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読書感想文2014 part 1
「読書感想文2014」 part1は、1月〜2月の読書録です。
↓ Click NOVEL mark !
丕緒(ひしょ)の鳥 十二国記 (小野 不由美著、新潮文庫)
作品の紹介
大人気シリーズ「十二国記」の久々の新作。 表題作(「丕緒の鳥」)を含む計4編を収録した短編集。
表題作「丕緒の鳥」は、国の慶事の際に、陶製の鳥を射る儀式を司る男、丕緒(ひしょ)のお話。
慶の国に新王が即位することになった(十二国記「月の影 影の海」の主人公、陽子が新王)。
しかし、丕緒は、儀式に臨む情熱を失っていた。 かつて苦楽を共にした一人が処刑され、もう一人も
王の命で連行された後、行方知れず。 苦しむ民の姿を表現し、見せた儀式も、前王に受け入れられ
なかった。 かと言って、儀式から逃げるわけにもいかない。 やがて、かつての仲間がつくろうとして
いた鳥のイメージを知り、もう一度、仕事に向き合うようになる。 果たして、その成果は、新王に称賛
され、丕緒の心は救われる、、、。
二つ目のお話は、死刑判決をめぐり、議論を重ね、思い悩む裁判官の物語。
三つ目のお話は、荒廃が進む国で、ブナの林を再生するために懸命に努力を続ける下級役人の物語。
最後のお話は、暦をつくる役人たちの屋敷で働く、孤児になった少女の物語。
この本には、「十二国記」の中心人物である各国の王や麒麟は出てきません。 名もなき役人や市民を
主人公に据え、十二国記の世界のディテールをひじょうに丹念に描いています。
とは言え、早く長編の新作が読みたいものです。
「ダ・ヴィンチ」の「BOOK OF THE YEAR 2013」小説ランキング部門:第1位。 読者・文筆家・書店員
による「記憶に残った今年最良の1冊」に選出。
Amazonの「Best of 2013 Books 年間ランキング」ライトノベル(女性)部門:第1位。
「十二国記」公式サイトはコチラ
2012年、講談社から新潮社に移籍し、「完全版」の刊行がスタートした「十二国記」。 本作は12年ぶり
となった待望の新作。 この後、新作の長編も刊行予定。 オススメ度:8
下北サンデーズ (石田 衣良著、幻冬舎文庫)
作品の紹介
長野から東京の国立大学進学のために上京した里中ゆいか、18歳。 高3の時に、下北沢の小劇場で観た
貧乏劇団「下北サンデーズ」の芝居に感動し、劇団の一員となる。 下北サンデーズは、旗揚げ以来10年
経った今も、定員80人の「ミニミニシアター」での興行を続ける、メンバー8名の弱小劇団。
座長で脚本、演出担当のあくたがわ翼、主演女優で翼の同棲相手の伊達千恵美はじめメンバーは個性派揃い。
入団から3週間後、ゆいかは初舞台に立つ。 初日、下北演劇を知り尽くした男「下北ミルク」のおじさんが現わ
れる。 「下北ミルク」のおじさんが見込んだ劇団は、その後、売れるという伝説があった。 さらに子どもながら、
確かな鑑賞眼を持つ演劇評論家「スーパー中学生」もブログで「下北サンデーズ」の芝居を絶賛。
千秋楽には、定員80人の客席に100人が入り、それでも80人の客が入れずに帰してしまうという事態が発生。
まるで、ゆいかが幸運を運んで来たかのように、下北サンデーズの快進撃が始まる。 劇団員がCMに出演したり、
ドラマ出演が決まったり。 ゆいかも、青年コミック誌の制服美少女コンテストで準グランプリを獲得。
下北サンデーズは、定員150人の劇場、定員300人の劇場へとステップアップを続けていく。 しかし、いいこと
ばかりが続くはずがなかった、、、、、、。
肩ひじ張らずに読めるエンターテイメント作品。 リーダビリティーもgood。 そして、弱小劇団の夢と悲哀が
