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読書感想文2016 part 6

「読書感想文2016」 part6は、11月〜12月の読書録です。

 ↓ Click NOVEL mark !
コメント  初陣 隠蔽捜査3.5 (今野 敏著、新潮文庫)   作品の紹介 

大人気「隠蔽捜査」シリーズの第4作。 シリーズ主人公の警察キャリア、竜崎の小学校の同級生
であり、警察庁同期の伊丹を主人公にしたスピンオフ的な連作短編集。 計8編を収録。
時系列で言うと、シリーズ第1作前夜から第3作直前までのお話。
第2話以降、警視庁の刑事部長としての伊丹の活躍や苦悩を描いているが、その陰には、いつも
大森署長の竜崎のアドバイスやブレない考え方がある。 本作の主人公は伊丹であるが、竜崎の
存在感も大きく、シリーズのファン必読の一冊。
シリーズ第3作のブックレビューはこちら。  オススメ度:8.3

コメント  転迷 隠蔽捜査4 (今野 敏著、新潮文庫)   作品の紹介 

大森署管内と隣接区域で次々と難事件が発生。 外務省職員の殺人事件、元外務省職員のひき逃げ
事件、そして覚せい剤取引。 有能なキャリア、署長の竜崎は臨戦態勢に入る。
さらに竜崎の娘の恋人が海外で航空事故に巻き込まれた可能性も浮上し、さすがの竜崎も落ち着かない。
やがて3つの事件が別々の事件ではなく、つながっていることをつかんだ竜崎は、同期の警視庁刑事部長、
伊丹から指揮をまかせられる。 事件の核心を探り当てた竜崎がみた公安の闇とは、、、、、、。
あいかわらず、安定して高品質なシリーズ第5作。 原理原則を重んじ、合理性を優先する竜崎の本領
発揮を巧みに描いた作品。 どんな相手にもひるまず、ブレない竜崎の生き方に共感し、うらやましいと
感じる読者も多いのでは。 オススメ度:8.4

コメント  キネマの神様 (原田 マハ著、文春文庫)   作品の紹介 

39歳独身の歩は、都心のシネコン建設担当課長職を投げ出し、退職する。 折しも79歳の父が倒れ、
大手術を受ける。 手術は成功するが、父がギャンブルでつくった300万円の借金が発覚。
歩は父の年金手帳を取り上げる。 ギャンブルの資金がなくなった父は、もうひとつの趣味である
映画に関心が向かい、映画雑誌「映友」に歩の文章を投稿する。 これがきっかけに歩は「映友」編集部
に採用され、父の映画ブログもスタートすることに。 父の映画評は人気を博すが、ある日、一人のアメリカ
人がブログに書き込みを始め、歩の父との評論対決が始まる、、、。
物語は、ここからひと波乱、ふた波乱あり、涙と感動の終盤を迎えます。 映画を愛する人たちの想い、
父とアメリカ人男性との美しい友情、そして歩と父との関係の再生。 涙と感動をこれでもかと詰め込んだ
リーダビリティーばつぐんの秀作。 オススメ度:8.3

コメント  楽園のカンヴァス (原田 マハ著、新潮文庫)   作品の紹介 

ニューヨーク近代美術館(MOMA)のアシスタントキュレーター、ティム・ブラウン、30歳。
夏の休暇を前に、伝説の絵画コレクター、バイラーからスイス、バーゼルの自宅に招かれる。
そこで目にしたのはアンリ・ルソーの名作「夢」とそっくりの絵「夢のあと」。 バイラーはティム
とともに招待したキュレーターの代理、早川織絵とティムに絵の真贋判定を依頼する。
さらに、判定の勝者は、幻の大作を得る権利を得ると告げる。 しかし、真贋判定の方法は、
「夢のあと」にまつわる物語を一日一章ずつ7日間読み進めたのち、最終日に10分間の講評を
行うというものだった、、、、、、。
「夢のあと」にまつわる物語には、作者ルソーと彼の理解者ピカソ、そして「夢」、「夢のあと」に
描かれている女性、ヤトヴィガなどが登場し、絵が描かれた謎に迫ります。 はたして、「夢の
あと」は真作なのか贋作なのか、そして、ティムと織絵の勝負の行方は、、、。
美術ミステリーとして超一級品であるだけでなく、ルソーに対する愛に満ちあふれた秀作。
「山本周五郎賞」受賞作。「ダ・ヴィンチ」プラチナ本 OF THE YEAR 2012受賞。
「王様のブランチBOOKアワード2012」大賞受賞。 オススメ度:8.4

