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読書感想文2018 part 4
「読書感想文2018」 part4は、7月〜8月の読書録です。
↓ Click NOVEL mark !
山女日記 (湊 かなえ著、幻冬舎文庫)
作品の紹介
計8編を収録した短編集。 ミステリーだと思って読み始めたら、タイトル通り、
登山好きの女性たちの生き方を山を通して描いた物語だった。
登山が初めての29歳の女性が気の合わない同僚と山に登る。 婚活パーティー
で知り合った相手と山に登る40代の女性。 父に山の楽しさを教えられた30代の
女性が一人で山に挑む。 今は離れて暮らす30代の姉妹が山で語り合う。
30歳の女性を売れない劇団員の恋人が山に誘う。 遠距離恋愛のカップルが
異国の山を歩く。
登場人物たちが登るのは、槍ヶ岳、利尻山、白馬岳、金時山、ニュージーランド
のトンガリロなどバラエティー豊か。
8編の物語は、独立しているけど、つながっている話もあり。 何より登場人物
があちこちで交差する構成も秀逸。 連続短編的な要素もあるし、群像劇的な
要素もある。 山好きではない人が読んでも、堪能できる一作。
オススメ度:8.3
リバース (湊 かなえ著、講談社文庫)
作品の紹介
深瀬和久は小さな事務機の会社に勤めるサラリーマン。 人付き合いが少なく、
おいしい珈琲をいれることだけが愉しみの孤独な男。
そんな深瀬が行きつけの珈琲豆専門店でケーキ店の店員、越智美穂子と出会う。
深瀬は美穂子と幸せな日々を送るが、やがて美穂子のもとに「深瀬は人殺しだ」
と書かれた手紙が届く。 深瀬は美穂子に3年前に大学のゼミの友人である浅見、
谷原、広沢とともに村井の叔父の別荘に出かけ、広沢が車で事故死した経緯を
美穂子に打ち明ける、、、。
深瀬のもとに届いたのと同様の告発文は、浅見、谷原、村井の元にも届いていた。
やがて、谷原が電車のホームに突き落とされる。 谷原は命に別条はなかったが、
深瀬は犯人の手掛かりを求め、広沢の故郷、愛媛に向かう。
愛媛で、広沢の両親や小中高の同級生と会い、広沢の過去を聞くうちに、広沢と
ともに東京に出た古川の存在を知る。 古川は広沢と同じアパートに住み、広沢
の彼女とも親交があった。 深瀬は愛媛で借りた高校時代のアルバムから広沢の
彼女を推理するが、その予想は外れる。
そして、ついに深瀬が告発文を送った犯人と広沢の死の真相を知る瞬間が訪れる。
単純な犯人探しの話ではなく、広沢の人となりが浮き彫りになっていく過程も秀逸。
さらに、広沢の死の意外な真相を物語の最後に明かす構成もすごみがあった。
よく練られた一級品のミステリー。 2017年テレビドラマ化。 オススメ度:8.3
新世界より(上) (貴志 祐介著、講談社文庫)
作品の紹介
1,000年後の日本。 利根川沿いの小さな町、神栖66町は周囲を注連縄で囲まれ、
人々は結界の中で安全に平和に暮らしていた。 町長の娘、渡辺早季は呪力である
念動力(サイコキネシス)を身につけ小学校を卒業、全人学級に進学する。
全人学級の班単位で体験するサマーキャンプにおいて、早季は、真理亜、瞬、覚、
守とともに、図書館の自走式アーカイブロボット、ミノシロモドキに出会う。
そして、ミノシロモドキから、能力者と非能力者が戦った、闇に葬り去られた1,000年
の歴史、悪鬼と業魔の正体、そして、他人を攻撃しないための遺伝子操作など禁断の
知識を知る。 その直後、清浄寺の僧侶、離塵が現れ、ミノシロモドキを破壊する。
早季たちは、暗示により呪力を凍結され、連行されるが、離塵は風船犬との戦闘で
命を落とす。 早季たち5人は外来種のバケネズミに襲われ逃げる途中、散りじりに
なるが、早季と覚の二人は、スクィーラが率いる人間に従順なバケネズミの塩屋虻
コロニーに迎えられる。 しかし、外来種のバケネズミである土蜘蛛コロニーの攻撃
を察知した早季は覚とともに逃亡を試みる。
早季は覚の呪力を復活させ、別のバケネズミの大雀蜂コロニーの援軍が来て、なん
とか窮地を脱する、、、、、、。
1,000年後の世界と、呪力、科学、自然とのアンバランスさがおもしろい。
斬新な世界観の提示とドライブ感たっぷりの展開も秀逸。
2008年「日本SF大賞」第1位。 2008年「PLAYBOYミステリー大賞」:第1位。