みごとに描かれています。 2006年ドラマ化。 オススメ度:8
DINER(ダイナー) (平山 夢明著、ポプラ文庫)
作品の紹介
30歳、バツイチのオオバカナコは、携帯の闇サイトで見つけたバイトで事件に巻き込まれ、闇社会のボスに
売り飛ばされる。 カナコは、会員制のダイナー「キャンティーン」にウェイトレスとして働くことになる。
そこは、元殺し屋の雇われ店主、ボンベロが君臨するプロの殺し屋相手専門のダイナーだった。
カナコの前に勤めた8人のウェイトレスたちも、全員、店内で殺されていた。 カナコも、客の殺し屋たちや
ボンベロから何度か殺されそうになるが、運と勇気と機転で危機を切り抜ける。
カナコは、しだいにボンベロや常連客たちとも心が通い始めるが、ダイナーの中での殺戮が止むことはなかった。
やがて、カナコとボンベロに絶体絶命の危機が訪れる、、、、、、。
「大藪春彦賞」、「日本冒険小説協会大賞」ダブル受賞。「本の雑誌」2012年度文庫 国内ミステリー部門:第1位。
世の中の評価は高いけど、500ページを超える暴力と狂気の世界にすべての読者が耐えられるとは思いません。
かなりの本好きの人にはお勧めですが、、、。 オススメ度:8
あぽやん (新野 剛志著、文春文庫)
作品の紹介
成田空港が舞台。 計6編を収録した連作短編集。
「あぽやん」の「あぽ」とは「APO」=「空港」のこと。 「あぽやん」とは、本来、旅行業界における空港
のエキスパートをさすことばだったが、最近は、空港でしか役に立たない社員をさすマイナスのイメージ
を持つことばとして使われるようになった。
主人公の遠藤慶太、29歳は、大手航空会社のパッケージツアー専門子会社の社員。 上司と衝突し、
成田空港勤務となる。 最初は、成田に長くいる気がなかった彼が、先輩や同僚、部下とともに汗を流し、
さまざまな経験を積んでいくうちに、空港業務のたいせつさに気づき、「あぽやん」であることに誇りを
感じていく、、、。 お客様からのクレーム、予期できないトラブル、本社からのやっかいな依頼、そして
いっこうに進展しない恋、、、。 遠藤の成田勤務は、つらいこと、たいへんなことがいっぱい。
それでも、まわりの人々に支えられ、理解し合い、進んでいくことによって、「あぽやん」として、男として
人として、成長していく、、、。
パッケージツアーの裏側のトリビア満載のエンターテイメント作品。 リーダビリティーも、読後感もgood。
「直木賞」候補作品。 2013年ドラマ化。 続編も刊行されました。 オススメ度:8.2
ある日、アヒルバス (山本 幸久著、実業之日本社文庫)
作品の紹介
東京の観光バス会社「アヒルバス」に入社して5年のバスガイド、高松秀子、通称デコ、23歳。
東京都内の名所めぐり、各種の企画ツアーに大忙しの毎日。 おしゃべりな客、しらけた客、
あやしい客に振り回されながらも、それなりに充実した日々を送っている。 その一方で、公私
ともに世話を焼いてくれた11歳年上の三原先輩が転職し、さみしさも感じている、、、。
デコのバスガイド生活が6年目を迎えた4月、アヒルバス最年長ガイド42歳の「鋼鉄母さん」こと
戸田から新人バスガイドの教育係を申しつけられる。 ところが、新人たちのスキルはなかなか
上達しない。 研修の準備、対応でプライベートな時間はなくなる。 おまけに、苦手な鋼鉄母
さん、戸田とは毎日顔を合わさなくてはいけない。 心身ともに消耗するデコに追い打ちをかける
ように、デコを盗撮した写真がアンダーグラウンドの写真投稿誌に掲載される、、、。
それでも、デコは、懸命に仕事に研修に向き合う。 やがて、新たなトラブルが発生するが、、、。
笑いあり、感動あり、涙ありのエンターテイメント「お仕事小説」。 こんなお仕事小説なら、他の
