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読書感想文2018 part 2
「読書感想文2018」 part2は、3月〜4月の読書録です。
↓ Click NOVEL mark !
フリーター、家を買う。 (有川 浩著、幻冬舎文庫)
作品の紹介
苦労して就職した会社をわずか三か月でやめた誠治。 再就職もままなら
ないままずるずるとフリーター生活を一年続けたころ、母の寿美子がうつ病
になる。 名古屋の医師の妻となった姉、亜矢子が精神科に通院する段取り
を決め、誠治が母のめんどうを見ることに。 しかし、父、誠一は母のめん
どうを見てくれない。 そんな矢先、寿美子が自殺未遂を図る。
ようやく目を覚ました誠一は誠治と協力して、寿美子の世話をするようになる。
母の病気の原因である近所のいじめから逃れるため、誠治は引っ越しを計画。
夜間の肉体労働のアルバイトで金を貯め、父の教えを請い、再就職に向けて
動き始める。 やがて、アルバイトでのがんばりが認められ、社長から正社員
に誘われる。 さらにもう一社から内定が出て、悩んだ末にバイト先への就職
を決める。 誠治は一般事務、経理、営業と何でも屋として社長に鍛えられ、
同年代の後輩も二人できる。 やがて、会社の戦力となり、貯金も増え、誠一
に家を購入して引っ越すことを持ちかける、、、。
一人の青年の成長ストーリーとしてのクオリティー、リーダビリティーが秀逸。
成長物語として終わるかと思いきや、最後に著者お得意のラブコメ要素も盛り
込まれていて。 満足の一冊。
2010年ドラマ化。 オススメ度:8.3
夏を喪くす (原田 マハ著、講談社文庫)
作品の紹介
アラフォー女性4人の生きざまを描いた、表題作を含む計4編を収録した短編集。
中でも二編目と三編目は壮絶な生命力を描いた作品。
不倫相手と旅行中に夫が事故に巻き込まれ植物状態に陥る女性。
不倫に夢中な中、乳癌が見つかり、さらに夫の不倫を知る女性。
時には読み進めるのがつらくなる、骨太なお話。 オススメ度:8.1
さいはての彼女 (原田 マハ著、角川文庫)
作品の紹介
表題作を含む計4編を収録した短編集。 仕事に人生に疲れたアラフォーの女性
たちの変換点を巧みに描いた佳作。 中でも表題作に出てくるナギという23歳の
女性の人物造形が秀逸。 彼女を主人公にした長編を読みたくなった。
オススメ度:8.2
群青のタンデム (長岡 弘樹著、ハルキ文庫)
作品の紹介
計8編を収録した警察小説連作短編集。
警察学校を同点の首席で卒業した戸柏耕史と陶山史香。 交番勤務を皮切りに
刑事課でも机を並べ、他部署を経験の後、署長(史香)と副署長(耕史)として
上司と部下の関係に。 そして、史香は本部の生活安全部長、耕史は警察学校
の校長としてキャリアを終える。 ライバルとして、戦友として、互いに支えあい、
励ましあい警察官を全うした二人の物語。
実力のある著者の作品だけあり、安定感もクオリティーも高水準。
しかし、主人公二人の警察官としての価値観にはいまいち感情移入できず。
オススメ度:8.1
空想オルガン (初野 晴著、角川文庫)
作品の紹介
大人気「ハルチカ」シリーズの第三作。 表題作を含む計4編を収録。
幼なじみのチカとハルタは、静岡の清水南高校の二年生。 全日本吹奏楽コンクール
高校の部の全国大会の舞台、「普門館」出場をめざしている。
学生時代に東京国際音楽コンクールの指揮部門で二位となり、海外留学の経験を持つ
草壁が部の顧問に就任し、部員の質も技術も急成長。
清水南高は、大編成のA部門のみ出場できる普門館への足がかりにすべく、小編成の
B部門にエントリーし、県の地区大会、県大会を勝ち上がり、東海大会出場を果たす。
この巻は、チカとハルカの熱い夏の奮闘ぶり、そして大会の合間に起きた数々の事件を
描いている。 部活や音楽がらみの謎解きばかりではないけど、ミステリー部分も秀逸。
とはいえ、第二作のほうがパワーがあった印象。
第一作「退出ゲーム」のブックレビューはこちら。
第二作「初恋ソムリエ」のブックレビューはこちら。
オススメ度:8.1
千年ジュリエット (初野 晴著、角川文庫)
作品の紹介
大人気「ハルチカ」シリーズの第四作。 表題作を含む計4編を収録。
念願の東海大会出場を果たしたチカとハルタたちの秋を描いた巻。
片耳が難聴という障害を抱えつつも、クラリネットのプロ奏者をめざす二年生の
芹澤直子が入部。 入れ替わるように部長の片桐の引退が迫る。
