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読書感想文2013 part 4
「読書感想文2013」 part4は、7月〜8月の読書録です。
↓ Click NOVEL mark !
ダブル・ジョーカー (柳 広司著、角川文庫)
作品の紹介
計6編を収録した連作短編集。 大ヒット作「ジョーカー・ゲーム」の第2弾。
昭和12年、陸軍の結城中佐は、スパイ組織「D機関」を設立。 陸軍の外から人材を集め、型破りな手法で
スパイを養成し、次々と実績を残していく。 しかし、陸軍の伝統を否定したかのような結城のやり方をこころ
よく思わない幹部も多かった。 陸軍ナンバー2の阿久津中将は、諜報機関設立を具申した風戸中佐に、D機関
に対抗し得るスパイ組織をつくるよう命じる。 風戸は、さっそく陸軍内のエリートから選抜した「風機関」なる秘密
組織をつくりあげる。 そして、ついに、D機関と雌雄を決する事案が発生し、現場に向かう、、、、、、。
第一作に続き、ハイクオリティーな作品がずらりとならんだスパイ小説。 第一作、第二作とも大好評。
第三作「パラダイス・ロスト」も刊行されています。
「このミステリーがすごい!2010年版」国内部門:第2位、「2009年 文春ミステリーベスト10」国内部門:第2位。
おススメ度:8.2
「ジョーカー・ゲーム」のブックレビューはコチラ。
ツナグ (辻村 深月著、新潮文庫)
作品の紹介
死んだ人にもう一度会わせてくれる使者(ツナグ)。 都市伝説にも近い噂話を頼りに、人々は苦労の末、
ツナグにたどり着く。 そして、死者への仲介をツナグに依頼する。 ただし、会いたい死者が断ることもある。
依頼者が死者に会えるのは、一生にひとりだけ。 死者が生きている人に会えるのも一度だけというきまり。
この作品は、ツナグとなった高校生の男子、歩美と依頼人4人の物語。 一章から四章までは、立場や年齢の
異なる4人の依頼者が歩美を通して、死者と再会する連作短編のような体裁。 そして、最終章で歩美がツナグ
になった経緯と、4人からの依頼の裏側、歩美の心の揺れが明らかになる。
死者に会うという設定に先入観や違和感を持たないで、すなおに読み始めたら、すばらしい小説。
生者が死者に会いたい事情や気持ち、せつなさ、そして、死者が生者を思いやるこころが美しく描かれています。
一章から四章までで、十分に感動したけど、最終章が、また、すばらしいできばえ。 心に染みいる名作。
「吉川英治文学新人賞」受賞作。 おススメ度:8.6
ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。 (辻村 深月著、講談社文庫)
作品の紹介
東京で暮らす梁川みずほのもとに、山梨の実家から連絡が入る。「幼馴染の望月チエミが母親を殺して逃亡した」と。
チエミの行方を捜すべく、みずほは、共通の友人や恩師、チエミの同僚などを訪ね歩く。
みずほは、現在30歳。 東京でフリーライターをしており、夫と二人暮らし。
チエミとは家が近所で、中学までは仲がよかったが、高校が別になり、みずほが東京の大学に進学してからは
付き合いが途絶えていた。 大学卒業後、母の怪我をきっかけに、みずほが地元、山梨に帰郷してからは、一緒に
合コンに出かけるようになるが、結局、みずほは、結婚を機に東京に戻る。
チエミは、幼いころから、まじめで引っ込み思案な女性だった。 地元の短大を卒業後、建築会社のOLとして地道
に働いていた。 やがて、山梨に赴任してきた、みずほの大学時代の友人、大地と付き合うようになる。
みずほが訪ねた友人たち、小学校時代の担任、元同僚からチエミの犯行の動機や逃亡先のヒントになるような話は
