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読書感想文2011 part 2
「読書感想文2011」 part2は、3月〜4月の読書録です。
↓ Click NOVEL mark !
白銀ジャック (東野 圭吾著、実業之日本社文庫)
作品の紹介
スキーシーズンの真っ最中、新月高原スキー場に脅迫メールが届く。 犯人は、ゲレンデに仕掛けた
時限爆弾をたてに3,000万円を要求する。 スキー場を経営する企業は、警察に届けることなく、犯人の
要求に従う。 3,000万円の支払い後、犯人は、時限爆弾を仕掛けなかった安全なゲレンデをいくつか
明らかにするが、さらに3,000万円を要求する。 再び3,000万円を支払った結果、新たに安全なゲレンデ
が明らかにされるが、犯人は、またもや5,000万円の要求をしてきた。 スキー場のマネージャー、倉田は
パトロール隊の女性、藤崎 絵留に現金の運搬を依頼する。 パトロール隊のリーダー、根津は同僚の桐林
とともに犯人の手がかりをつかもうと絵留の後を追う。 さらに、絵留が携帯電話で根津と事件のことを
話しているところを偶然聞いていたスノボー選手、千晶たちも根津の後方から絵留を追う。 しかし、根津や
千晶たちの動きは、犯人の知るところとなり、取引は中止になってしまう。
翌日、仕切り直しの取引が行われることになるが、事態は思いもかけぬ展開を見せる、、、、、、。
犯人は誰なのか、なぜ、このスキー場に狙いをつけたのか? 物語の終盤であっと驚く展開を見せるものの、
読者にアンフェアなどんでん返しではない点に好感を持ちました。 物語序盤から読者に十分な情報を与え
ながら、伏線の張り方も含め、みごとな構成。 さすがは、東野さん。
発売後半年で100万部突破のベストセラー。 僕のオススメ度:8.2
退出ゲーム (初野 晴著、角川文庫)
作品の紹介
表題作(「退出ゲーム」)を含む計4編の連作ミステリー短編集。
チカとハルタは幼なじみ。 6歳まで隣に住んでいて、高校で再会を果たす。 二人は、廃部寸前の
吹奏楽部に入部し、全国大会をめざしている。
ハルタとチカは、高校の中で起こるちょっとした事件に巻き込まれ、次々に解決していく。
そして、事件解決とともに、吹奏楽部の部員も増えていく、という流れ。
キレのいいテンポですいすい読める青春ミステリー。 チカとハルタの探偵コンビのキャラ造形が秀逸。
二人を見守る、吹奏楽部の顧問、草壁先生も、いい味出してる。
好評につき、続編(「初恋ソムリエ」)も刊行されたとのこと。
「本の雑誌」文庫 2010年度 国内ミステリー部門:ベスト10作品。音楽小説部門:10位。
大人にもおすすめ。 僕のオススメ度:8
MISSING (本多 孝好著、双葉文庫)
作品の紹介
「小説推理新人賞」を受賞した「眠りの海」ほか計5編を収録した短編集。
全編に共通するのは、タイトル(「MISSING」)にあるように、ある種の「喪失」を扱っているところ。
著者独特の透明感のある文体で、ふしぎな世界観の物語を紡いでいきます。
僕が気に入ったのは「瑠璃」というお話。 主人公が、瑠璃色の瞳を持つ4歳年上のいとこ、ルコと過ごした
小学校六年生から21歳までの9年間を描いた作品。 主人公がルコに憧れ、共感し、愛しながらも一線を
越えない、せつない心情の描写が秀逸でした。
「このミステリーがすごい!2000年度版」第10位。 僕のオススメ度:8
誘拐の誤差 (戸梶 圭太著、双葉文庫)
作品の紹介
茨城県のはずれに住む小学5年生のレオが、近所の男、須田に殺される。 レオは、幽霊となってさまよい
始める。 レオの死体は、まもなく発見されるが、警察は、なかなか須田に近づくことができない。
さらに、須田は、二人の男を殺害するが、レオの事件はおろか、他の二つの事件でも、警察の捜査は見当
外れの方向に進むばかり。 ついに、レオ殺害の犯人を逮捕するが、須田ではない別の男だった、、、。
この物語は、幽霊となったレオを語り手にして、警察の捜査をレオの視点で追っていくというつくり。
本の裏表紙に「異色の警察小説」と書いてあったけど、まさに、その形容がぴったり。
警察は、真犯人にたどり着けるのか!? 僕のオススメ度:7.8
あんたのバラード (島村 洋子著、光文社文庫)
作品の紹介
表題作(「あんたのバラード」)を含む計8編を収録した短編集。
収録作品のタイトルは、「悲しい色やね」、「アイ・ラヴ・ユー、OK」、「大阪で生まれた女」など
我々の世代にはなつかしいラヴソングがならんでいます。
