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読書感想文2010 part 6

「読書感想文2010」 part6は、11月〜12月の読書録です。

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コメント  のぼうの城 (和田 竜著、小学館文庫)
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本能寺の変から八年後、秀吉は天下統一の総仕上げとして、小田原の北条氏に向けて、大軍を差し向ける。
幼少の頃から秀吉に仕え、類まれなる才覚でのし上がった石田 三成。 文官としての才能は評価されていたが、これまで
目立った武功はない。 そんな三成の心情を思いやるかのごとく、秀吉は、三成に北条家の支城である上州 舘林城、武州
忍(おし)城の攻略を命じる。 三成は、大谷 吉継、長束 正家とともに戦場をめざすことになった。
二ヶ月後、武州 忍城では、領主、成田 氏長が北条家の使者から最後の返答を迫られていた。 すなわち、小田原城に兵を
率いて出陣するのがいつになるのか、という回答である。 家中では、秀吉側に投降し、生き延びるという意見もあったが、
言い出せる雰囲気はなく、結局、当主、成田 氏長が兵の半数、五百を率いて、小田原城に向かうことになる。
そんな中、氏長のいとこで四十すぎの長親(ながちか)だけは、秀吉にも北条にもつかず、これまでと同じように皆で暮らす
ことはできないかと考えていた。 長親は、当主の血筋でありながら、武将としての才覚も文官としての才覚もなく、家中は
おろか、領民からも、「でくのぼう」を縮めた「のぼう様」という愛称で呼ばれていた、、、。
成田 氏長は、叔父で、長親の父でもある泰季(やすすえ)を城代とし、城の留守を託す。 しかし、泰季は七十五歳の高齢で
病床の身だった。 氏長は、小田原城への出発に際し、長親と家老の三人、丹波こと正木丹波守、和泉こと柴崎和泉守、靱負
(ゆきえ)こと酒巻靱負を集め、秀吉に内通することを告げる。 忸怩たる思いを抱えながらも、氏長の現実的な決断に家老
の三人は、従わざるを得なかった。
やがて、石田 三成率いる二万三千の兵が忍城の近くに着陣。 降伏か抗戦の意思を確かめるべく、長束 正家が使者として
忍城を訪れる。 病床の泰季に代わって、長親と三家老が交渉の席につく。 正家は、成田家を軽視した態度で交渉に臨み、
降伏すれば、所領は安堵するが、小田原攻めに参戦し、氏長の娘、甲斐姫を秀吉の側室に差し出すよう要求する。
のぼう様、長親は、正家に毅然と告げる、「戦いまする」と、、、、、、。
時を同じくして、泰季は還らぬ人となり、長親は城代となる。 三家老は百姓徴発のため、近隣の村々に出向くが、負け戦と
わかっている百姓たちは徴兵に応じない。 しかし、長親が大将だと知ったとたん、すべての村が戦うことを宣言する。
男ばかりか、老人、子どもまでもが忍城に押しかけ、五百の兵が三千七百となる。 しかし、兵として戦える大人の男たちは
二千六百で、三成軍、二万三千の十分の一に過ぎなかった。
こうして、長親を大将と仰ぐ、忍城のとんでもない戦いが幕を開ける、、、、、、。
弱者が強者に立ち向かう戦いを描く場合、卓越したリーダーシップを備えた武将や、超人的な働きをする豪傑、独創的な戦略
を練る軍師が登場するものです。 あとは、弱者側のチームワークが重要ということでしょうか。 ところが、この小説には、こう
いう常識が通用しません。 戦いを決意し、城内、農民たちの求心力となる、のぼう様こと長親には、リーダーシップも、強さも
軍略の才能もないからです。 三人の家老も、農民たちも、でくのぼうの長親を助けてやらなければ、という親愛の情で結束し、
強敵に立ち向かうという、これまでの歴史小説にはないヒーロー像がこの作品の最大の特長だと思います。
確かに、長親が大将となったおかげで、農民たちが戦いに参加するので、これだけでも十分な貢献と言えるのでしょうが、序盤の
戦いをリードするのは、個性豊かな三人の家老です。 しかも、これが、自分の持ち場での局面的な戦い。 全体的な戦略のない
まま、戦いが続く中、長親は、何もさせてもらえず、何の言葉も発せず、城中で座するばかり。 しかし、味方が最大のピンチを
迎えたとき、長親にしかできない発想で敵に挑むクライマックスは読みごたえ十分でした。
長親の内面的な描写がいっさいないため、読者も、家老たちや農民たちと同じ目線で長親の真意を想像しながら、戦いを追体験
するというプロセスは、他の小説では、なかなかできませんよ。たぶん。
「のぼうの城」特設サイトは コチラ 。 2011年映画化。 コミックも出ています。 100万部突破(2010年10月現在)。
2009年度「本屋大賞」第2位。 「本の雑誌」2010年度文庫 時代小説部門:第8位。 僕のオススメ度:8.5