コメント  生きるぼくら (原田 マハ著、徳間文庫)   作品の紹介 

いじめで高校を中退。 仕事もうまくいかず、ひきこもりとなった24歳の麻生人生。 12年前に両親は
離婚。 唯一の頼りだった母が書置きを残して突然失踪。 途方に暮れた人生は、母が残した年賀状を
頼りに父方の祖母、マーサばあちゃんこと真朝が暮らす蓼科に向かう。 しかし、祖母は健康なものの
健忘症になり、人生のことがわからない。 そこには、父の再婚相手の連れ子、21歳のつぼみが同居
していた。 人生はつぼみから父が亡くなったことを知らされる、、、。
祖母とつぼみ、人生の奇妙な共同生活がスタート。 人生は清掃のパートの仕事に就き、働き始める。
やがて、マーサばあちゃんは認知症となり、人生とつぼみに介護の負担がのしかかるが、二人は、祖母
が続けていた昔ながらの米づくりに挑む。 それは恐ろしく手間のかかるしごとだったが、マーサばあ
ちゃんを慕う蓼科の人たちに支えられ、二人は懸命に励む。 やがて、ばあちゃんの認知症も改善し、
収穫の季節を迎える、、、、、、。
著者らしいテイストの人生の応援歌みたいな作品。 主人公の名前を「人生」にしたのも、そういう意図が
あったのかも。 どちらかというと、若者に読んでもらいたいかな。 オススメ度:8.1

コメント  キケン (有川 浩著、新潮文庫)   作品の紹介 

ごく一般的な工科大学、成南電気工科大学のサークル「機械制御研究部」、略称【キケン】。
文字通りの危険人物である部長の上野、クールで冷酷な副部長の大神を中心に「キケン」は、、
恋に、学園祭に、ロボット相撲コンテストに、あらゆる場面で騒ぎを起こしていく、、、。
上野、大神 vs 下級生という構図の描き方が秀逸。 著者お得意のラブコメの要素も盛り込み、
マンガの原作にもできそうなエンターテイメント作品。 オススメ度:8.1

コメント  百瀬、こっちを向いて。 (中田 永一著、祥伝社文庫)   作品の紹介 

計4編を収録した恋愛小説集。 著者のペンネームは乙一さんの別名。
表題作はさえない高校1年生、ノボルのお話。 ノボルの幼馴染にして高校の先輩、宮崎は二股を
かけていた。 ひとりは公認の彼女。 そして、もう一人は秘密の彼女。 宮崎は公認の彼女の
疑いを晴らすため、ノボルに秘密の彼女、百瀬と付き合っているフリをしてほしいと依頼する。
最初はとまどいつつも、やがて百瀬を好きになってしまったノボルの恋の行方は!?
名作「くちびるに歌を」の著者の作品だけに「ジャケ買い」ならぬ「著者買い」をしたのだけれど、
若い人向けの恋愛短編集でちょっと苦笑い。 でも、クオリティー高くて、読みごたえも十分。
オススメ度:8.1

コメント  ホテルローヤル (桜木 紫乃著、集英社文庫)   作品の紹介 

北海道のさびれたラブホテル「ホテルローヤル」を舞台にした連作短編集。 計7編を収録。
ホテル経営者の娘、ホテルの客たちを描いた物語は、どれもやるせなさや倦怠感が全編に漂う
独特の世界観。 大きな事件が起こるわけではないけど、なんか心に引っかかる、そんな一作。
個人的には、芥川賞と直木賞の真ん中あたりのテイストの小説かな、という印象。
2013年「直木賞」受賞作。 オススメ度:8.1

