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読書感想文2018 part 1

「読書感想文2018」 part1は、1月〜2月の読書録です。

 ↓ Click NOVEL mark !
コメント  武士道エイティーン (誉田 哲也著、文春文庫)   作品の紹介 

大人気シリーズの第三作にして完結編。
幼いころから剣道一筋の剣道エリート、香織。 一方、早苗は日本舞踊から転向して、
中学から剣道を始めた変わり種。 二人は剣道の名門、神奈川の東松学園高校剣道部で
友情を育むが、高二になる目前、早苗は福岡南高校に転校。 福岡南の勝利至上主義に
なじめずにいた早苗は、父に東京転勤の話が持ち上がり、東松学園復帰を考えるが、
福岡南に残ることを決意。 高三のインターハイを前に怪我をするが、香織と対戦させる
ために、顧問は早苗を団体戦の大将にあてる。 予選を勝ち抜いた両校は、決勝トーナ
メント一回戦で対戦。 香織と早苗の大将戦が実現する。 途中までは互角の戦いだったが、
怪我の痛みが出た早苗は香織に一本とられる。 団体戦は福岡南が優勝。 個人戦で
香織は、早苗のチームメイト、レナと激戦の上、勝利し、優勝を飾る。 試合後、早苗は
香織に剣道をやめることを告げる、、、。
進路を決める時期になり、香織は大学進学か、父と同じ警察官かで悩むが、名門大学から
スカウトされ、スポーツ推薦で入学が決まる。 一方、早苗は、「和」と「武士道」と「平和主義」
をキーワードに東京の大学入学をめざし、猛勉強を始めるが、あえなく撃沈。 浪人すること
が決まり、モデルの姉の部屋で同居することになる、、、。
メインストーリーの合間に挟まる早苗の姉、香織の通う道場の師範、福岡南剣道部顧問の
吉野先生、二人の後輩の美緒のお話。 香織と早苗を取り巻く人たちそれぞれの18歳の決断
の物語も、この巻の読みどころ。 とはいえ、その分、主人公二人の描写が前二作にくらべて
あっさりしちゃったのも事実。 香織と早苗の決戦で終わると思いきや、後日談まで描いては
いるものの、もっと二人の剣道にフォーカスしてほしいと思った読者も多いのでは。
シリーズは、この巻で完結するが、大学入学以降の二人を描いた「武士道ジェネレーション」が
刊行されている。
第一作「武士道シックスティーン」のブックレビューはこちら
第二作「武士道セブンティーン」のブックレビューはこちら。  オススメ度:8.2

コメント  植物図鑑 (有川 浩著、幻冬舎文庫)   作品の紹介 

河野さやか、25歳。 古い2DKでひとり暮らし。 ある日、さやかは、行き倒れ寸前の青年を
部屋に連れ帰る。 さやかが助けた青年はイツキ。 長身、イケメン、紳士で料理上手。
さやかとイツキのプラトニックな同棲生活がスタートし、殺伐としていたさやかの毎日に彩り
が添えられる。 イツキは、休日ごとにさやかを土手に誘い、数々の植物を説明してくれたり、
摘んだ植物をおいしく料理してくれる。 さやかは、イツキにほのかな恋心を抱く。
イツキは、さやかが草花を摘んでいる間、一眼レフで植物の写真を熱心に撮影するのが常
だった。 いつしか植物図鑑のようなイツキに感化されて、植物図鑑を買って草花の勉強を
始めるさやか。 やがて、二人は結ばれる。 しかし、短い置手紙を残して、イツキが突然
姿を消す、、、、、、。
植物採集と料理の描写がさらさらと続いていく作品。 植物×料理×恋愛小説の体裁。
作中に登場する植物が巻頭のカラーグラビアで紹介されていて。 まあ、普通に考えたら、
若い女性向けのお話なんだろうけど、さすがは有川さん。 私にもおもしろく読めました。
2016年映画化。 オススメ度:8.1

コメント  三匹のおっさん ふたたび (有川 浩著、新潮文庫)   作品の紹介 

大人気シリーズの第二作。 全六話+ボーナストラックを収録。
剣道の達人、キヨ。 柔道の名人、シゲ。 機械いじりの天才、ノリ。 定年退職した、かつての
悪ガキ三人組が結成した自警団の活躍を描いた物語。
第一作に続いてばつぐんのリーダビリティー。 どの登場人物もいきいきしている。
勧善懲悪ものとはいえ、悪のキャラが常識なさすぎるのが、ちょっと気になったけど。
第一作のブックレビューはこちら。  2014年ドラマ化。 オススメ度:8.2

コメント  七つの会議 (池井戸 潤著、集英社文庫)   作品の紹介 

東京建電の営業一課、課長、坂戸が万年係長の八角からセクハラで訴えられる。
周囲は軽い処分と予測していたが、坂戸は課長を外され、人事部預かりという厳しい
処分が下る。 しかし、坂戸の処分は、セクハラを隠れ蓑にした、部品の強度不足と
いう問題の隠蔽工作だった。 やがて、カスタマー室のレポートをきっかけに、部品
の強度不足が社長、営業部長、製造部長に報告される。 しかし、彼らは隠蔽を続ける
ことを選択。 幹部以外で唯一事実を知る八角が不正を正すために立ちあがる、、、。
リーダビリティーはかなり高い。 フィクションとしての質は高いと思う。
しかし、悪人が多すぎて、ちょっと疲れたかも。 あと、企業の描写のリアリティー
には疑問。 オススメ度:8.1

コメント  【映】アムリタ (野崎 まど著、メディアワークス文庫)   作品の紹介 

芸大の映画学科役者コース2年の二見は、自主制作の映画「月の海」に参加することになる。
監督は天才と噂される1年の最原最早。 撮影担当の2年、画素から渡された最早自身が
描いた絵コンテを、二見は取りつかれたように56時間も読み続ける、、、。
「月の海」は、もともと監督、シナリオ、主演を3年の定本が担当する予定だった。
しかし、定本は最早と付き合い始めたばかりの2週間前、原付の事故で帰らぬ人となっていた。
こうして、代役の二見が主演、相手役兼監督が最早で映画制作が再始動することになる。
メンバーは最早と二見、画素の他に音響担当の3年、兼森の4人。 撮影は順調に進むが、
最早が風邪をひいて一時中断。 画素とともに最早の見舞いに訪れた二見は、最早の部屋で
「アムリタ」というタイトルの映画の絵コンテを目にする。 「アムリタ」は、まるで「月の海」の
原作のような内容だった。 その後も問題なく撮影が進み、クランクアップを迎える。
最早は自らバイオリンを演奏し、映画のBGMまで完成させる。
撮影後、二見は兼森から、定本のように、二見も死んでしまうのではないか心配だと告げられる。
定本の死に不審な点は見当たらないものの、二見は急に不安になる。
映画の試写で、二見も画素も兼森も涙を流す。 試写の翌日、最早は失踪する、、、。
まもなく医大の院生、篠目が訪れ、「月の海」を観たいと申し出る。 神経生理学を専攻する
篠目は、最早が入試の時に制作した映画を「神のつくった映画」と評する。 二見は「月の海」を
貸し出す代わりに、最早の過去の作品を観せてもらう。 その映画は、意味不明で凡庸な作品に
思えたが、二見は、上映後、泣き叫ぶ。 そして、篠目から、この映画の恐るべき仕掛けを聞か
され、愕然とする。
最早の狙いに気づいた二見は「アムリタ」を完成させ、最早を呼び出す。 最早の考えは二見の
推理通りだった。 そして、「アムリタ」の試写がスタートする、、、。
そして、ラストに訪れるさらなる展開、、、。 青春群像小説とか恋愛小説と思って読み始めたら、
いい意味で裏切られてしまう作品。 かと言って「ミステリー小説」というジャンルに分類する意味
も必要もないのだろう。 著者の「know」を読んだときと同じく、「今まで読んだことのないような
タイプの小説を読んだ感覚」が訪れた。 若い人を本好きにできるチカラを持った一作かも。
2009年度「メディアワークス文庫賞」受賞作。 オススメ度:8.4

