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読書感想文2006 part 4
「読書感想文2006」 part4 は、夏〜初秋の読書録です。
↓ Click NOVEL mark !
イン・ザ・プール (奥田 英郎著、文春文庫)
作品の紹介
ストーカーから追いかけられるという被害妄想の塊みたいなモデル。 一日中、携帯
電話に触れていないと落ち着かない男子高校生。 自分の部屋のタバコの火を消して
きたか不安で何度も確認しないと気がすまないルポライター。
伊良部総合病院の地下の薄暗い「神経科」を訪れる患者たちは、かなりユニーク。
しかし、彼らを迎え撃つ神経科医 伊良部(院長の息子)は、さらにユニーク。
看護婦も、若くて色気はあるが、無愛想を絵に描いたような女性。
伊良部の治療は定石など、全くお構いなし。 患者たちへのアドバイスも「もっと
たいへんな状況を(自ら)つくりだしたら、今の悩みなんて吹き飛ぶ」なんて類の
とんでもないもの。 ところが、、、最初は、伊良部のことをハズレだと思っていた
患者たちも、しだいに伊良部のペースに乗せられ、最後には症状がよくなっている。
しかも、当の伊良部は、戦略的にそう仕向けているのではなく、感情の赴くままに
発言しているとしか思えない。
そんな、伊良部と患者たちの交流を描いた短編集(5編収録)。 いやあ、ほんとに
笑わせてもらいました。 直木賞を受賞した「空中ブランコ」のもとになった作品。
僕のオススメ度:8.5
間宮兄弟 (江國 香織著、小学館)
作品の紹介
二人暮しの間宮兄弟。 兄は酒造メーカー勤務の35歳。 やせ型。七・三分け。
スーツに合わせる白いワイシャツを、休日にチノパンに合わせて着る。
弟は小学校の用務員、32歳。 小太り。兄よりも少しだけ大胆。 酒は飲まない。
コーヒー牛乳が好き。 兄弟そろって読書家。 映画好き。 ジグソーパズルが好き。
友だちが少ない。 インドア派。 母親思い。 間宮兄弟の歴史は失恋の歴史。
女性にもてないのは、兄弟の永遠の悩み。 オタクとかキモいが二人を飾る形容詞。
少し親しくなった女性たちも「いい人」とは思ってくれるけど、恋愛となると、完全に
一線を引いてしまう。 しばらくは、自分たちから女性を遠ざけて暮らしてきたが、
ある日、(兄弟が行きつけの)レンタルビデオ屋の店員の女の子と弟の勤務先の先生を
誘って、カレーパーティーを開く。 まずまずの成果に気をよくした兄弟は、続いて、
花火に誘うのだが・・・・・・。
恋愛小説なんだけど、ありえない主人公の設定。 登場する女性たちも、兄弟にそれほど
悪い感情は持っていない。 だけど、恋愛になると一線を引く。 そこが痛い。実に痛い。
読み進んでいくうちに、思わず兄弟を応援している人が多いのでは? そんな、痛いけど
ほのぼの(?)したお話です。 僕のオススメ度:8.5
札差市三郎の女房 (千野 隆司著、角川春樹事務所 ハルキ文庫)
作品の紹介
江戸時代のお話。 貧しい御家人の娘、綾乃は家に金銭的援助を受けるため、
泣く泣く旗本、坂東の側室となる。 しかし、坂東の仕打ちに耐え切れず、雪の日、
屋敷を抜け出したところを、札差(ふださし。旗本や御家人相手の金融業)を営む
市三郎に助けられ、匿われる。 やがて、坂東が市三郎の商売を妨害すべく、様々な
嫌がらせを始め、綾乃は自分のせいだと心を痛める・・・・・・。
傲慢な旗本、坂東 vs 人格者、市三郎の闘いと、綾乃と市三郎の恋を軸にストーリーが
展開していきます。 権力に屈せず、仕事にも人生にもけなげに立ち向かう人々の姿が
心を打ちます。 時代小説が苦手な人にもおすすめです。
「本の雑誌」おすすめ文庫 2004年度版 時代小説部門:第6位。 僕のオススメ度:8.5
ハルビン・カフェ (打海 文三著、角川文庫)
作品の紹介
福井県のある港湾都市は、中国、韓国、ロシアのマフィアが入り込み、無法地帯と
化していた。 警官の殉職が相次ぎ、ついに、警官側がマフィアに復讐する地下