コメント  ナミヤ雑貨店の奇跡 (東野 圭吾著、角川文庫)   作品の紹介 

空き巣をして3人の若者が逃げ込んだ廃屋。 そこはかつて悩み相談を請け負っていた雑貨店だった。
しかし突然、シャッターの郵便口から悩み相談の手紙が落ちてくる。 それは時空を超えた過去から
届いたナミヤ雑貨店店主、浪矢雄治あての悩み相談だった。 3人は戸惑いながらも店主に代わって
返事を書く、、、。
物語が進むにつれて、徐々に明らかになる過去からの手紙が届くわけ、若者たちが書いた返事の行く末、
そして、ある児童養護施設をめぐる登場人物たちの関係。 時空を超えた人と人のつながりの美しさを
描いた佳作。 人物相関図が複雑になるかならないかギリギリの印象ではありましたが、、、。
全世界で500万部を突破した大ベストセラー。 2012年「中央公論文芸賞」受賞作。
2017年映画化。 オススメ度:8

コメント  カッコウの卵は誰のもの (東野 圭吾著、光文社文庫)   作品の紹介 

かつてオリンピックにも出場した名スキーヤー、緋田宏昌は、妻との間にひとり娘、風美を授かる。
長期遠征中に娘が生まれた緋田は、自らの選手寿命の限界を感じ、一年後、引退する。
しかし、妻は幼い娘を残して自殺。 やがて緋田は、妻が長岡で新生児を誘拐して自分たちの娘と
して育てていたのではないかと疑い始める、、、、。
子どものころから才能を開花させた風美は、次世代の全日本のエースとして期待されるアルペンの
スキーヤーと成長していた。 高校を卒業し、実業団に入り、ワールドカップを目前に控えた風美の
もとに脅迫状が届く。 一方、緋田のもとに、風美の生みの親の夫と思われる上条がDNA鑑定を
依頼するために訪れる。 19年間の沈黙を破り白日のもとにさらされようとする風美の出生の秘密。
そんな中、風美が乗るはずだったバスに上条が乗車し、爆弾事故に巻き込まれる、、、。
やがて、脅迫状を書いたのが意外な人物であること、上条が緋田のもとを訪れた理由が明らかに
なり、事件は意外な方向に展開していく、、、、、、。
物語終盤は、どんでん返しの連続。 精緻に練られたエンターテイメント性の高いミステリーととるか、
ややこしいストーリーととるか、評価のわかれるところでは。 ちなみに私の意見は後者でした。
2016年、WOWOWでドラマ化。 オススメ度:8

コメント  シンメトリー (誉田 哲也著、光文社文庫)   作品の紹介 

ヒット作「姫川玲子シリーズ」の第3弾。
警視庁捜査一課の刑事、姫川玲子の活躍を描いた計7編を収録。 シリーズ初の短編集。
表題作「シンメトリー」をはじめ、2012年にドラマ化された「過ぎた正義」など佳作がずらり。
短編になっても、クオリティーとリーダビリティーの高さは健在。
第1作、第2作のブックレビューはコチラ。   オススメ度:8.1

コメント  インビジブルレイン (誉田 哲也著、光文社文庫)   作品の紹介 

ヒット作「姫川玲子シリーズ」の第4弾。
ヤクザの惨殺死体が発見され、警視庁捜査一課 姫川班が捜査に加わる。 警察に「犯人は柳井健斗」
というタレ込みが入るが、刑事部長から柳井を捜査してはならない、という命令が下る。
ほんとうに柳井が犯人なら、9年前に警視庁が犯した失態が明らかになるため、刑事部長は捜査一課長
に厳命するが、玲子は単独で柳井の捜査を開始。 やがて、柳井から警察の情報を買っていた牧田という
ヤクザと出会い、好意を抱く。 続いて牧田の兄貴分の組長が射殺され、続いて柳井の自殺死体も発見
される。 玲子は牧田を疑うが、、、、、。
このシリーズらしい骨太の作品。 複雑な事件、玲子の恋、警察のメンツ、いろんな読みどころ満載。
でも、いろんな意味でせつないラスト。 オススメ度:8.3

