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読書感想文2018 part 3

「読書感想文2018」 part3は、5月〜6月の読書録です。

 ↓ Click NOVEL mark !
コメント  君の膵臓をたべたい (住野 よる著、双葉文庫)   作品の紹介 

ある日、高校生の僕は、病院で「共病文庫」というタイトルの文庫本を拾う。
それは、僕のクラスメイト、山内桜良の日記帳で、彼女の余命が膵臓の病気に
あとわずかであると書かれていた。
このことがきっかけで、二人は「仲良し」になる。 恋人でもなく、友だちでもない
特別な関係になる。 家族以外で桜良の病気を知る唯一の存在として僕は桜良
に「日常」を贈り続ける。 それまで家族以外を必要とせず、必要とされかった僕は
桜良との出逢いでまわりの世界が見え始め、桜良に必要とされることに喜びを
感じるようになる。 病気のことを知らないクラスメイトや親友から理解されない
ものの、充実したときを過ごす二人に、突然の哀しみが訪れる、、、。
最初から最後まで目を離せないリーダビリティー。 大人も感情移入してしまう
珠玉のことばの数々。 従来の難病ものとは一線を画す新しい感覚。
「君の膵臓をたべたい」ということばにこめられた二つの意味がせつない。
2016年「本屋大賞」:第2位。 2016年「年間ベストセラー」:第1位。
2017年、実写映画化。 2018年、アニメ映画化。 オススメ度:8.7

コメント  2 (野崎 まど著、メディアワークス文庫)   作品の紹介 

芸大の演劇科卒業を目前に控えた数多一人は超人気劇団「パンドラ」の入団
試験に合格。 しかし、合格した15人は「パンドラ」の舞台稽古を見て、自信を
なくし、12人が退団。 数多ら三人だけが「パンドラ」の一員となる。
一週間後、季節外れの入団試験が行われる。 受験者である最原最早の演技
を見た「パンドラ」の劇団員たちは衝撃を受け、次々に試験会場を去っていく。
最後に残った数多に向かって、最早は自分の撮る映画への出演を依頼する。
最早の演技を見た者は次々と退団届を出し、「パンドラ」は解散する、、、。
最早は知り合いのスーパーハッカーたちの情報をもとに、映画製作を開始する。
最初の資金集めでは、巨大企業グループのオーナー、舞面からあっさりと3億円
の資金を引き出す。 さらに世界一の作家、紫にシナリオを依頼。 同時に自ら
の知り合いの女優ナタリーに出演を依頼する。 「2」と名付けられた作品の絵
コンテも最早が自分で書きあげる。 最早はクランクインを前に舞面に機材、
設備をはじめ途方もない要求を行う。 舞面はすべての要求に応え、映画は
クランクインする。
監督、最早の要求に難なく応えるナタリーに対し、数多は何テイクも重ねて
ようやくOKがでる始末。 最早の指示により、撮影の途中で、演技の勉強と
称して、数多は高校の教師から生物の授業を受けさせられる。 さらに最早の
映画のファンである図書館の司書からも教えを受ける。
演技のコツをつかんだ数多は順調に撮影を終え、映画は無事、クランクアップ
を迎える。 試写の席上、スポンサーの舞面は、最早が「2」をつくった理由を
推測する。 舞面の推測は数多の想像を絶するものだった。 自らの目論みを
舞面に見破られた最早は危機に陥るかに見えたが、すでに手をうっていた。
そればかりか、舞面を試写の場に留めているうちに、別の場所で本来の目的を
遂げていた。 しかし、それを遥かに上回る衝撃が数多を襲う、、、。
そして次に訪れるのは、すべての読者が予想だにしない大どんでん返し、、、。
最後の100ページは、もうジェットコースター状態。 予想外の展開に「えっ!」、
「えっ?」、「ええ〜っ!」と声を上げながら話についていくのがやっと。
この展開と言うか、仕掛けを反則と見るか、おもしろいと思うかは、この作家の
世界観を他の作品も含めてリスペクトするかアプリシエイトするかということだ
と思う。 私自身は、なんだか壮大なだまし絵のような気もするけど、こういう
発想が、こういう作品があっていいと思う。 だって、他の作家では、こういう作品
は読めないもの、きっと。
本作以前に著者が書いた5作品(「[映] アムリタ」など)中の人物が次々に登場。
本作は時系列的にも5作品の後日談となっている。 550ページの大作。
「[映] アムリタ」のブックレビューはこちら。  オススメ度:8.3

コメント  ミノタウロス (佐藤 亜紀著、講談社文庫)   作品の紹介 

舞台はロシア革命前後のウクライナ地方。 父が偶然手に入れた土地の
おかげで、地主の次男、ヴァシリは、何不自由なく育つが、屈折した心を
抱えたまま成長する。 やがて、軍で重傷を負った兄が家に戻り、父が
死去。 しかし、ヴァシリの暮らしは、父の盟友、シチェルパートフに後見
され安泰だった。 第一次世界大戦、ロシア革命と歴史が大きく揺れ動く
中、兄が自殺し、宿敵グラバクに家を焼かれ、命を狙われる。
シチェルパートフを殺害し、天涯孤独の身になったヴァシリは、秩序が
失われた世界に投げ出される。
ヴァシリは、ウルリヒ、フェディコという仲間二人とともに、武装し、生きる
ために殺人、強奪をためらわない心を持つようになる。 やがて、因縁の
相手、グラバクに再会。 過去の経緯は棚上げにして、グラバクが頭目を
務める一派と行動を共にする。 しかし、グラバクを殺害したヴァシリは
グラバクのボスとの対決に挑むが、、、、、、。
本好きのための名作。 玄人受けするのはわかる。 しかし、読むのに根気
とパワーが必要。 全編、どんよりした世界観。 救いがないのに最後まで
耐えられるか。
2008年「吉川栄治文学新人賞」受賞作。 2007年度「本の雑誌」総合:1位。
オススメ度:8.1

