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読書感想文2017 part 4

「読書感想文2017」 part4は、7月〜8月の読書録です。

 ↓ Click NOVEL mark !
コメント  出署せず (安東 能明著、新潮文庫)   作品の紹介 

4編の連作短編と表題作の中編を収録。
部下の拳銃自殺をきっかけに、警視庁のエリート部門から綾瀬署 警務課の課長代理
に左遷された柴崎 令司警部、37歳。
そんな柴崎の上司として、一歳下のキャリア、坂元 真紀警視が綾瀬署長に着任する。
キャリアにありがちな思考回路の持ち主である坂元は、現場の事情を考慮せず、期限を
設定し、結果を求める。 副署長とともに、柴崎にもめんどうな仕事を次々と丸投げして
いく。 警務課でありながら、坂元の特命で捜査にかり出されることもしばしば。
しかし、深い洞察力と緻密な捜査で次々と難事件を解決に導いていく、、、。
表題作の中編はハイレベルな仕上がり。 とは言え、左遷された柴崎がキャリアの署長
と署内の警察官の板挟みになって苦悶するさまは、思わず同情したくなるストレスの
たまる展開。 刑事が主人公ではない警察小説という視点はグッド。
2015年度「本の雑誌」文庫「国内ミステリー」部門:第5位。
「日本推理作家協会賞」受賞作を収録した「撃てない警官」の続編。 オススメ度:8.1

コメント  国境事変 (誉田 哲也著、中公文庫)   作品の紹介 

スポーツ用品を扱う貿易商社、東侑商事の社長、呉虎男が自殺。 翌年、社長を継いだ
虎男の長男、吉男が新宿で殺害される。 呉親子は北朝鮮籍の在日二世、三世であり
北朝鮮に帰国した親戚への送金に苦しめられていた。 吉男は北朝鮮転覆を狙う組織
の協力者となる。 一方、公安の外事二課の川尻は、吉男の弟で、バンド活動を続ける
フリーターの英男を公安の協力者とし、東侑商事の内偵を続けていた、、、。
警視庁捜査一課の東は、吉男殺害の捜査本部に召集され、事件を探るうち、川尻に遭遇、
英男が公安の協力者であることを知る。 決して相容れることのない公安警察と刑事警察
が対峙する中、英男は、吉男殺害の原因となったものを携え、福岡に向かう、、、。
さらに、事件の舞台は対馬に移り、衝撃の事実が明らかになる、、、。
「ジウ」、「ストロベリーナイト」など数々の名作を残した著者の骨太な一作。
せつないけれど、納得のラスト。 物語のスケールの大きさ、精緻な構成にも脱帽。
オススメ度:8.2

コメント  母性 (湊 かなえ著、新潮文庫)   作品の紹介 

女子高生が県営住宅の4階から落下し、中庭で倒れているところを発見される。
事故か、自殺か、警察は両面で捜査を開始する。
物語は、女子高生の母親と女子高生の独白、そして、事件を語る高校教師二人の会話が
交互に登場し、母親の結婚、娘の誕生、成長、そして、二人に大きな影を落とした事件、
その後の二人が時系列に沿って語られていく、、、。
最後まで読んで、ストーリーに組み込まれただまし絵、そして、ある語り手の正体がわかる
という構成。 共感したり、感情移入できる登場人物が誰もいない物語。 人間関係とか
描写される事件がクラシックでストレスがたまりました。 オススメ度:7.5

コメント  噂の女 (奥田 英朗著、新潮文庫)   作品の紹介 

10編の連作短編の体裁をとった作品。 24歳の糸井美幸は、地味な高校時代から一変、
短大時代に才能を開花させ、事務員にして、社長の愛人となる。 その後、社長の後妻、
クラブのママへと階段を駆け上がっていく。 そんな彼女の周りには、いつも不確かでは
あるが、黒い噂が絶えない、、、、、、。
全編を通して、美幸も登場するけど、各編の主人公は美幸の周りの人物たち。 周囲の
人間が仕入れてきた美幸の噂話をもとに、読者が美幸の人物像をつくりあげていく構成。
ミステリーでよくある証言の積み重ねではなく、無責任な噂話が積み上げられていく感じ
が絶妙。 ブラックなんだけど、笑いもありのエンターテインメント作品。
オススメ度:8.2

コメント  書店ガール 3 (碧野 圭著、PHP文芸文庫)   作品の紹介 

正式タイトルは「書店ガール 3 託された一冊」。 人気シリーズの第三作。
産休を終え、現場に復帰した亜紀は、門外漢の経済書の担当になり、育児との両立
にも苦戦の日々。 本部への異動も打診され、30歳を迎え、若いころの情熱もなくなって
きたと自覚し、自信を失くしかけている。
店長の理子は、東日本6店舗のエリアマネージャーに昇格し、現場からも客からも距離
ができ、多忙な毎日。 買収した仙台の老舗書店のリニューアルの陣頭指揮の中、店長
代理の沢村の書店にかける熱い想い、被災地の現状を知る。
そんな中、理子が東日本大震災をテーマにした大々的なフェアを企画し、亜紀が担当と
して立候補する。 亜紀は沢村の力を借りて、東京の書店ならではのフェアに仕上げていく。
あいかわらず安定感のあるハイクオリティーなシリーズ。 綿密な取材力のいきた作品。
でも、前二作に比べると、ややパワーダウンかも、、、。
第二作のブックレビューはコチラ。  オススメ度:8

コメント  六機の特殊 U 蒼白の仮面 (黒崎 視音著、徳間文庫)   作品の紹介 

対テロ対策を主眼に設立された特殊部隊、警視庁警備部第六機動隊、通称六機。
28歳のキャリア、警視、土岐悟隊長以下8名のSAT小隊がテロ犯罪に立ち向かう物語。
社会に対する不満を抱えた人間を巧みに煽り、テロ犯罪に向かわせる闇サイトの謎の
住人「蒼白の仮面」。 女子高人質立てこもり、タンクローリー強奪首都高速暴走、銃乱射、
連続爆破と、蒼白の仮面が仕掛けた事件を土岐率いる隊が制圧していく。
やがて蒼白の仮面の正体を突き止めた闇サイトの常連が新たなテロを起こし、土岐の小隊
が臨場する、、、、、、。
第一作が土岐の成長物語の側面があったのに対し、本作は隊長としての土岐の活躍と
隊員との絆を描いている。 続編を読みたいけど、永らく出ていない模様。
第一作のブックレビューはコチラ。  オススメ度:8.2

コメント  無花果の実のなるころに (西條 奈加著、創元推理文庫)   作品の紹介 

正式タイトルは「無花果の実のなるころに お蔦さんの神楽坂日記」。
表題作を含む計6編を収録したミステリーの連作短編集。
神楽坂で履物店を営む元芸者のお蔦さん。 父親の札幌転勤を機に、祖母のお蔦さん
と同居を始めた中学生の望。 お蔦さんのご近所さん、望の友人たちが巻き込まれる
事件を二人が協力して次々と解決していく。 望の得意な料理を隠し味に使いながら、
軽快なタッチで進んでいく作品集。
時代小説の書き手のイメージが強かった著者のミステリー。 リーダビリティーもよく、
犯人の心理もよく描けているが、主人公二人のキャラが個人的にはやや魅力不足か。
オススメ度:7.8

