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読書感想文2007 part 3

「読書感想文2007」 part3 は、5月〜6月の読書録です。


 ↓ Click NOVEL mark !
コメント  水の恋 (池永 陽著、角川文庫)   作品の紹介 

高校時代の同級生で、同じ大学に進んだ昭と映理子。 昭は、飛騨高山から出てきた洋平と
意気投合し、やがて、映理子と三人での行動が多くなる。 昭も洋平も映理子に恋をし、二人は
大学卒業まで、お互い、映理子に手を出さない約束をする。 しかし、洋平と映理子が二人きりで
一晩帰らなかったことを、昭は偶然、知ってしまう。 二人の間に何があったのか苦悶する昭。 
でも、洋平と恵理子に聞き出すことはできない。 しばらくして、洋平は故郷の渓谷で、それも
昭の目の前で、事故死とも自殺とも見分けのつかない死を遂げる。 一年後、昭と映理子は結婚
するが、数年を経て、夫婦の仲は冷え切っていた・・・・・・。
洋平と映理子の謎の一夜に苦悶する昭の視点で物語が進んでいきます。 洋平の死の現場になった
巨大なイワナ釣りを結婚後も続ける昭は、飛騨で、同じく巨大イワナ釣りに執念を燃やす、元やくざ
の樫木と妻、歌子と知り合い、二人は、東京でも彼の生活にからんでいきます。 
一方、映理子は、勤め先である不登校児童向けの塾の教え子、卓也を度々、家に連れてくるよう
になり、昭とともに献身的に世話をやくことになります。
昭と映理子、そして洋平の関係を縦の軸とするならば、樫木と歌子、そして、卓也が横の軸として
物語が紡がれていきます。 登場人物は、皆、人との間合いを計るのが下手な人ばかりで、物語
全体にせつない空気が流れています。 でも、決して暗い話ではなく、構成のしっかりした佳作
だと思います。 昭と恵理子の夫婦の精神的絆の再生も見所です。
2006年度「本の雑誌」おすすめ文庫 恋愛小説部門 第3位。 僕のオススメ度:8

コメント  ねじの回転(上)(下) (恩田 陸著、集英社文庫)  

コメント(上) コメント(下)   作品の紹介 

サブタイトルは「FEBRUARY MOMENT」。 この作品は、1936年の「2.26事件」を舞台にしたSFです。
近未来。 人類はタイムマシンを発明し、国連が過去に遡り、よりよい未来のために歴史に介入する。
ところが、この介入によって、AIDSも上回る伝染病が蔓延し、人類絶滅の危機を招いてしまう。
この事態に対し、国連は、再度、過去を修復して、元の歴史をやり直すことを決意。 日本では、
その介入ポイントとして「2.26事件」が選ばれる。 国連は、2.26事件の中心人物に協力を仰ぎ、
歴史を忠実に再生しようとするのだが・・・・・・。
タイムマシンというフィクションの前提条件を除けば、歴史小説、ミステリー小説としても一流の
作品です。 日本のため、人類のため、処刑されることがわかっていながら、「2.26事件」を再現
しなくてはいけない、国連の協力者である青年将校たちの苦悩も、みごとに描かれています。
しかし。 彼らも、もうひとつの結末=自分たちが叛乱軍とはならない歴史を夢見るわけで・・・。
ストーリーは、最後まで予断を許さない展開にしあがっています。
2006年度「本の雑誌」おすすめ文庫 SF部門 第5位。僕のオススメ度:8

コメント  マークスの山(上)(下) (高村 薫著、講談社文庫)  

コメント(上) コメント(下)   作品の紹介 

東京で連続殺人事件が発生する。 最初の被害者と二人目の被害者との間には、一見、接点がない
ように思われたが、意外な接点が見つかる。 そうしているうちに、次々と起こる発砲事件。
被害者たちの共通点とは何か? そして、狙われる理由は? 事件の発端は、16年前の南アルプスに
隠されていた・・・・・・。 警視庁捜査一課の捜査は、強大な権力の前に難航する・・・・・・。
93年「直木賞」受賞作です。 ミステリー小説としてだけでなく、完成度の高い、クオリティーの
高い作品だと思います。 でも、ちょっと読むのに苦労しました。 リーダビリティーがもう少し
高ければいいのになというのが率直な感想です。 僕のオススメ度:8

コメント  照柿(上)(下) (高村 薫著、講談社文庫)  