コメント  任侠病院 (今野 敏著、中公文庫)   作品の紹介 

「任侠書房」、「任侠学園」に続く「任侠」シリーズの第三作。
過去に出版社と高校の経営再建を成功させた阿岐本組。
今回、阿岐本の兄弟分、永神が持ち込んだのは、病院の再建。
さっそく組長の阿岐本と代貸の日村は駒繁病院の理事会メンバーとなり
改革に乗り出そうとするが、病院の業務は耶麻島組がバックにつくシノ・
メディカル・エージェンシーに牛耳られ、高額なマージンを支払わされて
いた。 そんな折、阿岐本組の地元の住民たちから立ち退き要求が出さ
れる。 この騒ぎも耶麻島組が後ろで糸を引いていた。
抗争勃発かとはらはらする日村とは対照的に阿岐本は悠然と構え、耶麻
島組との交渉のテーブルにつく、、、。
ストイックな警察小説のイメージが強い著者にしてはめずらしい、コメディ
タッチの任侠もの。 キャラクター造形も秀逸。 オススメ度:8.1

コメント  純平、考え直せ (奥田 英郎著、光文社文庫)   作品の紹介 

坂本純平、21歳。 新宿を根城にするやくざの見習い。 ある日、兄貴分の
留守中に組長から対立組織の幹部暗殺の鉄砲玉を命じられる。
そんな純平の凶行までの三日間を描いた物語。 偶然知り合った女の子に
計画を漏らしたことからネットの掲示板では忠告や励ましが次々と書き込ま
れるようになり。 2年ぶりに故郷の母を訪ねたり。 知り合いのダンサーの
揉め事に首を突っ込んだり。 元大学教授と知り合ったり。 同じ年のテキ屋
の青年と飲み歩いたり。 最後の中身の濃い三日間で、自分をたいせつに
思ってくれる人たちとの出会いに恵まれる純平の喜怒哀楽を巧みに描いた
一作。 オススメ度:8

コメント  ちょっと今から仕事やめてくる (北川 恵海著、メディアワークス文庫)   作品の紹介 

残業続きで最悪の上司のもと、新入社員の青山隆は、退職寸前というよりも
自殺寸前の状態に追い込まれていた。 そんな隆を救ったのは小学校の頃の
同級生だと名乗るヤマモト。 しかし、隆にヤマモトの記憶はなく、別の同級生
に問い合わせたところ、同級生のヤマモトは海外で働いていることがわかる。
もはやヤマモトと親友になった隆は、ネットで検索し、ヤマモトが三年前に仕事
で悩み、自殺したことがわかる。 隆はさらに推理を働かせ、ヤマモトの正体を
知り、やがて、ひとつの決意をする、、、。
まもなく社会に出る人、社会に出たばかりの人に読んでほしい一作。
「電撃小説大賞 メディアワークス文庫賞」受賞。 オススメ度:7.9

コメント  背表紙は歌う (大崎 梢著、創元推理文庫)   作品の紹介 

出版社の新人営業マン、井辻 智紀を主人公にした、ミステリー短編集。
本作は「出版社営業・井辻智紀の業務日誌」第二作。 表題作を含む計5編を収録。
文学賞の裏側、出版不況の現状など、前作より一歩踏み込んだ内容に。
第一作のブックレビューはこちら。  オススメ度:7.9

コメント  真夜中のパン屋さん 午前1時の恋泥棒 (大沼 紀子著、ポプラ文庫)   作品の紹介 

「真夜中のパン屋さん」シリーズの第二作。
深夜11時から夜明けの5時まで営業する真夜中のパン屋さん「ブランジェリー
クレバヤシ」。 オーナーの暮林は接客担当。 パンづくり担当は弘基。
そして、居候の高校生、希実も店を手伝っている。
ある日、弘基の元カノの佳乃が店を訪れ、そのまま居候となる。 佳乃は大金
を持っていたり、彼女を探している男が次々と訪ねてきたり、かなり怪しい。
やがて、佳乃が結婚詐欺を働いていること、双子の姉、綾乃が佳乃を救おうと
していることがわかり、弘基が立ち上がる。 そして、暮林、希実、常連の斑目
も加わり、大がかりな作戦が実行される、、、。
第一作に続き、独特の世界観とリーダビリティーの高さは健在。 弘基の過去
をひもときながら進んでいく展開もグッド。
第一作のブックレビューはこちら。  オススメ度:8.2

コメント  真夜中のパン屋さん 午前2時の転校生 (大沼 紀子著、ポプラ文庫)   作品の紹介 

「真夜中のパン屋さん」シリーズの第三作。
高校三年生になった希実のクラスに美作孝太郎が転校してくる。 孝太郎は
異母弟のこだまが「ブランジェリークレバヤシ」に出入りしていることを知り、
こだまに近づくために希実の通う高校を選んだのだった。
孝太郎は、こだまの母、織絵が勤める病院の医師であり、父の元同僚でもある
安倍を利用して、父を失脚させようとする。 しかし、こだまを想う希実は孝太郎
の企みを止めようと奔走する、、、。
本作のゲスト(孝太郎)に、イマイチ感情移入できず。 むしろ、希実の過去が
第四作以降のカギになるような伏線が気になった。 オススメ度:8

