向けの作品と思われがちだけど、大人が読んでも、絶対、おもしろいはず。 僕のオススメ度:8.2
「図書館戦争シリーズ」特設サイトはコチラ。
望みは何と訊かれたら (小池 真理子著、新潮文庫)
作品の紹介
槙村 沙織、54歳。 20歳の頃は、学生運動にのめり込んでいたが、31歳で結婚した夫、一之との間に娘が生まれ、
今は、夫の経営する音楽プロダクションを手伝っている。 何不自由なく暮らしていた沙織は、三十数年の時を経て、
パリの美術館で秋津 吾郎に再会する。 突然の再会に動転した沙織は、秋津の名刺を受取っただけで、逃げるように
その場を立ち去るが、日本に戻ってからも、秋津のことが気になってしかたがなかった。 秋津こそ、沙織が学生の頃、
すべてを委ね、すべてを共有した、忘れることのできない「男」だった、、、。
1970年、沙織は、大学の先輩に誘われて「革命インター解放戦線」というセクトの集会に顔を出し、リーダーの大場修造
と出会う。 思想だけでなく、男としての大場に強く惹かれた沙織は、やがて、奥多摩での合宿生活に参加する。
革命インターは、奥多摩で爆弾の製造まで始め、過激派としての道を歩み始める。 そして、メンバーの女性がひとり
リンチの末、死亡。 沙織は、合宿所を命からがら脱走し、生き倒れ同様の状態となったところを秋津に拾われる。
それから半年間、沙織は、秋津の部屋から出ることなく、秋津の所有物として、無気力と愛欲の日々を送る。
しかし、革命インターのメンバーが秋津の周辺に姿を見せ、東京駅で爆弾テロを起こした後、沙織は秋津のもとを去る。
三十年以上の時を経て再会した沙織と秋津が向かう先にあるものは、、、、、、。
恋愛を描いた作品ではありますが、骨太です。壮絶です。 学生運動の話でしょ、なんて入口で読むのを拒否しないで、
ぜひ、向き合ってほしい小説です。 この作品において、学生運動は、沙織と秋津が出会うまでの前菜みたいな存在に
すぎません。 それほど、二人の共有する半年間の描写は、けだるくて、せつなくて、こわれやすくて、熱くて、もう
まいりました、という感じ。 「本の雑誌」のランキングでぶっきちぎりの1位になったのも納得。
「本の雑誌」文庫 2010年度 恋愛小説部門:第1位。エンターテインメント部門:第10位。 僕のオススメ度:8.2
孤宿の人 上・下 (宮部 みゆき著、新潮文庫)
(上)
(下)
作品の紹介
江戸、神田の建具屋の女中の娘、ほうは、生まれてすぐに母を亡くし、金貸しの老夫婦のもとに預けられるが、ろくなしつけを
受けることなく9歳になった。 建具屋の主人の代理で、四国の金毘羅さまにお参りに行くが、現地で置き去りにされてしまう。
丸海藩の藩医、井上家がほうを不憫に思い引き取り、彼女にようやく安息の日々が訪れる。 しかし、跡継ぎの啓一郎とともに
ほうのめんどうを見てくれていた妹の琴江が毒殺される。 ほうは、琴江を殺害した犯人が誰かを知るが、藩の存続のため、
事件がもみ消されてしまう。 失意の中、ほうは、引手(岡っ引き)の親分の家に預けられるが、ほうを不憫に思った引手見習い
の女性、宇佐が彼女を引き取る。 ほうは、宇佐を姉のように慕い、働き口が見つかろうとしていたのもつかの間、今度は、
加賀殿の屋敷に下働きに出される。 加賀殿は、江戸で勘定奉行を務めていたが、妻子と部下を斬った罪で、丸海藩預かりの
身となり、幽閉されている身の上の男だった、、、、、、。
その後、丸海藩の城下を、謎の殺人、流行病、落雷、火事など、次々と災難が襲います。 一方、ほうは、人々から鬼だと恐れ
られる加賀殿に仕え、やがて温かな交流が生まれます。 そして、物語はせつなくも感動の終焉へ、、、、、、。