「ダ・ヴィンチ:プラチナ本 OF THE YEAR 2008」:第1位。
2011年度「本の雑誌」文庫 総合部門:第8位。 2012年漫画化、アニメ化。
オススメ度:8.2
新世界より(中) (貴志 祐介著、講談社文庫)
作品の紹介
早季と覚は、真理亜、瞬、守と再会し、無事、町に帰りつく。
2年が経ち、5人は14歳になる。 優等生だった瞬は、業魔となり、この世を去る。
残された早季と覚、真理亜と守は、記憶を操作され、瞬の記憶を消される。
早季と覚、真理亜は、かすかな記憶を頼りに瞬のことを思い出そうとする。
そんな矢先、覚の祖母で倫理委員会の議長を務める朝比奈富子は、早季に
彼女の人格指数のスコアがきわめて高いことを告げ、自分の跡を継いでほしい
と依頼する。 そして、早季に悪鬼と業魔のことを語る。
その直後、守が家出をする。 早季と覚、真理亜は、守を見つけるが、守は
不浄猫の襲撃を受けたと告白し、町には帰らないと宣言。 真理亜も守と行動
を共にすることを決意する。 町に戻った早季は教育委員会の尋問を受ける。
処罰を下されそうになった早季を富子が救う。 富子は早季に守と真理亜を
三日以内に連れ戻すように諭す。 早季は覚とともに、守と真理亜を追跡。
二年前に知り合った塩屋虻コロニーのスクィーラを頼る。 スクィーラはコロニー
を発展させ、野狐丸という名を授けられていた。 しかし、守と真理亜の行き先
についての手掛かりは得られず、早季と覚は塩屋虻コロニーを後にする。
捜索二日目の夜、早季と覚は結ばれる、、、。
瞬に続き、守、真理亜と、次々に仲間を失う早季の絶望が、富子の語る新たな
秘密と相まって、増幅した巻。 曇り空のような世界観も、さらに強くなった感。
オススメ度:8.2
新世界より(下) (貴志 祐介著、講談社文庫)
作品の紹介
26歳になった早季は町の保健所でバケネズミの管理、研究の仕事をしていた。
バケネズミが人間の脅威となる可能性を危惧したのもこの仕事を選んだ理由
だった。 覚は優秀な成績で全人学級を卒業し、妙法農場に就職した。
バケネズミの二大勢力である大雀蜂コロニーと塩屋虻コロニーとの間で戦争が
始まる。 緒戦は大雀蜂コロニーの圧勝に終わるが、その直後、大雀蜂コロニー
が全滅する。 全滅の原因は人間の呪力ではないかとの疑念がもたれる。
しかし、富子は、真理亜と守は失踪から二年後、死亡が確認されたと告げる。
塩屋虻コロニーを殲滅する決定がくだされるが、コロニー全体が姿を消す。
町の夏祭りの夜、塩屋虻コロニーは人間に奇襲攻撃をしかけ、二百人以上の
命を奪う。 最強の呪力を持つ日野光風と鏑木肆星が応戦し、バケネズミを
殲滅するかに見えたが、日野が凶弾に倒れる。
町の人々によるバケネズミへの復讐が始まる。 早季と覚は患者の無事を確認
するために向かった病院で待ち伏せしていたバケネズミを殲滅させるが、悪鬼
が現れ、命からがら逃げのびる。 悪鬼の出現を富子や肆星に知らせるために
町に戻る途中、早季は覚とはぐれる。 ようやく富子に会えたのも束の間、悪鬼
が現れ、富子は早季に町を託し、肆星のもとに向かわせる。
早季は覚と合流する。 悪鬼を見た早季は、それが真理亜と守の子どもである
と悟る。 悪鬼は肆星をも倒す。
悪鬼の元から逃げのびた早季と覚は、鳥獣保護官の乾、そして大雀蜂コロニー
の奇狼丸とともに、早季の母に教えられた、呪術者を殺戮する兵器「サイコバス
ター」を求めて東京に旅立つ。 小型のニセミノシロモドキと奇狼丸のガイドに
より目的地に向かう4人に悪鬼と野狐丸が追いすがる。 早季をかばって、乾が
命を落とす。 「サイコバスター」による攻撃に失敗するが、早季は起死回生の
策を思いつく、、、、、、。
最後まで心が痛い展開が続き、すべてが終わったあとに明かされる衝撃の事実。
三巻で1,500ページを超える大作。 リーダビリティーが秀逸なので、読み進める
のに苦労はなかったけど、、、。 アニメも少し見たけど、まずまずのデキ。
オススメ度:8.3
星がひとつほしいとの祈り (原田 マハ著、実業之日本社文庫)
作品の紹介
表題作を含む計7編を収録した短編集。 20代から50代の女性が主人公。
派手さはないけれど、じんわりと心にしみこむ佳作が並んでいる。
四編目の「寄り道」は、別の短編集「さいはての彼女」に収録されている