聞けなかった。 しかし、仲のよかった友人たちから聞かされるチエミに対する本音は痛烈なものだった。
そして、みずほも、チエミと対等の立場の親友ではなく「かばっていた」と指摘されて、胸が痛む。
何の収穫もないまま進んでいたみずほの取材は、チエミの元恋人、大地に会ったことで、進展を見せる、、、。
という感じで、みずほが、事件の真相にたどり着くまでの過程を、彼女の視点で描いたのが、第一部。
そして、第二部は、事件から現在までの日々が、チエミの視点で書かれています。
ミステリーとしても一級品ですが、20代の女性たちの心理、本音、嫉妬、格差、価値観などがストレートに描かれて
います。 特に、格差に関しては、地域、学歴、容姿、家庭など、さまざまな角度で、これでもかというくらいあぶり
出されており、これまでの著者の作品とは違った作風を感じました。
「本の雑誌」20012年度「エンターテインメント部門」文庫:第1位。 「直木賞」候補作。 おススメ度:8.3
思いわずらうことなく愉しく生きよ (江國 香織著、光文社文庫)
作品の紹介
「思いわずらうことなく愉しく生きよ」が家訓である犬山家の三姉妹の物語。
長女の麻子は36歳。結婚7年目の専業主婦。ふだんは物静かな夫、邦一のドメスティックバイオレンスに
耐える日々を送っている。しかし、離婚する気はない。
次女の治子は34歳。アメリカ留学経験のある、外資系企業のキャリアウーマン。売れないライター、熊木
と同棲中。家事は、もっぱら熊木の担当。でも、それでうまくいっている。
三女の育子は29歳。服飾系の専門学校を卒業したが、自動車教習所の事務員として働いている。
心やさしいピュアな女性。恋愛を信じられないが、男と寝ることは厭わない。
それぞれに事情を抱えながらも、自分なりにバランスを保っていた三姉妹の結婚生活や恋愛に変化が現れ
始めて、、、、、、。
三姉妹の人物造型が秀逸。 特に三女の育子のキャラは最高。
女性向けの小説なんだろうと思いながらも、タイトルのすばらしさに惚れ込み、ジャケ買いならぬタイトル買い
をしてしまった一冊。 とは言え、江國の小説は何冊も読んでいるので、何の心配もしませんでしたが、、、。
男性が読んでも、おもしろいはず。 おススメ度:8
贖罪 (湊 かなえ著、双葉文庫)
作品の紹介
15年前、静かな田舎町で転校生の女の子、エミリが男に殺害される。直前まで一緒に遊んでいた
四人、紗英、真紀、晶子、由佳は、犯人の顔を思い出せず、事件は迷宮入りとなる。
事件から3年後、エミリの母、麻子は、中学1年になった紗英たち四人を呼び出し、こう告げる。
「あんたたちは人殺しよ。わたしはあんたたちを絶対に許さない。時効までに犯人を見つけなさい。
それができないのなら、わたしが納得できるような償いをしなさい。そのどちらもできなかった場合、
わたしは、あんたたちに復讐するわ」
そして、25歳になった紗英たち四人に悲劇の連鎖が始まる。
紗英は、結婚して幸せになったかに見えたが、新婚の夫を殺してしまう。真紀も、晶子も、由佳も、
殺意があったかどうかはともかく、人を殺してしまう、、、、、、。
しかし、悲劇の連鎖は、エミリが生まれた時から始まっていた、、、、、、。
いやぁ、おもしろかったです。 そして、著者の代表作「告白」よりもこわかったです。
作品のレベルは、超高いとは思うのだけど、この小説を「好き?」かと聞かれたら、「はい」と言えないかも。
2012年ドラマ化。 おススメ度:8.7
人生ベストテン (角田 光代著、講談社文庫)
作品の紹介
表題作(「人生ベストテン」)を含む計6編を収録した短編集。
