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読書感想文2010 part 5

「読書感想文2010」 part5は、9月〜10月の読書録です。

 ↓ Click NOVEL mark !
コメント  告白 (湊 かなえ著、双葉文庫)   作品の紹介 

中学教師の悠子は30歳のシングルマザー。 退職を前にした終業式の日に、1年B組の生徒を前に
衝撃の告白をする。 娘は、このクラスの生徒に殺されたのだと、、、。
ひと月前、悠子の4歳の娘、愛美が学校のプールで水死体で発見された。 警察は事故死と判断し、
悠子もそう信じていたが、一週間前、ふとしたことから、事件の真相に辿り着く。
ところが悠子は、警察に通報することを選ばなかった。 クラスの生徒全員の前で犯人の少年二人
の犯行を暴く。 悠子は少年たちをA、Bと呼んだが、それが誰かは、生徒たちには明らかだった。
彼女は告白の締めくくりとして、犯人の少年二人が飲んだばかりの牛乳にエイズ患者の血液を混入
していたことを告げる、、、。
悠子が学校を去った一ヶ月後、新学期が始まり、犯人の一人は登校拒否となり、もう一人はいじめ
の標的となる、、、、、、。
第一章が悠子、第二章がクラスの女子生徒、第三章が犯人の少年Bの母親、第四章が少年B、
第五章が少年Aの独白のかたちをとっています。 章が進むにつれ、事件の真相が少しずつ
明らかになっていきます。そして、第六章が再び悠子の独白となり、物語は衝撃の終焉を迎えます。
終わり方に「救いがない」という感想や意見もあるようですが、僕は、物語にきちんとオチがついた感
があって、きらいじゃなかったです。
2009年「本屋大賞」第1位。 2008年「週刊文春ミステリーベストテン」第1位。 2009年「ミステリが
読みたい」第3位。 2009年「このミステリーがすごい」第4位。 2010年、松たか子さん主演で映画化。
さすがは話題の一作。 最初から終わりまで一気に読めちゃいました。 僕のオススメ度:8.7

コメント  風が強く吹いている (三浦 しをん著、新潮文庫)   作品の紹介 

東京郊外の寛政大学から徒歩5分、木造二階建てのアパート「竹青荘」、家賃3万円。 9室しかないアパートの
最後の空き部屋に入居したのは、入学直前の1年生、走(かける)だった。 野宿中の走は、竹青荘のリーダーで
4年生の清瀬 灰二(通称「ハイジ」)に、偶然、走りを見込まれ、選択肢のない状態で連れて来られた。
竹青荘には、25歳にして3年生のニコチャン先輩をはじめ、クイズ王、漫画オタク、双子の1年生など個性豊かな
面々が揃っていた。 家賃が安い上に、食事はハイジがつくってくれる。 住人たちは、結束力が強く、宴会好き
の気のいい連中ばかりだった。 走は、高校時代、監督をなぐって陸上部をやめた過去から解き放たれ、大学生活
を謳歌するのも悪くないと考え始めていた、、、、、、。
ところが、入居2週間後の走(かける)の歓迎会の席上、ハイジがとんでもないことを言い出す。 住人10人で正月
の箱根駅伝を目指す、と。 驚きと反対と関心の声の中、ハイジが竹青荘のからくりを明かす。 家賃3万円で食事
の心配もしないでいいのは、アパートの大家が陸上部の監督だからであり、入居と同時に、住人たちは、陸上部に
登録されていた。 反対意見は続くものの、日ごろからハイジに世話になりっぱなしの面々は、しだいにハイジへの
協力を誓う。 しかし、走には、それがいかに無謀な挑戦かがわかっていた。 補欠選手もいない10人ちょうどの
人数で、ただ竹青荘の住人という共通項のみで、陸上エリートたちの頂点、箱根駅伝に出場するなど、夢のまた夢
でしかない、と走が考えるのは、至極当然だった。
箱根駅伝を目指し、練習が始まったものの、陸上経験者は、わずかに3人。 ハイジは、将来を嘱望されたランナー
だったが、練習のしすぎで高一の時に故障し、脚に古傷という爆弾を抱えている。 ニコチャン先輩も、陸上部出身
とは言え、5年間のブランクがあり、酒とタバコで病んだ身体の立て直しから始めないといけない。 唯一、走だけが
まともなランナーだった。 しかし、ハイジは、サッカー部や剣道部出身など陸上未経験者の可能性を説き、メンバー
のモチベーションを高めていく。 練習を押しつけるわけでもないのに、結局は、ハイジの言う通りになっている状態
を目の当たりにし、走は、ハイジの手腕を信じ、彼についていこうと決意する。
ハイジたち10人は、猛練習の結果、夏の記録会で、なんとか箱根駅伝予選会に出場できる資格(全員が5kmを17分
以内で走る)を手にする。 しかし、予選会突破には、全員が5kmを14分台で走破する実力が必要だった。
10人は、白樺湖での夏合宿を終え、いよいよ10月の予選会に出場する、、、、、、。
そして、メンバーは、ぎりぎりの成績で予選会を突破し、いよいよ箱根駅伝に挑むことになります。
物語後半は、往路5区間、復路5区間における10人のランナーの苦悩、挑戦、喜びを克明に描いていきます。
わずか半年で箱根駅伝の予選を突破し、さらに2ヶ月後には箱根駅伝に出場するという、一見、夢のような話ですが、
物語の本質は、ハイジを中心とした10人の若者の結束や苦悩、挑戦、成長にあるのだと思いました。 箱根駅伝は、
それを描くための目標であり、舞台だと考えたほうがいいかもしれません。
この小説の、もうひとつの見どころは、人物描写の巧みさです。 650ページの大作ではありますが、物語を読み終えた
ころには、誰もが10人の愛称と性格を言えるようになっているはずです。 中でも、ハイジと走の化学反応の描写は
ほんとうにすばらしかったです。 ありえない話とかんたんに決めつけず、10人の若者を本のこちら側から応援して
ください。 その価値が十分にある秀作です。 2007年度「本屋大賞」第3位。 僕のオススメ度:8.7

