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読書感想文2008 part 3

「読書感想文2008」 part3 は、5月〜6月の読書録です。


 ↓ Click NOVEL mark !
コメント  チーム・バチスタの栄光(上)(下) (海堂 尊著、宝島社文庫)  

コメント(上) コメント(下) 作品の紹介 

心臓移植の代替手術である「バチスタ手術」。 アメリカでバチスタ手術の腕を磨いた
桐生 恭一は、助教授として、東城大学医学部付属病院に迎えられる。
彼は、病院内で最高のスタッフを選抜し、7人からなる「チーム・バチスタ」を結成。
それ以降、成功率が60%と言われているバチスタ手術を26例連続で成功させた。
ところが、直近の4例は、手術中の死亡が3件と、チーム・バチスタの栄光にも陰りが
見えてきた。 3件の失敗は、偶然なのか、人的ミスなのか。 病院長である高階が
内部調査を依頼したのは、権力争いに背中を向けて飄々と生きる万年講師の神経科医、
田口だった。 その直後、日本中のマスコミが注視する、アフリカの少年ゲリラの
バチスタ手術が行われた。 昼行燈と噂の絶えなかった田口だが、少年の手術前に
チーム・バチスタのメンバー全員のインタビューを敢行。 そして、手術当日も手術室で
バチスタ手術の一部始終を見守る。 手術は、無事成功し、田口は、チームに問題はない
のではと確信しかけたが、、、、、、。
⇒ ところが、この後も、手術中の死亡事故が発生。 そして、厚生労働省の技官、白鳥
が調査というより捜査のために乗り込んできた。 白鳥は、「ロジカル・モンスター」と
呼ばれる論客であり、超変わり者。 解決の糸口すらつかめなかった事件が、この後、
白鳥 & 田口コンビの活躍で、全容が明らかにされてゆく、、、、、、。
物語前半で探偵の役回りをする田口のキャラもなかなかですが、中盤から捜査に加わる
白鳥のキャラは強烈そのもの。 ミステリーとしても一級品だけど、白鳥 & 田口コンビ
の人物設定も最高でした。 おススメの一品です。
2006年度 第4回「このミステリーがすごい」大賞受賞作品。
2006年度 週刊文春「ミステリー・ベスト10」国内部門 第3位。 僕のオススメ度:8.5

コメント  サウスバウンド(上)(下) (奥田 英朗著、角川文庫)  

コメント(上) コメント(下) 作品の紹介 

上原 二郎は、中野に暮らす小学校6年生。 伝説の過激派、上原 一郎を父に持つ。
母、さくらは、自称 作家の父に代わって、喫茶店を切り盛りし、一家の生計を支えている。
グラフィックデザイナーの姉、洋子は21歳。 妹の桃子は4年生。
父の一郎は、税金を払わない。 子どもに学校に行かなくてもいいという変わり者。
区役所の人にも、学校の先生にも、警察にも、まったく遠慮なく、食ってかかる。
説教、演説まで始める始末。 父の行くところ、いつもトラブルが絶えない。
二郎は地元の不良中学生に目をつけられ、悪戦苦闘の毎日。 
その一方で、縁を切っていた母の実家に、妹の桃子とともに通い始め、お小遣いをもらったり、
ごちそうを食べさせてもらったり。 しかし、やがて、子ども心にも、上流階級とのズレを
強く感じるようになる、、、。
ある日、父の昔の知り合いがアキラという青年を連れてきた。 「アキラを居候させてほしい」
という、過激派の先輩の頼みを受ける父。 しかし、二郎と桃子がアキラになついたのも束の間、
アキラは活動家の重鎮の男を襲撃。 男は死んでしまい、アキラは殺人犯に。
この事件がきっかけで、一家は借家を追い出されることになってしまう。
しかし、いっこうにめげない父は突然、生まれ故郷の沖縄移住を宣言する。
本島ではなく、父さえ暮らしたこともない西表島に、、、、、、。
⇒ ↑というのが物語前半(=上巻)のストーリー。
西表島に移住し、森の中の廃屋で新生活を始める家族。 水は井戸水、電気は自家発電。
でも、東京にはない自然と海、そして、島民たちのあたたかい情が二郎を慰めてくれた。
質素だけれど、平和な暮らしに慣れ始めたと思ったら、またしても、元過激派の父の血を熱くする
事件が起こり、、、、、、。
⇒ 前半もおもしろかったけど、この物語の見どころ(読みどころ)は、何と言っても、後半に
あると思います。 上巻では、無茶苦茶に思えた父の言動や行動も、下巻では至極まともに見えて
くるのがふしぎです。 そして、島の人たちのあたたかさ。 物語後半を盛り上げ、読後感をすごく
さわやかなものにしているのは、島民たちの心根。 何度、涙腺がゆるんだことか。
老若男女におすすめしたい傑作です。 ぜひ、読んでみてください。
2006年度「本屋大賞」第2位。 60万部のベストセラー。 僕のオススメ度:9