同棲相手と別れるつもりなのに、とりあえずイタリア一人旅に来てしまった女。
飛行機で隣り合わせになった女が気になって、ただ話をするためだけに職場と自宅に押しかけてしまう男。
15年の交際の後、結婚したのに、3年後、離婚することになったとたん妊娠してしまった女。
この作品の主人公たちは、解説のイッセー尾形さんのことばを借りれば、「行くあてのない」人ばかり。
表題作「人生ベストテン」の主人公、鳩子も、そんなひとり。 40歳を前にして、人生ベストテンにランクイン
するできごとは、18歳までのことばかり。 年相応の充実感や達成感もなく、独身のまま、ここまで来てしまった。
そんな彼女のもとに、中学校の同窓会の知らせが届く。 鳩子は、中学二年の時に、3週間だけ付き合った男に
会いたくて同窓会に出かけるが、思わぬオチが彼女を待ち受けていた、、、。
ハッピーな話じゃないのだけれど、どこかユーモラスで、肩肘張らずに読める佳作。 これも著者の筆力ゆえの
ことでしょうか。 著者のファンなら必読モノ。 おススメ度:8
警官の紋章 (佐々木 譲著、ハルキ文庫)
作品の紹介
「笑う警官」、「警察庁から来た男」に続く、人気の「北海道警察シリーズ」第三作。
洞爺湖サミットを目前に控え、北海道警察本部は、準備に追われていた。
札幌の大通警察署、刑事課の佐伯警部補は、二年前に、かつての仲間、津久井を守るために、組織から逸脱した
捜査を行った責任を問われ、今は部下ひとりの身分。 今回のサミットシフトとは距離を置いた立場にある。
そんな折、愛知県警の刑事から、二年前に佐伯が捜査を中断させられた事件に関する情報を知らされる。
事件がまだ決着していないと疑問を持った佐伯は、単独で事件の捜査を始める。
北海道警察本部警察学校で教官を務める津久井巡査部長は、二年前、道警の腐敗を証言したため、捜査現場から
遠ざけられ、監視の対象になっていた。 しかし、その後、功績を挙げたこともあり、サミット向けて、道警本部
警備部へ出向となる。
二年前、佐伯とともに、津久井を助けた小島百合巡査は、大通署の生活安全課から警備部に出向となり、警視庁の
SPとともに、サミット担当大臣、上野麻里子の警護にあたることになる。
津久井と小島の着任直後、北見署の日比野巡査が、拳銃を所持したまま失踪する。 日比野の父は、津久井と同じく、
道警の腐敗に関する証言を求められていたが、出廷前日に自殺していた。 津久井は、内部監察のベテラン、長谷川
とともに、日比野の捜査を命じられる。
佐伯と津久井は、それぞれの捜査を通じて、日比野の父を自殺に追い込んだ人物にたどりつく。 日比野はサミット
警備の結団式に、その人物の命を狙って現われるとふんだ佐伯と津久井は、日比野を待ち受ける。 一方、小島も
大臣警護で、サミット警備の結団式の会場に向かう、、、、、、。
前二作に続き、ハイクオリティーのできばえ。 ただ、この巻は、第一作とのつながりが深いので、第二作はともかく、
第一作を読んでから手にした方がいいかもしれません。 あと、佐伯の追う事件が、メドはたったとは言え、最終的な
決着を見ずに終わってしまったことに多少のもやもや感がありました。
シリーズ第一作「笑う警官」のブックレビューはコチラ。
シリーズ第二作「警察庁から来た男」のブックレビューはコチラ。
おススメ度:8
風の陣【立志編】 (高橋 克彦著、PHP文芸文庫)
作品の紹介
全五巻の歴史小説。 「立志編」は、第一部。
八世紀中頃、朝廷は、東北に暮らす民、蝦夷(えみし)を蔑み、力で抑えようとしていた。
折りしも、朝廷の蝦夷鎮圧の拠点、多賀城の近くで金が見つかり、蝦夷に対する締め付けが厳しくなると思われたが、