コメント  プラチナデータ (東野 圭吾著、幻冬舎文庫)   作品の紹介 

少し近未来のお話。 政府は国民のDNA情報を収集し、犯罪捜査に活用する法案を成立
させ、検挙率が大幅に向上する。 このDNA捜査の根幹を成すシステムの開発者である
23歳の天才数学者、蓼科早樹と兄の耕作が病院のVIPルームで射殺される。
一方、DNA捜査システムのもう一人の中心人物である警視庁特殊解析研究所の主任解析
員、神楽龍平は、二重人格の治療で病院を訪れていた。 折しも、神楽のもう一人の人格
であるリュウが覚醒し、恋人のスズランの絵を描き始める。 神楽の人格が目覚めた時、
研究所の所長、志賀がたった今、蓼科兄妹が殺害されたことを告げる。
凶器の拳銃は、DNAデータベースから犯人を割り出せない連続婦女暴行事件、通称NF13
で使用されたものと同じだった。 NF13を捜査中の警視庁捜査一課の警部補、浅間玲司は、
病院での蓼科兄妹殺人事件の捜査を開始するが、なかなか糸口を見つけられずにいた。
神楽は現場に残された毛髪の解析を依頼される。 DNA捜査システムが特定した犯人は、
神楽自身だった、、、。
神楽は、アメリカからDNA捜査システムの研究に派遣された白鳥里沙に隠れ家と逃走資金を
提供され、身を隠す。 白鳥の条件は、システムの不完全さを補完するのではないかと推測
されるプログラム「モーグル」を手に入れることだった。 神楽は、スズランとともに蓼科兄妹
が使っていた別荘を訪れ、モーグルを探す。 モーグルは見つからなかったが、開発目的
が「プラチナデータ」を取り出すことであると知る。
やがて、警察が神楽の逃走先を突き止め、浅間も現地に向かう。 神楽はスズランとともに
間一髪で警察を振り切るが、逃走に使ったバイクで事故を起こし、川に投げ出される。
スズランとはぐれた神楽は、隠れ里で暮らす人たちに助けられ、捜査の網から抜け出す。
浅間は、スズランが神楽の幻想であることを割り出す。 その直後、白鳥が銃で撃たれて
殺害された姿で発見される。 浅間は白鳥の殺害現場から彼女の携帯電話を持ち去る。
やがて、神楽から着信があり、浅間は、神楽と協力して、病院でモーグルのプログラムの
入ったカードを発見する。 神楽は浅間にPCを捜査させて、モーグルを起動し、プラチナ
データの正体を知る。 やがて、二人が落ち合う現場で、意外な真犯人が二人の命を狙う。
著者の作品は、人間の情が描かれていることが多いという印象なんだけど、この作品は
全体的にクールな世界観で覆われていた。 舞台設定や犯行の動機も秀逸。
2013年映画化。 オススメ度:8.2

コメント  禁断の魔術 (東野 圭吾著、文春文庫)   作品の紹介 

大人気「ガリレオ」シリーズ第8作。
帝都大学の物理学の准教授、湯川の高校の後輩、古芝伸吾。 湯川に憧れて帝都大学に
入学したのも束の間、育ての親である9歳上の姉、ホテルで急死する。 死因は子宮外妊娠
の大量出血によるショック死だった。 伸吾は大学を中退し、町工場で働き始める。
そんな中、北関東のST(スーパーテクノポリス)計画がらみで、代議士の大賀を追っていた
フリーライターの長岡が殺害される。 そして、事件直後、古芝伸吾が姿を消す。
警察が調べたところ、伸吾の姉は、大賀担当の新聞記者だった。
伸吾は、姉を妊娠させた相手が大賀であることを突き止め、復讐のためにレールガンという
かつて高校の物理研究会でつくった装置の改良を進める。 伸吾にレールガンの作り方を
教えたのは湯川だった。 伸吾に好意を持つ、勤め先の社長の娘、由里奈は、伸吾の復讐
計画を知る。 由里奈は、大賀の不倫相手の弟として伸吾に接触しようとしていた長岡に
伸吾を止めてもらおうとして、伸吾の計画を明かす。 長岡は、大賀の不倫の証拠をつかむが、
それを明かした相手に殺害されたのだった、、、。
湯川と刑事の内海は、由里奈から伸吾の計画を聞き、伸吾の復讐を阻止すべく、ST計画の
地鎮祭の会場に向かう。 会場近くでレールガンを積んだ伸吾の車が発見されるが、それは
警察の目をくらますためのダミーだった。 湯川と内海は、伸吾の居場所を突き止め、本物の
レールガンのプログラムを書き換える。 湯川はレールガンの制御スイッチを手にし、伸吾が
望めばスイッチを押すと告げる、、、、、、。
いつもながらの安定したクオリティー。 一気読みのリーダビリティー。 オススメ度:8

コメント  線の波紋 (長岡 弘樹著、小学館文庫)   作品の紹介 

第一章「談合」:二歳前の一人娘の真由を連れて、半年前に再婚した白石千賀。 しかし、
真由は誘拐されて安否がわからない。 さらに夫が脳出血で倒れる。 役場の仕事でも
悩みをかかえ、自殺を図るが、見知らぬ男に助けられる。 やがて、夫が退院し、仕事
に復帰。そんな矢先、事件発生から三か月以上が立ち、真由が保護される。
第二章「追悼」:真由の誘拐事件から二か月後、同じ町内に住む24歳の会社員、鈴木航介
が刺殺される。 鈴木が殺害される直前、親友で同僚でもある久保和弘は、鈴木から会社
の金を横領していることを指摘される。
第三章「波紋」:地元警察の渡亜矢子と富永雄之助は、鈴木航介殺人事件から真由の誘拐
事件の担当になる。 事件のことに口を閉ざしていた真由がようやく口にしたことが決め手
となり、誘拐犯が逮捕される。 やがて、鈴木航介の殺害も同一犯であることがわかるが、
亜矢子は、自分だけでなく、警察全体が大きな誤りを犯していたことに気づく、、、。
第四章「再現」:事件の真相がすべて明らかになる。 警察がふたつの事件を見誤りかけた
原因は、真犯人を守ろうとしたある人物の想いだった、、、。
緻密に構成されたミステリーだと思うけど、犯行の動機とか、真犯人を庇う行動とか、いま
いち感情移入できず。 オススメ度:8

コメント  ガソリン生活 (伊坂 幸太郎著、朝日文庫)   作品の紹介 

のんきだけど気のいい兄、良男、大学生、20歳。 聡明で大人びた弟、亨、5年生、10歳。
一家の愛車、緑のデミオに、偶然、大女優、荒木翠を乗せ、不倫相手との待ち合わせ場所
で降ろす。 しかし、数時間後、芸能記者に追われ、不倫相手の丹羽が運転する車がトン
ネル内で事故を起こし、翠は焼死する。
「緑(みど)デミ」こと緑のデミオが見守る中、良男と亨は翠を追いかけていた芸能記者、
玉田と知り合う。 やがて、良男の妹で高校生のまどかの彼氏、江口が地元の不良、トガシ
の子分たちに危ない仕事を押し付けられる。 まどかを人質にとられ、良男、亨と母の郁子
が救出に向かう。 望月一家の危機を救ったのは、隣人の細見氏と玉田だった。
やがて、亨と緑デミは、翠の事故に関する重大な秘密を知る、、、、、、。
車同士が会話をするというふしぎな設定を持ちこみつつ、著者お得意のしゃれたミステリー
が展開されていく。 だけど、初期の作品のような高揚感は感じられない。 500ページを
超える大作だけど、やや冗長な印象。 オススメ度:7

コメント  光待つ場所へ (辻村 深月著、講談社文庫)   作品の紹介 

計5編を収録した短編小説集。
最初の作品は「しあわせのこみち」。 孤独を苦にせず、絵を描き続ける大学2年の
清水あやめは、大学で田辺と知り合う。 田辺は如才なく生きているように見えて
いたが、絵の天才で、自分の才能を知りつくしていた。 しかし、自信家ではなく、
自分が絵で他人に負けることを、ある意味、待ち望んでいた。 あやめが落選した
コンクールで田辺は入選するが、最優秀でないことで、彼は絵のことで初めて涙を
流した過去をあやめに明かす。 やがて、あやめは、絵に対する考えを完全に改め、
新たな気持ちで作品に取り組む。 そして、田辺に惹かれる自分に気づく、、、。
ある意味、傲慢ともとれる絵の天才、二人の会話が心地よかった。
凡人が苦難を乗り越える話とは対極に位置し、きれいごとを排除した世界観は意外
に新鮮な印象を受けた。 天才には天才の考えと悩みと生き方があることを思い
切って書いた著者の潔さに拍手。
他の4編も、十代、二十代の男女のもがき、葛藤、距離感、再生などを描いた佳作
ぞろい。 知性あふれる短編集。 オススメ度:8.2