コメント  シリウスの道(上)(下) (藤原 伊織著、文春文庫)  

コメント(上) コメント(下) 作品の紹介 

大手広告代理店 営業部の副部長、辰村は38歳。 彼は13歳まで大阪の下町で暮らしていた。
母の再婚相手は、絵画教室で絵を教えるやさしい男だった。 貧しいながらも、辰村は近所に
住む、同級生の明子、勝哉との日々に満足していた。 しかし、明子が父親から受けた暴行を
機に、辰村と勝哉は、明子の父に殺意を抱く。
辰村と勝哉が、殺害しようとした目の前で明子の父は、偶然、事故死を遂げる。
しかし、辰村の父も、同じ頃、自殺を遂げ、三人は別々の土地で、新しい生活を始めることに。
それから25年、三人が顔を合わせることもなく時は流れた、、、、、、。
ある日、辰村の部が、18億円という大型コンペに参加することになる。 彼は4歳年上で社内
きっての美人部長、立花とともに、不利な状況の中で、懸命に準備に励む。
しかし、社内からも足を引っ張られ、境地に追い込まれる。 そんな中、コンペを主催した
大手クライアントの常務夫人におさまっている明子を中傷する脅迫状が届き、辰村も犯人探し
に協力することになった。 そして、25年ぶりに明子と再会することに。
辰村は、コンペの準備と犯人探しの両方に追われることになる。 それだけにとどまらず、
立花との関係も進展を見せ始め、、、、、、。
⇒ 広告代理店を舞台にしたビジネス小説というのがA面で、初恋の女性を苦しめる脅迫状の
犯人を追うミステリー小説というのがB面。 この作品は、これらふたつの側面を持つだけでなく、
A面とB面を同時進行で描くという難易度の高い構成を成立させています。
個人的には、A面が好みでしたが、B面の方も、高い評価を受けています。
2005年度「週刊文春」ミステリー・ベストテン 第7位
2005年度「このミステリーがすごい」第6位。 僕のオススメ度:8.5

コメント  約束 (石田 衣良著、角川文庫)   作品の紹介 

表題作(「約束」)を含む計7編を収録した短編集。
どの作品も、心に傷や痛みを抱えている人物が登場します。
― 友人が目の前で通り魔に殺されてしまう小学生
― 事故で片足をなくした19歳の引きこもりの青年
― 突然、耳が聞こえなくなった男の子と口がきけなくなった女の子
― バイクのレース事故で夫を亡くした30代の女性
― 仕事一途の両親を持つ、登校拒否の中学生男子
― 夫を癌で亡くし、山奥の桜を訪れる30代の女性
― 小学生の息子が脳腫瘍で倒れた矢先、父を亡くす主婦
とは言え。 心の負の部分にフォーカスした作品ではなく、心の再生に重点が置かれて
います。 どの作品も、終盤には、涙腺がゆるむ展開が用意されていて。
もうひとつ。 この作品の見どころは、心の再生を助ける人たちの存在です。
読者は、あるときは、心に傷や痛みを抱えた人物に、そして、あるときは、心の再生を
サポートする人物に感情移入して、ページをめくるのでは、と思います。
きっとお気に入りの一編が見つかる作品集。 僕のオススメ度:8.5

