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読書感想文2017 part 2
「読書感想文2017」 part2は、3月〜4月の読書録です。
↓ Click NOVEL mark !
県庁おもてなし課 (有川 浩著、角川文庫)
作品の紹介
高地県庁の観光部に生まれた新部署「おもてなし課」。 25歳の若手職員、
掛水は、高知県出身の有名人に観光特使を依頼する。 やがて、観光特使
のひとり、人気作家の吉門から立て続けにダメ出しされる。
しかし、吉門に食い下がるうち、高知の観光振興のために数々のアドバイス
をもらい、23歳の多紀をおもてなし課のアルバイトに迎える。
さらに、かつて「パンダ誘致論」をぶち上げた伝説の元県庁職員、清遠をプロ
デューサーとして迎え、「高知県まるごとレジャーランド化」という壮大なプロ
ジェクトがスタート。 しかし、役所の古い体質に阻まれ、プロジェクトは暗礁に
乗り上げたかに見えたが、掛水は多紀と吉門とともに踏ん張り、プロジェクトが
再び動き出す、、、。
数々の名作を世に送り出した著者の新しい一面を見ることのできる「名作」。
エンターテイメント色たっぷりのお仕事小説の要素と著者の定番、ラブコメの
ミックス具合が絶妙。 読後に高知に旅に行きたくなる人続出では?
私は高知弁が改めて好きになりました。
「ダ・ヴィンチ」ブック・オブ・ザ・イヤー2013 文庫ランキング:1位。
特設サイトはこちら。
オススメ度:8.5
想像ラジオ (いとう せいこう著、河出文庫)
作品の紹介
2011年3月11日の東日本大震災で多くの人が犠牲になった。
芥川冬彦、38歳も、そのひとり。 彼は津波で流され、その遺体は、高い
杉の木の頂に引っかかっている。 そこから「DJアーク」として、夜中の
2時46分から夜明けまでラジオ番組を始める。 番組の名前は「想像ラジオ」。
リスナーは、この世とあの世の間にとどまる死者たち。 DJアークは、妻の
安否を気にするが、番組あてに妻からのメッセージが届かない。 それは、
彼女が生きている証だと知り、次に妻と息子の声を聞こうとするが、、、。
5章からなる作品。 奇数章がDJアークの語りとリスナーとの交流。 偶数章が
東北にボランティアに来た作家Sのお話。 生者である作家Sが聴くことのない
想像ラジオとのつながりがやがて明らかになっていく構成は秀逸。
ややもすれば重くなりがちなテーマを、オリジナリテイーあふれる舞台設定の
上で、読者に問いかけ考えさせてくれた秀作。
2016年「本の雑誌」文庫 現代小説部門:ベスト10作品。
2013年「野間文芸新人賞」受賞作。 2014年「本屋大賞」8位。 オススメ度:8
希望の地図 (重松 清著、幻冬舎文庫)
作品の紹介
正式タイトルは「希望の地図 3.11から始まる物語」。
2011年3月11日の東日本大震災の被災者と被災者を支える人たちの希望の物語。
物語は震災から半年後、中学受験に失敗し、地元の公立中学でいじめに逢い、
不登校に陥った中学一年の少年、光司、そして、彼の父の同級生でフリーライター、
田村が震災で被災した人たちを取材して歩くという体裁をとっている。
しかし、取材対象は、壁新聞で新聞を発行し続けた記者、災害臨時FM局を
立ちあげた元アナウンサー、休業に陥った水族館、スパリゾート、三陸鉄道の社員、
被災地の泥だらけの写真を洗うボランティアなど実在の人々。 小説でありながら、
ノンフィクションというかドキュメンタリーの色あいが強い作品。
この作品を読むと、東京発信の報道が時として表面的、一面的、的外れであること
がものすごく腑に落ちる。 被災地のみなさんのことばや想いは、われわれが軽々
しくコメントをしてはいけないくらい重みがあるが、希望の力強さに救われる。
この国にこの時代に生きる一員として読んでよかったと思える一冊。
オススメ度:8.4