コメント  偉大なる、しゅららぼん (万城目 学著、集英社文庫)   作品の紹介 

日出涼介は、高校入学を機に琵琶湖畔の街、石走の日出本家にやってくる。 日出家は
琵琶湖から特殊な能力を授かった一族であり、石走城で暮らしている。
涼介は、本家の跡取り、淡十郎とともに石走高校に入学。 殿様然とした淡十郎から
「供の者にしてやる」と時代錯誤な言葉をかけられる。 学校に慣れたころ、涼介は
城の中にある不念堂での修業を始める。 師匠は一族のパタ子こと藤宮濤子。
とはいえ、人の心を操るという一族の力を嫌っている涼介は修業に身が入らない。
高校にも慣れたころ、淡十郎は、校長の娘で、クラスメイトの速瀬に恋をする。
彼女の所属する美術部にも入部する。 しかし、速瀬が好きなのは、同じクラスの棗広海。
棗家は、代々、日出家とは敵対関係にある。 棗の一族も、人の身体を操るという特殊な
能力の使い手だった。 淡十郎は、涼介と共に棗家を訪れ、広海にイギリスへの留学を
勧める。 その後、速瀬校長が日出家を訪れ、淡十郎の父、淡九郎に、三日以内に一族
が琵琶湖周辺から立ち去るように要求する。 校長はかなり強い特殊能力を持ち、淡九郎
を動けなくして日出家を後にする。 校長は棗家でも同様の要求をし、広海の父と妹を
動けなくしていた。 日出家、棗家の危機に、淡十郎の姉で強力な能力の持ち主、清子が
力を発揮、涼介の能力も覚醒する。 しかも、涼介の力は、棗の力と同時に使うと、パワーが
強大になり「しゅららぼん」と音を発するのだった。 それに反して、淡十郎は、自らの意志で
力を持つことを拒否し続け、未だに力を手にしていないことがわかる、、、。
パタ子は日出一族と話し、速瀬校長の要求に従うよう清子に伝えるが、清子は琵琶湖の神
に助けを求め、徹底抗戦を宣言する。 涼介と棗は、清子のご託宣に従い、竹生島にご神水
を取りに行く。 いよいよ校長が娘と共に日出家に現れ、城の明け渡しを求める。
清子は校長を仕留めるが、校長は能力を持っていないことがわかる。 そして、校長を操って
きた人物が姿を現す、、、、、、。
著者お得意のファンタジー全開、500ページを超える大作。 事件を操る人物の設定、救いの
あるラストなど構成が巧み。 そして、登場人物の人物造形がどれもユニークで印象的。
2014年映画化。 オススメ度:8.1

コメント  円卓 (西 加奈子著、文春文庫)   作品の紹介 

「こっこ」こと、渦原琴子は小学三年生。 祖父母、両親、14歳の三つ子の姉と公団住宅
で暮らしている。 家族からは愛されているが、こっこは、口が悪く、偏屈で、世の中を
憂い、孤独を好んでいる。 とは言え、家族との関係は悪くない。 同じ団地の幼なじみ
である吃音で話す少年、ぽっさんとは親友である。 韓国人の委員長、ベトナム人、ロシア
とのハーフの男の子たち、大人っぽい話し方をする美女、クラスメイトとの関係も悪くない。
気になること、新しく覚えたことは、ジャポニカの自由帳に書きこんでいく。
そんなこっこと家族とクラスメイトたちの数ヶ月間の様子を切り取った佳作。
何か大きな事件が起こるわけでもないし、大きな感動に包まれるできごともない。
けれど、この小学三年生の女の子の目を通して見える世界のおもしろさにいつの間にか
引きまれるはず。 2014年映画化。 オススメ度:8

コメント  配達あかずきん (大崎 梢著、創元推理文庫)   作品の紹介 

正式タイトルは「配達あかずきん 成風堂書店事件メモ」。
表題作を含む計5編を収録した連作短編集。
駅ビルの六階にある中堅書店「成風堂」を舞台に、24歳の書店員、杏子と21歳の推理力
ばつぐんのアルバイト、多絵が、さまざまな謎に取り組む本格書店ミステリー。
書店という狭いフィールドだけを使って書かれた本格ミステリーという著者の挑戦に敬意を
表する。 表題作は出色のデキ。 著者は13年間の書店員経験あり。 オススメ度:8.1

コメント  ヒーローインタビュー (坂井 希久子著、ハルキ文庫)   作品の紹介 

仁藤全。 高校で42本塁打を放ち、阪神タイガースにドラフト8位で入団。
強打者として期待されたものの伸び悩み、10年間で171試合に出場、通算打率2割6分7厘、
8本塁打の成績で、一度もヒーローインタビューを受けることなく引退。
物語は、仁藤と親しい5人がインタビューで仁藤を語るというかたちで進んでいく。
その5人とは、仁藤が好意を寄せる理髪店店主の訳アリの女性、仁藤にいち早く注目し
指名を勧めた阪神のスカウト、阪神にドラフト1位で入団した将来有望な後輩エース、仁藤
が気になる中日のベテランピッチャー、中学・高校で共に野球で汗を流した同級生。
5人の話を通して、仁藤が過ごしてきた過去が鮮やかによみがえる。
特に仁藤の野球人生終盤の光に思わず涙。 タイトルは、ヒーローとして仁藤が受けたイン
タビューではなく、仁藤をヒーローと思う人たちのインタビュー、という意味。
野球一筋の人生、愚直で不器用で、でもどこまでもまっすぐな仁藤の心根がじわ〜っと沁みる
一作。 野球に詳しくない人がよんでもおもしろいつくり。 同級生の話が超秀逸。
「本の雑誌」2016年度 文庫「エンターテインメント部門」:第1位。 「さわや書店年間おすすめ
ランキング2013」文藝部門:第一位。 オススメ度:8.4

コメント  ウィメンズマラソン (坂井 希久子著、ハルキ文庫)   作品の紹介 

岸峰子、30歳。 2歳の女の子を持つシングルマザー。 大学卒業時に、オリンピックの
メダリストを二人育てた名伯楽、小南監督に誘われ、2008年、幸田生命に入社する。
大学時代は目立った成績を残せなかったが、2012年の名古屋で2時間24分12秒の記録
を出す。 その結果、ロンドン五輪女子マラソン代表に選ばれるものの、妊娠が発覚。
やむなく、代表を辞退し、世間から厳しい批判を受ける。 岸に代わって出場した1年
後輩の辻本が銅メダルを獲得、岸の傷心に拍車をかける。 結婚はしたものの、子育て
に疲れ、現役復帰をめざす中、夫と口論が絶えず、離婚。 3年のブランクを経て、現役
に復帰する。 2015年の東京マラソンでなんとか2時間を40分を切り、小南監督の下に
いる笹塚コーチのもと、2016年のリオオリンピックに向けての再挑戦が始まる。
北海道マラソン、ハーフマラソンで優勝し、岸は、オリオンピック代表選考レースである
名古屋で、故障明けの辻本と対決する、、、、、、。
前半は主人公に寄せられるバッシングなどで、ややストレスのたまる展開。 でも後半は
笹塚コーチとの二人三脚による復活、そして、母親との和解、娘への愛情など、岸の心と
身体が再生していく過程が巧みに描かれていた。 オススメ度:8

コメント  切れない糸 (坂木 司著、創元推理文庫)   作品の紹介 

卒業をひかえた大学4年生の新井和也は、就職がなかなか決まらない。 そんな中、
クリーニング店を営む父親が急死し、急遽、家業を手伝うことに。
最初はもやもやした気持もあり、失敗を重ねるが、店員でアイロン職人のシゲさん、
和也同様、就職せずに近所の喫茶店で働く大学の友だち、沢田をはじめ周囲の人
たちに助けられ、成長していく、、、。
青春小説、お仕事小説でもあるけど、顧客や友人の謎や問題を解決していくという
ミステリーの要素も強いお話。
事件現場を見ずに情報だけで謎を解決する沢田。 すごいなと思う反面、ややリアリ
ティーが足りないという印象。
余談ながら、著者の代表作「和菓子のアン」の主人公、梅本杏子の母が和也の店で
パートで働いているという設定。 オススメ度:8.1

コメント  用もないのに (奥田 英郎著、文春文庫)   作品の紹介 

著者お得意の紀行エッセイ集。 前半は野球編。 2008年の北京オリンピック、松井
在籍時のニューヨークヤンキース観戦、そして、楽天創設時の仙台での観戦記。
後半は、フジロックフェスティバル、愛知万博、富士急ハイランドでの世界一のジェット
コースター体験、四国のお遍路旅とバラエティー豊かな構成。
本書に収録されたエッセイを書いたころ、著者は40代後半なのだけれど、男として
かわいいのである。 やっとの思いでニューヨークやフジロックに出かけることになる
くだりや、外国でも国内でも訪れた土地をすなおに称える心根、意外と人に気を遣う性格。
小説家としての著者は日本で最もリスペクトする小説家のひとりだけれど、エッセイも、
また別の魅力にあふれ、見かけるたびについつい手に取ってしまう。 オススメ度:8.1