コメント  リタとマッサン (植松 三十里著、集英社文庫)   作品の紹介 

スコットランド、グラスゴー近郊で暮らす22歳のリタは、第一次世界大戦で婚約者を
亡くし、失意の中にいた。 そんな中、ウイスキー醸造を学びに留学中の竹鶴政孝と
出会い愛し合うようになる。 リタは母と妹の反対を押し切って結婚し、政孝とともに
日本へ。 政孝はすぐにでもウイスキーづくりにとりかかりたかったが、会社の重役
たちの反対で計画が進まず、時間ばかりが過ぎていく。 そんな中、寿屋(後のサン
トリー)の社長、鳥井の熱心な誘いを受けて、転職。 京都、山崎の地で、ウイスキー
づくりを始めるが、商人、鳥井と技術者、政孝の溝が埋まることはなく、10年後に退社。
40歳にして、北海道、余市で再び国産ウイスキーづくりに挑む、、、、、、。
政孝の技術者としての信念、プライド、矜持。 彼を支えるリタの献身的な愛。
大正から昭和の時代にかけての話とはいえ、純粋な心根の二人の生きざまは美しい。
読後感もグッド。 本作が原作ではないけれど、二人の物語は2014年、NHK朝の連続
テレビ小説でドラマ化。 オススメ度:8.1

コメント  陽炎 (今野 敏著、ハルキ文庫)   作品の紹介 

正式タイトルは「陽炎 東京湾臨海署安積班」。 「安積警部補シリーズ」
新・臨海署編(第二部)の二作目。 表題作を含む計8編を収録した短編集。
いつもながらの安定感。 長編も短編も安心。 オススメ度:8

コメント  思い出のとき修理します 4 (谷 瑞恵著、集英社文庫)   作品の紹介 

人気シリーズの4作目にして完結編。 三編を収録した連作短編集の体裁。
シャッター商店街の一角に暮らす明里と秀司は恋人同士。 独立時計師になる夢を持つ
秀司は再びスイスで修業する夢を捨て切れずにいたが、明里と生きる決心をする。
秀司から手作りの時計を贈られ、プロポーズされた明里は、うれしいながらも、秀司が
夢をあきらめたようで複雑な気持ちでいた。 二人の明日のあるべき姿に思い悩む明里
と秀司。 そんな二人が出した結論とは、、、、、、。
読者が望む結末に着地したという印象。 いたずらに引っ張らずに四巻でスパッと完結
したのもいい感じ。 派手さはないけど、安定感のあるシリーズでした。
第三作のブックレビューはこちら。  オススメ度:8

コメント  漁港の肉子ちゃん (西 加奈子著、幻冬舎文庫)   作品の紹介 

北陸の漁港の焼き肉屋で働く肉子ちゃん、38歳。 本名は菊子だけれど、151cm、67.4kgの
体型ゆえ肉子ちゃんと呼ばれている。 肉子ちゃんは16歳で大阪に出てきて以来、次々と
悪い男、情けない男にだまされ、各地を転々とし、3年前に今のまちに落ち着いた。
肉子ちゃんのひとり娘の喜久子、11歳(小学5年生)は、色白でやせていて聡明な美少女。
肉子ちゃんの娘ゆえ、自然にしっかりとした子どもになった。
そんなキクりんこと喜久子ちゃんの視点を通して描かれたエンタメ色たっぷりの物語。
肉子ちゃんの働く焼き肉屋の店主、常連客、そして、キクりんの同級生など脇をかためる
キャラたちの描き方も秀逸。 物語後半でキクりんの視点から一転、ある女性の視点に
変わるところが物語のキモ。 そして、終盤に描かれている親子の絆の再確認に感動。
日常を生きるチカラが湧いてくる佳作。 くよくよしてても、しがたがないというメッセージ
が浮かび上がってくる、きっと。
2015年度「本の雑誌」文庫 エンタメ部門:第2位。 オススメ度:8.4

コメント  うつくしい人 (西 加奈子著、幻冬舎文庫)   作品の紹介 

他人の目ばかり気にして生きる百合、32歳、独身。 裕福な家に育ち、家から一歩も
出ない35歳の姉のことが常に頭から離れない。 百合は単純なミスがきっかけで突発的
に会社をやめ、5日間の予定で離島のリゾートホテルに旅立つ。
ホテルで仕事のできない42歳のバーテンダー、坂崎と超マザコンの24歳のイケメンドイツ
人マティアスと出会う。 坂崎、マティアスと過ごすうち、不安定で縮んだ百合の心が少し
ずつ再生していく、、、、、、。
クオリティーの高い物語であるとは思うけど、主人公のこころが不安定すぎて、前半は読み
進めるのがちょっとつらかったかも。 オススメ度:7.8

コメント  ラブコメ今昔 (有川 浩著、角川文庫)   作品の紹介 

計6編を収録した自衛隊員たちのラブコメ短編集。
上官の娘と付き合うことになった自衛官。 オタクの自衛官と付き合うOL。
自衛官同士のカップル。 時間や距離などさまざまな制約と戦いながら、恋愛に真摯に
向き合う若者たちのリアルを描いた作品。 もともと自衛隊好きの著者がきっちり取材
して書きあげた印象。 恋は不器用でも、国を守る自衛隊員としての意識の高さもてい
ねいに描いている。 警察小説とは違った意味でおもしろい。 自衛隊に対するイメージ
が変わるかもと思える広報的価値もあり。
こういうタイトルの本でさえ、(古本とは言え)買ってしまう著者の魅力。
もはやラブコメは著者のウリというか大きな強みのひとつでしょ。
著者のストーリーテラーとしてのチカラがのびのび発揮されている印象。
オススメ度:8.2

コメント  ヒア・カムズ・ザ・サン (有川 浩著、新潮文庫)   作品の紹介 

「ヒア・カムズ・ザ・サン」と「ヒア・カムズ・ザ・サン Parallel」の二編の中編を収録。
「ヒア・カムズ・ザ・サン」のあらすじは、以下の通り。
編集者の古川真也は、手にふれた物や人物に残る記憶が見えるという特殊な能力を
持っていた。 ある日、同僚のカオルが20年ぶりに父親、HALと再会することになる。
HALは、離婚し、日本を飛び出し、アメリカで脚本家として大きな成功をおさめ、真也と
カオルの編集部でインタビューすることになった。 インタビュー終了後、HALと二人きり
になった真也が、特殊能力をいかし、たどりついた真実とは、、、、、、。
「ヒア・カムズ・ザ・サン Parallel」は、その名の通り、「ヒア・カムズ・ザ・サン」のパラレル
ワールドを描いた作品。 中心人物と、カオルと父親の20年ぶりの再会という設定のみ
が両作の共通点。 「ヒア・カムズ・ザ・サン」と違って、本作では、真也とカオルは結婚
目前の恋人同士。 そして、カオルの父親は、脚本家として成功することなく、若いころ
からの虚言癖も直っていないダメ親父。 20年ぶりの再会も最悪の展開となり、和解の
兆しも見えないまま、父親がアメリカに帰る日が近づいていく、、、。
「ヒア・カムズ・ザ・サン」の方がおもしろいと感じる読者がほとんどでは。 真也の特殊
能力の使いどころがうまいなあという印象。 オススメ度:8.1

コメント  佳代のキッチン (原 宏一著、祥伝社文庫)   作品の紹介 

15年前、中学卒業を控えた佳代と5歳下の和馬の二人を残して失踪した両親を捜す
ため、佳代は客から持ち込まれた食材で指定の料理を作る「移動調理屋」を始める。
東京を振り出しに、横須賀、京都、松江、東京、盛岡、北海道と移動料理屋の仕事
の合間に両親の足跡をたどる。 新聞記者となった弟、和馬の協力のもと、両親を
知る人から話を聞くまではできるが、なかなか両親の所在を知る核心の情報には
近づけない、、、、、、。
佳代が訪れる先々で彼女を助ける人たちの人情、心根のまっすぐさが救いのお話。
本作はシリーズ化され、第三作まで刊行中。 オススメ度:8.1

