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読書感想文2007 part 2
「読書感想文2007」 part2 は、3月〜4月の読書録です。
↓ Click NOVEL mark !
鴨川ホルモー (万城目 学著、産業編集センター)
作品の紹介
二浪の末、京大に入学した直後の五月、安倍は、大学の先輩から「京大青竜会」なる
謎だらけのクラブに勧誘される。 飲み会に来ていた、同じ新入生の京子に一目ぼれ
した彼は、青竜会の実態を知らないまま、入部することになるが、それは、通常の
クラブとは異なる、異次元の世界だった・・・・・・。
「ホルモー」というのは、1チーム10人の学生が、各自100匹の式神(小鬼)を操り、
戦う競技の名前。 京大は、京都の他の3つの大学と毎年、ホーム&アウェーのリーグ戦を
戦っているのだった。 安倍の戦いと恋の幕が切って落とされる・・・・・・。
何の予備知識もないまま読み始めたので、物語の着想に驚きました。 ファンタジー小説
というか、SF小説の部類に入るのでしょうが、競技の設定や描写が優れていて、わりと
自然に物語の世界に入ることができました。 ふつうの小説に飽き足らない人には
オススメです。 とは言え。 決してイロモノ作品ではなく、レベルの高い小説だと思います。
第4回「ボイルドエッグズ新人賞」受賞。 2007年度「本屋大賞」ノミネート。
「紀伊国屋書店スタッフが面白いと思った本30冊」 第2位。
2006年度「本の雑誌」エンターテイメント部門 第1位。 僕のオススメ度:8.5
第三の時効 (横山 秀夫著、集英社文庫)
作品の紹介
表題作(「第三の時効」)を含む計6編のミステリーを収録した短編集。
舞台は、地方の県警本部 捜査一課の強行犯係。 それぞれ優秀だが、他のチームには
心を許さない、ライバル心剥き出しの一班、二班、そして、三班。 それぞれの班長も
全くタイプが違うが、共通するのは、完全な検挙率。
横山さんの警察小説は、どれもほんとうにクオリティーが高く、読み終えるとき、名残り
惜しい気持ちになります。 緻密な構成、意外な犯人、刑事たちの矜持と閃き。
まさにプロ中のプロとも言える仕事ぶり。 今回もプロの仕事を堪能させていただきました。
2004年度「このミステリーがすごい」 第4位。 僕のオススメ度:9
真剣 (海道 龍一朗著、新潮文庫)
作品の紹介
サブタイトルは「新陰流を創った男、上泉伊勢守信綱」。 16世紀、戦国時代の物語。
上野の国の城主の次男として生まれた信綱は、10代の頃、剛の剣を学ぶ。
そして、20代で柔の剣を修めた。 全く性格も剣も異なる二人の師匠に師事し、彼は
自らの流派、新陰流を興し、兵法を極めようとする。 しかし、夭折した兄にかわり、
家督を継いだ彼は、乱世に翻弄される。 北条氏や武田氏に侵攻され、城主として
戦う信綱。 やがて、50代半ばにして、ようやく自由の身となった彼は、諸国を巡る旅に
出る。 そして、奈良で、槍の名手である僧侶と立ち合うことになり・・・・・・。
650ページの長編です。 でも、盛り上がりが何度もあり、読者を飽きさせることなく、
最後までもっていきます。 数々の対決のシーン、そして、戦場のシーンも迫力十分。
物静かな中にも熱い魂を秘めた信綱の生き様に感動すること、請け合いです。
2006年度「本の雑誌」おすすめ文庫 時代小説部門 第1位、総合4位。 僕のオススメ度:9
海のふた (よしもと ばなな著、中公文庫)
作品の紹介
美術短大を卒業して、故郷の西伊豆に戻ってきたまりちゃん。 彼女は、南の島で
出会ったかき氷屋さんに感動して、自らもかき氷の店を始めることになった。
そんな時、母の友人の娘である、はじめちゃんがまりちゃんの家にやって来る。
はじめちゃんは、子どもの頃に負ったやけどのせいで顔と身体の右半分が真っ黒な子。
彼女は、大好きなおばあちゃんを亡くしたばかりだったが、まりちゃんの店を手伝い