「旅をあきらめた友と、その母への手紙」の続編。 前作の方がよかった
かな。 オススメ度:8
流れ星と遊んだころ (連城 三紀彦著、双葉文庫)
作品の紹介
大御所俳優、花村陣四郎のマネージャー、北上梁一は、ある夜、秋葉と
鈴子のに出会う。 秋葉の魅力に惚れ込んだ北上は花村から大作映画の
主役の座を奪い取り、花村のもとから去ろうと画策。 秋葉を監督に紹介し
端役のカメラテストを受けさせるが、不合格となる。
しかし、花村が麻薬吸引の罪で逮捕され、事態は急変する、、、。
ネタバレになるので、これ以上あらすじは書けないけど、物語全体が大きな
だまし絵になっていて、「やられた」と思う人、「何それ」と思う人が半分半分
じゃないかな。 物語前半から一人称と三人称が切り替わりながら進んで
いくので、なんでかなとは思っていたけど、「そういうのあり?」というのが
個人的な感想。
2015年度「本の雑誌」文庫 国内ミステリー部門:第1位。
2004年度「このミステリーがすごい!」:第9位。 オススメ度:8
GIVER (日野 草著、角川文庫)
作品の紹介
正式タイトルは「GIVER 復讐の贈与者」。
復讐代行業に身を投じた青年、義波の活躍を描いた連作短編集。
計6編を収録。 著者がプロットを精緻に組み立てた感の強い、独創性の
高い作品。 読み応え十分。 続編にも期待。
2017年度「本の雑誌」文庫 国内ミステリー部門:第1位。 オススメ度:8.2
真夜中のパン屋さん 午前3時の眠り姫 (大沼 紀子著、ポプラ文庫)
作品の紹介
シリーズ第四作(全六作)。
希実の従姉妹、沙耶が安田という三十男と駆け落ちして、真夜中のパン屋、
「ブランジェリークレバヤシ」を訪れる。 オーナーで、今や希実の親代わりの
暮林は長期の留守中だったが、メールで了承を得て、沙耶も居候となる。
沙耶は希実の母、律子を頼ってきたと言い、希実に律子を探しだすよう依頼。
しかし、家出して一年以上が経つ律子の消息はかんたんにわからない。
やがて、沙耶のほんとうの駆け落ち相手、村上淳也が現れる。
律子探しが続く中、沙耶の秘密と安田の秘密が明らかになる。 さらに、希実
が忘れていた幼いころの記憶が戻る。 同じころ、店を不在にしている暮林は
ある人物に接触していた、、、。
暮林が不在の中、物語がどんどん進んでいくけど、いつもの脇役たちが活躍。
そしてゲストの登場人物たちも個性的で、小さな謎解きも次々と出てくる。
テンポがよく、リーダビリティーも高かった一作。 オススメ度:8.2
夜の署長 (安東 能明著、文春文庫)
作品の紹介
計4編を収録した警察小説の連作短編集。
新宿署で「夜の署長」の異名を持つ刑事課 強行犯第五係 統括係長の下妻
警部補、50歳。 警視庁捜査一課から異動して10年。 新宿署勤務が例外的
に長く続いている。 一見ニヒルに見えるが、情に厚く正義感が強い。
東大法学部を卒業したばかりの野上警部補、24歳。 キャリアとして一年の
現場研修中。 短い期間ではあるが、下妻について様々なことを吸収しよう
と必死の毎日。 物語は下妻と野上を中心に、二人をサポートする刑事課の
巡査部長、筒見、女性刑事の古城がからんで展開していく。
骨太の警察小説。 トリックも秀逸で捜査プロセスも精緻に描かれている。
オススメ度:8.2
あの日にかえりたい (乾 ルカ著、実業之日本社文庫)
作品の紹介
表題作を含む計6編を収録した短編集。
すべての作品が、人が人を想う心が可能にしたタイプスリップだったり、
死者がひとときこの世によみがえる奇跡を描いた幻想的な作品。
心温まる救いのあるラストになっている。
2010年「直木賞」候補作。 オススメ度:8
東京ロンダリング (原田 ひ香著、集英社文庫)
作品の紹介
内田りさ子、32歳。 夫の企みにより、不倫の末、離婚。 不動産業を営む
相場に請われ、借主が自殺したり、刃傷沙汰のあった部屋に一ヶ月住むと
いうロンダリング(浄化)の仕事をしている。 周りとの接触を極力避けて
街から街へと移り住む生活を始めて一年。 話し相手は相場と、相場の会社
の事務員、まあちゃん、そして、ロンダリング業20年のベテラン、菅の三人。
谷中の定食屋の手伝いを始め、ようやく世の中との接点を持ったのも束の間、
菅が失踪。 りさ子は菅の代わりに丸の内のタワーマンションで暮らすことに。
