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読書感想文2014 part 5
「読書感想文2014」 part5は、9月〜10月の読書録です。
↓ Click NOVEL mark !
きいろいゾウ (西 加奈子著、小学館文庫)
作品の紹介
夫の名は無辜 歩(むこ あゆむ)、妻の名は妻利 愛子(つまり あいこ)。
お互いを「ムコさん」、「ツマ」と呼び合う夫婦は、東京を脱出し、田舎暮らしを始める。
新進小説家のムコは、本を2冊出したが、小説だけでは生きていけず、近所の老人ホームで
働いている。 ツマは、そんなムコを支えるやわらかくて一途な女性。 動物、昆虫、植物
の声が聞こえるというふしぎなチカラを持っている。
ムコとツマの二人は、隣人たちにも恵まれ、豊かな自然とゆったりとした時間に身をまかせ、
おおらかに暮らしていた。 しかし、ある日届いた手紙を読んだムコは、心ここにあらずの
状態になり、二人の間に微妙な気距離が生まれる。 やがて、ムコは東京に出かけていく。
ツマは、ムコの東京行きが、背中にある鳥のタトゥーと昔の恋人に関係していると直感する。
物語は、ツマの視点とムコの視点(& 日記)を交互に描きながら進んでいきます。
物語前半(ムコが東京に行くまで)が、とにかく最高。 夫婦二人の姿、隣人たちとのやりとり、
ツマが動物や植物と話すやりとりなど、みるみるうちに、物語の世界に引き込まれました。
後半は、話が少しシリアスになるけど、ムコとツマのこころの再生に向けた期待を感じながら、
読み進めました。エンディングもグッド。
タイトルの「きいろいゾウ」は、ツマが長い入院生活を送った小学3年生のころのいちばんの
お気に入りの絵本。 2013年映画化。 おススメ度:8.2
恋する空港 (新野 剛志著、文春文庫)
作品の紹介
正式タイトルは「恋する空港 あぽやん2」。「あぽやん」シリーズの第2弾。
計6編を収録した連作短編集。 主人公は、大手航空会社のツアー子会社の社員、遠藤慶太、30歳。
成田空港に異動して一年あまり。 ようやくパッケージツアーの送客業務のスーパーバイザーの
仕事も板についてきた。 そんな遠藤が、グアムから異動してきた同い年の枝元を一人前のスーパー
バイザーにすべく奮戦するお話。 ところが、肝心の枝元は、6年間のグアム生活に加え、もともと
お調子者の性格が災いし、OJTはなかなか進まない。 当然のことながら、日々、さまざまな事件や
トラブルは起こる。 おまけに、かつて遠藤と衝突し、成田に異動させた昔の上司が新所長として
成田にやってくる、、、、、、。
第1弾同様、抜群のリーダビリティー。 一級品のお仕事小説。 第3弾にも期待。
「あぽやん」第1弾のブックレビューはコチラ。
おススメ度:8.3
もしもし、還(かえ)る (白河 三兎(みと)著、集英社文庫)
作品の紹介
田辺志朗こと「シロ」、28歳。 異様な暑さに目を覚ますと、そこは砂漠だった。 やがて、
空から電話ボックスが降ってきて、シロは電話ボックスで119番に電話をかけるが、話が
かみあわない。 次にかかってきた電話は、主婦からのもので、海に浮かんだボートから
の発信だった。 二人は突然自分たちの身にふりかかった不可解な現象にとまどうが、
解決の糸口が見つからない。 しかし、シロは徐々に謎の核心に近づいていく、、、。
物語は、現在のシロを描く電話ボックスのパートと、過去のシロを描くパートを交互に見せ
ながら進んでいきます。 過去パートでは、シロと恋人の「キリ」こと遠藤桐子との日々、
家族、上司との関係をていねいに描いています。 過去パートで、明らかになるシロの母の
殺人事件。 そして、過去と現在との関係を解きほぐしながら、終盤に進んでいきます。
本作は、期待の作家、白川三兎さんの5作目(2013年の作品)。 「本の雑誌」で絶賛された
第3作「私を知らないで」を読んで好印象だったので、本作を手にとりました。 「私を知ら
ないで」同様、独創的な世界観は健在。 SFの要素、ミステリーの要素もあり、質の高い作品
だとは思いましたが、話がややわかりにくいという印象はぬぐえませんでした。
「私を知らないで」のブックレビューはコチラ。
おススメ度:8
つやのよる (井上 荒野著、新潮文庫)