コメント  スプラッシュ! (美奈川 護著、メディアワークス文庫)   作品の紹介 

剣道道場主の長男として生まれた渡来陸は剣道一筋の人生を送ってきた。
しかし、高校卒業を前に父が急死。 一家の家計が母の肩にのしかかることに。
父の葬儀で陸は叔父でボートレーサーの新垣からボートレーサーに誘われ、
養成所に入学。 一年後の卒業レースで優勝した陸は将来を嘱望されるが、
デビュー直前に新垣がレース中に大けがをし、陸はデビュー戦でフライングを
犯し、失格。 長期のスランプに陥る。
やがて、陸のファンだという壱橋六花との出会いを機に、調子を取り戻し、初
勝利をおさめる。 同じころ、六花がボートレーサーの養成所に入学したことを
知る。 一年後、陸は一番下のB2級からB1級に昇格。 六花もデビュー戦で
鮮烈なデビューを果たす。 六花は定石を覆すアウトコースからの攻めで注目
を集める。 やがて、六花の秘密が明らかになり、陸と勝負の時を迎える。
ふつうの人にはなじみのないボートレースの世界をドライブ感たっぷりに描いた
作品。 著者の代表作「ドラフィル」同様、独自の世界観が展開されている。
オススメ度:8.1

コメント  公安捜査官 柳原明日香 (黒崎 視音著、徳間文庫)   作品の紹介 

正式タイトルは「警視庁心理捜査官 公安捜査官 柳原明日香 女狐」。
著者の代表作「警視庁心理捜査官」シリーズの第三作。
シリーズ第一作の前日譚のようなスピンアウト的な作品。
警察学校で優秀な成績を修め、公安に配属になった準キャリアの明日香。
さらなる努力を重ね、念願の本庁公安一課に着任するが、公安内部の罠
に嵌められ、爆破事件の情報漏洩の責任を負わされることに。
公安一課から異動することが決まった明日香は、自分を陥れた公安幹部
たちに復讐するため、独自の捜査を開始する、、、。
公安の捜査方法を巧みに描きながら、精緻に組み立てられたミステリー
をドライブ感とともに展開している。 シリーズのファンにはお勧め。
シリーズ第一作、第二作のブックレビューはこちら。  オススメ度:8

コメント  捜査一課係長 柳原明日香 (黒崎 視音著、徳間文庫)   作品の紹介 

正式タイトルは「警視庁心理捜査官 捜査一課係長 柳原明日香」。
著者の代表作「警視庁心理捜査官」シリーズの第四作。
第三作で公安からの異動を余儀なくされた明日香は、その活躍の舞台を
警視庁捜査一課に移す。 時系列的には第一作の後のお話。
田園調布の公園で男性の首なし死体が発見される。 首は膝の上に載せ
られ、口には警察手帳を咥えさせられていた。 被害者は元田園調布署
の交番勤務を経て、公安勤務の経験もある西新井署の警察官だった。
捜査一課 特殊犯第五係の係長、柳原明日香は本庁のプロファイリング
に納得がいかず、かつて捜査一課で共に捜査をし、多摩中央署に異動
させられた心理捜査官、吉村爽子を特別招集する。
爽子は、これまでの捜査とはまったく違うプロファイリングを行う。
明日香は、爽子の見立てを信じ、行き詰っていた捜査の舵を大きくきる。
このシリーズは、やはり明日香と爽子の二人が揃うとおもしろくなる。
オススメ度:8.1

コメント  おやすみラフマニノフ (中山 七里著、宝島社文庫)   作品の紹介 

愛知音大の四回生、城戸晶は苦学生。 アルバイトに精を出すが、授業料の
督促を受ける。 そんな時、大学の定期演奏会で学長とともに演奏する学生を
オーディションで決めると発表される。 晶は若手の有望ピアニストで大学の
臨時講師である岬洋介に励まされ、ヴァイオリンの練習に励む。
本命である学生の怪我という幸運にも恵まれたが、努力のかいあって、晶は
コンサートマスターに選ばれ、後期の授業料を免除されたばかりか、世紀の
名器、ストラディバリウスで演奏できることに。
しかし、そんな矢先、ストラディバリウスのチェロが完全密室の保管室から
盗まれる。 大学は警察に届けず、独自に調査を始める。 事件当日、保管室
に出入りした晶は、学長の孫娘で、恋人でもあるチェロ奏者の柘植初音らととも
に調べられるが、監視カメラに犯人の姿は映っていなかった、、、。
それ以来、学長のスタンウェイのピアノが水浸しにされたり、姉妹校のアメリカ
の大学から大麻が密輸されていることが発覚したり、事件が続発する。
晶はコンマスとして、オーケストラをまとめようとするが、学長が定期演奏会
で演奏すると殺害するともとれる投稿が大学のサイトに寄せられる。
学長が演奏会での演奏を断念し、演奏会そのものも中止を余儀なくされるが、
岬洋介が救いの手を差し伸べる。 初音は病に倒れ、演奏会への出演をあきら
めるが、晶たちは苦難を乗り越え、いよいよ演奏会当日を迎える、、、。
「このミステリーがすごい!」大賞受賞作「さよならドビュッシー」の続編。
とはいえ、第一作とのつながりは岬洋介のみ。 音楽の世界にミステリーを持ち
こむ手法は前作同様。 精緻な構成には感心するが、主人公のキャラが弱いか。
オススメ度:8
コメント  夢追い月 (小松 エメル著、ハルキ文庫)   作品の紹介 