コメント  あい 永遠に在り (高田 郁著、ハルキ文庫)   作品の紹介 

江戸時代末期に房総の貧しい農村に生まれたあいは、糸紡ぎの上手な愛らしい
少女に成長する。 十八歳になったあいは、伯父夫婦の養子、関寛斎のもとに
嫁ぐ。 寛斎は、苦学の末、医師となり、故郷で開業するが、患者の来ない日々
に苦悶する。 やがて、医学校の恩師の勧めで銚子で開業し、医師として本格的
な一歩を踏み出す。 さらに、ヤマサ印醤油の当主、濱口悟陵と意気投合、悟陵
の支援を受け、江戸でのペスト治療を経験した後、長崎に留学し、オランダの軍医、
ポンぺに師事する。 悟陵は、長期の留学を勧めるが、寛斎は妻子の待つ銚子に
戻る。 その後、阿波徳島藩の典医に推挙され、一家で徳島に向かう。 西洋医学
になじみのない環境の中で、寛斎は苦労を重ねるが、藩主からは厚い信頼を得る。
10年後、寛斎は藩主に従い、軍医として赴いた戊辰戦争で、敵味方を区別せず、
多くの命を救い、新政府からも高く評価される。 兵部省や海軍病院からの誘いも
断り、士族の身分を返上し、町医者として再出発する。
やがて、寛斎は医師としての使命を全うしたとの思いから、余生を開拓に捧げる
決心をする。 札幌農学校を卒業した息子が開拓に取り組む北海道に旅立ったとき、
寛斎は73歳、あいは68歳になっていた。 寛斎は、息子とともに陸別の開拓に取り
組むが、あいは身体が衰え、札幌近郊の開拓に専念する。 やがて、病魔があいを
襲う、、、、、、。
愚直に医師としての道を進む寛斎を支え、寄り添い、ともに夢を抱き、生き抜いた
あい。 二人の夫婦愛、そして人間愛をまっすぐに描いた佳作。 実話に基づいた
話だけに重みがある。 オススメ度:8.2

コメント  はなとゆめ (沖方 丁著、角川文庫)   作品の紹介 

28歳の清少納言は、帝の妃である17歳の中宮定子に仕え始める。 宮中の雰囲気に
なじめずにいたが、定子に導かれ、その才能を開花させ、存在感を増していく。
しかし、定子の父、関白、藤原道隆の死をきっかけに、叔父の藤原道長が権力を手に
すべく、定子と兄、伊周に政争を仕掛ける、、、。 清少納言も、政争に巻き込まれ、
定子を懸命に守ろうとする、、、、、、。
和歌を雅ととらえたこの時代の風流を描いた場面が多いのだけれど、現代人に共感
できるかと言われたら、少し難しいという印象。 ストーリーはしっかりしているが、著者
の代表作「天地明察」、「光圀伝」に比べると、爽快感が少ない。 オススメ度:8

コメント  蔦屋でござる (井川 香四郎著、二見時代小説文庫)   作品の紹介 

日本橋の地本問屋「蔦屋」。 老中、松平定信の政治が江戸の庶民の暮らしを
苦しめる中、主人の重三郎を慕う歌麿、山東京伝、滝沢馬琴、十返舎一九らは、
「閻魔連」を結成し、悪事を働く武士や商人に鉄槌をくだしていく、、、。
ミステリーとしては見るべきものはあるものの、痛快さがやや不足しているかな
という印象。 それにしても、蔦屋モノは、どれもおもしろい。
2014年度「本の雑誌」文庫 時代小説部門:第10位。 オススメ度:8

コメント  岳飛伝 8 龍蟠の章 (北方 謙三著、集英社文庫)   作品の紹介 

西遼では耶律大石が臨終のときを迎え、顧大嫂が若き皇太子の後見となる。
象の河の小梁山では秦容が10万人規模のまちづくりを進め、李俊も着々と水軍の
増強を進めていた。 一方、南宋軍がメコン河の阮一族の阮廉の村を急襲、岳飛が
軍を率いて撃退する。 しかし、南宋は河の上流に塞を築き、五万の軍を駐留させ、
秦檜は辛晃に指揮をまかせる。 小梁山の秦容も、南宋の動きに備え、軍の整備を
始める。 岳飛の軍営は、盟友の商人、梁興の働きにより、まちとしての機能が整い、
岳都と名付けられる。 梁興は、その足で小梁山を訪れ、甘藷糖をはじめとした物資
の物流網の整備を想い描く。 日本との交易で航行中の張朔は、遭難しそうになって
いた南宋水軍総帥の韓世忠の妻、梁紅玉を救助し、大島まで送り届ける。 妻の消息
を知った韓世忠は、梁紅玉のもとに向かう途中で遭遇した張朔指揮の梁山泊水軍を
襲撃。 双方一隻ずつの被害で戦いを終える。 一方、南宋の秦檜は金のダランと
同盟を結び、対梁山泊の戦いを視野に入れ始める、、、。
岳飛は小梁山を訪れ、李俊と意気投合、秦容とは軍同士が連合することで合意を得る。
南宋軍水軍と梁山泊水軍との戦い、南宋軍の南下政策、そして、金と南宋との同盟。
梁山泊の周辺にも、再び戦いの気配が訪れるも、ついに岳飛と梁山泊も手を結び、
新たな展開が見えてきた巻。 岳飛と李俊の会見の描写は、短いけれど秀逸。
オススメ度:8.1

コメント  岳飛伝 9 曉角の章 (北方 謙三著、集英社文庫)   作品の紹介 

小梁山に向けて、蒲甘から二千の軍が進軍してきた。 秦容は二千の兵を率いて戦い
に備える。 しかし、秦容が出撃した隙を狙い、甘藷園と小梁山が謎の傭兵集団に襲撃
される。 わずか30名の敵に300名近い犠牲が出たが、秦容が19名を倒し、ふたりを捕虜
にする。 秦容は蒲甘軍を一蹴した後、象の河の上流に駐留していた蒲甘の兵も打ち払う。
南宋の韓世忠は水軍全軍を率いて、梁山泊の物流拠点、沙門島に向かう。 事前に南宋
の攻撃をつかんでいた梁山泊は、水軍を差し向けることなく、沙門島を放棄する。
しかし、責任者の孫二娘は、島に残り、南宋軍を道連れに最期を遂げる。
南宋の沙門島襲撃と機を同じくして、金軍の総帥、ウジュは梁山泊に向けて三万の軍で
出撃する。 呼延凌軍一万に対し、ウジュも一万の軍で対峙するが交戦には至らなかった。
南宋への報復として史進が三千の兵で、羅辰の到死軍 百とともに臨安府を襲撃。 禁軍
総帥、劉光世を討ち取る。 臨安府を離脱する梁山泊軍を南宋軍五千が迎え撃つが、史進
は中央突破し、帰途につく。 南宋と交戦状態に入ったことを受け、秦容は岳飛のもとを
訪れ、両軍の連合について、さらに話を詰める。 張朔の率いる梁山泊の交易船が南宋
水軍の襲撃を受ける。 水軍の狄成も駆けつけ、南宋に大きな打撃を与える。
秦容は捕虜にした傭兵、敦とともに、北の高地に向かう。 一族の長老と会見し、来たる
べき、南宋との戦いに備えて、秦容と岳飛のもとで傭兵を雇いたい旨、依頼し、60名の傭兵
を得る。 沙門島近くの海域では、費保と倪雲が韓世忠の軍と交戦する。
梁山泊は、呼延凌が一万二千の兵で、ほぼ同数のウジュの兵と対峙していた。 山士奇の
歩兵四万も両者の戦いの近くにいる。 騎馬は三万の軍を三隊に分け、金国領内を駆け
回っていた。 金の沙歇は、梁山泊の騎馬隊に対応するのが精一杯だった。
燕京では丞相のダランが病に倒れ、最期のときを迎える。 物流を統括する蕭R材も監禁
されるが、到死軍に救出される。
秦容の印象が強烈だった巻。 これまでの水滸伝シリーズとは違った、物流も含めた国と
国との戦いが見えてきた巻でもありました。 オススメ度:8.2

