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読書感想文2011 part 1
「読書感想文2011」 part1は、1月〜2月の読書録です。
↓ Click NOVEL mark !
果断 (今野 敏著、新潮文庫)
作品の紹介
正式タイトルは「果断 隠蔽捜査2」。 「吉川英治文学新人賞」を受賞した「隠蔽捜査」の続編。 とはいえ、
主人公のその後を書いているという意味の続編であり、本作も隠蔽捜査を扱っているわけではありません。
本作だけで独立した作品となっているので、前作を読まなくてもだいじょうぶです。
竜崎 伸也、46歳。 階級は、警視長。 警察庁 長官官房 総務課長というエリート官僚だったが、息子の
マリファナ吸引を目撃。 正直に自首させた結果、大森署の署長に左遷される。
消費者金融強盗事件が発生し、緊急配備の結果、犯人2人を逮捕したが、残りの1人の犯人が大森の居酒屋に
人質2人をとって立てこもり、籠城事件に発展。 直ちに竜崎の同期で、警視庁 刑事部長の伊丹の指揮のもと、
大森署に本部が設置される。 竜崎は、自ら現場に出向き、前線本部の指揮をとり、人質事件のエキスパート
であるSIT(捜査一課特殊班)に対応を一任する。 しかし、現場は膠着。 やがて、特殊急襲部隊のSATも
到着し、竜崎は、SITによる説得工作か、SATによる突入か、判断を迫られる。 最終的には、SATを突入させ、
無事、人質を救出できたが、突入の際、犯人を射殺してしまう。 竜崎は、人質救出のためには犯人射殺も
やむなし、と考えたが、SAT突入の際、犯人の拳銃には弾が残っていなかった。 このことがマスコミに漏れ、
事件は、一転、丸腰の犯人を射殺したという社会問題に発展する。
伊丹とともに、警察庁の主席監察官の取り調べを受けることになる竜崎。 事件の責任をとらされ、地方への
さらなる左遷も覚悟するが、所轄の刑事の一言をきっかけに、再捜査を始める、、、、、、。
前作以上のできばえ。 骨太、直球の警察小説。 ミステリー小説、とりわけ警察小説好きの人なら、絶対に
「買い」の一作。 エリート官僚だった竜崎の変わらないところ、変わっていくところも、物語の見どころ。
前作「隠蔽捜査」のブックレビューは コチラ 。
2008年「山本周五郎賞」、「日本推理作家協会賞」受賞作。 僕のオススメ度:8.7
リオ (今野 敏著、新潮文庫)
作品の紹介
正式タイトルは、「リオ 警視庁強行犯係 樋口 顕」。
警視庁捜査一課強行犯三係の係長、警部補 樋口 顕、40歳。 大学を出て1年後に同級生の恵子と結婚し、
翌年生まれた娘は16歳。 体育会系のノリではない、まじめで物静かな男。 自分に自信を持ちきれない
ゆえに、熱心に捜査をする。 その結果、周りに評価され、信頼されている。
荻窪署管内で、48歳の不動産会社社長が殺される。 殺人直後、社長の部屋から、高校生くらいの美少女が
出て行くのが目撃されていた。 直ちに、荻窪署に捜査本部が設置され、樋口の率いる第三係の総勢13名が
派遣される。 樋口は、荻窪署のベテラン刑事、植村、同世代の氏家らとともに捜査を進め、殺人現場で目撃
された少女が「リオ」であることを突き止める。
一週間後、新宿のパブのオーナーが殺される。 現場から逃げた少女は、目撃証言により、リオである可能性
が高まる。 最初に殺された不動産会社社長は、デートクラブを経営しており、次に殺されたパブのオーナー
は、元暴力団員で、パブを隠れ蓑にした売春を営んでいた。 さらに、二人とも、リオの写真を持っていたこと
から、捜査本部は、リオを限りなく容疑者に近い重要参考人として手配するが、リオの行方は知れなかった。
そして、一週間後、渋谷のラブホテルで第三の殺人が起こる。 女子高生のブルセラビデオの監督が殺され、
現場で、リオが緊急逮捕される。 三件の殺人現場に居合わせたことから、捜査本部は、リオが犯人であると
判断するが、樋口は、「やっていない」というリオのことばを信じる。
いつもは、組織人であり、上の命令には従順なはずの樋口が、捜査方針に逆らい、氏家という相棒とともに、
真犯人捜しに奔走する、、、、、、。
正統派の警察小説。 さすがは警察小説の第一人者である今野さんの作品、安心して読めます。
主人公の樋口は、ちょっとおとなしめで物足りない印象もあるけど、コンビを組む所轄の氏家(大学で心理学を
設定していたという設定)が、いい味を出していて、テンポよく読ませてくれました。 僕のオススメ度:8