組織「P」を結成した。 マフィア側とPの抗争は激化していったが、Pの一斉検挙
により事態は沈静化するかに見えた。 ところが・・・・・・。
600ページ近い大作。 複数の事件、多数の登場人物、そして、入り組んだ人間関係。
読む側にもかなりの努力を要求します。 けれど、読んだことを後悔させない、ハイ・
クオリティーのハードボイルド作品です。 一気に読んでしまうと思います。
第5回「大藪春彦賞」受賞作。 僕のオススメ度:8.5
愚行録 (貫井 徳郎著、東京創元社)
作品の紹介
都内の閑静な住宅街で三十代半ばの夫婦とこども二人の一家四人が惨殺される。
一年経っても、犯人は逮捕されなかったが、事件のことを熱心に取材する男がいた。
その男は、殺された夫婦の学生時代の友人たちから二人の過去を丹念に聞きだしていく。
すると、一見、何の問題もないかに見えたエリートの二人の過去に、少しずつ染みの
ような面があぶり出されていく・・・・・・。
物語は、惨殺された夫妻の友人たちの語りを中心に、不幸な生い立ちの女性の、兄に
向かっての語りが挿入されるかたちで進んでいきます。 一見、無関係に見える、この
ふたつの要素がラストで結びつき、事件の真相が明らかになるわけです。
ラストまで、先が見えずに読み進みましたが、著者の筆力にぐいぐい引っ張られました。
2006年「直木賞」候補作。 僕のオススメ度:8
本能寺六夜物語 (岡田 秀文著、双葉文庫)
作品の紹介
本能寺の変から30年あまり後、六人の男女が山寺に集められた。 彼らは、一夜に
一人ずつ自分の体験を話していく。 彼らは、本能寺の変に関わりのある者だった。
当日、本能寺に居合わせた者。 明智光秀の小姓だった者。 森蘭丸に恋した女。
彼らの口から本能寺の変の背景や、織田信長にゆかりの人々のことが次第に明らかに
なっていく・・・・・。
六作の短編集。 最初の話で、信長が死ななかったと語られるが、最後の話で、また
違う真実が明らかになる。 よくある「信長は死ななかった」系の話ではなく、より
深堀りした、新しい視点も加わっています。 僕のオススメ度:8
安政五年の大脱走 (五十嵐 貴久著、幻冬舎文庫)
作品の紹介
1858年のお話。 江戸幕府の大老、井伊 直弼は若き日にひと目ぼれをしたが、
その恋は叶わなかった。 それから24年後、直弼は、偶然、かつて恋した女性の
娘を見かける。 彼女は、南津和野藩の姫、美雪。 直弼は、大老の権威を生かし、
強引に美雪を側室にしようとするが、彼女に断られる。 怒りが収まらない直弼は、
側近の進言に従い、南津和野藩の江戸屋敷の藩士全員に謀反の罪を着せ、美雪
ともども脱出不可能な断崖絶壁の山頂に監禁する。 藩士51人の命と引き換えに
美雪に側室になることを迫る直弼の側近。 決断に一ヶ月の猶予を与えられ、美雪の
孤独な軟禁生活、そして、藩士たちの罪人扱いの日々が始まる。 藩士たちは、
美雪ともども脱出すべく、地中に穴を掘り始めるが・・・・・・。
冷酷無比ながら頭脳明晰な直弼の側近 vs 南津和野藩士たちの知恵と団結が見ものです。
穴からの脱出がうまくいくのかどうか、とはらはらしながら読み進んでいったのですが、
最後の最後に、あっと驚く仕掛けが用意されていて・・・。 作者のしゃれっ気を感じました。
「本の雑誌」おすすめ文庫 2005年度版 時代小説部門:第3位。 僕のオススメ度:8
凍りのくじら (辻村 深月著、講談社ノベルス)
作品の紹介
理帆子は進学校の高校二年生。 父親の影響でこよなく「ドラえもん」を愛している。
彼女の父親は著名なカメラマンだったが、彼女が小学生の頃、癌の末期に失踪してしまう。
そして今、母親も癌を発病し、余命いくばくもない状態。 高校1年の時に付き合っていた
弁護士志望の6歳年上の男は、自分しか愛せない哀れな男だった。 そして今、理帆子は
偏差値とはかけ離れた世界にいる友だちと適当に楽しく生きている。 そんな彼女の前に