そして、吹奏楽部顧問の草壁の師匠の孫娘、山辺真琴が登場。 真琴は視力を
失うかもしれない状況の中、強く生きる27歳。 吹奏楽部のコーチに就任する。
この巻は、清水南高校の文化祭を中心にハルチカや吹奏楽部のメンバー以外
の人物をていねいに描いている。 個人的には、もっと音楽に寄ってほしい気
がするけれど。
「ハルチカ」シリーズ特設サイトはこちら。
オススメ度:8.2
トッカン vs 勤労商工会 (高殿 円著、ハヤカワ文庫)
作品の紹介
特別国税徴収官の活躍を描いた「トッカン」シリーズの第二作。
鈴宮 深樹、26歳、通称ぐー子。 国税庁から京橋中央署に出向の特別国税徴収官、
鏡 雅愛付き。
人形町の大衆食堂の主人が自殺する。 自殺の前日、鏡とひと悶着あったことを
知った妻は、京橋勤労商工会の弁護士、吹雪に後押しされて鏡が訴える。
しかし、当事者の鏡は出張続きで、対応も国税庁にまかせるつもりでいる。
鏡抜きでひとり業務に追われる中、ぐー子は、鏡の中学・高校の同級生、本屋敷
と里見と知り合う。 そして、本屋敷、里実と鏡の無実を証明するために動く。
第一作同様、安定したデキばえ。 コミカルなキャラ設定もグッド。
しかし、第一作に比べて、鏡の出番が少なかったのが残念か。
第一作のブックレビューはこちら。
オススメ度:8.1
トッカン the 3rd おばけなんてないさ (高殿 円著、ハヤカワ文庫)
作品の紹介
「トッカン」シリーズの第三作。
鹿沼と日光。 鏡の出身地である栃木にからむ二件の案件をまかされたぐー子は
東京と栃木を往復。 栃木で鏡の同級生に助けられながら、果敢に難敵に立ち
向かっていく、、、。
鏡の元嫁や地元の同級生が物語に彩りを添えた巻。 しかし、500ページは長すぎる
という印象。 思えば、第一作の方が話のテンポがよかったかも。
2012年ドラマ化。 オススメ度:8.1
校閲ガール (宮木 あや子著、角川文庫)
作品の紹介
学生のころから愛読していたファッション雑誌編集者を夢見て、難関の入社試験を
突破し総合出版社、景凡社に就職した河野悦子。
しかし、希望とは正反対の校閲部に配属され、文芸の担当となり2年目。
不満をこぼしながらも、同僚の米岡はじめ、同期や先輩、上司に支えられ、鍛えられ、
校閲担当としても、社会人としても、成長していく、、、。
話のテンポがばつぐんにいい。 主人公の悦子、同僚の米岡はじめ登場人物たちの
キャラ造形もvery good。 エンターテインメント小説としても、お仕事小説としても、
一級品。 期待以上のデキ。 好評につきシリーズ化。 2016年ドラマ化。
オススメ度:8.3
真夜中のパン屋さん (大沼 紀子著、ポプラ文庫)
作品の紹介
人気シリーズの第一作。
営業時間が深夜11時から夜明けの5時までの真夜中のパン屋さん「ブランジェリー
クレバヤシ」。 オーナーの暮林は接客のかたわらパンづくりの修業中。 パンづくり
を担当するのは弘基。 開店して2週間が経った頃、半年前に事故で亡くなった暮林
の妻の腹違いの妹、高校生の希実が突然押しかけ、居候となる。
30代半ばで茫洋としているが、やさしさの塊の暮林。 母子家庭で育ち、世の中を
覚めた目で見る希実。 一回り上の暮林の妻に恋していた弘基。 個性豊かな三人
が織りなす共同生活。 そこに、母に子育てを放棄された少年、こだま、パン屋の
客で引きこもりの脚本家、斑目、ニューハーフのソフィアなどが加わり、お互いの
さみしさを埋めたり、人を想う日常が繰り広げられていく、、、。
なんとも言えないふしぎな「味」を持った作品。 シリーズ六作まで刊行。
ハマる人はハマるだろうな、と納得。 オススメ度:8.1
ドラフィル!2 (美奈川 護著、メディアワークス文庫)
作品の紹介
正式タイトルは「ドラフィル!2 竜ヶ坂オーケストラの革命」。
「ドラフィル!」シリーズの第二作。 第一作のあらすじは以下の通り。
一流音大を卒業しながらもプロのオーケストラから声のかからなかったヴァイオリニスト
藤間響介は、竜ヶ坂のアマチュアオーケストラ「ドラフィル」のコンマスとなり、公民館の
バイトの職を得る。 オケには響介の2歳上の公民館非常勤職員、七緒が指揮者として
君臨していた。 七緒は車椅子の身ながら超アクティブにオケをリードしていく、、、。
新聞取材をきっかけに七緒が年末のコンサートを独断で決定する。
「お前にヴァイオリンを弾く価値はない。弓を置け」と言った響介の父、統の言の呪縛から
解き放つため、七緒は響介にコンサートで「ラ・カンパネラ」をソロで演奏するように告げる。
