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読書感想文2017 part 5

「読書感想文2017」 part5は、9月〜10月の読書録です。

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コメント  海賊とよばれた男(上) (百田 尚樹著、講談社文庫)   作品の紹介 

【第一章】第二次世界大戦の敗戦で、国岡商店の店主、国岡鐡造は60歳にして、
海外の拠点をすべて失う。 戦争に徴兵された社員にも給料を払い続け、石油を
販売することもできない苦境の中、鐡造は一人の社員も解雇しなかった。
そんな彼の思いに応え、社員たちは、慣れない新事業のラジオ修理や、タンクの
底の油をさらうという過酷な作業にも弱音を吐かず、あきらめず、立ち向かう。
やがて、GHQの信頼も得て、ようやく石油を扱う日がやってくる、、、。
【第二章】福岡で生まれた鐡造は、神戸高商に入学。 東北に旅行中、油田開発の
現場を訪れ、石油の将来性に関心を持つ。 卒業後、同級生たちが大手の商社や
銀行に就職する中、零細の個人商店に就職。 商売の基本を学ぶ。 25歳で門司に
国岡商店を開設。 資金は鐡造の将来に夢を託した日田重太郎が出してくれる。
三年間は商売が軌道に乗らず、廃業を覚悟するが、日田から追加で金を出してもらい、
下関で大口の取引先を獲得。 ようやく商売のメドが立つ。 しかし、門司の特約店
契約しか持たなかった鐡造は海上で納品し、やがて海賊の異名をとるようになる。
軍の中国進出、満州国建国、さらには南方進出に伴い、国岡商店も海外での商売が
中心になる。 同業者や外国の石油会社の営業妨害、さらには、軍や満鉄の横暴に
耐え、泣き言ひとつ言わず、彼を慕う社員らとともに、消費者、国のために正攻法
の商いに徹する。 やがて、軍も国岡商店を認め、社員の六割を占める七百名弱が
海外で働くことになる。 この間、十二年連れ添った妻のユキが子どもができないこと
を申し訳なく思い、離婚を申し出る。 鐡造はユキとなくなく別れ、一年後、多津子と
再婚。 一男四女の子宝に恵まれる。 その一方、念願だったタンカー「日章丸」を
建造したのも束の間、軍に徴用され、アメリカによる攻撃で戦没の憂き目を見る。
そんな中、国岡商店は終戦の日を迎える、、、、、、。
上巻の第一章が昭和20年〜22年、第二章が明治18年〜昭和20年を描いている。
こんなにも高潔で無私で心根のまっすぐの人が実在したのかと、物語の冒頭から驚き
と感動の連続。 著者の代表作「永遠の0」を上回る傑作。 巡り会えたことを幸せに
思える一作。 2013年「本屋大賞」受賞作。 2016年映画化。 オススメ度:8.6

コメント  海賊とよばれた男(下) (百田 尚樹著、講談社文庫)   作品の紹介 

【第三章】日本が戦後の復興の階段をのぼりはじめ、サンフランシスコ平和条約が
締結され、GHQが撤退。 石油の輸入がついに自由化されるが、鐡造の前に「七人
の魔女」こと七大メジャーが立ちふさがる。 日本の石油会社が次々と七大メジャー
の傘下におさまっていくなか、国岡商店は徹底抗戦。 銀行からの巨額融資をとり
つけ、ついに、小売店から元受会社への転身を遂げる。
さらなる七大メジャー、国内の競合企業からの包囲網の中、鐡造はイランからの石油
輸入を企てる。 イランは、国内の石油の保有権をイギリスと争っているさなかであり、
イギリスはイランから石油を運ぶイタリアのタンカーを拿捕するという強硬手段に出る。
鐡造は、弟の正明、武知を秘密裏にイランに派遣、首相や国有会社と粘り強い交渉の末、
ついに契約を交わすが、タンカーをチャーターしていた海運会社が突然、タンカーを
出せないと通告してくる。 鐡造は、自社のタンカーである二代目「日章丸」をイランに
向かわせる。 イギリスは海軍に日章丸を拿捕するよう指示を出すが、日章丸船長が
イギリス海軍の裏をかく遠回りの航路を選択。 無事、日本に寄港する。 イギリスは
イランから輸入した石油の所有権を主張し、裁判を起こすが、国岡商店が勝訴する。
しかし、イギリスと裏取引をしたアメリカが主導した軍部クーデターにより、国岡商店
を支持する首相が失脚。 イラン国有石油会社もメジャーの軍門に降る、、、。
【第四章】国岡商店は、苦労の末に手にしたイランの石油が手に入らなくなる。 鐡造は
自らアメリカに向かい、メジャーの一社であるガルフと対等な立場で提携し、クウェートから
の石油入手に成功する。 さらに、バンク・オブ・アメリカによる巨額融資により、徳山に
長年の悲願であった製油所を建設する。 国岡商店は、ビジネスを拡大し、ソ連からも
原油を輸入するようになる。 しかし、政府は再び、石油を統制し始める。 鐡造は日本
経済、そして消費者のことを第一に考え、この政策に真っ向から立ち向かう。
やがて、鐡造は社長を弟の正明に譲り、会長となるが、社員たちの精神的支柱として、
長く店主として国岡商店を支えていく、、、、、、。
次から次からへと降りかかる苦難に、勇気と信念で立ち向かう鐡造の姿は、ほんとうに
頭が下がる。 ふつうだったら、60歳で終戦を迎えて、心が折れるはず。 しかし、その後
20年以上も現役で陣頭指揮をとり続ける気力と使命感、人を想う、国を想う心の清々しさ
は、常人の常識と想像をはるかに超える域にある。
彼の心根と人間力に惹かれ、国を越えて、彼を応援する人々が多いことも、この物語の
救いのひとつ。 この小説は、読者にまっすぐな心、人を想う尊さ、人を信じる意義、日本
人としての誇りなど、様々なことを思い出させてくれる。 10回以上、涙腺が緩むこと必至
の傑作。 下巻の第三章が昭和22年〜28年、第四章が昭和28年〜49年を描いている。
2013年「本屋大賞」受賞作。 2016年映画化。 オススメ度:8.6