同じ高校に通うひとつ年上の男が現れる。 彼は理帆子をモデルにして写真を撮りたいと
言う。 まるで、遠い昔、理帆子の父がそうしたかのように・・・・・・。
なんかふしぎな感性の物語でした。 透明感があるのだけど、覚めていて、でも壊れそうな
主人公のこころ。 そして、彼女が出会うカメラマン志望の男、ことばを失った少年。
彼らとの出会いを経て、理帆子は少しずつ癒されていくのですが、別れた恋人が壊れていく。
そんな微妙なバランスの中で生きていく主人公の心理描写がみごとでした。 そして、彼女の
好きな「ドラえもん」のエピソードが作中で効果的に使われていました。 僕のオススメ度:8
八月の路上に捨てる (伊藤 たかみ著、文藝春秋)
作品の紹介
敦は自動販売機の飲料を補充するアルバイトをしている30歳。 4年間続いた結婚生活に
ピリオドを打つ直前だ。 しごとでのパートナーは2歳年上の水城という女性ドライバー。
水城もバツイチで二人の子持ち。 八月の酷暑の日、水城の異動前の最後の日、敦は
水城に離婚に至ったプロセスを語っていく・・・・・・。
2006年 135回「芥川賞」受賞作。 読みやすい仕上がり。 僕のオススメ度:7.5
ピピネラ (松尾 由美著、講談社文庫)
作品の紹介
加奈子は、結婚4年。30歳の専業主婦。 家に帰って靴を脱いだとたん、身長が1m〜1m20cm
くらいになってしまうという奇妙な現象が始まって1年半になる。 とは言え、それ以外の面では
平和で平凡な毎日だった。 ところが、ある日突然、夫が失踪する。 「ピピネラ」という謎のことばを
書いたメモを残して・・・・・・。 加奈子は、手がかりをもとに、友人とともに、夫を追うのだが・・・・・・。
ひとあじ違うミステリー。 犯罪や殺人が出てくるわけではなく、なぜ加奈子の夫が失踪したのか、
ピピネラとは何か、そして、なぜ加奈子の身体は小さくなるのか。 主人公がこれらの謎に迫っていく
展開です。 ただ、「オチ」に関しては、賛否両論あるかも。 僕のオススメ度:7.5
龍宮 (川上 弘美著、文春文庫)
作品の紹介
表題作(「龍宮」)を含む計8編の短編集。
二百年前まで蛸だった男の話。 狐が化けている老人の話。 海からやってきて人間界に
住み着いた女の話。 そんな幻想的な話が次々と出てきます。
川上 弘美さんと言えば「センセイの鞄」が有名ですが、芥川賞を受賞した「蛇を踏む」の
ように、人間でないものと人間との関わりを描いた話も得意分野のようです。
ふしぎなふしぎな世界観のお話ばかり。 僕のオススメ度:7.5
サイレント・ボーダー (永瀬 隼介著、文春文庫)
作品の紹介
総合月刊誌のフリーライター、仙元(せんげん)。 ある大学教授のスキャンダルをモノにし、
原稿を完成しようとした瞬間、別れた妻が中学生の息子に襲われ入院する。 仙元は原稿の
詰めをアシスタントの南田に依頼するが、原稿だけではなく、編集部内の地位も奪われてしまう。
仙元の代わりに一躍スターダムに登りつめた南田は、渋谷の自警団「シティ・ガード」のリーダー
である18歳の三枝 航(わたる)にも接近し、別の雑誌に寄せたこの記事も大きな話題となる。
一見、接点のなかった仙元と航。 しかし、ある事件をきっかけに対峙していくことになる・・・・・・。
社会性、時代性の濃いミステリーです。 でも、事件が複層に折り重なっていて、かなり複雑な
ストーリーだったかも。 僕のオススメ度:7.5
水の時計 (初野 晴著、角川文庫)
作品の紹介
暴走族のリーダー格の昴(すばる)。 彼らのグループは仲間の開発した警察無線傍受の
システムやナビゲーションシステムにより、警察の追跡からことごとく逃れていた。
父親の残した膨大な遺産により、脳死と判定されながら、生命を維持され続ける少女、葉月。
彼女は、月夜の夜に限り、特殊な装置を使って会話をすることができる。
ある日、彼女の主治医、芥(あくた)が昴に仕事を持ちかける。 葉月の臓器を、移植を必要
とする患者たちに運んでほしい、と。 それは、裏で行われる行為であり、新鮮な臓器を迅速に