そんな矢先、七緒のもとに、実の母で世界的なヴァイオリニスト、羽田野仁美からストラディ
バリウスの名器、メサイアの完璧なコピーであるヴァイオリンが送られてくる。 そのヴァイ
オリンには「ハイドフェルトから藤間統へ」という銘が貼られていた。
響介は父、統の異父弟で楽器商の馨から、ハイドフェルトが馨の父であることを聞かされる。
ハイドフェルトから統に贈られたヴァイオリンが羽田野仁美の手に渡った経緯、統が弓を
置いた理由を、響介は父と語り合う、、、。
七緒と響介がドラフィルのまわりで起こる小さな事件の謎を解決しながら、物語後半の山
である年末コンサートに向けて、投げかけられる特大の謎。 物語の構成も、音楽ミステリー
としてのクオリティーも秀逸。 ライノベっぽい表紙とはうって変わって、内容はしっかりして
いた。
第一作のブックレビューはこちら。
オススメ度:8.2
ドラフィル!3 (美奈川 護著、メディアワークス文庫)
作品の紹介
正式タイトルは「ドラフィル!3 竜ヶ坂オーケストラの凱旋」。 シリーズ完結編。
竜が坂祭に向けて、準備を始めたドラフィル。 そんな折、七緒の育ての母、一之瀬
真澄が響介の叔父、馨にヴァイオリンの鑑定を依頼する。 それは世界で最も禍々しい
とされた呪いのヴァイオリン「チェリーニ」の鑑定だった。
鑑定が写真であると聞かされた時点でコピーだと判断した馨は、自らの推理を検証する
作業を進め、代理として響介を真澄、ゆかり母娘のもとに送り出す。
響介は写真を見て冷静にコピーであると判断。 まもなく、七緒の姉、ゆかりはドラフィル
に復帰する。 一方、馨は、真澄から鑑定を依頼されたチェリーニが馨の実父、ハイド
フェルトが羽田野仁美の夫の依頼でつくったコピーであることを突き止める。
やがて、七緒と響介は、竜が坂祭のコンサートに羽田野仁美をソリストとして招く。
仁美はすでに離婚しており、一之瀬仁美として、チェリーニを携えて現れる。
しかし、彼女は突発性難聴を発症していた、、、、、、。
仁美と七緒の関係もいちおうの完結を見た巻。 この物語らしいエンディングではあった
けど、ドライブ感で第二作に及ばなかったか。 オススメ度:8.1
新米ベルガールの事件録 (岡崎 琢磨著、幻冬舎文庫)
作品の紹介
正式タイトルは「新米ベルガールの事件録 〜チェックインは謎のにおい〜」。
「珈琲店タレーランの事件簿」シリーズの著者が舞台をホテルに移して描いた
ミステリー。 計4編を収録した連作短編集。
千葉県東部の太平洋岸にあるグランド・パシフィック・ホテル。 崖の上に建ち、
経営難であることから「崖っぷちホテル」と呼ばれている。
そんなホテルに就職した落合千代子は、5年先輩のイケメン・ドSのコンシェルジュ、
二宮の指導に耐えながら、ホテルで起こる事件を解決に導いていく、、、。
「珈琲店タレーランの事件簿」同様、ライトなミステリーには仕上がっているの
だけれど、ホテルの裏側をもっと描いて、お仕事小説として掘り下げてほしかった
なという感想。 オススメ度:8
床屋さんへちょっと (山本 幸久著、集英社文庫)
作品の紹介
9編を収録した連作短編集の体裁をとった長編。
宍倉勲、73歳。 妻、睦子と二人暮らしの家に41歳の娘、香が小学校入学
直前の息子を連れて実家に帰ってきた、、、。
勲は製菓メーカーの二代目社長だったが、父から会社を引き継いだ15年後、
39歳の時に倒産させてしまう。 その後、繊維会社に就職し、定年まで勤め
あげる。 娘の香は、大学卒業後、広告会社に就職するも、半年で退社。
やがて小さいながらも会社の経営者となり、33歳の時、2歳年下の布田と結婚
する。 物語は、勲が73歳の一編から始まり、香の結婚のころ、繊維会社で
働いていたころ、香が十代のころ、勲が社長だったころへと時代を遡って行く。
そして、最終話では最初の一編の先の話が語られる、、、。
要所要所でくせ毛の勲が髪の毛を切る場面が挿入される。 かつて通っていた
理髪店で切る、自宅で香に切ってもらう、出張先の海外で切る、北陸の町で妻と
二人で切る、会社の近くで切る、、、生真面目な勲にとってたいせつな儀式とも
言える散髪。 著者は「お仕事小説」のイメージが強いけれど、この作品は勲と
香の仕事を描きながらも、家族に重きを置いた作品に仕上がっている。
オススメ度:8.1
ランチのアッコちゃん (柚木 麻子著、双葉文庫)
作品の紹介
表題作を含む計4編を収録した短編集。
中堅出版社の派遣社員、澤田三智子は、営業部長の通称“アッコ”こと黒川敦子