コメント(上) コメント(下)   作品の紹介 

警視庁 捜査一課の主任、合田は、電車の飛び込み事故の現場に遭遇する。 被害者の中国人
留学生の女性は、不倫相手の日本人男性と揉み合っての末の事故だった。 合田は、この日本人
男性の妻であり、夫を追って現場に居合わせた美保子に一目惚れしてしまう。 
数日後、合田は、幼なじみの達夫に十八年ぶりに再会する。 しかし、達夫は、美保子のかつての
恋人であり、今また、美保子との関係が始まろうとしていた・・・・・・。
物語は、その後、美保子をはさんだ合田、達夫の関係、合田の葛藤、達夫の崩壊などを描いて
いきます。 しかし、↑の「マークスの山」同様、読むのに骨が折れました。 
じっくりと骨太の本格小説に向き合いたい人向き。 僕のオススメ度:7.5

コメント  あやめ横丁の人々 (宇江佐 真理著、講談社文庫)   作品の紹介 

江戸時代のお話。 旗本の三男、紀藤 慎之介は、養子に迎えられる婿入りの祝言の席で、新婦を
奉公人に連れ去られる。 慎之介は、新婦と相思相愛の仲だった男を、はずみで斬り殺し、後を
追って新婦も自害してしまう。 以後、慎之介は新婦の父親の放つ刺客から命を狙われることになり
本所の「あやめ横丁」に身を隠すことに・・・。 しかし、この街の住人たちは、皆それぞれ、人に
言えない過去を持ついわくつきの人間ばかりだった・・・・・・。
あやめ横丁の「あやめ」とは花の「あやめ」ではなく、人を「殺める(あやめる)」のあやめ、という
意味です。 住民すべてが殺人者というわけではありませんが、人を殺した過去を持つ者もたくさん
暮らしています。 とは言え、荒廃した街ではなく、個性的なキャラクターが世間知らずの慎之介に
さまざまな刺激を与え、彼も、人間的に強くなり、成長していきます。 そして、下宿先の娘、伊呂波
(いろは)との、表向きは反発しながらも、やがて惹かれあっていく恋の行方も見ものです。
宇江佐 真理さんの時代小説は「雷桜(らいおう)」をはじめ何冊か読んでいますが、ほんとうに安定感の
ある秀作ばかりです。 この作品もオススメです。
2006年度「本の雑誌」おすすめ文庫 時代小説部門 第4位。 僕のオススメ度:8.5

コメント  千里眼 洗脳試験 (松岡 圭祐著、小学館文庫)   作品の紹介 

パイロットやドライバーの動体視力が劇的に向上する無料セミナーが静かなブームを呼んでいた。
そのセミナーの参加者であるパイロットの不可解な行動に疑問を抱いたカウンセラー、嵯峨は
セミナーの施設に、警察とともに乗り込むが、犯罪の証拠をつかむことができなかった。
ところが、その直後、セミナー参加者4,000人を人質にとった爆弾テロ計画が犯人から明らかに
される。 犯人は、死んだはずのカルト教団教祖、友里 佐知子だった。 友里の、カウンセラー
時代の教え子であり、「千里眼」の異名を持つ、岬 美由紀は、テロの現場に乗り込み、友里に
単身、対峙するが・・・・・・。
人気の「千里眼」シリーズの第4弾。 できれば、過去の3冊を読んでからの方が、この作品を
堪能できると思います。 ドライブ感とリーダビリティーは相変わらず健在。 僕のオススメ度:8
「千里眼」と「千里眼 ミドリの猿」は、2006年読書感想文(6)、「千里眼 運命の暗示」は、
2007年読書感想文(1)をご参照ください。
コメント  マジシャン (松岡 圭祐著、小学館文庫)   作品の紹介 

「目の前でお金が2倍になる」。 ある日、突然、現れた男にそう言われ、半信半疑ながらも、
お金を託す人々。 しかし、その言葉は嘘ではなく、現金は2倍になっていく。 警察も、その謎の
核心に辿りつけずにいた。 そんな中、捜査の中心人物、舛城刑事の前に、15歳のマジシャンの卵、
沙希が現れ、事件は解決に向かう。 沙希は、他にも発生している、マジックを応用した詐欺事件を
次々に解決していく。 やがて、さらに大きな事件が舛城と沙希に迫り・・・・・・。
ミステリーとしても十分おもしろいのですが、次々に出てくるマジックのトリックを使った犯罪の
謎解きが新鮮でした。 これが実際に起こっている詐欺事件の真相かと思うと、詐欺も進化したなあ
と、感心してしまいますよ、きっと。 僕のオススメ度:8.5