コメント  神様のカルテ 3 (夏川 草介著、小学館文庫)   作品の紹介 

大ヒットシリーズの第三作。 信州 松本にある24時間365日対応の本庄病院に勤務
する内科医、栗原 一止(いちと)。 山岳カメラマンの妻、榛名や上司の大狸先生、
同期の進藤、砂山、看護師の外村、東西、同じアパートに住む男爵、屋久杉などに
支えられ、不眠不休の毎日を送る六年目の若手医師。
昨年度末、信濃大学医局からの誘いを断り、本庄病院への残留を決めが、初夏には
恩師である内科の副部長、古狐先生こと内藤をガンで失う。
9月、内藤にかわり、小幡奈美が本庄病院に着任する。 小幡は、内科部長、大狸先生
の大学病院での教え子であり、臨床も研究も一流の十二年選手。
しかし、アルコール依存の患者、とりわけ治ろうとする意思を持たない患者については、
ろくな治療をせず、一止だけでなく看護師たちとも険悪な雰囲気になる。
しかし、彼女の行動には研修医時代の事件が大きく影を落としていた、、、、、、。
小幡の真意を知り、一止は医師としての自らのあり方を深く考え直す。 やがて、ある
患者への診断がきっかけとなり、大きな大きな決断をくだす、、、、、、。
シリーズ第一部の完結編。 巻ごとにあたらしい話題を盛り込み、なおかつ安定感のある
クオリティーをキープ。 第二部の展開が楽しみ。
第二作のブックレビューはこちら。  シリーズ特設サイトはこちら。  オススメ度:8.3

コメント  何者 (朝井 リョウ著、新潮文庫)   作品の紹介 

拓人は、御山大学の3年生。 大学の親友、光太郎がルームメイト。
拓人と光太郎は、それぞれ、大学の劇団と軽音楽部を引退し、就活に向かう
ことになる。 光太郎の元彼女、瑞月もアメリカ留学から帰国早々、就活を
スタート。 瑞月の友だち、理香が拓人、光太郎と同じアパートの上の階に
住んでいることから、理香の部屋で就活対策の集まりと称して、飲みながら
の情報交換を始める。 そんな4人を理香と同棲中で就職の意思のない隆良
が覚めた目で見ている。
理香の部屋では和気あいあいと会話しているものの、就職試験の会場で
拓人と理香がばったり出くわし、気まずい思いをしたり。 就職しないはずの
隆良がこそこそ就活していたり。 Twitterのつぶやきも何だか表面的だったり。
本音や毒を吐きだす裏アカウントを持っていたり、、、。
「何者」かになりたいはずなのに、「何者」への道が遠い若者たち、、、。
そして、物語終盤で明かされるせつない真実、、、。
直木賞受賞作のわりに、小難しいというか、理屈っぽい印象。
登場人物の半分以上が、就活がうまくいかないだけじゃなくて、何者にもなれ
ない痛い若者というのも、読後感としてはすっきりしない。 別に安直なハッピー
エンドを期待していたわけではないのだけど、なんだか救いのない終わり方かも。
2013年「直木賞」受賞作。 2016年映画化。 オススメ度:8

コメント  永遠のディーバ (垣根 涼介著、新潮文庫)   作品の紹介 

正式タイトルは「永遠のディーバ 君たちに明日はない4」。 表題作を含む計4編
を収録。 リストラ面接官、村上 真介の奮闘を描いた人気の「君たちに明日はない」
シリーズの第4作。
この巻は、いつもと趣向の違うラインナップ。 第一話と第四話は、辞めさせる話
ではなく、引きとめる話。 第二話は、真介の会社の社長の過去を描いた話。
そして、表題作の第三話は、面接対象者が自分でグループ内の転籍先を見つけてくる
というお話。 全編、真介の出番が少なめ。 表題作はなかなかのデキ。
このシリーズも次の第五作で完結。
第三作のブックレビューはこちら。  オススメ度:8.2

コメント  真夏の島に咲く花は (垣根 涼介著、講談社文庫)   作品の紹介 

フィジー第三の街、人口一万五千のナンディに暮らす四人の男女の青春群像物語。
日本人のヨシとフィジー人のチョネ、インド人のサティーは高校の同級生で24歳。
ワーキングビザでフィジーの旅行会社で働く日本人のアコは28歳。 チョネの恋人。
ヨシは16歳で両親と共にフィジーに移住し、現在、両親が経営する日本料理店で
店長をしている。 サティーは父が経営する土産物店で働いている。 ヨシとサティー
は、恋人同士。 チョネはガソリンスタンドの店員で薄給を嘆いている。
そんな4人の日常が、フィジーの首都、スバで起こった武装集団による国会議事堂
を占拠するというクーデターによって、変わり始める。 武装集団は、首相以下閣僚
たちを人質にとり、スバの街ではフィジー人が国の経済を支配するインド人の商店
や住居を襲う暴動が発生。 事件は長期化し、観光客が激減する。
そんな中、ヨシの店の店員であるチョネの妹、マカリタがサティーに嫉妬し、アコに
チョネがかつてサティーと付き合っていたことを告げる。 会社が経営危機の中、
サティーのことをチョネから知らされていなかったアコは、心の整理がつかず、長期
休暇をとり、チョネの前から姿を消す。 チョネは、ラグビー仲間たちが中国人の質屋
を襲撃する計画をとめようとするが、自らも犯罪に加わる決心をする。 アコが街に
戻ってきた日に、チョネたちは計画を実行し、逮捕される。
チョネは刑務所に収監され、アコはワーキングビザが切れて日本に帰国。 そして、
サティーは家族と共にオーストラリアに移住する、、、。
物語中盤で「楽園は周りの人間と作り上げていくもの。場所なんかじゃない。その人間
関係がもたらす心の風景だ」ということばが出てくる。 クーデターを乗り越えて、四人
の楽園が見えてくるのかと期待して読み進めたけど、せつないエンディング。
なんだかやりきれない気持ちを抱えたまま、ストーリーが進み、終わってしまった感じ。
オススメ度:7.8