正式タイトルは「夢追い月 蘭学塾幻幽堂青春記」。 シリーズ第一作。
自らの出産時に母と自分の命を救ってくれた京の蘭学者、玄遊の主宰する
玄遊堂、通称幻幽堂で学ぶため、単身、江戸の多摩から上京した水野八重太
は弱冠十五歳。 生まじめな水野は真剣に蘭学を学びたいが、師である玄遊
をはじめ三名の塾生、下女も変わり者ばかり。 入塾して三か月が過ぎた頃、
塾生の中村の友人、秋貞司郎が幻幽堂の門をたたく。 秋貞は水野にとって
天敵ともいえる存在だった。 やがて、水野は、名門塾の怪異な騒動に巻き
込まれ、玄遊や塾生、秋貞とともに力をあわせて立ち向かう、、、。
青春ものとしても、ミステリーとしても、高品質な時代小説だと思うけど、若い人
向きかな。 オススメ度:8

コメント  雑賀孫市 (二宮 隆雄著、PHP文庫)   作品の紹介 

紀州雑賀庄で三千の鉄砲衆を率いる雑賀孫市。 海賊衆も従え、戦国大名の
配下に入ることもなく、独立した勢力として君臨していた。
信長以外の大名が鉄砲の価値に気づかない中、三河の一向一揆や京の三好
三人衆対松永弾正の戦いにも傭兵として参戦し勝利。 莫大な利益を得る。
やがて信長が足利義秋を奉じて上洛。 浅井・朝倉連合軍にも勝利する。
信長は雑賀衆の好敵手である根来衆を召抱え、石山本願寺と対立。
孫市は石山本願寺と手を結び、信長に勝利する。 さらに長島の一向一揆でも
信長を潰走させる。 しかし、信長は直ちに軍を立て直し、比叡山を焼き打ち。
浅井、朝倉を倒し、長島の一向一揆も力ずくで制圧する。
石山本願寺にも所領明け渡しを迫るが、孫市はこれに反発。 信長軍を撃退
する。 業を煮やした信長は十万の軍で雑賀庄を攻めるが、孫市は一万の兵で
勝利する。 しかし、信長方の九鬼水軍が雑賀水軍を撃破。
石山本願寺も長い戦いに疲れ、信長に所領を明け渡す。 孫市は蓮如を雑賀庄
に迎え入れる。 やがて、本能寺の変で信長が討たれ、孫市は小牧・長久手の
戦いでは、別働隊として大坂城を攻撃する。 そして、この戦いを最後に孫市は
歴史の表舞台から姿を消す、、、。
アテルイ、九戸政実、真田幸村、河井継之助など、死を覚悟して時の権力者に
真っ向から勝負を挑む人物に惹かれる。
雑賀孫市も、私の歴史上好きな人物ベスト5に入る人。 本作は二十年ぶり
くらいに再読。 孫市はやはり興味深い人物だと再認識。 司馬遼太郎さんの
「尻啖え孫市」も名作。 オススメ度:8.2

コメント  再会 (諸田 玲子著、文春文庫)   作品の紹介 

「あくじゃれ瓢六捕物帖」シリーズの第四作。
三年前の前の大火で恋女房のお袖が行方不明になり、茫然自失の日々を
送ってきた瓢六。 しかし、水野越前守が老中首座となり天保の改革が始まる
と、瓢六の周辺も騒がしくなってきた。 水野が新たに南町奉行として送り
込んだ鳥居耀蔵による蘭学者や戯作者の弾圧、北町奉行の遠山を失脚させ
ようという動きが苛烈を極める。 かつて瓢六が手助けをしていた北町奉行所
同心、篠崎弥左衛門も大病を患い、右手が不自由になっていた。
篠崎の手下の岡っ引き、源次も非業の死を遂げ、ついに瓢六は立ち上がる。
やがて瓢六は篠崎とともに、水野の非道を正さんとする前福山藩主、阿部
不争斎に仕える美女、奈緒を助けるべく力を尽くす。
しかし、なおも瓢六のまわりの人々に火の粉がふりかかる、、、、、、。
あいかわらずの安定感、リーダビリティー。 お袖を失い、四十歳を目前に
憔悴した瓢六を見せられつつも、テンポのよい展開で、すぐにいつもの世界に
読者をいざなう筆力はさすが。 場面転換がすばやく、登場人物も多いのに
読者を混乱させないのもすごいと感心。 さらに、お袖を失った瓢六の奈緒に
対する想いまで描かれている。 この巻は瓢六がかけがえのない人たちとの
「再会」をはたす物語であり「再生」を描いた物語でもある。
第三作のブックレビューはこちら。  オススメ度:8.2