から突然、一週間のランチ交換を命じられる。 三智子はアッコのために弁当を
つくり、アッコの行きつけの店にランチを食べに行く。 毎日、違う店でランチ
を食べ、さまざまな人とふれあううちに、三智子の気持ちが前向きに変わっていく。
前半の2編が三智子とアッコの物語。 テンポよく三智子の再生を描いている。
2014年「本屋大賞」第7位。 オススメ度:8.2
プリティが多すぎる (大崎 梢著、文春文庫)
作品の紹介
大手出版社に入社した新見佳孝は硬派な男性週刊誌の編集部で修業の毎日。
しかし、3年目の春、突如、女子中学生向けの月刊誌「ピピン」編集部に異動
異動になる。 編集長以外は、すべて契約社員の女性。 記事の内容には
まったく興味を持てない。 しかも、新見→新美つながりで「南吉」と呼ばれる
始末。 しかし、かわいいルックスの内に秘めた読者モデルたちのプロ意識に
向き合い、次第に今の仕事で結果を出すことに全力で挑み始めるが、、、。
設定の妙で、遠い世界の話のはずなのに、ついついのめりこんでいく。そんな
リーダビリティーの高いお仕事小説。 続編があってもいいかも。
2015年「本の雑誌」文庫 エンターテインメント部門:第9位。 オススメ度:8.2
潜入捜査 (今野 敏著、実業之日本社文庫)
作品の紹介
全六作シリーズの第一作。
警視庁捜査四課のマル暴担当刑事、佐伯涼、35歳。 彼に突然、異動命令が出る。
警察手帖と拳銃を返上し、環境庁の下部組織「環境犯罪研究所」へ出向する。
この組織は産業廃棄物の不法投棄をはじめとする環境犯罪を取り締まる期間限定
の超法規機関だった。 所長の内村は佐伯が飛鳥時代から伝わる「佐伯流活法」を
受け継ぐ暗殺者の末裔であることまでつかんでいた、、、。
佐伯は、内村の命令で暴力団、泊屋組から産業廃棄物の不法投棄を強要されている
運送会社に就職し、捜査を開始する。 その直後、佐伯への報復を目論む瀬能興業
が佐伯の親戚の一家五人を殺害する。 翌日、佐伯の部屋にも銃弾が撃ち込まれ、
佐伯を慕う元不良の女性、ミツコが誘拐される。 しかし、内村の協力でミツコを救出。
泊屋組による不法投棄の件も独力で解決する。
それでも瀬能興業は佐伯への報復をあきらめず、最後の戦いに挑む、、、。
ハードボイルドな警察小説。 拳銃を持たない主人公が強すぎる気がするけど、その
辺は彼の一族から受け継がれた技や武器のおかげということで。 オススメ度:8
現着 (黒崎 視音著、徳間文庫)
作品の紹介
正式タイトルは「警視庁心理捜査官 KEEP OUT U 現着」。
「警視庁心理捜査官」シリーズの第五作。
公安部から捜査一課に異動した柳原 明日香。
警視庁捜査一課から多摩中央署強行犯係に異動となった吉村 爽子。
二人の女性刑事の活躍を描いた短編集。 計三編を収録。
第一話は、爽子が捜査一課に着任し、明日香と仕事をし始めた頃のお話。
第二話は、爽子が所轄に異動になったあとのお話。
第三話は、所轄の爽子が捜査一課の明日香と難事件を解決するお話。
第一作、第二作との時系列の関係がわかりにくかった。
第三作と第四作(明日香のお話)を読んでからの方がよかったかも。
心理捜査官ならではの描写も少なく、自分自身がこのシリーズに慣れて
しまった感もあり、期待値以上の評価ではないかな。
第一作、第二作のブックレビューはこちら。
オススメ度:8
さよならドビュッシー (中山 七里著、宝島社文庫)
作品の紹介
高校の音楽科に特待生としての入学が決まった遥。 両親と祖父、同い年の
従姉妹と幸せな日々を送っていた。 しかし、両親の留守中に火事で祖父と
従姉妹を失い、自らも全身に大火傷を負う。 皮膚移植を受け、2ヶ月後、高校
に通い始めるが、思い通りに身体を動かせず、ピアニストになる道に暗雲がたち
こめる。 しかし、遥は新進気鋭のピアニスト、岬洋介にレッスンを受け、コン
クール優勝を目指して猛レッスンに励む。
やがて遥は続けて命を狙われ、母が神社の石段から転落して命を落とす。
警察は祖父と従姉妹が亡くなった火事と母の転落死を殺人事件の可能性がある
と判断し、捜査を開始。 不安になる遥を岬が励まし、守る。
猛練習を乗り越え、コンクール本番を迎える中、遥の命を狙った犯人が明らかに
なる。 そして、母を殺害した犯人も判明するが、、、。
ラストでまさかのどんでん返し。 ミステリーとしてのクオリティーは高いと思う
けど、ラストは賛否両論分かれるのでは。
「このミステリーがすごい」大賞受賞作。 2013年映画化。 オススメ度:8.1
赤めだか (立川 談春著、扶桑社文庫)