コメント  さまよう刃(やいば) (東野 圭吾著、角川文庫)   作品の紹介 

長峰 重樹は、5年前、妻を亡くし、高一になる一人娘の絵摩と暮らしていた。 しかし、花火大会の帰り道、絵摩は、
不良少年のカイジ、アツヤ、そして、誠に車で連れ去られる。 アツヤの部屋で、覚醒剤を打たれた上、暴行を受けた
絵摩は命を落とし、死体は荒川に捨てられる。 最愛の娘を亡くし、茫然自失の長峰のもとに一本の電話があり、絵摩を
殺した犯人はカイジとアツヤであると告げる。 電話で教えられたアツヤのアパートに忍びこんだ長峰は、娘が暴行を
受けているシーンを撮影したビデオを発見し、怒りで我を忘れる。 ちょうど帰宅したアツヤを包丁でめった刺しにして
殺害する。 アツヤが死ぬ直前に、カイジが長野のペンションに逃げたことを聞き出し、長峰は射撃用に所有していた
銃を手にし、長野に向かう。 長峰は警察に手紙を書き、自分がアツヤを殺したこと、カイジに復讐を遂げた後は、自首
することを告げる。 一方、警察は、アツヤの部屋にあったビデオから絵摩を殺した犯人をカイジとアツヤであると特定
した。 その直後、事件当日、誘拐に使われた車を運転していた誠の父親から連絡を受け、誠を取り調べる。 誠は車を
運転しただけで、暴行には加わらなかったが、事件の鍵をにぎる人物として、警察の監視を受けるだけでなく、マスコミ
からも追われる立場となる。
長峰は長野のペンションでカイジを探し続けていた。 そして、偶然、立ち寄ったペンションで、オーナーの娘、和佳子
からカイジを探す協力を申し出られる。 和佳子は、数年前、息子を事故で亡くしていた。
このあと、長峰は和佳子と二人三脚で、カイジを探し続けます。 しかし、警察も、カイジと長峰を懸命に追い続け、長峰
と警察、どちらが先にカイジを見つけるかという緊迫した展開の中、衝撃のラストまで突き進みます。
やるせない物語なのですが、リーダビリティーの天才、東野 圭吾さんの筆力により、一気読みしてしまいました。
この小説で感心した点はふたつ。 ひとつは、物語にリアリティーがあったこと。 そして、もうひとつは、少年法について、
著者が必要以上に感情的なスタンスをとっていないことです。 犯人が未成年である小説は、少年法の問題点について多く
のページを割き、読者に判断を委ねるのではなく、著者が少年法反対の立場を鮮明にしていることが多いように思います。
その点、この小説は、少年法についてのめり込まず、ストーリー重視で書かれていたので、好感が持てました。
150万部突破のベストセラー。 2009年映画化(敬愛する寺尾聡さん主演ですが、平均点)。 僕のオススメ度:8.2

コメント  永遠の0(ゼロ) (百田 尚樹著、講談社文庫)   作品の紹介 

佐伯 健太郎、26歳。 かつては司法試験をめざしていたが、今は目標を失い、無為な日々を送っている。
そんな健太郎のもとに、姉の慶子からアルバイトの話が持ち込まれる。 それは、六年前に亡くなった祖母の
最初の夫、宮部 久蔵のことを調べるという内容だった。 健太郎の母は、宮部と祖母の間にできた子ども
だったが、娘に会うこともなく、宮部は、終戦直前に特攻で命を落としていた、、、、、、。
祖母の再婚相手、大石に実の孫のように可愛がってもらった健太郎にとって、祖母が亡くなるまで存在すら
知らなかった、写真の一枚も残っていない実の祖父、宮部の過去を辿ることは雲をつかむような話だった。
健太郎は、いくつかの戦友会に手紙を書く。 すると、60年も前のことながら、宮部を知る男たちから連絡
が届き始める。 こうして、健太郎と姉、慶子の、祖父、宮部の最期を辿る旅が始まる、、、、、、。
最初に会った老人の口から出たのは、宮部は臆病な男だった、ということばだった。 健太郎は落胆するが、
気を取り直して、取材を続ける。 宮部のかつての戦友たちへの取材を続けるうちに、次第に宮部の人物像が
浮かび上がっていく。 宮部は臆病な男ではなく、命をたいせつにする男だった。 宮部は愛する妻と娘の
ために生きて帰りたいと切に願っていたのだ。 しかし、敵から逃げ回っていたわけではなく、卓越した飛行
技術で何機も敵機を撃墜し、過酷な戦場を生き抜いていた。 また、宮部は品格のある人間であり、彼に命を
救われた男たちからの感謝のことばも相次ぐ。 好意的な証言に安堵する姉と弟。 それと同時に、新たな
疑問が生まれる。 生きて帰りたいと切に願っていた宮部がなぜ特攻で命を落としたのか? その答えは、
宮部が特攻に飛び立った地、鹿屋で通信員をしていた男の口から語られる、、、、、、。
そして、物語は、衝撃と感動のラストへと続いていくわけです。 ストーリーを書くと、↑のようになるのですが、
物語の半分は、ドキュメンタリーのような体裁です。 宮部の戦友たちが語る太平洋戦争の真実、それは最前線
で戦った男たちにしか語れない怒り、悲しみ、矜持、そして、愛する妻や子ども、家族への真摯な想い。
これほどまで、戦争の内側に切り込んだ小説を読んでいたかった身としては、正直言って、読み続けるのがつらく
なるような箇所もいくつかありました。 でも、読み続けなければいけないと自然に思いました。 575ページと
いう大作のラストに待っているのは、物語としての「救い」です。 けれど、この小説は、宮部の物語だけでなく、
宮部の戦友たちの証言を通して、平和な時代に生きる私達に自分を見つめ直すきっかけを投げかけているのだと
感じました。 自分と同年代の著者が、こういう作品を書かれたことをうれしく思うと同時に、大きな敬意を抱き
ました。 読むのは少し覚悟がいるかもしれませんが、読むべき作品です。 僕のオススメ度:8.7

コメント  まんまこと (畠中 恵著、文春文庫)   作品の紹介 

江戸神田で八つの町を治めている名主の息子、高橋 麻之助、22歳。 生真面目で勤勉だった麻之助は、あることが
きっかけで16歳の時に突如、お気楽な若者に変わってしまう。 町内の人たちには、楽しい若者だと人気があるが、
将来、名主になるには不安があるという声が多い。 しかし、麻之助は、そんな風評や親のため息もどこ吹く風。
隣町の名主の息子でプレイボーイの清十郎、同心見習いでカタブツの吉五郎という親友とともに、町内で起こる
事件を名探偵のように解決していく、、、、、、。
本書は、そんな麻之助の活躍を描いた表題作(「まんまこと」)を含む計6編を収録した連作短編集。
各話のあらすじは コチラ をどうぞ 。
著者の畠中恵さんは、大人気の「しゃばけ」シリーズで有名ですが、この「まんまこと」もシリーズ化されました。
「しゃばけ」のように妖(あやかし)たちが出てくるわけではないけど、その分、この「まんまこと」の方がストーリー重視
のような気がしました。 「しゃばけ」のような人気シリーズになるような予感。 畠中恵さんは、もうすっかり時代小説の
人情ミステリーの大家ですね。 僕のオススメ度:8.2