ジャンルも読みたくなります。 ↑上記の「あぽやん」同様、「当たり」のデキ。
「本の雑誌」2010年度 文庫「エンターテインメント部門」:第5位。 オススメ度:8.2
古道具 中野商店 (川上 弘美著、新潮文庫)
作品の紹介
東京近郊のとある町の商店街に店を構える「中野商店」。 骨董やアンティークではなく「古道具」を
扱うお店。 ヒトミは、20代半ばのアルバイト。 時給は高いとはいえないが、気楽な仕事にさしたる
不満もなく働いている。 店主の中野さんは、50歳を越えたあたり。 今の奥さんは三人目。 ヒトミ
から見たらダメ男の中野さんだが、なぜか女に不自由はしない。 現在もイイ女と浮気進行中。
もう一人のアルバイト、タケオは、人とのコミュニケーションが得意ではない無口な男。
そして、中野さんの姉、マサヨさんは、50代半ばを過ぎているが、趣味にも恋にも全力投球のしゃき
っとした女性。 そんな4人を中心に、いっぷう変わった常連さんや、いわくありげな飛び込みのお客
さんがからみ、中野商店の、いいかげんで、おもしろい毎日が過ぎていく、、、。
ヒトミとタケオの恋は、ぐずぐずして進展しない。 中野さんの浮気は波乱万丈。 ヒトミさんの愛人
も、煮え切らない男。 そんな4人の恋愛事情も、見どころです。
久しぶりに著者の作品を読みました。 こういうたんたんとした恋愛を描いたら天下一品ですね。
お店のふしぎな空気感の描写も秀逸。 オススメ度:8
ヒトリシズカ (誉田 哲也著、双葉文庫)
作品の紹介
6編の連作短編の体裁をとった長編ミステリー小説。 第1章から第5章で起こる殺人事件。
各章で捜査にあたる刑事はそれぞれ別の人物。 しかし、すべての事件には、伊東静加という
少女の影が見え隠れしていた、、、。 13歳で失踪した静加は、名前と住所を変え、次々と殺人
を犯す。 しかし、巧妙に警察の手を逃れ、捜査線上に浮かびあがることもなく、姿を現すことも
ほとんどなかった、、、。 静加の犯行の動機は何なのか、5番目の殺人事件の現場から姿を消した
9歳の少女は静加が連れ去ったのか、数々の謎が解明されないまま、時が過ぎていった、、、。
失踪から17年後、警察は、ついに静加を追いつめたかに見えたが、事件は意外な展開を見せる、、、。
着想、構成、展開とも一級品のミステリー。 1章から5章までの事件を最終章(6章)で繋ぎ合わせ、
結末まで持っていく流れもおみごと。 静加自身は、ほとんど作中に登場しないのですが、強い存在感
を読者に植え付けることに成功していたと思います。
2012年、WOWOWでドラマ化。 オススメ度:8.2
廃墟に乞う (佐々木 譲著、文春文庫)
作品の紹介
表題作(「廃墟に乞う」)を含む計6編を収録した連作短編集。
北海道県警 捜査一課の刑事、仙道は、ある事件で、救える可能性のあった被害者を殺されてしまい、
犯人まで自殺させてしまう。 この事件で、仙道は精神的外傷を受け、休職を言い渡される。
休職中の仙道のもとに、友人、知人たちから、次々に私的な捜査依頼が舞い込む。 休職中であるため、
正式な捜査活動はできないものの、仙道は、ていねいに事件の核心に迫り、依頼主の期待に応えていく。
解説にも書いてありましたが、警察小説というよりは、私立探偵小説に近いかもしれません。
派手さはないものの、中身がぎゅっと詰まったハイクオリティーの短編集。
2010年「直木賞」受賞作品。 オススメ度:8.2
ST 警視庁科学特捜班 (今野 敏著、講談社文庫)
作品の紹介
人気シリーズの第一作。 STとは「Scientific Task Force」の略。 警視庁の科学捜査研究所に
新設された科学捜査班を指す。 組織のキャップは、キャリアの百合根警部、30歳。 科学捜査