コメント  破落戸 (諸田 玲子著、文春文庫)   作品の紹介 

「あくじゃれ瓢六捕物帖」シリーズの第五作。
一枚岩に見えていた水野越前守と南町奉行、鳥居耀蔵の関係が崩れる。
鳥居は水野に対抗する土井大炊頭に接近し、水野は失脚。 不争斎、奈緒は
攻撃の対象を鳥居に絞る。 やがて、瓢六は奈緒と結ばれる。
一転、水野が巻き返し、老中に復帰。 今度は鳥居が失脚する。
そんな中、奈緒が不争斎の弟である老中、阿部伊勢守に見初められ、側室と
なる話が進められる、、、、、、。
あいかわらずのドライブ感、そしてリーダビリティー。 読者を物語にひきこむ
筆力はさすが。 奈緒との恋、若き日の勝海舟、麟太郎との友情など本線以外
にも読みどころ満載。 次作も楽しみ。 オススメ度:8.2

コメント  心がわり (諸田 玲子著、集英社文庫)   作品の紹介 

「狸穴あいあい坂」シリーズの第三作。 表題作を含む計六編を収録した
連作短編集。
火盗改方与力の娘、結寿は、子持ちの同心、妻木道三郎との恋をあきらめ、
御先手組の与力、小山田家へ嫁ぐ。 心優しい家族に恵まれ、平穏に過ごし
ていた。 ある日、小山田家の遠縁で居候の老女のもとへ親類だと名乗る
柘植平左衛門という男が転がり込む。 やがて、平左衛門の秘密が明らか
となり、小山田家に試練が訪れる中、結寿が懐妊する、、、。
結寿が夫、万之助と徐々に心を通わせる過程、義弟、新之助の叶わぬ恋など
新たな登場人物も魅力的に描かれている。
第三作までまったくマンネリにならず、読者をぐいぐい惹きつけるリーダビリ
ティーはさすが。 続編に期待。
第二作のブックレビューはこちら。  オススメ度:8.3

コメント  人生を変えた時代小説傑作選 (山本一力/児玉清/縄田一男編、文春文庫)   作品の紹介 

時代小説好きの三人の選者が厳選した短編六編を収録した作品集。
直木賞作家の山本さん、本好きの俳優の児玉さん、文芸評論家の縄田さんが
各自二編ずつ「時代小説にはまるきっかけになった作品」、「今現在でも
最高だと思う作品」をチョイス。
収録されているのは、菊池寛、松本清張、五味康祐、藤沢周平、山田風太郎、
池宮彰一郎という大家の作品(収録順)。  作品が発表されたのは、順に
1921年、1957年、1954年、1987年、1972年、1993年。
国定忠治や忠臣蔵などおなじみのものから時代の片隅に生きた人物に焦点を
あてた作品まで、選者の人生観や嗜好が現れた幅広い作品がずらり。
読み応えのある短編が多かったけど、改めて好みとは人それぞれと感心。
個人的には山本さんのお勧めの作品が好み。 オススメ度:8.1

コメント  小説十八史略(三) (陳 舜臣著、講談社文庫)   作品の紹介 

武帝の後半の時代から昭帝、宣帝の時代を経て前漢の衰退、やがて王莽による
帝位簒奪、新の建国を描いている。 続いて、光武帝による後漢の建国から
宦官の台頭、後漢の衰退、黄巾の乱を経て、物語は三国志の時代に突入。
董卓が帝を擁し権勢を奮うが、呂布が暗殺し、天下は再び乱れる。 袁紹、袁術、
曹操らが天下を睨み、動き始める、、、。
あいかわらず読みやすくわかりやすい。 歴史の教科書を読むよりよほどため
になるのでは。
第一巻、第二巻のブックレビューはこちら。  オススメ度:8.1

コメント  史記 武帝紀 四 (北方 謙三著、ハルキ文庫)   作品の紹介 

武帝の治世は安定し、秦の始皇帝以来となる泰山封禅の儀式を行う。
太史令、司馬談は泰山封禅に同行を許されず、失意の中、息を引き取る。
匈奴の単宇、烏維は、十年ぶりの出兵を決意。 軍の主力、頭屠が二万の
兵を率いて長城近郊の街で略奪を繰り返す。 漢も地方軍七万が終結し、
匈奴軍にあたるが翻弄される。 武帝は愛妾、李茜の兄、李広利に五千の
騎馬を与え、対匈奴戦に備えさせる。
司馬談の死から三年後、司馬遷は太史令に任じられ、父の志を継ぎ、史書
の執筆、編纂を続ける。
李広将軍の孫、李陵は衛青自らの教えを受け、李広利のもとで校尉となる。
衛青の幕僚を務め、今は代郡太守である蘇建の息子、蘇武は文官の道を
選ぶ。 蘇武は武帝の命を受け、北辺の守りを視察の途中、李陵を訪ね、
旧交を温めあう。 やがて、衛青は亡くなり、李陵はひとかどの将となる。
武帝は李陵に八百の騎馬隊の指揮をまかせる。
匈奴の単于、烏維が死去、息子が後を継ぎ、児単于と呼ばれる。
霍去病のかつての麾下、趙破奴が二万の兵を与えられ、北の地に進軍。
李広李は五万の兵で西域に攻め入るが、兵站に失敗、兵の大半が脱走する。
数千の兵となった李広李は玉門関から東に入ることを禁じる罰を受ける。
匈奴は漢に投降しようとした左大都尉の軍を殲滅。 続いて頭屠が二万の
兵で趙破奴にあたり、全滅させる。 趙破奴は捕虜になる。
まもなく児単于が病死し、烏維の弟、コウ犁湖が新しい単于となる。
コウ犁湖は単于庭を南に移動し、軍を整備。 後顧の憂いを絶ち、弟の
且テイ侯に単于の座を禅譲。 静かに死のときを迎える。
李広李は六万の兵を整えて再度、大宛に進発。 和議を結んで帰途につくが、
兵は大半が脱走し一万一千に減っていた。 唯一の救いは大宛から運んだ
三千頭の馬だけだった。 李広利はようやく長安に帰還する。
李陵は五千の兵を率いる将に昇格し、匈奴との戦に備え、西部に着任する。
蘇武は武帝の信任を得て、侍中の中心的存在になっていた。 やがて、武帝
から匈奴への使節を命じられ、単于庭に向かう。
物語前半の中心人物である衛青が亡くなり、李陵、蘇武、司馬遷など第二
世代に焦点が移っていった巻。 この世の春を謳歌していた武帝の治世にも
少しずつ陰りの予感が見え始めてきた印象。
第三巻のブックレビューはこちら。  オススメ度:8.1