コメント  DIVE!! (森 絵都著、角川文庫)
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高さ10メートルの飛び込み台から時速60kmでダイブして空中演技と着水の美しさ、正確さを競う「飛び込み競技」。
日本では競技人口600人というマイナースポーツだが、カロリー制限、過酷なトレーニングを続けなくては一流になれない、
ストイックさが必要な競技である。 飛び込みから着水まで、わずか1.4秒。 「DIVE!!」は、この短い時間に青春をかけた
三人の若者と彼らを支えるコーチの物語。
大手スポーツメーカー「ミズキ」が経営する「ミズキダイビングクラブ(MDC)」は、創業者の熱い想いで設立されたが、赤字が
続いていた。 そんな中、創業者が死去し、経営陣はMDCの閉鎖に傾くが、創業者の孫で、アメリカでのコーチ留学を終えた
麻木 夏陽子(かよこ)が会社に掛け合い、MDC存続を認めさせる。 しかし、クラブ存続の条件は、MDCからオリンピック選手
を出すというとんでもないものだった。 オリンピックまで、あと一年半。 代表選考会までは、一年と少ししか残されていない。
こうして、MDCの過酷な挑戦が始まる。
富士谷 要一は、両親とも、飛び込み競技の元オリンピック代表であり、父親がMDCのヘッドコーチを務めている。 オリンピック
出場が確実視されている日本のエース、寺本を除けば、オリンピックに最も近い選手の一人である。
坂井 知季は、3歳上の要一に憧れて飛び込みを始めた。 小二から中二までMDCの同期二人と支えあって競技を続けてきたが、
関東選手権で12人中10位という成績が示す通り、平凡な選手だった。
しかし、要一の父、冨士谷コーチが何年も見抜けなかった知季の武器を、夏陽子は一瞬で見抜く。 夏陽子は、知季に、彼の武器が
人並み外れた動体視力と関節の柔らかさであることを教え、本気でダイビングに取り組むようにハッパをかける。 そこから、知季
の快進撃が始まる。 目を見張るような成長を続ける知季に、夏陽子は、強力なライバルを用意する。
沖津 飛沫(しぶき)、17歳。 戦争でオリンピック出場の夢を断たれた悲運のダイバー、沖津 白波の孫。 飛沫は、津軽の海でしか
ダイブしない幻のダイバーだったが、夏陽子が、飛沫に惚れ込んでいた祖父の遺志を引き継ぎ、MDCに連れてきた。 飛沫のダイブは
力強く豪快だが、入水の時にも大きな水しぶきを上げる破天荒なものだった。
成長著しい知季と、天才の要一、そして、常識破りのダイバー、飛沫の三人で、MDCのオリンピック挑戦が始まる。
夏陽子は、国内大会への出場を捨て、8月に中国で開催されるアジア合同合宿に照準を絞る。 アジアの飛び込み競技をリードする
中国の総帥、孫コーチの直接指導を受けられるのが、その理由だった。 中高生を対象に、7月に開催される日本代表の選考会で
選ばれるのは、男女各三人。 知季、要一、飛沫の猛練習が始まった。
選考会で、要一は、高飛び込み、飛板飛び込みの両種目で優勝し、文句なく代表に選出される。 高飛び込みのみの出場で4位だった
知季、7位だった飛沫は、とうに代表選出をあきらめていたが、孫コーチの決断は、、、、、、。
↑とまあ、いっぱいあらすじを書いちゃったみたいな印象を持たれるかもしれませんが、物語は、まだ折り返し地点の手前です。
ここから、オリンピック代表選出をめぐるひと波乱、ふた波乱とともに、三人の若者の努力と苦悩、夏陽子のサポートがていねいに
そしてエキサイティングに描かれていきます。 クライマックスのオリンピック代表選考会のシーンは、臨場感たっぷりで、じっくり読み
たい気持ちと早くページをめくりたい気持ちの狭間で揺れる読者が多かったのではないでしょうか。
僕が小説を読み続ける理由のひとつは、自分の知らない世界を体験できることですが、この小説は、まさにその魅力を十分に味あわ
せてくれました。 飛び込み競技のルールや技術の知識はもちろんのこと、飛び込みの競技人口が日本で少ない理由のひとつが、自分
を極限まで追い込まないと続けられない、その過酷さにあるというのは、大きな発見でした。
そして、三人の若者と夏陽子の人物造型が超秀逸で、ぐいぐい物語に引き込まれること請け合いです。
「DIVE!!」特設サイトは コチラ 。 2008年映画化。
「本の雑誌」2006年度文庫総合部門:第1位。 第52回「小学館児童出版文化賞」受賞。 僕のオススメ度:8.7

コメント  武士道シックスティーン (誉田 哲也著、文春文庫)   作品の紹介 

幼いころから剣道一筋の磯山香織。 宮本武蔵を心の師とし、数々の大会で実績を残してきた剣道エリート。
ところが、全国中学生大会2位の実績を引っ提げ、消化試合のつもりで出場した横浜市の大会で、無名の選手に敗れてしまう。
スポーツ推薦で横浜の東松学園に進学した香織は、剣道部で、横浜市の大会で自分を負かした西荻早苗と再会する。
早苗は、香織とは正反対のタイプだった。 勝負にこだわらず、型の美しさを求める。 日本舞踊から転向して、剣道歴は
わずか3年。 ふだんは、慈愛に満ちた天然系。 そんな早苗に負けたことが納得できない香織は早苗に対抗心を燃やすが、早苗は
マイペースを崩さず、香織をライバル視するどころか、友だちになろうと何かと香織の世話を焼く。
香織と早苗は、関東大会団体戦のメンバーに選ばれ(香織はレギュラー、早苗は補欠)、県予選に出場する。 しかし、二回戦の後、
早苗が香織にけがをさせてしまう。 香織は、何とか三回戦を乗り切るが、けがが重く、四回戦からは早苗が出場し、県予選を突破、
関東大会に駒を進める、、、、、、。 
この後、香織は大スランプに陥ります。 香織が孤立化していく中、早苗が香織の復活に手を貸し、お互いの剣道への理解が深まって
いくプロセスが読みどころのひとつ。 そして、物語終盤で、まさかの展開が待っているわけですが、それは、二人が真の好敵手となる
幕開けであり、物語は、続編「武士道セブンティーン」へと続きます(そして「武士道エイティーン」で完結)。
続編があるとはいえ、本作だけでも十分読む価値があると思います。 「女子高生モノでしょ?」とか「スポ根でしょ?」とか先入観を
持たずに手にとってほしい一作。 大人が読んでも一気読みしてしまうおもしろさが詰まっています。
著者の誉田哲也さんは、警察小説の「ジウ」、「ストロベリーナイト」、「ソウルケイジ」などが代表作ですが、「月光」、「疾風ガール」など
の青春小説も書いています。 ジャンルが違うとはいえ、主人公が女性、人が死ぬ(殺人、自殺)作品が多かったのですが、著者曰く、
本作は、初めての、人が死なない小説だとか。
特設サイトは コチラ 。  2010年4月映画化。 映画の公式サイトは コチラ 。  僕のオススメ度:8.5

コメント  ボックス! (百田 尚樹著、宝島社文庫)
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木樽 優紀は、大阪の私立恵比寿高校の特進クラスの特待生。 鏑矢(かぶらや)義平は、体育科でボクシング部所属。
幼馴染の二人は、木樽が中二の終わりに転校して離れ離れになるが、同じ高校に入学して再会する。
鏑矢は、最初、木樽にとって、憧れの存在でしかなかったが、やがて、自らも、ボクシング部に入部し、猛練習を開始する。
中学からジムでボクシングを始めている上に、天才的センスを持つ鏑矢は、いきなり結果を出すが、練習嫌いがたたり、
スタミナのなさがアキレス腱となっていた。 しかし、全国的に有名な府下のボクサー、稲村と戦うために、階級を上げて
挑戦するが、、、、、、。
おそろしくまっすぐな小説です。 木樽と鏑矢という対照的なボクサーを軸に、彼らを見守る監督、顧問で美人の先生、
献身的なマネージャー、気のいいチームメイト、そして、二人の前に立ちはだかるモンスター、稲村。 作者が愛情を持って
登場人物たち、そして、ボクシングという競技をていねいに描き、読者を作品の中に深く引き込むことに成功している作品
だと思います。 ↑のあらすじには、詳しく書いていませんが、その後、木樽がストイックに練習に打ち込み、鏑矢や稲村と
しのぎを削る後半の描写も圧巻です。 大人も子どもも熱くなる秀作。 2009年度「本屋大賞」第5位。
「ボックス!」公式サイトは コチラ 。 2010年映画化。 僕のオススメ度:8.5