の専門家ではないが、真摯な好人物。 ただ、気が弱いのが玉に瑕。
一方、STのメンバー5人は、科捜研の組織にはなじめないが、傑出した能力を備えたスペシャリスト
たち。 リーダー格で、法医学担当の医師、赤城。 プロファイリング担当の青山、嗅覚が異常に
鋭い化学担当の黒崎。 薬物担当で僧侶の山吹。 そして、けたはずれの聴覚能力を持つ、音声
解析担当で、紅一点でもある結城。
残虐な手口で中国人ホステスが殺害され、捜査本部に、結成間もないSTが参加する。 しかし、
メンバーたちは、やる気があるのかないのかわからず、捜査に有効な分析を出せずにいた。
やがて、手口は違うが、またしても、残虐な手口で中国人ホステスが殺される。 捜査本部は、
被害者の二人が、それぞれ(別の)中国系マフィアのボスの愛人だったことから、マフィア同士の
抗争であると判断し、捜査を進める。 しかし、STのメンバーは、納得できなかった、、、。
プロファイリング担当の青山は、第三の殺人を予言する。
はたして青山の予言通り、第三の殺人が発生。 今度は、コロンビア人の娼婦が、また違う手口で
殺害される。 STは、次第に事件の核心に近づいていく。 最初はSTたちを敬遠していた捜査本部
のベテラン刑事、菊川も次第にメンバーの実力を認め、STに協力し、犯人を特定する、、、。
手口のまったく違う三つの殺人事件が同一犯のしわざか否か、犯人は男か女か。 読者は、捜査
本部とSTの動きを俯瞰しながら、推理を進めていくことができます。 犯人が殺人を犯した背景が
伏線として見事に散りばめられており、物語の奥行きを深くし、精緻な構成となっていました。
シリーズ第二作も読んでみたいと思う出来栄え。 オススメ度:8.2
ゲゲゲの女房 (武良 布枝著、実業之日本社文庫)
作品の紹介
サブタイトルは「人生は・・・終わりよければ、すべてよし!!」。
「ゲゲゲの鬼太郎」の作者、水木しげる氏の夫人、武良(むら)布枝さんの自伝的エッセイ。
著者は、1932年、島根県安来市に生まれた(水木氏は、安来の近くの鳥取県境港市の生まれ)。
実家の手伝いをしているうちに29歳になり、東京で貸本マンガ家をしている10歳上の水木氏と見合い
結婚し、1961年に上京。 貧しい生活が続いたが、1964年、水木氏がマンガ雑誌の「ガロ」に連載を開始。
1965年には「別冊少年マガジン」に「テレビくん」が掲載され、「週刊少年マガジン」で、貸本マンガ家
時代から描いていた「墓場の鬼太郎」を連載開始。 「テレビくん」が、その年の「講談社児童漫画賞」
を受賞。 ようやく仕事が軌道に乗り始める。 ちなみに、この後、水木氏のアシスタントになったのが、
つげ義春さんと池上遼一さん。
1966年、「週刊少年マガジン」に連載していた「悪魔くん」が実写版でドラマ化。 1968年には「ゲゲゲ
の鬼太郎」がテレビで放送開始、「河童の三平」も実写版のドラマが始まった。 「鬼太郎」は、その後も
あわせて計5回アニメ化されている。
その後、水木氏にもスランプの時期はあったが、1991年、妖怪画を描き集めた「日本妖怪大全」を発表。
マンガ家だけでなく、妖怪研究家としても認められるようになる。 同じ年、紫綬褒章を受章。 さらに
2003年、旭日小綬章を受章する。
水木氏をして「生まれてきたから生きている」というような人、と言わしめた布枝夫人。 そんな夫人の
「すべてを受け入れるだけの人生」という考え、「偉大なる平凡力」があふれた作品。
2010年ドラマ化、映画化。 2011年舞台化。 オススメ度:7.5
日月(にちげつ)めぐる (諸田 玲子著、講談社文庫)
作品の紹介
計7編を収録した連作短編集。 舞台は、江戸時代後期の駿河の小藩、小島藩の領内。
小島の町外れにある岩場の下に、川水が渦巻く箇所がある。 その紺碧の渦に、ある者は魅せられ、ある者は