夜の床屋 (沢村 浩輔著、創元推理文庫)
作品の紹介
表題作を含む計7編を収録した連作短編集。 後半の4編は中編の体裁。
独特の世界観を持った、ちょっと視点の違うミステリー作品集。
どの作品も、まったく違うテイストで書かれているのが印象的。
一見つながりのないお話を最後の一編でつなげたことを「おおっ!」と感心する
読者も少なくないと思うけど、個人的には、やや後付けの無理やり感を持ちました。
表題作は2007年「ミステリーズ」新人賞 受賞作。
2014年「本の雑誌」文庫 国内ミステリー部門:第8位。 オススメ度:8.1
本棚探偵の冒険 (喜国 雅彦著、双葉文庫)
作品の紹介
漫画家として有名な著者が古書にまつわるお話を独特のテイストで語ったエッセイ。
乱歩邸を訪れたことをきっかけに、乱歩や横溝をはじめとする古書にのめりこんだ
著者が古書収集の喜び、苦労、仲間や古書店との交流をおもしろおかしく描いた佳作。
イラストや写真も豊富。 ひとつのお話が10ページなのでテンポよく読める。
何万円、時には、何十万円とする戦前の古書に命を賭けるさまは常人には理解不能。
だけど、古書に対する熱い思いは、読み進めていくうちに、古書マニアでなくても、
わかってあげたい、応援してあげたい気持ちになるはず。
著者の喜国さんは、漫画家という職業に加え、少年のようなこころもお持ちなので、
本棚を自作するだけでは飽き足らず、本の函、ついには、豆本までつくってしまう
という離れ業までなしとげる。 そんな遊びごころがあふれているのも、本作の魅力。
続編も読んでみたい気持ちになりました。 オススメ度:8.2
マイブームの魂 (みうら じゅん著、角川文庫)
作品の紹介
「マイブーム」ということばの産みの親、みうらじゅんさんのエッセイ。
「奥村チヨ」、「女装」、「仏像」、「ボブディラン」をテーマに、著者独特の視点と切り口
でディープに展開する小宇宙。
みうらさんの視点、こだわり、勇気、個性、そして、ユニークな人たちとの交流の描写が
秀逸。 この本読んで、みうらさんのことをますますリスペクトしました。
元本は1997年刊。 オススメ度:8
見仏記 (いとう せいこう、みうら じゅん著、角川文庫)
作品の紹介
仏友のふたりが、京都、奈良、東北、九州のお寺をめぐり、仏像を賛美し、あれや
これやと自由に語らう一冊。 とはいえ、著者の組み合わせに惹かれ、仏像にまったく
興味がない人が手を出すと、エライ目にあいます。 せめて仏像ツアー入門書くらい
の覚悟で読むべき本。 オススメ度:7
ビッグデータ・コネクト (藤井 太洋著、文春文庫)
作品の紹介
京都府警 サイバー犯罪対策課 サイバー特別捜査官、万田警部は、ITエンジニア
誘拐事件の捜査を命じられる。 万田が捜査協力を依頼したのは、かつて万田自身
が二年に渡り取り調べを行い、最終的には不起訴となったハッカーの武岱(ぶだい)。
万田は、武岱の協力を得て、順調に捜査を進めるが、誘拐されたエンジニアが殺害され、
武岱が容疑者として浮上、緊急逮捕される。 武岱を失いながらも、捜査を進める
万田を、大津市長、滋賀県警署長、京都府警サイバー犯罪対策課長が罠にはめる。
絶体絶命の万田を救ったのは、逮捕された武岱だった。 万田は再び武岱と協力して
殺人犯、そして、大津市長たちを追い詰めていく、、、。
時代感のある作品であり、ITミステリーとして既存の作品と一線を画していると思う
けど、IT苦手な人には少しツラいかも、、、。
「本の雑誌」2015年度「文庫オリジナル(書き下ろし)大賞」:第1位。 オススメ度:8
闘う女 (朝比奈 あすか著、実業之日本社文庫)
作品の紹介
バブル絶頂の1989年に女子大に入学し、バブル崩壊後の93年に出版社に就職
した石川ひとみ。 紆余曲折の上、配属されたのは、パソコン雑誌の編集部。
それでも何とか仕事をこなし、彼女のことをたいせつにしてくれる司法書士の