コメント  クワイエットルームにようこそ (松尾 スズキ著、文春文庫)   作品の紹介 

売れないライターの明日香は28歳。 バツイチ。 別れた夫は意味不明の遺書を残し自殺。
同棲中の男との関係も煮詰まり、大ゲンカ。 挙句の果てに、睡眠薬、精神安定剤、抗鬱剤を
酒といっしょにオーバードーズ(過剰摂取)してしまう。
救急車で運ばれた病院で、ハードな胃洗浄のかいあって、命はとりとめたものの、目が覚めたら
精神病院のベッドの上で両手両足を拘束されていた、、、、、、。
こうして始まった明日香の精神病院生活は、拒食症の女の子たち、海千山千の女、冷徹無比
なナースに囲まれ、怒り、笑い、自己嫌悪、達成感などさまざまな感情が交錯しながら進んでいく。
⇒ 独白と会話文中心の構成。 テンポのいい文体。 シュールな展開。 小説なんだけど、映画を
観ているような作品でした。 ふつうの小説に飽きた人にはおススメです。
著者の松尾 スズキさんは、劇団「大人計画」を主宰。 俳優としての顔が有名だと思いますが、
演出家、脚本家、小説家、エッセイストなどさまざまな顔を持つ多才な人です。
この作品は、松尾さんの監督・脚本、内田有紀さん主演で映画化されました。
130ページの中編。 2006年度「芥川賞」候補作品です。 僕のオススメ度:8

コメント  幻夜 (東野 圭吾著、集英社文庫)   作品の紹介 

兵庫県 西宮市の町工場の経営者が借金苦で自殺した。 寂しい通夜が終わり、喪主である
息子の雅也は、叔父からさっそく借金の返済を求められる。 と、その時、大地震が発生。
雅也は無事だったが、叔父は倒壊した家屋の下敷きに。 しかし、雅也は瓦を叔父の頭に
振り下ろし、殺害する。 これで叔父の借金は返す必要はないと安堵したのも束の間、後ろに
若い女性が立っていた、、、、、、。
雅也は、その女性、美冬とともに、阪神大震災で混乱の故郷を捨て、東京で暮らし始める。
美冬は銀座の宝石店に、雅也は下町の町工場に職を得て、新しい生活が順調にスタートを切った
かに見えたが、美冬から雅也に次々と奇妙な依頼が舞い込む。 美冬のことを、故郷での秘密を
共有する、絆の強い恋人だと信じて疑わない雅也は、彼女の願いを実直に遂行していく、、、、、、。
⇒ その後、美冬は、次々と成功を収め、雅也の手の届かない(と言ってもいいような)存在に。
しかし、雅也は、あいかわらず、貧乏な工員暮らし。 しかも、唯一の心の支えは、たまに部屋を
訪れる美冬の「雅也だけ」ということばしかない。
⇒ 美冬の依頼は、留まるところを知らず、殺人、犯罪の領域にまで手を染めてしまっても、彼女
から逃れられない雅也の葛藤、哀しさは、心を打ちます。 読者は、雅也より一足先に、美冬に
疑念を持ち、美冬の秘密に、刑事の捜査情報も参考にしながら、近づいていく。 そんなふうに
この作品を読んだ人が多いのではないでしょうか。
⇒ 上には詳しく書きませんでしたが、美冬の頭脳、怜悧さには、読む人すべてが脱帽するでしょう。
自分の野望を叶えつつ、自分の過去を消していく、という高等テクニックも、美冬の美貌と頭脳に
かかれば、リアリティーを持つ。 このことを、いくつものエピソードで、読者に畳みかけていく
構成もすばらしかったです。
780ページ弱の大作。 でも、長いと感じさせない筆力はさすが。
2004年度「週刊文春」ミステリー・ベストテン 第7位。 僕のオススメ度:8.5