コメント  三国志 一の巻 天狼の星 (北方 謙三著、ハルキ文庫)   作品の紹介 

後漢末期の184年、この世を平定したいという劉備の夢に惹かれた関羽と張飛は、
劉備と義兄弟の契りを結ぶ。 時に劉備、24歳、関羽、23歳、張飛、17歳。
三人は黄巾賊討伐の義勇兵として戦いに身を投じる。
曹操は29歳にして、近衛騎兵隊長として五千の兵を指揮し、官軍の立場で黄巾賊
と戦う。 同じく29歳の孫堅も二千の義勇兵を率い、戦いの場に赴く。
曹操も孫堅も、劉備の軍とともに戦い、百という寡兵ながら抜きん出た働きを見せる
劉備、関羽、張飛に強烈な印象を抱く。
黄巾の乱は平定されたが、宦官と外戚に支配された宮中の混乱がおさまることは
なかった。 霊帝の崩御を機に、皇太子の伯父、何進将軍が暗殺され、新帝を戴いた
董卓が洛陽に進軍する。 董卓は洛陽で軍を掌握し、専横を極め、即位間もない帝を
異母弟にすげ替える。 曹操の幼馴染であり、名門の出である袁紹と異母弟の袁術は
洛陽から出奔。 曹操も逃げるようにして洛陽を脱出する。 やがて袁紹、袁術、孫堅、
曹操、そして、劉備が客将として身を寄せる公孫さんなどが反董卓の志のもと、兵を集め、
軍備を整えていく。 董卓も二十万の兵で守りを固めていた、、、。
一方、洛陽では警視総監、丁原の部下、呂布が実力を発揮できず、巡回ばかりの鬱々
とした日々を送っていた。 呂布は意を決して丁原を斬殺し、董卓のもとに下る。
ついに、袁紹をはじめ18の諸侯が参集し、三十万の軍で董卓に対峙する。 袁紹を盟主
とし、呂布の守る水関を攻めるが、劉備が二百の兵で敵の将を討った以外に有効な
成果は得られなかった。 袁紹軍が、虎牢関、水関の難所を攻めあぐねる中、董卓は
洛陽を焼き払い、帝、民とともに長安に向かう。 董卓の目論みを見抜いた曹操は袁紹
に全軍での攻撃を勧めるが、袁紹は曹操の危惧を一笑に付す。 曹操は自らの指揮する
五千の兵のみで董卓軍を追撃するが、呂布の帰り討ちにあい、惨敗を喫する。 ほどなく
曹操は袁紹と訣別し、軍を引き揚げる。 その後、孫堅は洛陽の焼け跡から帝の印を発見。
洛陽を後にするが、袁紹の命を受けた劉表に攻撃される。 孫堅は劉表を退け、力を蓄えた
後、長男の孫策を伴って、劉表を攻める。 戦には勝利するが、最後の最後で、流れ矢で
命を落とす。 一方、袁紹は袁術と決裂。 冀州に本拠を置き、兵力を蓄える。
物語の幕開け早々、めまぐるしい動き。 曹操、劉備を中心に物語が進んでいくという予備
知識はあるものの、孫堅、呂布からも目を離せず。 スケールの大きな物語であると再認識。
全13巻。 オススメ度:8.2

コメント  三国志 二の巻 参旗の星 (北方 謙三著、ハルキ文庫)   作品の紹介 

洛陽では、文官の長、王允が呂布を唆し、董卓を暗殺させる。 最愛の妻、瑶を亡くした
呂布は、董卓亡き後の政事に関心を示すことなく、長安を後にする。 まもなく、王允も
董卓軍の残党に討たれる。
曹操は、徐々に勢力を拡大し、三万の軍を抱えるようになり、青州に拠る百万の黄巾軍
に挑む。 根気よく戦いを進めた結果、勝利をおさめ、軍師、荀ケの命を賭けた交渉の
結果、講和に成功。 黄巾軍の中核、五万の青州軍を加え、兵力は八万となった。
やがて、袁紹、袁術の対立が激化。 曹操は袁紹に従ったふりをして、袁術軍を撃破。
呂布は、袁紹の客将となる。 曹操は父の敵、陶謙を攻め、あと一歩のところまで追い
込むが、部下の陳宮と張ばくが裏切り、呂布を担ぎ出す。 曹操は、急ぎ、領地である
えん州にとって返し、呂布との戦いを始める。
劉備は、病で臨終の時を迎えた陶謙から徐州一州を譲られる。 そんな劉備のもとに、
三年の流浪の旅を終えた趙雲が配下に加わる。 兵力は五千になっていた。
父、孫堅を失った長男の孫策は、袁術の配下となり、三年間、屈辱に耐える。 20歳に
なった孫策に機会が与えられ、千二百の軍勢を率いて出陣する。 途中、孫策を慕う
者たちが四千が軍に加わり、さらに、親友、周瑜も駆けつける。 孫策は果敢に敵を退け、
ついに独立の道を歩み始める。
曹操は、一年余りの時をかけて、呂布に勝利し、州の実権を取り戻す。 兵のほとんどを
失った呂布は徐州の劉備のもとへ向かう。 劉備は、徐州を捨てる決断をし、二万の兵を
率いて、袁術との戦いに臨む。 劉備の策略だと気付かずに、呂布は徐州の守備につく。
劉備は退却を続けながらも、時には戦いに勝利し、軍の被害を最小限におさえる。
業を煮やした袁術が大軍で徐州に攻め入ったとき、呂布が州を支配していた、、、。
どうしても、同じ著者の作である「水滸伝」と比べてしまいがちだったけど、いろんな違いが
見えてきた。 「三国志」は人の動きがめまぐるしい。 あと、史実に基づいている点が何より
も驚き。 オススメ度:8.2

コメント  三国志 三の巻 玄戈の星 (北方 謙三著、ハルキ文庫)   作品の紹介 

劉備が手放した徐州を制した呂布は、袁術の十五万の大軍を五万の軍勢で打ち負かす。
一方、劉備は、曹操の客将となり、次の機会を待つことにする。 袁紹と同盟を結ぶ張繍は
曹操に降伏すると見せかけ、奇襲をかける。 曹操は、息子、甥を失うほどの敗戦を喫する。
孫策は徐々に力を蓄え、事実上、袁術から独立し、天下をねらう有力な勢力のひとつとなる。
曹操は、張繍、劉表軍を蹴散らし、袁紹が公孫讚に軍を向けるを見て、呂布との戦いに挑む。
奇策や間諜などの策を弄して戦う曹操に対して、呂布は正々堂々と戦い、ついに力尽きる。
袁紹も長年の懸案であった公孫讚を倒し、幽州を領土に加える。 益州では、五斗米道の教祖、
張魯の弟、張衛が領土拡大を図り、軍備を整えつつあった。
物語序盤の台風の目だった呂布が倒れ、袁紹、曹操、孫策、袁術の四強時代に。
やはり「水滸伝」より物語の動きが早く激しい印象。 オススメ度:8.2

