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読書感想文2013 part 2

「読書感想文2013」 part2は、3月〜4月の読書録です。

 ↓ Click NOVEL mark !
コメント  三匹のおっさん (有川 浩著、文春文庫)   作品の紹介 

6編を収録したベストセラーの連作短編集。
定年退職後、勤務先の系列のゲーセンに経理担当として再就職した清田清一。通称キヨは剣道の達人。
居酒屋「酔いどれ鯨」の元亭主、立花重雄。通称シゲは柔道の名人。数年前に息子に店を譲った。
脱サラの工場経営者で機械いじりの天才、有村則夫。通称ノリは頭脳派。高校生の娘と二人暮らし。
かつての悪ガキ三人組は、時間を持て余し、自警団を結成。 町のために夜まわりを開始する。
三人は、さっそくゲーセンの売上げ強盗を退治するが、自分たちの手柄にすることなく、その場を去る。
続いて、ノリの娘、早苗を襲った痴漢を撃破。 現場に居合わせながら、早苗を連れて逃げることしか
できなかったキヨの孫で高校生の祐希は、キヨに剣道を教えてほしいと頼む。
やがて、三人組に祐希と早苗も仲間に加わり、続いて起こったシゲ夫婦の離婚の危機も、無事、解決。
祐希と早苗の仲もゆっくりだが進展する。
三匹のおっさんは、さらに、小学校で起こった飼育小屋マガモ虐待事件、早苗のクラスメイトがひっかかった
モデル詐欺、シニア相手の催眠商法トラブルも次々に解決していく。
本の帯に「痛快活劇小説」と書かれていたけど、まさにその通り。 60歳の三人は、元気で、やさしくて
分別もあるのだけど、妙に子どもっぽいところもあったり。 三人の人物造型が秀逸。 それに、祐希と
早苗の淡い恋という、著者お得意のラブコメの要素も加わって、リーダビリティーは抜群。
好評につき、シリーズ第二作「三匹のおっさん ふたたび」も刊行されました。
映画化またはドラマ化される予感あり。  特設サイトはコチラ。
「ダ・ヴィンチ」BOOK OF THE YEAR 2012 文庫ランキング:第8位。 オススメ度:8.5

コメント  ビブリア古書堂の事件手帖 4 (三上 延著、メディアワークス文庫)   作品の紹介 

正式タイトルは「ビブリア古書堂の事件手帖 4 〜栞子さんと二つの顔〜」。
2011年3月の発売以来、大人気の「ビブリア古書堂」シリーズの第四作。
北鎌倉の古本屋、ビブリア古書堂を舞台にした古書ミステリー。今回はシリーズ初の長編。
江戸川乱歩の熱烈な愛好家だった男性が、愛人の女性に大量の貴重な蔵書を残して死ぬ。
ビブリア古書堂の店主、篠川栞子は、この女性から蔵書を売る代わりに金庫を開ける暗号を
探り当ててほしいと依頼される。 その金庫には、乱歩の貴重な蔵書よりもさらに価値のある
何かが納められているらしかった。 栞子は、店員の五浦大輔とともに、暗号の謎に挑む、、、。
骨太で奥の深い作品でした。 個人的にはシリーズ最高のデキではないかと思います。
暗号の謎を解くプロセスも緻密で読みごたえがありましたが、今回は、十年前に失踪した栞子
の母、智恵子が登場し、栞子のライバルのような役割で、物語に深みをもたせていました。
さらに、ラストのどんでん返しや栞子と大輔の恋の行方など、他にも見どころがいっぱい。
シリーズとして後半にさしかかったと著者もあとがきに書かれていましたが、早くも次作が待ち
遠しいです。
「ビブリア古書堂の事件手帖」1のブックレビューはコチラ。
「ビブリア古書堂の事件手帖」2のブックレビューはコチラ。
「ビブリア古書堂の事件手帖」3のブックレビューはコチラ。
「ビブリア」の公式サイトはコチラ。  2013年ドラマ化。 オススメ度:8.5