やがて、菅の失踪の原因をつきとめたりさ子は、彼女に好意を寄せる谷中の
定食屋の息子、亮の力をかりて、菅を救おうと動きだす、、、。
賃貸物件のロンダリングという題材が新鮮、人物造形も秀逸。 思わず一気
読み。 2014年度「本の雑誌」文庫 エンタテインメント部門:第8位。
オススメ度:8.2
東京プリズン (赤坂 真理著、河出文庫)
作品の紹介
1980年、母によって単身アメリカの高校に留学させられたマリ。
一学年下の9年生からのスタートになったマリは、本来の学年である10年生
に進級するため、全校生徒の前で「天皇の戦争責任」をテーマにディベート
を行うことを課される。
物語は、30年後の45歳のマリと高校1年のマリとの交信をはじめ、幻想、夢想
が次々と展開されていく。 ディベート本番でマリが辿り着いたのは、、、。
500ページを超える大作。 核心であるディベートが始まるのは400ページを
過ぎてから。 天皇の戦争責任に16歳の少女が対するディベートの場面の
論理の展開は秀逸。 しかしながら、物語の大半を占める幻想、夢想の描写
に、読者がついていけるかどうかは疑問。 数々の文学賞を受賞し、評価が
高い作品ではあるけど、かなりの本好きのための、読者を選ぶ一作か。
2012年「紫式部文学賞」、「毎日出版文化賞」、「司馬遼太郎賞」受賞。
ダカーポ「今年最高の本」:第1位。 2015年「本の雑誌」文庫 現代文学部門:
第1位。 オススメ度:8
開かせていただき光栄です (皆川 博子著、ハヤカワ文庫)
作品の紹介
舞台は18世紀のロンドン。 外科医ダニエルの解剖教室では、5人の弟子たちが
熱心に死体を解剖する毎日。 ある日、解剖教室には三体の死体が横たわって
いた。 妊娠6ヶ月の準男爵令嬢、エレイン。 四肢を切断された詩人志望の少年、
ネイサン・カレン。 そして、顔を潰された身元不明の男。
治安判事、ジョン・フィールディングと忠実な助手、アン=シャーリー・モア、デニス・
アボットは、ダニエルと弟子のエド、ナイジェルらとともに死体の謎を究明する。
時は、数ヶ月前に遡る、、、。
ネイサン・カレンは、エド、ナイジェルと友人となり、エレインに恋をする。
父の遺産と称する中世の聖職者の詩篇、そして自らの詩の出版を夢見ていたが、
デモに参加中、逮捕され、収監される。 一方、エレインは、主治医である、ダニ
エル医師の兄、ロバートに眠らされている間に犯され妊娠。 妊娠を苦に自殺した
かのように見せかけ、ロバートがヒ素で殺害する。
ネイサンはエヴァンスという株の仲買人の尽力で釈放となるが、エヴァンスにだま
され、幽閉される。 やっとのことで逃げ出し、解剖教室までたどり着くが、自殺に
見せかけ殺害される。
ネイサンの遺体を見つけたエドとナイジェルは、ネイサンが自殺したと判断し、
手首の傷と収監されたときの足かせの痕を隠すために四肢を切断する。
やがて、顔を潰された身元不明の死体がエヴァンスの仲間、ハリントンであることが
判明。 治安判事のジョンは、エヴァンスに多額の借金をしていたロバートを疑う。
さらに、エヴァンスも殺害され、ロバートが逃走する、、、。
ここから先は、ネタバレになるので書けないけど、驚きの展開の連続。
ハッピーエンドかどうかは判断の難しいところ。 個人的にはせつない結末と思う。
本格的なミステリーファンには最高の一作として評価されるデキなんだろう。
それにしても、タイトルの「開かせていただき」が解剖のことだったとは、、、。
2012年「本格ミステリ大賞」受賞作。 2014年「本の雑誌」文庫 国内ミステリー
部門:第1位。 オススメ度:8.1
特急便ガール! (美奈川 護著、メディアワークス文庫)
作品の紹介
後輩をかばい、重役を殴ったと嘘をついて一流企業を辞めた吉原陶子、24歳。
会社の同期、三村の紹介で、三村の義理の兄、如月が社長をつとめるバイク便の
会社、ユーサービスに転職することに。 バイク便の会社とはいえ、ライダーは、
強面で口の悪い菅野と族上がりの永遠の18歳(実は三十路の)さおりんの二人だけ。
そして、陶子は飛行機や新幹線を駆使して手持ちで荷物を運ぶハンドキャリー便
の担当として、入社初日から東奔西走の毎日。
仕事を始めてすぐに陶子は、荷物が本来向かいたい場所に瞬間移動する特殊能力
があることに気づく。 しかし、この能力は陶子が自由にコントロールできる類の力