コメント  ブルーマーダー (誉田 哲也著、光文社文庫)   作品の紹介 

ヒット作「姫川玲子シリーズ」の第6弾。
池袋の繁華街の雑居ビルの空き室で、20ヵ所近くを骨折した暴力団組長の撲殺死体が見つかる。
さらに同じ手口で暴走族のOBと不良中国人が殺害される。 池袋署の刑事、姫川玲子は、捜査を
進めるうち、裏社会を恐怖で支配する闇の殺人鬼「ブルーマーダー」の存在に気づく、、、。
やがて事件は一転二転し、玲子はかつての部下、菊田とともに事件解決に命をかける、、、。
あいかわらずのドライブ感、精緻な構成、そして、リーダビリティー。 とはいえ、本作は犯人の視点
でストーリーが進んでいき、玲子の存在感がやや小さかったかな、という印象。
第5作のブックレビューはコチラ。   オススメ度:8.2

コメント  横道世之介 (吉田 修一著、文春文庫)   作品の紹介 

大学進学で長崎から上京した横道世之介のお話。 大きな事件が起こるわけではなく、大学入学の
4月から翌年の3月までの世之介の学生生活、バイト、恋、家族への思いを描いた佳作。
現在進行形の話に挿入される世之介の友人たち、恋人、憧れの女性のその後のお話もグッド。
物語終盤で明かされる世之介のその後が彼らしくもあり、せつなくもあり。
これまでの著者の作品とはひとあじ違った、青春ど真ん中を描いた直球の一作。
世界観もナイス、リーダビリティーも秀逸のデキ。 2010年「本屋大賞」第3位。 2013年映画化。
オススメ度:8.2

コメント  パーフェクトフレンド (野崎 まど著、メディアワークス文庫)   作品の紹介 

小学四年生の優等生、理桜。 担任の千里子先生から不登校の少女、さなかの家を訪ねるよう頼まれる。
能天気少女のややや、引っ込み思案の柊子とともに理桜はさなかの家に向かうが、姿を現したさなかは、
イギリスの大学で数学の博士号を取得した天才少女だった。 学校に行くことを免除され、本人も学校に
行くことに価値を見出せないでいたが、さなかは「友達」という関係に興味を持ち、学校に行き始める。
そんなさなかに理桜は、友だちがいかに大切であるかということを説明する。 さなかも次第に友だちの
概念を理解していくが、友だちの関係を方程式で表す始末。 そんなさなかに大事件が起こる。 そして、
失意のさなかの前に魔法使いが現れ、すてきな魔法を見せる、、、、、、。
中盤までは、天才少女、さなかと理桜の友だち論議というか掛け合いが続く展開。 しかし、中盤で予測
不可能の大事件が起こり、終盤のまさかの奇跡へと続く構成は、やはりこの著者の才能ならでは。
読後感のよい作品。 オススメ度:8.1

コメント  Iターン (福澤 徹三著、文春文庫)   作品の紹介 

中堅広告代理店のリストラ候補、狛江、47歳。 閉鎖目前の北九州支店に所長として異動するも、
部下は2人。 おまけに、ヤクザ相手の仕事でミスをし、さらにはそのヤクザの対立する相手のヤクザ
の舎弟にされてしまう。 多額の借金を抱え、犯罪まがいのことをやってのける狛江の未来は???
深刻なタッチではなく、コメディータッチで描いてはいるものの、なんだかストレスのたまる作品。
オススメ度:7

コメント  殺人鬼フジコの衝動 (真梨 幸子著、徳間文庫)   作品の紹介 

川崎市のマンションで両親と妹と暮らすフジコ、11歳。 両親から愛情を注がれず、クラスでも
いじめの対象。 フジコは突然、両親と妹を殺人事件で失い、叔母、茂子に引き取られる。
茂子の夫、そして茂子の息子、3歳下の健太との新しい暮らしが始まるが、そこもフジコにとって
安息の場ではなかった。 ささいなことからフジコは同級生を殺害。 ここから15人殺害の歴史が
始まる。 やがて、高校生で妊娠、高校を中退して結婚するも、フジコに安らかな日々は訪れず、
殺人を繰り返していく、、、、、、。
物語はフジコの娘、早季子がフジコの犯罪を克明に記録した小説を早季子の妹、美也子が世に
出すかたちで構成されています。 しかし、その美也子にも身の危険が及ぶという衝撃のラストは
ホラーよりもおそろしいかも。 オススメ度:8.1