コメント  三国志 四の巻 列肆の星 (北方 謙三著、ハルキ文庫)   作品の紹介 

公孫讚を倒した袁紹と呂布を倒した曹操が、ついに決戦の時を迎える。 袁紹は三十万と
いう圧倒的な兵力を擁しながらも、劉表、袁術、孫策を動かし、確実に勝利をものにしよう
と画策していた。 一方、帝は、曹操を討つべく、劉備に接近を試みていた、、、。
曹操は、自軍の兵、二万を預け、袁術を討つよう、劉備に命じる。 袁紹の大軍は官渡に
集結しつつあった、、、。
劉備が袁術と戦いを始めようとしたその時、袁術が死んだとの知らせが入る。 劉備は
曹操の兵、一万を曹操のもとに戻し、残った一万の軍を倒す。 かくして、曹操に反旗を
翻した劉備は、再び徐州の地に立つ。 曹操は、張繍の軍師、賈くを寝返らせ、袁紹に
通じた劉表の軍、二万五千を引き揚げさせる。 袁紹と曹操の戦が始まらない中、劉備は
二万五千の兵力を得る。 曹操が袁紹に勝つにしても、敗れるにしても、徐州に兵を向ける
には数年の時を要すると予測していたが、曹操は三万の兵を徐州に差し向ける。 幸い、
三万の兵は精鋭ではなく、劉備は曹操との初戦を制する。
父の仇敵、黄祖を討つべく、孫策、孫権と周瑜は江夏を攻め、大勝する。 帝が曹操を討つ
よう密勅を発したことに対し、曹操は帝の廷臣を大量に処断する。 劉備は四万の兵力を
擁するようになっていたが、曹操自らが率いる三万の軍に大敗を喫し、袁紹のもとに落ち
のびる。 関羽は劉備の夫人の願いにより、曹操に降伏、曹操軍の一員として白馬に向かう。
白馬で対峙する袁紹軍の将軍を一太刀で仕留めた関羽は曹操に恩を返し、曹操の元を去る。
孫策は、曹操を攻める決意をし、出陣しようとした矢先、暗殺される。 わずか19歳の孫権が
兄、孫策の遺志を継ぎ、周瑜とともに天下をめざすために立つ。
官渡では、袁紹軍三十万と曹操軍十二万が対峙していた。 劉備は袁紹に、劉表から兵を借り、
背後から曹操を衝く策を献上し、軍を離れる。 やがて、張飛が、そして、劉備の夫人を伴った
関羽が合流し、官渡の戦いの趨勢を見守る。 官渡の戦いは、曹操が思いきった用兵で勝利を
つかむ。 劉備は劉表と同盟を結び、荊州に陣を構える。
袁術の死、劉備の敗北、孫策の暗殺、官渡の戦い、、、あいかわらず、めまぐるしい動きを
見せる展開。 曹操を中心に描いた印象の巻。 時代はしばらく曹操中心に動く予感。
オススメ度:8.2

コメント  三国志 五の巻 八魁の星 (北方 謙三著、ハルキ文庫)   作品の紹介 

官渡の戦い曹操に敗れた袁紹は体制を立て直し、再度、両雄が激突。 またも用兵の妙で曹操が
勝利する。 袁紹は吐血し、病の床につく。
劉備は荊州の劉表に新野という地域を借りうけ、六千の兵で布陣していた。 益州の五斗米道の
教祖の弟、張衛が率いる一万五千の軍が荊州の州境に進軍するが、張飛が三千の兵で退ける。
曹操は、袁紹との三度目の戦いに臨み、初戦に勝利する。 その直後、袁紹の死の報がもたらされ、
喪に服すかたちで曹操は兵を引く。 しかし、これは、袁紹の息子たちへの脅威をわざと緩め、内紛
を待つという策略だった。 はたして、袁紹が後継者として考えていた三男、袁尚と長男、袁譚の
対立が表面化、曹操は黎陽の城をおとす。 さらに袁家の本拠地にまで進軍した後、帰還する。
曹操は、その後、曹仁に三万の兵を預け、荊州を攻める。 劉備が曹仁の兵を迎え撃つ直前、劉表
の幕客、伊籍の友人で、放浪の軍師、徐庶と出会う。 徐庶は曹仁軍の陣構えの罠を指摘し、劉備
に勝利をもたらす。
河北では、袁紹の三男、袁尚が長男、袁譚に勝利、敗走した袁譚は曹操に降伏する。 揚州では
孫権と周瑜が黄祖を討つべく、再び荊州の江夏に出陣する。 緒戦の水軍同士の戦いで圧勝し、
江夏城を包囲するが、揚州 建業で山越族一万の叛乱が起き、急遽、兵をとって返す。
曹操は、冀州を制圧すべく、十五万の大軍で袁尚を攻め、烏丸に潰走させる。 青州の袁譚が裏切り、
反旗を翻すが、曹操は難なく、これを撃破。 一度は帰順したものの兵を挙げた袁紹の甥、高幹も
討ち取る。 さらに劉備の軍師となるのを防ぐべく、母の身柄を確保して、徐庶を自らの元へ呼び
寄せる。 徐庶は別れ際、劉備に、諸葛亮孔明を軍師として推薦する。
第五巻に続き、曹操の快進撃を描いた巻。 孫権も力をつけていく中、劉備の足踏みがもどかしい
印象。 オススメ度:8.2

コメント  三国志 六の巻 陣車の星 (北方 謙三著、ハルキ文庫)   作品の紹介 

中華の北西の端、涼州では、西涼太守の長男、馬超が州内を抑えつつ、曹操への対応を考え
始めていた。 そんな馬超のもとに、益州の五斗米道教祖の弟、張衛が訪れる。
劉備は、諸葛亮孔明のもとを訪れ、志と自らの半生を語る。 孔明も徐々に劉備の人間力に
惹かれ、三度目の訪問で、劉備の臣下になることを申し出る。 孔明は、さっそく劉備に「天下
三分の計」を説く。 それは、曹操、孫権、劉備の三者で天下を三分するという長期戦略のもと、
目の前の戦いに臨むという壮大な構想だった。 時に、劉備47歳、孔明27歳のことだった。
曹操は、袁尚、袁熙を匿う烏丸に十万の大軍を差し向け、大勝する。 袁尚、袁熙は遼東の
公孫康を頼って落ちのびるが、曹操に降る意思をかためた公孫康に討ち取られる。
劉表から、曹操の南下に備えて拠点を新野から樊城に移すよう、劉備に要請が来る。 孔明は
この機会を利用し、予州との州境の曹操軍の城を落とし、荊州での劉備軍の存在感を上げると
ともに、曹操の目を揚州ではなく荊州に向けさせるべきであると献策する。 はたして、六千の
劉備軍は二万の曹操軍を討ち果たし、関羽、張飛、超雲も孔明の才を認める。
孫権は、自らが水軍を率い、父の敵である荊州 江夏の黄祖を討ち取る。
孔明は、曹操の南征に備え、劉表の長男、劉gを江夏太守にし、劉表の次男、劉jの叔父にして
荊州の実権を握る蔡瑁から距離を置くよう、劉備に進言する。 あわせて、揚州の孫権と同盟を
結び、共に曹操に立ち向かうべきであると唱える。 孔明は、孫権に仕える異母兄、諸葛瑾に手紙
をしたため、劉備側の考えを伝える。
病の劉表が死去し、曹操の二十万の軍が荊州に押し寄せる。 蔡瑁と劉jは戦うことなく降伏。
荊州の兵も加え、曹操は三十万の兵と水軍を手に入れる。
劉備は孔明の策に従い、曹操の軍と戦いながら、江夏の先、夏口に向かう。 劉備と行動を共に
する劉gの軍と合わせ、三万の兵力となっていた。 孫権の重臣、魯粛と会見した劉備は、孔明を
孫権のもとに使者として差し向ける、、、。
孔明の知略が際立った巻。 曹操、孫権の二強に劉備がどう追いついていけるのか、孔明の戦略の
今後が期待。 オススメ度:8.2