コメント  塩の街 (有村 浩著、角川文庫)   作品の紹介 

ある日、宇宙から世界中に巨大な塩の柱が降り注ぐ。 その日から、人間が彫刻のように塩化して死に至るという異常
現象が発生。 一日目にして、東京だけで、500〜600万人の人が塩に変わった。 共働きの両親を一日で亡くした高三
の真奈は、町をさまよっている時に秋庭という男に助けられ、二人の共同生活が始まる。
政府は機能を停止し、ほとんどの経済活動もストップ。 食料も配給制となり、ペースは初めの頃ほどではないものの、
塩害の犠牲になる人は、後を絶たなかった。 そんな悲惨な状況の中、秋葉は、ぶっきらぼうなところがあるが、心根の
やさしい男であり、真奈は秋庭を頼りきっていた。
しかし、混乱の中、自衛隊立川基地の臨時司令官におさまった秋庭の旧友、入江が秋庭のもとを訪れ、半ば強引に
二人を立川基地に連れていく。 秋庭は入江からの依頼を承諾し、巨大な塩柱を破壊する役目を担うことになる、、、。
一見、荒唐無稽なSFと思われるかもしれませんが、なかなかどうして、骨太な物語に仕上がっていました。
ストーリーの出発点=着想がイケてるのに加えて、巧妙なストーリーテリングと人物造型のおかげで、スイスイ読めて
しまいました。 今、話題のベストセラー作家、有村浩(ひろ)さんのデビュー作にして、2004年「電撃小説大賞」受賞作。
本編「塩の街」(250ページ)に、後日、外伝として発表された4つの短編(「塩の街、その後」190ページ)を加えた一冊。
SFファンでない人もどうぞ。 僕のオススメ度:8.2

コメント  シアター! (有村 浩著、メディアワークス文庫)   作品の紹介 

中堅の小劇団「シアターフラッグ」主宰にして、演出家、脚本家の春川 巧、28歳。 芝居が好きで、学生時代から
「フラッグ」を続けてきたが、300万円の借金、そして半数の劇団員の脱退により劇団存続の危機に立たされる。
「フラッグ」は、これまで劇団員全員が出演できるファミリー的な劇団だったが、プロの声優、千歳の加入に刺激
を受けた巧が、劇中の登場人物を減らし、プロの劇団としてリスタートを切ろうとした矢先のことだった。
芝居以外に能のない巧に300万円の借金を返せるあてもなく、3歳上の兄、司に泣きつく。 司は、300万円の
融資には応じるが、2年以内に借金を返済できない場合は、劇団を解散することを巧に約束させる。
巧は、さっそくアパートを引き払い、司が一人暮らしをしている実家で暮らすことに。 司は、劇団の放漫経営を
細かくチェックし、財政健全化のための難題を次々と巧につきつける。 司の厳しくも、愛情あふれる監視のもと、
巧の脚本が完成し、新生「フラッグ」10人の公演準備が始まる。
鉄血宰相、司の指導のかいあって、どうせ芝居は儲からないものとあきらめていた劇団員たちの目の色も徐々に
変わっていく。 千歳という広告塔の効果もあり、前売りチケットも順調にさばけ、いよいよ公演が始まった、、、。
クールでしっかり者の兄、司(でも、情け深い)。 泣き虫で天然だけど、腕は確かな弟、巧。 この対照的な兄弟に
声優以外の自分への挑戦を真剣に始めようとする千歳がからみ、テンポのいいストーリーが展開していきます。
個性豊かな劇団員たちの描写も秀逸。 司 vs フラッグで始まった物語が、司 with フラッグに変わっていくプロセス
がじーんと来ます。 僕のオススメ度:8.2

コメント  夏化粧 (池上 永一著、角川文庫)   作品の紹介 

石垣島に暮らす津奈美は、22歳のシングルマザー。 息子の裕司は、産婆のオバァのまじないによって、生まれた時
から津奈美以外の人間には見えなくされてしまった。 しかし、まじないを解いてもらうことなく、産婆のオバァは突然、
死んでしまう。 島の民俗学者、正徳(しょうとく)の力を借りて、津奈美は、神様に接触し、オバァのまじないを解く
方法を知る。 しかし、それは、生と死の狭間、陰(いん)の世界で、オバァに消された津奈美の七つの願いを取り戻す
というたいへんなことだった。 津奈美は、パラレルワールドとも言える陰の世界に入り込み、一晩にひとつずつこの世
の人々から「願い」を奪っていく。 それは、オリンピックで金メダルをとることだったり、ビッグなアーティストになる
ことだったりという途方もないことから、頭のいい子になること、働き者になることという堅実なものまで、さまざまな
願いだった。 折りしも、二十年前にオバァのまじないでわが子の命を奪われた中年の女性も同じタイミングで陰の世界
での「願い」集めに参戦し、津奈美の作業は困難を極めるが、、、、、、。
わが子のためなら鬼にもなれるという津奈美の執念や底知れぬ愛が骨太に描かれています。 他人の「願い」を奪うという
行為は、決して許されることではないけど、どろどろせずに描き切った筆力は称賛に値すると思います。 津奈美の愛情を
きれいごととしなかったところにこの作品の強さがあるのではないかと思いました。
そして、ラストのせつなさと希望のバランスが強い印象を残しました。
著者の池上 永一さんは、沖縄を舞台としたファンタジー色の強い作品を数多く発表しています。
「ぼくのキャノン」のブックレビューは コチラ。  「レキオス」のブックレビューは コチラ
あと、沖縄が舞台ではないけど、著者の代表作「シャングリ・ラ」のブックレビューは コチラ
僕のオススメ度:8.2