上下巻1,000ページの大作。 上記のあらすじには書ききれなかった人々も含め、登場人物がとにかく魅力的。
上質のミステリーであり、時代小説であり、人間ドラマでもありました。 ラストは涙なくして読めません。
「本の雑誌」文庫 2010年度 時代小説部門:第1位。 僕のオススメ度:8.5
相棒 (五十嵐 貴久著、PHP文芸文庫)
作品の紹介
大政奉還前夜の京、西郷隆盛との密談に向かう途中、徳川慶喜は、何者かに命を狙われる。
幕府の老中、板倉 勝静と若年寄、永井尚志は、大政奉還を滞りなく進めるため、犯人捜査を、新撰組副長 土方 歳三と
土佐の坂本龍馬に依頼する。 しかも、期限は二日間。 非常時ゆえ、本来、水と油とも言える、敵同士の二人の組み合わせ
に頼らざるを得なかったのである。 いくら大政奉還という共通の大義のためとはいえ、土方は戸惑いを隠せない。
一方、龍馬は、飄々としており、犯人探し協力へのためらいはなかった。 幕府の説得により、土方も折れ、二人の捜査が始まる。
土方の顔がきく会津藩、御陵衛士(新撰組から分派した一派)、そして、龍馬の顔がきく薩摩藩、長州藩、公家の岩倉具視など
短時間のうちに捜査は効率よく進む。 捜査が進むにつれ、天敵同士の二人の男に友情が芽生えていく。
しかし、あたるべきところにはすべてあたった後も、犯人の手がかりはいっこうにつかめない。 もはや時間切れかと思われたが、
慶喜襲撃に使われた銃の種類がわかり、土方と龍馬は、犯人のもとを訪れる、、、、、、。
土方 歳三と坂本 龍馬がコンビを組むなんて、ありえない設定であることは、著者も十分に承知のはず。
でも、コンビを組ませてみたら、一級品の時代小説×ミステリー小説×エンターテインメント小説ができました、という感じ。
主人公の二人以外にも、西郷隆盛、沖田総司、桂小五郎、伊藤博文など、幕末の中心人物がオールキャストで登場。
エンディングも心憎い演出。 難しいことは言わないで、楽しんで読んでほしい一作。
「本の雑誌」文庫 2010年度 時代小説部門:第3位。 僕のオススメ度:8
花散らしの雨 (高田 郁著、ハルキ文庫)
作品の紹介
大好評「みをつくし料理帖」シリーズの第二弾。 四編からなる連作短編集。 一話ずつ料理を紹介する趣向。
上方生まれの澪は、大坂の一流料亭「天満一兆庵」で働いていたが、店が全焼。 主人夫婦とともに主人の息子を頼って江戸に
出てきたが、息子は行方不明になっていた。 主人嘉兵衛は、失意の内に病死。 澪は、嘉兵衛の妻、芳と神田の長屋で暮らし
始める。 幸い、神田明神下の蕎麦屋「つる家」の主人、種市に腕を見込まれ、澪が店を引継いだのも束の間、店は放火で全焼
してしまう。 しかし、澪は屋台から再出発し、九段下で新生「つる家」を始めることになる。
第一作で澪を支えた「つる家」の主人、種市、浪人の小松原、町医者の源斉、長屋のおりょう、幼馴染の野江は健在。
「つる家」と因縁の深い一流料亭「登龍楼」も、変わらず「つる家」の前に立ちふさがります。
第二作では、新生「つる家」の下足番の少女、ふき、臨時雇いの老女、りう、そして、なじみ客の戯作者、清右衛門など新しい顔ぶれ
が加わり、読者を飽きさせません。 料理人としての澪の成長、恋、そして、まわりの人々の人情の厚さ、さわやかさ。 第二作も
見どころ満載。 シリーズ化も大いに納得です。
「みをつくし料理帖」第一作「八朔の雪」のブックレビューはコチラ。
できれば、第一作から読んでほしい秀作。 僕のオススメ度:8.2
想い雲 (高田 郁著、ハルキ文庫)
作品の紹介
「みをつくし料理帖」シリーズの第三弾。 四編からなる連作短編集。
第一話は、澪が大坂で働いていた料亭の息子、佐兵衛が江戸で行方不明になった顛末にまつわる話。