コメント  天使と悪魔 (ダン・ブラウン著、角川文庫)
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スイスにあるセルン(欧州原子核研究機構)の中心となる科学者の一人、レオナルド・ヴェトラが殺害された。
片目の眼球をえぐり取られ、胸には「イルミナティ」と焼印が押されていた。 セルンの所長、マクシミリアン・コーラーは、
ハーヴァード大学 宗教象徴学の教授、ロバート・ラングドンに協力を要請。 ラングドンは直ちに現地に赴く。
死体の胸に焼印されていた「イルミナティ」とは、教会から迫害されてきた科学者たちが16世紀に結成した世界最古のシンク
タンクの名称であると、ラングドンはコーラーに告げる。 しかし、もう現在は活動しておらず、殺害されたのが科学者である
ことから、イルミナティの犯行ではないとラングドンは推理する。 しかし、殺されたレオナルドは、天才科学者であると同時に
カトリックの司祭だった、、、。
レオナルドは、娘のヴィットリアとともに、反物質の生成に成功していた。 彼らの発明は「ビッグバン」を再現するものであり、
それは、「創世記」をも科学的に実証するという宗教的な意味合いを兼ね備えていた。 しかし、レオナルドを殺害した黒幕は、
その莫大な破壊力に目をつけ、反物質を盗み出し、バチカンに持ち込む。
コーラーの依頼を受け、ラングトンは、すぐさま、ヴィットリアとともに、バチカン市国に向かう。 折りしも、バチカンは、教皇を
失ったばかりで、次の教皇を選ぶ儀式を控えていた。 反物質の捜査は、すぐさまバチカンの衛兵隊によって開始されるが、
驚愕の知らせが「イルミナティ」から届く。 それは、次の教皇の有力候補である4人の枢機卿が誘拐され、ローマ市内の教会で
一時間おきに一人ずつ殺害するという予告だった。 ラングトンとヴィットリアは、衛兵隊とともに、教皇候補者たちを救出すべく、
ローマの街を疾走する、、、、、、。
大ヒットした「ダ・ヴィンチ・コード」の著者、ダン・ブラウンの傑作。 前作同様、ラングトン教授がカトリック教会を舞台にした
犯罪に挑みます。 前作同様、読者をぐいぐいひきつけるリーダビリティと構成力は圧巻。 個人的には、「知」の男、ラングトンが
アクション・スターなみの活躍をする終盤には少し驚きましたが、名作であることに変わりはありません。
バチカンやカトリックの世界が舞台ですが、ミステリー小説ファンなら手にとる価値がある一作。 科学と宗教の対立というテーマも
興味深く描かれていました。
「天使と悪魔」公式サイトは コチラ 。 2009年映画化。 僕のオススメ度:8.5

コメント  イノセント・ゲリラの祝祭 (海堂 尊著、宝島社文庫)
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東城大学附属病院で万年講師の神経科医、田口は、病院長から厚生労働省の会議への出席を依頼される。
田口は、不承不承引き受け、医療関連死モデル事業特別分科会に出席。 会議で、大学病院のリスクマネジメント委員会
委員長として、まっとうな発表をし、無事、重責を果たす。 ところが、田口が出席した分科会に代わって、医療事故調査委員会・
創設検討会が創設されることになり、田口は、この会の正式メンバーに選出されてしまう。 田口をメンバーに推薦したのは、
彼の天敵とも言える、厚労省の異端児キャリア、白鳥だった。 白鳥は、死体解剖前のAi(画像診断)導入に向けて、医学界の
問題児、彦根と接触する。 委員会では無意味な議論が続くが、5回目の会議で、ついに、白鳥の仕組んだ爆弾が炸裂する、、、。
累計850万部突破(2010年10月現在)の「チーム・バチスタ」シリーズの第4弾。 これまでの3作とは、少し趣の異なった作品です。
東城大学が舞台ではなく、厚労省が舞台であること。 田口、白鳥コンビが探偵として働くような事件が起こらないこと。
田口がいつもよりキリっとしていて、逆に、白鳥がおとなしいこと。 などなど、バチスタシリーズのファンには、いろいろ違和感が
感じられる作品だったのではないでしょうか。 さらに、物語全体が会議、会議、会議で、厚労省と法律学者は、悪者。 法医学者と
病理学者は仲間割れをしている視野の狭い時代錯誤者。 それに対して、臨床医は、行政に虐げられている被害者であり、善玉。
という構図が繰り返し繰り返し、描写されています。 著者の気持ちもわかるし、医療行政に危機感を持つべきであるという警鐘も
もっともなことだとは思いますが、やや感情的すぎないか、みたいな疑問を持った読者も多いのでは? たまたま、この作品の少し
前に読んだ同じ著者の「ジーン・ワルツ」(ブックレビューは コチラ) でも同様の感想を持ちました。
シリーズ第1弾「チーム・バチスタの栄光」のブックレビューは コチラ
シリーズ第2弾「ナイチンゲールの沈黙」、第3弾「ジェネラル・ルージュの凱旋」のブックレビューは コチラ
著者の海堂 尊公式サイトは コチラ 。 僕のオススメ度:8

