|
HOME |
り ん |
かなう |
Mama |
T . T |
Family |
---|
読書感想文2005 part 4
「読書感想文2005」 part4 は、「歴史小説特集」にしてみました。
歴史モノは苦手と言わず、ぜひ読んでみてください。特に、いちばん上にとりあげた「火怨」は、大推薦です。
↓ Click NOVEL mark !
火怨(かえん) 北の燿星(ようせい)アテルイ (高橋 克彦著、講談社文庫)
(上)
(下)
作品の紹介
八世紀後半のお話。朝廷は黄金を我が物にするため、東北の民、蝦夷(えみし)に戦いをしかける。しかし、蝦夷の若き
リーダー 阿弖流為(アテルイ)が、朝廷が次々と送り込む将軍率いる大軍をことごとく退ける。業を煮やした朝廷は、
ついに切り札と言える坂上田村麻呂を征夷大将軍として東北に送り込み、蝦夷と朝廷との最後の戦いが幕を開けた・・・・・・。
中央(朝廷)からではなく、地方(蝦夷)の側から書かれた物語です。だからと言って、単純に朝廷=悪、蝦夷=善という
構図で物語が進んでいくわけではありません。坂上田村麻呂は蝦夷の人権を尊重しつつ、戦いを挑みます。この物語の軸の
ひとつは、蝦夷のリーダー、阿弖流為と田村麻呂の友情なのです。
とは言え、この小説のすばらしさは、何と言っても、阿弖流為(アテルイ)の人間力の大きさに尽きます。彼よりも年上の
蝦夷の中心人物が次々と彼を認め、彼に従っていくプロセスはほんとうにすばらしい。そして、迫害を受けてきた蝦夷が
知恵と勇気で朝廷軍を退けていく様も迫力と爽快感いっぱいに描かれています。
一見、八世紀とか、蝦夷とか、坂上田村麻呂というキーワードでとっつきにくいお話に見えるかもしれませんが、そんなことは
全然ありません。先入観を捨てて、ぜひ読んでみてください。ほんとうにすばらしい小説です。
本の雑誌「2002年度おすすめ文庫ランキング」総合第1位! 吉川英治文学賞受賞。 僕のオススメ度:10!
闇の花道 (浅田 次郎著、集英社文庫)
作品の紹介
「天切り松 闇がたり」シリーズの第一巻。タイトル通りのピカレスク(悪漢)もので、現在、第三巻まで文庫化
されています。 大正時代のお話。 九歳の少年、松蔵は、大正六年、東京の盗賊の頭目、安吉に預けられる。
物語は、70年後の松蔵が、現代の刑務所で囚人や看守たちに、昔話(=闇がたり)を、一夜、一夜、聞かせるという
スタイルで進んでいきます。 この作品には、第一夜から第五夜まで五つの闇がたりを短編として収録。
この第一巻は、松蔵が、まだ少年の頃のお話。 松蔵自身の話ではなく、親分の安吉や、同じ一家の先輩たち(強盗、
スリ、詐欺犯など)の活躍、そして、吉原で働く姉との再会と別れが描かれています。 まるで講談を聞いているような
リズム、話の流れ。 そして、昔の義賊のきっぷのよさ、江戸っ子気質などが、著者のレベルの高い筆力で生き生きと
描かれています。 ピカレスク好き、浅田ファンなら、必読の一冊。 僕のオススメ度:8.5
残侠 (浅田 次郎著、集英社文庫)
作品の紹介
「天切り松 闇がたり」シリーズの第ニ巻。 表題作を含む8編を収録。
大正時代のお話。 松蔵は十五歳になったが、まだまだ部屋住みの身。 なかなか仕事をさせてもらえない。
この第二巻は、一巻に続き、松蔵の親分、安吉や同じ一家の先輩たちのエピソードを収録。 そして、松蔵の
初恋の話も出てきます。 一巻に続いて、軽妙な語り口。 早くも三巻の文庫化が楽しみです。
僕のオススメ度:8.5
初湯千両 (浅田 次郎著、集英社文庫)
作品の紹介
「天切り松 闇がたり」シリーズの第三巻。 表題作を含む6編を収録。
松蔵はいまだ部屋住みの身。 今回も、松蔵の親分、安吉、兄貴分たちの話が一編ずつおさめられています。
三巻になっても、パワー衰えず。ネタも尽きず。 愉しませてくれます。 僕のオススメ度:8.5
大川わたり (山本 一力著、祥伝社文庫)
作品の紹介 ※リンクボタンを押した後、「4月刊」を選んでください。
江戸時代のお話。 28歳の大工、銀次は賭場で二十両もの借金を背負い、返すあてができるまで大川を渡らない
という約束を博徒の親分と交わす。 銀次は、かつて出入りした道場主、正之助の勧めに従い、大手の呉服屋の
手代として生活をリスタートさせる。 銀次は、自らの努力と才覚で頭角をあらわすが、賭場の代貸、新三郎が
銀次を罠にかけようとし・・・・・・。 読後、とてもなつかしい気持ちになりました。古きよき、正しい日本人の姿が