第二話は、今は吉原で花魁になっている幼馴染、野江のために、澪が上方の魚、鱧(はも)の料理をつくる話。
第三話は、登龍楼の元板長が「つる屋」のあった神田に、にせの「つる家」を開店し、澪と新生「つる家」が窮地に陥る話。
第四話は、「つる家」の下足番、ふきの弟で、登龍楼で働く健坊が店を飛び出し、行方不明になる話。
第二作に続き、この第三作も、まったくパワーが落ちないのは「すごい」の一言。 じーんと来るシーンも満載。
第二作を読み終えてすぐに第三作も一気読みしてしまいました。 僕のオススメ度:8.5
今朝の春 (高田 郁著、ハルキ文庫)
作品の紹介
「みをつくし料理帖」シリーズの第四弾。 四編からなる連作短編集。
第一話は、澪の想い人、小松原の母が澪の料理と心根に心を打たれる話。 いよいよ小松原の正体も明らかに。
第二話は、「つる家」の常連の戯作者、清右衛門が、吉原の花魁になった野江のことを書くことになり持ち上がる大騒動。
第三話は、長屋の近所で「つる家」でも働くおりょうの夫、伊佐三の謎の動きにまつわる夫婦愛、親子愛のお話。
第四話は、料理番付の一位を決めるため、鰆(さわら)を食材にした登龍楼との勝負に挑む澪の奮闘と苦悩。
この物語は、主人公、澪のまっすぐな心と料理に賭ける情熱が真ん中にあるわけですが、澪を支えるまわりの人たちの
心根が皆、すばらしく、読者は、澪の目線で涙目になったり、頭を垂れたりするのでは? 脇役たちの個性と人情も、この
作品の大きな魅力です。
「みをつくし料理帖」シリーズは、2011年8月現在、第六作まで刊行されています。 僕のオススメ度:8.5
彼女がその名を知らない鳥たち (沼田 まほかる著、幻冬舎文庫)
作品の紹介
十和子は33歳。 10年前に15歳年上の黒崎という男と付き合い始める。 黒崎には別居中の妻がいたが、彼が離婚して
十和子と結婚してくれることを夢見ていた。 しかし、十和子は、黒崎に利用されるだけ利用されたあげく、8年前に捨てられる。
黒崎は、その後、妻と離婚したものの、十和子とは別の女性と仕事に有利になる再婚をする。 黒崎と別れた2年後、十和子は
黒崎と同じ歳の陣治と暮らし始める。 陣治とは、スマートな黒崎とは正反対の男だった。 色黒で貧相で下品だと陣治を蔑み
ながらも、十和子は、6年間、陣治との同棲を続けている。 十和子に尽くしてくれる陣治に心を許すことも、彼を愛することも
しない。 ひどい仕打ちを受けた黒崎のことを未だに思い続け、無為な日々を過ごしていた。
しかし、デパートの社員、水島と知り合い、無為だった日々が変わり始める。 水島を黒崎のように愛することはできないと
わかりつつも、妻子ある男との愛欲に溺れ始める。 そして、黒崎が3年前から行方不明になっていることを知る。
十和子は、黒崎は失踪したのではなく、陣治に殺されたのではないかと疑う。 あわせて、水島も、十和子との不倫を脅迫され
はじめ、そこにも、陣治の影が見え始める、、、、、、。
壊れた女と堕ちてしまった男との歪んだ関係。 物語前半は、これでもかこれでもかと十和子が陣治を責め立て、陣治がひたすら
耐えるというSMのような構図が繰り返されます。 それだけでも、かなり怪しいお話なのに、中盤以降、おとなしいはずの陣治が
殺人を犯したのか、脅迫をしているのか、読者は、十和子の目線で、陣治を疑い、恐れるという世界に引きずり込まれます。
ゆがんだ恋愛小説の性格を併せ持ったミステリー小説。 秀作だとは思うのですが、物語のラストは、賛否両論分かれるでしょうね。
僕は、別のラストを期待していました。 僕のオススメ度:7.5
虐殺器官 (伊藤 計劃著、ハヤカワ文庫JA)
作品の紹介
アメリカ情報軍、特殊検索群i分遣隊。 21世紀のアメリカ軍で唯一の暗殺部隊として、世界中で暗躍している。