コメント  風車祭(カジマヤー) (池上 永一著、角川文庫)
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夏の終わり、石垣島で行われる「節(しち)祭」は、あの世の正月を祝うお祭。 節祭の日、高校2年の武志は、ピシャーマという名の
18歳の美しい女性に出会う。 彼女は、228年前の結婚式の日、石になってしまい、さらに3年後の大津波で石が砕かれ、魂だけの
存在となり、石垣島を漂ってきた。 魂とは言え、ピシャーマは目が見えず、400年以上生きている六本足の豚、ギーギーとともに
生きてきた。 武志は、この世のものではないことをわかりつつも、ピシャーマに恋をし、彼女の魂があの世に行ける助けをすべく
試行錯誤を重ねる。 武志は、同級生の睦子の妹で5歳の郁子とともに、ピシャーマのもとに通い続けるが、ある日、二人ともマブイ(魂)
を落としていることを知る。 マブイが身体から離れると、人間は、一年も生きられない。 郁子は、霊能者の力を借り、無事、マブイを
取り戻すが、武志のマブイは行方不明だった。 余命がわずかだと知りながらも、マブイがないおかげで、ピシャーマの姿が見えることを
喜ぶ武志。 やがて、彼は、ピシャーマの子孫が、いつも、自分が出入りしている家の、85歳の老婆、フジであることを知る。 しかし、
フジは、生と金に執着する、一筋縄ではいかない存在だった。 武志は、郁子と金を出し合い、何とかフジから二百年前のことを知るヒント
を聞きだす。 ピシャーマの生家を訪れたり、先祖の墓を探したり、努力を続ける武志。 一方、武志のマブイは、生き霊としてさまよい、
同級生の睦子に愛をささやいていた。
やがて、島では、神の怒りを鎮め、島を襲うとされる大津波を防ごうとするが、、、、、、。
著者の池上永一さんは、石垣島出身。 本作以外にも、沖縄や石垣島を舞台にした、郷土愛あふれる作品を数多く発表しています。
池上さんのふたつめの作風は、人物造型がユニークなこと。 主人公はもちろん、登場人物が皆、個性豊かで、印象的です。
この作品でも、フジやギーギーなど、主人公の武志やピシャーマを喰ってしまいそうな強烈キャラが暴れまわります。
そして、著者の作品は、スピリチャルな世界が展開することが多く、本作でも、その特徴がいかんなくあらわれていました。
1998年「直木賞」候補作。 僕のオススメ度:8

コメント  摩天楼の怪人 (島田 荘司著、創元推理文庫)   作品の紹介 

ニューヨーク マンハッタンにそびえ立つ38階建ての高層アパート、セントラルパーク・タワー。
1969年。 コロンビア大の若き助教授、御手洗は、アメリカを代表する大女優、ジョディ・サリナスから重大な告白を聞かされる。
それは、殺人の告白であると同時に難解な謎解きの始まりでもあった、、、、、、。
サリナスは、次のような告白をする。
1921年、26歳だったサリナスは、ニューヨーク中が大停電の最中、悪辣な興業家、フレデリック・ジークフリードを射殺する。
彼女は、愛する男、ファントムの力を借りて、34階の自室から1階に瞬間移動し、誰にも姿を見られなかった15分の間にジーク
フリードを殺した。 ファントムは、1916年、まだ無名だった21歳のサリナスと出会い、スターになりたいという彼女の願いを叶える
ことを約束していた。 ファントムは、1916年と1921年に二度、サリナスをセントラルパークに瞬間移動させていた。 サリナスは
ファントムのことを人間の姿を借りた魔王だと評する。
そして、この告白の直後、彼女は74歳の生涯を閉じる、、、、。 臨終の時、窓の外から骸骨の顔をした幽霊が覗いていた、、、。
そして、3日後、サリナスの葬儀の同時刻、同じフロアの住人で、サリナスの主治医だったカリエフスキーが殺害される。
カリエフスキーの隣人がドアの向こうで銃声を聞いた時、ドアのスコープから廊下を覗くと、骸骨が横切るのが見えた、、、。
1916年。 セントラルパーク・タワー36階に住むダンサーのメリッサと女優のイルマが相次いでピストル自殺する。 当時、イルマが
演じていた舞台の主役の後釜に座ったのは、まだ無名だったジョディ・サリナスだった。 ファントムは、サリナスに、イルマを殺した
のは自分の仕業であると告げる。
1921年。 サリナスの所属するマジェスティック・シアターのプロデューサー、パンドロ・サンドリッチがセントラルパーク・タワー38階の
時計塔の長針をギロチン代わりにして殺害される。 5日後、セントラルパーク・タワーのすべての窓が飛び散るという解明不可能な事件が
発生。 この事件の犠牲になったのは、タワーの住人にして設計者のタルマリッジただ一人だった。 さらに17日後、サリナスのライバルと
して台頭しつつあった女優、エルグがタワー34階の自室で自殺する。 事件を取り調べたニューヨーク市警の刑事、ミューラーは、自殺で
あると判断するが、5年前の女優、イルマの自殺と状況がそっくりである点に不審を抱く。 サリナスは、すべての事件がファントムによって
引き起こされたものだと考えていた。 そして、6日後、ファントムの力を借りて、ジークフリードを射殺する。
1969年。 サリナスの死後、彼女の自室からジークフリードを殺害したと思われる拳銃とタワーの設計者、タルマリッジが死亡したときに
ポケットに入っていたメモが発見される。 
御手洗は、まず、タルマリッジの残したメモの解読に成功する。 メモは、古代エジプト文字であるヒエログリフで書かれており、ニューヨーク
の地名、セントラルパーク内の像、そして、ジークフリードの名前が羅列された不可解な内容だった、、、。
その後、引退したニューヨーク市警の元刑事、ミューラーのおかげで、拳銃は、確かにジークフリード殺害に使用したものと裏付けられる。
御手洗は、最後の戦いに臨むべく、セントラルパーク・タワーに向かう、、、、、、。
物語は、1916年と1921年と1969年(物語の中の現在)の三つの時間で展開していきます。 上記のあらすじに書いたように、次々と殺人が
起こる過去の展開に加え、現在の御手洗の捜査の展開を読み進めるのは、けっこうたいへんでした。 巻末にある年表がなければ、きっと
紙に書き出していたでしょう。 とは言え、本格ミステリーの要素がぎっしり詰まった本作は、苦労してでも読む価値があると思います。
中でも、ファントムのトリックは、よく考え抜かれているなと感心しました。
「本の雑誌」2009年度文庫「国内ミステリー」部門:第3位。 680ページの大作。 僕のオススメ度:8