空の中 (有川 浩著、角川文庫)
作品の紹介
国家規模の民間航空機開発プロジェクトの試験飛行の最中、高知沖の高度2万mの上空で機体が突然、爆発
する。 その直後、自衛隊の訓練飛行中のF15J(イーグル)2機の内、前を飛ぶ機体が突然、爆発。
事故現場は、民間航空機の事故と同じ空域だった、、、。
事故で亡くなった自衛隊の斉木三佐の息子、瞬は、高知の海岸で、正体不明の生物に遭遇する。
それは、直径1mの、足のないクラゲのような形状だった。 瞬は、隣に住む、高校の同級生、佳江とともに
その生物を家に持ち帰り、「フェイク」と名付ける。
民間航空機を開発した日本航空機設計から若きエンジニア、春名 高巳が、自衛隊の岐阜基地に派遣される。
高知沖での事故を目の前で目撃した女性パイロット、武田 光稀(みき)に話を聞くためであった。
しかし、敬愛する斉木三佐の最期を目にしたばかりでなく、自分の証言に疑いを持つ上層部から精神鑑定まで
受けさせられた光稀の口は重かった、、、。 それでもめげずに基地に通い続ける高巳の熱意に応え、光稀は
高巳を乗せて、事故のあった空域に飛び立つ。 そこで、二人が遭遇したのは、長径50kmにも及ぶ楕円形の
形状をした透明の生命体だった。 その生命体は、人間の言葉を話し、高巳と光稀は、二度の事故は航空機と
自衛隊機がこの生命体に激突した結果であることを知る。
二人は、岐阜基地に帰還するが、生命体は、二人を追って、岐阜、各務原(かがみはら)の上空に現れる。
その姿は、もはや透明ではなく、不透明な白色になっていた、、、、、、。
瞬と佳江が持ち帰った「フェイク」も、しだいに、その形状を変化させ、謎の生命体と同じく、幾何学的な楕円形
になっていた。 人間の言葉も、次々と学習し、空中に浮遊する姿は、各務原上空に出現した生命体のミニチュア
版のようだった。
突如、各務原上空に現れた巨大な生命体は、人々をパニックに陥れる。 生命体は、空に浮かぶ白鯨にたとえられ、
「ディック」と呼ばれるようになる。 日本政府は、高巳を窓口として、ディックと交渉を始めるが、、、、、、。
有川 浩さんの「自衛隊三部作」の第二作。 とは言え、三作は、独立した作品なので、どれから読み始めてもOK。
第一作が「塩の街」(ブックレビューは、コチラ)。 第三作が「海の底」です。
この物語は、ディックと名付けられた生命体と人類との共存に向けた対話、葛藤、駆け引き、そして、フェイクと瞬の
交流、成長が描かれています。 あわせて、瞬と佳江、高巳と光稀という二組の主人公たちの恋愛も見どころでした。
映画的な、リーダビリティ―抜群のストーリー展開は、一気読み必至。 僕のオススメ度:8.7
悪人 上・下 (吉田 修一著、朝日文庫)
(上)
(下)
作品の紹介
福岡の21歳の保険外交員、石橋 佳乃が福岡と佐賀の県境の峠で死体となって発見される。 佳乃は、殺される直前、
大学生の恋人、増尾に会うと同僚に告げていた。 しかし、増尾は、佳乃の恋人ではなく、一度、バーで会い、メール
をやりとりするだけの片思いの相手だった。
長崎に住む27歳の土木作業員、清水 祐一は、出会い系サイトで知り合った石橋 佳乃と福岡の公園で会う約束をして
いた。 しかし、佳乃の恋人と呼べる存在ではなく、この夜も、佳乃に借りたホテル代を返すために、愛車で福岡まで
出かけてきていた。
増尾 圭吾は、湯布院の旅館の息子で、福岡の大学では、プレイボーイとして名をはせていた。 しかし、佳乃が殺害
された直後から行方不明になっていた。
佐賀に住む29歳の紳士服量販店の店員、馬込 光代は、双子の妹、珠代と二人暮らし。 同級生が結婚し、母親になって
いくのを横目で見ながら、変化のない毎日を送っている。 以前、酔った勢いでのぞいた出会い系サイトで知り合った
祐一とメールのやりとりをしていたが、祐一に「会いたい」と言われ、メールを出すのをやめていた。
佳乃が殺害された直後、さみしさから、光代は、久々に祐一にメールを打ち、会う約束をする、、、、、、。
佳乃を殺したのは、祐一で、彼を愛してしまった光代は、いっしょに逃げることになるわけですが、「悪人」との逃避行と
いうわけではありません。 この本の帯に「誰が本当の悪人なのか?」と書かれてある通り、社会的には「悪人」に見える
祐一は、光代にとって、生きる喜びを与えてくれた、立ち上がる勇気を与えてくれた存在であるわけです。 読者にとっても
それは同じで、増尾 圭吾の方がよほど「悪人」じゃないかと感じる人も多いのでは?