ではなく、時として指定された届け先とは異なる場所に瞬間移動してしまうことも
起こる。 そんな中、どうにかこうにか、このふしぎな力と折り合いをつけて仕事に
慣れたころ、社長の怪しい動きに気づき、思い切った行動に出る。 そして、ふしぎ
な力の意味を知る、、、。
いきなり特殊能力が出てきて、「えっ?これ、お仕事小説じゃなくて、SF小説?ファン
タジー小説?」と思ったけど、自分の自由にならない力であり、ご都合主義的に
使われないので、それほど違和感なく読み進められた。
著者の作品は、本作で3作(5冊)目だけど、出てくる女性が勝気で潔いのがいい。
オススメ度:8
超特急便ガール! (美奈川 護著、メディアワークス文庫)
作品の紹介
「特急便ガール!」の続編。
ユーサービスに20歳の佐古田丈が自転車ライダーとして加わる。
如月の妻で前社長の悠が事故死した真相を知り、陶子は特殊能力を利用して
荷物を受け取るべき人に届ける試みを始める。
やがて、陶子が前職を辞めるきっかけとなった会社からヘッドハンティングされ、
ユーサービスを退職するが、、、、、、。
このシリーズらしいエンディング。 この著者は独特の世界観を持った作家だと思う。
オススメ度:8
ぼくは明日、昨日のきみとデートする (七月 隆文著、宝島社文庫)
作品の紹介
京都の美大に通う20歳の高寿は、通学途中の電車で見かけた愛美に一目惚れ。
オクテな高寿は電車を降りた愛美に告白し、交際がスタート。 ほほえましく
幸せな毎日が続くが、やがて愛美から信じられない秘密を打ち明けられる、、、。
タイトルとわかりやすい伏線により、ほとんどの読者が愛美の秘密を想像しながら
読み進められると思う。 物語の鍵となる仕掛けにもひと工夫していて、ただせつ
ないだけの恋愛ファンタジーにしていないところは好感を持てた。
公式サイトはこちら。
2016年映画化。 オススメ度:8.1
リケジョ! (伊与原 新著、角川文庫)
作品の紹介
計5編を収録した連作短編集。
物理学を専攻する大学院博士課程の律は、留学費用を稼ぐため、社長令嬢の
小学4年生、理緒の家庭教師をすることに。 理緒は科学が大好きで律を尊敬
し、「教授」と呼ぶ。
律は、理緒と運転手の恵人とともに、身の回りで起こるふしぎな事件を科学の
知識と分析力で解決していく、、、。
ライトなミステリー。 4編中3編は「ガリレオ」シリーズほど深刻な事件ではない
けど、リケジョの二人が独特のテイストで解決していく展開は新鮮。
オススメ度:8.1
炎上する君 (西 加奈子著、角川文庫)
作品の紹介
表題作を含む計8編を収録した短編集。
日常で煮詰まってしまった人たちが開けてしまう非日常の扉。
著者の奔放な想像力が紡ぎだすふしぎな物語の数々。
でも、好き嫌いが分かれる作品かも。 個人的には苦手。
単行本も文庫本もカバーイラストは著者の作品。
オススメ度:7.5
風の陣 裂心篇 (高橋 克彦著、PHP文芸文庫)
作品の紹介
全五巻の最終巻、完結編。
伊治鮮麻呂は、陸奥守、紀広純のもと、蝦夷たちの反乱を抑え、民の命を守っていた。
鮮麻呂は、唐の使節の朝廷参賀にあわせて儀仗兵として都に上り、道嶋嶋足、物部
天鈴と再会する。 都に同行した道嶋大盾は、帰国後、紀広純に取り入り、蝦夷の反乱
を誘導するが、鮮麻呂は陸奥に一時戻った天鈴の力を借り、大盾の策謀を闇に葬る。
さらに、天鈴、陸奥介、大伴真綱とともに、金山における紀広純、大盾の横領を探る。
しかし、広純、大盾の陰謀は留まるところを知らず、慎重だった天鈴も決起に賛同。
しかし、準備のため、鮮麻呂にさらなる自重を促す。
その後も、広純は鮮麻呂、真綱に蝦夷討伐のつらい役目を課すが、被害を最小限に
抑え、なんとかやり過ごす。 やがて、蝦夷討伐を敢行すべく、その途上、広純と
大盾が鮮麻呂の居城、伊治城を訪れる。 鮮麻呂は、胆沢の首長、阿久斗と息子の
阿弖流爲に協力を仰ぎ、広純と大盾を討ち取る決意をかためる、、、。
一巻から四巻までは都の道嶋嶋足が主人公だったが、五巻は一転して陸奥の鮮麻呂
を主人公に据えている。 その間を天鈴がうまく埋めている。
四巻までの嶋足と天鈴の苦労、忍耐は何だったのか、と思わないでもないが、鮮麻呂
の決起が、「火怨」で描かれた阿弖流爲と母礼の戦いに繋がっていったと考えられる。