コメント  ブラバン (津原 泰水著、新潮文庫)   作品の紹介 

広島の高校の吹奏楽部員たちの過去と現在を描いた作品。
1980年、他片(たひら)等(ひとし)は、骨折した同級生の女子のピンチヒッターとして吹奏楽部に
入部し、コントラバス担当になる。 個性的な先輩、やさしい先輩、仲のいい同級生に恵まれ、
コントラバス初心者にも関わらず、それなりに楽しいブラバン生活が始まる。
しかし、もともと所属していた軽音楽同好会を辞めるわけではなく、親に借金してフェンダーの
エレキベースを購入。 同級生とバンドを組むが、他のメンバーは週一回の練習で十分な、どちら
かと言えば、巧くなりたいというよりもバンドを楽しみたい連中だった。
2年生になり、他片は、コントラバスと真剣に向き合うことを決意。 基礎から練習をやり直す。
25年後、他片は、地元で飲み屋のマスターにおさまったが、経営状態はいいとは言えない。
コントラバスも、高校卒業以来、触ったことがない。 しかし、ぽつぽつと他片の店に、昔の部員たち
が姿を見せ始め、他片の一年先輩の桜井ひとみが自分の結婚披露宴でブラバンを再結成したがって
いるという話を耳にする。 やがて、桜井自身が他片の店を訪れ、他片もブラバン再結成の話に巻き
込まれる。 再結成に集まったのは14人。 母校の楽器を借りて、練習が始まるが、、、。
物語は、他片(たひら)を語り手として、1980年と現在(25年後)を、行き来しながら進んでいきます。
25年の間に、ブラバンの再結成にかけつけたメンバーだけではなく、参加できなかったメンバーにも
さまざまなドラマと今の現実があり、それらを丹念に描いています。 そうすることで、この作品が単なる
ブラバン再結成のお話にとどまらず、奥行きのある作品に仕上がっているのだと思いました。
個人的には、主人公のキャラがちと地味すぎるかなという感想。 オススメ度:7.5

コメント  ドラフィル! (美奈川 護著、メディアワークス文庫)   作品の紹介 

正式タイトルは「ドラフィル!竜ヶ坂商店街オーケストラの英雄」。
藤間(とうま)響介は、一流音大を卒業して三ヶ月のヴァイオリニスト。 学生時代にコンクールで目立った受賞歴
のない彼にプロのオーケストラから採用通知が来ることはなかった。 幼いころから響介に英才教育を施し、期待し、
投資してきた親は、彼を勘当する。
そんな響介に救いの手を差し伸べたのは、叔父の藤間 馨(かおる)だった。 叔父は、新宿から電車で一時間半
の町、竜ヶ坂のアマチュアオーケストラのコンマス(コンサートマスター:第一ヴァイオリン主席奏者)のポジションを
世話してくれる。 同じく叔父の世話で、響介は竜ヶ坂の公民館のバイトの職も得る。
公民館の非常勤職員の女性、七緒は、車椅子を使っているが、超アクティブ。 年は響介よりふたつ上の24歳。
専制君主のような横暴さ、口の悪さで、響介をふりまわす。 しかし、七緒は、オケの指揮者でもあった。
七緒は、指揮者としての専門的な教育は受けていないものの、その天才的な才能に響介は驚愕する。
響介が、コンマスとなった、竜ヶ坂商店街オーケストラ、通称「ドラフィル」のメンバーは個性派揃い。
七緒の号令でオケの練習以外の領域までめんどうをみるはめになり、多忙な毎日が続く。
とは言え、響介は、やがてまっすぐな七緒の心根に共感を覚え、メンバーの商店街の店主たちのあたたかさにも
支えられ、ドラフィルのコンマスらしくなっていく。
かくして、オケの定期演奏会に向けて、猛練習を続ける日々が始まるが、響介にはどうしても越えなければいけない
トラウマがあり、七緒にも向き合わなければいけない過去があった。 しかし、響介と七緒の問題は、時を超えて
つながっていた、、、、、。
4章だての作品。 1章から3章までは、響介と七緒がオケのメンバーの問題を解決していくさまをライトなミステリー
タッチで描いていきます。 そして、4章で、響介と七緒の意外なつながりが明らかになり、感動のラストを迎えます。
七緒の人物造型と最終章(4章)の構成が秀逸。 シリーズ化にも超納得。 二巻も読まなければ、、、。
2013年3月時点で、第三巻まで発売中。 オススメ度:8.5