作品の紹介
艶(つや)という名の女をめぐる連作短編集。 計7編を収録。
男なしでは生きられないが飽きっぽい女、艶が47年の生涯を閉じようとしていた。
艶の現在の夫、松生(まつお)は、かつて艶とつながりのあった男たちに連絡を
とり、艶の余命が短いことを伝えようと思い立つが、、、。
一作目から五作目までの短編に登場するのは、艶と直接的、間接的につながりの
ある女たち。 でも、艶は登場せず、それぞれの女たちの現在と過去を通して、
艶という女を徐々にあぶりだしていく。
六編目でようやく艶が登場し、七編目で艶の夫、松生の思いを描く。
最初の一編を除くと、艶が登場しないにもかかわらず、艶が起こしたさざなみや影が
多くの女たちの行き方に影響している描写が巧み。 短編としての完成度も一級品。
「本の雑誌」2014年度 文庫 恋愛小説部門:ベスト10作品。 おススメ度:8.2
WILL (本多 孝好著、集英社文庫)
作品の紹介
高校卒業の目前、両親を一度に亡くした森野は家業の葬儀店を継ぐ。 同じ商店街の
文房具店の息子で、アメリカ在住の神田からプロポーズされているが、その申し出を
受けられないまま29歳になった。 そんな森野のもとに持ち込まれる遺族からの相談
や悩み、悲しみ、謎を、彼女がまっすぐな気持ちで解決していく連作集。
この作品は、「MOMENT」、「MEMORY」という作品とともに三部作をなしています。
三部作と言っても、ゆるやかな関係であり、それぞれが独立した作品になっているので、
一冊だけ読んでも、問題ありませんが。 本作は三部作の中でベストのできばえ。
「MOMENT」は、
森野の恋人、神田君が大学4年生のころのお話。
「MEMORY」は、
森野と神田を取り巻く人々のお話を通して、二人の中学3年から31歳
(本作の2年後)までを描いています。 おススメ度:8.1
珈琲屋の人々 (池永 陽著、双葉文庫)
作品の紹介
東京の下町の小さな商店街にある喫茶店「珈琲屋」を舞台にした連作短編集。 計7編を収録。
「珈琲屋」のマスター、行介は、37歳。 十年前、高校生を暴行した地上げ屋を殺害した。
出所後、父の店を継いだが、商店街の人たちは、行介を冷たい目で見ることがないことが
せめてもの救いである。 幼馴染でかつての恋人、冬子は、行介の事件の後、親に結婚させ
られるが、行介の出所に合わせるかのように離婚して実家に戻ってきた。
行介も冬子もお互いを想う気持ちに変わりなかったが、行介は、前科者の自分が幸せになる
資格はないと、あと一歩踏み出せずにいる。 さらに、行介が殺した男の妻、朱美に毎月、お金
を届けるうち、朱美が行介に好意を持ち始める。 冬子の存在を知った朱美は「自分が結婚する
まで行介も結婚しないこと」を行介に約束させる、、、。
、、、というお話で始まる、「珈琲屋」に集う商店街の人々と行介のつながりを描いた作品集。
同時進行で、行介と冬子の関係も描かれていきます。 少しクラシックなテイストかもしれない
けど、すごく「味のある」一作。 おススメ度:8
こちらの事情 (森 浩美著、双葉文庫)
作品の紹介
計8編を収録した短編集。 15万部のヒット作「家族の言い訳」の続編的作品。
とは言え、ストーリーがつながっているわけではないので、本作だけ読んでもだいじょうぶ。
会社で、家庭で、さまざまな「事情」を抱えている30代、40代、50代の男女を描いた作品。
決して軽くはない事情を抱えながらも、毎日を生きていかなければいけない。 そんな姿を
ていねいに描いています。 どの作品も、ラストに「救い」があるので、読後感はグッド。
入試問題になったり、ラジオドラマ化(3編)されたり、珠玉の作品集。 とは言え、個人的
には、前作「家族の言い訳」のほうがおすすめ。
「家族の言い訳」のブックレビューはコチラ。
おススメ度:7.8
サムシングブルー (飛鳥井 千砂著、集英社文庫)
作品の紹介
浅川 梨香、27歳。 小さな広告会社のOL。 2年間付き合っていた恋人と別れた
翌日、結婚式の招待状が届く。 結婚するのは、高校時代の親友と元彼。
結婚する二人とは10年間会っていないとはいえ、二人が付き合っていたことも
知らず(知らされず)、失恋と二重のショックに落ち込む。
やがて、結婚式に招待された高校の同級生が、結婚する二人に贈り物をすること