奈良の都では、藤原仲麻呂と橘奈良麻呂の権力争いが佳境を迎えていた。
蝦夷の若者、丸子嶋足(しまたり)は、都で出世し、自らが陸奥守(むつのかみ)となることが蝦夷を守ることになると
信じ、都にのぼる。 大内裏の警護の仕事につき、八年、嶋足は二十三歳になっていた。 そんな嶋足の前に十七歳の
若者、物部天鈴(てんれい)が現れる。 天鈴は、奥州の経済の要、物部氏の次期当主であり、以後、物心両面で嶋足を
支える。 天鈴の手引きで、嶋足は、都で有数の武人、坂上苅田麻呂に仕えることになり、官位を得る。 苅田麻呂からも
信頼され、重要な仕事をまかされるようになるが、それは、仲麻呂と奈良麻呂の争いの真っただ中に身を置くことだった。
武骨一辺倒だった嶋足も、天鈴と行動を共にするようになり、徐々に政(まつりごと)の仕組みを理解し始める。
奥州では、蝦夷の次期頭領と目される鮮麻呂(あざまろ)が十三歳になり、嶋足、天鈴と蝦夷の未来を描き始める。
やがて、仲麻呂が政界で優位に立ち、追いつめられた奈良麻呂が反乱を企てる、、、。
蝦夷を描いた名作「火怨(かえん)」、「炎(ほむら)立つ」の著者、高橋克彦さんの作品。
この二作に深く感動した私としては、刊行当初から気になっていた作品でした。 「火怨」、「炎立つ」と違って、都が舞台
ではありますが、作品の根底に流れる蝦夷の熱い魂は健在。 第二巻も、当然、読むつもりです。 おススメ度:8.3
風の陣【大望編】 (高橋 克彦著、PHP文芸文庫)
作品の紹介
全五巻の歴史小説。 「大望編」は、第二部。
奈良の都を震撼させた奈良麻呂の乱から三年半が過ぎた七六〇年、蝦夷の若者、丸子嶋足は、牡鹿嶋足と名乗り、
帝の警護の仕事についていた。 政敵、橘奈良麻呂を葬った藤原仲麻呂は、恵美押勝と名を改め、新帝を操り、
権力を一手に握っていた。 しかし、恵美押勝の後ろ盾の一人であった皇太后の死をきっかけに、押勝の権力に
陰りの前兆を見た物部天鈴は、二年ぶりに都を訪れる。 この時、嶋足、二十六歳。 天鈴、二十歳。
嶋足と天鈴は、大宰府で不遇をかこっている吉備真備を、反押勝の旗頭にすべく、工作を始める。
天鈴は、物部氏とつながりのある弓削(ゆげ)氏の浄人(きよひと)を通じて、兄の道鏡(どうきょう)と接触。
道鏡を、女帝(孝謙天皇)であった前天皇(上皇)の側近に送り込む。 やがて、政(まつりごと)の実権は、上皇に
移り、道鏡も、僧侶を束ねる立場に出世する。 嶋足と天鈴は、さらに、紀一族の末裔、紀 益人、益女の兄妹を仲間
に加え、念願であった吉備真備の都への復帰を実現させる。
嶋足は、益女に求婚し、結婚の約束を交わすが、益女は、予知能力を買われ、道鏡に仕えることになる。
出世するとともに、操縦が難しくなっていく道鏡に不安を覚えながらも、嶋足と天鈴は、押勝失脚の工作を進める。
そして、二人の思惑通り、ついに、押勝が謀反の兵を挙げる、、、、、、。
この巻の終盤で、嶋足のまっすぐさと天鈴のしたたかさ、そして二人の執念がついに実を結びます。まずは、ひと段落、
ひと区切りといったところでしょうか。 とはいえ、次は、道鏡が二人の前に立ちはだかる予感が、、、。
おススメ度:8.3
お鳥見女房 (諸田 玲子著、新潮文庫)
作品の紹介
江戸時代のお話。 舞台は雑司ヶ谷。 人気シリーズの第一作。
矢島珠世は、四十歳。 御鳥見役を務める小禄の御家人の家に生まれ、婿をとり、四人の子をなした。
御鳥見役とは、将軍家の鷹場の巡検、鷹狩の準備、鷹の餌となる鳥の生息状況を調べる役目。
しかし、後継ぎが一人前になると、公の役目とは別に、隠密として裏の任務に就くことになる。
珠世の父、久右衛門は、御鳥見役を務めあげ、六十七歳となった今は、隠居の身。 現在は、夫の伴之助と