コメント  ジーン・ワルツ (海堂 尊著、新潮文庫)   作品の紹介 

帝華大学医学部の助教(講師の一つ下のランク)、曽根崎 理恵、32歳。 体外受精のエキスパートであり、民間の
産婦人科、マリアクリニックでも診察を続けていた。 しかし、院長の三枝 茉莉亜(まりあ)が末期の肺がんに冒され、
北海道で二十年もの間、地域医療に取り組んでいた茉莉亜の息子の久広も一万人に一人と言われる症例の出産で
母子が死亡した罪を問われ、逮捕される。 マリアクリニックは、閉院に追い込まれ、理恵は、最後の患者となる五人
の妊婦を診ている。
理恵は、大学では、「クール・ウィッチ(冷徹な魔女)」と呼ばれているが、久広の逮捕により、大学がマリアクリニック
へのサポートから手を引いた後も、ひとりで閉院間近の病院を支えてきた。
夫の伸一郎は、アメリカで働いている。 ひとりで献身的な治療を続ける理恵をさらなる不幸が襲う。 それは、女性と
して悲しいことだったが、その現実を共有してくれたのは、過去、愛人関係にあった、大学の上司で准教授の清川だった。
それでも、気丈に治療を続ける理恵。
五人の患者のうち、一人は流産したが、残りの四人の妊婦の出産も一筋縄ではいかないものだった。 一人は赤ちゃん
の父親が失踪した二十歳のヤンキー娘。 二人目は、自然妊娠の主婦。 経過は順調だったが、後に不幸に見舞われる。
三人目は体外受精に五年間も取り組んでいる主婦。 過去の妊娠は早期の流産に終っている。 そして、四人目は体外
受精で双子を妊娠した五十五歳の主婦。 四人はそれぞれの現実に向かい合い、出産の日を迎える、、、、、、。
体外受精と代理出産というテーマに真正面から向きあい、さらにミステリーの要素も織り込み小説に仕上げた手腕は、
さすが「チーム・バチスタ」シリーズの著者だと思いました。 けれど、登場人物の口を借りて、行政に対する批判が何度も
何度も繰り返され、時として本筋の流れや魅力を阻害しているという印象を持ちました。 確かに読者に対する警鐘として
の行政批判は理解できるのですが、物語の骨格がしっかりしているだけに、過度な批判が浮いていると感じる場面もあり
ました。 僕のオススメ度:8.2

コメント  千里眼の教室 (松岡 圭祐著、角川文庫)   作品の紹介 

岬 美由紀、28歳。 自衛隊初の女性戦闘機パイロット。 除隊後は、臨床心理士として数々の事件を解決している。
そんな彼女に警察が依頼したのは、時限爆弾をつくり逃走中の医師、五十嵐に接触することだった。 美由紀は五十嵐を
追い詰めるが、大立ち回りを演じた名古屋の街は大混乱に陥る。 警察は五十嵐を逮捕するが、彼は時限爆弾をセット
した後だった。 五十嵐は、酸素が欠乏すると、前頭葉が異常をきたし、学校では構内暴力やいじめが発生するという
学説を唱えていた。 彼は、この学説を実証するため、一人息子の通う、岐阜県の氏神高校で時限爆弾を爆発させる。
殺傷を目的とする爆弾ではなかったが、酸素欠乏症を引き起こす薬品が調合されていると考えられた、、、。
爆発の直後、氏神高校の生徒会は、教師を郊外におびき出したすきに校門を閉鎖し、ただちに日本からの独立を宣言。
独立国としての活動を開始する。 美由紀も、臨床心理士の舎利弗(しゃりほつ)とともに現地に向かう。
酸素欠乏症で、いじめや校内暴力が起こることもなく、生徒たちは、秩序の中で独立国としての体裁を整えていく。
責任逃れをする教師たち、問題解決を急ぐ教育委員会、わが子の安否のみを気遣う保護者たちを尻目に、美由紀は生徒
たちとの接触を試みる、、、、、、。
1999年に第一作「千里眼」を発表以来、28作を刊行し(2010年10月現在)、650万部を売り上げた人気の「千里眼シリーズ」。
小学館から刊行された2006年までの作品を小学館から刊行された「クラシック・シリーズ」。
角川書店から出版された2007年以降の作品を「新シリーズ」と呼びます。
「クラシック・シリーズ」は、エンタメ色の強い映画的な作品が多く、著者曰く「冒険活劇」的な色彩が強い作風でした。
これに対して、「新シリーズ」は、現実の設定に近いリアリティのある作風になっています。 ちなみに本作は「新シリーズ」の
第5作です。 おそらく「千里眼」ファンの中でも「クラシック」派と「新シリーズ」派に分かれているのではないでしょうか。
僕は「クラシック・シリーズ」を8冊、「新シリーズ」を2冊読みましたが、断然「クラシック・シリーズ」派です。
リアリティはないけど、理屈抜きににおもしろかったから。 「クラシック・シリーズ」を先に読んでしまったせいか、「新シリーズ」は
なんだかこじんまりした印象を受けてしまいます。
シリーズ第一作「千里眼」のブックレビューは コチラ。  松岡圭祐公式サイト「千里眼」コーナーは コチラ
角川書店の松岡圭祐サイトは コチラ。 「千里眼」シリーズの全作品が紹介されています。
さて、この作品ですが、主人公であるはずの美由紀の存在感が薄く、事件を解決する案内人という印象でした。
五十嵐の爆弾でいじめや校内暴力が起こらなかった謎解きは、リアリティはさておき、ちょっと感心しましたけど。
この作品が「新シリーズ」だからというのは抜きにしても、僕のオススメ度:7.2

コメント  駐在刑事 (笹本 稜平著、講談社文庫)   作品の紹介 

警視庁捜査一課の警部補、江波 淳史(あつし)は、取り調べ中に容疑者が服毒自殺をした責任をとらされ、
奥多摩にある青梅警察署の駐在所所長に左遷される。
しかし、奥多摩の人々の心根に触れ、登山の魅力を知り、今の暮らしをかけがえのないものと思い始める。
駐在所勤務ではあるが、青梅警察署に捜査本部が開設されるほどの事件が発生すると、江波の古巣である本庁
捜査一課から派遣される後輩刑事の南村に的確な指示を与え、事件の核心に迫る。 しかし、江波を奥多摩に
追いやったキャリアの管理官、加倉井が江波と南村の前に立ちふさがる、、、、、、。
この作品は、そんな江波の活躍を描いた6編の連作短編集。 どの作品もハイレベルの出来栄えです。
登山の描写が多いこと、江波の相棒犬となるプールの登場など見どころ満載の警察小説。
「本の雑誌」2009年度文庫 国内ミステリー部門:第5位。 僕のオススメ度:8.2