運ぶ必要があるため、警察の取り締まりから逃れる必要があった。 だからこそ、警察を出し
抜ける装置を有する昴に白羽の矢が立ったのだ。 昴は、葉月の希望を叶えるため、角膜、
肝臓など、次々と葉月の臓器を運び、彼女に患者の様子を報告していく・・・・・・。
オスカー・ワイルドの「幸福の王子」を下敷きに描かれた物語ですが、単純に物語をなぞるだけ
だけではなく、見事に新しい話として成立させています。 ミステリーのジャンルですが、人の生
についても考えさせられる内容です。 そして、筆者独特の世界観は、好き嫌いもあるかもしれ
ないけど、レアな感じがしました。 2002年「横溝正史ミステリ大賞」受賞作。 僕のオススメ度:7.5
つきのふね (森 絵都著、角川文庫)
作品の紹介
2006年 135回「直木賞」を受賞した森 絵都(えと)さんの1998年の作品。
中学2年生のさくらは、万引き事件をきっかけに親友の梨利(りり)と疎遠になってしまう。
そんなとき知り合った24歳の智(さとる)さんは、人類救出のための宇宙船のスケッチばかり
描いているふしぎな人。 やがて、梨利に憧れる同級生の勝田くんも智さんの部屋に出入り
するようになり、平穏な日々を過ごしていたが、少しずつ智さんが壊れていく・・・・・・。
作者によると児童書として書いたものらしいけど、大人が読んでも、十分おもしろい作品に
仕上がっていると思います。 「尊いもの」を考えさせられるお話。 僕のオススメ度:7.5
ベター・ハーフ (唯川 恵著、集英社文庫)
作品の紹介
バブル絶頂の89年に結婚した一組の夫婦のその後の十年間を描いた物語。
二人の結婚は、披露宴当日、そして、新婚旅行一日目に早くも綻びを見せる。
いつ別れてもおかしくない状態の中、数年後、子どもができるが、それでも家庭円満とはいかない。
夫のリストラやお互いの不倫、親の介護など次々と問題が起こるが、なんとなく別れない二人。
結婚前の人も、結婚した人も、ある意味、身につまされるお話では。
「本の雑誌」おすすめ文庫 2005年度版 恋愛小説部門:第7位。 僕のオススメ度:7.5
ハードボイルド・エッグ (荻原 浩著、双葉文庫)
作品の紹介
脱サラして探偵事務所を開業した30代の男。 彼はフィリップ・マーロウに憧れ、
ダンディーな私立探偵を目指している。 でも、舞い込む仕事は動物の捜索ばかり。
一念発起して、美人秘書の求人を出すが、やって来たのは80歳を過ぎたおばあちゃん。
やがて、探偵と老婆の凸凹コンビの日々が始まる。 まもなく、二人は大きな事件に
巻き込まれ・・・・・・。
荻原 浩さんは、ほんとに器用な作家だと思う。 この作品は、シリアスな話ではなく、
軽妙なタッチでした。 僕のオススメ度:7
石の中の蜘蛛 (浅暮 三文著、集英社文庫)
作品の紹介
引越し先の下見を終えたところで謎の車に当て逃げされた楽器修理工の立花。
彼は、この事故がきっかけで聴覚が異常に敏感になる。 やがて、引越し先に以前
住んでいた女性の音の残骸まで聞き分けられるようになり、失踪した彼女を探し
出そうとするのだが・・・・・・。
やがて、主人公(立花)は思いもよらない事件に巻き込まれていることを知ることに
なります。 ミステリーとして読む分には、きちんと書かれた質の高い作品です。
ただ、個人的には、あまりにも、音にまつわる描写が多すぎて、少し疲れたかも。
第56回「日本推理作家協会賞」受賞作。 僕のオススメ度:7
灰色の北壁 (真保 裕一著、講談社)
作品の紹介
表題作(「灰色の北壁」)を含む計3編の山岳系の短編ミステリーを収録。
話はおもしろいのだけど、どれも山の話なので、山系じゃない人にはちょっとツライかも。
真保 裕一さんは、織田 裕二主演で映画化された「ホワイトアウト」の原作者でもあります。
第25回「新田次郎文学賞」受賞作。 僕のオススメ度:7
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