コメント  十三人の刺客 (大石 直紀著、小学館文庫)   作品の紹介 

江戸時代末期のお話。 明石藩 江戸家老、間宮が幕府の筆頭老中、土井大炊頭(おおいのかみ)の屋敷の前で切腹する。
間宮は、主君である明石藩 藩主、松平 斉韶(なりつぐ)の言語を絶する乱行の数々をしたためた訴状を土井大炊頭に託した
のである。 しかし、松平 斉韶は、十一代将軍、家斉(いえなり)の実子、当代将軍、家慶(いえよし)の弟にあたり、来年
の老中就任が決まっていた。 案の定、家慶からは穏便に処理せよ、との命が下され、名宰相、土井の怒りも頂点に達する。
表向きに斉韶を弾劾することをあきらめた土井は、間宮切腹から三日後、目付の島田 新左衛門を屋敷に呼び出す。
新左衛門は、そこで斉韶に人生を台無しにされた二人の男女に引きあわされる。 一人は、斉韶に息子と嫁を殺された尾張藩
の牧野 靭負(ゆきえ)。 そして、もう一人は、明石で一揆を起こした首謀者の娘だった。 この娘は、舌を抜かれた上、両手と
両足を切断されていた。 土井は、新左衛門に斉韶暗殺を命じる。 生きて事を成し遂げる可能性はほとんどないと知りながらも、
新左衛門は、その命を受ける。
斉韶が江戸から帰藩する道中で襲撃することを決めた新左衛門は、さっそく準備にとりかかる。 新左衛門の片腕、倉永が選抜
した目付の若者たち、新左衛門の甥、新六郎、そして、新左衛門に恩義のある浪人、九十郎など総勢十二人の刺客が揃い、
襲撃場所を美濃の落合宿に決定する。
一方、明石藩では、家老の鬼頭 半兵衛が斉韶襲撃を察知していた。 半兵衛は、新左衛門の旧友であり、友と戦わざるを得ない
ことに苦悩しながらも、暴君、斉韶を守り抜く決意をする。
新左衛門一行は、落合宿に向かう途中、山の民、小弥太を仲間に加え、十三人となる。 そして、尾張藩、牧野 靭負の命をかけた
工作により、斉韶一行は、新左衛門が要塞化させた落合宿に誘導される。 ここに、二百を超える明石藩対十三人の刺客たちとの
死闘の幕が切って落とされる、、、、、、。
この小説は、2010年9月に公開された同名の映画のノベライズ版です。 ストーリー自体は、おもしろいと思うのですが、ノベライズ版
ゆえ、あらすじを追うことに主眼が置かれている印象が強かったです。 もう少し登場人物の内面を掘り下げていたら、懐の深い作品
になったのでは?と思いました。 とは言え、クライマックスの戦闘シーンは、迫力たっぷり。 斉韶の不気味さ、半兵衛の一途さ、
そして、刺客たちの執念の描写は、読みごたえ十分でした。
ちなみに、この作品は、1963年に映画化、1990年にはドラマ化されています。 2010年版映画の公式サイトは コチラ
僕のオススメ度:7.8

コメント  フェイク (楡=にれ 周平著、角川文庫)   作品の紹介 

山形から上京し、東京の三流私立大学を卒業した、岩崎 陽一。 銀座の高級クラブ「クイーン」でボーイとして、手取り15万円の
さえない毎日を送っていた。 ある日、ライバル店から摩耶というホステスが移籍してくる。 摩耶は、陽一より3歳上の26歳。
年収1億の超一流ホステスであり、「クイーン」でも、No.1の座を勝ち取る。 しばらくして、陽一は、摩耶から専属の運転手に
なるよう頼まれる。 日給1万円の報酬を提示され、二つ返事で引き受ける陽一。 さらに、摩耶は、父親の借金で苦しむ陽一の
ガールフレンド、さくらまで「クイーン」に入店させ、さくらの父に仕事をまわしてくれる。
しかし、摩耶が次に陽一に持ちかけた日給6万円の仕事は、犯罪の片棒をかつぐことだった。 それでも、お金への誘惑を止め
られず、さくらと親友の謙介とともに、陽一は深みにはまっていく、、、、、、。
↑という感じで物語が動き出し、クライマックスではさらに大金が動くことになります。 それも、陽一と謙介が考えた仕掛けで。
その仕掛けというか、お金の動かし方がよぉく考えられていて、感心してしまいました。
典型的な「コンゲーム小説」(詐欺やペテンなどの知能犯を描いた小説)。 エピローグでのダメ押しフェイクもなかなかシャレて
いてナイスでした。 僕のオススメ度:7.8

コメント  警視庁心理捜査官 (黒崎 視音著、徳間文庫)
コメント(上) コメント(下) 作品の紹介 

吉村 爽子(さわこ)、27歳。 警視庁捜査一課第二特殊班に所属する「心理捜査官」、いわゆるプロファイリングのプロである。
爽子は、台東区で発生した殺人事件の現場に臨場する。 殺されたのは、まじめな短大生の女性。 レイプの痕跡はなかったものの、
猟奇的とも言える性的殺人の匂いを感じ取る。 爽子は、そのまま捜査本部に組み入れられ、蔵前署の強行犯係、藤島とコンビを組み、
捜査を開始するが、男社会、階級社会、しかも、くせのある刑事たちから異分子のように扱われる。
事件から一週間後、今度は麻布で、女子大生売春組織の中心メンバーだった女性が殺害される。 公園のブランコで支柱に首を吊ら
れた処刑のような殺人だった。 捜査本部は、ふたつの事件を結び付けて考えていなかったが、爽子と藤島は、関連性に気づく。
やがて、ふたつの事件が同一犯による犯行だと認定され、合同捜査本部が発足。 しかし、爽子と藤島を敵視する、本部の主力である
ベテラン刑事たちの捜査は遅々として進まなかった。 そんな中、神奈川県警が第二の被害者が所属していた売春組織のヘッドである
19歳の男を逮捕する。 男は、売春組織のリストとある写真を持っていた。 その写真に写っているのは、三枝 由里香という女性と
政治家の息子だった。 本部は、売春組織の洗い出しと由里香の専従班を発足させ、その指揮を柳原警部に委ねる。 柳原は、爽子の
所属する捜査一課第二特殊班の先輩女性刑事だった。 柳原という理解者を得て、爽子は安堵するが、一息つく間もなく、第三の事件
が発生する。 幸い、被害者は命をとりとめたものの、それは偶然ではなく、犯人が捜査を撹乱する意図で起こしたものではないかと
爽子は疑念を抱く。 一方、柳原は、由里香の父親の弁護士、三枝 康三郎が、警視総監や財閥企業もからんだ闇の事業に連なる人物で
あることを突き止める。 由里香といっしょに写真に写っていたのが政治家の息子であり、由里香の父親が弁護士であることから、捜査
本部の上層部は、由里香の追求に二の足を踏む。 しかし、爽子は柳原のバックアップを受け、由里香に迫る、、、、、、。
男社会、階級社会の中で、もがきながらも、顔を上げて捜査に向かう爽子。 でも、あまりにも向う見ずで、柳原と藤島がいなかったら、
危なくて見ていられません。 心理捜査官って、もっと冷静沈着じゃないとダメなのでは?と思わずツッコミを入れたくなりました。
著者の黒崎視音さんは、作品数こそ少ないものの、本作品や続編(「KEEP OUT」)のような心理捜査官やSATなどの特殊班を描いた
警察小説や自衛隊を描いたユニークな小説を発表しています。 本作は、著者のデビュー作。 僕のオススメは、テロ対策のプロである
特殊部隊SATを描いた「六機の特殊」です。 「六機の特殊」のブックレビューは コチラ 。 僕のオススメ度:7.5