コメント  硝子のハンマー (貴志 祐介著、角川文庫)   作品の紹介 

日曜日の昼下がり、上場を控えた企業の老社長が殺される。 しかし、現場は密室だった。
社長室への出入りは監視カメラで記録されていたが、犯行時刻に人の出入りはなし。 
社長室まで監視カメラに映らずに行ける可能性のあった専務が逮捕されるが、彼は殺人のあった
時刻には強力な睡眠薬で眠らされていた。
専務の家族から依頼を受けた若手弁護士、青砥(あおと)純子は、真犯人を突きとめるべく、防犯
コンサルタントの榎本に協力を仰ぎ、事件の捜査に乗り出すが、、、、、、。
⇒ 榎本の名推理のおかげで、純子は少しずつ事件の核心に近づいていくわけですが、どうしても
密室のトリックを解明できないまま、時間が過ぎていきます。 これが物語の第一部(約360ページ)。
そして、一転して、第二部では、真犯人の生い立ちから、犯行直前の暮らしぶり。 そして、犯行の
準備過程が丹念に語られていきます。 第一部もハイレベルでしたが、第二部の犯人像の描写が
物語に厚みを加えることに大きな効果をもたらしていると思いました。 
なかなかユニークな密室トリックに出会える本格ミステリーです。
600ページ弱の長編。 「日本推理作家協会賞」受賞作。
2004年度「週刊文春」ミステリー・ベストテン 第11位
2004年度「このミステリーがすごい」第6位。 僕のオススメ度:8

コメント  6(シックス)ステイン (福井 晴敏著、講談社文庫)   作品の紹介 

「亡国のイージス」、「終戦のローレライ」で有名な福井 晴敏さんのミステリー短編集。
「ステイン」は「しみ」という意味。 その名の通り、消せない人生のしみ、心のしみを
かかえた人々の6つの物語が収録されています。
6つの短編には、防衛省 情報局の工作員が主人公、もしくは、それに準じる立場で登場
します。 CIAやKGB、マフィアは出てきますが、警察や探偵が登場しない、一風変わった
ミステリーです。 通常の工作員のみならず、アシスタント的な工作員、そして、特別な
訓練を受けた特殊工作員が、それぞれの立場で、職務を全うしようとする使命感、プライド、
苦悩の描き方が秀逸でした。 あと、著者の作品が大作として映画化されたイメージが強い
のでしょうか。 どの作品も映画的な印象を持ちました。 短編とは言え、2時間映画にできる
ような骨太で中身の濃い作品がずらりと並んでいます。
2007年度「本の雑誌」おすすめ文庫 国内ミステリー部門 第1位。 僕のオススメ度:8

コメント  Fake (五十嵐 貴久著、幻冬舎文庫)   作品の紹介 

ジャンル的には「コンゲーム小説」として、分類、紹介されることの多い小説です。
「コンゲーム」とは、「詐欺」とか「騙し合い」を意味することばで、この「Fake」も、
そのタイトル通り、「詐欺」や「騙し合い」がてんこ盛りの作品です。
個人経営の探偵事務所を営む宮本のところに、ある日、奇妙な依頼が舞い込む。
「息子をどうしても東京芸大に合格させてほしい」という父親に連れられて、実技は抜群、
でも学科がからきしダメという浪人生、昌史が現れた。
宮本は、一年前、得意のAVとITの技術を総動員し、絶対ばれないカンニング方法を編み出して
いた。 今回も、親友の遺児で現役東大生、加奈の協力を得て、大学センター試験で昌史に
高得点を取らせることが確実だった。 しかし、テストの終了直前、宮本は加奈とともに警察に
逮捕されてしまう、、、、、、。
⇒ 実は、この逮捕、カンニング行為がばれたからではなく、何者かの密告によるものだった。
昌史の受験がダメになったのは言うまでもないが、密告者の狙いは、区議会議員である昌史の
父を辞職に追い込むことだった。
⇒ 宮本は、密告者の狙いや過去を探り、昌史の父とともに復讐に乗り出す。 しかし、その
復讐の方法は、十億円を賭けたイカサマ・ポーカーだった、、、、、、。
⇒ 登場人物同士の騙し合いはもちろん、作者が読者にしかけたトリックもなかなかの出来でした。
読後感グッドの痛快小説。 スカッとしますよ。
著者の五十嵐 貴久さんは、ホラー小説、時代小説、青春小説なんでもOKの作家です。
僕にとって、五十嵐さんの作品は、今回が三作目でしたが、読むたびに驚かされます。
2007年度「本の雑誌」おすすめ文庫 国内ミステリー部門 第7位。 僕のオススメ度:8