コメント  狛犬ジョンの軌跡 (垣根 涼介著、光文社文庫)   作品の紹介 

30代のフリーの一級建築士、太刀川要が深夜に遭遇した異様な大きさの黒い犬は、
瀕死の重傷を負っていた。 動物病院に駆け込むと、獣医も判別不能の犬種で
戸惑う。 太刀川は里親を探しながら、この犬を飼うことにし、ジョンと名付ける。
ジョンとの生活に慣れたころ、太刀川は、偶然、目にした雑誌記事に愕然とする。
その記事には、大型の黒い犬が不良少年を二人噛み殺し、一人に重傷を負わせた
と書かれていた。 太刀川は事件の現場を訪れ、事件の詳細を取材する。 やがて
少年たちが神社の獅子の像を壊したこと、そして、獅子と対の狛犬の像が消えたこと
がわかる。 ジョンのしたこと、そして、正体を知った太刀川は、それでも、ジョンを
庇おうとする。 しかし、ジョンは行方をくらまし、太刀川の元に警察が訪れる、、、。
神社の狛犬が実体化するという設定はいいとして、どういうオチを持ってくるのかと
期待したのだけど、、、。 なんだか釈然としない結末。 もうちょっと白黒つけた決着
にしてほしかった、、、。 オススメ度:7.8

コメント  雪煙チェイス (東野 圭吾著、実業之日本社文庫)   作品の紹介 

運悪く殺人の容疑をかけられた大学生の竜実。 彼のアリバイを証明できるのは、事件
当日、スキー場で出会った美人スノーボーダーただ一人。 竜実は友人、波川の勧めで
警察に事情を話すのではなく、自らがアリバイの証人を探すことを選択する。
波川とともに、美人スノーボーダーが口にしたホームグラウンドのスキー場に向かう。
一方、事件を捜査する所轄の刑事、小杉も竜実と波川の目的地を知り、同じスキー場に
向かう。 捜査の手が迫る中、竜実と波川は、必死にお目当ての女性を探すが、、、。
実業之日本社文庫に著者が書き下ろした雪山シリーズの第三作。 前二作の「白銀ジャック」、
「疾風ロンド」と比べて、事件のスケールも、トリックのレベルも、やや物足りない印象。
オススメ度:7.8

コメント  メサイア (高殿 円著、角川文庫)   作品の紹介 

正式タイトルは「メサイア 警備局特別公安五係」。
海棠 鋭利は、中学生の時、両親と妹が殺害され、コリアンマフィアに拾われる。 やがて
マフィア間の抗争中、重傷を負い、影の公安チーム「サクラ」を預かる一嶋に助けられる。
その後、公安のスパイ養成校で数々のことを学びながら、殺人まで含めたミッションをこなす。
殺人の裁量を持つサクラのメンバーは、任務失敗が即、死に直結する。 敵国に捕まっても、
サクラが助けに来てくれるわけではない。 しかし、養成校での相棒である「メサイア(救い手)」
だけは例外で、相棒を助けることができる。
海棠 鋭利は、一嶋から御津見 珀を相棒、メサイアとして指名され、養成校の卒業試験に臨む。
試験の課題は、首相の息子、牛尾 由哉の護衛だった。 折しも、世界の国々が10年前に批准
した軍縮条約を再度、批准するか否かを決する会議が日本で開催されるタイミングだった。
はたして、軍縮会議直前、由哉がロシアのスパイに誘拐される。 ロシアは首相に軍縮反対に
一票を投じるようにプレッシャーをかける。 鋭利と珀は、由哉の救出に向かうが、珀の双子の
で今はロシアのスパイとなった男が、二人にロシアのスパイになるよう誘う。
一方、一嶋は、軍縮会議を舞台にしたロシアの策謀の黒幕を突き止める、、、、、、。
主人公の壮絶な過去、過酷なスパイの世界を描いているのだけれど、イマイチ悲壮感を抱かず。
主人公二人のキャラづけのせいか、スパイ青春小説のようなテイスト。
2013年、映画化 & 舞台化。 HPを見る限りはアイドル系か。 オススメ度:8

コメント  撃てない警官 (安東 能明著、新潮文庫)   作品の紹介 

計7編を収録した警察小説短編集。
警視庁の管理部門の筆頭課である総務部企画課係長、柴崎令司は36歳にして警部。
しかし、部下の拳銃自殺の責任を負い、綾瀬署 警務課の課長代理に左遷される。
上司の陰謀により、柴崎ひとりが責任を負わされた不条理な異動であった。
柴崎はかつての上司の弱みを探りつつ、所轄の仕事にも励む。 入庁以来、ひたすら管理畑
を歩いてきたが、柴崎が警察学校時代の教官であり、現在は綾瀬署の副署長である助川が
次々と現場の仕事に巻き込む。 最初は乗り気ではなく、戸惑い気味の柴崎だったが、次第
に捜査の才能が開花し、事件を解決に導いていく、、、。
大事件を扱っているわけではないけど、管理畑の柴崎が、刑事畑の助川に引っ張られ、現場
の苦労、捜査の基本を学んでいくプロセスの描写が絶妙。 後半の2編のデキが秀逸。
「日本推理作家協会賞」受賞の「随監」を収録。 主人公、柴崎のその後を描いた第二作
「出署せず」のブックレビューはコチラ。  オススメ度:8.2

コメント  パラダイス・ロスト (柳 広司著、角川文庫)   作品の紹介 

好評「ジョーカー・ゲーム」シリーズの第三作。 計5編を収録。
元スパイだった結城中佐が陸軍に設立したスパイ養成学校、通称「D機関」を舞台にした物語。
いつもながらの安定感。 逆転の仕掛けも冴えている。 このシリーズは著者の強みがのびのび
と出せている気がする。
第二作のブックレビューはコチラ。  シリーズ特設サイトはコチラ。  オススメ度:8.1

コメント  珈琲店タレーランの事件簿 4 (岡崎 琢磨著、宝島社文庫)   作品の紹介 

京都の珈琲店「タレーラン」を舞台にした人気シリーズの第四作。
京都市内でひっそりと営業を続ける珈琲店「タレーラン」。 バリスタは、24歳の切間 美星。
彼女は店に持ち込まれるさまざまな謎を解き明かす。
5編の短編と書き下ろしの掌編1編を収録。 美星が登場しないお話も2編あり。
安定感はあるものの、新鮮味がなくなってきたと感じるのはしかたがないことか、、、。
第三作のブックレビューはコチラ。  オススメ度:8