いずれにせよ、蝦夷をめぐる歴史は、都の側から見るのではなく、著者の作品を読む
ようになって、初めて理解できたところがある。
著者の東北三部作「火怨」、「炎立つ」、「天を衝く」と本作をあわせて四部作とする見方
もある。 本作は三部作の「火怨」の直前の時代を描いたもの。
第三巻、第四巻のブックレビューはこちら。
オススメ度:8.2
小説十八史略(四) (陳 舜臣著、講談社文庫)
作品の紹介
「三国志」の時代を経て、司馬炎が晋を建国。 しかし、司馬氏は一族同士の
争いを繰り返す。 やがて匈奴出身の劉淵が晋と決別し、漢(後の趙)を興す。
劉淵の息子、劉聡は晋(西晋)を滅亡に追いやる。 かろうじて東晋が建国
されるが、不安定な状態が続く。 やがて、趙もふたつに分かれる。
五胡十六国の時代が到来し、混乱の時代を迎える。 さらに、南北朝の時代を
経て、ようやく隋によって統一される。
本巻前半の「三国志」の時代に比べて、後半の五胡十六国、南北朝の時代は
混沌のひとこと。 登場人物が多く、入り組んでいて、ついていくのがたいへん。
オススメ度:8
ものがたり唐代伝奇 (陳 舜臣著、朝日新聞社)
作品の紹介
計17篇を収録した唐の時代の伝奇物語集。
有名な「邯鄲の夢」、「長恨歌」、「杜子春」をはじめ、個性豊かで幻想的な
作品がずらり。 「史記」系の作品とはまた違った味わいを堪能できる。
オススメ度:8
悟浄出立 (万城目 学著、新潮文庫)
作品の紹介
計5篇を収録した歴史小説短編集。
「西遊記」における悟浄、「三国志」における趙雲など主人公以外の登場人物
に焦点をあてた作品。 中国の歴史に造詣が深い著者が脇役に愛をこめて
描いた佳作。 オススメ度:8
村上海賊の娘(一) (和田 竜著、新潮文庫)
作品の紹介
織田信長と顕如が率いる大坂本願寺が戦を始めて七年目の1576年。
長年、本願寺に助力してきた雑賀鉄砲衆の頭領、雑賀孫市は信長との決戦
ために毛利家からの兵糧を村上水軍に運んでもらうよう進言する。
本願寺の依頼を受け、毛利家海賊衆の児玉就英、乃美宗勝が使者として
村上水軍の頭領、能島村上家の当主、村上武吉のもとを訪れる。
武吉は、娘、二十歳の景(きょう)の児玉就英への輿入れを条件に毛利家へ
の味方すると告げるが、就英は断る。 景は安芸の門徒衆に請われ、廻船
で本願寺に向かう。 その直後、毛利家当主、毛利輝元の叔父、吉川元春
に説得された児玉就英は景を嫁にもらうことを承諾する。
大坂に向かった景は本願寺入り直前に信長方の泉州の海賊、眞鍋七五三
兵衛の安宅船に遭遇し、織田方の武将、太田兵馬を斬りすてる。
眞鍋七五三兵衛は、景の通行を許すが、景は、織田方の天王寺砦で事の
申し開きをすると宣言。 折しも景を追ってきた弟の景親を人質にさし出す。
あっという間に物語に引き込まれる世界観。 主人公、景の人物造形が秀逸。
景をとりまく海賊や門徒衆、毛利家家臣とのやりとりが予想以上にコミカルに
描かれており、エンターテインメント色もたっぷり。
2014年度「本屋大賞」:第1位。 「吉川英治文学新人賞」受賞作。
全四巻。 オススメ度:8.3
村上海賊の娘(二) (和田 竜著、新潮文庫)
作品の紹介
景は安芸の門徒衆を木津砦に送り届けた後、単身、天王寺砦へと向かう。
しかし、眞鍋七五三兵衛が事前に織田方の総大将、原田直政に事情を説明し、
太田との諍いの件は不問に付されていた。 景は泉州侍らとの酒宴で歓待を
受ける。 一夜明け、原田直政率いる織田方は、眞鍋七五三兵衛、沼間義晴、
松浦安太夫、寺田又右衛門ら泉州勢や畿内勢、三千八百の兵で二千の門徒が
守る木津砦を攻める。 織田方は苦戦するかに見えたが、沼間義晴が突破口
を開き、砦に肉薄する。 しかし、本願寺から出撃した雑賀鉄砲衆が原田直政
の陣を攻め、孫市自らが直政を撃ちとる。 このまま本願寺方が押し切るかに
見えたが、眞鍋七五三兵衛は果敢に戦いを挑む。 本願寺から新たに一万二千
の兵が出撃。 織田方の兵を天王寺砦に退却させる。 潰走の中、義晴が見せた
采配に感服した七五三兵衛は義晴に従うことを宣言する。 景は安芸門徒衆を
救うべく砦の門を開けようとし、取り押さえられ、幽閉される。
門徒たちは五日に渡って天王寺砦を包囲、あと一歩で砦の守りを破れるとなった
とき、信長自らが三千の兵を率いて着陣。 門徒たちは本願寺と木津砦に退却する。