コメント  弁護側の証人 (小泉 喜美子著、集英社文庫)   作品の紹介 

昭和30年代のお話。 二流キャバレーのヌードダンサー、ミミイ・ローイこと漣子(なみこ)、22歳。
八島財閥の御曹司でありながら、自他共に認める放蕩息子、杉彦。 住む世界がまったく違う二人だったが、杉彦は
たまたま訪れた店で漣子を見初め、あっという間にプロポーズする。 杉彦のことを愛し、場末の生活から抜け出し
かった漣子は、戸惑いながらも結婚を決意。 漣子の仕事仲間一人しか出席しない教会での結婚式を経て、杉彦の
実家での新婚生活が始まる。 杉彦は、重度のリウマチで出社できなくなった、財閥の総帥である父と二人暮らし
だったが、住み込みの三人の女中や運転手、日参する主治医、そして弁護士から漣子は、財産目当ての結婚だと
決めつけられ、値踏みされるような視線を受け続ける。
結婚してしばらく経った頃、杉彦の姉、姉の夫で専務の飛騨、そして、飛騨の親類で杉彦を好きな美紗子が家を訪問
する。 一行は主治医とともに泊まることになったが、深夜、杉彦の父が殺害される、、、、、、。
この後、犯人が逮捕され、一審で死刑が宣告されます。 しかし、控訴が認められ、警察が再捜査することになり、
事件は意外な結末を迎えます。
ネタバレになるので詳しくは書けませんが、物語の終盤(8割を越えたあたり)に突然、「あれあれ?」→「ええ〜っ!」
と声をあげ、最初から読み返してしまいました。 この小説を読んだ人は、ほとんど同じような反応をするのではないで
しょうか。 事件のトリックとは別に、作者が読者に仕掛けたトリックは1ページ目から始まっていたのです。
物語全体がだまし絵のようにできていて、どんでん返しに心地よく酔える作品です。
この小説は、1963年に書かれ、1978年の文庫化を最後にミステリーファンの支持は受け続けたものの、古本でしか手に
入らなかったのだそうです。 しかし、2009年に復刊され、再び注目が集まり、増刷を重ねているとのこと。
確かに一級品のミステリーだと思います。 でも、玄人受けの傾向がやや強いかも。 僕のオススメ度:7.8

コメント  荒蝦夷(あらえみし) (熊谷 達也著、集英社文庫)   作品の紹介 

8世紀後半、朝廷は、東北地方の民、蝦夷(えみし)を懐柔し、陸奥の国を形式上は平定していた。 伊治(これはり)郡の
長、呰麻呂(あざまろ)は、便宜上、朝廷に恭順の意を示していたが、蝦夷としての誇りを持ち続け、朝廷からも、蝦夷たち
からも一目おかれる存在となっていた。 京から派遣された官吏や、朝廷に近い蝦夷たちの裏をかいたり、先を見たりして、
陸奥の国を朝廷から奪還すべく、呰麻呂は走り続ける。 しかし、若干二十歳の坂上田村麻呂が呰麻呂の前に立ちふさがる。
とは言え、この時代の坂上田村麻呂は、まだ征夷大将軍ではなく、いったん京に帰任します。 その間隙を縫って、呰麻呂は
クーデターを仕掛けるのですが、衝撃のラストが待っています。
荒々しいけれど、戦略的なリーダーシップで一族を率いる呰麻呂。 呰麻呂を献身的に支える腹心の虎麻呂。 そして、朝廷側
でありながら冷遇されている現地の近衛兵の長、道嶋御楯(みちしまのみたて)。 物語は、この三人を中心に、謀略に長けた
朝廷側の蝦夷、反朝廷側の蝦夷たちの思いを描きながら進んでいきます。 さらに、物語の鍵を握る呰麻呂の息子、阿弖流為
(アテルイ)の静かな情熱など、見どころ満載の歴史小説です。
2005年に、高橋 克彦さんの「火怨(かえん)」という小説に出会って以来、蝦夷(えみし)の物語、中でも、阿弖流為(アテルイ)
という人物に興味を覚え、何冊かの本を読みました。 「荒蝦夷」は、阿弖流為(アテルイ)の父、呰麻呂(あざまろ)を主人公
として描いています。 この本の著者、熊谷達也さんも、阿弖流為を主人公とした「まほろばの疾風(かぜ)」という小説を書いて
いますが、「荒蝦夷」のその後が「まほろばの疾風」という連続性はなく、それぞれ独立した物語になっています。
「火怨」、「まほろばの疾風」のブックレビューは コチラ。 僕のオススメ度:8

コメント  蛇行する川のほとり (恩田 陸著、集英社文庫)   作品の紹介 

高一の美術部員、毬子は、高三の先輩、香澄と芳野から夏休みの合宿に誘われる。 演劇祭で使う背景の絵を仕上げる
ために、香澄の家で三人で九日間を共にすることになった。 その直後、香澄のいとこで高二の月彦が毬子の前に現れ、
合宿に行くなと忠告する。 気にはなったものの、憧れの先輩に誘われ有頂天になっている毬子に月彦の忠告は届かな
かった。 さらに、親友、真魚子(まおこ)のボーイフレンドから紹介された暁臣(あきおみ)は、月彦の幼馴染であり、月彦と
暁臣も合宿に参加すると告げられる。
香澄の家は「船着き場のある家」として、町内でも有名だったが、彼女の家族が引っ越してくる前までは長い間、空き家だった。
十年以上前、この家の船着き場から流されたボートで女性の死体が発見され、同じ日、野外音楽堂で女の子が事故死して
いた。 毬子の中では遠い記憶だったが、男女5人の合宿が始まり、暁臣から香澄と毬子の衝撃の過去を知らされる、、、。
と、ここまでが三部構成の第一部です。 第一部は、毬子の視点で描かれています。
そして、第二部が芳野、第三部が真魚子の視点で進めてられていきます。 物語が進むにつれて、少しずつ明らかになる
香澄の過去と二つの事件の真相。 香澄は、子どもの頃、「船着き場の家」に住んでいて、ボートで死体で発見された女性は
香澄の母親であり、音楽堂で事故死した女の子は暁臣の姉だった。 香澄の母を殺した犯人は? 暁臣の姉はほんとうに
事故死だったのか? 物語は第二部で急転を見せ、第三部で事件の真相が明らかになります。 そして、終章で、、、、、、。
登場人物すべてが事件に関係する過去を抱えていて、演劇の舞台のような雰囲気の中で、駆け引きや腹の探り合いが進んで
いきます。 ミステリーとしての謎解きとともに、若い登場人物の残酷さ、繊細さが見どころの作品。 僕のオススメ度:7.2