作品の紹介
17歳で立川談志に弟子入りした立川談春。 新聞配達をしながら、通いでの
前座修業が始まる。 なぜか築地市場で一年間の修業を命じられるも、談春は
たくましく生きのび、少しずつ落語家への道を歩んでいく、、、。
やがて二つ目、そして真打ちに駆けのぼる談春の姿を描いた名エッセイ。
不器用だけど、分を知り、人に恵まれた著者の人柄、そして談志のすごさが
まっすぐに伝わる佳作。 個人的には談志の人となりに感情移入し、感心。
2008年「講談社エッセイ賞」受賞作品。 2015年スペシャルドラマ化。
オススメ度:8.2
きりきり舞い (諸田 玲子著、光文社文庫)
作品の紹介
「東海道中膝栗毛」の作者、十返舎一九の娘、舞。 嫁に行きたい十八歳の縁談は、
ことごとく奇人の父につぶされる。 そんな中、父を慕って弟子になった変人の
浪人、今井尚武が家に転がり込む。 さらに、父、一九の盟友、葛飾北斎の娘、お栄
も夫婦喧嘩の末、居候となる。 しかし、行き遅れとされる十九歳になった舞を見初めた
旗本の野上市之助から踊りの稽古を頼まれる。
お栄は絵師の夫から離縁され、十九の家に居つく。 尚武も出ていく気配がない。
市之助の嫁は無理でも側室にと玉の輿を夢見る舞の夢をまたしても十九が打ち砕く。
しかし、十九の旧知の武士から父の生い立ちと半生、そして尚武の秘密を聞き、舞の
気持ちが和らいでいく、、、。
奇人変人に振り回される舞といっしょに読者も振り回される気持ちになるけれど、巧みな
人物造形のせいか、どこか憎めない脇役たち。 生き生きした登場人物の描写が秀逸。
オススメ度:8.2
枯れずの鬼灯 (小松 エメル著、ポプラ文庫)
作品の紹介
「一鬼夜行」シリーズの第四作。
不老不死をもたらす「枯れずの鬼灯(ほおずき)」を求め、喜蔵の古道具屋を
訪れる老女、千代乃。
不老不死の命を授ける妖怪「アマビエ」を巡り、凄惨な戦いを繰り広げる妖怪
たち。 小春の盟友、弥々子も参戦する。
やがてアマビエの正体が明らかになり、事件は終息に向かうが、、、。
よく練られた構成。 しかし、少し話が長すぎるという印象。
「この時代小説がすごい!文庫書き下ろし版2012」第二位の人気シリーズ。
シリーズ第三作のブックレビューはこちら。
オススメ度:8.1
燦 7 天の刃 (あさの あつこ著、文春文庫)
作品の紹介
藩主となった圭寿と伊月、そして燦も、田鶴に戻る。 しかし、燦の許嫁、篠音は
裏神波に襲われ、身売りされていた。
圭寿は伊月の父、筆頭家老の伊佐衛門に藩政改革の決意を語り、助力を請う。
圭寿の兄の元側室、静門院は、お吉を圭寿の側室にあげるべく画策する。
燦は圭寿と伊月に篠音を助けてほしいと頭を下げる。 伊月は燦の手紙を携えて
篠音の元へ向かうが、篠音は城下の豪商、常陸屋に身請けされることが決まって
いた。 常陸屋と結託している次席家老、戸上は圭寿と伊佐衛門の糾弾を恐れ、
二人の暗殺を企てる、、、。
クライマックスへの序章となる巻。 あと一巻だけど、もうひと波乱の予感。
第六作のブックレビューはこちら。
オススメ度:8.1
燦 8 鷹の刃 (あさの あつこ著、文春文庫)
作品の紹介
伊月が篠音のもとを訪れている間に、戸上が放った刺客が圭寿を襲うが、燦が
身を挺して圭寿を守る。 静門院は、お吉を連れて田鶴へ向かう。
伊月は、篠音は燦のもとへ連れ帰る。 静門院は、伊月と再会する。
圭寿は、戸上を弾劾するが、常陸屋は藩の秘密を握り、それを盾に抵抗を試みる。
最後の最後で明かされる圭寿と伊月の出生の秘密。 しかし、伊月らしい決断で
物語が締めくくられていて。 タイトルは「燦」だけど、伊月の物語でもあった
のだと改めて思う。 オススメ度:8.2
楽毅(一) (宮城谷 昌光著、新潮文庫)
作品の紹介
中山国の宰相の嫡子、楽毅は斉で三年、孫子の兵法を学ぶ。 帰国前に楽毅は
斉の宰相、孟嘗君に面会し、中山と斉が同盟を結び、趙にあたることを説く。
孟嘗君も楽毅の頼みに応える。 帰国後、楽毅は宰相である父に斉との同盟を
説くが、父は中山王に魏への使者を提案する。 王は反対するが、太子がこの案
に賛成、楽毅は太子に従い、魏に向かう。 魏王は中山に援助の兵を送ることを
断る。 趙との戦に備えて、楽毅は父から騎馬軍をまかされる。
趙の武霊王が中山に侵攻する。 楽毅は太子と共に騎馬軍を率いて奇襲、埋伏の
策で趙軍に痛撃を与える。
翌年、武霊王が再び中山に攻め入る。 楽毅は自らが守る塞で趙軍の攻撃に長期間
耐え抜くが、別の戦線で父が戦死。 中山王は四邑を趙に割譲するという条件で