コメント  影踏み (横山 秀夫著、祥伝社文庫)   作品の紹介 

双子の兄弟、真壁 修一と啓二。 二人は、かつて幼馴染の久子に恋をした。 久子は悩みに
悩んだ結果、兄の修一を選ぶ。 啓二の人生は、その後、坂道を転がるように、落ちていく。
やがて、犯罪にも手を染めるようになり、19歳の時に、家に火をつけて無理心中を図った母、
巻き添えをくった父とともに帰らぬ人となる。
時は流れ、、、。 34歳になった修一は、窃盗犯として、刑務所に出たり入ったりの生活を
送っている。 久子と結婚したわけではないが、離れられずにいた。 修一の身体には、19歳
のときから歳をとらないでいる啓二の魂がすみついている。 とは言え、啓二が修一を悪の道に
誘い込んだわけでもなく、修一と啓二は、今では歳の離れた兄弟として、折り合いをつけている。
そして、3月。 修一は二年の刑期を終え、出所するが、さまざまな火の粉が彼に降りかかる。
しかし、修一は、刑事のごとく、ひとつひとつ丹念に事件の謎を紐解いていく、、、、、、。
この作品は、そんな修一を中心に描いた七編からなる連作短編集です。
いつもながら、横山作品は、安心して読めます。 読者へのヒントの提示がフェアなミステリー。
2007年度「本の雑誌」おすすめ文庫 国内ミステリー部門 第3位。 僕のオススメ度:8

コメント  余寒の雪 (宇江佐 真理著、文春文庫)   作品の紹介 

表題作(「余寒(よかん)の雪」)を含む計7編収録の短編集。
すべて江戸時代後半のお話。
表題作は、仙台 伊達藩の直参、千石を給わる原田家に生まれた知佐の物語。
知佐は二十歳を迎えたが、嫁に行く気がまったくない。 男髷を結い、男装で剣術修行に
励む毎日。 そんな知佐の行く末を案じた原田家の面々が、ある計画を思いつく、、、。
その計画とは―――。 叔父夫婦が彼女を江戸に連れていくことになった。 知佐は、江戸
見物や他流試合ができるものと思い、ふたつ返事で同行。 しかし、江戸の逗留先に着くと、
翌日、彼女の祝言が行われると聞かされ、仰天、激怒。 しかも、相手は妻に先立たれ、五歳の
息子がいる、同心のやもめ男。 後妻というのも、家格が違うのも気に入らない。
その上、叔父夫婦は、一度ならず、二度も知佐を裏切り―悪気はないのだが―、彼女を残し、
だまって仙台に帰ってしまう。
仙台に帰りたくとも、雪の季節になってしまい、帰れない。しかも、実家がすでに持参金を
もらってしまっているため、勝手なこともできない。
途方に暮れる知佐に、縁談の相手の男は、「結婚は無理じいしない。春まで子どもの相手をして
くれたら、持参金も返してもらわなくてよい」と切り出した。 男の条件をしぶしぶ承諾する知佐。
こうして、知佐の江戸での暮らしが始まった。 そして、春の初めに彼女が下した決断とは、、、。
⇒ 何度か書きましたが、僕は著者(宇江佐 真理さん)の時代小説の大ファンです。
軽やかな文体。 あたたかみのあふれる作風。 安定感のあるクオリティー。 そして、清涼感
いっぱいの読後感。 時代小説だというだけの理由で読書リストから外さないでほしいです。
2001年度「中山 義秀 文学賞」受賞作。 僕のオススメ度:8