ストーリーもさることながら、人間の心の襞を描き切った、骨太の一作。
「悪人」の公式サイトは コチラ 。 2010年映画化。 映画の公式サイトは コチラ 。
2008年度「本屋大賞」第4位。「毎日出版文化賞」、「大佛次郎賞」受賞。 僕のオススメ度:8.2
家日和 (奥田 英朗著、集英社文庫)
作品の紹介
家族をテーマにした短編集。 計6編収録。
ふとしたきっかけで、ネットオークションにはまってしまった42歳の主婦。
結婚8年の妻と別居し、自分の家を男の隠れ家に変え始めた38歳の夫。
内職の発注元の若い社員をネタに、ひとり、妄想にふける39歳の主婦。
ロハス・命になってしまった妻と、それに不満な子どもの板ばさみになった42歳の夫。
ものすごく幸福だったわけでもないけど、泣きたいほど不幸でもなかった妻と夫たち。
でも、なんだかやるせない、わりきれない気持ちを持ち続ける毎日。
そんな男たち、女たちの日常に訪れるちょっとした変化。 この作品は、そんな変化を楽しんだり、変化にとまどったり
する妻と夫をユーモラスに描ききっています。 奥田 英朗さん、いつ読んでもいいなぁ。
第20回「柴田錬三郎賞」受賞。「本の雑誌」文庫 2010年度 エンターテインメント部門:第8位。 僕のオススメ度:8
平成大家族 (中島 京子著、集英社文庫)
作品の紹介
緋田 龍太郎、72歳。 大学の後輩と共同で経営していた歯科クリニックを「勝手に定年退職」し、66歳の妻、春子
と悠々自適な毎日を送っていた。 中学校のころから引きこもりの30歳の長男、克郎が唯一、悩みの種だが、見て
見ぬふりをしている。 ところが、40歳の長女、逸子の夫の会社が倒産。 逸子は、夫、聡介、中学2年生の息子、
さとると共に、緋田家に転がり込んできた。 幸い、緋田家は、敷地内に二軒の家が建っており、1DKの離れに
住んでいた92歳の義母(春子の母)、タケを母屋に引き取り、逸子たちに離れをあてがう。
それでも、緋田家は、まだ落ち着かない。 逸子の息子、さとるが庭の物置に立てこもり、龍太郎に「出て行け」と
怒鳴られた克郎が物置に引きこもりの場所を移す。 さとるは、入れ替わりで、克郎の部屋に移動。
さらに、夫の転勤で大阪で暮らしていた35歳の次女、春恵が離婚し、緋田家に戻ってきた。 春恵は、夫以外の男性
の子を妊娠しており、一人で産む決意をする。
こうして、母屋に3人、離れに1人だった緋田家は、あっという間に、母屋に5人、離れに2人、物置に1人の計8人という
大家族になる、、、、、、。
この小説は、11の章に分かれており、連作短編のかたちをとりながら、緋田家のトラブル、喜び、変化などを描いて
いきます。 それぞれの章の語り手が異なるので、読者は、さまざまな角度から緋田家の人々や空気を味わうことが
できるのです。 最初の章の語り手が龍太郎。 以降、次女の友恵、逸子の息子のさとる、長女の逸子、春子の母の
タケ、長男の克郎、タケのホームヘルパーの皆川カヤノ、逸子の夫の聡介、龍太郎の妻の春子、友恵のお腹の子の父、
しんごというふうに語り手がバトンタッチされていきます。 そして、最後の章の担当が、再び、龍太郎という構成です。
龍太郎から見放されている長男、克郎の日常と再生。 有名私立から公立に転校させられたさとるの処世術。
聡介が立ち直るプロセス。 友恵の子の父親、しんごの正体と対応。 それぞれの短編で描かれている登場人物の人物
造形が秀逸。 笑いも涙もある家族小説です。
「本の雑誌」文庫 2010年度 エンターテインメント部門:第9位。 僕のオススメ度:8
羊の目 (伊集院 静著、文春文庫)
作品の紹介
昭和8年、街角に立つ売春婦、夜鷹の子として生まれ、浅草で侠客として売り出し中だった浜嶋 辰三に育てられた
神崎 武美。 彼は、育ての親である辰三をただひとりの親とあがめ、辰三のために命を捨てる決意をする。
辰三は、次第に力をつけ、関東でも有数の勢力にのし上がる。 しかし、辰三の「力」が自らの「器」を超えたころから
徐々に暗い影が差し始める。 それでも、辰三に心酔する武美には、その影は見えず、忠誠心が揺らぐことはなかった。