自分の人生と重ね合わせる。
隠居間近の老武士。 十年間、旅の男を待ち続ける農家の娘。 だますつもりが、いつの間にかだます相手に
魅せられていくやくざな男。 添い遂げられなかった、かつての許嫁の男の苦悩を探る人妻。 父と自分を捨てた
母に復讐を誓う若い武士。 過去の過ちを償うため、商いに精を出す商人。 藩が大混乱の中で、一時の恋に
ときめく娘。
それぞれの人生の転換点には、岩場の下の渦が、さまざまなかたちで関わっていた、、、、、、。
一見、同じ土地に暮らす七人の独立した短編に見えますが、「渦」を共通項として、少しずつつながっています。
さまざまな立場の人生の転機を浮き彫りにした佳作。 オススメ度:8
春風仇討行(しゅんぷうあだうちこう) (宮本 昌孝著、講談社文庫)
作品の紹介
表題作(「春風仇討行」)を含む計4編を収録した時代小説短編集。
表題作は、丸亀藩の足軽の娘、りやが実の父親の敵を討つため、藩の後押しを得て、江戸に向かう話。
藩士、村瀬藤馬の助けを借りながら、苦難を乗り越え、ついに、藩主の御前で父の敵と相まみえる、、、。
敵討ちを縦軸に、ていの初恋を横軸に織り込んだ佳作。
他の三編も、豊臣秀次、森蘭丸、そして、明智光秀の家臣、瘤取り作兵衛こと安田作兵衛を主人公にした
秀作がラインナップされています。 表題作を読むだけでも買う価値あり。 オススメ度:8.1
銀二貫 (高田 郁著、幻冬舎時代小説文庫)
作品の紹介
大坂天満の寒天問屋、井川屋の主、和助は、仇討ちで父を亡くした、十歳の鶴之輔を銀二貫で救う。
その銀二貫(三十三両)は、本来であれば大火で焼失した大坂の天満宮に寄進するはずの金だったが、
和助は、鶴之輔の父を殺した相手に差し出し、鶴之輔の身柄を引き取る。鶴之輔は、京で寒天づくりを
する寒天場で修業したのち、名を松吉と改め、和助の店で丁稚として働くことになる。
松吉は、和助や料理人、嘉平に見守られながら、商人としての第一歩を踏み出す。嘉平の娘、真帆という
話し相手ができたのもつかの間、大火で嘉平は焼死。真帆も行方不明になってしまう。
やがて、再会した真帆は顔半分に火傷の後が残る姿になっており、松吉には二度と会わないと告げる。
松吉は、真帆の父、嘉平が望んでいた寒天をつくるため、冬は寒天場で何年も試作を繰り返す。
やがて、その寒天が完成し、真帆とも再会することになる、、、、、、。
大人気シリーズ「みをつくし料理帖」シリーズの著者の作品。逆境に耐える主人公の姿は「みをつくし料理帖」
同様、心をうちます。 オススメ度:8.2
妖談うしろ猫 (風野 真知雄著、文春文庫)
作品の紹介
正式タイトルは「耳袋秘帖 妖談うしろ猫」。 好評シリーズの第一作。 計7編を収録した連作短編集。
「耳袋」とは、江戸の南町奉行、根岸肥前守が怪異な事件を綴った随筆の名前。 写本が出回り、市中でも
人気を博している。 「耳袋秘帖」とは、公にできない事件のみを集めた門外不出の秘蔵版。
根岸肥前守が、謹慎中の同心、椀田豪蔵と根岸家の家臣、宮尾玄四郎を使って、さまざまな怪事件を解決
する様を描いたミステリー。 短編ごとにひとつの事件を扱っていますが、暗殺者集団「闇の者」の影が随所
に描かれており、全編の厚みを増す働きをしています。
タイトルに「妖談」とついていますが、怪異な現象を取り扱った話ではありません。 ふしぎな事件の裏や
しかけを解きほぐす秀作ミステリー小説。
「耳袋秘帖」公式サイトはコチラ
シリーズ第二作「妖談かみそり尼」のブックレビューはコチラ オススメ度:8.1
妻は、くノ一 (風野 真知雄著、角川文庫)
作品の紹介
平戸藩の御船手方の雙星(ふたぼし)彦馬は28歳。 藩きっての変わり者。 そんな彼に、上司が清楚な美人、
