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読書感想文2008 part 4
「読書感想文2008」 part4 は、7月〜9月の読書録です。
↓ Click NOVEL mark !
犯人に告ぐ(上・下) (雫井=しずくい 脩介著、双葉文庫)
(上)
(下)
作品の紹介
神奈川県警の警視、巻島 史彦、46歳。 キャリアではないが、刑事畑の仕事で実績をあげ、
順調に出世の階段を上がっていた。 しかし、幼児誘拐事件の身代金受け渡し現場で犯人を
取り逃がし、子どもの命も奪われてしまう。 おまけに、記者会見でマスコミ相手に逆ギレし、
警察の表舞台から姿を消す、、、、、、。
6年後、川崎市で幼児の連続殺人事件が発生。 しかし、捜査は完全に行き詰っていた。
6年前、巻島を左遷し、本部長として神奈川県警に着任した曽根は、山間部の所轄署で驚異的な
検挙率を残している巻島に白羽の矢を立てる。 曽根が事件の打開策として提示したのは、劇場型
犯罪ならぬ「劇場型捜査」だった。 巻島は、曽根の甥であり、直属の上司となった植草とともに
テレビ局を訪れ、ニュース番組への出演を依頼。 こうして、週に数回、ニュース番組で捜査の
協力を呼びかけ、同時に、捜査の進展を報告する「劇場型捜査」が幕を開ける。
まもなく、事件の犯人である「バッドマン」から巻島に手紙が届き、事件が動き始める、、、、、、。
⇒ 物語のメインストリームは、巻島が事件の犯人「バッドマン」を焙りだす、ということなのですが、
巻島を取り巻く登場人物の人物造形が抜群。 巻島を支える家族、同僚。 そして、敵役である本部長
の曽根と上司の植草。 これらの優れた人物描写が物語に厚みをもたせています。
そして、上司の植草が、学生時代の彼女とよりを戻すために、巻島が出演するテレビ局とはライバル
関係にある局のニュースキャスターに捜査情報を漏らす設定も、ナイスでした。
あとは、巻島の、男として、刑事としての矜持が潔かったです。 自分の弱さに目をそらさず、それでも
進むと決めたら、進む。 そんな彼の信念とか生き方が清々しく、読後感もグッドでした。
2004年 「週刊文春」 ミステリー・ベスト10 国内部門 第1位
2004年 「このミステリーがすごい」 第8位
2005年 「大藪春彦賞」受賞作。 僕のオススメ度:(9に近い)8.5
冷たい校舎の時は止まる (辻村 深月著、講談社文庫)
(上)
(下)
作品の紹介
県下NO.1の私立の進学校で、学園祭の最終日、一人の生徒が屋上から飛び降り自殺を図る。
それから2ヶ月後。 12月の雪の降る日に登校した、3年2組のクラス委員8人は、校舎に
いるのが自分たちだけだと気づく。 しかも、窓が開かない。玄関も開かない。 時計も
学園祭でクラスメートが自殺した午後5時53分で止まっていた、、、。
やがて、校舎に閉じ込められた8人に、死者からのメッセージが届き始める。
しかし、8人とも、学園祭で自殺したクラスメートの名前も顔も思い出せなくなっていた。
まるで、その部分だけ記憶を消されたかのように。
8人は、ようやく、これが、死者の精神世界であることを理解する。 しかも、その死者が
実は自分たち8人の中の一人だという結論に至る。
精神的に追い詰められる8人、、、。 そして、止まっていたはずの時計が動き出した時、
8人が順に、死者の復讐にも似たかたちで消されていく、、、、、、。
⇒ ↑なんて感じで、あらすじを書いていくと、なんだかホラー小説みたいに見えますね。
でも、僕個人としては、ベースがファンタジー小説×青春小説で、その上に乗っかっている
のは、ミステリー小説の要素だという印象を持ちました。
⇒ さて。 感想ですが、、、構成、トリック、エンディング、どれもよく練られた作品だと
思います。 ネタバレになるので、詳しくは書けませんが、「死者は誰です」、「理由はこう
です」みたいな単純なオチではないのがよかったです。 エンディングのちょっとした仕掛けも
しゃれてて、好感を持ちました。 上下巻で1,000ページを超す大作ですが、死者が誰かが明らかに
される終盤まで一気読みしてしまうと思いますよ。