コメント  戦力外捜査官 (似鳥 鶏著、河出文庫)   作品の紹介 

正式タイトルは「戦力外捜査官 姫デカ・海月千波」。 人気シリーズの第一作。
警視庁 捜査一課 火災犯捜査第二係に着任したキャリアのメガネ美少女警部、海月千波。
お守役の設楽恭介刑事とコンビを組んで、連続放火事件の捜査本部に加わるが、さまざまな
失態によりたった二日で戦力外通告を受ける。
一方、捜査一課 殺人犯捜査第六係の古森と高宮は、捜査を始めた殺人事件の被害者が
7年前の幼女殺害事件の容疑者を任意同行する際、近くにいた女性っだたことに気づく。
一見、何のつながりもなかったかに見えたふたつの事件が交差し、海月と設楽は犯人を
追い詰めるが、、、、、、。
マンガみたいなキャラクター設定の主人公であるが、ミステリーの部分は精緻に構成されて
いたという印象。 2014年ドラマ化。 オススメ度:8

コメント  ヤッさん U (原 宏一著、双葉文庫)   作品の紹介 

食の達人の宿なし「ヤッさん」が主人公の人気シリーズの第二作。
ヤッさんは、築地市場と一流料理店との間に立って情報の仲買人として、両者からリスペクト
される存在。 宿なしではあるが、身ぎれいにしている。 報酬は受け取らないが、食事は
築地の新鮮な魚だったり、一流料理人の手による賄い飯だったり。
そんなヤッさんの元に、神楽坂で開店したカフェが行き詰ったマリエが弟子入りする。
努力家だが、惚れっぽく、食の本質が見えていなかったマリエが、ヤッさんと市場まわり、店
まわりを続けるうちに、料理人としても、人間としても成長していく。
マリエの前にヤッさんの弟子だったタカオの店を助けたり、日本食好きのノルウェー人、ヨナス
をあちこちの店に案内して感動されたり愛されたり、そんなマリエの汗と涙の成長物語。
熟練の筆者が読者を飽きさせることのない工夫が憎い第二作。 ヤッさんの出番はちょっと
抑えめだったけど、世界観は第一作から受け継がれ、人情話としても一級品の仕上がり。
第一作のブックレビューはコチラ。  オススメ度:8.2

コメント  恋歌 (朝井 まかて著、講談社文庫)   作品の紹介 

明治の大歌人、中島歌子の入院先に、弟子の三宅花圃と中川澄が見舞いに訪れる。
二人は、歌子の自宅兼私塾「萩の舎」を訪れ、歌子の手記を見つける。 その手記には、
歌子が歌人となる前の壮絶な半生が綴られていた、、、、、。
江戸小石川の「池田屋」は、水戸藩の定宿として栄えていた。 池田屋のひとり娘、登世は
十八となり、婿養子を迎えるべく、母が次々と見合いの場を設けている。 そんな中、登世
は、水戸藩の中士、林以徳から求婚され、水戸に嫁ぐ。 しかし、幕末の混乱の中、水戸藩
は、天狗党と諸生党の二大派閥が争い、やがて内乱に突入する。 登世の夫、以徳も天狗党
の中心人物として、図らずも、戦の中に身を投じていく。 諸生党が有利に戦を進める中、
天狗党に属する武士の妻子たちは獄につながれ、上士の妻子から処刑されていく。 登世も
以徳の妹、てつと共に獄中生活を余儀なくされるが、命が尽きる前に釈放される。
二人は水戸を出奔し、江戸でひっそりと暮らし始める。 維新後、てつは林家再興のため、
水戸に戻り、婿をとる。 以徳は戦いにやぶれ、獄中死していた。
登世は名を歌子と改め、短歌の世界に身を投じ、一時代を築いていく、、、、、、。
読み進めるのがつらくなることもある壮絶な獄中生活の描写。 幕末の水戸藩でこれほどまで
に凄惨な内乱が繰り広げられていたことに驚き。 わずか三年の結婚生活にも関わらず、死ぬ
まで夫を想い続けた登世の想い。 そして、物語の最後で明かされる澄の正体。
人の想いの尊さと深さを骨太に描き切った傑作。 リーダビリティーもばつぐん。
2014年「直木賞」受賞作。 オススメ度:8.4

コメント  とっぴんぱらりの風太郎(上) (万城目 学著、文春文庫)   作品の紹介 

伊賀の国で忍者の修業をしたにもかかわらず、領主、藤堂家の不興を買い、18歳にして、
伊賀から追放された風太郎。 京でぶらぶらしているうちに20歳になった風太郎のもとに、
かつての相棒、黒弓が現れ、ひょうたんの店「瓢六」で働くことに。
やがて、ひょうたんの精、因心居士が現れ、大坂城にいる片割れのひょうたん、果心居士と
再びひとつになる手伝いを頼まれる。 因心居士は、風太郎を今は亡き秀吉の妻、ねねの
元へ向かわせる。 ねねの紹介により、風太郎は、本阿弥光悦に因心居士が宿るひょうたん
の意匠を依頼する。
そんな風太郎のもとを、かつての忍びの仲間で、藤堂家の間者としてねねに仕える常世が
訪れ、黒弓とともに、謎の公家、ひさご様の京見物の警護をすることに。 一行は、残菊が
率いるかぶき者の集団、月次組に襲われるが、命からがら逃げのびる。
ほどなく、大坂冬の陣が始まり、風太郎は、元仲間の蝉とともに、徳川方の藤堂家の陣で
忍びの一軍とともに働く。 戦は和議をもって終結する、、、。
著者お得意のふしぎな舞台設定は生きているけど、いかんせん、話の進むのが遅い印象。
450ページを超える上巻を読み終えても、ほとんどの謎が明らかにならず、むしろ増えていき。
下巻に期待かな。  作品の特設サイトはコチラ。  オススメ度:7.8

コメント  とっぴんぱらりの風太郎(下) (万城目 学著、文春文庫)   作品の紹介 

黒弓と共に大坂城の常世のもとを訪れた風太郎は、ひさご様の正体が秀頼であることを知る。
伊賀の忍びと共に戦に出たことにより、忍びに戻れることを期待した風太郎だったが、忍び
の頭領、采女は、それを許さなかった。
京に戻った風太郎は、残菊の月次組に襲われ、瀕死の傷を負うが、元忍び仲間の百に介抱
され、一命をとりとめる。 やがて、因心居士が姿を現し、風太郎に、本阿弥光悦が意匠を
凝らしたひょうたんを持って、大坂城に向かうよう告げる。 さらに、ねねからは秀頼が自決に
使うための刀を託される。
大坂夏の陣が始まる中、瓢六で働く女、芥下は風太郎に店で働くよう勧めるが、風太郎は
黒弓と共に大坂に急行する。 大坂城の常世のもとに向かう蝉も合流し、三人で落城寸前の
大坂城に入り込む。 因心居士と果心居士をひとつに戻すことに成功した後、三人は秀頼と
常世の隠れる蔵に向かう。 秀頼に、ねねから預かった刀を渡した風太郎は、秀頼から女の
赤ん坊を託される。 秀頼はわが子だけでも大坂城を脱出させてくれるよう風太郎に頼み、
常世に風太郎たちに同行するよう命じる。 常世を加えた四人は城外に向かうが、残菊率いる
忍びの一軍が行く手を阻む、、、、、、。
クライマックスのドライブ感はさすが。 でも、やっぱり、もっと物語を凝縮した方が切れ味
のよい作品になったのではという印象。 ラストはせつないけど、これもありかな。
作品の特設サイトはコチラ。  オススメ度:8.1