コメント  カラット探偵事務所の事件簿 T (乾 くるみ著、PHP文芸文庫)   作品の紹介 

計6編を収録したミステリーの連作短編集。
過労で倒れ、新聞社を退職した井上は、高校の同級生で資産家の息子、古谷に誘われ、探偵事務所の
調査員になる。 古谷と井上は、ともに30歳。 そして、ミステリー好き。
謎解き専門の探偵事務所としてスタートしたものの、宣伝もしない、営業活動もしないカラット探偵事務所に
訪れる依頼者は、月に一人がいいところ。 ところが、3番目の事件が元新聞記者の井上のおかげで、新聞
に取り上げられ、順調に仕事が舞い込み始める、、、。
カラット探偵事務所が取り扱うのは、犯罪とは距離のある事件の謎解きが中心。 資産家の遺言の短歌を
解明して宝探しをしたり。 行方不明の父親を写真だけを手掛かりに探し当てたり。 肩のこらないライトな
ミステリーがお好みの人におすすめの作品。 とはいえ、ラストには、著者お得意の大どんでん返しが用意
されているので、お楽しみに。 オススメ度:8

コメント  フィッシュストーリー (伊坂 幸太郎著、新潮文庫)   作品の紹介 

表題作(「フィッシュストーリー」)を含む計4編を収録した中短編集。
表題作は、時空を超えた4つの話がリンクした佳作。 売れないロックバンドが、小説の一節を歌詞にした曲を
最後のアルバムに入れる。 やがて、その曲を聞いた男が女を危機から救い、その息子がハイジャック犯に
立ち向かう。 そして、ハイジャックから難を逃れた女性が世界のネットワークを危機から救う。そんなお話。
他の三編も、著者独特のふしぎな世界観を堪能できる秀作揃い。 あと、おまけ(?)として、伊坂作品のあち
こちに顔を出す探偵兼空き巣の黒澤が、二編に登場しています。 オススメ度:8.2

コメント  アウトクラッシュ (深町 秋生著、幻冬舎文庫)   作品の紹介 

正式タイトルは「アウトクラッシュ 組織犯罪対策課 八神瑛子U」。 シリーズ第二作。
上野署の刑事、八神瑛子、36歳。 三年前に夫を亡くし、流産した過去を持つ。
抜群の検挙率を誇る優秀な刑事ではあるが、暴力団ともつながりを持つ、ハードで危険な存在である。
関西に拠点を持つ日本最大の暴力団、華岡組が、メキシコの麻薬カルテルと組んで関東進出を図る。
しかし、メキシコから派遣されたカルテルのメンバー、キタハラが組織を裏切り、カルテルは日本に最強の
暗殺者、グラニソを送り込む。 一方、華岡組の関東進出を阻止すべく、関東の印旛会系千波組の組長、
有嶋は、キタハラを匿い、メキシコの麻薬ルートを壊滅すべく画策する。 有嶋は、瑛子に、彼女の夫の
死の真相を教えるかわりに、グラニソがキタハラを暗殺する前に、グラニソの潜伏先を突き止めるように
取り引きを持ちかける。 瑛子は、印旛会の闇の戦闘集団にガードされたキタハラの元に向かい、キタハラ
からグラニソの情報を聞きだす。 しかし、華岡組は、キタハラの居場所を突き止め、グラニソがキタハラ
暗殺に向かう。 瑛子も、キタハラをガードする一団に加わり、グラニソを待ち伏せ、戦う。
しかし、グラニソに怪我を負わせたものの、キタハラをガードする一隊は全滅。 グラニソに逃げられる。
瑛子は、キタハラとともに体制を立て直し、再び、グラニソとの対決に挑む、、、、、、。
第一作に続き、とてもハードな内容。 映画的で、ジェット・コースターのようなストーリー展開。
エンターテイメント色も強いけど、内容はよく練られており、ひじょうに骨太な作品。
第一作「アウトバーン」のブックレビューはコチラ  オススメ度:8.3