コメント  いじん幽霊 (高橋 克彦著、集英社文庫)   作品の紹介 

正式タイトルは「完四郎広目手控 いじん幽霊」。 「完四郎広目手控」シリーズの三作目です。
(※第一作、第二作を読まずに、この作品から読んでも、だいじょうぶです)
表題作(「いじん幽霊」)を含む計12編の連作ミステリー短編集。
舞台は明治維新前夜(1864年)の横浜。 旗本の家に生まれながら、広目屋(広告代理店)を
手伝い、町人として生きる香治(こうや)完四郎。 戯作者 仮名垣 魯文(かながき ろぶん)と
いうよきパートナーを得て、江戸で瓦版を出して大評判に。
やがて、イギリス、フランス、ドイツ、清などが横浜に居留し始め、時代が大きく変わろうと
していた。 そんな時代の大きなうねりを見定めようと、完四郎は横浜に滞在することに。
⇒ 横浜で起こる異人がらみの難事件の数々を、シャープな頭脳で次々と解決する完四郎。
当時の時代背景を盛り込みながら、ミステリーとしても一級品の仕上がりです。
物語全般を通じて、完四郎の関心が、新聞発行へと移っていく心理描写も秀逸でした。
2007年度「本の雑誌」おすすめ文庫 時代小説部門 第9位。 僕のオススメ度:8

コメント  家、家にあらず (松井 今朝子著、集英社文庫)   作品の紹介 

江戸北町奉行所同心の娘、瑞江は、十七歳。 一年前の夏に母を亡くし、父と弟と暮らしていた。
しかし、母方の親戚の「おば様」から、志摩二十万石の砥部(とべ)家の江戸屋敷への勤めを
勧められ、渋々、奉公にあがることになる。 「おば様」は、屋敷の奥御殿で「御年寄」という
最高位にあり、浦尾という名で、大奥同様の女社会の頂点に君臨していた。
浦尾は瑞江を特別扱いせず、下働きを命じる。 瑞江は、女ばかりの世界で悪戦苦闘するが、
持ち前の気の強さで何とか持ちこたえ、勤めを果たしていた。
そんな折、江戸で人気絶頂の役者が砥部家の女中と心中を図り、遺体で発見される。
この事件の担当は、瑞江の父、笹岡 伊織だった。
やがて、瑞江の勤める屋敷でも、不審な自殺や殺人が続き、瑞江のみならず、娘の身を案じる
父が町方の手の届かない大名屋敷まで、懸命に手を伸ばす、、、、、、。
⇒ この作品は、家のあり方、女性の生き方を描いた秀作であると同時に、一級のミステリー
でもあります。 さまざまな要素を盛り込みながら、破綻のない構成力は、ほんとにすごいと
感心させられました。 人によっては、ほんの少し、難しい小説だと思われるかもしれませんが、
「本好き」な人には、お勧めの「大人の小説」です。
著者の松井 今朝子さんは2007年、「吉原手引草」で直木賞を受賞されています。
2007年度「本の雑誌」おすすめ文庫 時代小説部門 第1位。 僕のオススメ度:8