コメント  誰そ彼れ心中 (諸田 玲子著、新潮文庫)   作品の紹介 

禄高四百俵の旗本で書院番の向坂家当主、宗太郎の妻、瑞枝、二十一歳。
ある日、夫の従者である十八歳の小十郎から宗太郎の様子がおかしいと告げられる。
後日、瑞枝は小十郎から、宗太郎が小栗右近という侍と間違えられた一件を話す。
自らも夫の変化に気を病んでいた瑞枝は小十郎に小栗右近のことを調べてほしいと
依頼する。 小十郎の調べによると、小栗は浪人で、最近、羽振りがよくなり、行方
知れずということだった。 その後も、家の庭で斬殺された犬の死骸が見つかったり、
女中から宗太郎に乱暴されたと告白されたり、宗太郎の書く字が違うことに気づいたり、
瑞枝の心は大きく乱れる。 もはや、夫が別人であると疑い始めた瑞枝は、兄の友人で
北町奉行所 同心の大島に調べを託す。
ほどなく、瑞枝に大事な話があると告げた直後、舅が急死する。 舅の葬儀の席で、
瑞枝は、姑の友人から小栗右近が宗太郎と双子であることを告げられる。
さらに、大島と小十郎の調べで、小栗右近が姿を消した時期に、顔を潰されたて殺害
された武士がいたこと、小栗の秘密を知るかつての向坂家の菩提寺の住職が急死して
ことがわかる。 瑞枝と小十郎はお互いに惹かれあう気持ちに気づくが、瑞枝に懐妊の
兆候があらわれる。 瑞枝は堕胎しようとするが、失敗。 大島は、目付から向坂家の
探索から手を引くよう厳命される。 やがて、瑞枝を支えてきた女中が自殺。 瑞枝は
流産し、宗太郎は側室を迎える。 瑞枝は姑に離縁を申し出るが、許されず、小十郎と
二人、家を出る決意をする、、、、、、。
ミステリーの要素が強いけど、家名を守るために犠牲になる人たちのせつなさを描いた
物語でもあると思った。 オススメ度:8

コメント  魔将軍 (岡田 秀文著、双葉文庫)   作品の紹介 

サブタイトルは「くじびき将軍・足利義教の生涯」。
室町幕府三代将軍、足利義満は、長男の義持に将軍職を譲り、次男の義嗣を天皇に
すべく画策するが、志半ばで関白、一条経嗣に毒殺される。 将軍職を継いだ義持の
子、五代将軍、義量は夭折し、義嗣も謀反の罪で処刑される。
義持の死後、将軍をくじびきで決めることになる。 義満の時代から将軍の側近として
仕えてきた醍醐寺の座主、三宝院満済は、幼いころから馴染みのある、義満の三男、
青蓮院座主の義円を将軍にすべく、くじに細工をする。
かくして、六代将軍となった義円は義教と名を改め、次々と改革を進める。
しかし、義教の政は、時に性急で苛烈を極める。 宿老たちの意見はおろか、義教の
最大の理解者である満済の意見にも耳を貸さない始末。 しかし、密偵の市三郎や勝を
重用し、九州平定に続き、比叡山延暦寺をも屈服させる。 やがて、義教に待望の男児
が生まれるが、長年、義教につき従った満済がこの世を去る、、、。
義教は続いて、関東公方、足利持氏を討ち、室町幕府最大の版図を治めることとなる。
さらに守護大名たちの粛清を続ける義教に決死の謀反を企てる男が立ち上がる、、、。
小説のネタになりにくい室町時代、その中でも、取り上げられることの少ない義教を
主人公にした意欲作。 結果的には、義教亡き後の混乱が応仁の乱につながっていく
という流れが知れた。 義教は、百年後に世に出た信長の姿と重なる部分が多いという
印象を持った。 オススメ度:8

コメント  彼岸花 (宇江佐 真理著、光文社文庫)   作品の紹介 

表題作を含む計六編を収録した時代小説短編集。
著者のホームグラウンドである江戸時代の人情話がメイン。
今回も安定、安心の一作。 この人の短編集は外れなし。
オススメ度:8.1

コメント  重耳(上) (宮城谷 昌光著、講談社文庫)   作品の紹介 

晋の分家国家、曲沃の君主、称は、本家である翼にとって代わり、晋統一をめざす。
太子、詭諸(きしょ)のために賈(か)から賈姫を妻に迎え、白狄の狐氏からも狐姫、小戎子、
二人の妾を迎える。 さらに、自らの妾、斉羌も詭諸に与える。
やがて、斉羌は申生、狐姫が重耳、小戎子が夷吾という男子を産む。
この間、称のもとに孤突、詭諸のもとに畢万、趙公明、趙夙という有能な士が加わる。
詭諸は、周王室と交誼を結び、翼を攻めようとするが、うまくいかず、時は流れた。
しかし、周の壮王の死をきっかけに、曲沃が翼を攻めても、周も有力諸侯のかく公も手出しを
しないとの言質を得る。
詭諸の長男、申生は、賈から賈君を妻に迎え、十七歳になった重耳にも師の郭偃(かくえん)、
孤突の息子の狐毛、狐偃、そして趙公明の息子、趙衰などの家臣団ができる。 
称は、悲願の翼攻めを敢行するが、雪に阻まれ、攻めあぐむ。 曲沃の守兵が少ないことを
知ったかく公は、周王室の命を破り、曲沃に向けて四万の軍を進める。
重耳軍は翼の城への抜け道を発見し、称は弟の富子を先鋒とし、総攻撃を命じる。 重耳は、
曲沃に通じている欒氏の家臣の導きで城に入り、欒氏の重臣救出をはじめ武勲を立てる。
同じころ、孤突は、白狄の軍二千にかく公軍の兵糧を運ぶ輜重隊攻撃を依頼する。 さらに
かく公軍に従う梁の君主を説得し、五千の兵を帰国させる。 孤突はかく公軍を隘路に誘い
こみ、打撃を与える。 一方、白狄軍も騎馬での奇襲に成功する。
上巻は、重耳ではなく、祖父の称を中心に話が進む展開。 重耳の後半生は有名だけど、
前半生と祖父の称、父の詭諸がていねいに描かれていて、興味深く読み進めることができた。
1993年度「芸術選奨文部大臣賞」受賞作。 オススメ度:8.2

コメント  重耳(中) (宮城谷 昌光著、講談社文庫)   作品の紹介 

周都に滞在していた士為が周の大夫、為国から千の兵を借り受け、曲沃に戻る。 時を同じく
して、荀息は、かく公に従う耿の城を攻め、耿軍を帰国させる。 孤突も曲沃に帰陣するが、
二万に半減したかく公軍は、翼が陥ちたのを知ると、兵を引く。
晋の君主となった称は、翼に遷都し、名を絳と改める。 為国は、晋の軍と共に政敵を倒し、
王室の実権を握る。 そして、周王、僖王は称を晋の正式な後継者として承認する。
やがて称が息を引き取る。 称は、死後、武公と称された。
ほどなく、僖王が崩御し、周は恵王が即位する。 詭諸はかく公に誘われ、恵王に謁見する。
一方、為国は恵王の叔父、子頽を王位に就けようと戦うが、敗れ、子頽とともに戦死する。
国境を侵した驪戎に対して、詭諸は兵を挙げる。 戦前の占いでは「勝利するが不吉である」
との卦が出る。 戦には重耳も参戦、孤突の献策により勝利するが、詭諸は捕虜の驪姫に
今は亡き斉羌の面影を見る、、、。 二十七歳となった重耳は、十三歳の狐偃の娘、長狐を
正室として迎える。
詭諸は士為に命じて、曾祖父、祖父の兄弟や子の一族を一掃する。 士為は大司空に昇格し、
晋の宰相として絶大な権力を手にする。 驪姫は詭諸の正室となる。 驪姫は奚斉という男子
を出産する。 翼の公子、優施は、身分を隠して詭諸に召抱えられ、驪姫に近づく。
奚斉を太子にしたい驪姫、まずは奚斉を擁立し、その後、自らが晋の君主にならんとする優施
は、策謀を巡らす。 かく公侵攻に対する国境の備えとして、申生を曲沃、重耳を蒲、夷吾を屈
に追いやることに成功する。
老齢にさしかかった詭諸は、新たに下軍をつくり、本来、臣下に命じる将に申生をあてる。
申生廃嫡の噂が流れる中、詭諸は、霍、耿、魏を攻め滅ぼす。 士為は諦念の中、致仕する。
詭諸は、驪姫の勧めに従い、申生に難敵である皐落の狄攻めを命じる。 申生はみごとに命を
果たすが、詭諸の考えは変わらず、驪姫の息子、奚斉を太子にする腹をかためる。
驪姫は、申生に、曲沃で斉羌を祀り、お供えの肉を絳に届けるように依頼する。 あわせて、
重耳と夷吾にも絳に来るよう、使者を立てる。 驪姫はお供えの肉に毒を盛り、公子の陰謀で
あると詭諸に告げる。 申生、重耳、夷吾は、絳から逃亡する。 申生は、もはやこれまでと
自らの命運を悟り、自害する。 享年、四十三歳であった。 これにより、ついに奚斉が晋の
太子となる。
詭諸は重耳のもとに暗殺者、閹楚を送るが、狐偃が刃を防ぎ、そのまま蒲を脱出する。 この
とき、重耳は四十一歳。 愛妻の長狐をすでに喪っており、伴まわりは、狐毛、狐偃、胥臣、
先軫、魏しゅう、顛頡などわずか八十人であった。
重耳は、母、狐姫、孤突の出身地である白狄の地に亡命する。 族長である重耳の叔父は
一行を歓迎する。 狐偃は族長に加勢し、赤狄を攻め、赤狄の族長の娘、叔隗と季隗を連れ
帰る。 重耳は季隗を妻とし、二人の子をもうける。 叔隗は趙衰の妻となる。
詭諸は、かく公、虞、屈を攻め、かく公は周に逃れる。 夷吾は、梁に亡命する。
重耳の父、詭諸の光と影、そして、重耳の流浪の始まりを描いた巻。 称以降の晋の歴史が
ていねいに語られており、脇役である臣に関する知識が増えた。 オススメ度:8.3