コメント  三国志 七の巻 諸王の星 (北方 謙三著、ハルキ文庫)   作品の紹介 

劉備の使者として、揚州に向かった孔明は、孫権との会見で、同盟を求めるのではなく、ただ劉備が
最後の一兵まで曹操と戦うという意志のみを伝える。 揚州の重臣の中には非戦論者も多かったが、
開戦の決意を表した周瑜に、孫権も曹操との戦いを宣言する。 周瑜は揚州十三万の兵のうち、十万
を長江沿いに点在させ、曹操軍を波状攻撃する作戦を立てる。 かくして、周瑜は三万の水軍のみを
率いて、長江を遡上する。 樊口に駐屯する劉備と会見した周瑜は、さらに上流の陸口まで水軍を
進めることを伝える。 そして、洞庭湖に迷い込んだ曹操軍を奇襲し、緒戦をものにする。 劉備は
孫権の本営、柴桑に至る陸路をおさえるべく、陸口沿岸に布陣。 第二戦の小競り合いでも周瑜に
歯が立たなかった曹操は対岸の烏林に布陣する。 周瑜は曹操が寝返りを仕掛けてきた自軍の老将、
黄蓋に曹操に降ると連絡させる。 黄蓋は千六百の兵を率いて、船で曹操の軍に近づき、曹操軍の船
に火を放つ。 風向きが曹操軍の陸地の陣営に向かって吹き始めた時機を狙った周瑜の会心の策が
はまり、水上ばかりか陸地まで曹操の陣が燃え広がる。 敗戦を悟った曹操は、速やかに護衛の許ちょ
率いる三千騎に守られ、江陵に向かう。 張飛、趙雲がそれぞれ一千騎で曹操を追うが、あと一歩の
ところで逃げられる。 かくして赤壁の戦いは、周瑜、劉備軍の大勝に終わる。
曹操との戦いの後、劉備軍は四万の規模になる。 荊州の長江より北は揚州軍がおさえ、南部は劉備
が制圧していく。 長沙、臨湘の城で老将、黄忠も劉備に降り、軍勢は六万の規模となる。
涼州の馬超は、袁術の旧家臣から袁術の娘、リンを託される。 益州、五斗米道教祖、張魯の弟、張衛
が馬超に連合を申し入れる。 馬超は快諾し、さっそく曹操への備えとして張衛に出兵するよう要請する
が、張衛の一存で出兵はできなかった。 馬超は張衛にリンを預ける。
赤壁の戦い以後、劉備は孫権、周瑜の同盟軍の位置づけだったが、周瑜はいずれ劉備と戦う必要がある
と考えていた。 しかし、周瑜は吐血を繰り返すようになる。 時を同じくして、劉備の正室が亡くなり、
孫権は、妹を劉備に嫁がせ、同盟の強化を図る。 孔明は周瑜が益州をおさえるつもりであることを察知し、
劉備軍も益州を攻略できるよう策を練る。
三国志中盤のクライマックス、赤壁の戦いを中心に描いた巻。 戦いの前後はていねいに描かれている
ものの、戦いそのものは意外とあっさりとした描写という印象。 オススメ度:8.2

コメント  三国志 八の巻 水府の星 (北方 謙三著、ハルキ文庫)   作品の紹介 

長江の北の荊州を抑えた周瑜は十万の兵を擁し、南を抑えた劉備の軍は七万となっていた。 両者とも
益州侵攻を目論み、睨み合いの状態が続く。 そんな中、孫権から、劉備に輿入れした妹の里帰りに劉備
も同行するよう要請する。
周瑜は益州侵攻を決意し、軍を進める。 周瑜の愛人で山越族の長の娘、幽の弟、路恂は山岳戦用の軍、
到死軍を創設、益州侵攻の軍に加わる。 しかし、水軍が益州に入る前に周瑜は三十六歳の生涯を終える。
周瑜の遺言により、後任には魯粛が就く。
益州の五斗米道教祖、張魯の伯父、鮮広は、張魯に接近した曹操の間諜、石岐と相討ちの末、果てる。
張衛は、鮮広の遺言に従い、二人の死を益州の劉璋の間諜の仕業とし、捕える。 石岐に骨抜きにされ
かかっていた張魯は、一転、主戦派に転じ、劉璋を討つよう、張衛に命じる。
孫権は、劉備が益州に侵攻することを認める。 しかし、長江北部の荊州を、劉備が益州をとれるまで借り
うけ、曹操の侵略から守るという条件がつけられる。 曹操の侵攻を防ぎつつ、益州を奪取し、益州がとれ
たら、借りうけていた長江北部の荊州を孫権に返す、という不条理な内容だった。
赤壁の戦いから二年、手づまりだった曹操が、周瑜の死をきっかけに再び動き出す。 帝につかえる馬超の
父、馬騰を処刑し、馬超が率いる西部の豪族連合である関中十部軍、十三万に十五万の兵をあたらせる。
曹操は、馬超を臣従させることも、討ち取ることもできなかったが、関中十部軍に大打撃を与える。
劉備のもとを劉璋の家臣、法正が訪れ、五斗米道討伐の援軍を依頼する。 劉備は、孔明、関羽、張飛、
趙雲に荊州を託し、新たに軍師となったほう統、将軍となった黄忠、魏延を従え、三万で益州に進軍する。
益州に入った劉備軍は、一度は五斗米道への前線基地に足を向けるが、やがて劉璋の本拠地、成都に
向けて進軍を開始する。 五斗米道としか戦ったことのない劉璋軍の質は低く、ほとんど犠牲を出すことなく
劉備は次々と拠点を落とし、帰順した兵を麾下に加えていく。 しかし、軍師のほう統が敵の流れ矢で命を
落とす。 やがて、孔明、張飛、趙雲が二万五千の兵を率いて、益州南部を平定。 残すは劉璋の籠る成都
のみとなる。
涼州では馬超以外の豪族たちは、先の戦いで命を落としたか、曹操の諜略で帰順させられていた。
馬超は自らの軍七万だけで出陣、関中十部軍の将だった牛志の先導で冀城を落とす。 曹操軍の夏候淵
との睨み合いが続く中、またしても曹操の諜略により文官が裏切り、馬超は敗走する。
曹操は合肥に兵を進め、孫権と対峙するが、戦線は膠着し、兵を引く。 曹操を長年支え続けた重臣の荀ケ
は、曹操との意見の対立から疑心暗鬼となり、自殺する。 ほどなく、曹操は魏公となる。
八巻にして、ようやく日の目を見ることができた劉備。 孔明の描く「天下三分の計」に向かって第一歩を
踏み出しました。 オススメ度:8.2