暗殺部隊の中心人物、シェパードは、同僚ウィリアムズとともに、ジョン・ポールという男の暗殺を命じられる。
ジョンは、世界各地を転々とし、各地で紛争を拡大し、虐殺を加速する悪魔のような男だった。 シェパードも、
過去に何度かジョンの暗殺を命じられたが、軍がつかんだ情報をもとに赴いた場所に、ジョンの姿は一度もなかった。
今回の任務は、シェパード自身が、ジョンを追跡するという特殊ミッションであり、軍の窮地と本気が感じられた。
シェパードは、ウィリアムズとともに、ジョンの潜伏先と思われるプラハに飛ぶ。 シェパードは、ジョンの愛人、ルツィアに
接近するが、ジョン・ポールに捕えられる。 そして、ジョンが明らかにした虐殺の秘密に愕然とする、、、。
間一髪、シェパードは、同僚のウィリアムズに救出されるが、ジョンには逃げられる。
シェパードとジョン・ポールの戦いの舞台は、インド、アフリカに移り、いよいよ、決着の時を迎えるが、、、、、、。
物語全体に流れる静謐な絶望感、そして、画期的な舞台設定。 ふだんSFを読まない人も、きっと満足できる傑作です。
ジョン・ポールが世界中を絶望に陥れる虐殺の方程式の秘密、物語のラストで主人公シェパードのくだす決断。 どちらも、
読者を感心させるニクい演出。 そして、近未来のセキュリティー管理や未来兵器による戦闘などのディテールの描写も見事。
「本の雑誌」文庫 2010年度 総合:第2位、SF部門(再刊編):第1位。 「ベストSF2007」:第1位。
第1回「PLAYBOYミステリー大賞」受賞。 「ゼロ年代ベストSF」:第1位。 僕のオススメ度:8
日の名残り (カズオ イシグロ著、ハヤカワepi文庫)
作品の紹介
1956年夏、イギリスの由緒ある屋敷、ダーリントン・ホールの老執事、スティーブンスは、休暇で旅に出る。
旅で美しい風景や親切な人々に出会いながら、スティーブンスは、これまでの執事人生を振り返る。
今は亡きダーリントン卿との思い出、尊敬する執事だった父の仕事ぶり、女中頭だったミス・ケントンへの想い、執事と
して持つべき品格と矜持、数々の国際会議での裏方としての苦労、イギリス人らしさ、、、、、、。
今はもう、アメリカ人のファラディの所有となったダーリントン・ホールは、召使いの数も減り、スティーブンス自身も雑用
をこなさざるを得ない。 小さな綻びが見え始めた屋敷の運営をもう一度、立て直すべく、彼は、かつて女中頭だった
ミス・ケントンの職場復帰を願いながら、彼女の家をめざす、、、、、、。
著者は日本人ですが、5歳の時に渡英し、この作品も英語で書かれました。僕が今回、紹介しているのは、日本語訳の
文庫版。 1989年 イギリス最高の文学賞「ブッカー賞」受賞。
本好きの大人のための上質な一作。 僕のオススメ度:8
わたしを離さないで (カズオ イシグロ著、ハヤカワepi文庫)
作品の紹介
上記の「日の名残り」と同じカズオ・イシグロの作品。
キャシー・Hは31歳。 もう11年以上も介護人の仕事をしている。 彼女が介護しているのは「提供者」と呼ばれる人たち。
キャシーは、介護人で働き始めるまでヘールシャムという全寮制の学校で過ごした。 そこは、「提供者」としての役割を
果たすまで、子どもたちを社会と隔絶して育てる施設だった。
やがて、キャシーの回想から、ヘールシャムと子どもたちの役割が徐々に明らかになっていく。 キャシーは、親友のルース
やトミーとともに、移植を待つ人々に臓器を提供するためのクローン人間として、この世に生を受けたのだった、、、、、、。
とてもショッキングな設定です。 しかし、物語前半は、キャシーが全寮制の学校での生活を回想しているシーンがほとんどで、