になり、梨香も加わる。 やがて、彼女のこころにも変化の兆しが見え始め、、、。
ふつうに考えると女子向きの作品なんだろうけど、本作の著者が気になるので
手にとりました。 著者の「タイニー・タイニー・ハッピー」は名作です。
タイトルは、結婚式で新婦がなにか青いもの(サムシングブルー)を身に着けると
幸せになれるという言い伝えから来たもの。 おススメ度:7.8
海を見に行こう (飛鳥井 千砂著、集英社文庫)
作品の紹介
湘南の海辺の街を舞台にした短編集。 計6編を収録。
同棲中の彼とけんかして海辺に住む叔父夫婦のもとにやって来た22歳の女性。
海辺の街の営業所に異動してきた宅配便の27歳のドライバーは、かつて愛していた
7歳年上の人妻と偶然、再会する。
妻が二度目の流産で傷つき実家に帰り、自分も海辺の実家に帰ってきた37歳の男性。
6つの物語の主人公の男女6人は、それぞれ思い悩んでいたり、迷ったり、振り切れ
ない過去を抱えている。 そんな人たちが海を見ながら、前を向いたり、迷いながらも、
明日を迎えようとする。 そういうお話です。 おススメ度:8
メグル (乾 ルカ著、創元推理文庫)
作品の紹介
表題作(「メグル」)を含む計5編を収録した連作短編集。
北海道の国立H大 学生部でアルバイト斡旋の業務を担当する女性、悠木。
27歳で整った顔立ちの彼女は、感情を表に出すことはない。 義足の右足をひきずる
ように歩き、学生たちに「あなたは行くべきよ。断らないでね」と声をかけ、いわくつきの
アルバイトに送り出す、、、。
死者が出てくるファンタジー仕立てのお話があるかと思えば、ミステリー風の作品も
ラインナップされており。 ちょっと不思議な世界観を堪能できる一作。
「大藪春彦賞」ノミネート作品。 おススメ度:8
六つの手掛り (乾 くるみ著、双葉文庫)
作品の紹介
6編のミステリーを収録した短編集。
主人公は、林 茶父(さぶ)、37歳。大道芸のプロモーター。黒の帽子と三つ揃いのスーツ。
ちょび髭。太ったチャップリンのような容姿だけど、なかなかの名探偵ぶり。
そんな茶父が解決する6つの事件を描いた作品。 ミステリー好きには手堅い一作。
6編のうち、3編が日本推理作家協会、本格ミステリ作家クラブ編のアンソロジーに
収録された作品。 ちなみに、主人公の兄、雅資(まさよし)は「蒼林堂書店へよう
こそ」、弟の真紅郎は「林真紅郎と五つの謎」というミステリー小説で、それぞれ
名探偵として活躍。 とはいえ、推理のスタイルは三者三様なので、読み比べてみる
のも一興かも。 おススメ度:7.9
私の家では何も起こらない (恩田 陸著、MF文庫)
作品の紹介
丘の上の幽霊屋敷を舞台にした連作短編集。 計10編を収録。
小さな丘の上に建つ二階建ての古い家。 この家で起こったさまざまなできごとを描いた物語。
キッチンで殺しあった姉妹。 誘拐した子どもの肉を主人に食べさせていた料理人。
少女の幽霊と話し合い自らも命を絶った、殺人鬼の美少年。
そんな屋敷の住人たちは、ひっそりと暮らし、また新しい住人を迎え入れる。
三人称ではなく、一人称での語りが不気味。 静謐なこわさを詰め込んだ作品集。
おススメ度:7.5
姫は、三十一 2 恋は愚かと (風野 真知雄著、角川文庫)
作品の紹介
「姫は、三十一」シリーズの第二作。
主人公は、平戸藩前藩主、松浦静山の娘、静湖姫。 江戸屋敷に暮らす、数え歳
三十一の美貌の女性。 縁談の相手が病気になったり、事故にあったりで、二十四
の歳から縁談が途絶えたきり今日に至る。 なじみの飲み屋のオカマの主人から
今年は「三十八万四千年に一度のモテ年になる」と占われ、事実、旗本、同心、学者、
戯作者、大店の主人などからもて始めるが、、、。
そんな静湖が、伊予松山藩から父に相談のあった謎に挑むお話。
百二十年以上前、赤穂浪士が討ち入りしたとき、すでに吉良が殺されていたという
書き付けが見つかり、その謎を解くことになる。 そんな矢先、忠臣蔵の芝居を公演
していた芝居小屋で、その謎を再現したかのような殺人事件が発生する、、、。
というわけで、静湖のモテぶりは描かれてはいるものの、一巻と同様、書き付けと
殺人事件の「謎解き」に重きが置かれていました。
軽妙な作風に好感。
第一作のブックレビューはコチラ。