武美は、浅草に一家を構えるまでになったが、辰三の愛人を守るため、辰三が破門した実の息子を殺害する。
網走刑務所での刑期を終えた武美を待ち受けていたのは、関西を制圧した四宮組の関東進出だった。 関東の組が次々
と四宮組の軍門に下る中、武美は単身、四宮暗殺に向かう。 あと一歩のところまで四宮を追い詰めながらも、暗殺に
失敗した武美は、ロサンゼルスに逃れる。 日系二世の経営するクリーニング店で働き、娘のケイコと心を通わせ、教会
の教えに心を開き始める。 しかし、四宮組が送り込んだ刺客たちと壮絶な死闘を繰り広げ、、、、、、。
と、くわしくストーリーを書いたように見えるかもしれませんが、スケールの大きな、この作品の前半を語ったに過ぎません。
物語は、この後、アメリカ、東京、長崎と舞台を変え、武美の壮絶な人生を描き続けます。
親と崇める辰三のため、殺人を続ける武美ですが、血塗られたイメージはなく、読者はピュアでストイックな彼の生きざま
を応援したくなるのではないでしょうか。 400ページを超える長編ですが、武美が語ることばは驚くほど少なく、でも、読み
終わった後には、武美の思いや生き方が胸に深く残っていると思います。
「本の雑誌」文庫 2010年度 国内ミステリー部門 : 第1位(でも、ミステリー色はそれほど強くはありません)。
僕のオススメ度:8
紅の匣子槍(モーゼル) I 頭弾 上・下 (樋口 明雄著、双葉文庫)
(上)
(下)
作品の紹介
1931年、満州事変直後の満州が舞台。 日本軍の侵攻によって孤児となった16歳の少女、柴火(さいか)は、
孤児仲間の少年たちと盗み、ひったくりをして生きていた。 ある日、街にやってきた馬賊の荷物を盗むことに
成功するが、翌朝、柴火以外の少年たちは馬賊に射殺される。 銃弾を浴びながらも、命のあった柴火は、馬賊
の首領、劉(りゅう)星山によって、彼らの本拠地の村に連れて行かれる。 やがて、傷の癒えた柴火は、いつか
劉 星山を殺し、仲間の敵をうつべく、馬賊の下働きとしての生活をスタートさせる。
一方、若くして満州に渡った伊達 順之助は、満州事変の首謀者、石原 莞爾の命を受けて、満州国軍の将校として
馬賊征伐の軍を進める。 最初は事態を静観していた劉 星山も、やむを得ず、抗日軍に身を投じ、一人前の馬賊
に成長した柴火も劉の配下とともに戦場に赴く。 馬賊での暮らしの中で、柴火の劉 星山に対する憎しみは、いつ
の間にか、別の感情に変わっていた。
柴火と戦場で打ち合った伊達は、柴火の射撃の腕に惚れ込み、自らの獲物と定める。 やがて、抗日軍と伊達との
雌雄を決する戦いが始まる、、、、、、。
戦いの申し子として成長する主人公、柴火を軸に、宿敵、伊達 順之助、そして、馬賊の首領、劉 星山の生きざま
を壮大なスケールで描いた冒険活劇小説。 ラストで明かされる劉の正体、そして、伊達に見せる彼の矜持は、感動
ものです。 物語は、一応の完結を見ますが、第二部「狼叫(ランチャオ)」、第三部「紅炎」へと続きます。
「本の雑誌」文庫 2010年度 国内ミステリー部門 ベスト10作品。 僕のオススメ度:8
階段途中のビッグ・ノイズ (越谷 オサム著、幻冬舎文庫)
作品の紹介
県立大宮新田高校、軽音楽部は、部員3人の弱小クラブ。 しかし、2人が覚醒剤所持の疑いで逮捕され、廃部の
危機が訪れる。 1人残った新2年生の啓人(けいと)は、幽霊部員だった伸太郎とともに、クラブ再建に乗り出す。
部員が覚醒剤所持で逮捕、退学というショッキングな事件が起こり、ダーティーなイメージのついてしまった軽音楽部
のメンバー探しは、困難を極めるが、天才ギタリスト、勇作、そして、吹奏楽部の息苦しさに耐えきれず飛び出した徹
が加わり、何とかバンドの体裁を整える。 メンバー集め同様、行き詰っていた顧問探しも、地味な国語教師、カトセン
こと加藤先生に受けてもらい、秋の学園祭出場に向け、猛練習が始まる。 しかし、練習場は、旧校舎の4階から屋上に
続く階段というありさま。 はたして、4人は、学園祭でヒーローとなれるのか!?