コメント  異人村阿片奇憚 (西條 奈加著、新潮文庫)   作品の紹介 

正式タイトルは「金春屋ゴメス 異人村阿片奇憚」。「金春屋ゴメス」シリーズの第二作。
近未来、江戸幕府を再現した江戸国が日本から独立。 江戸国の人々は、鎖国状態の中、江戸
時代そのものの暮らしを送っていた。 辰次郎は大学2年生。 江戸生まれだが、5歳のときに
両親とともに日本に移住。 15年のときを経て、江戸国に移住し、「金春屋ゴメス」こと長崎奉行
馬込播磨守のもとで働き始める。
阿片が海外に出回り、江戸国は日本から麻薬製造の嫌疑をかけられる。 長崎奉行ゴメスは、異人
たちが住む麻衣椰村が怪しいと目をつける。 やがて、北町奉行も阿片を隠し持っていた罪で捕えら
れるが、事件はある旗本が仕組んだものだった。 辰次郎は、仲間の松吉とともに、旗本の息子が
阿片を栽培していると目星をつけた流刑地で潜入捜査を試みる、、、、、、。
ミステリーの部分は、精緻に構成された一級品。 しかし、当然のことながら、第一作で描かれた
江戸の舞台設定に、二度も驚くわけではなく。 ゴメスの出番もやや控えめだったかも。
シリーズ第一作のブックレビューはこちら。  オススメ度:8.1

コメント  四文屋 (松井 今朝子著、ハルキ文庫)   作品の紹介 

人気の「並木拍子郎種取帳」シリーズの第四作。 表題作を含む計五編を収録。
主人公、並木拍子郎は、北町奉行所の同心の家に生まれたが、歌舞伎の作者、並木五瓶に
弟子入りする。 五瓶は、芝居の台本づくりの訓練にと、拍子郎に町の噂や出来事を
「種取帳」に書き留めるように命じるが、やがて「捕物帳」の側面が強くなっていく、、、。
師匠の五瓶とその妻の小でん、そして近所の料理茶屋の娘のおあさ。 拍子郎の日常を
彩る人物も健在。 今回も、あいかわらずの安定感。 ミステリーも、人情話も高品質。
ただ、拍子郎とおあさの恋は、進展しそうで、進展せず、、、。
第一作のブックレビューはこちら。 第二作、第三作のブックレビューはこちら。 オススメ度:8.1

コメント  上野池之端 鱗や繁盛記 (西條 奈加著、新潮文庫)   作品の紹介 

伯父に騙されて信州の山奥から江戸に奉公に出た十三歳の少女、お末。 上野の奉公先
「鱗や」は、料理茶屋とは名ばかりの連れ込み宿だった。 板前も女中も無気力な中、お末は、
店にかつての評判を取り戻すべく努力する若旦那の八十八朗とともに、奮闘する。
歌舞伎役者の伴之介や一流料亭の女将、お里久の支援のおかげで、鱗やは、徐々に評判を
あげていく。 しかし、店の暗い過去は、婿入りした若旦那の過去とも繋がっていた、、、。
少女の成長物語、人情話、そして、ミステリーのバランスが絶妙の一作。 オススメ度:8.1

コメント  項羽と劉邦(上) (司馬 遼太郎著、新潮文庫)   作品の紹介 

秦の始皇帝が悲願の中国統一を成し遂げ、在位十年の後、死を迎えた時代に物語が始まる。
楚の貴族の末裔、項羽は、叔父、項梁に従い、教えを受け、成人する。 始皇帝亡き後の混乱
の中、郡守を殺害。 項梁が郡の実権を握る。
沛の人、劉邦は、実家の農業を手伝うことなく、無頼漢としての日々を過ごしていた。
劉邦の周りには、役人の蕭何、曹参、夏候嬰、そして、弟分の樊かい、盧綰など、彼を慕う多く
の人物が集まっていた。 やがて呂公の娘と結婚し、子どもを二人もうける。 家族は実家に
預けたままで無頼を続けていたが、蕭何の計らいで下級役人となる。 しかし、使役の人夫を
任地に送り届ける途中、脱走者が続出し、任務を放棄。 わずかな男たちとともに、沛の郊外
に隠れ住む。
秦の二代目皇帝、胡亥が即位するも、宦官の趙高が実権を握り、国としての命運が尽きようと
していた。 各地の民の不満が増大し、陳勝・呉広の乱が勃発。 秦は章邯を鎮圧軍の将軍に
任命し、なんとか窮地を脱する。
全国に混乱が広がる中、沛でも自衛軍を持つべきであるという機運が高まる。 蕭何は、劉邦を
主君と仰ぐ決心をし、劉邦のもとに兵を集める。
項梁は、東陵侯、召平から陳勝が興した張楚の丞相に任じられたという偽の情報を信じ、陳勝、
呉広の戦いに加わるが、まもなく、秦の章邯によって陳勝・呉広の乱は制圧される。
項梁は、楚の最後の王、懐王の孫、心を推戴し、楚再興を目論む。 楚の令尹、宋義や軍師と
して范増が陣営に加わる。 やがて、劉邦も項梁のもとに参じ、項羽と劉邦はともに秦軍と戦う
ことになる。 しかし、項梁はあえなく戦死を遂げる。 項羽は秦の章邯軍と対決すべく、鉅鹿に
軍を進め、進軍中に上将軍となっていた宋義を斬る。 劉邦は陽動のため、別働隊として、関中
をめざす。
鉅鹿では趙王と張耳が城に籠り、二十万を超える秦軍に包囲されていた。 燕、斉など諸国の
軍八万も着陣していたが、秦の大軍を前に籠城戦を傍観していた。 項羽は七万の兵を率いて
鉅鹿に到着するや、決死の攻撃を仕掛け、秦軍を次々と撃破、秦兵十万を捕虜とし、鉅鹿城を
解放する。
章邯は、秦に増兵を訴えるが、趙高はこれに応じなかった。 項羽に勝利したとしても、やがて
趙高に罪を捏造され処刑されることを予測した章邯は、もはや戦うことの意味を見出すことが
できず、捕虜となった兵の命を救うため、項羽に投降する。 項羽は章邯を雍王として遇する。
項羽は関中に向かって進軍を開始し、途中で秦の投降兵二十万の命を奪う、、、、、、。
項羽と劉邦が出会ったのは、項羽が二十五歳、劉邦が四十一歳のときだったとのこと。
項羽が若いことを差し引いたとしても、まわりに彼を慕う人物が少なかったこと、彼が孤高の人
であったことだけが、二人の将来を決定づけたのか、、、。 たぶん、それだけではないはず。
中巻、下巻を読むとそのあたりがわかってくるのかな。 オススメ度:8