「妻は、くノ一」の姉妹シリーズ。 本作は「妻は、くノ一」後のお話。 おススメ度:8.1
波之助推理日記 (鳥羽 亮著、講談社文庫)
作品の紹介
千石の旗本の三男、早川波之助、25歳。 家督は歳の離れた長男が継ぎ、次男のように
養子の口もなく、舟宿「舟甚」に入りびたり、ぶらぶらしていた。 ところが、剣術仲間の
北町奉行所同心、小野増次郎の手助けをしたことがきっかけで捕物に借り出されることに。
そんな波之助を主人公にした捕物帳。 三編を収録。
著者は、乱歩賞を受賞し、もともとミステリー作品を手がけていただけに安定したできばえ。
おススメ度:7.9
青江鬼丸夢想剣 (鳥羽 亮著、講談社文庫)
作品の紹介
尾張藩の先々代の藩主の庶子として生まれた次郎丸は、生後まもなく母とともに城を出され、
幼くして母を亡くす。 母の兄の刀鍛冶に育てられ、長じて、一刀流の名人、伊藤一雲斎に
師事し、名を青江鬼丸と改める。 厳しい修行の末、奥義「夢想剣」を伝授されるが、尾張藩
の現藩主から命を狙われる。 尾張藩と対立する将軍、吉宗の命を受けたお庭番に守られながら
江戸に向かうが、尾張藩の放つ剣と忍びの刺客たちとの壮絶な死闘を繰り広げる、、、。
読みやすい剣豪小説。 おススメ度:7.8
将軍の星 (宮本 昌孝著、徳間文庫)
作品の紹介
正式タイトルは「義輝異聞 将軍の星」。 表題作(「義輝異聞 将軍の星」)を含む計七編を
収録した短編集。 山本勘介を描いた一編を除き、室町幕府後期の足利将軍にまつわる作品。
後半の四編が十三代将軍、義輝を描いた「義輝異聞」のお話。
これまでほとんどなじみのなかった義輝のことをしることができたのが収穫。 おススメ度:7.9
異風者(いひゅもん) (佐伯 泰英著、ハルキ文庫)
作品の紹介
九州人吉では、妥協を許さぬ反骨の士を「異風者(いひゅもん)」と呼ぶ。
肥後人吉藩の下級武士の次男、源二郎は、母の教えに従い、ひたすら剣の腕を磨く。
藩主が臨席した高覧試合で優勝を果たし、七つ年上ながら、藩の金庫番、数馬家の娘との
縁談がまとまる。 しかし、祝言の夜、急な呼び出しを受け、江戸屋敷の藩主の側用人、
実吉の警護を命じられる。 折りしも、藩内では守旧派と改革派の争いが続いており、
実吉は、江戸にいる藩主の命を受け、国表で勢力を持つ守旧派の不正を調査するために
極秘で人吉に潜入していた。 源二郎は、数々の刺客を退け、実吉を無事江戸に送り届け、
藩主から江戸で働くことを許される。
しかし、藩主に従って故郷に凱旋した源次郎を待ち受けていたのは、守旧派の剣豪、五郎丸
稔朗(としあき)に斬殺された妻と舅の亡骸だった。 源次郎は、実吉に命じられ、あわただ
しく、敵討ちの旅に出る。 それは、長い長い苦難の旅の始まりだった、、、、、、。
物語の冒頭にも書かれているように、最終的に源次郎は敵討ちを果たすのですが、そこに
あるのは、達成感や満足感ではなく、無常感、寂寥感だったのでは、、、。 それは、敵討ち
までの時間があまりにも長すぎたこと、そして、敵討ちにまつわる過去の藩の思惑を知ること
によるものだと思います。 おススメ度:7.9
鬼平犯科帳 21 (池波 正太郎著、文春文庫)
作品の紹介
火付盗賊改方の長官、「鬼平」こと長谷川平蔵の活躍を描いたヒット作。 計6編を収録
した連作短編集。 オススメ度:8
鬼平犯科帳 22 (池波 正太郎著、文春文庫)
作品の紹介
火付盗賊改方の長官、「鬼平」こと長谷川平蔵の活躍を描いたヒット作。 特別長編「迷路」を収録。
火付盗賊改方の与力が暗殺され、平蔵、長男、辰蔵までも襲撃される。 さらに、平蔵の娘の嫁ぎ先
の家臣、火付盗賊改方役宅の下僕、平蔵と旧知の医師の家来までもが刺客の凶刃に倒れる。
刺客は、火付盗賊改方が捕らえた盗賊の頭領の義兄が放った浪人だった。 この義兄は、若き日の
平蔵と深い因縁のある男だった、、、。 平蔵はひと月を超える捜査でも手掛りをつかめずにいた。
その矢先、事態を重く見た幕府で、平蔵の罷免の話が持ち上がる。
平蔵は頭を丸め、托鉢僧の姿で、自らも捜査を続け、徐々に事件の核心に近づいていく、、、。
リーダビリティーの高い長編。 あっという間に読み終えていました。 オススメ度:8.1
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