コメント  インタビュー・イン・セル 殺人鬼フジコの真実 (真梨 幸子著、徳間文庫)   作品の紹介 

「殺人鬼フジコの衝動」のその後を描きつつ、フジコの事件の真実をあぶり出す続編的な作品。
フジコが引きとられた叔母、茂子の家でともに暮らした従兄弟の下田健太が5人を殺害した罪で
起訴される。 共犯の女は罪を認め、刑務所内で自殺するが、死刑を求刑された健太は証拠
不十分で釈放される、、、。
「月刊グローブ」の編集者、井崎智彦、村木里佳子、そして構成作家の吉永サツキの三人は、
健太の母であり、フジコの叔母である下田茂子のもとにインタビューに向かう、、、、、、。
物語は、健太の半生を追いながら、やがて、前作でフジコが犯した殺人との関連、そして驚愕
のラストを迎えます。 前作を巧みに生かした一級品のミステリー。 前作が直球の怖さだと
したら、本作は変化球の怖さ。 二冊一気読みするのが正解。 オススメ度:8.3

コメント  風の陣【天命篇】 (高橋 克彦著、PHP文芸文庫)   作品の紹介 

「風の陣」シリーズの第三作(全五巻)。
恵美押勝が討伐されてから一年後の七六五年。 孝謙上皇が帝位に返り咲くが、道鏡が巧みに女帝に
取り入り、政治も人事も思いのままに操るようになっていた。 嶋足の婚約者、益女も道鏡の策謀により
命を落とす。 嶋足は天鈴、坂上苅田麻呂とともに道鏡失脚というとてつもない難題に取り組むため、
道鏡と弟の浄人の懐に入ったふりをして、機会を待つ。
その一方で、蝦夷の平穏な暮らしにも心を砕き、鮮麻呂を中心とした長たちの結束を固める。
嶋足、天鈴、坂上苅田麻呂は、天皇の側近の弟、和気清麻呂を仲間に引き入れ、法王となった道鏡を
陥れる大きな賭けに出る、、、、、、。
ますます冴えわたる参謀、天鈴の奇抜な戦術の数々。 第一巻、第二巻から続くリーダビリティーの高さ。
あまりなじみのない奈良時代のお話をこれだけ熱く書ける筆者の手腕はさすが。
シリーズ第一作、第二作のブックレビューはコチラ。 シリーズ特設サイトはコチラ。  オススメ度:8.4

コメント  風の陣【風雲篇】 (高橋 克彦著、PHP文芸文庫)   作品の紹介 

「風の陣」シリーズ第四作(全五巻)。
嶋足、天鈴、坂上苅田麻呂は、ついに道鏡を失脚させることに成功。 称徳天皇(先の孝謙上皇)も
崩御し、藤原氏も復権に向けて動き始める。
一方、陸奥の地でも、鮮麻呂が新たに築城された伊治城を預かることとなり、新たな時代を迎える。
第三作に比べると、やや動きが少なかったものの、いよいよ物語は最終巻のクライマックスに向けて
動き出します。 オススメ度:8.2

コメント  あんじゅう (宮部 みゆき著、角川文庫)   作品の紹介 

正式タイトルは「あんじゅう 三島屋変調百物語事続」。 「三島屋変調百物語」シリーズの第二作。
四編を収録した連作短編集。 タイトルの「あんじゅう」とは第三話の「暗獣」から。 600ページの大作。
神田で袋物屋「三島屋」を営む叔父夫婦のもとで働くおちかは、口入屋の紹介で訪れる人たちから
ふしぎな話を聞き集めている。 あるときは、この世のものではないことが起こすふしぎを、あるときは
生身の人間が引きおこす不可思議を聞き、時には問題の解決に力を貸す。 生家で自らにふりかかった
陰惨な事件が原因で心が晴れなかったおちかだったが、百物語が縁で様々な人のやさしい心根にふれ
たり、新たな仲間を得て、少しずつ生気を取り戻していく、、、。
第一作に続き、独創的で中身の濃い作品ばかり。 リーダビリティーもばつぐん。 二冊分の価値がある一冊。
シリーズ第一作のブックレビューはコチラ。  2014年、NHK BSでドラマ化(第一作)。 オススメ度:8.4