趙と講和する。
楽毅の青年期を描いた巻。 太子と父、孟嘗君に認められながらも、中山王の無策
に怒りと虚しさをおぼえる楽毅の無念さが巧みに描かれていた。
オススメ度:8
楽毅(二) (宮城谷 昌光著、新潮文庫)
作品の紹介
中山から趙の武霊王に使者を出すことになり、楽毅が選ばれる。 楽毅は死を
覚悟の上で、会見に臨む。 四邑ではなく十四邑を割譲するよう要求する武霊王
の無理難題を知略でかわし帰国するが、中山王は楽毅を責める。 中山王は楽毅
に刺客を送るが、宰相の司馬熹がことごとくこれを防ぐ。
やがて趙が再び中山を攻め、東部の昔陽を占領する。 楽毅は太子の子、公子尚
とともに昔陽に進軍。 孟嘗君の意を受けた司馬熹の手引きもあり、昔陽を奪還。
趙と斉が中山を攻める気配のなか、公子尚を斉の孟嘗君のもとに亡命させる。
趙は二十万の大軍で中山の首都、霊寿を包囲。 中山王と司馬熹は死に、太子が
中山王に即位する。 楽毅は昔陽の城を斉に引き渡し、佐将、郊昔とともに霊寿に
向かう。 中山王は趙兵の囲みを突破し、霊寿を離脱。 斉までたどり着くが、脱出
の際に受けた傷がもとで息を引き取り、太子となっていた尚が新たな王となる。
楽毅は燕に援軍を求める決意をし、丹冬、超写、楽乗、恵泛の四人のみを従え、
趙の邯鄲に昵懇にしている商人、狐午を訪ねる。 狐午は楽毅に燕で郭隗に会う
よう策を授ける。 さらに娘の狐祥を楽毅の妻にと願い出る。
考えてみれば、若き日の楽毅は武霊王、中山王というふたりの王と戦っていたと
言えるのでは。 中山王が亡くなるも、太子もこの世を去り、太子との新しい国
づくりができない無念。 それでも、顔を上げる楽毅のつよさに感銘を受けた巻。
オススメ度:8.1
楽毅(三) (宮城谷 昌光著、新潮文庫)
作品の紹介
楽毅は燕の郭隗を訪ね、郭隗の仲介で昭王に面会を果たす。 楽毅は昭王に
中山への援助を願い出るが、断られる。 やがて、秦の昭襄王が弟を斉に人質
として差し出し、代わりに孟嘗君を秦の宰相として招く。 趙では武霊王が引退
し、わずか十二歳の恵文王が即位する。
孟嘗君は武霊王の策により宰相を罷免され、幽閉されるが、食客の活躍により
脱出し、斉に帰りつく。
中山王の尚は、居城を脱出。 楽毅と共にわずか三千七百の兵で十万の趙軍
に対峙する。 中山軍は、楽毅、郊昔の両将軍を中心によく戦う。 しかし、
武霊王の和平交渉を受諾、中山王、尚は膚施の城を与えられ、戦いは終結。
かくして、中山国の歴史は幕を閉じる。
楽毅は丹冬、超写、楽乗、恵泛を伴い、狐午のもとに身を寄せる。 そこに
武霊王から仕官の誘いが来る。
武霊王から来るよう命じられた沙丘の地で、恵文王は、廃嫡された兄の安陽君
の軍に襲撃される。 まもなく、武霊王の叔父、公子成と李兌が率いる兵が駆け
つけ、安陽君、武霊王を葬る。 楽毅は魏へ旅立つ、、、。
戦には負けないものの、なかなか天下の舞台に立つことができない楽毅。
物語はいよいよ楽毅の伝説の戦いを描く最終巻へ。 オススメ度:8.1
楽毅(四) (宮城谷 昌光著、新潮文庫)
作品の紹介
孟嘗君は斉を追われ、魏に亡命する。 まもなく、孟嘗君は楽毅を訪れ、久々の
再会を果たす。 孟嘗君とともに魏王に謁見した楽毅は魏の使者として燕に向かい、
魏との同盟を請う。 燕の昭王は楽毅に燕に留まるよう依頼。 楽毅は妻子を魏王
に人質として預け、燕に留まる。 楽毅はさっそく昭王の使者として趙に赴き、恵文
王から燕との同盟の約束を取り付ける。 やがて、斉が燕と趙に宋攻めを命じる。
燕と趙は本意ではないものの宋攻めに参戦する。 しかし、二度目の宋攻めには魏
と楚が出兵するようにしむけ、燕は趙とともに参戦を見送る。
昭王のはからいで、狐祥と息子の間を燕に呼び寄せ、やがて、中山で共に戦った
郊昔が臣下に加わる。
斉が秦を攻める決断をする。 楽毅は燕軍二万を率いて進発。 趙の恵文王から
趙軍を預けられ、秦に占領された魏の邑を奪還する。 さらに、斉は宋に侵攻する
際に、燕と趙、楚に参戦を促す。 楽毅は趙と結び、斉軍を攻撃。 斉軍を潰走
させる。 ついに秦が斉を攻め始め、燕も楽毅が郊昔らを率いて進軍。 国境の邑、
霊丘を陥す。 秦の昭襄王は魏と結び、韓を従え、斉に軍を進める。 これを見た
趙の恵文王も斉に侵攻。 ここに五国の連合軍による斉侵攻が実現する。
楽毅は連合軍十五万の指揮を任せられる。 斉は十万の兵で連合軍を迎え撃つ。
連合軍は斉軍を大破。 この直後、連合軍を解散した楽毅はわずか五千の騎兵を