コメント  ダブル (深町 秋生著、幻冬舎文庫)   作品の紹介 

新種のドラッグを武器に急成長を続ける組織において、刈田誠次は、弟の武彦とともに武装グループで頭角を
現していた。組織は、自分たちが扱うドラッグに手を出すことを厳禁していたが、武彦は誘惑に負けてしまう。
誠次は、元恋人の美帆に武彦を匿ってもらい、彼を逃がそうとするが、組織のボス、神宮によって、武彦も美帆も
殺されてしまう。誠次も殺されそうになり、瀕死の重傷を負うが、警視庁の刑事、園部佳子に救われる。
佳子は、親友の奈緒美が神宮に殺され、復讐の機会をうかがっていた。誠次は、共通の敵、神宮に立ち向かうため
佳子と手を組み、身体中を整形し、別人となり、佐伯という名で神宮の組織に潜り込む。
佐伯こと誠次は、神宮の組織で活躍を認められ、次第に組織の中枢に近づいていく。そして、神宮と再び対峙する
機会が近づいていた、、、、、、。
↑の「アウトクラッシュ」と同じ著者の作品。 あいかわらず、ハードな内容です。
しかし、ハイクオリティーのリーダビリティーとドライブ感で、ぐいぐい読者をひっぱっていくのはさすが。
ミステリーとしての完成度も高く、恐いもの見たさで、再び著者の別の作品に手を出す読者も多いのでは?
「本の雑誌」2012年度「国内ミステリー小説」文庫:第6位。 オススメ度:8.5

コメント  つるかめ助産院 (小川 糸著、集英社文庫)   作品の紹介 

高校を卒業してすぐに家庭教師だった小野寺君と同棲して結婚したまりあ。 でも、いっしょに暮らし始めてから
10年になろうかという矢先、小野寺君は、蒸発。 途方に暮れたまりあは、かつて、小野寺君と訪れた南の島に
旅をする。 島で、偶然出会ったつるかめ助産院の院長、鶴田亀子に、触診だけで、妊娠を告げられるが、
半信半疑のまりあ。 しかし、船の欠航で、三日、つるかめ助産院に滞在し、心が救われる。
まりあは、一度、島を後にするが、船の中で読んだ亀子の手紙に「行くところがないならつるかめ助産院はいつ
でもウェルカム」と書かれてあり、とんぼ返りで島に戻る。
助産院では、まりあと同い年で、助産婦志望のベトナム人、パクチー嬢、自称「旅人」の男、サミーが働いていた。
それに、島在住の産婆、エミリーや、漁の名人、長老など、個性豊かでやさしい面々に囲まれながら、まりあの
妊婦生活がスタートする。 小野寺君を失っただけでなく、自分の生い立ちを不幸に思っていたまりあは、やがて、
亀子やパクチー嬢も、自分と変わらない悲しい過去を抱えていることを知る。 亀子のおおらかさと愛情、助産院
で繰り返される新しい命の誕生、島の豊かな自然の中で、まりあは、少しずつ、自分の過去や孤独と向き合い、
ありのままの自分を受け入れていく、、、。
自然体で生きていれば、人はいつしか幸せを感じることができるようになる。 そんなことを教えてくれるような
作品でした。 読者は、まりあを通して、亀子やパクチー嬢、長老などのやさしさに触れ、いつしか自分も癒された
気分になれるのではないでしょうか。
著者の代表作「食堂かたつむり」と同じく、人のやさしさ、こころの再生が女性らしい筆致でじわ〜っとしみわたる
ように描かれていています。 読後感も最高。 2012年ドラマ化。
「ダ・ヴィンチ」BOOK OF THE YEAR 2012 文庫ランキング:第19位。 オススメ度:8.3