4人の人物造型が抜群。 そして、4人の味方の校長、敵役の教師などを配置し、啓人、徹の淡いラブストーリーもからめ
ながら、テンポよくクライマックスまで一気読みさせてくれます。
さらに、この本を読み終わった人が口をそろえて称えるカトセン。 存在感がなく、ベールに包まれた存在のカトセンが
読後に強烈なインパクトを残すプロセスをぜひ体験してください(これ以上はネタバレになるので言えないけど)。
「本の雑誌」文庫 2010年度 エンターテインメント部門:第2位。 僕のオススメ度:8
アンフェアな月 (秦 建日子著、河出文庫)
作品の紹介
正式タイトルは「刑事 雪平夏見 アンフェアな月」。 雪平夏見シリーズの第二弾。
(一作目と二作目は独立した作品なので、二作目だけ読んでもOKです)
シリーズ第一弾「推理小説」のブックレビューは コチラ 。
警視庁捜査一課の警部補、雪平 夏見、38歳。 部下の若手刑事、安藤曰く「無駄に美人」。 美しい外見とは裏腹に
部屋は荒れ放題。 バツイチ。 大酒飲みでワーカー・ホリック。 検挙率No.1という勲章の一方で、犯人を二人射殺した
という経歴も持つ。
シングルマザー 亀山 冬美の、生後三ヶ月の赤ちゃんが誘拐される。 雪平は、畑違いの誘拐事件の応援に駆り出される。
犯人は、身代金を要求することなく、逆探知も承知の上で、何度も連絡を寄こすが、警察は翻弄されるばかり。
そんな矢先、山中で6人の女子の死体が発見される。 しかも、現場の近くで、冬美の子どもの着ていた服が発見される。
二つの事件につながりはあるのか。 警視庁は別々の捜査本部で捜査を進めるが、雪平は、独自の嗅覚で、二つの事件
の接点に近づいていく、、、、、、。
ちょっと変化球っぽいかなとも思いましたが、よく練られた構成。 ミステリーとしての出来もさることながら、このシリーズ
の魅力は、何と言っても、主人公、雪平のキャラでしょう。 僕のオススメ度:8
かたみ歌 (朱川=しゅかわ 湊人著、新潮文庫)
作品の紹介
7つの作品を収めた連作短編集。
東京のとある下町にあるアカシア商店街。 昔ながらの古本屋、酒屋などが立ち並ぶ、なつかしい風景。
物語に登場するのは、古本屋の店主、酒屋の娘、中古レコード屋の店主、スナックのママ、そして、商店街近くの
アパートに暮らす学生、マンガ家の卵、新婚夫婦たち。 時代は、1960年代半ばから1970年のころ。
どの物語も、死にまつわるお話で、商店街近くのお寺からやってくる死後の人たちも登場する。 けれど、怖い話、
暗い話ではなく、著者のやさしく、あたたかい目線で、この世とあの世の結びつきを描いている。
ちょっとふしぎで、ミステリーの香りもする作品集。 僕のオススメ度:8
本書に収録されている「栞の恋」は、2010年秋の「世にも奇妙な物語」でドラマ化されました(主演:堀北 真希)。
月の扉 (石持 浅海著、光文社文庫)
作品の紹介
柿崎 修、真壁 陽介、村上 聡美の三人は、それぞれが抱えていた苦しみを石嶺 孝志によって救われ、今は、沖縄で
石嶺が主催する不登校児たちのためのキャンプでボランティアとして働いている。 40歳の石嶺を、24歳の聡美は
もちろん、37歳の真壁も、46歳の柿崎も、心の底から尊敬していた。
その夏のキャンプも無事終わるかに見えたが、石嶺が沖縄県警に不当逮捕されてしまう。
柿崎ら三人は、那覇空港で、乗客240名を乗せた旅客機をハイジャックし、警察に留置されている彼らの「師匠」、石嶺
を空港まで連れてくるよう要求する。
心ならずも、三人は、乗客の内から赤ん坊を人質とし、警察が石嶺を空港に連れてくるまでの二時間、無駄な血を流す
ことなく、事を終えようとしていた。