ながら、まりちゃんと過ごすうちに元気を取り戻していく。
そうして、二人は互いをかけがえのない存在として認め合うようになるが、やがて、
夏が過ぎ、はじめちゃんは自分の家に帰っていく・・・。
ひと夏のふたりの女の子のやわらかな気持ち、友情、強さ、哀しさ、喜びを描いた
物語です。 大きな事件が起こるわけではないけど、心に染み入る作品に仕上がって
います。 そして、26点の版画が作品に彩りを添えています。 僕のオススメ度:8
永遠の出口 (森 絵都著、集英社文庫)
作品の紹介
どこにでもいるようなふつうの女の子、紀子の小学校三年生から高校三年生までを
綴った作品。 物語の中ですごく大きな事件が起こるわけではないけど、僕たちがかつて
そうだったように、大人になるとささいなことも、その時の当人にとっては、ものすごく
大きなことだったりする。 そんなふうに、主人公の、その時その時の不安や喜び、恋心、
屈折などを、表現力豊かにみずみずしく描いています。
2004年度 第一回「本屋大賞」第4位。 僕のオススメ度:8
だましゑ歌麿 (高橋 克彦著、文春文庫)
作品の紹介
1790年、江戸時代。老中 松平 定信の「寛政の改革」の頃のお話。
江戸で大人気の絵師 歌麿の女房が誘拐された上、死体で発見される。 南町奉行所の同心、
仙波は捜査を進めるが、上層部から事件を深追いしないようにと圧力がかかる。
やがて、次々と発生する、商家を襲う押し込み強盗の捜査を進めるうちに、仙波は、一連の
事件の背後にいる黒幕の存在を突き止める。 しかし、その黒幕は、仙波には手の届かない
存在だった・・・・・・。
基本的には、仙波が事件の黒幕の圧力と戦いながら、核心に近づいていく、というミステリー
ですが、この小説にはいくつも見所があります。 まず、寛政の改革を巡る幕府と庶民の感覚の
ズレを、歌麿の絵や商家への取締りを通してわかりやすく描いている点。 次に、個性豊かな
脇役陣(若き日の北斎なんかも出てきます)。 堅物、仙波と柳橋の芸者おこうとのじれったい
恋愛。 そして、あっと驚く歌麿の正体などなど、興味は尽きません。 とは言え。 やはり、
味わって欲しいのは、骨太な本筋のミステリーの部分。 最後の最後まで、誰が味方か敵なのか、
わからないように読者を引っ張っていきます。
640ページの大作。 僕のオススメ度:8.5
おこう紅絵暦 (高橋 克彦著、文春文庫)
作品の紹介
↑の「だましゑ歌麿」の続編というよりも、姉妹編と呼ぶべき作品。
「だましゑ歌麿」は、同心の仙波が主人公でしたが、この作品は、筆頭与力に出世した
仙波の妻となった「おこう」が主人公。 おこうが、舅の左門とともに、夫も顔負けの推理で
難事件をさらりと解決していきます。 そんな、おこうの活躍を描いた短編12編を収録。
「本の雑誌」が選ぶおすすめ文庫 2006年 時代小説部門 第10位。僕のオススメ度:8
陰陽師 大極ノ巻 (夢枕 獏著、文春文庫)
作品の紹介
今や著者の代表作のひとつとなった、安倍 晴明が主人公の「陰陽師」シリーズの第7作。
僕も、一巻からずっと読んでいます。 本作は計6編を収録。
岡野 玲子さんの漫画は完結してしまいましたが、小説のほうはこれからも続くそうです。
いつもながら、高いレベルで安定した仕上がり。
「本の雑誌」が選ぶおすすめ文庫 2006年 時代小説部門 第8位。僕のオススメ度:8
マドンナ (奥田 英朗著、講談社文庫)
作品の紹介
表題作(「マドンナ」)を含む計5編を収録した短編集。 各作品の主人公は、どれもが
40代の中間管理職。 自分の課に異動してきた25歳の女性に恋したり。 海外営業から
総務に異動して文化の違いに戸惑ったり。 同い年の海外帰りの女性部長の下で働くこと
になったり。 そんな男たちの会社社会の中での悲哀やプライド、働く姿を共感豊かに
描いています。 僕のオススメ度:8.5
シャドウ (道尾 秀介著、東京創元社)
作品の紹介
小学校5年生の凰介(おうすけ)の母が癌で亡くなった。 その直後、凰介の母の友人、恵が