コメント  疑心 (今野 敏著、新潮文庫)   作品の紹介 

正式タイトルは「疑心 隠蔽捜査3」。 著者の代表作、好評の「隠蔽捜査」シリーズの第3作。
竜崎 伸也、警視長。 警察庁 長官官房 総務課長というエリート・キャリアだったが、息子のマリファナ吸引を目撃。
正直に自首させた結果、大森署の署長に左遷される(第1作のお話)。
アメリカ大統領の訪日が決定し、竜崎は、所轄の署長でありながら、第二方面警備本部長に抜擢される。
第二方面警備本部は、大統領機が到着する羽田空港を含む重要警備拠点だった。
警備本部が発足し、本庁警備部から女性キャリアの畠山美奈子が竜崎の秘書として派遣される。
警備本部そのものは順調に立ち上がるが、竜崎はやたらと美奈子が気になり始める。 やがて、それが恋愛感情
だと気づく。 そんな中、アメリカから大統領の警護を担当するシークレットサービス2名が来日する。 アメリカ側から
イスラム過激派の日本人がテロを画策しているという情報がもたらされ、シークレットサービスの一人、ハックマンが
第二方面警備本部に常駐することになる。 ハックマンは、羽田空港の防犯カメラの映像をくまなくチェックし、不審
人物を見つけ出す。 そして、日本側に羽田空港を封鎖するよう要求する。 当然、この要求は却下されるが、アメリカ
側は引き下がらない。 本庁の綜合警備本部からも羽田空港警備の責任を負わされる。 さらに、美奈子のことも気に
なり、竜崎は窮地に立たされる。 しかし、一匹狼の刑事が捜査していた羽田空港近くの事故の情報がきっかけになり、
テロリスト逮捕の突破口が見つかる、、、、、、。
第1作、第2作に続き、ひじょうにクオリティの高い警察小説でした。 物事を合理的にしか考えられなかった竜崎が前作
にも増して、人間らしい側面(なんと今回は恋)を見せることに好感、親近感をおぼえた読者も多かったはず。
とは言え、本筋の、事件解決に至るプロセス、警察組織の問題点の描写も、いつもながら秀逸。
同期で本庁の刑事部長、伊丹と竜崎の友情もいい味出していました。
「隠蔽捜査 1」のブックレビューはコチラ。  「果断 隠蔽捜査 2」のブックレビューはコチラ。  オススメ度:8.5

コメント  森に眠る魚 (角田 光代著、双葉文庫)   作品の紹介 

物語は1996年8月に始まり、2000年3月までを描いている。
東京都心の文教地区で出会った20代後半から30代半ばの5人の母親。
容子、千花、瞳の3人は、第一子の男の子を、同じ私立の幼稚園に入れる。 かおりは、娘を私立の小学校
に通わせている。 繭子(まゆこ)は、女の子を産んだばかり。
彼女たちは、出身地も、育った環境も、夫の収入も、個人の価値観も異なるが、育児を通して心を通わせる。
しかし、容子、千花、瞳が、息子の小学校受験を意識し始めたころから、関係がぎくしゃくし始める。
やがて、かおりも繭子も、容子たち3人の受験に巻き込まれ、人間関係だけでなく、彼女たち自身のこころまで
こわれていく、、、、、、。
子ども思いのやさしい母親たちが、徐々に、思い込みや猜疑心から、平気で友だちを罵ったり、子どもに手を
あげたり、家事ができなくなっていくさまを、凄味のある筆致で描いています。
第三者から見たら「子どもの、まして小学校受験に何もそこまで思いつめることはないのに」と思うかもしれま
せん。 でも、受験が中心の生活が始まると、こんなふうになってしまう人もいるのだな、と納得してしまうリアリ
ティーがありました。 容子たち3人の息子の受験が終わったところで、物語は幕を閉じるのですが、受験に
通っても、落ちても、子どもの心がこわれても、明日も、また日常はやってくる、というラストに救いを見た気が
しました。 「本の雑誌」2012年度「エンタテインメント小説」文庫:第4位。 オススメ度:8.2

コメント  ハング (誉田 哲也著、中公文庫)   作品の紹介 

赤坂の宝石店店主が刺殺され、捜査本部がたつが、犯人逮捕に至らず、3ヶ月後、捜査が打ち切られる。
しかし、さらに5ヶ月後、事件の9日前に店内に侵入した男を撮影した防犯カメラの映像が発見され、捜査
本部が再度たてられることになる。 警視庁捜査一課 特捜一係の堀田班が捜査本部に加わり、防犯カメラ
に映っていた男、曽根を逮捕する。 曽根は宝石店が入っているテナントビルの元警備員だった。
やがて、曽根は殺人事件も自供。 事件は解決し、堀田班の刑事たちの捜査が終わろうとしていた矢先、
堀田班の5人全員に突然の異動の辞令が出る。 班全員に辞令が出た不自然さを感じつつも、男たちは、
新たな任地に散って行った、、、。
それから半年後、曽根の初公判が行われる。 曽根は、一転して、犯行を否認。 取り調べでの自供は、
堀田班の刑事、植草に強要されたものだと証言する。 そして、翌朝、植草が首を吊った姿で発見される。
しかし、これは、悲劇の序章に過ぎなかった、、、。
かつて、植草のもとで働いた津原と小沢は、植草の自殺が偽装であると信じ、単独で捜査を進める。
二人は、徐々に事件の核心に近づいていくが、次々に犠牲者が増えていく。
そして、一連の事件を操る黒幕とプロの殺人鬼を追う津原と小沢にも危険が迫る、、、、、、。
「誉田作品史上もっともハードな警察小説」という謳い文句は、大げさではありませんでした。
なんでこんなにたくさん人が殺されるの? あぁ、この人まで殺されちゃった、、、。 と思わずつぶやいてしまう
作品です。 とは言え、バイオレンス小説というわけではなく、誉田作品らしく、ひじょうに緻密な構成であり、
一級品のミステリー小説、警察小説に仕上がっています。
ちなみに、タイトルの「ハング」は、「吊るす」という意味。 作中で首吊り死体が何度も出てきます。
オススメ度:8.2