コメント  重耳(下) (宮城谷 昌光著、講談社文庫)   作品の紹介 

詭諸が息を引き取り、奚斉が君主となる。 里克は、優施の手引きで、奚斉と驪姫を暗殺する。
しかし、荀息は直ちに奚斉の弟、卓子を即位させる。 里克、丕鄭、賈華は斎宮を攻撃、荀息
は自刃、里克は卓子の首を落とす。 里克は使者を立て、重耳に帰国し即位するよう請うが、
狐偃は晋の現状が不安定であるとの見解を述べ、帰国を諌める。 一方、夷吾は、二つ返事で
帰国を決定、里克、丕鄭には土地を、秦王任好には城を献上することを誓う。 夷吾の人格に
信を置けない任好もしぶしぶ夷吾の即位を認める。 任好の誘いで斉の桓公まで夷吾の即位に
駆けつけ、覇権を誇示することになった。
即位した夷吾は、申生の妻、賈君を妾とし、任好への城の献上も履行せず、里克、丕鄭はじめ
反勢力を一掃、孤突は引退する。
やがて、晋が二年続きの不作に見舞われ、秦に援助を依頼する。 任好は、百里奚、公孫枝の
言を容れ、晋に食糧を送る。 翌年、今度は秦が不作に見舞われるが、夷吾は援助を拒否する。
怒った任好は晋を攻め、勝利、夷吾を捕虜にする。 しかし、夷吾の異母姉で、任好の妃の穆姫
の助命嘆願により、夷吾は、太子の圉を秦の人質とすることで、晋に帰される。
帰国後、夷吾は、閹楚に重耳の暗殺を命じる。 介子推により、閹楚のことを知った重耳は妻子
を残し、十二年暮らした狐氏の地を後にする。 重耳が最初に衛を訪れるが、重耳に偏見を持つ
君主に冷たくあしらわれ、斉をめざす。 斉の桓公は重耳の人となりを正確に把握しており、娘の
桓羌を重耳の妻とし、厚遇する。 子を設け、重耳は斉に骨を埋めようと思い始めていた。
まもなく、桓公は崩御するが、宋の襄公、桓公の跡を継いだ孝公から斉で重臣として仕えることを
望まれる。 晋に帰国し、重耳を君主にすることを悲願とする狐偃たち臣は、桓羌と謀り、酔い
つぶれている重耳を斉から連れ去る。 一行は曹に向かうが、君主は重耳に関心を示さず、宋に
向かう。 宋の襄公は、重耳に夷吾が病であることを告げる。 襄公は、重耳を厚くもてなし、宋の
行く末を託す。 重耳は、続いて鄭に向かうが、君主は面会を拒む。 そればかりか、宰相が兵を
向けて、重耳の暗殺を企てる。 重耳は、公子の蘭の臣下から危機を知らされ、蘭を預かり、楚に
向かう。 楚の成王は、重耳を将来の敵とみなすも、最大限のもてなしで重耳を迎える。
同じころ、秦の人質である圉が無断で晋に帰国する。 秦の任好は楚に使者を立て、重耳を秦に
迎える。 そのころ、晋では夷吾が没し、圉が即位していた。 重耳は任好の厚遇に感謝し、任好
の娘を娶る。 そして、秦軍に守られ、十九年ぶりについに晋の地を踏む。 重耳は、一度も戦う
ことなく、晋軍を掌握。 逃亡した圉も葬り、ついに晋の君主となる。
夷吾の臣であった郤ぜい、呂甥は、閹楚を巻き込み、重耳の暗殺を目論むが、閹楚が重耳に計画
を明かし、事なきを得る。 重耳は秦と白狄から妻たちを呼び寄せる。
この後、重耳は周王室を助け、斉の桓公に続き、中華の覇者となる。
中巻の後半と下巻が世の中で知られている重耳の半生。 三巻通して思うことは、重耳の臣下を
恃む心根のまっすぐさと、重耳のために身を捨てても尽くそうとする臣下の力の相乗効果が重耳の
覇権を実現したのだということ。 オススメ度:8.2

コメント  孟嘗君 1 (宮城谷 昌光著、講談社文庫)   作品の紹介 

斉は、太公望の子孫が国を治めてきたが、陳の公子の子孫、田氏が宰相となり独裁政治を行う。
そして、ついに、田氏の太公和が貸から君主の座を簒奪する。 太公和の子で、現在の君主、
田午の子、田嬰の美妾、青欄は、男児、田文を出産する。 しかし、田嬰は、五月五日生まれは
不吉であるとし、青欄に殺すように命じる。 青欄は、下僕の僕延に赤子を託す。 僕延は、真の
主である司寇として警察の仕事を司る射弥の元に駆けこむ。 射弥は、貸の臣であり、貸暗殺を
企む田嬰を監視していた。 射弥の元には、貸の赤子の女児もいた。 翌日、田文の偽の葬儀を
すませ、青欄とともに射弥の家を訪れた僕延は、射弥と妻の斬殺された姿を発見する、、、。
太子の因の妾、風麗の異母兄、風洪は、風麗から妊娠を装ったので、赤子を連れてきてほしいと
依頼される。 風洪は、偶然、射弥を襲撃し、赤子を殺すという話を耳にする。 そして、暗殺者たち
の後をつけ、射弥の家で倒し、田文を連れ去る。 射弥の妻の弟、隻真も事件後、偶然、射弥の家
を訪れ、女児を連れ去り、知人の家に預ける。 再度、射弥の家に戻った隻真は、現場を訪れた
青欄の後をつけ、射弥夫妻を殺害したのは田嬰の命であると確信する、、、。
東宮では、風麗の策が見破られ、侍女の翡媛とともに国外追放の刑を受ける。 風洪は、商用で
魏に行くことになっていたので、風麗、田文、翡媛を伴う。 風洪は、魏の豪商、鄭両のもとに逗留
することになる。 風麗の想い人、公孫鞅は、魏の宰相から次の宰相にと推挙されるが、恵王は
取り合わなかった。 やがて、秦の孝公が国外からも広く人材を求めていることを聞いた公孫鞅は
秦に向かう。 風洪も、風麗、翡媛、田文とともに秦に入る。 風麗は公孫鞅の妻となった。
風洪と公孫鞅は、鄭両の配下の手配で、孝公の側近である景監に会い、公孫鞅が孝公と会見する。
孝公は、公孫鞅の才を認め、召し抱える。 風洪は翡媛に田文を預け、公孫鞅の師、尸子を秦に
招くために衛に向かう。 旅の途中、魏で、魯の学者、貌弁を斉に送り届ける田嬰の臣下一行と
出会い、ともに斉に向かう。 一年ぶりに自宅に帰りついた風洪は隻真に声をかけられる、、、。
第一巻は、田文の命を救った風洪の数奇な運命と才覚を描いた巻。 風洪の義弟となった公孫鞅が
今後、秦でどういう栄達を果たすのかという伏線もあり。 オススメ度:8.2