コメント  天国はまだ遠く (瀬尾 まいこ著、新潮文庫)   作品の紹介 

山田 千鶴、23歳。 短大を卒業し、保険会社で外交の仕事を始めて3年。
ノルマを達成したことがなく、上司や同僚ともうまくやっていけない。
死のうと決心して辿り着いたのは、京都北端のさびれた村。 村に一軒しかない民宿で
千鶴を出迎えたのは、30歳の脱サラ男、田村さん。 千鶴は、さっそく睡眠薬を飲んで
自殺を図るが、32時間眠っただけで、命を取り留め、さわやかな目覚めを迎えた。
ぐっすり寝たせいもあり、死ぬ気が失せた千鶴は、田村さんの民宿に、しばらく滞在
することになり、、、、、、。
⇒ 千鶴を見守る田村さんがいい味を出しています。 一泊千円という破格の宿賃を
提示する商売っ気のなさ。 それもそのはず、民宿にほとんど客はなく、養鶏と有機野菜
で生計を立てている。 気が向けば、漁に出かけたり、自分でそばを打ったり。
自然の恵みに囲まれて、肩の力を抜いて生きている。 そんな田村さんと暮らすうちに
千鶴も次第に心がほぐれていき、、、やがて、気づくのです。 満たされているけど、
ここは自分の居場所でないことに、、、。
⇒ たんたんと進む物語です。 登場人物も、千鶴と田村さん以外に少しだけ。
でも、千鶴のこころが、じわじわ〜っと癒されていく描写、田村さんの天然のやさしさが
何とも言えない味わいで。 まさに「癒しの小説」でした。 僕のオススメ度:8
コメント  天使の歌声 (北川 歩実著、創元推理文庫)   作品の紹介 

表題作(「天使の歌声」)を含む計6編の連作ミステリー短編集。
科学書の企画と編集の仕事から、一転、探偵に転職した30過ぎの男、嶺原(みねはら)が
出会った6つの事件の記録です。 著者の北川さんの作品を読むは、初めてだったのですが、
予備知識通り、物語終盤でのどんでん返しの連続が特徴的な作風でした。
こういう展開、作品が好きな人には、かなりのお勧めです。 が、僕は、「この事件の真相は、
実はこうでした」と、物語の最後の最後で説明されているような気がして、、、、、、。
推理を楽しみながら読み進めるタイプの人には、ツライかも。
2007年度「本の雑誌」おすすめ文庫 国内ミステリー部門 第4位。 僕のオススメ度:7
コメント  ひとりの女 (群 ようこ著、朝日文庫)   作品の紹介 

セノ マイコ 45歳。 独身。 170cm、55kg。 玩具会社 販売企画部 課長。
仕事に生きる女。 趣味と呼べるものはない。 楽しみは、食べること、そして近所の野良猫に
えさをあげること。 言いたいことを言ってしまう性格のため、会社では周りから怖がられている。
また、会社の屋台骨を支えるヒット商品を生み出した功労者にもかかわらず、男どもの嫉妬もあり、
陰に日向にあることないこと噂にされてしまう。 そして、とどめは、マザコンの部下。 会議では
批判ばかりを口にするくせに、自分ではアイデアを出さないダメ男。
そんな環境の中、仕事に邁進するマイコの身体に変調が訪れ、、、、、、。
⇒ エリート然としたキャリア・ウーマンではなく、オヤジ系仕事人間のお話です。
働く女性のたいへんさを描いてはいますが、主人公のマイコのキャラのおかげで、必要以上に深刻に
ならずに読み進めました。 テンポのいい独白、全編にあふれるユーモア、そして、読後感さわやかな
ラスト。 女性向きの話だと決めつけないで、男性のみなさんも、手にとられてはいかがでしょう。
僕のオススメ度:(8に近い)7.5