恋愛がテーマの短編が続くわけですが、トレンディドラマに出てくるような華やかな恋ではなく、
ハッピーエンドになるとも限りません。 どちらかと言うと、生きるのにせいいっぱいの男女や
無軌道な道を歩く男女も登場し、読むほうは、恋愛そっちのけでハラハラしたりもしました。
恋愛は生きて行く上でたいせつなものだけど、「生きる」ことと切り離しては考えられないもの
であることを考えさせられる作品。 僕のオススメ度:8
スワロウテイル (岩井 俊二著、角川文庫)
作品の紹介
一攫千金を求めて、日本の円都(イェンタウン)にやってきた若者たち。
墓守りのフニクラと娼婦のグリコの兄妹。 そんな二人の部屋に孤児のアゲハがやってくる。
グリコの恋人、ヒョウは、街はずれで、謎の男、リンと暮らしている。
フニクラが墓で拾った宝石を元手に、仲間たちは、ライブハウスをオープン。
その店で、グリコは、歌姫として、ステージに立ち、レコード会社からスカウトされる。
しかし、グリコを襲った男を隣人の元ボクサーが殺してしまい、政治家の陰謀にからむ事件に
巻き込まれる、、、、、、。
物語の前半は、イェンタウンの若者たちの、ある種、群像劇のようなつくり。
そして、後半は、グリコたちが巻き込まれた事件を、ミステリー×冒険活劇風に描いています。
架空の都市、イェンタウンを舞台にしたオリジナリティー溢れる世界観が、この作品の最大の
魅力だと思います。 登場人物も、皆、魅力的。
1996年に映画化。 三上 博史、CHARA、江口 洋介、渡部 篤郎が出演していました。
CHARAの主題歌がとても印象的だったのを覚えています。 僕のオススメ度:8
弥勒の掌(て) (我孫子 武丸著、文春文庫)
作品の紹介
辻 恭一、高校の数学教師。 妻のひとみと結婚して5年後、教え子の千秋と不倫し、それが原因で
ひとみとは3年もの間、冷戦状態が続いていた。 ある日、突然、ひとみは姿を消す。
辻は、最初、自分にあいそをつかして出て行っただけかと思っていたが、同じマンションに住む主婦、
坂口が警察にひとみの捜索願いを出し、事の重大さを悟る。 妻の友人、知人に連絡をとっても手が
かりはつかめなかった。 意を決し、ひとみが坂口に誘われ、出入りしていた宗教団体「救いの御手」
の支部を訪ねるが、それも徒労に終わる。
蛯原 篤史、目黒署の刑事。 妻は、娘2人を残し、5年前に病死。 その後、再婚。
しかし、再婚した妻、和子の死体がラブホテルで発見される。 自宅で弥勒の仏像を見つけた蛯原は
それが「救いの御手」のものだと知り、本部に出かけ、辻と知り合う。 蛯原は、辻に協力を持ちかけ、
辻は、「救いの御手」に体験入会して内情を探る。
蛯原は、昔からの知り合いで、フリーライターの茂木にも協力を求める。 知り合いのライターが「救い
の御手」を取材中に行方不明になった茂木も、蛯原、辻とともに独自の捜査を開始する、、、、、、。
こんなふうにして、「救いの御手」に対する蛯原たち三人の捜査が始まります。 しかし、その後、また
もや事件が起こり、「救いの御手」本部に乗りこんだ蛯原と辻を待ち構えていたのは、驚愕の真相だった
という展開です。 よく練られた構成で、最後は「やられた〜」と思わず膝をたたいてしまいました。
歌野 昌午、乾 くるみ系のミステリーが好きな人には、おすすめ。 僕のオススメ度:8
夕映え 上・下 (宇江佐 真理著、ハルキ文庫)
(上)
(下)
作品の紹介
明治維新前夜。 江戸、本所の縄暖簾「福助」の女将、おあきは、十六の娘、おていと店を切り盛り
している。 おあきは、最初の結婚に失敗したが、店の常連だった、元松前藩士の弘蔵と再婚。
弘蔵は、岡っ引きとして、第二の人生を歩んでいる。 おていの兄、良助は、職を転々とし、両親の
心配の種だが、案外しっかり者で、したたかに生きている。
おあきは、家族や常連客に恵まれ、つつましくも幸せな毎日を送っていたが、おていの結婚を巡って
ひと騒動。 一件落着したかと思うと、今度は、良助が彰義隊に入隊する。
やがて、薩摩、長州を中心とした討幕の動きは、江戸の市井の人々の毎日に影を落とし始める、、、。
この後、物語は、おあき、弘蔵夫婦の暮らしと幕末の歴史のうねりを並行して描いていきます。
タイトルの「夕映え」は、物語のラストで、夫婦が、弘蔵の故郷、松前で見る夕映えから来ています。
弘蔵が、二人で見るみごとな夕映えを、江戸時代の終わりを告げる夕映えだとおあきに語りかける
シーンがとても印象的でした。 「生きていくのは、いつの時代もせつないものだ」と思いながらも、