コメント  孟嘗君 2 (宮城谷 昌光著、講談社文庫)   作品の紹介 

風洪は隻真を気に入り、自宅に住むよう依頼する。 さっそく、以前から身請けしたかった娼婦、
仙泉のもとに向かうが、仙泉はすでに大人に身請けされていた。 遊郭で毒を飲まされた風洪は、
帰途、正体不明の男たちに襲撃される。 風洪の危機を救ったのは、鬼谷子の弟子、ほう涓だった。
風洪は、鬼谷子、孫子とも交誼を得る。
その後、風洪は、苦難の末、尸佼(尸子)に会うことができ、弟子と共に秦に向かう。
風洪が秦に戻って三年後、孝公に国の改革を委ねられた公孫鞅は、尸佼の力も借りて、ついに
新法を公布する。 その間、風洪は、学問に没頭していた。
風洪は、名を白圭と改め、翡媛を妻にする。 魏の豪商、鄭両の姪、びん林が白圭を訪ねる。
びん林は、斉から魏に来た孫子の妻になろうとしたが、孫子は魏の公子の王位簒奪の陰謀に
巻き込まれ、連れ去られていた。 一方、ほう涓は魏で順調に栄達の道を歩んでいた。
白圭は、直ちに魏に向かい、鄭両から僕延をつけられる。 白圭は僕延から田文が田嬰の子
であることを聞かされる。
同じころ、孝公の太子が翡媛を見染め、宮廷に召しだそうとするが、従者の土救、尸佼の弟子が
応戦する。 公孫鞅は、新法にてらし、太子の養育官と師を罰する。 身の危険を感じた翡媛は
田文を連れて、白圭のもとに向かう。
白圭は、僕延と共に、孫子を救出し、魏に来ていた斉の公子、田嬰に推挙する。 孫子は、両足
を切断されており、以後、孫ぴんと呼ばれることになる、、、。
「史記」で有名なほう涓と孫ぴんが登場。 しかしながら、孫ぴんが両足を切断された経緯が通説
とは違ったかたちで描かれており、少し驚き。 田文は、まだ子どもとはいえ、ほとんど登場せず。
オススメ度:8.1

コメント  孟嘗君 3 (宮城谷 昌光著、講談社文庫)   作品の紹介 

ほう涓は、孫ぴん救出に際して、白圭に力を貸してくれたが、孫ぴんの才が他国で使われる
ことを恐れる。 孫ぴんの危機を察した白圭は、田嬰に孫ぴんの出国を依頼し、孫ぴんに
田文の教育を託す。 田嬰は、孫ぴんを斉の田忌将軍につけるよう手配する。 かくして、孫ぴん
は、びん林、翡媛、田文らとともに斉に向かう。 斉に戻るにあたり、翡媛は翠媛と名を改める。
まもなく斉に到着した白圭は、田文に出生の秘密を明かす。 そして、僕延夫婦を田文のもとに
残し、翠媛、土救とともに、周に旅立つ。
やがて、孫ぴんの資質に気づいた田忌は、斉の威王にも拝謁させる。 田忌の軍師として参陣
した桂陵の戦いにおいて、孫ぴんは魏軍四万を壊滅させる。 孫ぴんは、田忌に帰国するよう
献策し、自らは存在をほう涓に知られる前に一足早く斉に戻る。 しかし、宋と衛が魏から
寝返ったため、田忌は戦い続け、危機に陥る。 孫ぴんは、田嬰に田忌の救済を依頼、田忌は
威王の命を受けて、楚と交渉し、戦いを終わらせる。 今回の戦で田忌を亡きものにしようと
企んでいた宰相の鄒忌は、田嬰に憎しみを向ける。 鄒忌の狙いを慮った公孫閲は、鄒忌に
臣下、隻真の娘、蘭を田嬰のもとに差し向けるよう進言する。
十歳になった田文に、ついに、産みの母、青欄と語り合う日が訪れる。 蘭は青欄の侍女に
なっていた。 周で商人として順調な歩みを続ける白圭も、孫ぴん、田文の元を訪れる。
白圭は、十年ぶりに隻真と再会するが、白圭が田嬰への士官を勧めると旧知を温める間もなく
隻真は立ち去る。 白圭は、蘭が隻真の娘であることを知り、蘭が君主の座を簒奪された康公
の娘ではないかと疑う。 はたして白圭、孫ぴんは、田嬰の毒殺を未然に防ぐが、蘭は姿を
消していた。 十年前、射弥に預けられていた蘭の暗殺を企てたのが、田嬰ではなく、鄒忌
であることを、隻真も蘭も知らずにいた、、、。
田文が自分の息子であることを、ついに田嬰も知ることになる。 十三歳になった田文は田嬰
の公子として新たな道を歩き始める。 田文は田嬰の家臣や食客からその才を賞賛される。
やがて、斉は、再度、魏と決戦の時を迎える。 孫ぴんを影の元帥とし、田忌、田はんを将軍
とした斉軍は魏に侵攻、田嬰、田文も陣に加わる。 馬陵の戦いで、孫ぴんの宿敵である魏の
将軍、ほう涓を討ち取り、太子申を捕虜とする。
孫ぴんの活躍を中心に描いた巻。 田文の存在感も少しずつ増してきたが、まだ何かを成した
わけではないし、世に知られている孟嘗君の半生が描かれているわけではない。
オススメ度:8.2

コメント  孟嘗君 4 (宮城谷 昌光著、講談社文庫)   作品の紹介 

鄒忌と公孫閲は、隻真と蘭を使って、威王に田忌の謀反を信じ込ませる。 田忌は、無実を
晴らす策に失敗し、楚に亡命する。 隻蘭は威王に見そめられ、後宮に入っていた。
田嬰は、公孫閲に隻蘭の仇は鄒忌であることを打ち明け、鄒忌を排除し、隻蘭が王の命を
狙う前に後宮から連れ出す策を練る。 食客を使い、隻蘭を後宮から連れ出すことには成功
するが、隻蘭は鄒忌に奪われる。 そして、鄒忌の元にいた魏の恵王の兄、公子緩が隻蘭を
連れて斉を出る。 策が敗れた田文は、食客たちと周の白圭のもとをめざすが、途中で、
公子緩の一行と出くわし、隻蘭を奪還する。 周の白圭の家に落ち着いた隻蘭は、名を洛芭
と改める。 洛芭は翌年、威王の子である男児を産む。 赤子は鄭両に引き渡される。
田文は、白圭が商いで得た金をつぎ込む慈善事業の一環である治水の現場監督として多忙
な日々を送っていた。 白圭は洛芭を秦の商鞅(公孫鞅)のもとへ送る。 洛芭は秦に旅立つ
前、田文のもとを訪れる。 二人は結ばれるが、洛芭は秦に向かう。
二年後、秦の孝公が崩御し、恵文王が即位する。 恵文王は太子のとき、商鞅に罪を咎めら
れていたので、商鞅を攻め、戦死させる。 商鞅の妻で白圭の妹、風麗が県回に守られ、蜀
に落ちのびるが、蜀人の鹿朴に捕えられる。 洛芭は一行とははぐれていた。 田文は、白圭
の依頼で、鹿朴から風麗を買い取るために、夏侯章、公孫戍、食客たちを従えて蜀に向かう。
風麗と再会した田文は洛芭が田文の子を産んだことを聞かされる。 田文たちは脱出を試み
るが、鹿朴に追いつかれる。 しかし、鹿朴の非道に悩まされていた弟の鹿速たちが鹿朴を
倒す。 そこに商鞅の師、尸佼と弟子たちが現れ、合流。 田文たちは雪解けを待って出発
する。 尸佼は楚に向かうが、高弟の攸由は周に向かう。
周に着いた田文を待っていたのは田嬰だった。 田文は休む間もなく、田嬰の伴をして、韓に
向かう。 一方、秦で鄭両の店で匿われていた洛芭は、鄭両の馴染みの商人とともに趙に
向かっていた。 旅の途中、韓の韓公叔に輿入れする趙の貴族の娘の保母の代理として婚礼
に同行する。 洛芭の子は商人に預けられるが、盗賊に襲われ、行方不明になる。
婚礼が終わっても、韓公叔は洛芭を第二夫人にすべく、邸に留める。 ほどなく、洛芭は公仲
家に仕える隻真に再会し、真の仇は鄒忌であることを告げる。 隻真は、洛芭を韓公叔邸から
脱出させ、斉に向かう。 その直後、田文を伴った田嬰が韓に入り、斉と魏、韓との盟約を
整える。 田文は公仲から隻真、洛芭の脱出劇の話を聞く。 洛芭が自分の子を産んだと
知った田文は、田嬰に洛芭の出自を話したうえで妻に迎えたいと告げる、、、。
今後、斉の敵となるのは楚と見極めた田文は、楚に田忌を訪ねた後、楚に滞在する。
田嬰は威王から宰相に任じられる。 はたして、斉と楚の戦いの幕が切って下ろされ、田文も
参陣する。 斉は楚に敗れ、兵をひく。 楚王は田嬰罷免を停戦の条件とするが、公孫閲は
張丑とともに楚王に会見し、無条件での停戦を勝ち取る。
若き田文の波乱のときと活躍を描いた巻。 四巻にして、ようやく物語の中心に。 しかし、
未だ田嬰の嫡子でもないし、世に知られた存在でもない。 我々が知る孟嘗君の半生は五巻
に凝縮されているのか。 オススメ度:8.2