第31回「メフィスト賞」受賞作。 僕のオススメ度:8.5
真夜中の五分前(side-A/B) (本多 孝好著、新潮文庫)
side-A
side-B
作品の紹介
「僕」は26歳、中堅広告代理店勤務。 仕事はできるが、周りからは理解されない難しい
上司の下でも、小器用に立ち回っている。 同僚から羨望の眼差しを向けられる恋人もいる。
けれど。 恋愛に真剣になれない(真剣だと相手から思われない)せいで、またもや失恋。
そんな「僕」の前に現れた同い年の女性、かすみ。 恋人がいないのがふしぎなくらいの
美女が、なぜか「僕」にゆるやかに接近してくる。 そして、かすみの双子の妹、ゆかりの
婚約者、尾崎とダブルデートにまで出かけるようになるのだが、、、。
かすみはずっと尾崎を好きだった。 「僕」はかすみに告げる。 「だったら、ゆかりさんを
殺せばいい」と。 それから、「僕」は、かすみと本当の恋人になるのだが、、、、、、。
⇒ こんな感じで上巻(side-A)が進んでいくわけですが、下巻(side-B)はいきなり時間が
経過した場面から始まります。 そして、ゆかりの夫、尾崎が「僕」に「ある話」を切り出し、
物語は、驚愕のエンディングに向かって、動き始めます。
「side-A」は、恋愛小説の色彩が強いですが、「side-B」は、まるでミステリー小説のような
展開です。 そして、その物語を彩るのが、著者独特のさらっとした文体。 知的な会話を
散りばめながらも、嫌味にならないのは、さらさら文体のなせる業(わざ)なんでしょうねえ。
「本の雑誌」が選ぶ文庫ベスト10 2007年度版 恋愛小説部門:第3位。
僕のオススメ度:(8.5に近い)8
バッテリー X、Y (あさの あつこ著、角川文庫)
X
Y
作品の紹介
2003年頃から話題になりはじめ、累計1,000万部を超える大ベストセラーとなった「バッテリー」。
2007年には映画化、2008年にはドラマ化され、その人気は衰えることを知りません。
中学一年生の天才ピッチャー、原田 巧が主人公の、この作品は、もともとは児童文学として
書かれたものでしたが、その魅力に大人たちが気づいた後は、あっという間にブレイクしました。
僕は、TからWまでは、わりと早い時期に読んでいたのですが、残りは、物語が完結してから
(文庫で)一気に読もうと思っていたため、最終巻(Y)を読むのが遅くなってしまいました。
とは言え。読もうと思えば、(文庫でも)もっと早くに読めたんですけどね、、、。
⇒ さて本題。 宿敵、横手二中との試合で、生まれて初めての挫折を経験した巧は、キャッチャー
の豪とともに、再生していく。 そして、挫折を乗り越えた巧は、前にも増して、凄みのあるボールを
投げられるようになっていた。 しかし、まだ、自分の新しい力を、速球をコントロールできずにいた。
ところが、精神的にも成長した巧と豪のバッテリーは、そんなことには動じず、宿敵、横手二中との
再戦に向けて、練習を続ける。 そして、試合の日、横手二中の天才バッター、門脇に臆することなく、
立ち向かっていく。ど真ん中の速球で、、、、、、。
⇒ シリーズを通して、巧のクールさと熱さの描写は、冴えまくっていました。 著者が、彼のことを
書きたくて、10年以上の歳月を費やしたのが頷けます。 しかし、個人的に少し悔やまれるのは、
1巻から最終巻(6巻)までを一気読みしなかったことです。 1巻で最初に受けた感動のまま、最後まで
読んだほうがよかったんだろうなと思いました。 僕のオススメ度:8
空中ブランコ (奥田 英朗著、文春文庫)
作品の紹介
トンデモ精神科医 伊良部が活躍する、シリーズ第二弾。 でも、前作(「イン・ザ・プール」)
を読んでいなくても、全然だいじょうぶです。 ちなみに、前作「イン・ザ・プール」の読書
感想文は、「読書感想文2006年 part4」にあるので、興味のある方は、どうぞ。
⇒ 都心の大病院、伊良部総合病院の地下に位置する薄暗い精神科。 しかし、患者が一歩
足を踏み入れると、聞こえてくるのは、「いらっしゃーい」という場違いな明るい声。