コメント  ほろにがいカラダ (藤堂 志津子著、集英社文庫)   作品の紹介 

正式タイトルは「ほろにがいカラダ 桜ハウス」。 「桜ハウス」シリーズの第3作。
表題作(「ほろにがいカラダ」)を含む計4編を収録。
蝶子は、36歳のとき、伯母から相続した古い一軒家でシェアハウスを始める。
そのころの住人は、31歳の遠望子(ともこ)、26歳の綾音、そして、21歳の真咲だった。
本作はそれから14年後のお話。 蝶子は50歳。 遠望子、綾音も40代。 真咲が35歳に。
蝶子は50歳になったのを機に連絡をとった12歳年下の元カレと7年ぶりに付き合い始める。
綾音は、結婚後、夫の兄弟と不倫の果てに離婚。夫に死別したばかりの母が恋にうかれて
いるのが許せない。
シングルマザーの遠望子は、好みの独身男と付き合い始めるが、心が通い合わない。
バツイチの真咲は、14歳年上の男と不倫をしているが、男の妻が毎週、真咲の部屋を訪ねて
くるようになる。
4人の女の本音、さみしさ、たくましさが超ストレートに描かれていて、男性読者はちょっと
ひいてしまうかも。 会話が軽妙でしゃれてはいるものの、4人の女たちの恋愛は、どれも
痛いものばかり。 なんだかヘビーな女子会を覗き見したみたいな読後感でした。 オススメ度:8

コメント  アコギなのかリッパなのか (畠中 恵著、新潮文庫)   作品の紹介 

正式タイトルは「アコギなのかリッパなのか−佐倉聖の事件簿−」。
大人気「しゃばけ」シリーズの著者による連作短編集(計5編収録)。
佐倉 聖、21歳。 すでに引退した大物政治家、大堂剛の事務所で雑用係の事務員として働きながら、大学に
通っている。 両親は子どもの頃に離婚。 今は、行方不明の父から押し付けられた腹違いの中学生の弟を
養っている。 ボスの大堂のところには、彼が主催する会の議員たちがさまざまな問題を解決してほしいと
泣きついてくる。 選挙応援のボランティア派遣依頼なども日常茶飯事。 佐倉 聖は、大堂からの指示であち
こちの選挙区に出向き、探偵まがいの捜査をしたり、選挙ボランティアのとりまとめをしたりと大忙しの日々を
送っている、、、。
政治の裏側をわかりやすく描きつつ、軽いミステリーの要素もある、コメディータッチの作品。
政治に興味がなくてもOK。 肩のこらないお話。 オススメ度:7.8