コメント  孟嘗君 5 (宮城谷 昌光著、講談社文庫)   作品の紹介 

田文は治水事業の完成を祝いに白圭のもとを訪れる。 洛芭は白圭のもとにいたが、今は
逢うべきときではないと白圭は考え、田文に引きあわせることはなかった、、、。
やがて、田嬰が田文の妻を西周家から迎える手はずを整える。 西周家から嫁いできた
女性は洛芭だった、、、。 田嬰は白圭の工作により洛芭が西周家の養女になったことを
悟り激怒する。 これにより田文が嫡子になる芽は絶たれる、、、。
田嬰は、威王から薛の地を賜り、諸侯の一員となる。 田嬰は、嘗邑を田文に授ける。
田文は嘗邑をよく治め、その名声は各地に及ぶ。 やがて、家宰の祁緒に留守をまかせ、
夏侯章、公孫戍以下の家臣三十五人、食客三十人を率いて諸国を訪ねる旅に出る。
隻真は干申と名を変え、宋の密偵で琴づくりの名人、笊音と組んで、斉の威王を暗殺する。
陰で糸を引いたのは鄒忌だった。 鄒忌は宣王に取り入り、田嬰に代わって宰相になる。
田嬰を失脚させただけでは飽き足らず、鄒忌は宋王偃に薛を攻めさせる。 田嬰に庇護
され続けた学者、貌弁は、死を覚悟で宣王を説き、薛に援軍を送らせる。 鄒忌の企みが
失敗したと悟った宋王偃は、兵を引く。 そして、鄒忌は宋に暗殺される、、、。
旅を続けた田文は、魏の宰相、公孫衍から後任の宰相就任を依頼され、襄王に五年の
期限とことわった上で、受諾する。 田文は、秦の使者、張儀と会見、秦と盟約することを
決める。 張儀は、秦の宰相に返り咲く。 田文の善政により魏の国力は回復に向かう。
田文は、五年の任期を終え、薛に帰ろうとするが、襄王に請われ、期限を二年延ばす。
張儀は、斉と楚の同盟を絶ち、秦は杜陵の戦いで楚の大軍を破る。 楚の懐王は秦への
攻撃を続けるが、田文は韓の公仲とともに楚の首都を攻める構えを見せる。 懐王は
秦攻略をあきらめ、和議を結ぶ。 やがて、斉が魏を攻めるが、田文は秦に援軍を要請し、
斉軍を退ける、、、。
田文の任期があと半年となったころ、孟子を匿ったことを理由に宋が十万の軍で薛を攻める。
田文は家臣、食客わずか三百を率いて、宋の本陣に向かう。 鄭両の配下に扮した田文は
宋王偃を奇襲、隻真、そして田嬰の見舞いに訪れた田忌将軍の助力もあり、宋の兵を引か
せる。 田嬰は田文を嫡子に指名し、息を引き取る。 田文は斉の宣王に拝謁し、宣王から
宰相に任じられる、、、。
やがて、宣王は崩御し、斉はびん王の時代となる。 田文は魏と韓の軍を従え垂沙の役で
楚の軍を破る。 一方、楚の懐王は、秦の昭襄王に騙され、秦で人質になる。
秦の昭襄王は、斉に弟である公子を人質として差し出し、田文を宰相として譲り受けたい
とびん王に依頼する。 びん王の器に疑念を抱いていた田文は、楚の懐王のように捕らわ
れるのではないかという食客たちの懸念を断ち切って秦に向かう。
昭襄王の叔父、魏ぜんは、昭襄王即位の際、趙の楼緩を宰相に招いていた。 しかし、田文
の丞相(宰相)就任に焦った趙の武霊王は楼緩に田文暗殺を命じる。 楼緩は、魏ぜんの
留守を利用し、昭襄王に讒言を弄し、田文を罷免の上、幽閉する。 田文は鶏鳴狗盗の策で
窮地を脱し、斉の宰相に復位する。 一年後、田文は、斉、魏、韓の連合軍を率いて、秦軍
に大勝し、旧魏領を割譲させる。
やがて、白圭、青欄、僕延、夏侯章が続けて亡くなる。 田文が喪に服している間、びん王
に讒言する者があり、やがて、宰相を罷免された田文は薛に戻る。 その後、再び魏の宰相
を務めた田文は、楽毅によってびん王が敗死した後、薛に戻り、その生涯を閉じた、、、。
一気読みを続け、全五巻を読了。 田文のまっすぐな心根と、入れ替わり立ち替わり彼の
生涯を支え続けた人たちの想いが熱く語られた一作だった。 人は助けた人に感謝すべき
という白圭のことばが印象に残る。 オススメ度:8.3

コメント  小説十八史略(一) (陳 舜臣著、講談社文庫)   作品の紹介 

中国の正史を要約した「十八史略」を読みやすくテーマごとに短くまとめた作品。
全六巻。 春秋戦国の時代を読みたくて第一巻を購入。 第一巻は殷、周から春秋戦国
時代を経て、秦の始皇帝による統一までを描いている。
「史記」でおなじみの人物が次々に登場。 「サンデー毎日」に連載されていたこともあり、
ひとつのテーマが10ページ程度と読みやすいのもグッド。
「史記」や春秋戦国時代に興味を持ち始めた人の入門書に最適。 ある程度、この時代が
わかりかけた人(今の私のレベル)が知識を整理したり、復習するにも適した一作。
巻頭、巻末に主な登場人物一覧、時代ごとの地図があるのも親切。
宮城谷昌光氏と陳舜臣氏。 「史記」にハマった人の多くは、この二人の作家のお世話に
なるんだろうなあ、きっと。 オススメ度:8.1

コメント  小説十八史略(二) (陳 舜臣著、講談社文庫)   作品の紹介 

始皇帝の死、陳勝呉広の乱、項羽と劉邦の戦い、漢の建国、呂后の専横、武帝の時代
の前半を描いた巻。 この巻はまだ「史記」に描かれた時代。 一巻と同じく、読みやすい
つくり。 オススメ度:8.2

コメント  中国五千年(上) (陳 舜臣著、講談社文庫)   作品の紹介 

小説ではなく、中国の歴史をわかりやすく解説した作品。 上巻は、神話の時代から
王朝の始まり、殷、周、春秋戦国時代、秦、漢、三国時代、晋、五胡十六国時代、南北朝
時代、隋までを17のテーマで書かれている。
上記の「小説十八史略」よりも、ややアカデミックで初級〜中級者向きか。
オススメ度:7.7