率いて、斉の都に向かう。 宮城を急襲し、またたく間に都と周辺の街を制圧。
斉王は落ちのびるが、楚の将軍に殺される。 その後も、楽毅は斉国内の制圧を
進め、七十余城を陥し、残すは二城を残すのみとなる。 燕の昭王は楽毅を斉王
に任じるが、楽毅はこれを辞退する。 その直後、昭王が崩御し、恵王が即位。
楽毅は将軍職を解かれ、燕に帰国するよう命じられるが、趙に亡命する。
楽毅が斉を去った後、田単が率いる軍に燕軍は敗れ、斉の領土を失う。
目まぐるしく移り変わる国と国との関係を見定め、燕という北辺の小国を歴史の
中心に導き、昭王の悲願を実現した楽毅。 軍事だけではなく、外交にも行政にも
秀でた傑物の後半生を描いた最終巻。 昭王の崩御とともに、楽毅の進撃は終焉
を迎えるが、その清廉な生き方はほんとうにすばらしい。 オススメ度:8.2
史記の風景 (宮城谷 昌光著、新潮文庫)
作品の紹介
「史記」の世界を日本人に身近にした第一人者である著者のエッセイ集。
産経新聞と新潮社の「波」に連載された101編を収録。
1テーマ2ページなので読みやすいが、内容はひじょうにアカデミック。
文化人向けの蘊蓄みたいな話も多い。
日本でも、水戸光圀が「史記」に影響を受けたという話は興味深かったけど。
「史記」が好きな人でも、ややハイレベルすぎるか。 オススメ度:7
岳飛伝 16 戎旌の章 (北方 謙三著、集英社文庫)
作品の紹介
梁山泊と金の戦が始まった。 緒戦は、海陵王の軍八万が梁山泊軍に潰走
させられる。 梁山泊は雄州の西の北平寨も陥とし、海陵王の退路を断つ。
岳家軍は本隊の三千五百以外に衡州に三万、全国に四、五万、さらに趙光
の別働隊が一万の兵力に達する。 岳飛は趙光の軍に二千の騎馬兵ととも
に身を隠し、程雲の軍五千を待ち伏せする。 千二百を討ち取るが、程雲を
討つことはできなかった。
海陵王は胡土児暗殺のために三百超の虎坊党の兵を送るが、胡土児は従者
二名と戦い、胡土児を慕う蒙古兵、徒空の隊に助けられる。
海陵王の禁軍八万は梁山泊の高亮軍四万と対峙、ウジュの本隊五万も呼延凌
軍四万と対峙する。
沙門島では項充と狄成が南宋水軍二十艘の基地を発見。 梁山泊水軍十五艘
との戦いが始まる。 項充と狄成は、沙門島上陸を目論む敵の海鰍船を沈める
ため、命を落とす。
南方では、南宋水軍二百隻が、阮黎の船隊七十隻と交戦。 阮黎は三十隻を
失う。 張朔は梁山泊水軍を率いて、象の河に向かう。
海陵王は、漢族の罪人三千を使って梁山泊に夜襲をかける。 金が漢族を戦に
使ったことに怒った梁山泊は、高亮が海陵王の禁軍を急襲し、二万を討ち取る。
到死軍の羅辰は、わずか百五十名で南宋水軍の象山の造船所を焼き打ちする。
程雲は、石信を将軍格の上級将校に引きあげ、六万の兵を預ける。 石信軍の
三万騎が一万の趙光軍を急襲し、壊滅させる。 趙光も討たれる。
その後、石信は岳飛と対峙。 岳飛は衡州の砦から三万で出撃し、対峙していた
六万の軍を突き破り、後方の三万の軍も後退させる。 秦容は本隊以外に三万
の義勇軍を組織し、二万の本隊とともに、金国領の京兆府を陥とす。
まともにぶつかろうとしない石信の戦いを後にし、岳飛は臨安府をめざす。
秦容も四万の軍を臨安府に向ける。 程雲自身が四万を率いて、岳飛にあたり、
六万の軍を秦容にあたらせる。
海陵王は胡土児の首に賞金を懸け、新たなる刺客を送る。 徒空の父、訛里虎は
胡土児に自分の部族に来てほしいと告げる。 胡土児は麾下の玄旗隊を北部方面
軍に分散して配属する意志であることを軍司令、斜律里に告げる。
秦容の四万は前後から徐成が率いる軍に三万ずつの攻撃を受ける。 戦いは秦容
軍が三百弱、南宋軍が三千の犠牲を出す。 次の戦いで秦容自らが徐成を討ち、
戦線は膠着状態に入る。
程雲は四万の軍で、臨安府に向かう岳飛の軍三万を追撃する。 臨安府守備軍の
一万も岳飛軍の前方に姿を見せるが、岳飛はこれを軽くあしらう。
梁山泊と金の戦は、呼延凌とウジュが策を弄さず、真正面からぶつかり合う。
秦容も、岳飛も、撤退を決意し、それぞれの本拠地に向かう。 岳飛は埋伏の兵を
使って程雲に奇襲をかける。 副官の陸甚は討ち取るが、程雲はあと一歩のところ
で討ち損じる。
戦線の膠着に耐えられず、海陵王がウジュの指揮を無視して梁山泊軍に突っ込み、
三万の兵を失う。 梁山泊騎馬隊の上級将校、馮礼がウジュに挑むが討ち取られる。
史進は赤騎兵を率いてウジュに奇襲をかける。 ウジュと副官の斜室を討つが、史進
も深手を負う、、、。
梁山泊の最終決戦を俯瞰してドライブ感たっぷりに描いた巻。 秦容も岳飛も胡土児も