彼氏、湖太郎からプロポーズされる。 27歳のひとみは、結婚を30歳までひき
のばし、転職をくわだてるが、妊娠が発覚。 結局、転職はせずに、結婚する
道を選び、女の子を出産する。 出産後、すぐに仕事に復帰。子育ては、ほぼ
湖太郎まかせ。 そして、娘が幼稚園に入るころ、湖太郎はひとみのもとを離れ、
再婚する。 その後も、ひとみは仕事に明け暮れ、結婚することなく、娘を育てる
が、母娘が心を通わせることはなかった、、、。
ひとみが仕事に生きた20年以上の記録とも言える作品。 でも、彼女が得たものが
何なのか、彼女の幸せはどこにあるのか、、、何もないのでは?と思ってしまう、
そんな救いのない読後感。 読み進めるのが少しツラかったかも。
オススメ度:7
食堂つばめ (矢崎 存美著、ハルキ文庫)
作品の紹介
新幹線の中で倒れて、臨死体験をした柳井秀晴。 彼は、この世とあの世の狭間
で、謎の美女、ノエのつくった玉子サンドのおいしさに驚嘆する。
やがて、秀晴はノエとりょうさんのいる、この世とあの世の狭間の街に行き来する
ことができるようになり、ノエの料理の虜になる。
ノエとりょうさんと交流を深めるうち、秀晴は、二人の正体に気づき、、、、、、。
料理をフックにした心温まるファンタジー・ミステリー。 ノエのミステリアスな人物
造形はグッドだけど、秀晴のが少し物足りなかったかも。
本作はシリーズ化されています。 オススメ度:7.9
プールの底に眠る (白河 三兎著、講談社文庫)
作品の紹介
高校3年の夏休みの最終日、僕は裏山でロープを首に巻いた美少女を見つける。
それから、自殺を思いとどまった12歳の少女と僕の特別な一週間が始まる。
僕は彼女を「セミ」と呼び、少女は僕を「イルカ」と呼んだ。 忘れられない、忘れて
はいけない過去を持つ二人の気持ちが、友情から恋愛に変わるのに時間は
かからなかった。 しかし、一週間後、大きな危機が訪れ、僕は大きな決断を
迫られることになり、、、。 そして、物語は13年後を語り始める、、、。
著者の出世作「私を知らないで」同様、オリジナリティーあふれる世界観、空気感、
感性が突き刺さる白河三兎ワールド全開の作品。 他の誰にも似ていない、既視感
のない21世紀型のこの作家と共鳴したら深くハマるんだろうなと思います。
安直でもなく、重すぎることもない十代の男女の距離感の描き方が「私を知らないで」
同様、ほんとうに秀逸で新しい。
著者のデビュー作にして、2009年「メフィスト賞」受賞作。 オススメ度:8.2
十五歳の課外授業 (白河 三兎著、集英社文庫)
作品の紹介
中3の卓郎は、スポーツが少し得意なバスケ部員。 ルックスも成績も人並み。
でも、3年生のクラス替えで学級委員となり、女子の学級委員、ユーカから告白
され、付き合うことに。 ユーカはカリスマ性ばつぐんの学校一の美少女。
感情の起伏が激しい彼女を持て余し気味になることもあるが、卓郎はこの信じら
れない幸運がいつまでも続くことを祈る毎日。
そんな中、卓郎のクラスにやってきた教育実習生、薫子。 彼女は6年前まで卓郎
の父の歯科医院に通っていた「かおるお姉ちゃん」だった、、、。
やがて、親友のヨッシーが薫子に恋をして、卓郎とユーカは協力することに。
卓郎はヨッシーのためにあの手この手の策を弄するが、ヨッシーの告白は撃沈。
ヨッシーがふられるのと前後して、卓郎は、偶然、薫子のとんでもない秘密を知る
ことになる。 薫子は、悪びれることなく、現実的に生きる術、自由に生きる術を
説く。 卓郎は歯医者の跡取りの座に安穏として、姉や友人への配慮が足りなかった
ことを自戒するが、、、学校で悪い噂が立つわ、ヨッシーは暴走し始めるわ、ユーカ
とは別れるわ、次から次へと災難が降りかかる、、、。
「私を知らないで」、「プールの底に眠る」同様、青春小説なのだけれど、本作は
ビターとコメディのテイストが強い作品。 オススメ度:8
ケシゴムは嘘を消せない (白河 三兎著、講談社文庫)