コメント  最前線 (今野 敏著、ハルキ文庫)   作品の紹介 

正式タイトルは「最前線 東京湾臨海署安積班」。 表題作(「最前線」)を含む計6編を収録した連作短編集。
警部補、安積を主人公にした人気の安積班シリーズの一作(でも、この作品から読み始めても大丈夫)。
安積と速水(同期の交通機動隊 隊長)の友情。 安積と部下との絆。 安積と上司との折り合い。
本庁と所轄との関係。 キャリアとノンキャリアの溝。 そんな要素が密度濃く詰まった一冊です。
収録された6編すべてがハイクオリティー。 警察小説が好きな人なら、まちがいなく「買い」の一作。
安積班シリーズはドラマ化され、2010年現在、シーズン3まで放映されています。 僕のオススメ度:8.2
安積警部補シリーズは、他にも二冊読みました↓。
「二重標的」のブックレビューは コチラ 。   「残照」のブックレビューは コチラ
コメント  家族の言い訳 (森 浩美著、双葉文庫)   作品の紹介 

家族にまつわる8編を収録した短編集。 病気がちの息子を連れて海辺の町に降り立った母親。 夫は失踪し、
生活もままならない。 死ぬ気でいた母が、偶然、訪れた民宿で見た希望とは、、、。
母親の癌の告知を受けた中年の男。 母に愛情を感じていない彼が知った、母の思い出とは、、、。
母親に捨てられた過去を忘れられずに生きてきた男が、妻からもらったクリスマスプレゼントとは、、、。
物語に登場するのは、どこにでもいる30代、40代の男女。 忘れたい過去や、逃げ出したい現実に目を背けたり、
向きあったり。 読む人が8つの物語の中に、必ず自分を見つけるような気がします。
そして、ささやかな幸せは、空から降ってくるものではなく、気持ちの持ち方と少しの勇気次第だということを
再認識するのではないでしょうか。 僕のオススメ度:8

コメント  アキハバラ@DEEP (石田 衣良著、文春文庫)   作品の紹介 

秋葉原を根城にする3人のオタク、ページとボックス、タイコ。 彼らは、吃音、潔癖&女性恐怖症、てんかんなどの
ハンデを抱えながらも、ネットの世界では才能を持ち合わせていた。 3人は、敬愛するユイが主宰する人生相談の
サイトでいっしょに仕事をすることを勧められ、「アキハバラ@DEEP」というwebプロダクションを立ち上げる。
そこに、同じくユイに導かれた3人の仲間が加わる。 コスプレ喫茶のアイドルにして格闘家の美少女、アキラ。
生まれつきメラニン色素の少ないアルビノの天才プログラマー、イズム。 そして、10年間もの引きこもりを終えた
ばかりの男、ダルマ。 6人は、ユイの死を乗り越え、人工知能を搭載した全く新しい概念の検索エンジン「クルーク」
を開発する。 さっそく話題になった「クルーク」を会社ごと買収すべく、ネット界の帝王、中込が近づくが、理念が
違うことを理由に、ページは中込の申し出を断る。 その直後、中込はサーバーやPCごとクルークを強奪し、自社の
サービスとして発表しようとする。 アキハバラ@DEEPのメンバーは、クルーク奪還に向けて立ち上がる、、、、、、。
大好きな石田衣良さんの作品ではありますが、「オタク」系の話という先入観が強く、文庫化されて4年間も手にとり
ませんでした。 ところが、今回、古本屋さんで衝動買いして読み始めたら、止まらないおもしろさ。 「電車男」とは
違うノリの作品でした。 主人公は、確かにオタクの青年たちなんだけど、ネットの世界で一旗あげてやろうという、
彼らのポジティブな面がいきいきと描かれていて。 「池袋ウエストゲートパーク」のマコトみたいに強くはないけど、
アキバの若者らしいやり方で大資本に立ち向かう終盤は読み応えがありました。 今回は、食わず嫌いを反省。
独特の世界観を持つ作品なので、映画化、ドラマ化、コミック化されています。 僕のオススメ度:8.2

コメント  美丘(みおか) (石田 衣良著、角川文庫)   作品の紹介 

太一は都心の大学の2回生。 男3人、女2人のグループで、平凡だが、悪くない大学生活を送っていた。
11月、そんな太一の前に美丘という名の女の子が現れる。 美丘は、気まぐれで、自由奔放で、でも、まっすぐな
女の子だった。 3回生になり、太一は、同じグループのお嬢様系美人の麻理と付き合い始めるが、美丘を好きに
なってしまった自分に気づく。 初夏に麻理と別れ、美丘と付き合い始める。 7月、初めて二人が結ばれた直後に
美丘は、太一に、クロイツフェルト=ヤコブ病を発病する可能性が高いことを告げる。 発病すると数カ月で死を
迎えるという恐怖がつきまとう中、二人は、その不安を振り払うかのように、同棲を始める。 しかし、二人の幸せも
長くは続かなかった。 10月、ついに美丘は発病する、、、、、、。
物語の冒頭で、美丘が死んでしまうことが明かされており、終焉に向かう13カ月間の軌跡を、読者は太一の独白に
導かれ、たどっていくわけです。 とは言え、感傷的な、暗いラブストーリーではありません。 とにかく、美丘の
人物造形がすばらしく、彼女のものの見方、まっすぐさ、けなげさに触れるだけでも、このお話を読む価値がある
と思います。 誤解されやすく、時にはトラブルを起こすこともあるけど、いつしか、まわりの人に愛されている。
この本を読み終える頃には、読者も、そんな美丘のファンになっているのではないでしょうか。
2010年にはテレビドラマ化されました。 僕のオススメ度:7.8

コメント  1ポンドの悲しみ (石田 衣良著、集英社文庫)   作品の紹介 

表題作(「1ポンドの悲しみ」)を含む計10編を収録した短編集。 テーマは、30代の恋愛。
マンネリになりかけていた同棲生活が飼い猫の手術をきっかけに再生に向かうカップルのお話。
人の幸せを演出することに追われるウェディングプランナーが一人の男に見染められるお話。
行きずりの恋ばかりを追いかけていた男が障がいを持つ女性に心惹かれ始めるお話。
もう若くはないけど、まだ中年までには時間がある。 そんな世代のさまざまな恋愛模様を時にはせつなく、時には
ほほえましく、時にはしみじみと描いています。 著者のイメージのせいか、おしゃれな話ばっかりと思われるかも
しれませんが、けっしてそうではなく。 やや女性向きではありますが、男性にも読んでほしい作品です。
この作品は30代の恋愛を描いた作品ですが、この作品の前に石田衣良さんが書いた「スローグッドバイ」は20代の
恋愛を描いた短編集です。 ブックレビューはコチラ。  僕のオススメ度:8.2