コメント  岳飛伝 14 撃撞の章  (北方 謙三著、集英社文庫)   作品の紹介 

景朧の砦城では、秦容と岳飛が南宋侵攻に備えて、調練を繰り返していた。 そんな折、
辛晃と呂英が捕えられ、岳飛が首を刎ねる。
南宋の秦檜と金の宰相、析律は、秘密裏に会談し、二年間の休戦協定を結ぶ。
金では、ウジュの軍五万五千と禁軍六万が梁山泊戦に備えて、戦闘準備を進めていた。
侯真は、胡土児が楊令の息子であることをつきとめる。 宣凱と王貴は吹毛剣を史進に
託す。 史進は吹毛剣を胡土児に届ける。 ウジュは胡土児が楊令の息子であることを
告げ、吹毛剣で梁山泊の人間を斬ってはならないと諭す。 そして、胡土児を北の耶律
越里のもとに送りだす。 まもなく耶律越里は息を引き取り、斜律里が後任となる。
秦容は、桓翔、袁輝とともに五千の軍を率い、南宋、大理国境で一万の南宋軍を釘づけ
にする。 岳飛は、その間、南宋に潜伏していた岳家軍と合流し、砦を築いていく。
岳飛は、巴蜀の成都府に着陣、戦の機を窺う。 小梁山、岳都から、旧辛晃軍の俘虜が
一万以上、住民として加わる。 南宋は大理との国境付近に五万の地方軍を展開させる。
金の海陵王は、西夏にある轟交買の物流拠点、沙谷津を二万の地方軍で攻める。 西遼
は、土里緒率いる一万の兵で金軍を徹底的に壊滅する。
岳飛は、成都府を出て、衡州でふたつの砦を築く。 その後、三千五百の兵を率いて出陣
する。 南宋軍七万の内、二万が岳飛軍に向かっているという情報が入る中、南昌で南宋
軍総帥、程雲自らが率いる一万の待ち伏せにあう。 岳飛は、わずか八百騎で程雲めが
けて突っ込み、そのまま北に駆け抜ける。 やがて、景徳鎮をめざし、進軍する途中、二万
の地方軍に遭遇する。 しかし、地方軍に紛れて、程雲直下の二百騎が潜んでおり、岳飛
を狙うが、間一髪でかわす。 岳飛は、さらに東に進軍し、温州で一万の軍を撃破。 五千
の軍を編成する。
秦容は、五千に魏庸率いる元俘虜の二千の兵を加え、成都府を経て、恭州から巫山へ
向かう。 途中、南宋の地方軍一万を圧倒し、巫山で四千の兵を加える。 秦容はさらに
東に進み、兵力を二万に増強、夷陵に達する。
王清は、張朔の依頼で十三湊の瓊英の後任となる。 李俊と交誼を深めるが、李俊はまも
なく息を引き取る、、、。
今か今かと心の隅で気にしていた、出生の秘密を胡土児本人が知ることになる瞬間が
いよいよ訪れるが、やはりウジュとの絆はそうかんたんには崩れず、、、。
久々に岳飛が目立った巻。 秦容とともにいよいよ南宋侵攻を開始する中、金と梁山泊の
戦、南宋水軍、南宋地方軍の水陸からの南方侵攻など、予断を許さぬ状況を抱えたまま、
いよいよ残り三巻。 オススメ度:8.3

コメント  岳飛伝 15 照影の章  (北方 謙三著、集英社文庫)   作品の紹介 

二万で夷陵に滞陣していた秦容は、周囲を四万の南宋軍に囲まれる。 意表をついて
東に向けて駆け抜け、臨安府をめざす。
南宋宰相、秦檜の病が篤くなる。 軍の総帥、程雲は、秦容の実力を認め、江北にいる
雷恭、孔礼の軍、四万を江南に呼び寄せる。
岳飛も三千五百の兵を率いて進軍、く州で三万の南宋地方軍を迎え撃つ。 七、八千を
討ち取り潰走させるが、本隊の一万の軍が現れる。 孟遷が敵将を討ち果たす。
やがて、三万の軍と対峙するが、軽くあしらううちに民衆が集まり始める。
岳飛はじりじりと臨安府に近づく。 元南宋軍の趙光が率いる五百の別働隊が民衆を
扇動する役目を果たす。 南陵で埋伏していた程雲の一万の兵が岳飛軍を急襲する。
完全に包囲された岳飛は直下の三百騎のみで突破を図る。 程雲と馳せ違うが、お互い
致命傷を与えるには至らなかった。 なんとか追撃を振り切った時、岳飛に従う兵は四人
にまで減っていた。 岳飛は元岳家軍の医師、陳圭の庵で傷を癒す。 程雲との戦で岳雷
が戦死したが、生き延びた千五百は衡州の砦に向かう。 傷の癒えた岳飛は陳圭を伴い、
衡州の砦に入る、、、。
漢陽の南に着陣した秦容の軍は、志願兵を受け入れ、三万六千となる。 雷恭、孔礼の軍、
四万が南下し、戦いの火蓋が切られる。 秦容軍は南宋軍一万を討ち取り完勝する。
西遼では、顧大嫂が亡くなり、韓成が丞相となる。
衡州の砦は盡忠寨と名を変え、二万の兵力を擁する規模となり、趙光の別働隊も一万と
なっていた。 盡忠寨の北には五万の南宋地方軍、さらにその北には一万の本隊が布陣
していた。 岳飛は一万の本隊を先に攻め、撃破。 地方軍もかんたんに蹴散らす。
秦容も二万の兵で臨安府に向かう。 これを陽動と判断した南宋軍が二万向かうが、秦容は
反転して戦い、千の兵を討ち取った後、漢陽に帰還する。
張朔は、三隊ある水軍の一隊を自ら率いて、霍洋、卜統とともに日本に向かう。 桑仁、
高威が率いる残りの二隊は南に針路をとる。 張朔は、洋上で炳成世と再会し、南宋水軍
の係留地を知る。 南宋水軍をあっさり撃破した張朔は南に向かう、、、。
秦檜は、許礼が率いる五万の地方軍と夏悦の水軍で小梁山を攻める計画を進めていた。
秦容は長江と漢水の合流地点に新たな砦を築き、范政が率いる梁山泊水軍との連携を開始。
北に向かい、梁山泊軍とともに金軍と戦うことも視野に入れ始める。
海陵王が開戦に踏み切れず、金軍と梁山泊軍は長らく膠着状態が続いていた。
秦容の砦づくりが金に向けられたものであると知り、海陵王は開戦を決意。 八万の禁軍と
ウジュが率いる五万の軍が出動する。 呼延凌は、夏殃に三千の兵で燕京の喉元である雄州
の城郭を占領させる。 この作戦には秦容が送り込んだ二十名の高山兵も加わっていた。
梁山泊軍八万も出動。 いよいよ金軍との決戦が幕を開ける、、、。
最終決戦序章を描いた巻。 梁山泊対金。 南宋軍対秦容、岳飛。 そして梁山泊水軍と南宋
水軍。 南の地での攻防。 いつも以上に俯瞰した視点からの描き方が秀逸だった印象。
残り二巻。 オススメ度:8.4

コメント  史記 武帝紀 三  (北方 謙三著、ハルキ文庫)   作品の紹介 

劉徹の叔父、淮南王安と衡山王賜が謀反を起こす。 劉徹は領地を没収、二人は自害する。
霍去病は劉徹から麾下の五千に衛青の麾下五千を加え、西域征伐を命じられる。
霍去病は、匈奴の休屠王の軍を撃破し、渾邪王軍も潰走させる。 長安への帰途、埋伏
していた頭屠の騎馬隊五千に急襲されるが、押し返す。
戦勝気分の残る中、霍去病は、再度、自らの麾下五千、衛青の麾下五千、公孫敖一万の
兵を率いて西域に向かう。 後方からは帰討した地域を確保するための五万も進軍して
いた。 さらに、李広、張騫が三万で単宇庭に対する陽動を行う二面作戦となる。
公孫敖の軍が遅れ、一万の兵で進む霍去病の前に、こう犁湖、頭屠の一万の兵が現れる。
激戦の末、こう犁湖が負傷した匈奴軍は潰走する。 霍去病は、居延の地を確保し、劉成、
陸英が率いる二万の歩兵に守備にあたらせる。 さらに休屠王、渾邪王軍にも勝利する。
北に兵を進めた李広は、単宇の長男、左賢王烏維の軍に大打撃を与えるが、兵の半数を
失う。 張騫の軍が遅れたことが原因であり、長安では敗戦と見なされた。
やがて、渾邪王が休屠王を殺し、二王の兵六万が漢に投降する。 これにより、河西の地
も、漢の版図に加えられる。
傷の癒えた衛青が一軍、霍去病が一軍を率いて、漠北で待ち構える匈奴との決戦に挑む。
西を進んだ衛青の軍が単宇、伊穉斜の軍十万に遭遇し、東を進んだ霍去病の軍が左賢王
烏維の軍八万にあたる。 衛青も、霍去病も、匈奴に打撃を与えるが、自軍の被害も大きく、
単宇と左賢王の首を獲ることもできなかった。 衛青の別働隊として進軍していた李広は
道に迷い決戦に遅れたことを恥じ自裁する、、、。
張騫は、三百名の部下を与えられ、再び劉徹から西域への使節を命じられる。 四年後、
張騫は帰国。 劉徹は汗血馬と身毒(インド)に興味を抱く。
霍去病は、衛青とともに大司馬として軍の頂点に立つが、二十四歳の若さで急死する。
匈奴では十数万の兵の調練が続けられていた。 そんな中、単宇、伊穉斜が亡くなり、長男
の烏維が後を継ぐ。
霍去病が圧倒的な存在感を示した劉徹の三十代を描いた巻。 霍去病は亡くなるが、李広
の孫、李陵、友人の蘇武、そして、司馬遷が台頭してきそうな予感。 衛青の切れ味がなく
なった印象を受けた巻だったが、霍去病亡き後、復活はあるのか、、、。 オススメ度:8.1

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