コメント  長城のかげ (宮城谷 昌光著、文春文庫)   作品の紹介 

項羽と劉邦をめぐる物語を集めた短編集。 表題作を含む計五編を収録。
季布、盧綰、陸賈、劉肥、叔孫通など、項羽と劉邦の周囲の人物を丹念に
描き、項羽と劉邦の二人の対比を浮かび上がらせている。
「項羽と劉邦」の副読本としても最適。 個人的には前半の三編がお気に
入り。 オススメ度:8.2

コメント  王家の風日 (宮城谷 昌光著、文春文庫)   作品の紹介 

商王朝末期の物語。 帝乙が崩御し、三男の受が後を継ぐ。 乙の弟、
箕子、干子は受を輔佐する。 受王は幼少期、英明であったが、即位後、
諸国への締め付けを厳しくし、炮烙の刑なる残忍な刑を考案する。
商は、九侯、周に続き、蘇忿生、盂方伯を服従させる。 蘇忿生は娘の
妲己を受王に差し出す。 やがて、九侯、鄂侯が謀反の罪で処刑される。
受王はやがて紂王と呼ばれるようになり、妲己を妃とする。
周侯は独立の機会を窺っていたが、長男の伯邑考とともに紂王に捕えら
れる。 伯邑考は処刑されるが、周侯は太公望呂尚の策に助けられる。
周侯は次々と領土を拡大、商を倒す準備を重ねる。 箕子、干子という
二人の重鎮は、紂王に周の脅威を訴えるが、紂王は周に疑念を抱かず、
箕子、干子は閣外に去る。 周侯、昌は、志半ばでこの世を去るが、子の
発が太公望に支えられ、ついに商を倒す。
商の滅亡をていねいに描いた佳作。 紂王の残忍な面以外を描いていた
ことが印象的。 必要以上に妲己を描かなかったことも好印象。
主人公を特定する必要のない群像劇。 オススメ度:8

コメント  花の歳月 (宮城谷 昌光著、講談社文庫)   作品の紹介 

華北のかつての名家、竇(とう)家の娘、猗房(いぼう)が郷の父老に推薦
されて、県の代表として漢の王室に入る。
王室は高祖、劉邦亡き後、呂大后がおさめていた。 猗房は呂大后の近く
に仕えることになる。 やがて、四人の娘たちとともに代王のもとに送られ、
竇姫と称される。 代王は猗房を一目見て気に入り、猗房のみを妾とする。
猗房は女児、続いて男児二人を出産する。
呂大后の死後、呂一族は粛清され、外戚に問題がなく、資質にすぐれた
代王が漢の皇帝として即位する。 正室がすでに死去していたため、猗房
が皇后に即位。 猗房の子が太子となる。 まもなく、行方不明であった
弟の広国とも再会する。 広国は臣として召し抱えられ、苦難の時代に自分
をかばってくれた初恋の女性と結ばれる。
読後感のさわやかな作品。 登場人物がみな善人だからか。 オススメ度:8