コメント  項羽と劉邦(中) (司馬 遼太郎著、新潮文庫)   作品の紹介 

劉邦の軍は、項羽の軍ほど精強ではなく、秦軍に敗れることもあったが、着実に関中に向けて
西進を続けていた。 途中、張良という軍師を得て、戦略性も向上する。 章邯が項羽に投降
したことも影響し、戦わずして投降する秦軍も出てくる。 関中に進軍するにあたり、張良は、
守りの堅い函谷関ではなく、武関を通るよう進言し、劉邦はこの意見を容れる。 劉邦軍が武関
を破ると、秦の趙高は敗戦を覚悟し、皇帝、胡亥を殺害、劉邦に関中を二分して治めるようもち
かける。 劉邦は、この申し出を取り合わず、趙高は三世、子嬰に殺害される。 子嬰は即位する
も、秦の落日を悟り、皇帝ではなく、秦王と名乗る。 その後、劉邦に投降する。 劉邦は咸陽に
入城する。 いっさいの略奪を行わず、劉邦を関中王にと望む声が秦の民からも出始める。
しかし、小者の提案に耳を貸し、函谷関を閉ざす。 これに激怒した項羽は二十万の大軍で関を
破り、劉備に総攻撃を仕掛ける決意をするが、張良に大恩のある叔父、項伯のとりなしにより
鴻門で劉備と会し、許す。 范増は剣舞に見せかけて劉備暗殺を試みるが、樊かいが窮地を救う。
項羽は兵に略奪を許し、咸陽の街を焼き払い、子嬰を殺害する。 さらには楚の再興のために推戴
した懐王まで殺害してしまう。 関中は章邯はじめ三人の旧秦の将軍を王に封じて治めさせる。
そして、劉邦は、西南の僻地の巴蜀と漢中の王に封じられ、漢王となる。 項羽は彭城に戻り、
楚王を名乗る。
劉邦は蕭何を丞相とし、項羽を見限った韓信を大将に抜擢する。 そして関中に進軍し、旧秦の
三将軍の軍を一蹴する。 劉邦は民衆の支持を得て、漢を建国する。
一方、項羽の論功行賞は、各地で不満が爆発し、斉や趙で反乱が勃発する。 劉邦は関中を出て
東進を続け、項羽に不満を持つ韓、魏、趙、燕、斉の兵を加え、五十六万もの大軍を擁するように
なる。 劉邦軍は項羽の本拠地、彭城を一気に落とすが、斉から三万の兵で戻った項羽によって
潰走させられる。 項羽の強さに恐れをなした王や諸侯はかんたんに劉邦軍から項羽軍に鞍替えし、
項羽のもとに四十万を超える兵が集まる。 一方、劉邦軍は四散し、韓信のもとに五千の兵が従う
のみであった。 五千の兵では当然、勝負にならず、劉邦は夏候嬰に守られ、命からがら、妻、呂公
の兄、呂沢のもとに落ちのびる。 さらに、敗残の兵を集めながら、西に向かい、韓信、張良の待つ
けい陽の城に入る。 劉邦は使者を送り、項羽の将、黥布を寝返らせる。 さらに、項羽軍から降った
陳平が大金を使って、楚軍内部での工作を行い、主力の将、軍師、范増に対する項羽の猜疑心を煽る。
はたして、項羽は陳平の策にはまり、将たちを疑い始める。 范増も項羽に見切りをつけ、職を辞し、
故郷に帰っていった。
項羽は劉邦が籠るけい陽城を攻め、糧道を絶つ。 張良は、劉邦に蕭何の待つ漢中に落ちのび、再起
にかけるよう進言する。 項羽軍の包囲が厳しい中、陳平の奇策により、紀信を劉邦の替え玉とし、
降伏を申し出る。 その間隙を縫って、劉邦以下八割の兵が城を出る。 城は、後を託された周苛がよく
戦うが、ついに陥ちる、、、、、、。
俗物で人間味あふれ、いいかげんなのに、なぜか周囲から慕われる劉邦、苛烈で肉親しか信用しない
猜疑心の塊のような項羽。 上巻に続き、二人を対比しながら、戦いが描写されていく。
項羽は天下人としてふさわしくないとしても、消去法で劉邦かと問われたら、それもないでしょ、と答える
人も多いのでは? 思わず、そう考えてしまう、著者の劉邦像は、興味深い。 オススメ度:8.1