しかし、聡美とともに、かつて石嶺のキャンプに参加していた杉原 麻里が同じ飛行機に乗り合わせていた。
麻里は、石嶺のキャンプで救われ、今では、10代の若者のカリスマと呼ばれるシンガーになっていた。
彼女は、弁護士を雇い、石嶺の無実を訴えていただけに、聡美たちの行動に理解を示せずにいた。
さらに、乗客の女性がトイレで死亡しているのが発見される。 その女性は、かつて聡美、麻里とともに石嶺のキャンプに
参加した和子の姉だった。 和子は、両親と姉によって、キャンプから連れ戻され、失意の内に自殺していた。
和子の姉がこの便に乗り合わせていたのは、単なる偶然なのか。 そして、死因は、自殺なのか、他殺なのか。
柿崎たちの謎は、深まるばかりだった、、、、、、。
柿崎たち三人は、どうしてハイジャックまでして、石嶺と会わなければならなかったのか?
この物語の最大の謎が時間の経過とともに明らかになっていきます。 そして、これと並行して和子の姉の死の謎ときが
進んでいきます。 一級品のミステリーであることは間違いないのでしょうが、物語のラストは、賛否両論あるかも。
2003年度「日本推理作家協会賞」候補作(ちなみに、この年の受賞作は、垣根 涼助の「ワイルド・ソウル」と歌野 晶午
の「葉桜の季節に君を想うということ」)。 僕のオススメ度:8
金のゆりかご (北川 歩実著、集英社文庫)
作品の紹介
独自のシステムで幼児に早期教育を施し、天才を生み出し続ける教育企業、GCS。 その創始者とも言える近松 吾朗が
脳腫瘍の手術を受けることになった。 近松のかつての愛人だった女の息子、野上 雄貴のもとに弁護士が連絡をよこし、
近松の指示で。野上をGCSの幹部として、年収1千万円以上で迎え入れたいと伝える。
野上は、かつては近松の早期教育を受け、天才少年ともてはやされたが、その後、大学受験に失敗し、今は、29歳。
タクシー運転手をしている。 三年前に結婚した妻は、高年収が魅力で、野上に転職をせっつく。
しかし、野上は、自分をGCSに入社させようとした近松の真意を知るべく、結論を先延ばしにしていた。
そんな野上に、GCSを追っているフリーライターの河西が近づき、取材協力を依頼する。 そして、河西の情報がもとで、
高一の時に彼と駆け落ちした梨佳が、野上との間にできた子を中絶せず、ひとりで育て、GCSで教育を受けさせていたこと
を知る。 そして、梨佳からの手紙で、彼をGCSに入社させようとした近松の真意を知らされる。
野上に手紙を出した後、梨佳は失踪。 野上は、GCSに入社し、梨佳との子、小学6年生の守の世話をまかされる。
その直後、河西が殺害される、、、、、、。
と、ここまでが物語の前半です。 この後、第二の殺人が起こり、読者は、野上の目線で、真犯人を追うことになるんだろう
と思っていたのですが、、、。 読者は、野上とともに、騙されてばかりでした(笑)。 野上が真相にたどり着いたと思ったら、
「実は、、、」、「実は、、、」と、後半は、どんでん返しの連続。 この手のミステリーが好きな方にはお勧めですが、なんだか
あちこち連れまわされたような気持ちになってしまいました。 とは言え、よく練られたミステリー。 僕のオススメ度:8
万寿子さんの庭 (黒野 伸一著、小学館文庫)
作品の紹介
竹本 京子、20歳。 短大を卒業して、不動産会社に事務職として入社した新入社員。 子どものころから斜視を気に
して、彼氏いない歴20年。 就職を機に引っ越した町で、二つの出会いがあった。
まずは、すぐ近くのアパートに住む、新社会人の山本さん。 出勤時間が同じなので、自然にあいさつを交わすように
なり、いい距離感で親しくなっていく。 そして、一人暮らしのおばあちゃん、万寿子(ますこ)さん。