コメント  ワーキングガール・ウォーズ (柴田 よしき著、新潮文庫)   作品の紹介 

墨田 翔子、37歳。 独身。 大手音楽産業の企画部 係長。 年収1千万円オーバー。
都内の1LDKのマンション所有。 部下からも上司からも、コワい女と思われている。
ランチもひとり。 でも、彼女は、意に介さず、バリバリ仕事を片付けていく。
とは言え、ストレスがたまり気味の日常に嫌気がさして、半ば衝動的にオーストラリアの
ケアンズへ。 しかも、ペリカンを見るため。という???な理由で。
翔子は、この旅で、ツアーコンダクターの愛美(まなみ、29歳)と意気投合し、メル友に。
あいかわらず、職場では、数々のトラブルに見舞われるが、部下の男と接近して、、、。
⇒ 全7章の構成のお話です。 4章が翔子の視点。 そして、3章が愛美の視点で語られて
いきます。 主人公は、翔子なのですが、愛美の話が、いい感じの緩衝材になっていました。
とは言え。 メインディッシュは翔子の話。 彼女が自分を客観視して語る独白は秀逸。
↑「ひとりの女」同様、一見、強い、でも、弱い女のお話。 僕のオススメ度:7.5

コメント  月ノ浦惣庄公事置書 (岩井 三四二著、文春文庫)   作品の紹介 

↑のタイトルは「つきのうら そうしょう くじのおきがき」と読みます。
月ノ浦は、琵琶湖の北端にある地名。 惣庄は、村落くらいの意味。
公事とは、裁判のこと。 置書は、記録文書みたいな意味でしょうか。
この作品は、十五世紀半ば、室町時代のお話です。
月ノ浦は、何百年もの間、隣村の高浦と土地を巡る争いを続けていた。
そして、また、今回も、新たに高浦に着任した代官の陰謀によって、公事(裁判)を争うことになる。
裁判は、歴史的に証拠文書を丹念に保管し続けた月ノ浦の勝利に思われたが、結果は敗訴。
寺社の権力に手をまわした高浦の代官の策略の結果だった。 しかし、月ノ浦の民も黙ってはいない。
わずかだが年貢を納めている比叡山延暦寺の力を頼みにして、控訴すべく行動を開始する。
とは言え、山門もかんたんに力を貸してはくれない。 月ノ浦の代表と山門との根比べ、そして、高浦
の代官との知恵比べが幕を開ける、、、、、、。
⇒ 一見、地味な作品なのですが、なかなかどうして。 骨太な秀作です。
物語は、この後、知恵比べ、根比べに力比べも加わり、月ノ浦の住民たちの苦悩、苦労が増していきます。
それでも、尊厳と暮らしを守るため、住民たちがひたむきに戦うさまに、じ〜んときました。
そして、物語のラストで明かされる、高浦の代官の出生の秘密。 このミステリーとしての要素も、物語
の懐を深くするのに重要な役割を果たしていました。
2006年度「本の雑誌」おすすめ文庫 時代小説部門 第6位。
2003年度「松本 清張賞」受賞作。 僕のオススメ度:8

コメント  夏の庭 - The Friends - (湯本 香樹実著、新潮文庫)   作品の紹介 

小学6年生の仲良し少年三人組の木山、山下、河辺。 山下が祖母の葬式で生まれて初めて死体を
見たことがきっかけになり、三人は町はずれに住む一人暮らしの老人を観察しはじめる。
ただ単に死体を見たいというだけの理由で。 ところが、その老人(おじいいさん)の生活は
驚くほど単調で、観察し甲斐がない。 おまけに、親切でゴミ出しをしてやろうとしていたところを
老人に見つかり、叱られてしまう。 しかし、やがて、少年たちと老人は打ち解け、少年たちにとって
一生忘れられない夏が幕を開ける、、、、、、。
少年たちが老人からいろんなことを自然に教えてもらうプロセスがとてもいい感じで描かれていました。
そして、老人の方も、家の外壁にペンキを塗ったり、雑草だらけの庭をきれいにしてコスモスを植えたり、
少年たちとの交流で、こころが再生されてゆきます。 結局、最後に、おじいさんは死んでしまうのですが、
「泣かせ」ではなく、少し大人になった少年たちをさらりと描いているラストに好感が持てました。
大人も子どもも、いっしょに読める作品です。
日本児童文学者協会新人賞、児童文芸新人賞をはじめ内外の児童文学賞を多数受賞。
世界10カ国以上で翻訳されている名作。 僕のオススメ度:7.5(大人には)

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