作品の紹介
同じ会社に勤める妻、加奈子と離婚した有田は、自室で透明人間の女に出逢う。
女は物質を消す能力を持ち、組織から追われる身だった。 彼女は、透明人間を
見ることのできる監視者から身を隠すため、有田の部屋で暮らし始める。
有田は彼女をタマと名付け、二人の世にも奇妙な同棲生活がスタートする。
しかし、有田は別れた妻、加奈子と連れ子の悟を忘れることができず、復縁を
模索する。 そんな中、タマの妊娠が発覚。 有田はタマの出産をサポートする
決意をし、加奈子との復縁をいったん先延ばしにする。 やがて、タマの妊娠を
嗅ぎつけた組織の人間が有田に接触し、あの手この手の誘惑でタマを組織に引き
渡すようにアプローチするが、、、、、、。
著者の「もしもし、還る」同様、SF、ミステリー色の強い作品。
何の先入観、予備知識もないまま、読み始めたら、いきなり透明人間やらタマを
追う組織という設定に驚き、、、そうかと思うと、有田と加奈子の復縁というラブ
ストーリーも同時並行で進んでいき、、、着地点の予測がつかない展開で読者を
ぐいぐい引っ張っていくリーダビリティーが秀逸。 あと、エンディングがしゃれてて
よかった。 オススメ度:8.1
神様は勝たせない (白河 三兎著、ハヤカワ文庫JA)
作品の紹介
私立中学のサッカー首都圏大会、県予選 準々決勝は延長戦でも決着がつかず、PK戦へ。
二人ずつのキッカーが蹴り終え、0−2とリードされた状況の中で、キャプテンでゴール
キーパーの潮崎、女子マネージャーの広瀬、守備の要である真壁、ベンチの宇田川、
監督の息子でエースストライカーの阪堂、そして、チームの司令塔である鈴木は、何を
思い、このときを迎えているのか。 サッカー部6人の視点を、一章ずつで描いた青春
小説。 物語は、PK戦の決着までを描きながら、試合直前に起こった部を揺るがす大問題
を、巧みな組み立て、すぐれたリーダビリティーで表現。 著者らしく、ふつうの青春小説、
サッカー小説で終わらないところがナイス。 オススメ度:8
起終点駅 ターミナル (桜木 紫乃著、小学館文庫)
作品の紹介
表題作を含む計6編を収録した短編集。 北海道を舞台に「無縁」をテーマにした珠玉の
作品をラインナップ。 家族や周囲とのつながりを断ち切った人たちの生きざま、哀しさ、
終末が描かれている。 「無縁」を描くことによって「縁」のたいせつさ、ありがたさが
浮かび上がる。 どの作品も中編、長編として書けるくらいの素材が凝縮されている感じ。
著者が「ホテルローヤル」で「直木賞」を受賞する前夜の作品。
表題作は2015年、映画化。 オススメ度:8.2
トッカン −特別国税徴収官− (高殿 円著、ハヤカワ文庫JA)
作品の紹介
鈴宮 深樹、25歳、通称ぐー子。 2年間の研修期間を経て、京橋税務署に配属された
新米の徴収官。 配属されていきなり国税庁から出向の特別国税徴収官、鏡 雅愛
付きとなった。 鏡が担当するのは、税金を500万円以上滞納している悪質な案件。
辣腕だが、クールで毒舌の鏡に振り回され、ぐー子はハードな毎日を送りながらも、
一人前の徴収官めざして、少しずつ成長していく、、、。
前半は特別国税徴収官のお仕事小説風。 後半はぐー子の現在、過去、未来を見事に
描き切った秀逸な構成。 物語のテンポもよく、人物造形もグッド。 好評につき、本作は
シリーズ化。 オススメ度:8.1
光圀伝(上) (沖方 丁著、角川文庫)
作品の紹介
徳川家康の十一男にして、水戸徳川家初代藩主、頼房の三男として生を受けた
光圀は、病弱な長男、頼重に代わり、嫡子となる。
父に与えられた数々の試練を乗り切り、元服した光圀は傾奇者となっていた。
そんな光圀を陰ながら支えてくれたのは、長兄、頼重だった。
やがて、宮本武蔵、沢庵和尚、山鹿素行と知己を得て、人としてのあり方を学ぶ。
光圀は京人に評価され「詩歌で天下をとる」ことを目標にするようになり、学問に