声の主は、30代半ばの二重顎男、伊良部。 ろくに症状も聞かずに、とりあえず挨拶代わりに
ビタミン注射。 注射を担当するのは、エロい美人看護婦、マユミ。 でも、無口で横柄。
医者が医者なら、患者も患者。 義父のカツラを外したくてしかたがない大学講師。 尖って
いるものは、たとえ鉛筆でも怖い先端恐怖症のやくざ。 何を書いても、過去の焼き直しだと
心配でたまらず、全著作をチェックしないと先に進めない小説家、、、、、、。
そんな患者たちを相手に、親身に相談に乗ることもなく、伊良部は、むしろ、症状をおもしろ
がって、患者との時間を長く持とうとする(もちろん、一日一本のビタミン注射とともに)。
最初のうちは、伊良部の態度に腹をたてる患者たちも、いつの間にか伊良部のペースに乗せられ、
気がつけば、診察室を訪れている自分自身に驚く始末。
診察室では、注射以外の治療をしない伊良部だが、院外治療(=患者と遊んでるだけ?)の方は
次々と効果を現わし、患者の症状を直していく、、、、、、。
⇒ 前作に続いて、ほんとに笑わせてもらいました。 伊良部のキャラもいいんだけど、患者の
設定がどれも最高、 第三弾にも期待です。
表題作(「空中ブランコ」)を含む計5編収録の短編集。
2004年度「直木賞」受賞作品。 僕のオススメ度:8.5
臨場 (横山 秀夫著、光文社文庫)
作品の紹介
著者、横山 秀夫さんの真骨頂、警察小説の短編集です(計8編収録)。
タイトルの「臨場」とは、事件発生時の現場での初動捜査のこと。
短編集ではありますが、52歳のカリスマ検視官、倉石を軸とした連作のかたちを
とっています。 この倉石という男、あるときは、誰もが自殺だと見立てた現場を
殺人だと見破り、あるときは、殺人だと思われる現場から自殺の証拠を見つけ出す
という切れ者。 しかし、エリートではなく、上司を上司とも思わず、組織の枠から
はみ出している。 そんな倉石を慕うたくさんの刑事たちが彼を信じて捜査にあたる
ストーリーが秀逸でした。 短編とは言え、中身がギュッと詰まったハイクオリティー
のラインナップ。 横山作品は、ほんとに安心して読めます。 僕のオススメ度:8.5
真夜中のマーチ (奥田 英朗著、集英社文庫)
作品の紹介
横山 健司、通称 ヨコケン、25歳。 出会い系パーティーをプロデュースする、小さな
イベント会社社長。 ある日、ヨコケンの主催したパーティーに一人の男が現れた。
三田物産の三田総一郎、25歳。 三田を財閥系大企業の御曹司と思ったヨコケンは、
三田に取り入るが、後日、勘違いだとわかり、がっかり。 ところが、ヨコケンは、
ヤクザのフルテツと三田を恐喝することになっていたので、一転、フルテツに愛車の
ポルシェを没収されてしまう。
そうこうしているうちにヨコケンは、三田をミタゾウと呼ぶような仲に。 そして、二人は、
金持ち相手の賭場で儲けたフルテツの金を盗もうと企てるが、いつも、謎の美女に
じゃまされる。 美女の名前は、黒川 千恵、通称 クロチェ、25歳。 クロチェの父は、
詐欺師ぎりぎりの美術商。 フルテツの賭場に出入りし、客から計10億円の投資を
集めていた。 クロチェの狙いは、その10億を横取りすること。 だからヨコケンと
ミタゾウによけいな騒ぎを起こしてもらいたくなかったのだ。 クロチェの狙いを知った
ヨコケンとミタゾウは、彼女と手を組み、10億円強奪をめざすのだが、、、、、、。
⇒ 物語は、この後、中国人詐欺師、やくざのフルテツ、クロチェの父、そして、ヨコケン
たち3人組が10億円を巡り入り乱れて、ジェットコースター・ムービーみたいな様相を
呈します。 ドライブ感あふれるクライム・ノベルなんだけど、コミカルな面も持ち
あわせていて。 エンターテイメント色たっぷり。 ラストもさわやか。 何より、主人公の
25歳トリオが悪ガキみたいなとてもいい味出してました。
「本の雑誌」が選ぶ文庫ベスト10 2007年度版 恋愛小説部門:第5位。
とは言え、恋愛小説のテイストはあまりないですが、、、。 僕のオススメ度:8
デッドエンドの思い出 (よしもと ばなな著、文春文庫)
作品の紹介
表題作(「デッドエンドの思い出」)を含む計5編の短編集。