コメント  おそろし (宮部 みゆき著、角川文庫)   作品の紹介 

正式タイトルは「おそろし 三島屋変調百物語事始(ことはじめ)」。 五編を収録した連作短編集。
川崎の旅籠の娘、おちか、十七歳。 ある事件をきっかけに心を閉ざしてしまう。
おちかは神田で袋物屋「三島屋」を営む叔父の伊兵衛のもとに身を寄せ、懸命に働く。
ある日、急用で出かけた伊兵衛にかわって、おちかは、伊兵衛の客の相手をすることになる。
その客は、かつて体験したふしぎな話をおちかに聞かせる。 それは聞きようによっては、怪談に
近い話だった、、、。 おちかから、その話を聞いた伊兵衛は、世の中のふしぎな話を集め、「変わり
百物語」にしようと思い立つ。 ただし、伊兵衛自身が、直接、話を聞くのではなく、おちかが語り手
から聞いた話を伊兵衛に伝えるという趣向になる。 こうして、おちかのもとに、ふしぎな話を語る
語り手が訪れることになった、、、。 やがて、おちかは、三島屋の女中、おしまに、自らの悲しい
過去を打ち明ける。まるで、自らが百物語の語り手になったかのように。 おちかの話を聞いたおしま
は、新しい語り手を連れてくる。 そして、これまで聞いた話がすべてつながるできごとが、おちかの
身にふりかかるが、おちかは、ひるむことなく立ち向かう、、、、、、。
第一話と二話、四話は、語り手がおちかに語る百物語。 ミステリーの要素もある怪談のような話。
第三話は、おちかが三島屋に身を寄せる原因となった彼女の悲しい過去。
そして、第五話は、第一話から四話がすべてつながる、おそろしいできごとのお話。
一見、独立しているように見える話が最後につながるという手法は、著者の宮部さんの得意とするところ。
とは言え、それを意識せずに読み進めたものだから、第五話の展開には、ひじょうに驚きました。
うまい言葉が見つからないけれど、さすがは宮部さん、ただただ感嘆、脱帽でした。
「本の雑誌」2012年度「時代小説」文庫:第8位。 オススメ度:8.5

コメント  聞き屋与兵 (宇江佐 真理著、集英社文庫)   作品の紹介 

正式タイトルは「聞き屋与兵 江戸夜咄草(えどよばなしぐさ)」。
表題作(「聞き屋与兵」)を含む計六編を収録した連作短編集。
両国広小路の薬種屋「仁寿堂」の隠居、与兵は五十三歳。 三年前に長男に家督を譲り、毎月、五と十の
つく日の夜に、店の裏手に机と床几を出して「聞き屋」をするようになった。
与兵は、客の話をただ聞くだけ。 求められない限り、客に助言をすることもほとんどない。
お代は、客の志。 持ち合わせがなければ、もらわない。
客の話は、姑や嫁の愚痴、自分の犯した罪の告白や後悔、若いころの苦労話などさまざま。
与兵は、根気よく話を聞く。 与兵に話を聞いてもらい、ある者は胸のつかえがおり、ある者は与兵の一言に
勇気づけられ、一大決心をする。 一夜限りの付き合いのことが多いが、わざわざ礼に訪れる者もいる。
話を聞いたことがきっかけで、つながりが生まれることもある。
与兵が聞き屋で聞く話だけでなく、与兵の過去の秘密とそれを執拗につけ狙う岡っ引きとのやりとり。
そして、同業者に婿養子に入った次男の苦労、支店を切り盛りする三男の縁談も描き、物語に厚みがありました。
著者の安定感には今回も感心。まさに外れなしの作家です。 オススメ度:8.2

コメント  おいち不思議がたり (あさの あつこ著、PHP文芸文庫)   作品の紹介 

おいちは十六歳。 江戸深川の菖蒲長屋で、町医者である父、松庵の仕事を手伝っている。
おいちは、明るくまっすぐな心根の娘で、患者たちの評判もいい。 しかし、彼女は、この世に思いを残して
死んだ人の姿を見たり、声を聞いたりすることができる、、、。
ある日、おいちの亡き母の姉、おうたがおいちに縁談を持ち込む。 相手は生薬屋「鵜野屋」の若旦那、直介。
直介は、最初の妻と死に別れていたが、二十五歳と若く、気立てのいい穏やかな男だった。
さらに、直介が子どものころ、おいちの父、松庵に命を助けられた縁もあった。
しかし、おいちは、直介の背後に若い女の霊を見る。 その女の霊は、おいちに助けを求めていた、、、。
おいちは、岡っ引きの仙五朗の助けを借りて、「鵜野屋」で相次いで亡くなった直介の妻、お加世と女中のお梅
の死因が、同じ心臓発作であることを突き止める。 さらに調べを進めると、悲しい真実が浮かび上がる、、、。
おいちの不思議な能力は、ここ一番でしか描かれていないので、超能力系の時代ミステリーという仕上がりには
なっていませんでした。 悲しい話ではあるけど、物語終盤で明らかになる人の心の奥底や事件の顛末の描き方が
秀逸。 まっとうな時代物のミステリーとして、この作品を堪能してください。
「本の雑誌」2012年度「時代小説」文庫:第9位。 オススメ度:8