コメント  ジェネラル・ルージュの伝説 (海堂 尊著、宝島社文庫)   作品の紹介 

「チーム・バチスタ」シリーズの第三弾「ジェネラル・ルージュの凱旋」の主人公、速水にスポットを当てた短編と
「凱旋」の外伝的短編二編を収録した短編集。 最初の短編「伝説」は「ジェネラル・ルージュの凱旋」の15年前、
新人外科医の頃の速水を描いています。 「凱旋」でも触れられているデパート火災の時の速水の活躍、文字通り、
ジェネラル・ルージュの「伝説」が読めるのです。 「バチスタ」三部作で「凱旋」がいちばんの出来だと思っている
読者なら、(この短編を読むだけでも)「買い」です。
おまけというわけではないですが、「バチスタ」二作目の「ナイチンゲールの沈黙」の重要キャスト、水落冴子も火事の
被害者として登場する、というエピソード付きです。
短編の二作目は「疾風」。 「凱旋」で描かれている大惨事(桜宮コンビナート爆発炎上事故)を、速水と対立する事務
局長、三船の視点で描いています。 この作品は、「凱旋」のおさらい的要素が強かったですね。
そして、最後の短編が「残照」。 速水が去った後の救命救急センターを引き継いだ佐藤と看護師、如月の奮闘の物語
です。 個人的には、速水が出てこないので、寂しかったです(笑)。
当然のことながら、「凱旋」を読んでいないと、この本のおもしろさは半減してしまうと思います。
( ⇒「ジェネラル・ルージュの凱旋」のブックレビューはコチラ
さらに。 この本は、前述の短編三編以外にも、さまざまなコンテンツがつまっています。 著者が自らの過去を振り返る
「海堂尊物語」。 著者による「自作解説」(これまでの全作品が対象)。 さらに。 「チーム・バチスタ」シリーズの舞台
になった桜宮市の年表(関連作品の年代もわかるスグレモノ)や登場人物リスト(330人分)、用語辞典なども収録。
短編も、短編以外も、「バチスタ・シリーズ」ファンを飽きさせません。 僕のオススメ度:7.8

コメント  チャイルド44 上・下 (トム・ロブ・スミス著、新潮文庫)
コメント(上) コメント(下) 作品の紹介 

1953年、スターリン体制下のソ連。 30歳のレオは、国家保安省(KGBの前身)で将来を嘱望されていた。
しかし、それは、彼の非情さと国家に対する異常なまでの忠誠心の結果でしかなかった。
ある日、レオの部下であるフョードルの息子が腹を切り裂かれ、口に泥を詰められ、死体で発見される。
レオは、上司に事故死として処理するよう命令され、フョードルと家族を説得する。
その直後、レオは、スパイ容疑者の逮捕に成功するが、尋問の結果、その容疑者が無実であると確信する。
しかし、(当時のソ連で)逮捕者が釈放されるはずもなく、レオが体調を崩し休んでいる間に処刑される。
そして、レオも部下のワシーリーの策略により、地方の民警に追放される。
モスクワから遠く離れた地で、失意のレオを待っていたのは、少女の殺人事件だった。 その少女は、レオ
のかつての部下、フョードルの息子と同じ手口で殺されていた。 レオは、さらに同じ手口で殺された新たな
死体を発見する。 モスクワ時代とはうって変わり、レオは純粋な正義感から犯人の逮捕を決意する。
しかし、民警の署長の協力を得て、連続殺人事件の捜査を始めたレオを待ち受けていたのは、さらなる試練と
苦難だった、、、、、、。
2008年度CWA(英国推理作家協会)「イアン・フレミング・スティール・ダガー賞」(最優秀スパイ・冒険・
スリラー賞)受賞作。 世界20カ国以上で翻訳された話題作。 なのですが、、、個人的には、読了するのに
少し骨が折れました。 理由はふたつ。 ひとつ目は、全編を覆う重苦しい雰囲気。 当時のソ連の暗部が
これでもか、というくらい描かれており、読み続けることがつらくなったことも一度や二度ではなく。
ふたつ目は、そんな重苦しい話が長かったこと。 上・下巻合わせて700ページを終える大作なのですが、上巻
は、レオが地方に飛ばされるまでのプロセスの描写が続き、上述の少女の殺人事件が出てくるのは上巻の最後。
下巻は、物語が動き出し、ドライブ感が出てくるのですが、やはり、全体として「長い」という印象は拭えず
じまいでした。
スターリン体制下のソ連の描写は、村上春樹さんの名作「1Q84」の着想のヒントになった、ジョージ・オーウェルの
「1984年」の重苦しい世界観と似ている印象を持ちました。 余談ですが、本書はロシアでは翻訳されないどころか
発禁書になってしまったそうです。
「本の雑誌」2008年度 文庫 海外ミステリー部門:ベスト10作品。
ミステリーとしては一級品。 犯人の正体も驚き。 でも、僕のオススメ度:7.8

コメント  ぼくのメジャースプーン (辻村 深月著、講談社文庫)   作品の紹介 

「僕」は、小学校四年生。 近所に住んでいるふみちゃんのことが好きで、尊敬している。
ふみちゃんからもらったうさぎのメジャースプーン(計量スプーン)は、「僕」の宝物だ。
「僕」もふみちゃんも、うさぎが大好きで、うさぎ当番の日がとても楽しみだ。 初夏の当番の日、風邪で学校に
行けなくなってしまった「僕」は、ふみちゃんにピンチヒッターを頼む。 けれど、快く引きうけてくれたふみちゃんが
うさぎ小屋で見たのは、身体を切り刻まれたうさぎたちだった、、、、、、。
ふみちゃんは、ショックで自分の殻に閉じこもってしまう。 どんな音にも、誰の姿にも反応しない。 ひとことも
しゃべらなくなってしまった。 犯人は、すぐに逮捕されるが、三ヶ月経っても、ふみちゃんは元に戻らなかった。
犯人は、医学部の学生で、執行猶予三年の判決が下される。
「僕」は、二年生の時、自分の持つふしぎな力に気づいた。 それは、「○○しなければ、□□になる」という
呪いにも近い暗示をかける能力。 初めてこの力を使った時、母に二度と力を使わないようにきつく言われた。
母との約束を守り、「僕」は、この能力を使わずにいたが、犯人が学校に謝罪に来ることになり、「力」を使う
決意をする。 「僕」は、まず担任の先生に「力」を使い、「僕」が生徒代表で犯人と会う手筈を整える。
「僕」が「力」を使って犯人に復讐する計画を持っていることを見抜いた母は、「僕」と同じ「力」を持つ親戚の
おじさんに「僕」を託す。 「僕」は、犯人と対面するまでの一週間、毎日、大学教授のおじさんから「力」の
レッスン兼カウンセリングを受ける。 そして、いよいよ、犯人と対峙する日を迎える、、、、、、。
とまあ、物語終盤まで、あらすじを書いてしまいましたが、これでもネタバレにはならないのでは、と思います。
物語のほとんどは、主人公の少年と大学教授のおじさんとのやりとりだからです。 教授は、同じ「力」を持つ
先輩として、自らの経験や考えを伝えながら、少年が犯人への復讐で自分を見失わないように導いていきます。
自分の考えは言うけど、最後は少年に「力」の使い方を決めさせる教授のレッスン&カウンセリングはみごと
でした。 犯人との対峙のシーンで、少年は「力」を使うのか、使うとしたらどんなことばを発するのか、最後
の最後まで気の抜けないお話でした。 物語のラストも、読者が納得いくかたちで締めくくられていて、好感が
持てました。 著者の辻村深月さんは、若手の注目株のひとりです。 こんな作品もオススメです↓。
「冷たい校舎の時は止まる」のブックレビューはコチラ。   「子どもたちは夜と遊ぶ」のブックレビューはコチラ
僕のオススメ度:7.8