精を出す。 そんな折、林羅山の息子、読耕斎と知り合い、交流を深めるようになる。
読耕斎は博覧強記で光圀に対して動じることなく、対等の口をきく男だった。
光圀は読耕斎から教えられた京随一の歌人、細野為景に漢詩と和歌をおくり、為景
から認められる。 為景が江戸来訪の際、光圀が接待し、二人の仲はなお親密に
なるが、数年後、為景が他界する。
さらに、将軍、家光の異母弟にして、会津藩主の保科正之からも認められる。
その後、尾張徳川家の初代当主にして、光圀のよき理解者でもあった徳川義直が
死去。 光圀は伯父、義直から史書編纂を託される。
やがて水戸徳川家に仕える武家の娘と恋仲になり、男子を設けるが、母子ともに
兄、頼重の預かりとなる。
二十六歳となった光圀は、関白 近衛家の姫、泰姫を嫁に迎える。 泰姫は十七歳
ながら、教養に満ちあふれ、まっすぐな心根で包容力の大きな女性だった。
上巻は、光圀の幼少期から新婚の二十七歳までを描いています。 三男でありながら、
世子とされた故の苦悩、兄、頼重への申し訳なさ、敬意、感謝が、ていねいに、そして
巧みに語られています。 そして、数多くの偉大な人物たちの出会いにより、人として
磨かれていく光圀の成長ぶりの描写も秀逸。
特設サイトはこちら。
2012年「山田風太郎賞」受賞作。 2013年「本屋大賞」11位。
オススメ度:8.1
光圀伝(下) (沖方 丁著、角川文庫)
作品の紹介
泰姫はあっという間に光圀の両親や兄夫婦とも打ち解け、光圀にとって理想の伴侶と
となる。 伯父、徳川義直の遺志を継ぎ、夫婦で手を携えて史書編纂を始めようとした
のも束の間、泰姫が病となり二十一年の生涯を終える。 わずか四年の夫婦生活だった。
泰姫の死をようやく乗り越えた光圀をさらなる哀しみが襲う。 泰姫とともに光圀の最大
の理解者にして友である林読耕斎がこの世を去った。
そして、父、頼房、母、久子も続いて死を迎える。 光圀は水戸徳川家第二代藩主となり、
かねてからの考え通り、兄、頼重の長男、頼世を次期藩主に据えるべく養子とする。
四代将軍、家綱の後見役、会津藩主の保科正之は、光圀の義に賛同し、もしもの時の
備えとして、兄、頼重の息子をもう一人、養子にすべく進言する。 一方、頼重は、光圀
の義に応えるべく、光圀が二十四歳のときにもうけた男子、兵部を自らの世子にすると
宣言し、兵部を光圀に引きあわせる。
林羅山の息子、鵞峰が将軍、家綱から史書編纂の命を受け、本格的に始動する。
鵞峰のめざす史書は、官僚的な色彩が強く、光圀がめざす「人倫を明示せんととする史書」
とは大きく趣が異なっていた。
その頃、光圀は、長崎に滞在する明の儒学者、朱舜水を師として招聘する。 光圀と
朱舜水は、すぐに互いを認め合い、意気投合する。 そして、光圀のみならず、藩士たちが
朱舜水の教えを請い、藩をあげての改革、目標設定が進展する。
保科正之は、日本の暦を改めるべく、安井算哲にその任を託す。 光圀は保科に算哲の
吟味を依頼され、算哲の適材ぶりを請け負った。 老齢の域にさしかかっていた保科は、
もしもの時の算哲の後見を光圀に依頼する。
兄、頼重の長男にして光圀の養子となった頼世改め綱方が二十三歳にして夭折し、次男の
采女、改め綱條が水戸徳川家の世子となる。 頼重は、まもなく隠居し、光圀の実子、兵部
改め頼常が讃岐松平家の藩主となった。 光圀は、綱條に京の今出川家の季姫を、頼常
には大老、酒井忠清の娘、松姫を嫁として迎える。
やがて、将軍、家綱が四十歳の若さで世を去り、綱吉が五代将軍の座に就く。
光圀は、一度は失敗に終わった改暦事業で、安井算哲の再起を後押しをし、保科正之の
念願でもあった改暦がついに実現する。
五代将軍、綱吉は文化にはあかるいものの、器の小さな人間であり、「生類憐みの令」を
はじめとする政策は光圀のみならず、大名も庶民も呆れるばかりだった。