コメント  楠の実が熟すまで (諸田 玲子著、角川文庫)   作品の紹介 

大坂 楠葉村の郷士の娘、利津は21歳。 御徒目付の伯父の依頼で、公家の不正を暴くため、
隠密として、京の公家、高屋家に後妻として嫁入りする。 夫の康昆は利津をたいせつに想う
心根のやさしい男であり、前妻との間に設けた6歳の息子も利津になついてくれた。
しかし、夫の弟が屋敷内に幽閉されていたり、公家たちが集まり密談を繰り返すなど、高屋家
には、秘密が数多く隠されているように思われた。 やがて、家の老僕、女中と次々に殺害される。
公家たちの不正をめぐり事件に巻き込まれる利津。 本来であれば、隠密の役目を終え、実家に
戻ってもよいはずであったが、利津は夫をほんとうに愛するようになっていた、、、。
高品質なミステリー時代小説。 恋愛小説の側面もあるけど、物語終盤に一気に事件の全貌が
明らかになる展開はみごと。 そして救いのあるラストにも共感。 オススメ度:8.1

コメント  童子の輪舞曲(ロンド) (仁木 英之著、新潮文庫)   作品の紹介 

大ヒット作「僕僕先生」シリーズの第七弾。 計六編を収録した短編集。
蚕嬢、第狸奴、司馬承禎、雷神などシリーズでおなじみのキャラたちを扱った数々のお話。
最終話は現代が舞台。 シリーズ・ファンの読者のための箸休め的な作品。
シリーズ第五作、第六作のブックレビューはこちら。  オススメ度:8

コメント  一鬼夜行 花守り鬼 (小松 エメル著、ポプラ文庫)   作品の紹介 

「一鬼夜行」シリーズの第三作。
古道具屋を営む人嫌いの喜蔵が小鬼の小春や妹の深雪、隣人、友人、店の客と花見に出かける。
ところが桜の木の下では、妖怪や付喪神たちが喜蔵一行相手に次々と悪さを仕掛けていく、、、。
第一作、第二作とは趣の異なる作品。 小春の活躍がやや控えめな印象だけど、その分、喜蔵と
深雪の絆や隣人、綾子の心の奥を丹念に描いています。
シリーズ第一作、第二作のブックレビューはこちら。  オススメ度:8

コメント  岳飛伝 1 三霊の章 (北方 謙三著、集英社文庫)   作品の紹介 

「水滸伝」、「楊令伝」に続く「北方水滸伝シリーズ」三部作の第三作「岳飛伝」(全17巻)。
頭領、楊令が暗殺され、洪水にも見舞われた梁山泊は、領地が荒れ、商いの物流にも大きな被害が
出ていた。 最長老の呉用や水軍隊長の李俊らが立て直しを図るが、その道は険しかった。
楊令に右腕を切り落とされた南宋の岳飛は、自らの軍の増強を図っていた。
ウジュとダランに率いられた金軍が南宋に攻め入る。 張俊軍は長江の南で様子見をするが、岳飛は
果敢に戦う。 梁山泊も、史進、呼延稜、秦容、山士奇らが金軍に攻撃をしかけ、金軍は退却する。
梁山泊は、呉用を新たな頭領とし、再起を図るが、楊令の時代とは異なり、各軍の将軍が自らの判断
で動く自律型組織に変貌しつつあった。 やがて、領地内の水路や物流も徐々に復旧の兆しを見せ
始めていた、、、。
金のウジュは楊令の遺児、胡土児を養子とし、南宋の秦檜は宰相に復帰し、漢土統一に奔走する。
いよいよ「北方水滸伝」最終章の幕開け。 梁山泊も耿魁(こうかい)など新しい人材が加わり、「水滸伝」、
「楊令伝」同様、今後、世代交代が進むのかな、という予感。 しかし、肝心の岳飛の立ち位置は、まだ
南宋の軍閥のまま。 オススメ度:8.1