夫の勤める医大の屋上から飛び降り自殺を遂げる。 恵の娘で、凰介の同級生でもある、亜紀は
悲しみに沈むが、今度は、亜紀が交通事故に遭う。 しかし、車を運転していた女性は、亜紀が
自分から車に飛び込んできたと証言する。 そんな中、凰介の父は不眠症で睡眠剤を手離せず、
亜紀の父も精神安定剤に頼っていた・・・・・・。
物語が進むにつれて、亜紀の母、恵の自殺の真相が明らかになっていきます。 それも、一気に
明らかになるのではなく、じわじわと、これでもか、これでもかと驚愕の真相がベールを脱いで
いくさまを堪能する作品だと思います。 個人的には、ちょっと救いがないかな、と思いましたけど。
『このミステリーがすごい!2007年版』 国内編 第3位。
『週刊文春』「2006ミステリーベスト10」 国内部門 第10位。
でも、好みが分かれる作品かも。 僕のオススメ度:8
手紙 (東野 圭吾著、文春文庫)
作品の紹介
直貴と兄の剛志は、両親のいない二人きりの兄弟。 剛志は、弟を大学に進学させたいが、
腰を痛め、思うように仕事が見つからない。 そして、老女の一人暮らしの家に金を盗みに
入るが、はずみで殺人を犯してしまう。 剛志は懲役15年の刑を言い渡され、直貴は進学を
あきらめ、小さな会社に就職する。 直貴は、働きながら、一年後、通信制の大学に入学し、
さらに一年後には全日制に編入する。 友人もでき、音楽という生きがいも見つけ、やっと
ふつうの生活を送れるようになると思ったのだが・・・・・・。
刑務所の兄から直貴に毎月、手紙が届きます。 兄は、罪を悔い、弟を心配しながらも、自分が
刑務所内で技術を習得していくさまや、昔話などを綴ります。 けれど、兄のことが原因で
バイトや友人、恋愛、就職など、さまざまな局面で辛酸を舐めさせられる直貴は、兄の手紙を
素直な気持ちで読むことができなくなっていきます。 直貴のまわりの人間も、罪を犯したのは
直貴ではないとわかっていながらも、直貴の味方にまではなってくれません。
理屈では差別はいけないとわかっていながらも、自分の間近の問題になったとき、人はどう反応
するのか。 決してオーバーではなく、読者もいっしょに考えさせるようなつくりで、説得力を
持って書かれていました。 僕のオススメ度:(9に近い)8.5
1985年の奇跡 (五十嵐 貴久著、双葉文庫)
作品の紹介
1985年、東京、小金井の都立高校野球部は、部員数九人の超弱小チーム。 創部以来、
公式戦はおろか、練習試合でも勝ったことがない。 ところが、野球の名門校から
一人の天才ピッチャーが転校してきて、チームは生まれ変わり、甲子園の西東京大会予選を
おもしろいように勝ち進む。 けれど、新エースには、誰にも言えない秘密があった・・・・・・。
痛快です。 笑います。 そして、泣きます。 マニアックな野球小説ではありません。
気軽に読めます。一気に読めます。 誰が読んでも、おもしろいと思う作品。
僕のオススメ度:8.5
母恋旅烏(ははこいたびがらす) (荻原 浩著、双葉文庫)
作品の紹介
花菱清太郎は、かつて大衆演劇のスターだった。しかし、独立して一座を構えたものの、
うまくいかずに引退。その後、いつくつかの会社を興したが、それも失敗。50歳を目前にして、
今では家族(妻と子ども3人)で「レンタル家族」派遣業という仕事をしてしのいでいる。
ところが、借金苦に悩む清太郎に、かつての座長が舞台復帰の話を持ちかけて・・・・・・。
若年性アルツハイマー病を描いた秀作「明日の記憶」の著者、荻原 浩さんの作品です。
でも、この作品は、「明日の記憶」と違って、全編、笑いの要素 満載です。「母恋旅烏」という
タイトルは、物語の後半で清太郎たちが演じる芝居の名前です。大衆演劇が舞台の作品ですが、
シニア向けの内容ではなく、若い人が読んでも、十分に楽しめます(笑えます)。
「本の雑誌」が選ぶ2002年上半期ベスト10 第3位。 僕のオススメ度:(9に近い)8.5
