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読書感想文2010 part 2
「読書感想文2010」 part2は、3月〜4月の読書録です。
↓ Click NOVEL mark !
食堂かたつむり (小川 糸著、ポプラ文庫)
作品の紹介
倫子(りんこ)は、25歳。 ある日、トルコ料理店でのアルバイトを終えて、家に戻ると、部屋はもぬけの殻だった。
同棲中のインド人の恋人に、家財道具も、お金も、たいせつな台所道具もすべて持ち逃げされてしまっていた。
倫子は、失意の内に十年ぶりに故郷に戻る。 失恋のショックで声の出なくなった彼女を待っていたのは、大嫌いな
オカンとオカンのペットの豚、エルメスだった。 家には入れてもらえたが、十年前と変わらず、オカンとの仲は
しっくりいかない。 自宅の敷地内でスナックを営むオカンは、享楽的なままだった、、、。
倫子は、自宅の物置小屋を食堂にすることを思い立ち、近所に住むおじさん、熊さんの力を借りて、無事、オープンに
こぎつける。 手作りの店を「食堂かたつむり」と名付け、お客様は一日にひと組だけというスタイルにする。
事前にお客様のリクエストを聞いて、地元の食材や旬のものを出すのがコンセプト。 やがて、「『食堂かたつむり』で
食事をすると願いが叶う」という噂が広まり、軌道に乗り始める。
オカンとの関係は相変わらずだったが、ある日、オカンが倫子にあることを告白する、、、、、、。
前半は、「食堂かたつむり」での、倫子とお客様とのふれあいが描かれ、後半は、倫子とオカンの絆の再生が描かれて
います。 「食堂かたつむり」とオカンとの関わりを通して、倫子が懸命に生きて成長するプロセスは、著者の人間性が
反映されて、読者の心をうつのだと思いました。
女性向きの作品と思われがちですが、男性にも読んでほしい作品。
2010年2月に映画化。 倫子役に柴咲コウさん、オカンは余貴美子さん。 僕のオススメ度:8.5
借金取りの王子 (垣根 涼介著、新潮社文庫)
作品の紹介
正式タイトルは、「借金取りの王子 君たちに明日はない2」。 ヒット作「君たちに明日はない」のパート2です。
表題作(「借金取りの王子」)を含む5編を収録した連作短編集。
村上 真介、34歳。 経営が苦しくなった企業からの依頼を受け、リストラ面接でひとりでも多くの社員を辞めさせる
リストラ請負会社の面接官。 でも、冷徹なだけの人間ではなく、人の痛みを知りながら、仕事を進めて行く。
現在、自分がかつて面接した8歳年上の女性、陽子との恋愛が進行中。
デパートの外商で年に二億円を稼ぐ30すぎの女性、慶応卒の大手サラ金会社店長、女性恐怖症のために自分の
未来をあきらめた生保会社係長、、、今回も、パート1に続き、リストラを通して、さまざまな人間模様を描いていきます。
表題作の「借金取りの王子」は、泣けますよぉ。 この作品がしゃれにならない時代になってしまいましたが、読者に
勇気をくれる秀作です。 パート3も発売になりました。 僕のオススメ度:8.5
シリーズ第1弾「君たちに明日はない」のブックレビューは コチラ。
2010年1月に、NHKでドラマ化されました(主演は、坂口憲二さん)。
トーキョー・プリズン (柳 広司著、角川文庫)
作品の紹介
部隊は、終戦直後、「東京裁判」前夜の巣鴨拘置所。 退役軍人で私立探偵のフェアフィールドは、ニュージーランド
から失踪人の消息を探るために来日。 巣鴨拘置所を訪れた際に、副所長から、捜査に協力する交換条件として
出されたのは、囚人キジマの記憶喪失を取り戻すことだった。 キジマは、戦争前後の5年間の記憶をなくしており、
捕虜収容所所長時代の虐待で告訴されていたが、記憶喪失のままでは裁判を進められない状況にあった。
折しも、拘置所内では、持ち込み不可能と思われる毒物による殺人事件が連続して発生。 フェアフィールドは、キジマ
の天才的推理力をもとに事件の捜査を進める。 それと並行して、キジマの友人、頭木(あたまぎ)と妹の杏子(キジマ
の婚約者)とともに、キジマの無実を晴らすべく、奔走する。
殺人事件の方は、物語終盤で解決するのですが、キジマの裁判の行方はラストまで予断を許さず、、、、、、。
さらに、「エピローグ」で、思いもよらぬどんでん返しの謎も明らかになるというオマケ付き。
「ジョーカー・ゲーム」や「ダブル・ジョーカー」で話題の柳広司氏のブレイク前夜の傑作。 ミステリーとしても骨太の
作品ですが、戦時下の哀しい狂気や外国人から見た日本観、戦争直後の日本の状況などもていねいに織り込んで
あり、読み応えたっぷりでした。