よしもと ばななさんは、この作品を2003年、39歳の時に書き上げました。
彼女は、1987年、23歳の時、「キッチン」でデビューしたわけですが、それから16年後の
作品になるわけです。 僕は、初期の頃の作品も、けっこう読んでいました。
透明感のある文章が印象的だったのですが、同時に、なんか、こう、陰(かげ)のあるイメージ
もありました。 けれど、最近の作品は、なんか、あたたかい眼差しを感じるんですよ。
この作品も、そうでした。 じわじわじわ〜っと、心に染み入っていくようなことばや描写が
たくさんあって。 全体的に、こころの描写の多い作品なんですけど、観念的な表現じゃなく、
あたたか〜いことばで語られていて。 特に、「幸せ」を、いろんな表現でとらえていたのが
読んでいて、とても心地よかったです。 こころをもみほぐしてくれるような一冊でした。
⇒「あとがき」で、よしもと ばななさんは、↓こう書いています。
「私はこの中の『デッドエンドの思い出』という小説が、これまで書いた自分の作品の中で、
いちばん好きです。これが書けたので、小説家になってよかったと思いました」
どうですか、読んでみたくなりませんか? 僕のオススメ度:8.5
私が語りはじめた彼は (三浦 しをん著、新潮文庫)
作品の紹介
大学で歴史を教える村川は、色男ではない。 容姿に恵まれているわけではないし、研究を
そっちのけにして、女性を追いかけているわけでもない。 しかし、村川には、何人かの愛人
がいた。 そして、妻と娘、息子を捨てて、娘が二人いる女性と再婚するが、、、、、、。
⇒ この作品は、村川という存在に翻弄された弟子、実の娘、義理の娘、実の息子、最初の妻を
描いた六編の連作短編で構成されています。 村川自身は、作品中には、ほとんど登場しません。
時間と空間をこえ、村川に、ある意味、人生を狂わされた人々の狂気、怨念、絶望をせつせつと
描写していきます。 大事件が起こるわけではないのですが、低い体温の、でも壮絶なエネルギー
が底流で渦巻いている。 そんな感じの物語でした。 僕のオススメ度:8
⇒ (余談) 僕にとっての三浦 しをんさんは、「格闘するものに○(まる)」とか「ロマンス小説の
七日間」とか、若い女性の奔放さを明るいタッチで描く作家、というイメージが強かったんです、
これまでは。 でも、この作品は、すごかったです。 まるで、明るくない(変な日本語だけど)。
ちょっと、いっちゃってる人たちの狂気ギリギリの世界観を、ハイクオリティーな筆力で、描ききって
いるのです。 年齢(だけ)で判断してはいけないけど、20代でこんな作品が書けるなんて、、、。
30歳で「直木賞」まで受賞してしまった三浦 しをんさん。 いったい、どこまで行くのやら、、、。
スカイ・クロラ (森 博嗣著、中公文庫)
作品の紹介
2008年夏、押井 守監督で映画化されたアニメの原作です。
カンナミは、「キルドレ」であり、戦闘機のパイロット。 「キルドレ」とは、
遺伝子操作の薬の影響で20年ほど前に現れた特殊な人間。 戦争で殺されない
限り、永遠に生き続けると言われている。 カンナミは、平和な近未来の世界で、
ショーとしての戦争をビジネスにしている会社で、パイロットを始めて5年。
空での戦闘以外では無感動な毎日を送っていた。
しかし、新しく着任した基地で、女性隊長のクサナギに出会い、微妙な変化が訪れる。
クサナギにまつわる2つの噂を耳にしたのも束の間、次に赴任した基地でエース
パイロットの女性、ミツヤに出会い、、、、、、。
⇒ 独自の世界観、そして、全編に流れる体温の低さ。 なんともふしぎな作品
でした。 ハマる人は、ハマるんだろうなと思います。 とは言え、僕は、大きな
期待を抱いていただけに、、、う〜ん、、、オススメ度:7.5 かな。
二重標的 (今野 敏著、ハルキ文庫)
作品の紹介
正式タイトルは「二重標的(ダブルターゲット) 東京ベイエリア分署」。
東京 お台場の東京湾臨海署、通称 ベイエリア分署の刑事捜査課 係長、安積。
45歳、バツイチ。 しかも、刑事部屋は慢性人手不足。 そんな安積に難事件が
降りかかる、、、。というお話。