六十三歳となった光圀は、綱條に藩主の座を譲り、隠居する。 水戸での隠居生活は、
満足のいくものであったが、江戸で次の将軍候補問題が勃発する。 綱條も三人の候補の
一人となるが、光圀にはいささかもその考えはなかった。 しかし、光圀が若いころから
重用してきた水戸藩の大老、藤井紋太夫は綱條の将軍就任、そして大政奉還にこだわる。
光圀は断腸の思いで紋太夫を手討ちにする。
やがて、史書づくりが完成。 光圀は「本朝史記」と命名する。 そして、七十三歳となった
光圀はその生を終える、、、、、、。
これまでの水戸光圀像を一変させる秀作。 丹念な取材、緻密な構成、正しい心根の一生
をドラマティックに描いた筆力はみごと。 ただ、著者の代表作「天地明察」に比べると、
登場人物が多く、本好きでないと、読み進めるのが少しツラいかもという印象。
「天地明察」がエンターテイメント性もある映画向きの作品だとすれば、本作は、ていねいに
主人公の一生をなぞる大河ドラマ向きか。 あと、上巻と下巻、どちらが好きか、という比較
をするのもおもしろいかも。 個人的には光圀の大義が実を結んだ下巻がやや好み。
特設サイトはこちら。
2012年「山田風太郎賞」受賞作。 2013年「本屋大賞」11位。
上下巻あわせて1,000ページを超える大作。 オススメ度:8.2
岳飛伝 4 日暈の章 (北方 謙三著、集英社文庫)
作品の紹介
金との講和を終えた梁山泊では、呉用が寝たきりの状態となり、宣凱が聚義庁の中心となる。
水軍総隊長の李俊は、秦容が甘藷づくりのために開墾を進める南の地に向かう。
秦容は李俊が連れてきた梁山泊の人員を生かし、水源や医療の整備を図るとともに、自ら
河を遡り、周辺地域の探索に旅立つ。
金軍総帥の兀朮(ウジュ)は三十万の軍勢を従え南下する。 南宋は岳飛軍六万と張俊軍六万
をはじめとした二十万でこれを迎え撃つ。 金軍は兀朮の副官、沙歇や胡土児が奮戦するが、
岳飛を崩すまでには至らない。 病のダランに代わり、指揮をとる金軍の斜哥、乙移、張俊から
独立して腕を奮う南宋の辛晃などが全力で戦い、両者一歩も譲らない状況に。
金では、完顔成が病に倒れ、ダランが軍権を手放したうえで、丞相となり、兀朮を支える。
南宋の宰相、秦檜は軍の総指揮を岳飛に委ねる。 岳飛は数で勝る金軍騎馬隊を破る新戦法を
編み出し、沙歇の騎馬一万を倒す。 さらに、兀朮の副官、鳥里吾も討ち取る。
戦いが南宋有利に進む中、宰相、秦檜は、早くも講和の機会を探り始めた、、、。
この巻は、何と言っても、岳飛と兀朮の全力を賭けた壮絶な戦いが中心。 南宋軍、金軍、それ
ぞれ死力を尽くして戦う漢たちの生きざまの描き方がみごと。 そして、南宋のため、漢民族の
ため愚直に戦う裏で、秦檜に梯子を外される岳飛の姿が哀れ。 オススメ度:8.3
岳飛伝 5 紅星の章 (北方 謙三著、集英社文庫)
作品の紹介
南宋軍と金軍の死闘は続いていた。 兀朮は巧みに後退を続け、南宋軍を開封府近くまで
北進させる。 戦いのさなか、梁山泊の宣凱は、呉用の命を受け、岳飛と会見する。
南宋軍は兵糧が尽き、宰相の秦檜から帰還命令が届く。 しかし、岳飛は単身、戦線を離脱
することなく、兀朮と戦い続ける。 岳飛の義手、兀朮の義足が切り落とされる壮絶な一騎
討ちが繰り返されるが、決着がつくことはなかった。 決着がつかないまま、両軍が退却し、
金の丞相、ダランと南宋の宰相、秦檜との間で講和の交渉が始まる。
梁山泊では、呉用が「岳飛を救え」と宣凱に言い残し、最期のときを迎える。
西遼では、韓成が帝、耶律大石の命を受け、反乱分子の制圧に向かう。
一方、秦容が率いる南の開墾地では、ついに甘藷糖の精製に成功する。
岳飛対兀朮のぶつかり合いを苛烈に詳細に描いた一巻。 戦後の岳飛、呉用亡き後の梁山泊、
そして、両者の今後のつながりが気になります。 オススメ度:8.1
花競べ (朝井 まかて著、講談社文庫)
作品の紹介
正式タイトルは「花競べ 向嶋なずな屋繁盛記」。