コメント  KEEP OUT (黒崎 視音著、徳間文庫)   作品の紹介 

正式タイトルは「警視庁心理捜査官 KEEP OUT」。 ↑上記の「警視庁心理捜査官」の続編です。
でも、この作品だけ読んでもだいじょうぶなつくりになっています。 本作は、九編からなる連作短編集。
警視庁捜査一課で心理捜査官として連続殺人事件の捜査本部に参加していた吉村 爽子(さわこ)、27歳。 明晰な推理により事件解決
に貢献したものの、度を超した単独行動の責任をとらされ、多摩中央署強行犯係に異動となる。 本庁捜査一課では、下っ端だったが、
所轄では、巡査部長である爽子は、主任の立場で、年上の部下、アクの強い同僚刑事たちと事件解決にあたる。
対人関係の苦手な爽子が、所轄の同僚たちと徐々に打ち解けていくさまがさりげなく描かれ、好感を持ちました。
捜査一課時代の天敵のような上司、先輩刑事も、登場しますが、精神的に成長し、冷静にいなす主人公の姿は、前作と違って、安心して
見ていられました。 そして、前作の藤島に代わって、爽子を支える、上司の堀田がいい味を出しています。
収録された短編は、どれも密度の濃いもので、警察小説好きの人なら、きっと満足いく出来ばえだと思います。
前作よりいいデキ。 僕のオススメ度:8

コメント  魚舟・獣舟 (上田 早夕里著、光文社文庫)   作品の紹介 

表題作(「魚舟・獣舟(うおぶね・けものぶね)」を含む計5編のSF短編と1編の中編を収録。
表題作は、陸地のほとんどが水没してしまった近未来が舞台。 一生を舟の上で暮らす海の民は、必ず双子が生まれるようになっていた。
一人は、人間の子ども。 そして、もう一人は、魚の子どもだった。 魚の子どもは、海で成長し、やがて、双子の片われのところに帰って
くる。 その時、人間の片われは、魚を操る操舵者となる。 魚は、背中が平らになっていて、人間は、その魚舟で暮らすことになっていた。
そのことをまだ知らなかった子どもの頃、美緒は、家族が暮らす舟に近づいてきた自分の片われの魚舟を傷つけてしまう。 それ以来、
美緒は、後悔の中で暮らしてきた。 十年後、双子の片われと巡り会えなかった魚舟たちは、陸地に上がり、獣舟となり始めていた。
国は、獣舟の上陸を阻止すべく、沿岸部に武器を持った人工知性体を配備する。 美緒は、自分の片われが獣舟となり、陸地に上陸する
と予測し、沿岸で待ち続けるが、、、、、、。
僕は、日ごろ、あまりSFを読まないのですが、「本の雑誌」のブックレビューに惹かれて、手にとってみました。
表題作をはじめ、日本の近未来を舞台にした作品が多かったのですが、サイバーな世界観に頼るのではなく、細菌や妖怪、秘密警察などが
出てきて、物語として、しっかりとつくりこまれていることに好感を持ちました。 SFファンの人なら「買い」の一作。
「本の雑誌」2009年度文庫「SF」部門:第4位。 僕のオススメ度:7.8

コメント  推理小説 (秦 建日子著、河出文庫)   作品の紹介 

公園で中年の男性と女子高生の死体が発見され、警視庁捜査一課が臨場する。 捜査一課で最高の検挙率を誇る警部補、雪平 夏見も
若手の安藤とともに現場に向かう。 現場に残されていたのは「アンフェアなのは誰なのか」と書かれた本のしおりだった。
四日後、第三の殺人が起こる。 出版社の文学賞の発表会の会場で、招待客である別の出版社の社員が毒殺される。 現場には、先の
殺人と同じしおりが残されていた。 雪平は、文学賞を主催した出版社の編集者であり、毒殺された被害者の友人である瀬崎に事件解決の
協力を依頼する。 そんな矢先、連続殺人犯から主要出版社あてに「推理小説・上巻」というタイトルの原稿が送付される。 その原稿には、
犯人しか知りえないこれまでの殺人の描写が書かれていた。 「T.H」と名乗る犯人は、第四の殺人を予告し、さらなる殺人を防ぐためには、
小説の続きを落札せよ、と告げる。 しかし、出版社が最低落札価格が3,000万円であること、殺人犯に金を支払うことに二の足を踏む。
犯人は、予告通り、第四の殺人を実行。 雪平は、瀬崎の協力で、「T.H」の過去を知るが、、、、、、。
設定は秀逸な作品だと思います。 でも、オチに納得いかない読者もいるのでは?
2006年に篠原涼子さん主演でテレビドラマ化された「アンフェア」の原作(正確に言うと、最初の事件の原作)。
ドラマを先に観てしまっていたので、雪平、安藤、瀬崎のキャストのイメージが頭から離れませんでしたw。
60万部突破のベストセラー。 僕のオススメ度:7.5

コメント  千里眼 ファントム・クォーター (松岡 圭祐著、角川文庫)   作品の紹介 

人気の「千里眼」シリーズの通算14作目(新シリーズの2作目)。
元自衛官で戦闘機パイロットだった岬 美由紀、28歳。 今は、臨床心理士として、名声を博している。 そんな美由紀のもとに、ロシア
大使館から協力の依頼が届く。 それは、チェチェンで難民のカウンセリングを行うことだった。 一方、防衛庁からも、美由紀に協力の
要請が入る。 こちらは、完壁なステルス兵器が日本を攻撃目標にしている疑惑を探ることだった。 どちらの依頼も、美由紀を千里眼と
して扱いかねないものだったが、美由紀は、チェチェン行きを決意する。
成田空港に向かう途中、美由紀は、ロシア・マフィアに拉致され、謎の島に連れて行かれる。 そこは「ファントム・クォーター(幻影の地区)」
という名にふさわしい現実離れした場所だった。 数々のトラップをくぐり抜け、何とか脱出した美由紀は、やがて、ステルス兵器の脅威が
日本に迫っていることに気づく、、、、、、。
新シリーズの1作目(「千里眼 The Start」)よりは、おもしろかったけど、やはり、旧シリーズ(クラシックシリーズ)のスケール感には及ばず、
やや物足りなかったもの。 もっとも、旧シリーズと新シリーズでは、物語のテーマや制作意図が違うので、そんな風に比較してはいけない
のかもしれませんが、、、。 僕のオススメ度:7.5