コメント  剣客商売 十四 暗殺者 (池波 正太郎著、新潮文庫)   作品の紹介 

「剣客商売」シリーズの第十四作。 シリーズ二作目の長編。
徳川十代将軍、家治の時代のお話。 稀代の剣の名手、秋山小兵衛は66歳。 息子の大治郎は31歳。
剣客商売の道を歩む親子の生きざま、活躍を描いた昭和の名シリーズ(全16巻)。
小兵衛が偶然出会った凄腕の浪人、波川周蔵。 波川は、亡き父が仕えていた旗本から大治郎暗殺を依頼される。
しかし、その旗本の狙いは、大治郎のみならず、老中、田沼意次の命まで奪うことだった、、、。
大治郎の命が狙われていることを察知した小兵衛の心情を軸に、御用聞きの弥七と手下の徳次郎の力を借りて、
地道で粘り強い捜査がていねいに描かれています。
「剣客商売」一のブックレビューはコチラ。  「剣客商売」二〜十三のブックレビューはコチラ。  オススメ度:8

コメント  剣客商売 十五 二十番斬り (池波 正太郎著、新潮文庫)   作品の紹介 

「剣客商売」シリーズの第十五作。 表題作の長編「二十番斬り」と短編「おたま」を収録。
小兵衛は、かつて同じ師のもとで修業した浪人の息子、井関助太郎を匿うことになる。 助太郎は、小さな男の子、
豊松を連れていた。 小兵衛は、曲者に重傷を負わされた助太郎に事情を尋ねるが、助太郎の口は堅かった。
御用聞きの弥七と手下の徳次郎の協力で事件の核心に近づいた小兵衛は、やがて、豊松を奪還せんとする
旗本の家老と用人との対決に向かう、、、。
前巻に続き、小兵衛が大活躍する巻。 シリーズ序盤のような飄々とした小兵衛ではなく、毅然とした剣客としての
姿が描かれていました。
「剣客商売」一のブックレビューはコチラ。  「剣客商売」二〜十三のブックレビューはコチラ。  オススメ度:8.2

コメント  剣客商売 十六 浮沈 (池波 正太郎著、新潮文庫)   作品の紹介 

「剣客商売」シリーズの第十六作にして最終巻。 表題作の長編。
二十六年前、四谷に道場を開いていたころ、小兵衛は、門人の滝久蔵の敵討ちに立ち会うことになった。
ところが、立ち会い人が助太刀をしてもよいというきまりだったため、小兵衛は、滝久蔵の敵の立ち会い人、
山崎勘介と闘うことになる。小兵衛は紙一重の差で勝利をおさめ、滝久蔵も無事、本懐を遂げる。
この敵討ちから長い時を経て、小兵衛は、山崎勘介の息子、勘之介と出会う。小兵衛は、思いきって、勘之介
に、自分が親の敵であることを告げるが、勘之介は小兵衛を責めることも、怨むこともなかった。
一方、滝久蔵は、敵討ちの後、故郷の富山藩で出世するが、やがて浪人の身となり、江戸で身を持ち崩していた。
しかし、突然、仕官の話が降ってわいて、小兵衛の知り合いの金貸し、平松多四郎から金を借りるが、策を弄して
多四郎を嵌める。小兵衛は、多四郎の息子、伊太郎の力になり奮闘する。
やがて、小兵衛は、刺客に襲われてた勘之介の危機を救う。勘之介は、をかつて道場の跡目争いで、やむなく
闘った相手の父である旗本から逆恨みで命を狙われていた、、、。
二十六年前に小兵衛を慕ってくれた好青年、滝久蔵が小悪人に落ちぶれ、何の恨みもなくやむなく闘ったとはいえ、
小兵衛が命を奪った剣客の息子、山崎勘之介とは交誼が生まれる。まさに、人生の「浮沈」が小兵衛の胸に去来
したことでしょう。最終巻にふさわしい物語であったと思います。
池波正太郎さんは、十八年の時をかけて、「剣客商売」十六巻を書き上げました。池波さんが健在ならば、十七巻が
書かれていたかもしれませんが、残念ながら十六巻を書き上げてまもなく帰らぬ人となりました。
約二カ月で十六巻を、ほぼ一気読みしたわけですが、家で時間があれば、つい「剣客商売」を手に取ってしまう。
そんな日々でした。すばらしい作品に出会えてよかったです。まさに昭和の名作。
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