コメント  三国志 九の巻 軍市の星 (北方 謙三著、ハルキ文庫)   作品の紹介 

曹操に敗れた馬超は、牛志、馬岱とともに、千五百騎を率いて益州の五斗米道軍、張衛のもとに身を寄せ、
リンと再会。 劉璋を倒せ、という張魯の言を受け、成都に向かう。 張飛と刃を交えるが、陳礼が「劉備軍は
馬超を敵と思っていない」という言葉を残し、軍を引く。 やがて、馬超のもとに劉備の文官、簡雍が現れ、十日
間、語り合う。 成都に到着した馬超は、劉備の臣下となる。 馬超が攻囲軍に加わったことで、劉璋が降伏。
益州をほとんど無傷で手に入れた劉備は、新しく加わった将と兵も含めた軍を再編する。
劉備が益州を制圧したことを受けて、孫権が、関羽に荊州全域の返還を求めてきた。 益州侵攻前の約束は、
長江北岸のみを返還することであったので、関羽は激怒する。 交渉は平行線のまま進み、揚州から孔明の兄、
諸葛瑾が成都の劉備のもとを訪れ、魚粛も関羽と直接交渉するが、妥協点は見出せなかった。 孫権と劉備が
戦うことは曹操に利するだけであると理解しつつも、関羽は戦いを決意。 益州からも張飛の援軍二万が荊州
に向かう。 両軍が睨み合いを続ける中、曹操が益州、五斗米道の拠点、漢中に向かって進軍を開始。
劉備は、荊州南部の東側、揚州に隣接する長沙以下三群を孫権に譲る。
曹操は、夏侯惇とともに十二万の大軍を率いて、漢中に迫る中、教祖、張魯は交戦の決断を下せずにいた。
張衛が直属の二千の兵のみを従え、陽平関の砦で曹操を迎え撃つ準備を進める中、馬超が三千の兵を率いて
駆けつける。 張衛と馬超は、曹操軍の先鋒に五千の被害を与え、馬超は陣をひき、張衛は漢中に戻る。
張衛は兄、張魯に全軍での交戦を訴えるが、張魯は曹操に降伏する決意をする。 やむなく、張衛はわずか
四百の兵を率いて漢中を後にする。 曹操は張魯の降伏を受け入れ、五万の兵を夏候淵に預け、益州に滞陣
させる。 合肥では張遼が孫権に大勝する。 曹操は魏公から魏王となり、帝に次ぐ地位に就く。
曹操の領地が魏、孫権の領地が呉、そして劉備の領地が蜀と呼ばれるようになる。
濡須口で曹操軍と孫権軍が再び激突。 兵力で曹操が圧倒し、孫権は曹操に臣下の礼をとり、一時的な講和
が成立する。 劉備は六万の軍を率いて、益州北部に進軍する。 魏軍は漢中の夏候淵、張こう率いる五万に
加え、曹洪の軍五万が援軍として着陣し、劉備を迎え撃つ。 劉備は陽平関を奪い、曹洪は兵を引く。
曹操がついに四十万の大軍を率いて漢中に進軍する。 劉備は蜀軍十万のうち、八万をこの戦いに投入。
南鄭以外の拠点をすべて撃破し、黄忠が夏候淵を討ち取る。 やがて、曹操が着陣するが、魏軍は蜀軍の守る
四つの砦を落とす端緒さえつかめなかった。 曹操は、漢中周辺の戦いを一旦中止し、一挙に成都に攻め上がる
策を思いつくが、馬超が張衛を道案内にして兵糧の運送路を絶つ。 曹操は何の収穫もないまま、兵をひく。
荊州では、関羽が満を持して北伐の準備を進めていた。 劉備は漢中王に就く。
関羽は三万の兵を率いて、北伐を開始。 魏の要衝、樊城に向かう。 魏の軍勢、十三万を相手に関羽はよく
戦うが、曹操が孫権と手を組み、蜀軍の将を諜略する。 呉軍の陸遜が荊州西部に侵攻し、関羽の背後を衝く。
関羽は退却するが、魏と呉の軍が行く手を阻む。 関羽はわずかな供まわりで益州に向かうが、ついに力尽きて
最期のときを迎える、、、、、、。
漢中の戦いに勝利し、蜀が魏に次いで第二の勢力になったのも束の間、またしても諜略で事態が暗転。
一人勝ちができない波乱の展開。 実力拮抗のオセロゲームのよう。 オススメ度:8.3

コメント  三国志 十の巻 帝座の星 (北方 謙三著、ハルキ文庫)   作品の紹介 

義兄弟、関羽を失い、劉備と張飛は、成都で七万の軍を組織し、過酷な調練を繰り返す。 劉備は、荊州を
攻める決意を孔明に伝える。 孔明は蜀の領内の不穏分子である豪族の処断を張飛に託す。 張飛は三千
の兵で一万数千の豪族連合軍を一蹴する。
孫権の重臣、張昭は、蜀に対するさらなる謀略を巡らせる。 呉は武昌に本拠を移し、軍も陸遜が要となる。
六十六歳になった曹操は、曹丕に後継を譲り、最期のときを迎える。 さらに軍の頂点にいた夏侯惇も静か
に息をひきとる。 曹丕は司馬懿とともに自分の治世を切り開くべく、帝に帝位の禅譲を求める。
曹丕は魏の帝となり、四百年続いた漢の王室は、その幕を閉じる。
劉備は蜀を蜀漢という名に改め、帝に即位する。 その直後、路恂率いる到死軍が張飛の妻、董香、息子、
張苞、そして、間諜の頭領、応累の命を奪う。 路恂は張飛に討たれるが、路恂の姉で、周瑜の愛人だった
幽が張飛を毒殺する。
大黒柱の張飛を失うが、蜀は荊州侵攻を開始する。 張飛の副官だった陳礼が三万の軍を率いて奮戦、夷陵
まであと一歩の所まで進軍し、劉備の到着を待つ、、、、、、。
「三国志正史」とは違い、本作では、関羽に続き、張飛まで呉の謀略で命を落とす。 同じく、正史にはない
董香の死と重ね合わせることで、蜀と呉の志の違い、そして、せつなさが浮かび上がってくる。
戦場での戦い以外に、謀略の場面が多く、読み進めるのがつらくなることもある。 「水滸伝」よりもドライブ感
のある展開であるが、十巻にして、曹操、関羽、張飛が姿を消し、それに続く人物がいないまま、終焉に向かって
いく予感。 ひとり勝ちもないし、誰も最終的な勝利をつかめない物語なんだな、と改めて思う。
オススメ度:8.2

コメント  三国志 十一の巻 鬼宿の星 (北方 謙三著、ハルキ文庫)   作品の紹介 

陳礼の快進撃により、蜀内の少数民族二万が加わり、劉備の本隊は六万となり、進軍する。
迎え撃つ呉は、老将軍、韓当が陸遜を支え、夷陵に五万、夷道に三万、後方に七万の陣を敷く。
白水関に駐屯する馬超は、一万の軍を馬岱にまかせ、自らは牛志、二百の麾下と山中で暮らしていた。
お互いをわかりあえた張飛を亡くして、戦いに倦み始めている自分に気づいていた。 そんな矢先、
張衛がリンを誘拐する。  張衛は「伝国の玉璽」を持つリンを担ぎ、雍州の叛乱を糾合しようとしていた。
馬超はすぐさま追跡し、リンを取り戻す。 リンを妻にした馬超は、静かに劉備のもとを去る。
劉備軍は夷陵を突破し、陳礼の騎馬隊が陸遜の本隊を捉え、勝ちを急いで夷道に駆け込む。 しかし、
これは陸遜の策だった。 騎馬隊は山から石や木を落とされ全滅。 騎馬隊から引き離された後方の
歩兵も火攻めにあい、潰走する。 劉備は白帝に向かって駆け続ける。 呉軍は白帝まで劉備を追うが、
趙雲が追撃を阻止する。 この戦いでの犠牲は、陳礼を筆頭に、軍師の馬良、関羽の息子、関興など
計り知れなかった。 加えて、北からの攻めに備えていた黄権の軍一万も退路を絶たれ、魏に降伏する。
蜀と呉の大戦の後、曹丕は自ら出陣し、三十万の大軍で呉を攻める。 合肥、濡須口を巡る戦いは、
陸遜が率いる十万の呉軍の勝利に終わる。
大きく国力を落とした蜀にあって、孔明は休む間もなく、次々と手を打ち、未だ完全に統治しきれていない
蜀の南部に目を向け始める。 劉備は戦の後、気力が衰え、病を得ていたが、曹操のもとにいた爰京の
治療により一時的に回復する。 劉備は孔明を白帝に呼び寄せ、自らの死後の蜀を孔明に託す。
七日後、孔明や息子の劉禅、重臣たちに見守られる中、劉備はその生涯を終える、、、。
曹操に次いで、劉備も、この世を去り、乱世は次の世代に。 今後は孔明と司馬懿の戦いか。
オススメ度:8.2