「本の雑誌」2009年度文庫「国内ミステリー部門」第1位。 僕のオススメ度:8
Twelve.Y.O.(トゥエルブ・ワイ・オー) (福井 晴敏著、講談社文庫)
作品の紹介
アメリカ人の父と日本人の母を持つ東馬(とうま)は、父を知らずに育つが、母の死後、父の仕事を手伝うことになる。
父はCIAのメンバーだった。 東馬は、次第に頭角を現すが、父と袂を分かち、自衛隊にスカウトされる。
自衛隊では、特殊部隊の工作員の教官を務め、理沙という少女を最強の兵器として育て上げる。 やがて、彼の父は
アメリカでCIAのトップに立ち、さらに階段を登ることになる、、、、、、。
その後、東馬は、世界最強のコンピューターウィルス「アポトーシスU」を手に入れ、在日米軍基地に電子的攻撃を開始。
自ら「12(トゥエルブ)」と名乗り、「ウルマ」と名付けられた理沙と二人だけで国防総省を手玉にとった。
「12」は、防御不能の「アポトーシスU」ばかりか、父との関係を証明する「BB文書」まで手中にしているため、アメリカも
日本も彼に手を出せずにいた。 そして、「12」の要求を受け入れ、ついに、沖縄から米軍を撤退することを決定する。
しかし、この撤退劇も、「12」の行動も、日米の政治的思惑の産物だった、、、、、。
スケールの大きな骨太の物語。 「ローレライ」や「亡国のイージス」でその後、大ブレイクした著者の原点とも言える
作品ですが、読むのにかなり頭の体力を使います。
1998年度「江戸川乱歩賞」受賞作。 僕のオススメ度:8
Op. ローズダスト 上・中・下 (福井 晴敏著、文春文庫)
(1)
(2)
(3)
作品の紹介
タイトルの「Op」は「オペレーション」と読みます。「作戦」くらいの意味でしょうか。
【あらすじ】放射能を使わずに核兵器並みの威力を持つ爆薬、TPexの開発企業、アクトグループの社長、役員が3人続けて
殺害される。 3人は、自衛隊情報局のOBであり、殺害方法もすべて爆弾によるテロだった。
犯行は、入江一功(かずなり)が率いる元自衛隊の特殊工作部隊のメンバー5人によるものであり、自らを「ローズダスト」と
名乗った。 事件に対応するため、警察と自衛隊による共同捜査が始まるが、精鋭揃いのローズダストに全く歯が立たない。
そんな中、公安で閑職に追いやられていた中年の警部補、並河は、自衛隊情報局の若手、丹原朋希(ともき)とコンビを組む
ことになる。 朋希は、かつて、一功らローズダストのメンバーとともに特殊工作員としての訓練を受け、対北朝鮮工作の任務
に就いていた。 しかし、生来の優しさが原因で、一功たちが自衛隊に失望し、北朝鮮に脱出したときも行動を共にできなかった。
最初はぎくしゃくしていた朋希と並河だったが、やがて、ローズダストの核心に最も近づくチームになる。
ところが、ローズダストの本当の狙い、黒幕が明らかになり、二人は愕然とする。 朋希と並河は、過去の自分と決別し、守り
たい人たちのために、最強の敵、ローズダストに立ち向かうが、、、、、、。
上・中・下巻あわせて1,400ページの大作。 描写が緻密なので、読むには少々覚悟と気合が必要です。
でも、それだけの価値はある作品なので、著者の独特の世界観が好きな人にはオススメです。
「本の雑誌」2009年度文庫「国内ミステリー部門」第8位。 僕のオススメ度:8
ジウT (誉田=ほんだ 哲也著、中公文庫)
作品の紹介
正式タイトルは「ジウT 警視庁特殊班捜査係【SIT】」。 SITとは捜査一課に属する、主に誘拐事件を担当するチーム
のこと。 SIT 2係に属する門倉美咲(27歳)と伊崎基子(24歳)。 美咲は犯人の説得を得意とする、慈愛に満ちた女性。
一方、基子(もとこ)は、危険を顧みずに犯人に突っ込んでいく格闘技が得意な女性。 物語は、美咲と基子を軸に、二人
の視点を交互に配して、進められていきます。
【あらすじ】都下で小学生の誘拐事件が発生し、SIT 1係が対応する。 人質は指を一本切断され保護されるが、犯人に
身代金を奪われてしまう。 ほどなく、住宅地で主婦を人質にした籠城事件が起こり、SIT 2係が出動する。 美咲は犯人
に食事を届けた際に人質にとられてしまうが、基子が突入し、犯人を逮捕する。 犯人は、SIT 1係が取り逃がした小学生
誘拐事件のメンバーの一人、岡村だった。
事件解決直後、美咲は碑文谷署の小学校誘拐事件捜査本部に異動となり、岡村の取り調べを担当する。 岡村の供述に
より主犯は「ジウ」と呼ばれる中国人の青年だということが判明する。 一方、基子は、特殊急襲部隊「SAT」に抜擢され、
訓練に明け暮れる毎日が始まった、、、、、、。
その後、「ジウ」を追う美咲と基子は、事件現場で再会するのですが、、、物語は「ジウU」へと続きます。