二十三歳の長男、久太郎が御鳥見役として出仕している。 長女の幸江は旗本の家に嫁ぎ、五歳の男子の母
となっている。 生活は楽ではないが、平和だった矢島家の生活に変化が訪れる。
まず、父、久右衛門を頼って、小田原藩の浪人、石塚源太夫が五人の子どもとともに居候することになり、
続いて、次男、久之助の頼みで、沢井多津という二十歳の女性も居候することになる。
しかも、夫、伴之助は、裏の役目で沼津に出かけ、長く家を空けることに、、、。
さらに、源太夫が、多津の父の敵であり、二人は、果たし合いを始めようとするが、珠世が「矢島家で暮らす
間は、果たし合いはならぬ」と、その場をおさめる。
結局、源太夫も、多津も、そのまま、一年、矢島家で居候を続けることになる。 しかし、夫の伴之助は沼津で
消息を絶ち、戻ってこない。 やがて、源太夫と多津の関係も変わり始めるが、、、、、、。
次から次へと騒動や難題が持ち上がっても、珠世は、持ち前の明るさと機転で動じることなく、前に進んでいきます。
そんな珠世を中心に、矢島家と居候の人たちの、人を思いやる気持ちをすがすがしく描いた秀作。
この巻で決着がつかない問題を持ちこして、物語は、第二作(「蛍の行方」)に続きます。 おススメ度:8.2
其の一日 (諸田 玲子著、講談社文庫)
作品の紹介
全四編収録の短編集。 江戸時代のお話。 その人にとって特別な一日を描いた作品。
新井白石の弾劾によって失脚した勘定奉行、荻原重秀の罷免直前の一日。
夫が遊女と無理心中を遂げたと知らされた、旗本の妻、弥津の一日。
謹厳実直だった父が、裏で黄表紙を書いていたことを知った、小藩の若者、寿一郎の一日。
かつての愛人、井伊直弼の命を狙う動きをつかんだ、井伊家の密偵、可寿江の一日。
「其の一日」という共通項以外は、自由に多彩に書かれています。
どの作品も、長編にできるくらい中身の濃いお話。 かなりぜいたくな短編集です。
「吉川英治文学新人賞」受賞作。 おススメ度:8.2
海翁伝(かいおうでん) (土居 良一著、講談社文庫)
作品の紹介
1562年、蝦夷(北海道)、徳山を治める蠣崎 季広(かきざきすえひろ)の元を訪れた若狭の商人、淡路屋
丹下は、季広の息子で弱冠15歳の慶広(よしひろ)の器量を見抜き、彼に賭けてみる気になった。
丹下は、さっそく甥の秀桂(しゅうけい)を、慶広の教育係として、徳山に差し向ける。 秀桂は、40歳を
過ぎた時宗の僧だが、商いはもとより、連歌や茶禅にも通じた人物だった。
丹下は、続いて、別の甥、修験僧の峰順(ほうじゅん)に命じて、蠣崎家の祖先に連なる瀬戸内海の水軍、
河野氏、村上氏の様子を探らせた後、徳山に送り込む。
やがて、丹下自身も、淡路屋を退いて、徳山に移り住み、往生をとげる。
慶広は、村上家の娘を娶り、息子が生まれる。 時代は、その後、信長、秀吉、家康と覇権が移り変わる。
季広から家督を継いだ慶広は、秀吉から蝦夷の地を託される。 やがて、秀吉の朝鮮出兵や秀次を廃した
ことに不安をおぼえた慶広は、他大名に先んじて、家康に仕えることを誓う。 こうして、家康の時代と
なっても、蝦夷の地を安堵された慶広は、松前と姓を改め、一族の安泰を図るが、家督を継がせた盛広の
器量に不安をおぼえる、、、、、、。
今まであまりなじみのなかった蠣崎家、松前家のことを知ることができたのが収穫。 北の地にあるハンデを
ものともせず、戦の場に兵を送ることなく、秀吉、家康に仕えた慶広の才覚はみごとなものでした。
しかしながら、一族の人物関係が、かなり複雑で、(巻頭の)家系図と行ったり来たりの繰り返し。
作品としては、すばらしいだけに、この部分がちょっと惜しい気がしました。 おススメ度:8