景とともに、この巻の中心として描かれていたのは七五三兵衛。 そして個性
豊かな泉州侍たちの活躍、駆け引きもこの巻の読みどころ。 合戦シーンの描写
もドライブ感いっぱい。 オススメ度:8.2
村上海賊の娘(三) (和田 竜著、新潮文庫)
作品の紹介
幽閉を解かれた景は木津砦に向かう。 景親が後を追う。 信長は本願寺勢を
追撃するが、孫市に太腿を撃たれる。 景は木津砦で相手にされず、能島に帰る
決意をする。 帰途、雑賀孫市と遭遇、ともに織田方の関所に向かう。
関所を抜けた孫市は雑賀衆と落ち合うべく、貝塚をめざす。
信長は本願寺の周囲にさらに十の城を築き、さらに海上封鎖のために住吉にも
砦を新設することを決意。 海上の戦いの指揮を七五三兵衛に委ねる。
景と景親は住吉の浜で能島の兵に再会し、ともに能島に帰る。 景は兄、元吉に
もう戦に出ることはないと心中を明かす。 元吉は、児玉就英が景を嫁にもらう
決心をしたこと、村上水軍が毛利家に味方し、本願寺に兵糧を運ぶよう決したこと
を告げる。 しかし、頭領の武吉は、小早川隆景同様、上杉謙信が本願寺のため
に立つことを待ち、時間稼ぎをしていた。 やがて、謙信決起の報がもたらされ、
武吉は元吉に出撃を命じるが、心中では謙信の決起に疑念を抱いていた。
児玉就英、乃美宗勝、村上水軍の一千艘の船が十万石の兵糧を積んで淡路島、
岩屋城に着陣。 しかし、乃美宗勝は主君、小早川隆景の厳命により、謙信が
動くまで攻撃を控えるよう味方を説得する。 景は武吉から謙信は兵を出さない
だろうと聞き、門徒衆のために大坂に向かう。 岩屋城で毛利方の反対を押し切り
単身、織田方に交渉に向かう景に就英が付き添う。 景は七五三兵衛に和議を申し
出るが、交渉は決裂。 休む間もなく、景は、孫市のいる貝塚に向かう。
元吉ら毛利方が撤退する中、雑賀衆を率いて五十艘の船団で七五三兵衛に戦を
挑む。 しかし、海戦に長じた七五三兵衛の攻撃に苦戦を強いられる。
一方、景親は、姉を救うため、急遽、船を反転させる。 景親の行動に呼応し、毛利
方の全軍が大坂に急行する、、、。
前半は景の苦悩、無力感が巧みに描かれていた。 あれほど出たかった戦を
間近で見て、七五三兵衛ら織田方からも、安芸門徒衆からも、相手にされなく
なった自らの中途半端な覚悟。 そして自分への嫌悪から無軌道な行動を続け
ざるを得ない景の心の痛みの描写が秀逸だった。
後半に描かれる、門徒衆を救いたいという景の一途な思いも感動もの。
オススメ度:8.3
村上海賊の娘(四) (和田 竜著、新潮文庫)
作品の紹介
景の生死もわからず、雑賀衆が全滅の危機の中、元吉ら毛利方の船団、二百艘
が到着し、七五三兵衛の船団、百五十艘と真っ向からぶつかる。 村上水軍は
秘密兵器の焙烙玉で攻撃し、眞鍋水軍の船を火の海にしていく。 戦いが毛利方
優勢で進む中、木津川河口を守っていた沼間義清が泉州勢の船団、百五十艘を
率いて七五三兵衛の加勢に向かう。 元吉は景親を残し、新手にあたる。
七五三兵衛は景親の船に乗り込み、攻勢をかけるが、景親の捨て身の一策で海
に投げ出される。 命からがら危機を脱した景は、単身、七五三兵衛方の旗船に
乗っ取りをかける。 景の参戦に勢いづいた能島村上の兵が、景の命を守るべく
次々と駆けつける。 そして景は最後の力をふりしぼって七五三兵衛との決着に
挑む、、、。
毛利方 vs 織田方の大海戦をドライブ感たっぷりに描いた最終巻。
映画を観ているような臨場感。 泉州勢の洒落っ気たっぷりの戦い方も見もの。
オススメ度:8.3
出世花 (高田 郁著、ハルキ文庫)
作品の紹介
不義密通の上、藩士と出奔した妻を討つため、矢萩源九郎は娘のお艶を連れて
旅に出る。 六年後、毒草にあたった父娘は江戸 下落合の青泉寺の近くで行き
倒れる。 住職の正真が寺で介抱するが、源九郎は息を引き取る。
青泉寺は湯灌場、火葬場、墓所を備える墓寺だった。 ひとり残されたわずか九歳
のお艶は正真から「縁」という名をもらう。 四年後、十三歳になったお縁は寺の
湯灌場で死者を湯で清める仕事を手伝っていた。 内藤新宿にある和菓子の大店
「桜花堂」の女将、お香に見初められたお縁は、養女にと望まれ、行儀見習いの
名目で月に一度、お香のもとに通うようになる。 二年後、十五歳となったお縁は
桜花堂から出た養女の話を断り、湯灌場で三昧聖として働く決意をかためる。