神無き月十番目の夜 (飯嶋 和一著、河出文庫)
作品の紹介
1602年 常陸の国の北端のお話。 戦国時代、小生瀬(こなませ)村の騎馬衆は、戦と
なれば、大型の馬を駆り、抜群の騎馬術で戦場を駆け抜けた。 そのおかげで、領主からは
自治権と年貢の減免措置を受け、豊かな暮らしを謳歌していた。 ところが、関が原の戦い
を機に、徳川幕府の所領となり、すべての特権を奪われることになった村の若衆たちは
その決定を素直に受け入れることができず、検地にやってきた役人を謀殺してしまう・・・。
それでも、庄屋は懸命に若衆たちをなだめ、村の存亡に命をかけますが、もはや流れを
止めることも叶わず、村は破滅への道を一歩、また一歩、たどっていきます。
かなり悲しい物語です。 でも、最後まで目が離せず、一気に読めてしまいます。
2006年度「本の雑誌」おすすめ文庫 時代小説部門 第5位。僕のオススメ度:8
狼は瞑(ねむ)らない (樋口 明雄著、ハルキ文庫)
作品の紹介
かつては与党の首相候補議員のSPを務めていた佐伯は、警護の最中にテロリストからの
銃撃で重傷を負い、SPの職を離れた。 現在は北アルプスの山岳警備隊の一員として
寡黙な毎日を送っている。 ある日、山に逃げ込んだ過激派を追って、警察庁の特殊
部隊が、台風で大荒れの山に向かう。 しかし、特殊部隊が追っていたのは、過激派
ではなく、山で救助作業中の佐伯だった・・・・・・。
一級品の山岳サスペンスです。 佐伯と警察庁との対決が見ものですが、もうひとつ
この作品を支えているのは、山岳警備隊の男たちの使命感、連帯感、そして、温かさ
です。 とても熱い男たちの物語。 僕のオススメ度:8
しょっぱいドライブ (大道 珠貴著、文春文庫)
作品の紹介
表題作(「しょっぱいドライブ」)を含む計3編を収録した短編集。
34歳の女性が、妻と別居中の老人と、何となく同棲に至る顛末を描いたり(表題作)。
中学2年生の女の子が、巡業で福岡にやってきた下位の力士とラブホテルに入ったり
(「富士額」)。 成人式を終えたばかりの女の子が、粘着質の女友だちから離れて
東京で就職したり(「タンポポと流星」)。 この本は、目立たないけど、ちょっと変わった
10代、20代、30代の女性が、恋とは呼べないふしぎな恋をするさまを描いています。
表題作は2003年の芥川賞受賞作。 僕のオススメ度:7.5
輓馬(ばんば) (鳴海 章著、文春文庫)
作品の紹介
事業に失敗し、離婚の末、22年ぶりに故郷の北海道を訪れた四十男の矢崎。
彼は兄、東洋雄(とよお)が調教師をつとめる輓曳(ばんえい)競馬の厩舎を訪ねる。
輓曳競馬とは、1トンもの馬たちがそりに乗った騎手に操られ、坂を越えてゴールを
目指す北海道独特の競馬。 矢崎は、兄に言われるまま、厩舎の手伝いを始める。
彼がそこで見たものは、馬のために懸命に働く男たち、そして、レースで障害を越える
ために懸命に力を振り絞る馬の姿だった・・・・・・。
物語の中で大きな事件が起こるわけではありません。 借金の取り立てから逃れるために
兄の元に逃げ込んだ主人公の魂の再生を描いた一週間の記録です。
「本の雑誌」おすすめ文庫 2006年度国内ミステリー部門 第7位。 とは言え、この作品は
ミステリー色は薄いですよ。 僕のオススメ度:7.5
出版業界最底辺日記 (塩山 芳明著、ちくま文庫)
作品の紹介
小説ではありません。 ノンフィクション作品です。
サブタイトルは「エロ漫画編集者『嫌われ者の記』」。
エロ漫画の下請け編集プロダクションを経営する著者の1990年から2005年までの日記。
版元(仕事をくれる出版社)、漫画家、印刷会社、製版所、お役所などを実名入りで
ズバズバ斬っていく心地よい展開。 業界だけでなく、著者の読んだ本の感想(著者は
ものすごい読書家)、そして映画のレビューも参考になります。 僕のオススメ度:8
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