コメント  千里眼の水晶体 (松岡 圭祐著、角川文庫)   作品の紹介 

「千里眼」シリーズの通算15作目(新シリーズの3作目)。
山形県で放火による大規模な山火事が発生する。 自首してきた男はダミーであり、結婚詐欺師の西之原 夕子に操られていた。
夕子は、篠山 里佳子という女性を放火犯に仕立て上げる工作の一環として、「里佳子に依頼されて放火した」と自首した男に自白
させていた。 しかし、たまたま里佳子の不潔恐怖症の治療にあたっていた臨床心理士、岬 美由紀が、里佳子の無実を証明する。
その直後、里佳子や、美由紀の親友、藍が、原因不明のウイルスに感染し、重体に陥る。 第二次世界大戦中に日本軍が開発した
生物化学兵器を夕子が博物館から盗み出し、ばらまいたのが原因だった。 里佳子や藍以外にも、抵抗力のない不潔恐怖症の人々
が次々とウイルスに感染していく。 美由紀は、夕子を追跡し、追いつめるが、、、、、、。
最後までおもしろく読めたのですが、複数の事件というか、要素が入り組んでいて、頭を整理するのがちょっとつらかったかも。
あと、犯人の動機と事件の大きさが少しアンバランスなのでは?と思った読者も少なくなかったのでは???
著者の松岡 圭祐さんの公式サイトは コチラ 。 僕のオススメ度:7

コメント  万能鑑定士Qの事件簿 T (松岡 圭祐著、角川文庫)   作品の紹介 

「千里眼」に続く、松岡 圭祐さんの新シリーズ。 2010年4月に第一巻が登場するや、年内に第七巻まで刊行される好評ぶり。
早くも80万部突破だそうです(2010年12月現在)。
石垣島から船で1時間。 波照間島で生まれ育った凜田 莉子(りこ)。 美貌には恵まれたが、勉強のできない天然キャラ。
そんな彼女が上京し、リサイクルショップ社長の瀬戸内と出会う。 瀬戸内が教えた勉強法によって、莉子は急速に博学になっていく。
やがて、瀬戸内の会社に就職した莉子は、鑑定のプロに成長し、万能鑑定士として独立する。
角川書店の週刊誌「週刊角川」の若手記者、小笠原は、ここ1年、23区内を席巻する「力士シール」の取材を命じられる。
力士シールとは、肥満体の中年の男の顔を浮世絵風に手書きで描かれたシールのことで、一度に何千枚も街のあちこちに貼られる
謎のシールだった。 小笠原は、万能鑑定士Qこと、凜田 莉子に鑑定を依頼する。
莉子は、まず大学の研究室に科学的な鑑定を依頼するが、謎の解明には至らなかった。 そんな中、莉子は、別の強盗事件を解決。
小笠原は、ますます莉子の美貌と博学ぶりに惹かれていく。 しかし、一夜にして日本経済が破綻し、、、、、、。
ということで、力士シールの謎が解決しないどころか、日本経済破綻による超インフレの中、物語は続編(U)に続きます。
「千里眼」と違って、軽いタッチの作風で、読みやすかったです。 でも、続編を読まないことには、作品としての評価はできませんね。
著者の松岡 圭祐さんの公式サイトは コチラ 。 僕のオススメ度:7

コメント  閉鎖病棟 (帚木=はははぎ 蓬生著、角川文庫)   作品の紹介 

九州郊外の神経科の病院が舞台。 それまでふつうの人生を送っていたのに、突然、幻の声が聞こえるようになり、30年間、
入院を続けている男。 死刑を執行されながら、息を吹き返し、病院に拾われた男。 自分の家に放火し、30年も病院に
置き去りにされている男。 犯罪を犯したものの、責任能力を問えず、刑務所のかわりのように入院させられている男。
病院には、さまざまな事情を持つ人々が暮らしている。 とは言え、外出を許される患者もおり、オープンな環境で、世間
のイメージからは、程遠いふつうの生活を送っていた。 そんな男たちの前に、由紀という中学生が現れる。 男たちは由紀に
好意を持ち、あたたかい交流が生まれる。 不登校を続けている由紀の心も、親子ほど歳の違う患者たちに癒されていた。
しかし、由紀を襲った不幸をきっかけにして、病棟内で殺人事件が発生し、、、、、、。
神経科医でもある著者が書いているだけに、おそらく、この作品に書かれている病棟の生活は現実(に近いの)だと思います。
一般の人たちが抱いている神経科の病棟のイメージとは、ほど遠く、あまりにも平和でふつうの生活を送っているのに驚き
ました。 中には、退院できる状態にあるにもかかわらず、家族の意向で退院できない人、もしくは、退院しても行き場所が
ないので、自らの意思で入院を続けている患者もいるのです。 「解説」にも書かれていましたが、著者は、神経科病棟の
日常をとても公正に描写しているのだと感心しました。
↑のあらすじに殺人事件が発生すると書きましたが、この作品は、ミステリーではありません。 それぞれの事情で神経科の
病棟で暮らしている人たちの過去、人間らしさ、ふれあい、自立などをていねいに描き切った作品です。
1995年「山本周五郎」受賞作。 僕のオススメ度:7.5

コメント  裁判長!これで執行猶予は甘くないすか (北尾 トロ著、文春文庫)   作品の紹介 

裁判傍聴のノンフィクション。 話題になった前作「裁判長!ここは懲役4年でどうすか」の続編です。
前作では、雑誌連載のために裁判傍聴を始めた著者でしたが、傍聴経験が2年になり、けっこう裁判に詳しく
なっています。 2年も経てば、そろそろ飽きが出てくるのは?と思いきや、著者いわく、全然そんなことには
ならず、相変わらず、裁判所では驚きの連続とのこと。 この本を読むと、確かにそうだなぁと実感するはず
です。 この本に出てくる裁判は、そのほとんどが大事件ではないけど、被告、証人、裁判官、検察、弁護士の
「リアル」が詰まっています。 裁判に興味がない人でもOKなわかりやすい語り口。 とは言え、個人的には、
前作ほどのインパクトが感じられなかったのも事実。 僕のオススメ度:7.5
前作「裁判長!ここは懲役4年でどうすか」のブックレビューはコチラ 。 
コメント  神さまはハーレーに乗って (ジョーン・ブレイディ著、角川文庫)   作品の紹介 