コメント  項羽と劉邦(下) (司馬 遼太郎著、新潮文庫)   作品の紹介 

劉邦は命からがら関中に落ちのび、軍を再編して、南の武関から項羽を攻めるが、またしても
身ひとつで敗走する。
一方、韓信は北方で連戦連勝を続け、劉邦から遣わされた張耳とともに、魏、代、趙、燕を制圧。
次は斉を攻めるべく、修武の地で調練を続けていた。 そこに劉邦が逃げ込み、韓信に斉を討つ
よう命を下す。 韓信は斉王を潰走させる。 項羽は竜且に二十万の兵を与え、韓信の軍にあた
らせる。 韓信は知略で竜且を討ち取り、劉邦から斉王に封じられる。
項羽は虞美人をたすけ、寵姫としてかたわらに置くようになる。
その後、劉邦は、広武山で食糧庫を抱えるように山の上に陣を敷く。 項羽も、山の麓に陣を
構えるが、食糧不足に陥る。 両軍は膠着状態に陥るが、項羽の呼びかけに応じ、劉邦は山を
下る。 劉邦は、両軍の前で、項羽の罪を次々と並べていく。 項羽は、黙って聞いていたが、
やがて、弩弓が劉邦の胸を直撃。 劉邦は、命からがら陣に戻る。 劉邦は静養後、陸賈を休戦
の使者に送るが、交渉は決裂。 しかし、続いて使者となった侯公が項羽の心をつかみ、休戦に
成功する。 これにより、楚軍に捕らわれていた劉邦の父と呂公の身柄も戻される。
劉邦は、まさかの休戦に胸をなでおろすが、項羽軍も食糧が尽き、兵の覇気が失われていた。
軍師、張良は、陳平とともに、休戦の約定を破って、項羽を追撃することを進言。 劉邦も、この策
をとりあげ、彭城に帰還する楚軍に戦いを挑むが、あっけなく潰走させられる。 漢軍は固陵城に
籠城するが、攻め手の楚軍の食糧不足は深刻だった。 やがて楚の舒城の守将、周殷が裏切り、
項羽は固陵城の攻囲を解く。 楚軍は再び彭城への帰途につくが、中間地点にある城父城が漢軍
の黥布と周殷によって落とされていた。 さらに、北方から韓信が三十万の兵を率いて進軍し、彭越
も彭城に軍を進める。 楚軍からは脱走が続き、兵の数は十万まで減っていた。 項羽は垓下に着陣。
漢軍は韓信を攻囲の中心に据える。 楚兵はよく戦ったが、日々、兵力を削られていく。
やがて垓下城の周囲、四面から楚歌が聞こえてくる。 項羽はこれにより、自らの命運が尽きたことを
認める。 虞美人を伴っての脱出は不可能であると、項羽、虞ともに悟り、項羽は虞美人を斬る。
そして、わずか八百騎で、漢軍の攻囲を突き抜け、南に落ちのびる。 途中、漢軍に討ち取られ、落伍
する者も相次ぎ、やがて百騎となり、最後には二十八騎となる。 項羽は果敢に戦うが、最後は自決
の道を選ぶ。 こうして、三十一歳の生涯を閉じる、、、、、、。
策を弄さず、まっすぐに戦った項羽。 戦略を持たず、范増という参謀にも去られ、韓信のような有能な
将を持つことなく、敗者として、夢半ばで倒れる。 では、劉邦が勝者なのか、、、歴史の上ではそうで
あるが、雌雄を決する最後の戦いはだまし討ちのような色合いが強く、彼が頭角を現したころの人間力
が感じられなかった。 漢という大国の始まりが会心の勝利でなかったのが残念。 オススメ度:8.1

コメント  岳飛伝 10 天雷の章 (北方 謙三著、集英社文庫)   作品の紹介 

張朔率いる梁山泊水軍が長江水域で南宋水軍と交戦状態に入る。 梁山泊側は、費保、
倪雲、狄成、卜統など水軍の主力を擁しての総力戦を仕掛ける。 張朔は南宋水軍の
総帥、韓世忠を追い詰めるが、討ち漏らす。 戦いは梁山泊の大勝利に終わる。
韓世忠は、将校に降格となり、十五艘を率いて、東の島に向かう。
金との戦いは、八万対八万の睨み合いが続く。 呼延凌とウジュが直属の二千の麾下だけ
で戦うも決着がつかず、史進がウジュにあと一歩のところに迫るが、胡土児が遮る。
やがて、金の国内で叛乱が多発し、ウジュは兵を退く。
狄成と項充は、わずか三十名の決死隊を率いて、南宋の造船所の焼き打ちに成功。
南宋水軍に壊滅的な打撃を与える。 これに対し、南宋の宰相、秦檜は、軍の総帥、程雲
に命じ、長江沿いの梁山泊水軍の拠点を陸から潰していく。
梁山泊に救出された蕭R材は、交易担当の王貴とともに南方に向かう。 小梁山で秦容
と意気投合。 敦の案内で、開通したばかりの陸路で岳都に向かい、岳飛とも交わりを
結ぶ。 王貴は、岳飛の娘、崔蘭に求婚し、岳飛も結婚を認める。 王貴は、統括の宣凱に
請われ、聚義庁の一員となる。 敦は小梁山と岳都を結ぶ道を「梁岳道」と名付ける。
岳飛は秦容に贈る象を三頭、蕭R材に託す。 蕭R材は中国全土での商いを始める決意
をし、聚義庁で宣凱、王貴とこれからの物流のことを話し合う。 宣凱、王貴の考えは、金、
南宋、西域、そして南方まで拡がる飛脚網に輸送網を重ね合わせる壮大な計画だった。
南宋の辛晃は、対小梁山、岳都を睨んだ砦を築き、南方での戦を想定した調練を重ねる。
岳飛は辛晃が小梁山を攻めると読み、森の中に身を潜める。 はたして辛晃は一万の兵で
小梁山の北の砦を攻める。 岳飛は辛晃を急襲し、深手を負わせるが、討ち果たせなかった。
数々の戦い、新しい物流の道、出会いと別れ、、、場面の移り変わりが多く、盛りだくさんな
印象の巻。 王貴と崔蘭の結婚を許す岳飛の父親としての顔がよかった。 オススメ度:8.2