コメント  千里眼 マジシャンの少女 (松岡 圭祐著、小学館文庫)   作品の紹介 

東京都が極秘裏にお台場に公営カジノの建設を進める。 そのオープニング公演のために招待された
マジシャンの卵、沙希。 しかし、オープニング会場はテログループに占拠されてしまう。 そこに、
千里眼の異名をとる岬 美由紀が居合わせるのだが・・・・・・。
↑上記「マジシャン」の続編であり、「千里眼」シリーズのヒロイン、岬 美由紀も登場するエンター
テイメント作品。 スケール感の大きさとドライブ感が最高です。 僕のオススメ度:8.5

コメント  真相 (横山 秀夫著、双葉文庫)   作品の紹介 

表題作(「真相」)を含む計5編の短編集。 事件の奥に隠された真相、そして、人間対人間の物語を
描いたミステリー集。 いつもの横山作品よりも、人間の暗部により深くメスを入れた印象。
それにしても、この著者の安定感は抜群です。 何を読んでもはずれがないどころか、高い水準をキープ
しているのは、ほんとうにすごいと思います。 僕のオススメ度:8

コメント  左手首 (黒川 博行著、新潮文庫)   作品の紹介 

表題作(「左手首」)を含む計7編の犯罪小説短編集。 
どのお話も、警察の立場ではなく、犯人が主人公になっています。
憎めない犯人、しかたなく犯罪を犯してしまった犯人を描いてはいるのですが、結末は(犯人にとっての)
ハッピーエンドではなく、ある意味、クールに、時には冷酷に、事件の結末を描いています。
作者の黒川さんは、ハズレのない作家だと思います。 僕のオススメ度:8

コメント  裁判長!ここは懲役4年でどうすか (北尾 トロ著、文春文庫)   作品の紹介 

かんたんに言うと、雑誌連載のために、全く未知の世界だった 裁判の傍聴を始めることになった
ライターさんの裁判傍聴日記です。 とは言え、全然、堅苦しい内容ではありません。
むしろ、今まで遠い存在だと思ってた裁判が身近なものに感じることでしょう。
笑いどころ、ツッコミどころ満載のノンフィクション。 とてもリアルです。
2006年度「本の雑誌」おすすめ文庫 ノンフィクション部門 第8位。僕のオススメ度:8

コメント  さよなら、スナフキン (山崎 マキコ著、新潮文庫)   作品の紹介 

最初に入った大学は一年で中退。 二つ目の大学に入り直したものの、結果的には「三浪」と
なってしまった亜紀。 とても不器用な彼女が一念発起してバイトを始める。 すると、バイト先の
編集プロダクションで、突然、本を執筆することになる。 会社の若手社長にバカにされながらも、
やっと居場所を見つけた亜紀はがんばる。 彼女は、社長に恋をしていた・・・・・・。
物語は、亜紀の純情な想いを中心に、彼女がライターとしても、人間としても、成長していくさまを
描いています。 文章もライトで読みやすかったです。 けど、どちらかと言うと女性向きかな。
2006年度「本の雑誌」おすすめ文庫 恋愛小説部門 第8位。僕のオススメ度:7.5

コメント  人間動物園 (連城 三紀彦著、双葉文庫)   作品の紹介 

埼玉の郊外で4歳の女の子が誘拐される。 しかし、その子の家には、犯人が盗聴器を
仕掛けており、母親は、隣家に手紙で助けを求めた。 さっそく、警察が隣家に乗り込み、
準備を整える。 犯人からの身代金の要求は1億円。 誘拐された女の子の母親は、離婚した
元夫に金策を懇願する。 彼女の元夫は、1億円の収賄で疑惑の渦中にある大物政治家だった・・・。
と、ここまでは、ふつうの誘拐ミステリーに見えたのですが、登場人物ですら気づいていない
トリックが隠されており、読者も最後まで、このカラクリに気づかずにラストを迎えることと
思います。 2003年度「このミステリーがすごい!」第7位。という高い評価。
2006年度「本の雑誌」おすすめ文庫 国内ミステリー部門 第5位。 けど。 僕のオススメ度:7.5

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