京子は、万寿子さんのいたずらや毒舌に振り回されながらも、やがて、50歳以上の年齢差を超越した友情を育んでいく。
京子にとって、万寿子さんの庭で花の手入れを手伝うことは、心のやすらぎを得るひとときになっていた。
一方、会社では、チヨちゃんという同期の親友ができ、同じく新入社員の荻野くんに淡い恋心を抱くが、二人きりに
なっても、心とは裏腹のことばばかりが口からこぼれ、ぎくしゃくした関係が続く。 そうこうしているうちに、荻野くんが
同期の多岐川さんと付き合い始めた、とチヨちゃんから聞かされる。 一方で、仕事をバリバリこなし、どんどんかっこよく
なっていく山本さんとの仲は進展し、いよいよデートすることになる、、、、、、。
と、ここまでが、物語の前半。 後半では、京子と万寿子さんの絆が深まる過程を中心に、京子と荻野君、山本さんとの
恋の行方がサブストーリーとして語られていきます。 若い女性向きの作品かな、とも思うけど、そうでない方にもお勧め
します。 物語終盤の京子の万寿子さんへの献身ぶりと、万寿子さんの言葉には、ほろりときちゃいますよ。
僕のオススメ度:7.8
妖談かみそり尼 (風野 真知雄著、文春文庫)
作品の紹介
正式タイトルは「耳袋秘帖 妖談かみそり尼」。 「耳袋秘帖」シリーズの第二弾。
「耳袋」とは、江戸の南町奉行、根岸肥前守が怪異な事件を綴った随筆の名前。 写本で表に出回るほど
の人気を博している。 しかし、実名で書くと、差しさわりがあるため、名前や場所は、適当に変えてある。
「耳袋秘帖」とは、門外不出のオリジナル版の方を指す。
高田馬場の竹林で、薬屋の若旦那が殺される。 死体には、かみそり傷しかなく、それが致命傷になったとも
思われなかった。 若旦那は、現場近くに庵をかまえる二十代後半の美人の尼、月照尼(げっしょうに)の
ところに人生相談に行くと言い残して家を出ていた。
南町奉行、根岸肥前守の指揮のもと、同心の椀田(わんだ)、根岸家の家来、宮尾、そして、岡っ引き、辰五郎
の義理の母、しめが事件の捜査に乗り出す。 しかし、かみそりを使った殺人は、次々と続く、、、、、、。
序章と六章からなる連作短編のかたちをとった作品。 上記のかみそり殺人を縦の糸として通し、そこに横の糸
である怪異な事件を組み合わせていくという構成。 主人公、根岸肥前守はじめ、かみそりを使う尼、月照尼など
の人物造型もみごと。 それぞれの話もよく練られていて、時代小説としても、ミステリーとしても一級品。
ただ、個人的には、ちょっとタイトルで損してないかなぁ、、、と思ったりもしました。
「本の雑誌」文庫 2010年度 時代小説部門:第7位。 僕のオススメ度:8
精神科ER (備瀬 哲弘著、集英社文庫)
作品の紹介
正式タイトルは「精神科ER 緊急救命室」。 文字通り、精神科の救急外来を扱ったドキュメンタリー。
著者は、東京の都立府中病院のERで精神科医として4年間勤務した経験をもとに本書を執筆。
本書には、19の治療ファイルが紹介されています。 この作品を読んで初めて知ったのですが、救急外来
運び込まれてくる人たちの1〜2割が精神疾患を持っているとのこと。 一見、関連がなさそうな「ER」に
に精神科がある理由に納得。 それと、精神疾患は、世の中だけでなく、医師たちの間でも、無意識のもの
も含めて、まだまだ偏見が多いという事実を知りました。 著者の使命感、意識の高さには共感。 しかし、
ドキュメンタリーとしては、少し物足りなかったかも。 僕のオススメ度:6.8
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