⇒ 品川のライブハウスで演奏中に、30代のホステスが青酸カリで毒殺される。
客のほとんどが10代後半の若者で占めらているのに、なぜ、殺された女性は
その店にいたのか? 捜査本部が無差別殺人の方向で捜査を進める中、安積は
別の角度から事件を追い始める。 そして、まったく関係ないかに見えた別の
殺人事件との関連性を見つけ出し、事件の核心に近づいていく、、、、、、。
⇒ ジャンル的には、ミステリー小説というよりも、警察小説に近いのだろうと
思います。 トリックも一級品でしたが、主人公、安積と彼を取り巻く刑事たちの
人間ドラマとしての側面にむしろ惹かれました。
『本の雑誌』おすすめ文庫 2007年度版 警察小説部門:第3位 僕のオススメ度:8
予知夢 (東野 圭吾著、文春文庫)
作品の紹介
人気の「探偵ガリレオ」シリーズの第二弾。 計5編収録のミステリー短編集。
ひと玉、幽霊、予知夢、、、、、、。 そして殺人。
警視庁 捜査一課の刑事、草薙は、オカルトっぽい事件に遭遇する度に、大学の同級生、湯川を
訪ねる。 湯川は、物理学の助教授が本職だが、草薙の依頼を受けるやいなや、天才探偵に
早変わり。 霊の仕業だ、超常現象だと草薙が騒ぎ立てる怪事件の数々を、閃きと科学的手法で
鮮やかに解決していく、、、、、、。
⇒ ミステリーファンでなくても、読みやすい一作。 「探偵ガリレオ」シリーズは、その後、長編
「容疑者Xの献身」で直木賞を受賞しました。 僕のオススメ度:8
ガール ミーツ ボーイ (野中 柊著、新潮文庫)
作品の紹介
美世は30歳を過ぎたばかりの働く母。 小学一年生の息子、太朗と二人暮らし。 夫は二年前に
蒸発したまま消息不明。 そんな美世だが、女友達や同じマンションの住人、両親のあたたかい
心に支えられ、明るく暮らしていた。 しかし、息子のまわりに、夫の影が見え隠れし始め、、、。
⇒ 健気な母と息子の物語です。 読んでいて、思わず微笑んでしまいます。 母と息子を見守る
人たちも、いい味出しています。 物語の後半で、美世の夫が出てくるまでは、いい意味で淡々と
母と息子の生活が描かれていました。 やわらかい感じのお話。 僕のオススメ度:7.5
ぼくと、ぼくらの夏 (樋口 有介著、文春文庫)
作品の紹介
戸川 春一(しゅんいち)、良家の子女が通う私立高校の2年生。 両親は離婚し、今は刑事の父と
二人、祖父の遺産の大きな屋敷で暮らしている。 年上の彼女とも別れ、けだるい感じが漂い始めた
夏休みの朝、父が春一に告げた。「お前の同級生の女の子が死んだぞ」。
死んだ岩沢 訓子(のりこ)は、きれいだけど、目立たない女子だった。 しかし、妊娠4か月と知り、
春一は驚く。 遺書もあり、警察は自殺と判断するが、春一は、どうしても、そう思えなかった。
そんな時、街で偶然、出会った美人のクラスメート、酒井 麻子と捜査のまねごとを始めるが、今度は
訓子の遊び仲間だった恵子がひき逃げで命を落とし、、、、、、。
⇒ この後、春一と麻子の恋愛、春一の父と麻子の母の昔の恋、そして、春一の父の新しい恋のエピソード
を交えながら、物語が進んでいきます。 青春探偵小説みたいな感じの、読みやすい作品でした。
1988年「サントリー・ミステリー大賞」読者賞受賞作。 僕のオススメ度:7.5
堪忍箱 (宮部 みゆき著、新潮文庫)
作品の紹介
江戸時代のお話。 表題作(「堪忍箱」)を含む計8編の時代小説短編集。
宮部 みゆきさんは、現代ものの方が有名かもしれませんが、作品の半分くらいは時代もの
ではないでしょうか。 最近も「孤宿の人」や「日暮らし」などの名作を送りだしています。
本作「堪忍箱」は、1996年の作品です。 「火車」の6年後、「理由」の2年前の出版という
ことになります。
「市井につつましく生きる名もなき人たちが、死んでみると(いなくなってみると)実はこういう
人だった」みたいなテイストの作品がラインナップされています。 感動というよりも、ちょっと
ビターな感じです。 いつもながら安心して読めるクオリティー。 僕のオススメ度:7.5
代がわり (佐伯 泰英著、ハルキ文庫)
作品の紹介
正式タイトルは「代がわり 鎌倉河岸捕物控」。 表題作(「代がわり」)を含む計5編の