ないしょ ないしょ (池波 正太郎著、新潮文庫)
作品の紹介
正式タイトルは「ないしょ ないしょ 剣客商売 番外編」。
越後、新発田(しばた)の神谷弥十郎の道場で下女として働いていたお福は、主人が暗殺されたため、
下男の五平とともに江戸に出る。 五平は、以前、働いていた店で職を得て、お福も、今は隠居の身の
元御家人、三浦平四郎のもとで女中として働き始める。
二年後、五平は、頼りにしていた隠居の死をきっかけに店を追い出されるが、三浦の碁仲間の剣客、秋山
小兵衛の口利きで、町医者、小川宗哲のもとで新たな職を得る。 一方、お福は、三浦からだいじに扱われ、
充実した日々を送っていた。 しかも、三浦から教わっている手裏剣の腕も上達していた。
しかし、新発田で主人の神谷弥十郎を暗殺した松永市九郎の姿を近所で見かける。 やがて、偶然、三浦の
碁の相手をしていた松永が逆恨みから三浦を殺害して逃走する。 お福は、五平の知り合いの倉田屋半七の
もとで女中として働き始め、半七も松永の捜索に助力してくれることになった。 三浦をうしなった悲しみから
お福が立ち直りかけたのもつかの間、今度は、五平が松永に殺される。
さらに二年後、倉田屋半七が亡くなり、お福は、半七の遺言に従い、半七の店を継ぐことになる。 まもなく、
偶然、松永を見かけたお福は、あとをつける。 松永が入った蕎麦屋で、たまたま居合わせた秋山小兵衛は、
お福から事情を聞き、お福の敵討ちへの助太刀を申し出る。 翌朝、二人は、松永の隠れ家に向かう、、、。
著者の代表作にして大人気シリーズ「剣客商売」(全十六巻)の番外編。
「剣客商売」の主人公、秋山小兵衛も、物語終盤、活躍しますが、この話の主役は、お福。
物語は、小兵衛が四谷の道場をたたんで、鐘ヶ淵に隠宅を構える少し前(「剣客商売」前夜)から始まります。
「剣客商売」を読んでいなくても、だいじょうぶですが、一巻だけでも読んだ後のほうがいいと思います。
「剣客商売」は昭和の名作。 読んで絶対に損はありません。
「剣客商売」一のブックレビューはコチラ。
おススメ度:8.1
鬼平犯科帳 2 (池波 正太郎著、文春文庫)
作品の紹介
「剣客商売」とともに池波正太郎さんの代表作(全24巻)。 計7編を収録した連作短編集。
松平定信が筆頭老中の時代のお話。 「鬼平」こと長谷川 平蔵は、火付盗賊改方の長官。
悪人にはきびしいが、苦労人の平蔵は、情の厚い男。 自らが現場に出て捜査にあたる。
第一巻より、こなれた感じがして、話も重厚さが増した感じがしました。
古本屋さんで三巻を見つけたら、買わなければ。
「鬼平犯科帳」1のブックレビューはコチラ。
おススメ度:8.2
真田十勇士 (村上 元三著、学陽書房 人物文庫)
作品の紹介
真田幸村のもとに集まった十勇士を一章ごとに描いていく、連作短編のような体裁をとった作品。
第一章は、十歳の穴山小介が、十八歳の若き幸村に小姓として召し抱えられるまでのお話。
第二章は、幸村の小姓、十二歳の海野六郎のお話。とは言え、小介もずっと出てきます。
第三章は、猿飛佐助の章。幸村の命で大坂に出かけた小介、六郎と佐助の出会いを描いています。
という感じで、話が進むにつれて、十勇士がひとりずつ登場し、仲間に加わっていくという構成。
物語自体は、幸村が上杉景勝の人質となり、越後の春日山城に移り住み、やがて、大坂に出て、
秀吉に仕えるまでを描いています。
古本屋さんで100円で見つけたということもありますが、真田幸村ファンとしては、読まなくてはいけないと
思った一冊。 おススメ度:7.8
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