クリスティーン・ムーア、37歳。 職業、看護師。 7年ぶりに戻ってきた古巣の病院には、かつて結婚を考えながらも
自分の前から去った医師がいた。 7年間の心のリハビリを終え、昔の恋人に会っても心が乱されないだろうと思って
いたが、彼の結婚を知り、全く進歩していない自分に気づく。
そんなクリスティーンの前にジョーと名乗るハーレー・ダビッドソンに乗った男が現れる。 ジョーは、彼女を助ける
ために現れた「神」だという。 もちろん、クリスティーンは、疑ってかかるが、ジョーは、彼女が信じるに値する力を
嫌みなく示す。 こうして、クリスティーンが生まれ変わるための「神」のレッスンが始まる。 神が根気よくクリスティーンを
導く。 しかし、それは奇跡の力を見せることでもなく、説教くさい話でもなかった。 神は、クリスティーンにひとつずつ
生き方を変えるためのルールを授けていく。 ルール自体は、「壁をつくらない」とか「今をたいせつにせよ」とかシンプル
なものばかりだが、ルールを示す前のコンサルティングが完璧なだけに、クリスティーンは、それぞれのルールを、まさに
神の啓示として受け取る。 シンプルだが難しいルールに悪戦苦闘しながらも、彼女は徐々に虚栄心のないナチュラルな
生き方ができるようになっていく、、、、、、。
肩が凝るように、心が凝っている人におすすめします。 宗教的な色彩はほとんどありません。 クリスチャンでなくても
おもしろく読めるはず。 何たって、神の教えは「シンプルに生きよ」なのですから。
1996年に単行本で出版され、1999年に文庫化された作品。 角川書店では廃刊になっているので、古本として入手する
しかありません。 僕が、この本の存在を知ったのは、「本の雑誌」で書店員の方が復刊してほしい本として挙げていた
からです。 僕のオススメ度:7

コメント  中吊り小説 (吉本 ばなな他著、新潮文庫) 作品の紹介 

1990年9月から1992年11月までの間、JR東日本の「Tokyo Trainキャンペーン」の一環として、東京地区のJR車両内で
中吊りポスターに掲出された連載小説を集めた作品集。 19人の作家の小説が、それぞれ、5回〜10回に渡って連載の
ように掲出されました。 執筆した作家のみなさんは、吉本 ばななさん、伊集院 静さん、森 瑤子さん、村松 友視さん、
曽野 綾子さんなど一流の顔ぶれ。 しかし、一回分が本で言うと見開き2ページに相当する文章量であり、5、6回で
完結するとなると書けることは限られてきます。 中には、連載ではなく、一回ずつ完結する短いお話もありました。
肩のこらないオードブルのような作品集だと思っていただければ。 文庫の発行ですら1994年ですから、この本は現在
絶版です。 ご興味がある人は、古本で探してみてください。 僕のオススメ度:7

コメント  アダルト・エデュケーション (村山 由佳著、幻冬舎) 作品の紹介 

女性誌「GINGER」に連載された12編の恋愛小説を収録した短編集。
「甘くて、おしゃれな恋愛小説集?」と思って読み始めたら、期待は大きく裏切られました。
レズ、タトゥー、SM、AV、セックス依存症、不倫、オナニー、、、、、、。
女性の欲望がみごとなまでにストレートに描かれていて、ちょっとびっくりの連続。
かと言って、出てくる女性(20代〜40代)は、誰もが特別な女性でもなく、すさんでいるわけでもなく。
誰もが「欲望」に正直であるものの、「罪悪感」を抱えて生きている、みたいなテーマの作品集。
12編続けて読んでいくと、どれもあり得る話だと思えてしまいました。 僕のオススメ度:7.8

コメント  情夫 (藤堂 志津子著、幻冬舎文庫)   作品の紹介 

表題作(「情夫」)を含む5編を収録した短編集。
「情夫」:25年間、情夫と情婦の関係を持ち続けた45歳の男と女のお話。
「おとうと」:弟自慢の34歳の女性から25歳の弟に引きあわされた44歳の女性のお話。
「ランチ・タイム」:50代半ばの女友だちふたりが隔月のランチで語り合う過去と現在のお話。
「男遊び」:久々のデートの相手に23歳の美容師を選んだ、40代後半の小説家の女性のお話。
「エスコート」:15年前に仕事で知り合った好みの男性を、週に一回、4万円で雇う52歳の女性のお話。
主人公はすべて40代〜50代の女性で独身(なぜか短大卒)。 中年の女性をターゲットに書かれた本なのでしょうが、
所帯じみた話はなく。 男なしでは生きられない(生きられなかった)女たちの生っぽさをストレートに表現した作品集
です。 なんだか覗き見みたいな感覚でページをめくり続けました。
最後に(必要のない)言い訳。 中年女性のリアルを覗き見したくてこの本を買ったのではありません。
誰かにもらって、家に置いてあった本を何気なく読んでみたのです。 藤堂志津子さんの小説を手にしたのは初めてでした。
なるほど人気の秘密が少しわかった気がします。 本好きなら男性もどうぞ。 僕のオススメ度:7.8

コメント  最後の恋 (角田 光代他著、新潮文庫)   作品の紹介 

8人の小説家による短編小説を集めたアンソロジー。 サブタイトルは「つまり、自分史上最高の恋」。
10万部を突破したヒット作(と、本の帯に書いてありました)。 十中八九、女性向きの本なのでしょうが、夢見る
恋物語が集められているわけではなく。 大人の作家たちが、落ち着いた筆致で書いた佳作が並んでいました。
8人の作家のみなさんは次の通り。 阿川 佐和子さん、角田 光代さん、沢村 凜さん、柴田 よしきさん、谷村 志穂さん、
乃南 アサさん、松尾 由美さん、そして、三浦 しをんさん。 どうです?この豪華ラインナップ。 これだけのメンバーの
アンソロジーがワンコイン(500円)で読めるのだから、安いと思いませんか?(とは言え、僕は借りて読んだのですがw)
女性の歳を言うのは何ですが、著者のみなさんは、ほとんどが40代。 作家としても、女性としても、経験を重ねた彼女たちが
紡いだ良質の作品集を(男性も)ご堪能ください。 8人それぞれの特長が出ていて、読み比べという愉しみもありますよ。
「本の雑誌」2009年度 文庫 恋愛小説部門:第9位。 僕のオススメ度:7.8

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