少し閉鎖的な学校を舞台にした青春小説かと思えるほどです。 しかし、中盤にさしかかるあたりから、彼女たちが臓器移植を
行う目的で生かされていること、クローン人間であることなどが、徐々に明かされていきます。
ふつうに生きようとしも、それができない、許されない。 そんな臓器提供者たちのあきらめ、せつなさ、悲しさが作品全体に
流れていて、静謐なのに、強烈な世界観が形成されていました。 主人公のキャシーが、次々と提供者である友人たちを
失い、介護人としての役割を終え、自らも提供者になる未来を暗示するラストは、諦念という一言では表現しきれません。
同じ著者の小説ながら、上記の「日の名残り」とはまったく違う作品。 僕のオススメ度:8.2
行きずりの街 (志水 辰夫著、新潮文庫)
作品の紹介
京都で塾の講師をしている波多野は、かつて東京の名門女子校、敬愛女学園で教師をしていた。 教え子の雅子と恋に
落ち、彼女が卒業後、結婚するが、父母会で問題にされ、学園を追放される。 しかも、理事長であり、学長でもあった
金子まで自殺してしまう、、、。
12年後、波多野は、塾の教え子だった広瀬ゆかりが東京で行方不明になり、彼女の住まいを訪れる。 ゆかりは、専門
学校の学生がとうてい住めないような元麻布のマンションに部屋を借りていた。 波多野は、その部屋の実質的な借主で
ある角田という男を調べるうち、角田が自分と入れ違いで敬愛女学園に入り、経理部長をしていた男であることを突きとめる。
そして、現学長の神山の秘書、木村から、かつて波多野が学校から追放されたのは、生徒との恋愛が原因でなく、理事長
の失脚が目的だったこと、理事長の愛人がかつての妻、雅子の母だったことを知らされる。 あわせて、角田が学園を相手
に恐喝を働いている事実をつかむ。
波多野は、別れた妻、雅子と再会し、彼女とやり直そうと誓う。 しかし、その前に、学園を巡る闇と対決し、広瀬ゆかりを救出
する仕事が残っていた。 彼は、単身、敵に挑む、、、、、、。
著者のホームグラウンドである骨太のハードボイルド小説。 志水辰夫=ハードボイルドというイメージが強く、事実、彼は
このジャンルで高い評価を受けているのですが、個人的には、ハードボイルドではない志水作品の方が好きです。
この作品は、1991年「日本冒険小説協会大賞」を受賞しているのですが、途中で読むのが少しツラくなりました。 主人公が
あまりにも痛々しくて、、、。 僕のオススメ度:7.5
岳物語 (椎名 誠著、集英社文庫)
作品の紹介
椎名 誠さんが息子の岳(がく)君を愛情込めて綴った連作短編集。 計9編収録。
実を言うと、この作品は、息子の夏休みの読書感想文の題材で、ちょっとだけ読んでみようかな、と思って読み始めたんだ
けど、あっという間に読み終えちゃいました。
9つの短編は、岳君が保育園の時に始まり、小学校5年生までを描いています。 フィクションではなく、椎名さんと岳君の
リアルな親子関係がストレートに書かれてあり、同じ男の子を持つ親として、微笑ましく読ませていただきました。
息子が初めてもらったバレンタインのチョコレート。 それまでマンガしか読まなかった息子が釣りに魅せられ、釣りの本を
読み始める顛末。 親が息子を連れていくのではなく、息子に親が連れられていく釣りの数々。
幼いながらも息子をひとりの男、ひとりの人間として対等に扱い、息子の成長を見守り、喜びを共有する椎名さんの姿は、
下手な子育て論を読むより、よほどタメになるのでは? 我が家と同じく、たいせつなことは、父と息子が風呂の中で語り
合うところが、妙におかしくて、、、。 続編も出ています。 僕のオススメ度:7.5
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