コメント  岳飛伝 11 烽燧の章 (北方 謙三著、集英社文庫)   作品の紹介 

金では麦が不足していた。 軍の兵糧を供出しても焼け石の水の状態であり、各地の叛乱を
軍が抑えていた。 太子の海陵王が新たな禁軍を組織し、その規模は三万となるが、それは
ウジュの望むものではなかった。 ウジュは、梁山泊との戦を決意する。
岳家軍は三千となり、内、五百を騎馬隊にした。 土地の民たちの軍も六千となる。
岳都郊外の本営以外にも、岳家軍は、孫範、張憲率いる三千が中華の地に潜伏していた。
蕭R材は、梁山泊の通信網と、物流組織、轟交買の物流網を重ね合わせ、商いを整備していく。
そして、梁山泊緊議庁の宣凱、王貴に、甘蔗糖を梁山泊の専売から轟交買の扱いにするよう
依頼し、認められる。
ウジュは騎兵十万を率いて、呼延凌に決戦を挑む。 梁山泊は四万の騎兵と山士奇の歩兵
四万、そして史進の遊撃隊、総勢八万の兵が迎え撃つ。 二日間の膠着状態の後、史進の
遊撃隊が突如、姿を現し、ウジュをあと一歩のところまで追い詰める。 史進は金の将軍、斜哥
を討ち取り、戦場を駆け抜け、姿を消す。 翌日の戦いで、梁山泊軍は戦術を変更し、呼延凌は
金の乙移を討つ。 その夜、金は夜襲をしかけ、明け方にも奇襲で梁山泊軍に迫る。
梁山泊軍は、呼延凌の副官、陳央、歩兵隊長の山士奇、騎馬隊の四人の上級将校の一人、
唐節を失うが、史進が金の将軍、訥吾を討ち取る。 金は三人の将軍をはじめ二万数千、梁山泊
も、唯一の将軍、山士奇をはじめ一万数千の犠牲を出し、戦いが終わる。
梁山泊の交易用の大型船が二艘、撃沈される。 梁山泊は、南宋水軍の総帥を解任された韓世忠
の仕業であると判断し、李俊が狄成と項充を従え二十艘で出動する。
南宋は蒙古と結び、蒙古が金や西遼に攻め入る。 西遼では梁山泊の韓成や梁山泊で戦を学んだ
土里緒が蒙古軍を一掃する。
岳飛は、南宋内に百人単位で潜伏している岳家軍の兵士たちの拠点を三十か所巡る旅に出る。
南宋の宰相、秦檜は雷州に物流拠点をつくることを決意し、蕭R材との会見に臨む。
小梁山では、秦容が北の高山出身の元傭兵である公礼を妻に迎える。
ウジュは胡土児に会寧府に行くよう命じる。 これは、金の北辺の軍を預かる耶律越里が病で
戦に出られなくなっていることへの備えも兼ねていた。 燕京では太子、海陵王の禁軍が五万の
規模に達していた、、、。
呼延凌 対 ウジュの決戦に、いよいよ決着がつくかとはらはらしながら読み進めたけれど、またしても
決着がつかず。 次巻以降のお愉しみがひとつ残った感じ。 あと、蕭R材の轟交買が予想以上に
存在感を持ち始め、、、。 楊令の描いた物流の構想を継いだのは、彼だったわけですね。
オススメ度:8.2

コメント  史記 武帝紀 一 (北方 謙三著、ハルキ文庫)   作品の紹介 

前漢の時代。 16歳で即位した武帝劉徹は24歳になっていた。
武帝の寵愛を受ける衛子夫の弟、衛青は、武帝に目をかけられ、一千の兵を指揮する将校
となる。 衛青は兵に厳しい調練を課し、李広をはじめとするそれまでの漢の将軍たちとは
違う戦術を身につける。 武帝の下命により、匈奴との戦に挑み、二千の敵を相手に大勝。
将軍に昇格する。 武帝は衛青に千五百、公孫敖に五百の兵を与え、再び北に出陣させる。
衛青、そして共に戦う公孫敖は、帝の期待に応え、匈奴との戦に連勝。 それぞれ二千、千
の麾下に増員される。
衛青は、武帝の侍中、桑弘羊と親交を結び、支えあう関係となる。
さらに三千、五千と増員された麾下を従えた衛青は匈奴との戦いに出陣し、勝利を重ねる。
張騫は、武帝の使節として、六年前に百余名を従えてはるか西方の大月氏国に向けて旅立つ。
張騫の使命は、匈奴によって西に追われた大月氏国が漢と同盟し、共に匈奴と戦いたいという
武帝の意向を王に伝えることだった。 旅の途中、張騫たち一行は匈奴に捕えられる。
しかし、匈奴の単于(王)、軍臣は、鷹揚で、張騫に妻を与え、比較的自由な生活を許していた。
張騫は、さらに三年、根気よく西域の情報収集を続け、十六名の部下を率いて西方に向かう。
旅を続ける中で一行は七名まで減るが、なんとか大月氏国の手前の大宛国にたどり着く。
皇后の母や外戚に制限されていた武帝の権威、権力は、即位から十二年目には、確かなものと
なっていた。 張湯という有能な吏官が期待以上の成果を挙げ、皇后の廃位まで実現させる。
武帝は、衛青、公孫敖、李広、公孫賀の四人の将軍に各一万の兵を与え、匈奴討伐を命じる。
衛青は、地方軍を自由に動かせる「虎符」を与えられ、騎馬の麾下五千に加え、兵糧を運ぶため
の歩兵五千を率いて出陣する。 衛青は、まず六千の匈奴を蹴散らし、長躯 敵の本拠地近くまで
攻めこむ。 一万の敵と戦い、三千を討ち、千を捕え、馬も千頭手に入れる。
公孫敖は、二万の大軍の攻撃を受け、二千の兵で敗走。 李広も、単于の弟、伊穉斜の軍に大敗。
李広は俘虜となるが、護送の途中、脱走して公孫賀の陣に逃げのびる。
衛青の姉、衛子夫が男子を産み、皇后となる。 武帝は衛青の直属の麾下をさらに三千増員する。
衛青は三万の軍を与えられ、出陣。 匈奴の大軍、四万と対峙し、六千の敵を討ち、潰走させる。
単于は、息子の於単、弟の伊穉斜の軍、総勢五万の兵を衛青にあたらせるが、一万を失う。
張騫は、大宛国から康居国を経由して、ついに月氏国にたどり着く。 しかし、月氏の王に匈奴
と戦う意志はなかった。 月氏の属国、大夏の反応も同様で、収穫なく大宛国に戻る。 張騫は、
大宛に二名の部下を残し、五名で漢に向けて旅立つ、、、。
著者が「三国志」に続き、史実に基づいたものを書きたいと考え、著した一作。 壮大な「史記」
の本紀の最後、巻十二 武帝の時代に焦点をあてて描いている。
第一巻は、第七代皇帝、武帝を巡る衛青と張騫を通して、武帝の置かれた立場や戦略、匈奴との
関係を語っている。 「史記」の著者、司馬遷はいまだ登場せず。
「三国志」からさらに時代を遡った紀元前の物語であり、従来の北方作品の見せ場である大がかり
な戦と比較すると、荒削りな印象。 登場人物も「三国志」や「水滸伝」に比べて少ない。
オススメ度:8.1

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