お縁は正真から「正縁」という名を授かる。 一年後、桜花堂の主人が刺殺され、
お縁が湯灌を行う。 四十九日の後、お香から実の母であると告げられる。
その後も、お縁は、正真の弟子、正念、湯灌場で働く男たちに見守られながら、
人として、三昧聖として成長していく、、、。
湯灌場を舞台にした設定が新鮮。 亡骸を清めることを通して、故人の生き様や
人の生死を語る著者の視線のあたたかさ、やわらかさが伝わる一作。
終盤で明かされる正念の出生、出家の秘密の描き方も秀逸。
表題作を含む四編の連作短編の体裁で構成された長編。 表題作はすばらしい
一編。 人情話ではあるが、お縁の謎解きも見どころ。
著者のデビュー作。 オススメ度:8.2
蓮花の契り (高田 郁著、ハルキ文庫)
作品の紹介
「出世花」の続編。 前作同様、表題作を含む四編を収録。
縁あって青泉寺で三昧聖として働くお縁は二十二歳になっていた。
四年前に知り合ったが、江戸の街を襲った大火で記憶喪失になっていた遊女
のてまりと再会。 お縁の湯灌に立ち会い、てまりは記憶を取り戻す。
お縁の実の母で今は内藤新宿の大店「桜花堂」店主のお香は、店をたたみ、
亡き夫の息子、仙太郎が営む日本橋の店で同居することになる。 嫁とお香
が不仲であることに気を病んだ仙太郎は、お縁に実の母と暮らしてほしいと
懇願する。 住職、正真の勧めもあり、お縁は半年間の約束で日本橋の店で
暮らすことになる。 ほどなく、異母兄の仙太郎が無実の罪で捕えられる。
お縁は知り合いの定廻り同心、進藤に仙太郎が無実である謎解きを伝える。
仙太郎と嫁のお染との仲は修復不可能となり、お染は深川の実家に戻る。
お香と仙太郎は、お縁に嫁になってほしいと伝える。 お染が妊娠している
と知ったお縁は仙太郎をお染に会わせるべく、深川八幡の祭に誘う。 しかし、
人出の多さに耐えかねた永代橋が崩落。 お縁も九死に一生を得る。
死者が千五百を超えた大惨事の後、お縁は進藤に頼まれ遺体を清める仕事に
汗を流す。 お染の妊娠を知った仙太郎は、もう一度お染とやり直すことを決意。
お縁はお香を一度だけ「母上」と呼び、青泉寺に戻る。
お縁の行いは読売で取り上げられ、青泉寺で弔いを望む人が増える。 しかし、
寺社奉行が正真、正念を連行し、取り調べる。 正念の生家の助け、そしてお縁
を高く買っていた奥方の元老中の夫の口添えで、二ヶ月後、沙汰無しとなる。
そんな中、正念の生家が取りつぶしの危機を迎え、正念に還俗し、藩主になって
ほしいとの声が上がる。 正念の母の再婚相手、そしてその娘は、還俗後、お縁
と夫婦になってはと告げる。 正念もお縁の心は大いに揺れる、、、。
第一作もすばらしかったが、第二作はさらに大きな世界観で全体の構成も秀逸。
多くの読者が納得の結末では。 オススメ度:8.3
いっしん虎徹 (山本 兼一著、文春文庫)
作品の紹介
江戸幕府が開かれて50年。 戦乱が去った時代の物語。
越前の甲冑師、長曽祢興里(のちの虎徹)は36歳にして、未来の見えない
故郷を捨て、江戸で刀鍛冶になることを決意。 その第一歩として、出雲の
鉄師を訪ね、製鉄の現場を体験する。 続いて、備中でも名もなき百姓の
鍛冶の技を目の当たりにし、親戚に病身の妻を預けている近江に向かう。
道中、興里を父の敵として命を狙う刀鍛冶の息子、正吉を弟子とする。
刀鍛冶の叔父、才市を頼って、妻のゆき、正吉を伴って江戸に出た興里は
和泉守兼重のもとで五年間、修業する。 晴れて独立した興里だったが、
最初のうちは、気ばかりが焦って、刀づくりに失敗する。 やがて、試刀家
の山野加右衛門、続いて、三大将軍、家光の叔父で僧侶の圭海と知り合い、
真の刀づくりに目覚める。 興里は圭海のもとで得度し、虎徹の名を得る。
しかし、幕閣の権力争いに巻き込まれ、叔父、才市を失うことに。
それでも、自らの人生を賭けて刀づくりに精進を重ねた虎徹は、ついに四代
将軍、家綱の前で、当代の刀鍛冶の名人たちと天下一の刀を競うことになる。
なかなか知ることのない刀鍛冶の生きざまを骨太に描いた佳作。 著者の
虎徹愛が作品の端々まで垣間見える。
2009年「本の雑誌」文庫「時代小説部門」:第7位。 オススメ度:8.2
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