コメント  晏子(一) (宮城谷 昌光著、新潮文庫)   作品の紹介 

宋の公子であった晏弱は後継争いを逃れて斉に亡命し、大夫となる。
晋の卿、郤克が斉の頃公に会堂への出席を要請するため、斉を訪れる。
しかし、郤克を無礼な態度で迎えたため、郤克は頃公に会うことなく帰国。
斉の外交を預かる斉の上卿、高固は、頃公の代理として、副使の晏弱を
伴い晋に向かう。 道中、斉の先王、恵公の寵臣で今は衛に亡命している
崔杼が高固を訪ね、郤克が高固を襲撃すべく待ち構えていると告げる。
高固は斉に帰国するが、晏弱は晋に向かう。 しかし、郤克の怒りはおさ
まらず、晏弱を会堂に参加させなかった。 会堂後、士会の後を継いで
宰相となった郤克は晏弱を殺そうとするが、一族の郤至の計らいで晏弱は
幽閉の身となる。 晏弱に好意を抱いた郤至は楚から晋に亡命した大夫、
苗賁皇を晏弱に引きあわせる。 苗賁皇は晋の景公に晏弱を解放するよう
進言。 晏弱は無事、斉に帰国する。 晏弱は、頃公に晋が攻めてくると
告げる。 頃公は晋に公子彊を人質として差し出し、講和する。
やがて、斉の支配から離れた魯のその場限りの外交が災いし、晋、衛、
魯が斉に戦を挑む。 頃公は魯に出兵。 晏弱は高固とともに衛の援軍を
埋伏の計で破る。 戦略眼のない高固は退却する衛軍を追う。 一方、衛
の宰相、孫良夫も引き返し、高固を攻める。 晏弱は魯に向かい、斉軍に
合流したい気持ちを抑え、高固救援に向かい、衛軍を破る。 孫良夫は晋
に援軍を要請。 郤克が大軍を率いて、斉に進軍する。 斉軍と晋軍の戦い
で高固が戦死。 頃公は崔杼に助けられ、命からがら帰国する。
晏弱も副将の蔡朝とともに郤至の軍に追い詰められるが、間一髪、南郭偃に
救われ、無事、退却する。 やがて、斉は晋に和議を申し入れる。
五年後、頃公は崩御し、崔杼は帰国を許される。 頃公の太子、霊公が即位。
晏弱に息子、晏嬰が生まれる。
崔杼は上卿、国佐が留守の間に、霊公と生母を操り、国佐と高固の息子、
高無咎の失脚を画策する。 霊公は崔杼を大夫に任じ、生母、声孟子に
通じる慶克を佐将とする。 晏弱は崔杼に従いつつも、主である高無咎の
亡命を助ける。 霊公は崔杼に命じ、高無咎の子、高弱を攻める。 国佐は
崔杼、慶克の軍に兵を向ける。 慶克は討ち取られ、霊公は国佐と講和を
結ぶ。 しかし、参内した国佐は謀殺され、崔杼が宰相となる。
国家間の争い、国内の謀略の中、軸をぶらさず、清廉に生きる晏弱の心根、
そして晏弱を慕う蔡朝、南郭偃の心意気に感心。
タイトルの「晏子」とは、晏弱と息子の晏嬰をさす。 オススメ度:8.2

コメント  晏子(二) (宮城谷 昌光著、新潮文庫)   作品の紹介 

霊公は斉の東の小国、ライ攻めを決意。 かつて国佐の閥に属しライに
亡命した王湫が行く手を阻む。 収穫なく兵を引いた翌年、霊公は晏弱
を将軍に抜擢。 晏弱は蔡朝、南郭偃、そして霊公の娘婿、陳無宇を率
いて進発。 国境の東陽に城を築く。 わずか二年で五千の兵で首都を
陥落させ、ライを平定。 霊公は晏弱に夷維の地を与える。
晏嬰は父から夷維の地をまかされ、民を思いやる治世を行う。 二十歳
を迎えた晏嬰は霊公の側近として仕え始める。 晏嬰は霊公に諫言を
行う。 霊公は晏嬰の言を受け入れ、晏嬰の名声が高まる。
斉が魯に攻め込み、晋との関係が悪化する中、晏弱が急死する。
まっすぐに生きて生を全うした晏弱。 その才智を認めながらも、まだ
若年の晏嬰の今後が気になるところ。 オススメ度:8.1

コメント  晏子(三) (宮城谷 昌光著、新潮文庫)   作品の紹介 

晏嬰はひとり父の喪に服する。 その間、晋が連合軍を率い斉に向けて
軍を進める。 霊公は迎撃に向かうが、緒戦で苦戦を強いられるや、都
に逃げ帰る。 晋が都に攻め入り、霊公は落ちのびようとするが、太子光
が行く手を遮る。 霊公は都に留まるが、太子光の廃嫡を決める。
晋軍は都攻略は犠牲が多いと判断し、兵を退く。 晋軍は、その後、東と
南に向かう。 東に向かった晋の将は、晏嬰の服喪の姿勢に感じ入り、
夷維を攻めることなく、兵を戻す。
公子牙が太子となり、霊公が危篤に陥る。 崔杼は慶封とともに、太子光
を奉じて、牙を担ぐ勢力を一掃する。 霊公崩御の後、太子光が即位。
やがて、晏嬰も服喪の期間を終える。 晏嬰の服喪の姿勢は多くの民から
敬意を払われ、多くの士夫が仕官を望み駆けつける。
君主となった荘公は勇の者を近くに置き、晋の反主流派も積極的に受け
入れる。 晏嬰は諫言を繰り返すが、荘公は聞く耳を持たなかった。
荘公は斉で庇護していた晋の将を使って晋の内乱を企てるが失敗。
晋に進軍させていた兵を退く。 やがて晏嬰は荘公に最後の諫言を行い、
領地を返上のうえ、隠棲の身となる。 しかし、国民は晏嬰を支持。
宰相の崔杼も妻に執拗に迫る荘公に倦み始めていた、、、。
荘公の横暴と晏嬰の清廉さの対比の深まりが進行していくさまが静かに
描かれた巻。 崔杼のしたたかさも健在。 オススメ度:8.1