二人は、新しい時代を生きていくため、いつもの暮らしに戻っていきます。
「本の雑誌」文庫 2010年度 時代小説部門:第4位。 僕のオススメ度:8.2
星ぐるい (築山 桂著、幻冬舎時代小説文庫)
作品の紹介
正式タイトルは、「天文御用十一屋 星ぐるい」。 18世紀末、寛政年間のお話。
大坂で大店(おおだな)の質屋を営む十一屋五郎兵衛は、商人でありながら、名字帯刀を許されている。
師匠の蘭学者、大坂の同心とともに、西洋の知識を取り入れ、日本の天文暦学の時計の針を一気に
薦めた功績を認められてのことである。 現在も、商売のかたわら、公儀天文方御用をつとめている。
五郎兵衛の店の庭には、星を観測するための櫓(やぐら)、揆星場(きせいじょう)が設けられており、
毎夜、観測が行われている。 その中心にいるのが、橋本 宗介、26歳。 そして、宗介らを見守るのが
十一屋の用心棒、八神 小次郎、20歳。 小次郎は、前老中の松平 定信の命を受け、一年前に江戸から
やって来た。 表向きの役割は、公儀天文方御用をつとめる十一屋の護衛だが、裏の役割は、五郎兵衛が
入手した西洋の天文知識の出所を探ることだった。
十一屋は、奉行所から、遊郭で星占いを営む霞という娘を探るよう依頼される。 霞の占いはよく当たると
評判であり、多くの商人たちが相場を占ってもらっていた。 さっそく、宗介と小次郎は霞に会いに行く。
霞が西洋の天文学に明るいと知った宗介は、その知識の出所を聞くが、霞から答えは得られなかった。
三日後、遊郭の女の死体が見つかる。 女の喉には、霞の簪(かんざし)が突き刺さっていた。
奉行所は、霞を疑い、取り調べるが、霞が養女に入ったえびす屋は遊郭の揚げ屋とは言え、力を持った店
であり、捕縛するまでには至らなかった。
しかし、大坂西町奉行 大村主計頭は、追求の手を緩めることはなかった、、、、、、。
物語の後半は、宗介の出自、霞の出自、五郎兵衛の秘密などを明らかにしながら、西町奉行 大村の真の
狙いがあぶり出されていきます。 天文学、星占いというベースは物語全体にあるものの、話の本筋は、霞
をめぐるミステリーであり、それを解決するのが宗介と小次郎という構造になっています。
でも、読後、いちばん印象に残るのは、宗介と小次郎の葛藤、衝突、友情だと思います。
「本の雑誌」文庫 2010年度 時代小説部門:第6位。 僕のオススメ度:7.8
軒猿(のきざる)の月 (火坂 雅志著、PHP文芸文庫)
作品の紹介
表題作(「軒猿の月」)を含む8編を収録した時代小説短編集。
表題作「軒猿の月」は、上杉謙信が長尾景虎と名乗っていた頃のお話。 景虎に仕える忍びの集団「軒猿
(のきざる)」の中で、卓越した力を持つ月猿に密命が下される。
それは、一年前、景虎に仕官を願い出たが、今は宿敵、武田信玄に仕える一匹狼の忍び「飛び加藤」を斬る
ことだった。 月猿は、直ちに甲斐の国に向かうが、先に潜入していた軒猿の仲間たちは次々と「飛び加藤」
にやられていた。 月猿は、決死の覚悟で、「飛び加藤」との戦いに挑む、、、、、、。
表題作の他、上杉、武田、豊臣に仕えた名もなき人々の戦いと苦悩、豊臣秀吉が惚れ込んだ行者、若き日の
塚原卜伝の修行などを描いたバラエティー豊かなラインナップ。
著者の火坂 雅志さんは、2009年度のNHK大河ドラマ「天地人」の原作者。 僕のオススメ度:7.5
スローカーブをもう一球 (山際 淳司著、角川文庫)
作品の紹介
表題作(「スローカーブをもう一球」)を含む8編を収録したスポーツ・ノンフィクション短編集。
最初におさめられているのは「八月のカクテル光線」。 今も語り継がれる、1979年夏の甲子園での箕島対
星稜の延長18回の熱戦を描いています。 主審は、この試合に限り、試合後の選手同士の握手を認め、敗れた
星稜のピッチャーにボールを手渡した、というエピソードが光っていました。
二つ目の作品は、名作「江夏の21球」。 1979年の近鉄 vs 広島の日本シリーズ第7戦。 9回裏に江夏が投げた
21球を丹念に再現しています。 「ここを投げ切れば、もうしばらく野球はせんでもいいだろう」という江夏投手の
心境が印象に残りました。
著者の山際淳司さんは、1980年、雑誌「Number」創刊号に掲載された「江夏の21球」でデビュー。
1981年、本作(「スローカーブをもう一球」)で「日本ノンフィクション賞」を受賞。 僕のオススメ度:8
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