ちなみに「ジウ」は全三巻です。 作品全体を通して、目の前にシーンが浮かんでくるような表現力とリーダビリティの高さ
が秀逸でした。 僕のオススメ度:8.2
叛旗兵(はんきへい) 上・下 (山田 風太郎著、徳間文庫)
(上)
(下)
作品の紹介
正式タイトルは「叛旗兵 妖説 直江兼続」。 もともとは、1976年に書かれた作品。
2009年のNHK大河ドラマ「天地人」の影響で、2009年に版元もかわり、文庫として復活したわけですが、さすがは山田
風太郎さん。 前田慶次郎はもちろん、宮本武蔵や佐々木小次郎、真田幸村、猿飛佐助まで登場するエンターテイ
メント色たっぷりの作品に仕上がっていました。
【あらすじ】関ヶ原の戦いで盟友、石田三成が敗れて十年。 上杉家は会津百二十万石から米沢三十万石に減封され、
直江兼続も五十一歳になっていた。 徳川の治世のもと、平穏に暮らしていた兼続のもとに、娘、伽羅(きゃら)への
縁談が持ち込まれる。 相手は、家康の重臣、本多正信の次男、長五郎。 しかも、伽羅が嫁入りするのではなく、
長五郎が直江家に婿入りするという話だった。 縁談の目的が明らかに直江家の監視であると悟った兼続は、宇喜多
秀家とともに八丈島に流されていた、亡き大谷刑部の忘れ形見である正木左兵衛に白羽の矢を立てる。
本多正信に縁談を断り、八丈島から江戸に戻された左兵衛と伽羅との祝言を進めた。 ところが、祝言の席に、家康、
正信、そして、福島、加藤、浅野など豊臣恩顧の大名たちも出席することになり、席上で、左兵衛が侮辱される。
これに怒った伽羅は、前田慶次郎以下の直江四天王に指令を出す。 それは「左兵衛を亡き大谷刑部の息子として
ふさわしい男にすること」、そして「祝言の席で左兵衛を侮辱した大名たちに復讐すること」だった、、、、、、。
で、このあと、直江四天王が伽羅の指令を次々と実行していくわけですが、、、シリアスな展開ではなく、コミカルな描写
が続き、このまま話が終わるのか???と思っていたら、どんでん返しのラストが、、、。
タイトルは「直江兼続」ですが、話の中心は、直江四天王です。 兼続ファンというよりも、著者のファンの人にお薦めの
作品。 「本の雑誌」2009年度文庫「時代小説部門」第2位。 僕のオススメ度:7.8
吉原手引草 (松井 今朝子著、幻冬舎文庫)
作品の紹介
江戸時代のお話。 吉原で一、二を争う格で、売れっ子の花魁、葛城(かつらぎ)が身請けを目前にして、忽然と姿を消す。
この物語は、葛城の失踪の謎を探る、ある人物が、葛城の周辺にいた人たちを取材するスタイルで進んでいく。
とは言え、その「ある人物」は、物語の中で、一言も発しない。 葛城の関係者である、引手茶屋のおかみ、葛城が籍を
置いた見世(みせ)の楼主、遣手(やりて)、幇間(ほうかん)たちの「一人語り」がえんえんと続いていく。
彼ら、彼女らの証言により、葛城の人となりや花魁としての資質、頂点に登りつめるまでの歴史が徐々に明らかになって
いく。 そして、ラストで明かされる失踪の謎と、「ある人物」の正体とは、、、、、、。
骨格は、時代ミステリーなのですが、吉原のしきたりや風俗をものすごくていねいに描いた秀作。
2007年度「直木賞」受賞作。「本の雑誌」2009年度文庫「時代小説部門」第8位。 僕のオススメ度:8
転落 (永嶋 恵美著、講談社文庫)
作品の紹介
ホームレスになってしまった「ボク」の前に麻由(まゆ)という小学生の女の子が現れる。 麻由は、食料を与えてくれる
代わりにいたずらの延長線上にあるような小さな犯罪を「ボク」に強要する。 しかし、僕は、努力もせずに食料を安定的に
手に入れられる麻由との関係を断ち切ることができなかった。 麻由が「ボク」に飽きる恐怖を抱き始めたころ、麻由のとった
ある行動がきっかけとなり、「ボク」の暮らしが変化し、さらに転落していく、、、、、、。
と、ここまでが第1章。 ネタばれになるので、詳しくは書けませんが、第2章は「ボク」のその後、そして、第3章は、「ボク」の
過去(ホームレスになる以前)が描かれています。 時系列で言うと、第3章の事件がきっかけで「ボク」はホームレスとなり、
第1章の事件が起こり、この事件がきっかけで第2章の悲劇の結末につながるという流れです。 さらに、第3章と第2章もつな
がっていて。 物語の組み立てがみごとで、心理サスペンスとしての出来ばえもなかなかだったのですが、作品全体を包み込む
トーンが重苦しいので、読むのが少しツライ人もいるかも。 僕のオススメ度:7.5
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