ウジュも海陵王も秦檜も程雲もけんめいに戦う姿が印象的だが、この巻は出番が少ない
ものの史進にもっていかれた感がある。 北方「大水滸」、いよいよあと一巻。
オススメ度:8.5
岳飛伝 17 星斗の章 (北方 謙三著、集英社文庫)
作品の紹介
秦容の副官、桓翔が一万を率いて北へ向かう。 呼延凌麾下の夏殃も三万で燕京に迫る。
秦容は三万、岳飛が二万、さらに岳家軍二万が臨安府を衝く構えを見せ、南宋軍の総帥、
程雲を引きずり出す。 程雲は南宋軍本隊十五万を展開して戦機を窺う。
史進は一命をとりとめるが、戦に出られない体となる。 金軍は、沙歇が総帥となり、
呼延凌率いる梁山泊軍と互角の戦いをする。
南方では、許礼が南宋地方軍五万を率いて、景朧に向かい、潘寛、荀浩が南宋軍に備える。
そんな中、岳飛の妻、崔如が静かに息を引き取る。
南宋では、秦容軍三万に岳飛の二万、鄭建の三万が程雲率いる十五万の軍と二カ月に及ぶ
戦に耐えていた。 史進は乱雲に跨り、子午山に到着する。
南方の海域では、張朔、卜統の三十艘の船隊が百艘の南宋水軍に遭遇し、追われるが、
奇襲で二十艘以上を沈め、メコン河をめざす。
胡土児は斜律里と別れの盃を交わし、蒙古の訛里虎、徒空の族に迎えられる。
秦容と岳飛は程雲に最終決戦を挑む。 秦容は南宋の将軍、てき光を討ち取る。
金軍本隊十三万と梁山泊軍八万の戦いは、互いに大きな犠牲を出し、続いていた。
金は、最後の十万も徴兵し、本隊との合流を図るが、夏殃がこれを防ぎ、踏みとどまる。
ついに秦容が梁山泊軍に合流すべく、南宋の戦線を離れ、北に向かう。
張朔は南宋水軍を三十艘近く降伏させるが、百十艘が阮黎の見張りを潜り抜け、象の河に
向かう。 梁山泊水軍九十艘も南宋水軍を追って、象の河に向かう。
景朧では許礼が率いる南宋地方軍五万が潘寛、荀浩の軍と戦を始める。
金が新たに徴兵した十万が戦線に到着する。 梁山泊軍にも、秦容の三万、桓翔の一万、
義勇軍の六万が加わる。 南宋の戦いでは、岳飛がついに程雲の首を獲る。
象の河を守っていた梁山泊水軍の霍洋はわずか三十艘で百十艘の南宋水軍と戦い、十八艘
を沈める。 ほどなく張朔が率いる九十艘が到着。 上流に向かった南宋水軍を追う。
小梁山の兵が南宋水軍の上陸を阻止している間隙をつき、梁山泊水軍が奇襲をかけ大勝。
霍洋を失うが、敵の総帥、夏悦を自刃に追い込む。
南宋の戦いに勝利した岳飛は、わずか三百の兵を率いて、臨安府で秦檜と会談。 戦後の
南宋の体制を通告する。
水軍との連携を画策していた許礼の南宋地方軍五万は景朧の砦城を抜けずにいたが、二万
が岳都に向かって南下。 留守を預かる岳飛の副官、姚平が五千の兵で進撃を止める。
やがて、南宋軍は三万と二万の二軍で潘寛の三万を挟撃する構えを見せるが、長駆隊の
知らせで潘寛は挟撃を逃れる。 やがて、荀浩の三千も戦いに加わり、戦いが決着。
潘寛は敵の降伏を受け入れ、一万二千の兵を俘虜とする。 そして、仕上げに許礼が籠る
砦城を攻め、戦いを終わらせる。
梁山泊と金の戦は苛烈を極めていた。 沙歇が指揮する総力戦により、桓翔が戦死。
呼延凌、秦容は、自らが囮になり、高亮、袁輝、元遊撃隊の葉敬、耿魁とともに仕掛けるが、
沙歇は姿を見せなかった。 やがて、岳飛が陳志堅、邵規、馮厚を率いて三万の軍で北上。
金軍二十数万対梁山泊軍十二万の決戦の地に向かう。 途中、抗金の檄に賛同した漢の民
が義勇兵として参加、その数は三十万にのぼる。 岳飛も戦線に加わり、戦いはいよいよ
最終局面を迎える。 緒戦で義勇兵は金の騎馬隊三万を殲滅。 岳飛はさらに一万の騎馬隊
を壊滅させる。 戦いの流れを変えた機を逃さず、呼延凌、秦容、岳飛は一気に攻勢を強め、
ついに呼延凌が沙歇を討ち取る、、、。
戦いの後、秦容は呼延凌に南方で一万の軍を指揮してほしいと頼む。 岳飛は四百六十に
減った岳家軍とともに岳都に帰還し、静かに死の時を迎える、、、。
梁山泊軍は解散し、轟交買に入る者、南方に向かう者に別れる。 王清は西遼の瑜柳館に
向かう。
岳飛伝十七巻、そして北方「大水滸伝」シリーズ全五十一巻をついに読了。
シリーズではあるけれど、「水滸伝」、「楊令伝」、「岳飛伝」、それぞれ個性が豊かで夢中に
なって読み進められた。 出会えてよかったと思えるほんとうに思い出深いシリーズ。
北方「大水滸伝」シリーズの特設サイトはこちら。
オススメ度:8.4
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