コメント  晏子(四) (宮城谷 昌光著、新潮文庫)   作品の紹介 

崔杼は荘公の暗殺を決行。 改めて慶封を味方に引き入れる。
晏嬰はただちに都に戻り、荘公の亡骸に別れを告げる。 崔杼は公子
杵臼を即位させ、専横政治を始める。 晏嬰は新君主となった景公
に従い、晋に赴き、景公の信を得る。
崔杼が後妻を溺愛し、その子を後継にすえることに危機感を感じた
先妻の息子二人が後妻の連れ子と弟を殺害。 崔杼は単身、慶封の
もとに逃げ込む。 慶封は崔杼邸に兵を差し向け、乱を鎮める。
最愛の妻を亡くした崔杼は自害する。 かくして権力を手中にした
慶封は息子の慶舎に政をまかせ、愛妾とともに酒食にふける。
公子二人が慶舎を暗殺。 慶封は呉に亡命し、景公の聴政が始まる。
晏嬰は景公の要請に応えて入閣するが、呉の公子、季札の忠告に
従い、まもなく閣外に去る。 その後、斉の閣内で権力闘争が起こる。
晋が斉の公女を平公の妃に迎えることになり、晏嬰は景公に請われ、
閣内に復帰。 晋への使者として外交をそつなくこなし、内政に関しても
景公に有効な助言を与える。 やがて、再び権力闘争が勃発。
争いが終息した後、晏嬰は宰相となり、景公を支え続ける。
一巻、二巻の晏弱に比べ、三巻、四巻の晏嬰は登場する場面が少ない
上に、禁欲的な言動が貫かれているせいか、人間味が伝わりにくかった
という印象。 一巻、二巻の方が物語としてはわかりやすく、感情移入
しやすかった。 オススメ度:8.1

コメント  天空の舟(上) (宮城谷 昌光著、文春文庫)   作品の紹介 

正式タイトルは「天空の舟 小説・伊尹(いいん)伝」。
春秋時代の前、殷周時代よりもさらに前の夏王朝の時代の物語。
伊水の神女の託宣により洪水の難を逃れた伊尹は有シン氏の料理人
の養父母に育てられる。 十三歳のとき、夏王発に取り立てられ、料理
だけではなく、故事、天象も学ぶ。
六年後、養父危篤の知らせを受け、伊尹は帰郷。 その間に夏王発が
崩御。 桀が夏王に即位する。 さらに、有シン氏の南方の小国、商が
兵を興し、隣国の葛を降す。 時を同じくしてシンの君主も死去する。
夏王桀はシン氏が商と呼応していたと断じ兵を向ける。 シンの嗣君は
小心でなす術がなく、妹の公女が伊尹にすがる。 伊尹は公女と財宝を
桀に差し出し、シン攻撃を間際でくい止める。 桀は商を討伐すべく東
に兵を進めるが、大きな成果なく帰還する。
継母も亡くした伊尹はシンの嗣君に職を辞し、葛邑の顎という男を配下
とし、シンの郊外で暮らし始める。 シンの公女は桀の正妃となる。
十年後、商は湯王のもと、東方で一大勢力として台頭する。 顎は葛邑
を攻めた商に復讐せんと夏王軍に加わり戦うが、商が夏を圧倒する。
商の湯王はシン君に夏王との仲介を依頼するとともに、シン君の娘を
妃に迎えたいと告げる。 伊尹に会いたいという湯王の要望に応える
べく、シン君は娘の輿入れの供に伊尹を加える。 伊尹は湯王に謁見
するが、湯王は伊尹に関心を示さなかった。 伊尹は商邑を脱走し、夏
の新都となった河南で夏に仕官した顎と再会。 再び夏の料理人として
仕え始める。 シン邑が商と姻戚関係になったことで、シン君の妹、妹嬉
は夏王から遠ざけられる。 伊尹と再会した妹嬉は湯王が伊尹を探して
いると告げる。
自らの運命を呪うことなく、私心を捨てて清廉に生き抜く伊尹の心根に
感心する一方、隠遁生活に入って以降の姿は、やや感情移入できず。
脇役の個性が豊かなのが、この作品の魅力のひとつか。
1991年「新田次郎文学賞」受賞。 オススメ度:8.1

コメント  天空の舟(下) (宮城谷 昌光著、文春文庫)   作品の紹介 

商の湯王はシンに戻った伊尹を訪ね、あるべき治世を学ぶ。 三度目の
訪問の際、湯王は伊尹を商に招き、臣とする。 伊尹はさっそく商の正使
として夏に向かい和睦を図る。 伊尹は夏に人質として三年拘束されるが
夏王朝の人材と如才なく交わり使命を果たす。 やがて有洛氏討伐を湯王
に命じる夏の使者とともに帰国する。 湯王は自ら兵を率いて、有洛氏、
続いて援軍をよこした荊氏を制圧する。 しかし、夏邑では謀臣たちが湯王
暗殺を企んでいた。 夏邑に凱旋した湯王は言いがかりとも言える罪状で
捕えられる。 桀は湯王を幽閉するが、一年後、解放する。 商への帰途、
湯王は夏の謀臣により命を狙われるが、伊尹や顎が攻撃を遮る。
太子を亡くし、湯王は悲嘆にくれるが、自らが幽閉された時、商軍を攻めた
有蘇氏に復讐せんと、三年後、これを攻め、邑を壊滅させる。
やがて、昆吾氏、顧氏、韋氏の連合軍が商邑を攻撃。 商軍は敗走するが、
費氏や荊氏、汝氏などが湯王のもとに駆けつけ、反攻を開始する。
やがて、伊尹の説得により、東方の大勢力、九夷も商に味方する。
湯王は、顧氏、昆吾氏を破り、夏邑も瞬時に陥す。 湯王は桀を流刑にし、
商王朝を開く。 湯王の死後、伊尹は宰相となり、その後、四代に渡って
王に仕える。
青年期とは違い、伊尹の行動が神がかった能吏のような印象が強かった。
脇役も上巻ほどの個性を感じられなかった。 見せ場は湯王が釈放された
後、暗殺を逃れて商に帰りつく道のりか。 オススメ度:8

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