向嶋で種苗屋を営む新次とおりんの夫婦、そして二人を囲む人々の物語。
江戸一の植木商「霧島屋」で修業した新次は奇をてらわず、植物本来のよさを
たいせつにする職人。 夫婦で切り盛りする「なずな屋」は、小ぶりながらも
評判のよい店となっている。 そんな折、同業者の息子を預かるが、約束の
期限が来ても、親が迎えに来なかった。 それでも、夫婦は、その子に愛情を
注いで育む。 やがて、三年に一度、江戸中の花師が育種の技を競う「花競べ」
が開催されることになり、なじみの大店の隠居の推薦で新次も出品することに。
はたして、新次は「花競べ」の勝者となるが、、、、、、。
新次の職人としての矜持、おりんの献身的な愛情、そして、ふたりのまっすぐな
心根が心にしみる一作。
本作は著者のデビュー作。 そのクオリティーの高さには驚くばかり。
その後も秀作を書き続け、6年後には直木賞を受賞するのだから脱帽。
2008年「小説現代長編新人賞」奨励賞受賞作。 オススメ度:8.2
通りゃんせ (宇江佐 真理著、角川文庫)
作品の紹介
大森連は、スポーツ用品メーカーの営業マン、25歳。 休日にマウンテンバイクで
出かけた小仏峠の滝で気を失う。 目覚めると、そこは、18世紀の後半、天明六年
の武蔵国青畑村。 突然のタイムスリップにとまどう連。 しかし、運よく領主の
家来の時次郎、さなの兄妹に助けられ、二人の従兄弟という触れ込みで共に暮らし
始める。 時次郎、さなとともに、農作業に汗を流し、江戸時代の暮らし、村の暮らし
に馴染んだの束の間、飢饉が村を襲う。 村の庄屋が農民に殺害され、混乱に陥る
村の中で、時次郎は、庄屋代行として踏ん張る。 ところが、庄屋の息子は連の素性を
怪しみ、時次郎は、連を逃がす目的で江戸で暮らす領主のもとに送りだす。
江戸の領主のもとで懸命に働き、やがて村に戻った連は、飢饉で朽ち果てた村の惨状
を目の当たりにする、、、、、、。
時代小説の大家である著者の作品でありながら、タイムスリップという異色の幕開け。
しかし、中身は著者の王道とも言うべき人情味あふれる正しい心根を描いた作品。
「江戸時代から我々が学ばなければならないことは人間の生き方である」と語る著者が
タイムスリップという設定を使い、改めて現代社会の便利さ、情報、人の考え方と江戸
時代のそれらとの対比を浮かび上がらせた物語だと思う。 オススメ度:8
燦(さん)6 花の刃 (あさの あつこ著、文春文庫)
作品の紹介
田鶴藩の藩主となった圭寿(よしひさ)、筆頭家老の長男、伊月は、田鶴に戻る準備を
進める。 そんな折、二人と親しい町民の女、お吉が孤児たちと暮らす家が暴漢に
襲われる。 お吉は伊月の双子の弟、燦(さん)に命を救われ、子どもたちとともに圭寿
の亡き兄の側室、静門院の屋敷で暮らすことに。 やがて、お吉は静門院の女中となり、
圭寿、伊月と再会を果たす。 そして、伊月と静門院が結ばれる、、、。
舞台は再び田鶴の地へ。 闇神波の動き、伊月の父である伊佐衛門の心の内など大きな
謎に向かって、物語はいよいよ佳境に。
第4作、第5作のブックレビューはこちら。
オススメ度:8.1
姫は、三十一 7 (風野 真知雄著、角川文庫)
作品の紹介
平戸藩の元藩主、松浦静山の娘、静湖を主人公にした人気シリーズの最終作。
静山が親しくしている加賀藩の依頼を受け、静湖は藩士ら102人の死体の謎を捜査する
ことに。 用心棒の雁次郎、岩野とともに、謎を解いたのも束の間、父、静山を陥れよう
とする一味との対決の場へ。 そして、三十一歳の年の大晦日、静湖は、運命の人が誰
なのかを悟る、、、、、、。
最終巻らしい大きな謎解きと恋の結末。 でも、運命の人に読者の賛否両論があるかも。
第4作、第5作、第6作のブックレビューはこちら。
オススメ度:8
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