時代小説短編集。 時代小説で大人気の著者の「鎌倉河岸捕物控」シリーズの第11弾です。
と言っておきながら、、、僕は、このシリーズを読んだのは初めてでした。
でも、、、十分ついていけるので、ご安心ください。
舞台は、江戸の鎌倉河岸。 呉服屋の手代から、岡っ引き 宗五郎親分の養子となった政次が
幼馴染の亮吉、彦四郎たちと下町の事件を解決していくお話です。 ミステリーの要素も
さることながら、下町情緒あふれる人物描写が冴えていました。 時代小説好きの人なら
安心して読める一作です。
「本の雑誌」が選ぶ文庫ベスト10 2007年度版 時代小説部門:第7位。僕のオススメ度:7.5
孤独か、それに等しいもの (大崎 善生著、角川文庫)
作品の紹介
表題作を含む計5編の短編集。
大崎 善生さんと言えば、2002年、小説デビュー作の「パイロットフィッシュ」が話題となり、
その年の「吉川英治文学新人賞」を受賞。 その後も「アジアンタムブルー」という名作を発表。
当時は、僕も、「すごく透明感のある文章を書く人」という印象を持ちました。 「パイロット
フィッシュ」がよかったので、小説デビュー前のノンフィクション「聖の青春」まで読んじゃい
ました(これまた名作でした)。
そして、今回、約3年ぶりに大崎さんの作品を読んだわけですが、、、、、、。
まず感じたこと。 文章の透明感が上がっている。 でも、表現が文学的で繊細になっていて、
慣れるのにちょっと時間がかかったかも。 書評家から見れば、筆力がアップしたということに
なるのだろうけど、僕にはガラス細工のような心理描写は少し難しかったです。
さて本題。 この短編集の主人公たちは、(全編がそうではないのですが)それぞれ、肉親や恋人
の死がきっかけとなって、たいせつなものを喪失したまま、時を重ねていきます。
たとえば、高校時代の恋人を事故で亡くし、感情の起伏の乏しい日々を送っているOLとか、、、
たとえば、双子の妹に不用意な言葉を投げかけたまま、死なれてしまった女性ライターとか。
彼女らは、その喪失感に長い時間の後、気づいて立ち止まったり、心の暗闇に落ちていったりします。
しかし、やがて、失ったものを受け止め、飲み込み、魂を再生させ、自分の人生に戻る、自分の
人生を生きる決意をする。 そんな感じの作品が並んでいました。
単行本発売時(2004年5月)には、ブックレビューの雑誌「ダヴィンチ」の「今月の絶対はずさない!
プラチナ本」にも選ばれた名作。 でも、、、僕のオススメ度:7.5
太陽の塔 (森見 登美彦著、新潮文庫)
作品の紹介
京都大学 農学部5回生の「私」は、大学を自主休学中。 3回生の時、クラブの新入生、水尾さんを
彼女にできたまではよかったが、ふられてしまい、現在の生活の中心は「水尾さん研究」という名の
ストーカー行為。 とは言え。 自分を選ばれた人間だと思っている(思いたい)「私」は、それを
「ストーカー犯罪」とは一線を画す価値ある研究行為と位置付けている。 事実、水尾さんにも、
気づかれていないと思っていたが、ある日、水尾さんと同じ法学部の3回生、遠藤からストーカー行為を
やめるよう警告される。 遠藤は水尾さんの頼みで、「私」に警告したと言った。 しかし、、、、、、
⇒ けっこう話題になった小説です。 楽しみにして読み始めたのですが、、、、、、。
終始続く「私」の小難しい独白を、作品の魅力ととれるかどうかが、この作品を好きだと言えるか否かの
分かれ目なんだろうなあ、と思いました。 主人公は、自分で大きなことを言っているほど自分がたいした
人間ではない、とわかっているので、勘違い系の厭味はないんだけど、、、 なんか、モテない自堕落な
生活を送っている男の(自分への)言い訳を延々聞かされているような気分にもなり。 ま、憎めない男
の話ではあるんだけど、僕は、ちょっと疲れたかも、、、、、、。
「本の雑誌」が選ぶ文庫ベスト10 2006年度版 総合:第8位。
「日本ファンタジーノベル大賞」受賞作品。 僕のオススメ度:7
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