コメント  青に候(そうろう) (志水 辰夫著、新潮文庫)   作品の紹介 

神山 佐平、23歳。 播磨の小藩の藩主の側室と幼馴染だった関係で仕官できたが、平穏な日々は二年しか
続かなかった。 江戸屋敷で、仕えていた藩主の嫡子が5歳で急死。 急いで国元に向かうが、後を追うように、
頼みの藩主も亡くなる。 藩内で心を許せる目付の息子、六郎太や妹のたえとの暖かい交流も束の間、佐平は、
正当防衛とは言え、藩士の春木を斬ってしまう。
脱藩というかたちで江戸に戻った佐平は、国元から姿を消したかつての同僚、永井 縫之助を探し始める。
縫之助は、佐平と同じ時期に江戸で召し抱えられたが、藩主の死を機に暇を出されていた。 しかも、彼が
国元を去る直前に御典医が襲われおり、佐平はそれを縫之助の仕業とにらんでいた。
佐平より一足早く江戸に戻った縫之助は、許嫁や兄を訪ねるが、佐平が訪ねた時には消息不明になっていた、、、。
佐平は、藩の江戸屋敷の重職、田上に会って、身の潔白を証明しようと試みる。 しかし、江戸にも佐平の命を
狙う影が忍び寄っていた、、、、、、。
おとなしく江戸で身をひそめていればいいものの、佐平は精力的に動き回り、何度か命を落としそうになります。
やがて、縫之助のこと、佐平の命を狙う者たちの正体などが徐々に明らかになり、物語は、クライマックスを
迎えます。 タイトルにもあるように、主人公の佐平は、まだ若く、熟慮が足りないところもあるものの、正義感が
強く、純粋で、果敢に行動します。 物語の中心は、そんな佐平が、ひとつの生命体とも言える藩に挑むミステリー
なのですが、恋愛小説の性格も色濃く出ています。 かつては憧れ、亡き藩主の側室だった園子。 そして、親友、
六郎太の妹、たえ。 佐平を突き動かす情熱の源は、愛する二人の女性の存在でもあるのです。 そういう意味で
事件の真相とともに、二人の女性との結末もミステリーを深いものにしていたと思います。
ハードボイルド小説、冒険小説の大御所、志水 辰夫さん、初の時代小説。
志水 辰夫さんの他の作品、「いまひとたびの」、「裂けて海峡」のブックレビューは コチラ
2009年度 「本の雑誌」 時代小説部門 第5位。 僕のオススメ度:8

コメント  スティームタイガーの死走 (霞 流一著、角川文庫)   作品の紹介 

大手玩具メーカーの創業者、小羽田伝介は、戦時中に設計されたがつくられることのなかった幻の蒸気機関車
C63を再現する。 伝介の息子で社長の虎志郎は、C63を山梨の東甲府駅から東京まで中央本線を走らせる
イベントを計画する。 鉄道マニア80人を乗せたC63は、総理のテープカットの後、東京に向けて出発する。
しかし、その直後、東甲府駅でC63に乗車する予定だった男の死体が発見され、C63も二人の男に乗っ取られる。
さらに、C63の車内でも殺人死体が発見される。 たまたま乗り合わせた鉄道マニアの刑事、唐須、そして、鍼灸師
にして名探偵の輝良里が事件解決に乗り出す、、、、、、。
うーん。なんだかふしぎなミステリーでした。 本格ミステリーの要素もたっぷりなのですが、コメディタッチの
箇所も多く。 トリックは緻密なのに、謎解きが一瞬だったり。 ネタバレになるので、詳しくは書けませんが、
オチがまたふしぎな感じで、、、。 好き嫌い(評価)のわかれる作品かもしれません。
とは言え、2002年度「このミステリーがすごい」第4位。 僕のオススメ度:7.2

コメント  武装酒場 (樋口 明雄著、ハルキ文庫)   作品の紹介 

東京 阿佐ヶ谷駅のガード下にある居酒屋「善次郎」。 がんこな親父とひと癖もふた癖もある常連客たちが毎夜
ルール不要の宴を繰り返していた。 その夜も、いつもと同じような夜になるはずだったのだが、常連客たちの
事情が違っていた。 ひとりは、妻を絞殺し、ひとりは、借金で首がまわらなくなり夜逃げを決心したばかり。
紅一点の女性は大失恋の直後。 そこに、逮捕直後のヤクザを連れた常連の刑事が現場検証のために現れる。
妻を絞殺した男は自分を逮捕しにきたものと勘違い。 たまたま、店の納屋から見つかった拳銃が発砲され、
混乱に拍車をかける。 いつの間にか、店は目的不明の籠城状態となり、機動隊まで出動する事態に発展する、、、。
ミステリー小説に分類されるのでしょうが、殺人が起こるわけでもなく、トリックが鍵になるわけもなく。
警察の機動隊や特殊部隊が出動し、引っ込みがつかなくなったとは言え、事態を楽しむ酔っ払いたち。
これに対して、お手上げの警察。 二者の対比をコミカルに描いています。 ばかばかしい話と笑いとばすのは
かんたんですが、酒飲みの人なら、この話の酔っ払いたちの気持ちもわかるかも。
「本の雑誌」2009年度文庫 国内ミステリー部門:第10位。 僕のオススメ度:7

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