コメント  岳飛伝 2 飛流の章 (北方 謙三著、集英社文庫)   作品の紹介 

子午山では公淑が最期のときを迎え、王進も妻の後を追うように、自らの意思で静かに死のときを
迎える。 こうして、楊令、史進など多くの男たちを鍛えた子午山はその役目を終える。
岳飛は、金軍が試しにしかけてきた戦いを蹴散らし、再び軍の増強に努める。 そして、元梁山泊の
医師である毛定のおかげで義手を得る。
南宋水軍の韓世忠は、張朔、狄成が率いる梁山泊の交易船、水軍に奇襲を仕掛けるが、惨敗を喫する。
張朔は物流の道を広げるため南宋を越えて南の地に向かう。
梁山泊では、主だった幹部が集められ、今後の方向、体制について議論を重ねる。 呉用は全体を統べる
頭領ではあるが、それぞれの担当にも頭領を置く体制に落ち着く。 宣賛の息子、宣凱は、呉用のもとで
聚義庁の政務の核となりつつあった。
金のウジュは、南宋を叩く前に梁山泊を壊滅させる意思を固め、二十万の軍でダランとともに戦いを挑む。
梁山泊は、呼延稜が戦の指揮をとり、史進、秦容、山士奇、蘇hが八万の軍で迎え撃つ、、、。
楊令亡き後の梁山泊の姿が徐々に見えてきた巻。 岳飛と王清がすれ違ったり、元梁山泊の男たちが
岳家軍に加わったり、岳飛と梁山泊のつながりが垣間見えた巻でもありました。 オススメ度:8.2

コメント  銀漢の賦 (葉室 麟著、文春文庫)   作品の紹介 

西国の小藩、月ヶ瀬藩の名家老、松浦将監と群方の下録の武士、日下部源五。 固い絆で結ばれた
幼馴染の二人だったが、仲間の農民が起こした一揆がきっかけとなり、袂を分かち、二十年にわたって
絶縁状態が続いていた。 しかし、余命一年と告知され、藩の行く末に決死の覚悟で臨む将監のために
源五も身命を賭して立ち上がる、、、。
主人公の二人はもちろん、周りを彩る人物たちの人物造形が秀逸。 人としての正しい心根のあり方を
問いかける秀作。 2007年「松本清張賞」受賞作。 オススメ度:8.1

コメント  秋月記 (葉室 麟著、角川文庫)   作品の紹介 

九州の小藩、秋月藩で、独裁者のごとく振る舞う家老、宮崎織部。 間小四郎は志を同じくする仲間の
藩士たちとともに立ち上がり、家老の排除に成功する。 しかし、小四郎たちは、秋月藩の乗っ取りを
目論む本藩、福岡藩の策謀に利用されたことを知り、愕然とする。
小四郎と仲間たちは、新生秋月藩の中枢を担う存在となるが、やがて仲間たちとの絆も揺らぎ始める。
そんな小四郎に絶体絶命の危機が訪れ、死を覚悟するが、仲間の助けで九死に一生を得る。
そして、小四郎は、その後も秋月藩を守るため、捨て石となる覚悟で役目に励むが、、、、、、。
志のために生きる主人公の生き方は潔いものの、もうちょっと救いがあってもいいのではないかと思って
しまった作品。 あくまでもストイックなその生き方に読者がついていけるのか、、、。
オススメ度:8.1

コメント  東洲しゃらくさし (松井 今朝子著、PHP文庫)   作品の紹介 

上方の歌舞伎作者の大物、並木五兵衛は、江戸進出を決意し、大道具の彩色担当、彦三を先発させる。
彦三は、江戸で有名な版元、蔦屋重三郎のもとに身を寄せ、徐々に江戸の水になじんでいく。
やがて、蔦屋が試しに彦三に描かせた役者絵が大きな評判を呼ぶ。 遅れて江戸入りした五兵衛も、
もはや彦三を歌舞伎の世界に呼び戻すことはなかった、、、。
五兵衛が江戸で最初に手掛けた作品は惨敗。 しかし、決死の覚悟で復活にかけ、やがて江戸でも
評判の作者になっていく、、、。
大きな謎につつまれた写楽の正体が実は上方の大道具の職人だったということを描くとともに、歌舞伎
の世界に生きる作者、役者、裏方の哀しさ、せつなさ、歓びを描いた作品。 タイトルは写楽のことだけ
ではなく、五兵衛の江戸への思い、気概を語っているのでしょう。 オススメ度:8.1

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