生き生きと描かれています。 ミステリーの要素もあり、一気に読める秀作。 僕のオススメ度:9
甘露梅(かんろばい)〜お針子おとせ吉原春秋〜(宇江佐 真理著、光文社文庫)
作品の紹介
江戸時代のお話。 亭主に先立たれた36歳の後家、おとせ。彼女は息子の結婚を機に吉原の遊郭でお針子として住み込みで
働くことになる。それまで、岡っ引きの女房として生きてきたおとせにとって、吉原という世界は何もかもが新鮮だった・・・。
吉原を舞台に、おとせが関わる遊女たちの恋愛模様が六編の短編を通して語られます。それぞれは、切なく悲しい恋愛の話
なのですが、四季それぞれの風情や吉原の風習(イベント)もからめながら、秀逸な筆致で物語が語られていきます。
「読書感想文2005-(3)」で絶賛した「雷桜(らいおう)」と同じ宇江佐(うえざ)真理さんの作品です。「雷桜」とは違う世界を
描いていますが、この作品もすばらしい出来ばえ。 僕のオススメ度:9
ぼんくら (宮部 みゆき著、講談社文庫)
(上)
(下)
作品の紹介
江戸時代のお話。舞台は江戸の深川。ある長屋で殺人事件が発生する。やがて、長屋の差配人(管理人)が失踪。
その後も、次々とふしぎな事件が続き、長屋の住人が次々と引っ越したり、夜逃げしていなくなっていく。
同心の井筒 平四郎が捜査に乗り出すが、彼は自ら認めているように「ぼんくら」(でも、味があって善人)。
事件の謎は深まるばかりだが、平四郎は、甥の弓之助、岡っ引き 茂七の手下、政五郎の助けを得て、やがて
事件の核心に近づいていく・・・・・・。
上巻は、まず30〜40ページの短編が5編続きます。あれ、この本って短編集?と思っていると、この5編の謎が、
これに続く本編で、渾然一体となって展開し、物語が進んでいきます。すごい構成に脱帽。
それと、登場人物がみんなホントに味がある。肝心のミステリーの部分ともども、宮部みゆきさんの名人芸炸裂です。
本の雑誌「2004年度おすすめ文庫ランキング」時代小説部門 第2位。 僕のオススメ度:9
天を衝く(つく) (高橋 克彦著、講談社文庫)
(1)
(2)
(3)
作品の紹介
十六世紀後半のお話。時の権力者、豊臣 秀吉にケンカを売った東北の実力者、九戸 政実(くのへ・まさざね)が主人公。
東北の南部地方(現在の青森県)の一領主、政実は、武士らしからぬ主君に見切りをつけ、おのれの才覚により自らの
道を歩んでいた。主君の死後、その養子が後を継ぐが、政実は新しい主君とその参謀の姑息なやり方にことごとく反発し、
ついに独立を宣言する。時代は豊臣秀吉の全国統一直後であり、政実は秀吉のやり方にも反発を覚え、ついに秀吉軍
十万人を相手に、たった五千人で戦を挑むことになる・・・・・・。
政実は生まれながらに戦の天才であり、人間味豊かなカリスマ。けれども、自分本位で視野の狭い主君や陰謀の限りを尽くす
次の君主に対してケンカを売りまくります。そして、ついには、力で日本全土を牛耳ろうとする天下人、秀吉にまで、正々堂々と
戦いを挑むわけです。やんちゃな子どもがそのまま大人になったような側面もあるけど、頭の回転がほんとに早く連戦連勝。
しかも、視点がマクロで時代の先を見ているわけです。読み進むうちに、必ず、主人公、政実の男気に魅せられることと思います。
全3巻ですが、スピード感と爽快感たっぷり。 僕のオススメ度:9.5
炎立つ(ほむらたつ) (高橋 克彦著、講談社文庫)
(1)
(2)
(3)
(4)
(5)
作品の紹介
十一世紀半ば、東北中央部の俘囚(ふしゅう=朝廷に帰属した蝦夷:えみし)は、俘囚の長、安倍頼良(後の頼時)の治世で
平和を享受していた。しかし、陸奥守(むつのかみ) 藤原 登任(なりとう)のせいで、朝廷と安倍氏の戦いが始まる。
安倍頼良の跡取り、貞任(さだとう)の活躍により安倍氏は緒戦に勝利。あせった朝廷は、武士で最強と言われた、
源 頼義を陸奥守として派遣。再び戦いが始まる。(※これが日本史で習った「前九年の役」)
東北に領地を持つ藤原 経清(つねきよ)は、安倍 頼良の娘と結婚し、源 頼義と安倍の戦いを回避しようとするが、
それも叶わず、朝廷軍のやり方に嫌気がさし、安倍側に立つ。物語は、この後、源 頼義の子、義家や藤原 経清の子、
清衡(きよひら)の時代へと続いて行きます・・・・・・。(第五巻では百年後の奥州藤原氏と義経の時代を描いています)