コメント  三国志 十二の巻 霹靂の星 (北方 謙三著、ハルキ文庫)   作品の紹介 

劉備の死から一年、孔明は劉備の遺言に従い、水面下で呉との和睦、同盟を進めていた。 その
一方で、新兵の徴兵、調練も進め、夷陵の戦いで失った兵力も回復させる。 そして、二万の兵を
率いて、蜀の南部、南中の平定を開始する。
曹丕は、三十万の軍を率いて、再び呉に進軍する。 しかし、建業近郊の広陵に築かれた広大な
偽城の策を見破れず、戦わずして軍を引く。
孔明は軍を三つに分けて南進し、早々に叛乱の首謀者三名を討ち果たす。 敗残兵四万を集めた
孟獲が孔明に挑むが、一蹴される。 七度の戦いの末、孟獲は孔明に帰順の意を表し、孔明から
南中の統治をまかされる。 孔明は南中で一万の兵を加え、三万の軍勢で成都に帰還する。
曹丕は、司馬懿や軍の総帥、曹真の反対を押し切り、三たび呉の広陵に三十万からなる親征の軍
を出すが、失敗に終わる。 司馬懿は荊州方面の指揮官となり、軍では曹真に次ぐ序列となった。
曹丕は、病に倒れ、まもなく息を引き取る。 四十歳の若さだった。 曹丕の息子、曹叡が帝となるが、
大きな混乱はなかった。
孔明は、劉禅に出師の表を上奏した後、十一万の軍を率いて、北伐に出発。 趙雲は軍の総帥を辞し、
軍権は孔明が握ることになる。 長安侵攻を容易にするため、孔明は根気強く、上庸に拠点を置く孟達
に諜略をしかけ、蜀への寝返らせる。 しかし、孟達が戦の準備を整える前に司馬懿が駆けつけ、孟達
を討ち果たす。
魏は、帝の曹叡が自ら長安に赴き、司馬懿も着陣する。 魏は二十万の大軍を孔明が率いる街亭の
万にあて、曹真が十万を三万の趙雲軍にあてる。 孔明は二十万の軍を街亭で引きつけている間に
魏延の軍二万を長安に向けて急行させる。 さらに馬岱に命じて涼州の兵を集めさせる。
さらに馬謖に二十万の魏軍を街亭に引きつけておくよう命じる。 雍州の豪族も呼応し、長安の曹叡
を討てる機が目前に迫っていた。 しかし、功を焦った馬謖が潰走し、孔明は苦渋の決断で全軍に
退却を命じる。 帰還後、馬謖は討ち首となる。
陸遜は呉の軍の総帥として四万の軍で、魏の曹休が率いる十万の軍を潰走させる。 孫権の長年の
宿願であった合肥を落とし、降兵七千を手に入れる。 曹休は帰還後、失意の中、息を引き取る。
孫権は、呉の帝を名乗る。
孔明は新兵一万二千を含む三万二千の兵を率いて、司馬懿が建てさせた陳倉城を攻める。 この出兵
は新兵に実戦経験を積ませることと、魏の援軍を移動させ、国力を消耗させることが目的だった。
はたして魏は二十万もの大軍を派遣するが、孔明は速やかに撤退。 撤退中に馬岱が魏の先鋒の将軍
を討ち取る。 間を置かず、孔明は州境の二群を奪取する。 その後、趙雲が病に倒れ、息を引き取る。
主な登場人物たちがこの世を去り、どうなることかと思いきや、劉備亡き後の孔明のがんばりと司馬懿
のしたたかさが光った巻。 陸遜のやるせなさ、趙雲と孔明の絆の描き方も秀逸。 オススメ度:8.2

コメント  三国志 十三の巻 極北の星 (北方 謙三著、ハルキ文庫)   作品の紹介 

魏は、軍の総帥、曹真が三十万を率いて、漢中に進軍する。 蜀は、陳式、姜維のわずか一万の先鋒の
活躍で、魏の先鋒、夏侯覇の二万を翻弄し、緒戦を制する。 やがて、一ヶ月以上も雨が降り続き、魏軍
は撤退する。
翌年、孔明は十四万の兵を雍州に向けて動かす。 魏は、軍の総帥、曹真が病に倒れ、ついに司馬懿が
軍権を掌中におさめる。 司馬懿は曹叡に「孔明に勝つことはできないが、負けない戦をする」と誓う。
かくして、魏も三十五万の大軍で蜀を迎え撃つ。 孔明は魏の兵糧庫のある祁山をおさえ、東に向かう。
司馬懿は、孔明の戦略を見抜き、西に急行する。 蜀軍十一万と魏軍三十万がいよいよ対峙。 孔明は
「漢」の旗を掲げる。 蜀軍は祁山に陣を構え、膠着状態が二ヶ月続く。 機が熟し、双方、全軍での総力戦
の火蓋が切られる。 魏延が六万の歩兵で敵の十五万を受け止め、姜維が騎馬五千で本陣に突き進む。
司馬懿をあと一歩のところまで追い詰めるが、姜維の馬がつぶれ、取り逃がす。 しかし、魏の五万もの兵
を討ち取り、大勝利をおさめた。 司馬懿は、もはや孔明と戦うのではなく、戦わず撤退させることに重きを
置き、徹底的に守りの陣を敷く。 やがて雨が降り続き、蜀は山中での兵糧の輸送が困難となる。 開戦から
半年後、孔明は陣を引き払う。 司馬懿は、四万の軍で蜀を追撃するが、殿軍の魏延と姜維に一蹴される。
戦後、孔明は驚異のはやさで国力を回復させ、十四万の軍で出陣する。 司馬懿は三十五万の兵で五丈原
に陣を構えた蜀軍に対峙する。 膠着が一ヶ月を過ぎたころ、孔明は魏の陣に軍使を送り「五丈原より西は
蜀の領土である」と宣言する。 さらに姜維をはじめとした五万の兵を雍州西部に進軍させる。 司馬懿は、
三十万の軍で九万の蜀軍を攻めるが、魏延、王平を主力とした九万の蜀軍に潰走させられる。 司馬懿は、
再び守りを固めるが、若い将軍たちの主戦論が強く、軍議でやむなく出撃を宣言する。 しかし、その直後、
曹叡から「孔明と戦ってはならない」と勅命が届き、司馬懿は胸をなでおろす。 孔明は雍州西部の制圧、
さらには、長安侵攻を視界に入れ始めるが、病はその時を与えず、最期のときを迎える、、、、、、。
中身の濃い全十三巻を読了。 やはり、曹操、孫権、周瑜、劉備、孔明、、、男たちが見果てぬ夢を追いかける
も、勝者なき戦いであったという感想。 物語終盤、山の民になった馬超、孔明との邂逅をはたす爰京のエピ
ソードを効果的に挿入し、天下をめざすこととは違う次元で生きる人生を描いたことも印象的だった。
オススメ度:8.2

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