織江を引き合わせ、さっそく翌日、二人は夫婦となる。 天にものぼる心地の彦馬だったが、一ヶ月後、織江は
失踪する。 織江の正体は、徳川幕府の将軍直属の密偵組織、お庭番のくの一だった、、、。 織江は、23歳。
これまでも、各地の藩に潜入し、成果をあげてきた腕利きの密偵。 しかし、今回は、江戸に戻ってからも、心根
のやさしい彦馬のことを忘れられずにいた。
彦馬は、織江を探す決心をし、親戚の子を養子に迎え、藩に隠居願いを提出する。 そして、幼馴染で江戸の商家
「西海屋」に養子に入った千右衛門を頼って、江戸に旅立つ。 江戸で寺の寺子屋の教師の仕事をしながら、織江
を探すが、手掛かりはいっこうにつかめなかった。
一方、織江は、彦馬に一目会うため、平戸に向かうが、江戸に旅立った彦馬と入れ違いになってしまう。 幸い、
江戸の手前で彦馬に追いつくが、声をかけることなく、彦馬が江戸に落ち着いてからも、彼のことを見守るだけで
彦馬の前に姿を現すことはなかった。
やがて、彦馬は、西海屋千右衛門に連れられ、平戸藩下屋敷で前藩主、松浦静山と対面する。 静山は、彦馬に
織江が「くノ一」であると告げる。 さらに、この国を開く手伝いをしてほしい、と依頼する、、、、、、。
すでに10巻以上も刊行されている人気シリーズの一作目。 思わず引き込まれる設定、巧みな人物造形、そして、
軽快なテンポ。 二巻も買ってしまいました。 2013年ドラマ化。 オススメ度:8.1
妻は、くノ一 2 星影の女 (風野 真知雄著、角川文庫)
作品の紹介
彦馬は、松浦静山に気に入られ、静山の著書で江戸の雑学大全とも言える「甲子夜話(かっしやわ)」に収録する
話の吟味を手伝ったり、いっしょに天体観測をするようになる。 一方で、千右衛門の親友で同心の原田朔之助の
捜査に協力し、次々と事件を解決する。
織江は、お庭番の命で、老婆に変装し、飯炊き女として松浦静山の屋敷に勤め始める。 静山の屋敷を訪れる彦馬
と顔を合わすこともあるが、彦馬は織江に気付かず、織江も彦馬に声をかけることをがまんする。 やがて、お庭番
の旗本、川村が織江に求婚し、織江の悩みがひとつ増えることに。
松浦静山を間に挟み、近くにいながら、全く逆の立ち位置にいる彦馬と織江。 彦馬は、時間を見つけて、織江を
探し続けるが、はたして、織江に会える日はいつになるのやら、、、。 オススメ度:8
妻は、くノ一 3 身も心も (風野 真知雄著、角川文庫)
作品の紹介
あいかわらず、織江を探し続ける彦馬。 彦馬に声をかけたいが、かけたら最後、自分の任務が全うできないだけ
ではなく、彦馬にまで危険が及ぶと考え、耐え忍ぶ織江。 あいかわらず、織姫と彦星のような二人。
そんな折、松浦静山の屋敷に泥棒が忍び込む。 賊は盗んだものを置いて逃走するが、織江は、その中から書物を
一冊抜き去る。 その書物は、南蛮の武器について書かれたご禁制の本だった。 この書物をお庭番に届ければ、
静山はおろか、彦馬まで切腹、平戸藩は取り潰しになることは必至。 織江の苦悩は深まる、、、。
本筋の進行は、やや遅いものの、サブストーリーである、彦馬がさまざまな事件や謎を解決する様は軽快。
オススメ度:8
妻は、くノ一 4 風の囁(ささや)き (風野 真知雄著、角川文庫)
作品の紹介
織江が隠した松浦静山の書物が、万が一、幕府の手に渡ったときの備えに、彦馬は写本をつくり、書き込み
まで入れて、江戸市中の本屋に持ち込む。 大量にばらまいておけば、静山のものであると特定することが
難しいと考えた末の知恵だった。
静山の友人、大学頭(だいがくのかみ)の林述斎の息子で、将軍に仕える中奥番、鳥居耀蔵は、静山の動きを
監視し、警戒していた。 耀蔵は、江戸の本屋で、彦馬が売りさばいた写本を次々と見つけ、彦馬を探し出そう