全五巻ですが、気後れする必要はないでしょう。すらすらと読めます。上記の「火怨」同様、朝廷と東北との戦いを、主に
東北の側から描いています。著者も同じ高橋 克彦さんです。
このお話は、NHK大河ドラマの原作にもなりました。 僕のオススメ度:9
陰陽師〜龍笛(りゅうてき)ノ巻〜 (夢枕 獏著、文春文庫)
作品の紹介
平安時代の陰陽師、安倍 晴明(あべのせいめい)の活躍を描いた「陰陽師」シリーズの第6部。
「陰陽師」シリーズは、はっきり言ってクセになります。 岡野 玲子さんの漫画版も合わせて、
何年も前からすっかりハマっています。 今回の「龍笛ノ巻」も安定した出来ばえ。
「陰陽師」、ぜひ一度お試しください。読みやすいです。 「陰陽師」シリーズに関しては、
読書感想文2004-(2)に書いてありますので、そちらをご参照ください。 僕のオススメ度:8
湖賊(こぞく)の風 (高橋 直樹著、講談社文庫)
作品の紹介
室町時代、琵琶湖を行きかう商船に航行権を売りつける湖の海賊、「湖賊(こぞく)」を描いたお話。
湖の風を読む力、舟を操る術に天賦の才を持った魚鱗(ウロクズ)という名の若者が主人公です。彼は、独力で湖賊や比叡山を
相手に戦いを挑み、やがて琵琶湖の湖賊の頂点に立つが・・・・・・。
舞台設定が興味深い小説でした。15世紀後半の「応仁の乱」の時代背景や、比叡山 vs 本願寺の対立なども描かれています。
そして、何と言っても、湖賊たちの生きざまが印象に残りました。
2004年度 本の雑誌 おすすめ文庫ランキング 時代小説部門 第10位。僕のオススメ度:8
暗闇一心斎 (高橋 三千綱著、文春文庫)
作品の紹介
江戸時代後半のお話。 飄々とした五十歳すぎの浪人、中村 一心斎(いっしんさい)。
刀を使わずに敵を蹴散らかす。やたらと各藩の内情に詳しい。そして、思い出したように英語をぽつぽつと話す。
常に人を食ったような態度、口ぶりなのだが、彼を慕う人は後を絶たない。はじめは彼に反抗的な態度をとった
人物も、いつの間にか、彼のペースに巻き込まれてしまう。一心斎は、埋蔵金探しの旅を続けているらしいのだが、
彼の夢は外国に縛られない国をつくること。やがて、彼は大型船づくりに乗り出す・・・・・・。
う〜ん、評価の難しい作品です。主人公の人となりを爽快と感じるか(とぼけていると感じるか)、感情移入できるか
どうかで、この小説に対する満足度が決まる(変わる)のでは? 僕は・・・ちょっと・・・でした。
2004年度 本の雑誌 おすすめ文庫ランキング 時代小説部門 第5位。 僕のオススメ度:7
〜 「火怨(かえん)」を読んで、阿弖流為(アテルイ)という人物に興味を抱いた人へ 〜
阿弖流為(アテルイ)を主人公にした小説が他にも出ています。下記の2作品とも、蝦夷のリーダーとして
坂上田村麻呂と対峙する阿弖流為を描いていますが、人物設定やアプローチが異なっていて、「火怨」とは
別の角度から、人間 阿弖流為を味わうことができると思います。
陸奥甲冑記(みちのくかっちゅうき) (澤田 ふじ子著、中公文庫)
作品の紹介
物語の前半は、阿弖流為の幼なじみで薬師寺の僧、果安(はたやす)が陸奥に戻り、阿弖流為の仲間になるまでの話。
それと、朝廷側の間者、耳無(みみなし)の暗躍を中心に物語が展開します。後半は、阿弖流為 vs 坂上田村麻呂の
戦いにフォーカスされていきますが、田村麻呂の対蝦夷政策もていねいに描かれています。「火怨」に比べて、
阿弖流為へのフォーカスが弱いかも? それと合戦シーンも少なめでした。
この作品は、阿弖流為のリーダー、そして夫としての苦悩が秀逸に描かれています。 僕のオススメ度:7.5
まほろばの疾風(かぜ) (熊谷 達也著、集英社文庫)
作品の紹介
「火怨」とかなりトーンや内容が違っています。「火怨」は、18歳のアテルイが蝦夷をまとめ上げ、朝廷の軍に立ち
向かっていく戦いが中心のお話。こちら「まほろばの疾風」は、アテルイの生い立ちにも焦点を当て、豊かな自然に
育まれながら部族の中で育ち、戦いの輪に加わっていくプロセスがていねいに描かれています。物語の後半は、坂上田村麻呂
との戦いが中心となりますが、「火怨」に比べて、スケールの小さな戦いでした。でも、アテルイの恋や結婚なども出てきて、
ひとあじ違うアテルイ像に接することができるのでは? 僕のオススメ度:7
読書感想文2005-(1)へ
-(2)へ
-(3)へ
-(5)へ
T.Tのページへ
トップページへ