と捜査を始める。 そんな折、織江の母、雅江が偶然、耀蔵が浪人にからまれているところを助ける。 雅江は
すぐにその場を立ち去るが、耀蔵は雅江に恋心を抱く。
耀蔵は、静山の尻尾をつかもうと、織江の上司であるお庭番の川村に近づく。 耀蔵は、川村の協力で、静山と
西海屋千右衛門に罠を仕掛けるが、空振りに終わる。
川村は、織江のことを疑い始めていた。 それに気づいた雅江は、織江に、くノ一をやめて、逃げるようにと
告げる、、、。
一方、彦馬の養子、雁二郎が平戸藩の江戸藩邸に勤めることになる。 雁二郎は、彦馬の養子になった直後、
江戸に旅立った彦馬を訪ねてきた織江に一度会ったことがある。 静山のいる下屋敷に変装して潜入していた
織江を(平戸に彦馬を訪ねてきた女と)同一人物だと感じ、彦馬に告げる。 彦馬は急いで下屋敷に向かうが、
織江の姿は消えていた、、、、、、。
三巻に比べ、物語が動き出した感のある四巻でした。 彦馬の活躍ぶりは、あいかわらず軽快ですが、本筋の
方も、奥行きの深い話になってきて。 続きが楽しみです。 オススメ度:8.2
姫は、三十一 (風野 真知雄著、角川文庫)
作品の紹介
平戸藩松浦家の江戸屋敷に住む静湖姫は、数え年で三十一。 前藩主、松浦静山の娘。 美貌に恵まれながら、
縁談の相手が病死したり、事故にあったり、ということが続き、二十四以降、縁談の話がなくなった、、、。
占いでもてる年になると言われ、期待に胸を膨らませて臨んだ新年の歌会で、殺人事件に遭遇。 静湖は、歌会
の主催者から事件の謎解きを三両で請け負い、護衛の岡田、同心の田所らと事件の捜査を始める、、、。
軽妙な会話に乗せて、テンポよく話が進むので、あっという間に読み終えました。 ミステリーとしてのデキもいい上
に、急にもて始めた静湖の描写もおもしろく。 続編を見つけたら、買うでしょうね、たぶん。
↑上記「妻は、くノ一」の姉妹シリーズ。 本作は「妻は、くノ一」後のお話。 オススメ度:8.1
前田慶次郎 (近衛 龍春著、PHP文庫)
作品の紹介
正式タイトルは「天下無双の傾奇者 前田慶次郎」。
本来、前田家を継ぐはずだった慶次郎は、織田信長の命令により、前田利家にその座を明け渡さざるを
得なくなった。 それから十年あまり後、慶次郎は、伯父で、信長の家臣である滝川一益(かずます)に
仕えていた。 1582年、一益は、信長の命令で、関東に遠征するが、戦いのさなか、信長が本能寺の変で
討たれる。 一益は、急いで、領地の伊勢長島にとって帰すが、信長死後の勢力図は、すでに固まっていた。
一益は、柴田勝家に味方し、秀吉軍と戦うが、敗退する、、、。
関東遠征でも、秀吉軍との戦いでも、慶次郎は、獅子奮迅の活躍を見せるが、決断を誤った滝川一益の
せいで、無禄となり、養父、義父の誘いを受けて、能登に旅立つ。 こうして、慶次郎は、前田利家の家中に
仕えることになった、、、。
やがて天下は秀吉のものとなり、慶次郎は長男に家督を譲って前田家を出る。 慶次郎は、以前から一目
置いていた直江兼続の誘いに応じ、上杉景勝の家に仕えることになり、米沢に向かう。 関ヶ原の戦いの時
も、慶次郎は福島で伊達政宗の侵攻を食い止めるが、兼続の盟友、石田三成率いる西軍が敗れ、上杉景勝は
家康に減封を言い渡される。 慶次郎は、兼続に請われ、再び米沢の地に向かう、、、。
前田慶次郎の話は、ちゃんと読んだ機会がなかったので、500ページの大作ながら手に取りました。
慶次郎の活躍が詳細に描かれてはいるものの、手堅い歴史小説の部類でしょうか。
本能寺の変の頃、慶次郎は、すでに五十を越えていたことが意外と言えば意外でした。 オススメ度:7.7
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